#44 妖狐徒然帳
ついに12月に入ってしまった。
外に出る度に寒さが襲ってくる。
ちらほらと雪が舞う日も多くなる。
正直スカートだと寒くてたまらない。
でもそこは若さという名のパワーで乗り切る女子高生達。
そんな琉嬉もその一人…でもあるのだが、春夏秋冬いつもオーバーニーと呼ばれるサイハイソックス。
無意識ながらのこだわり。
このサイハイのおかげで寒さを和らいでいるのだろう。
あんまり気にする事もなく今日も学校へ向かう。
「おいっすー」
なんだか、毎朝よく聞く挨拶。
振り向くといつものにこやかで可愛らしい笑顔があった。
まるでどこかの有名人が使ってたかのような挨拶の仕方だ。
それを知ってるのか知らないのか。
「……ん。みゆか」
なぜか、朝の登校時に会う事が多い。
みゆが一番、二番目に護と会う確率高し。
同じクラスの凛夢とはあんまり会わない。
登校のタイミングが全く違うのだろう。
それどころか、凛夢は早めに来てる事多し。
「しかし、毎朝毎朝同じ時間によくいるなぁ。みゆ」
「ふへへー。いいじゃないですか~」
「…しかし、もう12月か…」
「12月と言えばぁ…クリスマスだねっ」
「そうだね」
空返事気味の琉嬉。
「あ、そういえば琉嬉先輩のとこってお寺でしたよね。クリスマスな行事はご法度なのかな?」
「んー、あー、別にそんな事ないと思うけどね。普通にパーティー的な事やってたし。
うちは形上はお寺だけど、固定概念のある宗教的思想じゃないしね。
なんていうか、本当にお寺という形した、彼方独自な一門?僕もよく知らない。
前に言わなかったけ?」
「ほへー」
琉嬉自体も解かってないが、みゆも絶対理解していない。
「それにしても…もうそんな季節かぁ…」
琉嬉はピンク色の幼児がしてそうな手袋をした手を口元に当ててあっためる仕草をする。
「琉嬉先輩…凄く可愛い恰好ですよね」
「…何が?」
「え?だって…凄く子供っぽ」
チョップが炸裂する。
無理もない。
琉嬉の冬用の恰好は大きめなコートにこれまた可愛らしい耳当てしてるのだから。
気温もほとんど10度超える事がない。
深夜早朝はもう氷点下になる日も多くなる。
海抜より高い位置なうえに山に囲まれた鞍光市。
気温が凄く下がるのだ。
夏はとことん暑く、冬はとことん寒い。
厳しい地域なのである。
本格的に冬が到来する。
天気は曇り空。
寒い空気が漂う中、学校へと急ぐ。
学校の授業中。
教室内はまだあまり暖房が効いていない。
少々寒さが感じる中、琉嬉のスマホの連絡用アプリに着信していた。
(……ん?なんだ…)
こっそり着信の中身を確認する。
(………來魅のやつ…特に用もないのに連絡しやがって…暇な妖怪め)
どうやら、本当にどうでもいい連絡を送ってきたようだった。
だがその中で気になる点がひとつ。
(…現状の妖怪達の状況が知りたい?なんのこっちゃ…その辺にうじゃうじゃいるだろ)
この時は特に気にする事もなくポケットにしまった。
來魅はあれから、ノート型パソコンを買ってもらい、自分独自の物として扱っている。
限りなく暇で、ネットサーフィンやら何やらで現代の技術を楽しんでいる。
だが、このネット情報での活躍により、琉嬉の事件解決にも大いに役立っているのも事実だ。
その暇そうな來魅は授業中の琉嬉にちょっかいメールを送ったりして楽しんでいる。
この日だけは少々違った。
來魅はいつものようにネットして楽しんでいる。
「……んー。これは…どれどれ」
気になる書き込みを発見。
そしてその貼られているアドレスをクリック。
そのままとある怪しげなレイアウトのサイトへ移動する。
「何々…妖怪を見た?」
淡々とつづられている妖怪の話。
どうやら妖怪目撃情報などの話を集められたまとめサイトのような所だ。
「フムフム…。河童、のっぺらぼう…よくある妖怪の事だな。現代でもいるのか。100年前でさえあまり話聞かなかったというのに。
これも世界中で繋がる情報網があるから逆に、より身近に感じるものになったのかのう」
改めて時の流れを感じる來魅。
その中で一番気になる物があった。
「これは…なんぞや」
今自分の住んでる場所。
そこからそう遠くない場所での出来事らしき書き込み。
数年前からペットらが突然行方不明になっているという事件。
その裏にはその地域では妖怪のせいだという話。
「フム。ここからそう遠くないな。ちょっと気になるし、行ってみようかのぅ」
それは、ほんの軽い気持ちだった。
いつもの気まぐれで外出する。
「久々に体を動かす事にするかっ」
そう言い放ち、窓から勢い良く飛び立つ。
「ふーむ…。ここらかのっ」
着いた場所は、少しのどかな風景が広がる農園地帯。
といってもこの地方なら少し進めばこんな風景が広がるものだが。
ただ、歩くと結構時間かかるが、來魅の動きならなんなく早く着いてしまう。
力が制御されてるとは言え、普通の人間よりは格段に上の動きする。
「情報によると…ほむほむ。5年ほど前からペットとして飼っている犬や猫、
その他家畜なる生物がいなくなる事件が発生。
不可解すぎる事件に一時は騒然となったが、どうにも解決に至らなく、警察もお手上げ。
何も出来ず今に至る…か。困ったものだ。
ペットというのはあれだろう?
動物を愛玩するために飼う事の意味だろう?」
一人ぶつぶつ言いながら辿り着く。
本当に同情してるのかどうかは分からないが、なんとなくその辺を歩く。
妖怪の気配もなければ霊体も見かけない。
平和な村…といったような印象だ。
來魅らがいる街から電車で駅10個分ほど離れた区域。
通うには少々面倒な距離でもある。
そんな距離を楽々自力でやってきた來魅。
地図を片手に…というより、こちらも現代の機器、スマートフォンも持っている。
これも買ってもらったようだ。
「しっかし…今も昔も何もない町は何もないな」
何気なく失礼な事を言う。
「はてさて……妖怪の気配は…と」
妖怪の居そうな場所……片っ端から行ってみる。
その間、大体1時間ほど。
小さな町中であれば、すぐ見て回れる。
そこで少々気になったのが、山奥にある鳥居が気になった。
特別嫌な気も発してるわけでもない。
だが、どこか寂びれた神社。
神社なんぞ、大体人がいる地域には当たり前のようにある。
祀られてる神様がそれだけ多いのかどうかは來魅にとっても分からないが、どこか人を見守ってくれるような存在が欲しいのだ。
「ちょっとだけ寄ってみるか。神社にはいい思い出はないがの」
それもそうである。
神社に封じられていたのだから。
もっと夏だったら鬱蒼とした木々が生い茂ってるのだろうが、今は冬。
葉が枯れ果てていて寂しい状態。
逆にそれがどこかしら不気味さを作っていた。
「これまた何もなさそうな神社だな…。饅頭くらい置いておいてもいいのに…」
てくてく歩き、境内らしき場所を歩き回る。
「ふーん。ふーん。なるほどのぅー」
一応社は残ってはいるが、中を覗くともぬけの空。
「なぁーにもないなー。神社として機能してるのか?コレ…」
神社についてはちとうるさい來魅。
しかし今居る神社に関しては管理が行き届いてないのか、物もなく、社がかろうじてあるという状態だ。
状態がそこまでひどいという訳でもなく、一年に1、2回くらいで一応、掃除とかされてるような感じに思える。
「神社にもピンからキリか…。耿助の所は綺麗で大きくて立派なのにのぅ」
なんだか自分が封印されていた神社が誇らしげにすら思ってくる。
「しかし…あれだな…腹が減ってきた。帰るか」
テトテトもう少し歩き回る。
しかし何も見当たらない。
「…妖怪の中にも人間や動物、そして同じ妖怪を食べる者もいると聞く。
家畜用としてるのはまだ話が別かもしれんが、飼ってる動物を食べるというのもはた迷惑の話よのう」
特別、期待するような出来事も起きずに神社から去っていく來魅。
そして神社には再び静寂が訪れる。
その数分後だろうか。
社奥の森中が何やらうごめく。
ガササッと音がし出し、得体の知れない黒い影の塊が現れた。
「……………」
何も発することもなく、静かに神社内をうろつく様にゆっくり動き回る。
そして、そのまま大きな音をたてずに浮遊したまま何処かへ消えてしまった。
特に収穫もなく彼方家に戻ってくる來魅。
そして琉嬉の部屋の窓の外。
「おーい、入れてくれぇー」
「………」
窓にへばり付く來魅。
琉嬉の口元が物凄く「へ」の口をしている。
ふぅーっと溜息ついて重い腰をあげる琉嬉。
「………泥棒かお前わ」
「はぁ?妖怪に関する書き込み?」
授業中に送って来た連絡の内容に書かれたてた事。
妖怪についての話だ。
「おう。結構妖怪達も有名なんだな」
「有名っていうか…まぁ、なんていうか…有名になっちゃだめだろう」
「ウム。決して表の世界に出てはいかん存在なのじゃ」
いつの間にか居た銀杏。
「まー、普通一般の世界じゃ存在は知られてないし、知られても決して広まる事もないだろうしな」
「そうなのか?」
「多分」
などという、曖昧なままの会話をする。
「んで、天下の大妖怪様がわざわざその書き込み見てそこまで行ってきたってのかい?」
「おぅ。そうだぞ」
「……変に行動力あるね…。ま、それよりそのサイトの書き込みが気になるね」
丁度良くPCをつけている。
そのままそのサイトを來魅の指示通りに拝見する。
「なるほどねぇ…。こういうのって信憑性ないけど、何もないよりは頼りになる気もするけどね」
「だろう?」
「うーむ。ちょっと面白そう」
琉嬉が乗り気になってくる。
「こらこら。金目やお礼のあるような事はしない主義じゃないのか?」
現金な性格の琉嬉の事をなんとなく理解してきている銀杏。
「それもたしかにそうだね…」
そうは言うものの、琉嬉はこう切り返す。
「これは、女の感かな。何か裏がありそうな気がして…」
「女の感って……。女って言うようなもんじゃないだろう。お前は」
「うるさい狸女」
「た、たぬっ…。狸妖怪だ!」
「金髪狸のくせに。染めてるのそれ?」
「染めてなんぞおらんっ!地毛じゃ!」
「うっそでぇーい」
「ぐぬぬ……可愛くないやつめ」
しょっちゅうこんなやり取りをしている彼方家。
「來魅さんがなんか一人で動いてる?」
「そーなんです」
興味無さそうに耿助の言葉に答える琉嬉。
「あ、耿助さんお久しぶりですぅ」
「どうも、お久しぶりですね、まどかさん」
生徒会室側からひょっこりと顔を覗かせるまどか。
「会長、まだ終わってませんよ」
柚羽に戻されるまどか。
「ああん、もー。少しは休ませてください」
「だーめ」
龍翔にまで引っ張られて戻される。
この日は生徒会会議の日だ。
隙をついて部活側に顔を見せたようだった。
そのまま引きずられるようにされて生徒会室側へ入って行った。
バタンッと扉が閉まる。
普段は開きっぱなしなので閉まると逆に変な違和感になる。
「…何やってんだあいつ…」
「かいちょもこっちでゆっくりしたいんだよ」
「そか」
琉嬉はずっとパソコンをつけてネットをしている。
來魅が見つけた例のサイトを見ているのだ。
「何か面白いのでもみつけたんですか?」
みゆもまた覗き込む。
「いんやー、來魅がさ、たまたまみつけてなんか興味惹かれて動いてるみたいなんだよね」
「へぇ~、いいじゃないですか。來魅ちゃんもいろいろ知りたいんですよ。今の世界を」
「だといいんだけどねぇ」
席を立ち、これまでまとめられた資料を漁り出す。
特に何かあるか…という事でもなくなんとなく読みたくなったのだ。
「でも來魅さんって普段力を抑えられてますよね?琉嬉さんの力で」
「それでもそこらの術者や妖怪より強いよ」
あっさりと返答。
「げげっ、それマジで?」
護が驚く。
「力を抑えつけてそれだから元の力が…ヤバイってコトじゃん?」
「うん」
あまり思い出したくない、來魅との出会い。
最初の闘いでコテンパンにやられたのだ。
あれはあれで結構ショックが大きかったのも事実。
「ま、ただの暇つぶしでしょ」
「そうなの?」
「…そういや來魅さんとかもう一人のなんとかって人の生活代ってどうしてるんですか?」
御琴がイイ所を突く。
「來魅はあれでなんだかんだで家のお手伝いしてるみたいだけどね。
銀杏はどっからお金出てるのか知らないけど食費出してるんだってさ」
「へぇ…。妖怪が人間相手にねぇ…」
凛夢が顎を指で押さえながら言う。
なんとも美少女には似合わないポーズ。
「ま、一時的にでも全力解放出来るみたいだし。問題ないでしょ」
いつになく興味無さそう言い捨てる。
それだけある意味信頼してるようだ。
「なんか不思議な関係だねぇ…琉嬉先輩と來魅ちゃんって」
「だね」
みゆと御琴は顔を見合わせて不思議そうにしていた。
來魅は暇つぶし程度にまたあの神社付近へ来ていた。
やはり、また来ても特に変わった印象を受けないでいた。
そして、もう冬。寒い。
しっかりと防寒の服装で厚着をしている來魅。
それも琉嬉のお下がり…なのでサイズがぴったりだ。
明るい色の薄いピンク色のコート。
小学生の頃に使っていたものだ。
だが琉嬉の場合今でも着れるらしいが。
「しかし…これは誰かに聞かないと分からないものだな」
情報聞き出しを決め、とにかく誰かに話を聞く事にする。
「ちょいと、そこの爺さんや」
「んんー?なんだい?お嬢ちゃん。学校はどうしたんだい?」
「学校へ行くほどの年ではないわい。ところで、聞きたい事があるんだが」
「ふむむ?」
來魅は一連の出来事が本当かどうかを、たまたま通りかかったお爺さんに尋ねる。
まわりは畑だらけで家も少ない。
農家の者だろうか。
「あー、そんな事件があったねぇ。近所のペットが次々にいなくなってしまうってね。
警察でもどうにもできんからお手上げってな」
「フム。で、もっと詳しい事何か知らないかの?」
「詳しい事ったてなぁ…。一応警察が捜査してたから警察にでも聞いてみるといいかもしれないよ」
「おぅ、そうか。礼を言うぞ、爺さん」
そう言って來魅はその場をあとにする。
「しかし…派手な娘っこだな…」
爺さんは來魅の派手な印象に時代が変わったと思っていた。
「んー?そうは言ってもねぇ…。知っていても教える訳にもいかないし、
そもそも、その事件は知ってるけど、どうにも出来なかったって聞いてるしなぁ」
「ふむ…そうか…。ここはやはり被害のあった場所や被害者に会ってみるべきかの」
「…??」
來魅はそのまま交番から出て行く。
警官は何が何だか分からない顔をする。
來魅は近くの交番に来て直接聞いていた。
ストレートに聞くものだから警官も困った顔をしていた。
「最近の小学生はアグレッシブだなぁ…」
特に呼び止める事もしなく、見守るだけだった。
交番を出てフラフラ町中を歩き回る。
特に目指す場所もなく、少し途方に暮れかける。
なんだか寂しくなりかけてきた時だった。
「コラ!來魅!」
突然よばれてビクっとする來魅。
振り向くと同じくらいの背丈の女の子。
琉嬉が居た。
「琉嬉か。びっくりしたではないか」
「一人で変な事件に首突っ込むな。大体お前みたいな上級妖怪が何してるんだよ…」
「何って……怪奇事件の真偽を確かめにだな…」
「…ようするに暇つぶしだろ?」
大きくため息をつきながら困った顔をする琉嬉。
來魅の気まぐれに付き合うのも楽ではない。
「しかしよく私の居場所が分かったな」
「お前みたいなデッカイ妖気持ってればすぐわかるよ」
「ふむ?お前様の力で抑えられてるんだが…?」
「…だーかーらー、全部抑えきれないんだよ」
琉嬉は自転車姿だ。
制服のまま。
一旦家に戻ってそのまま自転車に乗ってやって来たらしい。
ぜえぜえと息を切らしている。
「まだ…時間あるし、一緒に行動する?」
「そうだな。そろそろ寂しくなってきたところだった」
「……?そう」
來魅は琉嬉と二人で情報集めに回っていた。
近くの民家に聞き入ったり、噂話に敏感であろう、小中学生など若い人間に聞いてみたり。
そんな中で見えてきたのは、5年程前から一時的にペットなどがいなくなる時期があったという。
しばらくしてなかったが、またここ最近何件か起きてるという。
「しかし、可哀想だな…。突然ペットがいなくなって一切帰ってこないって。おかげでここらはペット飼う人なんていなくなっちゃうだろうね」
「……ペットとは、犬や猫とかだろう。なんでまた突然揃いも揃って消えるのかのう」
「さぁねぇ~……。でもそれって、妖怪の仕業っていうニオイがプンプンだけどね」
「妖怪のぅ…。妖怪にもいろいろいるからな」
妖怪。
字で書いて如く、妖なる存在。
無機物から動物型、來魅のように姿形が人間となんら変わらない者もいる。
もしかしたら、今回の事件は動物を狙った妖怪の仕業ではないか…、そう推理する。
「なあ、お前は人間とか、動物をそのまま食べようとしたり思ったりする?」
唐突に聞き出す琉嬉。
「ないぞ。至って普通の食事しかせんぞ。加工したものくらいだ。人間と同じもんだ」
「ふむ…。來魅は案外妖怪っぽくないんだな」
「阿呆め。他の下衆な妖怪と一緒にするな。高貴なる妖狐の存在だぞ」
「ハイハイ。ロリロリ妖狐様ね。変にプライド高いな」
「…何か馬鹿にされた気がするのう」
話を聞きまわるにつれ結局來魅が立ち寄ったりしていた神社に結局辿り着いてしまった。
話によると、その昔この神社はある物の怪を祀っているのだという。
その物の怪は一年の間に何度か生贄として動物を丸ごと差し出していた…という話らしい。
かなり大昔の話で既に伝説として伝わってるだけとも聞かされた。
本当の事かどうかは不明。
琉嬉は幼い頃に読んだ文献を思い出していた。
「日本各地にこういった伝承が残ってたりするんだ。來魅が封印される前からもそんな話あっただろ?」
「まあな。いつの時代も結局は続いてるものなのだな。私が封印される前もそんな話が沢山あったが。
今はそういうのはないのだろう?」
「表向きにはないと思うけどね…。日本って結構広いから隠れてそういうのあるかもしれないけど」
「ふむ」
くるっと琉嬉から目線を外し、連なる山の方を見る來魅。
「なーるほどのぅ…」
「その伝承とやらが本当で、今更生贄求めてペットをかっさらってるとか?」
「そうかもしれん」
「…はた迷惑だね」
琉嬉と來魅は二人で神社境内を見て回る。
不思議な箇所は特にない。
霊気も特別感じられない。
まさに、もぬけの殻状態。
「なーんにもないのう」
不満げにそうに言う來魅。
「そうだね…」
だが琉嬉はやたらと御札が貼られているのに気づく。
普通の神社にしては結界用の札が多いと判断していた。
(…ただ、結界としての役割を果たしていない…足りてないのか?)
「アンタ達、ここで何してるの?」
不意に声をかけられる。
振り向くと高齢の女性がいた。
80歳以上だろうか?
かなりの高齢なお婆さんだ。
完全に白髪だ。
だが立つ背格好はピシッとしている。
「…いやー、ちょっと気になる事あって…」
「おう、私たちはペットとやらががいなくなる事件が気になってこの神社に辿り着いた訳なんよ。婆さんや」
來魅は堂々と自分達が取っている行動を婆さんに話し出す。
「ちょ、來魅…」
なんとも軽い口の來魅を制す暇もなくお婆さんは気になる事を話し出した。
「もしかして蝦蟇さんの事かねぇ?」
「ガ…マ…?」
「そういう妖怪が昔この地域にいたらしくてねぇ、よく家畜とか動物を生贄として差し出さないと不幸が起きるって言われてたんだよ」
「へぇ…」
「ここ最近ペットがいなくなっていく事件があってね、蝦蟇さんが蘇った~って年寄りは騒いでおったんだ」
ここに来て決定的な情報が聞けた。
このお婆さんはたまたま、この神社を散歩コースとして立ち寄っただけだという。
もっぱらこのお婆さんも妖怪的な話は話半分程度に思ってる節があるが。
「100年も200年も昔の話らしいしねぇ。本当かどうかは分からないけど、ここの神社も最近参拝する人がいないから
蝦蟇さんが怒ってるっていう話も聞くけどねぇ」
そう言いながら婆さんはポケットの中からお供え物の和菓子を取り出し社に置いて行く。
「なるほど……。でも蝦蟇さんっていうのが起こしてる事件とは確定できないしね…」
「ま、真実味ある話ではあるだろう。婆さんよ、礼を言うぞ」
「ハイハイ、どうもね」
そのまま婆さんは神社横の林道へ歩き去って行く。
「………どう思う?來魅」
「んむ。ズバリ、妖怪の仕業だろう」
「………妖怪のお前が言うんだからそうなんだろうな」
しばし神社で時が流れるのを待つ。
琉嬉は携帯ゲーム機をここぞとばかりにやっている。
やはり、時間を潰すには持って来いである。
とはいえ、現れる確証もなくひたすら神社で待つ二人。
來魅は來魅で、ずっとスマホでネットサーフィン。
「ねえ、もう帰らない?ここゲームのネット繋がらないし、お腹空いてきたし…」
しびれをきらす琉嬉。
時計を見る。
絶望的な時間になっている。
「寒いし…風邪ひいちゃうよ」
「私は帰らん」
「……そうかいそうかい」
今回は來魅が首を突っ込んだ事件。
元々琉嬉は関係ない。
ないのだが、結局は琉嬉も自ら首を突っ込んだ訳だが。
「いーや、こういう手のヤツは夜中姿現すものだ」
「だったら、ここで待たなくてもいいじゃん…。へぷちっ」
「おーおー、かわいいくしゃみだ事」
「…うるさい」
時刻は既に夜9時を回っていた。
「寒い…また雪でも降るかのぅ」
気温はおそらく、一桁台。
5度以下なのは間違いないだろう。
元々眠たそうな目がさらに眠たそうな目になっている琉嬉。
少し舟をこいでいた。
「ほんと…なんも情報ないし、出てくるっていう確証もないし…後日改めようよ」
「…だめだ」
「…なんでだよ~」
目つきが変わる來魅。
クールに言い放った言葉も真剣さがかなりあった。
「……お前様ほどの者が何も感じないのか?」
「えー?何かいるの?」
「…お前様…寝ぼけてるのか」
そう、琉嬉はもはや眠気限界寸前。
寒さも相まってちょっと危ない状況だったりする。
帰りの事考えたら益々辛い。
自転車で来てるのだから。
「まったく、人間というのは軟弱だのぅ」
「うーん…」
まったく役に立ちそうにない琉嬉を尻目に來魅は妖気を集中させる。
「いるんだろう……私が相手になってやろう」
普段のおちゃらけた來魅とは雰囲気が一変、本気モードになる。
妙に重苦しい空気になる。
ザザザっと、葉がない木々、そして枯れていく途中の草が大きく揺れる。
「さあ、出て来い」
ポゥっと右手に込めた妖力の塊を鳥居方面へ投げつける。
軽くボンっという音を立てながら、うっすらと煙の向こうから大きな影が映る。
「誰だか知らんが、邪魔をするな小娘共が…」
大きく、狼のような巨大な獣が姿を現した。
顔は狼のようだが、体は二本足で立っている、人型だ。
「おおっ?!なんだアイツー!」
さすがの琉嬉も眠気が吹っ飛んだ。
「フン、獣妖怪か…」
「ん?お前も妖怪のニオイがする…。小娘、妖怪か」
「おう、そうだとも。高貴なる狐妖怪さまだっ」
「狐風情が……お前も喰らってやろうか」
「やってみるがいい!」
「あ、ちょ…」
そしていきなりドンパチはじまる。
「あーあーあーぁー……」
そして、あっという間に決着がついた。
勿論來魅の圧勝である。
「ふふん、どうだ。妖狐をなめるなよ!」
「なーに威張ってるんだか…」
冷めた目で見る琉嬉。
琉嬉はほぼ何もしてない。
ましてや封じの術も解いていない。
それなのに倒してしまった恐るべき來魅の力。
「ぐぐ……この俺様が…このような子供に…」
獣妖怪も一応善戦はしたものの、圧倒的過ぎる來魅の前に平伏すことになった。
「お前か?この町でペットとやらを喰らってたのは?」
「……そうだ。今の時代我ら獣妖怪は住みにくくなっててな…。だからこの町の伝承にちなんでやった事よ」
「伝承って…蝦蟇様ってやつの?」
琉嬉は思わず聞き返す。
「そうだ。そうすれば人間達が恐れて生贄を持ってくると思ったが…決してそんな事をする者なんぞ、いないものだな」
「ふむ。まあ、そうだろうな。伝承なんぞ残りはしても薄れていくもの。時代は変わって行くものだぞ」
今まで封印されていただからこそ感じる時代の移り変わり。
妙に説得力がある。
「お前こそ、なぜ人間の肩を持つ。同じ妖怪だろう」
「馬鹿言え。私は気に入らないのは妖怪も人間も関係ない。お前は気に入らなかっただけに過ぎない」
「なっ……」
絶句する獣妖怪。
単に來魅に気まぐれだけでボコボコにされただけとも言える。
よくよく考えたら最初ボコボコにされたのも気に入らなかったからか?と、ふと思う琉嬉。
「なぁに。手加減はしてやったんだ。命だけあるのも運が良かったと思え。そしてこの町に近づくな」
「ぐぐ………。むむぅ…。仕方ない。力が違いすぎる…」
「ねえねえ」
完全にのけ者扱いされていた琉嬉が獣妖怪に話しかける。
「…なんだ人間の小娘」
「こいつの正体知ってるの?」
「…いや、知らんが…?」
「來魅って言えば解かる?」
「らい…み……だと?」
獣顔だが、青ざめていくような表示に変わっていくの様が分った。
「まさか…最近復活したという…ここ数百年の間の最強妖怪來魅とは…この娘の事なのか?!」
「おうぅ。私も有名だのぅ」
「あ、さらに絶望的な事教えてあげようか?」
「…は?」
「來魅は、僕の術によって本来の力を封じてます。これで」
琉嬉は來魅の右手首にしてある白黒の数珠を見せつける。
「ひぃぃーーー!!」
來魅のやさしーい計らいで獣妖怪は殺される事もなく森の中へ消えていった。
やはり、ここ数年のペットなど、動物の被害はあの獣妖怪の仕業だった。
伝承を逆手にとり、なぜか回りくどいやり方で食物となる動物を得ようとしていたようだった。
ただ、面白半分、ゲーム感覚でやってたのではないのだろうかと、琉嬉はそう推測して話す。
「はぁー…妖怪にもいろいろいるもんだなぁ…。しかし、なんの利益にもならない事件解決しちゃったじゃんか」
「まあまあ、良いではないか。私も面白かったし」
「お前もゲーム感覚かよ…」
まったくもって呆れてしまう。
妖怪とはこんなものなのだろう。
ある種、人間より欲望に忠実。そして楽観的。
だが、それにて純粋とでも言える。
「利益どうのより食われたペットとやらは戻らんがな…それだけは悲しい事だ」
「…そうだねー」
「今度ちょっかい出したら命はないと知らしめてやったからの」
「おー怖い怖い。(それにしても人間側にやけに肩持つなぁ。銀杏といい、どうしてなんだ?)」
散らばった神社に貼られていた御札を拾い上げる。
「何してるんだ?」
「んー、御札を拾ってるんだけど、このままにしとくと余計なのが寄って来ちゃうから…」
「ふむ。なるほど」
「手伝ってよ」
「ほいほい」
まったく疲れた様子を見せずにテキパキと動く來魅。
最早動きが人間業じゃない。
「で、これをどうするのだ?」
「社と鳥居に戻す」
「ほほほぅ」
「変な相槌するな。せいっ」
ジャンプして高い所へ貼り付ける。
粘着は残ってない筈なのだがなぜかくっつく。
「どうしてくっつくんだ?」
「それは微力な霊力が流れてるからだよ」
「ほうほう」
「それはそっち」
スマホのライト機能でなんとか暗闇を照らす。
琉嬉も持ってきた手持ちの懐中電灯を使う。
「足りない分はどうしたんだ?」
「僕の分で補うさ」
胸ポケットから数枚の御札を取り出す。
「ほぅ。でも種類が違いのでは?」
「だーいじょーぶ。この手のはそれっぽいのでおけー」
「お、おけー?おぅ…」
よく理解出来ない。
でも琉嬉がそう言うのなら問題ないのだろう。
そう納得する。
「さて、帰るとするか」
「急がないと帰りのバスがなくなっちゃう」
「フム。では急ぐとしよう」
ガシっと琉嬉の細い腰を掴み、凄い勢いでその場から動く來魅。
「おおぃ!ちょ、待ってってば…!!」
同じくらいの背丈だが、來魅は簡単に琉嬉の体を抱き抱え神社から飛び出したのだった。
「自転車自転車ぁぁ~~」
來魅と琉嬉がいなくなった神社。
そのわずかな時間。
怪しく蠢く影が社から出てきた。
はっきりとしない姿だが、その風貌は蛙のように見えるような顔立ち。
しかし体つきは人間のように二足歩行。
坊主のような袈裟みたいな服装をしている。
(ふむ。あの小娘達…私が手を下すまでもなく解決したか。中々面白いものよのぅ。
しかし…來魅とはな…。その來魅と対等のあの黒髪の少女…人間のくせに人間の域を超えている。
世の中面白いものだな)
そう、この妖怪こそが真の蝦蟇。
琉嬉達に気づかれる事もなく、社に存在していたようだ。
それ程の妖力を持っているのだろうか、それとも何かの結界のためなのだろうか。
詳しい事は不明だが、今回の事件に関して自ら動く事は出来ない状態だった。
それはあまりにも長い間生きているため、戦う為の力が失われてしまったからである。
(わしにも力が残っていればな…。
だが、面白い者達がまだまだいるものだ。ここから見届けてもらおうか…)
満足そうにし、そのまま姿を消す。
「一旦休憩~」
琉嬉が途中のバス停に設置してあるベンチに座る。
無茶苦茶な來魅の移動で腰が痛い琉嬉。
來魅は琉嬉と自転車を担いで移動していたのだが、無理な体勢だったため琉嬉が拒否した。
そして結局琉嬉が來魅を自転車に乗せて二人乗りで移動したのだ。
「ツツ…まあ、本当は駄目なんだけどさ。まったく」
大きい通り。
バス停の時刻表を見ると一時間に数本。
そしてこの時間帯だと夜の9時前には終了してるようだ。
さすがは田舎。
駅前近くとは凄く違う。
「お、来たぞ。あれに乗るのか??」
「ん?」
だが、来たのは「回送」と書かれた表示のバス。
「あれは違うよ。回送じゃん。そもそも自転車を中に入れれないよ」
「かいそうとはなんだ?」
「言っとくけど食べる海の産物じゃないからね」
「そんな事は解かっとるわい」
などというくだらない会話をしてると、琉嬉はちょっとした異変を見てしまった。
「どした?琉嬉?」
「あ、いや…見間違い…?そんなバカな。回送のバスに客なんて乗ってるワケないよな…」
「んー?」
不思議そうに首を傾げる來魅。
琉嬉は回送のバスの後座席部分に眠そうな顔している女性の姿をはっきりと見た。
來魅は気づいていない様子。
しかし、回送のバスに客はまず乗せない。
それを不思議に思う琉嬉。
「…もしかして……霊なのか…?」
また余計な物を視てしまった。
琉嬉はそう思い始める。
「お、また来たぞ」
「乗らないけどね」
バスが止まる。
だが琉嬉は手を振って乗らないというサイン。
プシューと音を立て、閉まる扉。
このバスには乗客が乗っている。
それも結構な割合だ。
少し奥へ行けば住宅街がある。
そこに帰る仕事帰りの客なのだろう。
本数が少ないためか、仕事帰りなどの客が集中してしまうため座席が埋まるくらい乗るのだ。
「さて、僕らも行くよ」
「おー」
さっき見たバスが気になってしまう。
いずれまた、何かの縁でこの路線のバスに乗るかもしれない。
それはその時でいいや、と、その場は終わらせる事にするのだった。
「ねえ、來魅。なんでこんな事件に足踏み入れたの?人間が得するだけじゃん」
「んー?まあ、暇だったしな…」
「嘘つけ。絶対何か理由あるだろ。じゃないとこんな事件に関わる訳ないだろ」
「……フフ。何気にお前様はしつこいの」
「しつこさがないとやってらんない性分なんでね。一応仕事のおこぼれもやってる訳だし」
他人からみたら女子小学生が話してるようにしか見えない。
だが、会話の内容は普通には有り得ない内容。
「むかーしな。知り合いの人間の村に動物や人間を食べる妖怪がいてな。それを思い出しただけだ」
琉嬉はキョトンとする。
「へぇ~……。そうなんだ」
「よく食物連鎖とか言うだろ。でも、何か違う気がしてな…。勝手な考えかもしれんがな」
「………來魅がそんな事思ってたなんて意外。そんなセンチメンタルな部分があったなんてね」
「せ…せんちめんたる?」
「いや、情にもろい部分でもあるんだなって意味」
「私をみゆとか護みたいな何も考えてないぱっぱらぱーと一緒にするな」
「あはは、違いない」
帰りの寒い夜の中の自転車の上。
ちょっとだけ聞いた來魅の過去話。
短い話だったが、少しだけ來魅の事が理解出来たような気がした。
「ただい…ま」
「お帰り~!またこんな夜遅くまで!いいかい、琉嬉ちゃん。いくら腕っ節が強くたって君達は女の子なんだよ…」
出迎えた父親導の全然怖くないお説教が始まる。
親バカだからこそ怒ってくれる。
「來魅ちゃんも!妖怪だかなんだか知らないけど、子供が夜まで出歩いちゃだめだよ!」
「お、おおぅ……。それはすまない(子供じゃないんだが……)」
完全に子供扱いされている來魅。
さすがに困惑する。
「いいかい…。そもそも、帰る時間とかを…クドクド」
「おー、おー、導がお怒りじゃのう」
ちょっと楽しそうにみている銀杏。
悠飛も苦笑いで状況をみている。
「ホラホラ、お説教は後にして、ご飯食べなさい」
相変わらず怒る気もない、優しすぎる母親。
銀杏も悠飛も苦笑いする中琉嬉はチラっと來魅の顔を見る。
來魅は何かの達成感がでもあったのか、いつもと違う笑顔な気がしていた。




