#42 京都の夜、そして帰還
偶然、突然、出会った猫妖怪。
そして、存在が明るみになってきたとある組織。
京都に来て結局面倒事が増えてしまった感がある。
琉嬉は、いや、琉嬉達はそういう運命にあったのかもしれない。
修学旅行も終焉を迎えようとしていた。
旅館に戻ってきて一息つく鞍光高校の生徒達。
就寝時間も近いのにも関わらず、琉嬉らは部屋から外に出ていた。
「お、琉嬉達か。仲良いな。お前ら」
眞太朗が琉嬉達とすれ違う。
琉嬉らはふかしぎ部のメンバーと揃って旅館の廊下を歩いていた。
「…あら、どうも」
軽く会釈するまどか。
「ふーん…。生徒会長とは知り合いだって聞いてたけど、随分仲良いんだなあ」
「まーね。同じ部活だし」
「………」
眞太朗はヒソヒソ声で琉嬉にこう話しかけた。
(…なあ、また面倒くさい事になってるんじゃないのか?)
(……相変わらず鋭いね)
(…そりゃあ、あんな怖い物見せられたらな…。なんとなく察しつくようになるさ)
あえて、表沙汰に言わないが薄々眞太朗は琉嬉達の関係に気づいていた。
おそらく、心霊的に何かつながりあると…。
眞太朗には分かっていた。
決して、自分のような凡人が入ってはいけない世界に琉嬉達は「居る」んだと。
「僕は行くよ。じゃね」
ヒラヒラと手を振りながらその場をあとにする。
(…ま、普通の一般人の俺には到底理解できない世界か…)
「やっ」
ピっと指を二本立てて挨拶する護。
「なんなんだよ…こんな時間に呼び出して」
人気のなくなったロビー。
教師の目を盗んで出てくる。
一応、就寝前の時間なのでそろそろ自重しなければいけないのだが。
携帯ゲーム機を持ちながらロビーに来たのは琉嬉。
「何をする気なんだ?」
「夜の京都観光」
「………お前、どこかみゆに似てきたよな」
そして、続々とやってくるふかしぎ部メンバー。
「なんどすか?こんな時間に…」
「なんですか~?こんな時まで」
「…どうしたんですか?就寝前に」
「どうした?わざわざ呼び出して」
「夜の京都観光」
さらっと、笑顔で言ってのける護。
瞬間、メンバーの顔からは「何言ってるの?コイツ?」みたいな表情に変わっていくのがわかった。
呆れて物も言えない面々。
琉嬉はその状況を外気味から見てちょっと楽しんでる。
「で、こっそり抜け出そうという魂胆ですか?」
「おう、いえーすいえーす」
「……生徒会長としての発言として、この考えには賛同しかねます」
それもそうだ。
こうみえても、生徒達の中心として身構えてるまどか。
「その通りです!風紀係として見過ごせませんよ!護さん!」
違反的は行動は見逃せない。
「でも、ちょっとくらいはいいかもですね」
と、まどかは意見をすぐ変える。
「ですよね」
寧音も乗っかる。
「おい、風紀委員長…」
龍翔が呆れた声を出す。
凛夢は呆れすぎて何も言えず。
琉嬉はクスクス、と不気味に笑っている。
とまあ、こんな調子で夜の観光となる。
「大丈夫かな?」
時刻は夜の11時を過ぎている。
深夜帯ともいえる時間。
「バレなきゃ問題ないない~」
「ハイハイ…。気の済むまで観光すればいいよ…」
「しかし、夜と言ってもこんな遅くじゃなくても」
「それがいいんだよ~。人の気配が無くなる…静かな京都の夜。ロマンチックじゃない~?」
ここに来て気持ち悪い乙女チックな内面を見せる護。
「…そうかい」
つれないみんなの返事。
みんなは十分京都を堪能した。
そう感じてるのだが、護だけはまだ満足してないようだった。
「てか、交通機関も終電近いから止まっちゃうし、タクシー乗るお金なんてないよ」
「いやいや、旅館の近場でいいじゃん?」
「……散歩かよ」
あまり会話もないまま歩き続ける。
日付が変わりそうな時間帯とはいえ、近くの居酒屋などは元気に明かりがついている。
観光重点を置いてる地域だけあって、活気が良い。
そんな時間に私服姿とはいえ、若い娘数人が出歩いている。
少々目立つ風貌でもあるため、時折すれ違う人間の目線が気になる。
「いいのかねぇ~…」
「いいのいいの。いやはや、夜の京都も綺麗だねぇ」
旅館近くの高台にある公園。
そこからちょっとした夜景が見える。
「うーん…風が冷たいけど、気持ちいいねぇ~」
「そりゃ、もう冬近いしね」
「でも鞍光に比べれば凄いあったかいよね」
「そりゃ、鞍光は雪が積もりますからねっ」
得意げに言う寧音。
「いい景色だけど…さっきから視線が気になる…」
「…へ?」
琉嬉が顔を向けずに指だけ向けて示す。
その方向は人気がない。
「何か…いる…………………んだね」
護も示された方向を見て気づく。
「…はぁー、こうやって視えちゃうってのも考え物だね~…」
何気なく見える人型の影。
そう。
ここに自縛しているのであろう霊が、みんなには視えている。
女性の霊のようだ。
かなり、虚ろな目をしている。
なんでここにいるのかは不明。
きっと何かの事故か、それとも自殺でもしたのだろうか。
「…こっち見てるなぁ…あの幽霊さん」
そう、ずっとこっちを見ている。
いや、見ているように見えるだけ。
「……あまり関わらないように、悟られないように行こうか…」
助けてやりたいのは山々だが、地元ではない場所なうえ、利益がないような事はやらない主義の琉嬉。
そもそも、そこら中にいるであろう、霊達を救ってやる時間も体力もない。
義理もない訳で、そんな事してられない。
ここは気づかないふりしてその場をやり過ごす事にする。
「しかし、疲れた…」
「なーに?琉嬉ちゃんともあろう者が、どうしたの?」
「お前の思いつきの行動に付き合わされて疲れたって言ったの…」
「……まーたまたー」
自分が悪いと思ってない護。
こうした、変に明るくてバカっぽいのところがある。
「そろそろ戻りませんか?」
まどかがちょっとそわそわした感で言う。
時間も時間。
日付が変わっている。
戻らないと教師に見つかる可能性もある。
「十分楽しんだやろ?帰らんと怒られます」
「うーん、仕方ないねぇー」
残念そうに悔しがる護。
「今度みゆ負担で遠出の旅行でもすればいいよ」
「おお!それいいね!今度頼んでみよう!」
そんな事知ってか知らないでか、みゆ頼みにする。
大体、自分の都合でしかみゆはそういうイベント起こさないのだが。
他人のお願いを聞いて、嫌とは言わないだろうけど。
会話も少なくなり、少々疲れきった状況で旅館へこっそり戻ろうとする。
あれだけ散々昼間観光したので体力が消耗している。
いつも笑顔な叉羅沙やまどかもうっすら、少し笑顔が消えていた。
「……まったく…。なんでこうなった…」
ぶつぶつ独り言を呟く凛夢。
文句言いながらも結局は付き合う凛夢の悪い癖。
どこかこういう部分が琉嬉と似てるようなのだ。
旅館街をなんとなく歩いてる。
さっきも通った道を再度通り、新鮮味がなくなった感じで歩く。
そんな時だった。
「ちょいと、そこのお嬢さん方」
ちょっと片言っぽい日本語で話しかけられる。
「ん?」
ふと、見ると背の高い、綺麗めな女性がいた。
見た目は日本人っぽいが、喋り方が片言。
中華系かそういう感じがする。
「こんな時間に何シテルの?」
「…何って、観光…?」
適当に応える琉嬉。
「そう…。おかしいネぇ。強い霊力持ってる女の子達がこんな集まって不思議…」
「!!」
突然霊力が高いのを感づく言葉。
琉嬉達の霊力の高さに気づいている。
「アンタ…何?何か用?」
「フフフ……。ちょっとここらで妙な強い力持った女の子達がいるって聞いてネ…」
なぜか、気づかれている。
「あ、もしかしてあの時ぶっとばした妖怪のせいかも…?」
そう、とある展望台で琉嬉が一撃粉砕した妖怪。
死んではいなかったようだが、何かしらそこから情報が出回っていたのかもしれない。
「で、何の用どす?」
「用っていうか…お手合わせ願いたい…っていう話?」
女性はすかさず構える。
そして、突然攻撃を仕掛ける。
突風が巻き上がる。
「おわっ!!」
そこらにあった置いてる物が巻き上がる。
少し混乱した隙をついて、強烈な蹴りが護を狙う。
「このぉ!!」
とっさに反応し、腕で蹴りをガードしきる。
「な、何するの?!突然!」
「腕試しってやつよ」
「う、腕試しぃ?」
しかし、この人数相手に一人で立ち向かってくる。
余程の腕に自信があるのだろうか。
「てめぇ!!」
凛夢がいつものように豹変して、大声出して大鎌で斬りかかる。
「おおぅ!なんていう、大きな鎌…」
ギリギリで避ける女性。
「ちょこまと!!」
さらに追い続ける凛夢。
それに続かんとする護。
こちらも既に両手に霊力剣を作り出している。
「なんなんだ…?まったく…」
「琉嬉さん。どうやら相手は一人だけじゃなさそうですよ」
まどかの目線の方へ琉嬉も向ける。
いつのまにかそこにいる大柄の男性と、帽子被った少女。
そう、つい最近スイーツショップで見かけた二人…。
「なるほどね…あの時のあの二人の違和感…ようやく分かったよ」
「そりゃ話が早いね。お嬢ちゃん」
大柄の男が行動を起こす。
琉嬉を目掛けて思いっきりパンチを繰り出す。
「いきなりとは」
とりあえず、男のパンチを琉嬉を守るように入り、受け止める叉羅沙。
「叉羅沙っ」
「すまんなあ、琉嬉ちゃん。こういうのはウチに任せときぃ」
「ハハ、君は女の子なのに背大きいな」
「褒め言葉にしときます」
どこからか出したか、短刀で叉羅沙は反撃する。
「おおっ!危なねぇ!どこから出したんだ…」
「……堪忍な」
一本だけじゃなく、もう一本の短刀を取り出し男に投げつける。
「な!?そう来るかよ!」
さすがにその攻撃を想定してなかったのか、遅れながらも避ける。
「あぶねえあぶねえ…。体が大きい割には細かい攻撃するんだな」
「あんさんに言われたくないなぁ~」
繰り返す男の挑発のような発言に少し不快感を表す。
凄まじい動きとは一変して、ゆっくり間合いを保ちながら攻撃のチャンスを伺う態勢になる二人。
その瞬間だった。
「チェストォッ」
ドゴッと、男の顔目掛けて寧音が飛び蹴りをかました。
「むっ?!」
「あら、外れましたか」
間一髪、右腕がガードが間に合ってたようだ。
寧音はそこから凄いスピードで離れて間合いを取る。
「寧音はん、またえらい動きやな」
「舐めたらヤバそうな敵ですからね」
「フフ、中々面白いじゃんか…」
ニタリと、男は笑った。
「ふぅむ…。相手は一人じゃなかったんですね…」
まどかも臨戦態勢。
そして突然手元に現る大きな槍。
本気モード突入に。
「あはは、さすがに普通の相手じゃないね」
帽子の少女も手から青い炎のようなのを出している。
その炎をまどからめがけて放つ。
まどかは槍を回し、防御の構え。
「礼儀がなってませんね…突然攻撃してくるなんて」
「ワケあり…だからね!」
尚も炎攻撃をし続ける。
まどかは受け止める事をせず、避けて反撃に移る。
「おっと!リーチの長さでは負けるから…飛び道具主体で行くよ!」
炎の弾がまどかめがけて飛んでいく。
なんなく弾いたり、避けたりしてなんとか間合いを詰めようとするまどか。
「フフ、まるで鬼ごっこですね」
薄ら怖い笑みを浮かべるまどか。
「…真空波断…」
ボソっと喋った後強烈な風の霊力まとった槍の一撃が相手をかすめる。
「ひゃあ!!」
少し服を切り裂いたが命中はしない。
後ろの木がいとも簡単にざっくり切れた。
「わお!風使いか。すっげー切れ味…。うちの中華お姉さんと同じか~」
まどかは無言でニコリと笑顔になる。
「やれやれ…突然過ぎて呆気に取られたが…遊希」
「はい」
「他に何者かいないか調べてくれ」
「龍翔様は?」
「俺は取り敢えずフォローに回る」
龍翔は遊希を一旦離れ、護のフォローに入る。
「了解しました」
影に同化して遊希はその場から消える。
「護ちゃんや、気を付けろよ」
「分かってますよー」
「あら、いい男さんネ」
舌を出して上唇を舐める女性。
右手にはシュンシュンと音が鳴っている。
空気の流れが右手に集まっている。
「目に見えにくい分、厄介そうな技だな」
「ソレはどうも」
その空気の流れを護と龍翔目掛けて放つ。
「あー!!もう!!なんなんだいきなり!ムカつく!!!」
琉嬉が吼える。
いきなり訳も分からなく攻撃されるし、少し置いてけぼり感がある。
そしてポケットから複数枚のお札を取り出す。
それを一気に霊力込めて……空中へ放つ。
「ちょ!何してんの琉嬉ちゃん?!」
「うるさい!雷符!!」
空中に霊力を込められたお札が雷を巻き起こす。
一帯全体に一気に放出。
「な、なんだ!」
大柄の男が攻撃をやめ防御に徹する。
雷だけじゃなく、他の符も爆発を起こす。
ドカンドカンと音を立てる。
「なんだなんだ!あのお子様やべえぞ!」
「お子様言うな!!」
さらに琉嬉はお札を取り出す。
ありったけの数のお札をとき放つ。
激しい爆風が起き、至る所が壊れていく。
そうしてるうちに騒ぎが当たり前のようにバレる。
通りすがりの人がびっくりした顔でこちらを見ている。
「ぶっ飛べこのやろー」
そして得意の大技を放った。
龍のようにうねりながら暴れ狂う大きな霊力の塊。
バキバキッとその辺の木や建物の壁を破壊しながら突き進む。
「龍神符!」
「なんだこりゃっ?マジか」
大男が驚く。
「おわわ、琉嬉ちゃん暴れすぎ!」
「このままじゃ面倒な事になりますねぇ」
「ったく…あのバカ小娘!」
すぐキレてしまう琉嬉を止めるべく、凛夢は隙を突いて琉嬉の額を平手で叩く。
ぺちんっ
と、いい音がした。
「いったぁー。何するんだ!」
「暴走するな!敵どころか味方も倒すつもりなのっ?!」
「ぐ…」
「敵味方関係ないんですねぇ~。琉嬉さん」
ニコニコしながら言うまどか。
自分はちゃっかり高い所に逃げて避難していた。
「オイオイ…あぶねえお子様だなぁ」
「まったくだね」
いつの間にか建物の屋上にいる男と帽子の少女。
そして別の建物にいる片言の女性。
「派手に暴れ回ったわネ~」
「あの女…」
「だから怒るなっての!」
凛夢に左手で制止される琉嬉。
「おー、怖い怖い…噂に聞く気性の荒さだね」
「………僕を知ってるの?」
「有名だぜ。凶暴なロリ退魔師ってな」
「んな…!」
凶暴なロリ退魔師。
いつぞや学校でついた凶暴な天使と同じような異名だ。
「たしかに、悪魔のような暴れっぷりだな」
「プフフフ!ごめん、笑っちゃうよ!」
護も笑いが堪えれない。
「ハハ、さすがやなぁ。京都でも有名なんや~」
「……ぐ…その通り名は嫌だ…」
攻撃を仕掛けて来た3人は戦う意志を止める。
そして、
「さてと、俺らは退散するぜ」
姿を晦まそうとする男達。
「待て!お前らは何者なんだよ!」
「俺らか?ま、いずれまた会うと思うぜ。俺の名は加家島礼人」
「ウチは響百合那。あだ名でゆりゅ。よろしく~」
「…フフ。私はレミー・チェイン。香港から来たの~」
3人は自ら名乗った。
初めて聞く名に戸惑いすら感じる。
どっちにしろ相手は見た感じ若いので今まで表立って行動してなかったのだろう。
裏世界では浸透してないに違いないと考える。
「とまあ、こういう訳だ。またな」
「あ、待て!お前ら一体…」
しかし聞く耳持たずその場から消えるようにいなくなる。
3人はそのまま姿を消し、静寂が戻る。
騒ぎのせいか、誰かが通報したらしく、パトカーのサイレンが聞こえてくる。
「あーらら。こんな街中で暴れるから、騒ぎが拡大しちゃったね」
皮肉交じりに護が琉嬉の顔を見て言う。
その琉嬉は無言のまま護を睨む。
(おおー、怖っ)
「なんだったのでしょうか…彼らは」
寧音は服をパッパッと掃う。
結構汚れたようだ。
「分からん。ただ、こちらを知っていて攻撃したようだな」
「龍翔様」
タイミング良く遊希が戻ってくる。
「どうだった?」
「特に他にそれらしき者は…いませんでした」
「そっか。すまない」
「いえ…」
辺りがザワザワしだす。
「おとなしくトンズラしましょう」
「トンズラって…まどか、そんな小悪党みたいな言葉使わんといてなぁ」
「うふふふ。なんかこういうのもたまにはいいですね。悪者みたいで」
楽しそうなまどか。
その反面その場から動こうとしない琉嬉。
怒りが収まらない琉嬉を抱える凛夢。
「あ、凛夢!何するんだ!」
「いーから、おとなしく逃げるわよ!」
「コラ!離せよ!子供みたいに僕を抱えるな~」
「あーうるさいうるさい」
そのまま戦場となった場所からトンズラするのだった。
「まったく!なんなんだ!!アイツら!」
「そうカリカリしないの」
「コレが黙ってられるか!!」
「あーあー、ご立腹だねぇ…」
やり場のない怒り状態。
無理もない。
突然現れては攻撃仕掛け、そしてすぐ逃げるように姿を消した謎の3人組。
同じようにこっちも逃げた訳だが。
しかもかなりの腕前の持ち主。
こっちも早々たる精鋭なのだが、まったく引けをとっていなかった。
それにこちらの方が人数が多かったのにも関わらず。
「しかし…なんでこちらの存在を知ってて、攻撃仕掛けたんでしょうねぇ?」
「さぁね……。叉羅沙さんはなんか知らないの?」
「申し訳ありまへんが、ウチにはあまり…。ただ、あのデカイ男と帽子被ってた女子さんは見た事あります」
「マジか!」
「マジも何も、以前ウチが霊術会に居た時、こちらにたまたま来た時に。
そん時にチラっと見た事があります。そん時は写真やったけど…」
「ふぅむ…。で、アイツらの正体は?」
「…半妖……。それも強力な」
「半妖……だって?アイツらが?!」
京都に来てから何度も出てた半妖の話。
その半妖がさっきの加家島達だという。
確証はないが、あの強さなら納得いく。
「なるほどね…それっていつの話?」
「二年くらい前やなぁ。ウチが中三の春くらいの話やから」
「…関係ないけどその頃から叉羅沙って背大きかった?」
琉嬉がまったく関係ない話題を叉羅沙に聞く。
「今より5cmくらいは低かったかなぁ…って何言わすんっ。それは今関係ないやろっ」
顔真っ赤にして反論する。
「あ、いや、なんか気になって」
「うっわ……!1時過ぎてるよ…早く戻らないと!」
急に大声あげる護。
スマホの画面に表示されている時計を見て愕然とする。
あの騒ぎの中すっかり時間が経ったのを忘れていた。
「早く戻りましょうっ」
寧音がいち早く走り出す。
「…そもそも……そもそも護が誘ったからだろ!こんな面倒な事に巻き込まれて…」
怒りの矛先を護へ向ける。
「えへへへへへへへ」
変な笑い方する護。
そして無言で走り出した。
「待て!護ー!!」
琉嬉も続いて走り出す。
「まったく…なんだかんだで元気な女よね……琉嬉のヤツって」
「ほんまやなあ」
そして残りのメンバーも着いて行くようにそのままダッシュで旅館へ向かう。
こっそり旅館へ戻ってきたメンバー。
幸いバレたりはしなかった。
だが、他の生徒よりも確実に疲れが蓄積されてるのが分かる。
そのままぐったりする琉嬉。
元気なのか疲れてるのかまったくよく分からなくなる。
自分でもよく分かってない。
こうして後味の悪い修学旅行となった。
ゴソゴソッと部屋に戻る。
部屋は真っ暗。
だが話し声は聞こえていた。
「…琉嬉ちゃん?」
「あ、起きた?」
「まだ誰も寝てないよ」
「……だろうね」
ドカッと自分の布団に座る。
凛夢もこっそり戻っている。
「どこ行ってたの?」
「ちょっとね……。…どうしよ、またお風呂行って来ようかな。汗かいたし」
「…あーやしぃー」
「うるさいっ」
みなっちにチョップして、また部屋から出て行く。
「いたぁい」
「先生に見つかるよ?」
「大丈夫。軽く変装するから」
そう言うと髪をほどく。
「わっ、琉嬉ちゃんって髪ほどくと…なんかお人形さんみたいになるね」
「ぷぷっ」
奥で凛夢が噴き出す。
「だからうるさいっ」
さらに追撃のチョップをした。
「あんまり使いたくないんだけど…ね」
そして徐に服を脱ぎだして旅館の着物にに着替える。
「…なんか、こういうのも悪いけど琉嬉ちゃん…凄く和風な子だよね」
「うんうん」
「…まさに日本人形」
「うるさい。敢えて言うな敢えて」
ツインテールを解くと腰ぐらいまで長くてまっすぐな黒髪。
切りそろえられた前髪。
そして小さな体格。
まるで座敷わらしのような、子供の幽霊のような…。
「夜中に会うと…怖いかも」
みなっちが笑いを堪えて言う。
「そう。その通り。子供の幽霊を装う、ってなんでだよっ」
またまたチョップを食らわす。
「いたぁいー」
「先生に言ったら…分かってるよね?」
「はぁい」
全員声を揃えて返事する。
その日、この旅館で深夜子供の女の子の幽霊らしきモノが徘徊していたという噂が、鞍光高校の教師や生徒達の間で広まったという。
翌朝。
夜まではどんよりとした曇り空になってのだが、帰る日はかなりの快晴。
帰るのがおしいくらいの天気の良さだ。
他のクラスを見ると、護は眠たそうな顔している。
叉羅沙のにこやかな目つきとは裏腹にじーっとどこかを見ている。
まどかは何も変わらない表情。
龍翔はクラスメイトと楽しく喋っている。
寧音は眼鏡越しでも分かるくらい目が死んでいた。
「お前ら集まったか~?」
桜川先生が点呼をとる。
よーく見ると桜川先生の顔を見るとどこか疲れたような表情。
「…先生。またお酒飲んだでしょ?」
琉嬉がひょこっと下から桜川先生の顔を覗く。
「うっ、鋭いな…お前」
「…伊達に先生の生徒やってませんよ」
「おーし、バスに乗れー」
「…あ、ごまかした」
「うるさい。お前も早く乗れ」
ぽかっと琉嬉の頭を軽くたたく。
「ハイハイ」
(……しかし、彼方のやつ鋭いなぁ…。そんな酒臭いかしら…)
少し口臭を気にしてしまう桜川先生だった。
これからまた少し長い移動の時間となる。
一日かけての移動となる。
琉嬉達にはあの半妖だと思われる3人が強烈に頭に残ってしまった。
結局ヤツらの目的が分からないままだ。
「…今考えたって仕方ないしなぁ…」
「何が仕方ないの?」
隣に座っていたみなっち。
ついつい琉嬉の独り言に反応してしまった。
「…あ、いや。何でもナイ…」
そのまま得意の無口モードになる。
「ふーん…?元気ないな~琉嬉ちゃん」
「………」
言葉には出さないで、ほっとけという顔をする琉嬉。
「ちょっと、いい?幽霊娘」
「………何?ってか幽霊は余計だ」
後ろの座席から顔を出す凛夢。
深夜の琉嬉の軽い変装?で子供の幽霊騒ぎが広がっていた。
琉嬉に何か話しかけようとする。
そのまま小声で喋る。
「アンタ。だけじゃないんだからね。腹を立ててるのは」
「…そうだろうけどさ…。納得いかない!」
「……学校祭の時もそうだったけど…アンタと関わってるとロクな事ないわね」
「…自分自身でそう感じてるよ」
「がしゃどくろの時より面倒な事になりそうだぜ…」
ため息つく凛夢。
思わず口調も裏モードの口調になってしまう。
自分の意志でここの学校にきたのだから、後悔しても仕方ない。
今は前向きにとらえるしかない。
「…五大家としての運命……ってやつなじゃいの?」
琉嬉から五大家という言葉。
「逃れられない運命って事?はんっ。何その漫画とかドラマみたいな設定」
つんけんしながら座席に深く腰を降ろす。
「ですよねー」
少し笑いながら琉嬉も座り直した。
「どう思います?叉羅沙さん」
「何が?」
「何がって…あの半妖とかっていう人達ですよ」
「ああ、それね…」
さすがに叉羅沙も疲れが取れきってないのか、少々反応が鈍い。
いつも細い目がいつになく開かない。
眠たそうな顔をしている。
「あんなん付き合わされてたまらんわ」
「ふふ、たしかに」
「んまー、えらい面倒な事になってきたなぁ。一難去ってまた一難…。当分がしゃどくろのような事ないと思っとたのになあ」
自分達と互角…いや、それ以上かもしれない輩達が3人。
いや、他にいるかもしれない。
一筋縄にはいかない。
それに猫妖怪の強さも気になる。
関連性があるのかは不明。
「これは…ちょっと鍛錬でもしないといけませんかね?」
「ハハハ、昔みたいに…かえ?それこそ面倒やわ」
少し昔の事を思いだす叉羅沙。
それは決して良い思い出じゃない。
「そうですねぇ~。思い出したくない事は思い出さないほうがいいですよ」
「そんな無茶な」
「私としては灯唱さんにも挨拶出来ましたし、叉羅沙さんも踏ん切り着いたんじゃないですか?」
「そやろか?…ん~」
眠そうな声が出る。
そしてこの二人もあまり深く考えない事にした。
(……あの外国人の女…小細工仕掛けてた…)
一方、護は昨日のおちゃらけた感じではなく真面目に夜中の出来事を考察していた。
(私の攻撃についてこれるなんて…妖怪以外の人間がいるなんて…。
あ、あれ?いや、半妖って言ってたけ…?
人間でもあって妖怪でもある?だったら人間じゃないか…。
あ、いや、人間でもあるのか……。
あたしと同じってコト…?あ、でもあたしは元々人間だし。
………???)
「わけわからん!!」
突然大声を出す護。
同じバスのクラスメイト達が驚く。
一人で勝手に混乱する護。
どうも、深い考えが出来ないようである。
だからみんなにバカキャラ扱いされる。
「ど、どうした…?芹澤…?」
担任の教師が恐る恐る護に聞く。
「あー、いや、なんでも…ありませぇん…。みんな、ごめんね」
舌をペロっと出してわざとらしく謝る。
大半の男子生徒はそれでまた心奪われる。
「なら、それでいいんだが…」
ともかく、護のバカっぷりがここでも発揮された。
数時間かけて、学校へ戻ってきた。
飛行機に乗って、一気に戻ってくる。
なんとも飛行機の早い事。
「たはーっ!疲れたー」
「お疲れさん」
「眞太朗…」
バスから降りた琉嬉に真っ先に話かけたのは眞太朗だった。
「なんかあれからもっと険しい顔してたなぁ。関わらないつもりだったけど…」
「……何?心配してくれてるの?」
いつもと同じぶっきらぼうに言う。
「俺は、何も出来ないかもしれないけど…、ねぎらいの言葉くらいは出せる。あまり無理するな」
「……ぷっ、何ソレ…。励ましてるつもり?」
「な、なんだよ!人がせっかく…」
「ごめんごめん………。ありがと。」
「おう…」
その二人のやり取りをみていた凛夢達。
「ね、ねえ…あの二人仲良いんですね?」
「そだね~。最近仲良いよね~。これはまさかまさか?」
「そのまさかだったりして~」
みなっちとゆうは楽しそうにしている。
凛夢は若干引き気味。
(…ふぅん……)
何か、面白くないと言った表情する凛夢。
「ま、いっか…あたしも疲れた…帰るぜ」
「あ、お、おう…凛夢。お疲れ」
みゆ達後輩達に会う事もなく部室に寄らずに、解散する二年生達。
もう毎度の事だが、後味の悪い旅行となってしまった感がある。
なんといういうか…半妖達と妙に因縁づいてしまったようだ。
それと、道中助けた猫の半妖とかいう凄い美人なお姉さん妖怪も気になる。
もしや、関連性があるのか…?
琉嬉はふと、しばらく見てなかったスマホを手に取る。
連絡用アプリに用件が何件か受信していた。
「おぅおぅ…早速情報が…」
実は他のメンバーやクラスメイトと一緒にいない時に京都の地元の物分りのいい妖怪に情報を聞きだしていた。
詳しい事など分かったらスマホ用の連絡アプリに連絡くれと。
なんとまあ、ハイテクな妖怪達もいるものだ。
「フムフム…なるほど」
メールの中身はこうだ。
送り主はミダハという妖怪。
『妖怪達でも分からないけど、半妖ていうヤツラが最近表立って出てきている。
人間の特徴と、妖怪の妖術。かなり厄介な存在。
そして、どちらの種族からも忌み嫌われる存在。
ここ数年で勢力を伸ばしてるようだ。
分かってるのは複数人。
名前はカヤジマレイト、レミー・チェイン、ヒビキユリナ、キミザワヒョウの4人。
これらが表立って行動しているらしい』
という、内容だった。
「なんだ、結構知れ渡ってきてるのか…。あの時キミザワっていう奴はいなかったな。
これ、じーちゃんとか知ってるのかなぁ?
まぁいいや、何か他の情報あったら連絡頂戴、と返信」
「ただいまー…」
「おかえり~!」
「おかえりなのじゃ」
「おかえりなさい」
「…おかえり」
「おおお、おかえり~」
最後の導の悲しそうにも安堵の言葉。
本当に親ばかだ。
そして、一斉に向かえる悠飛達。
「うわぷ」
來魅が琉嬉に飛びつく。
同じくらいの体格とはいえ、押しつぶされてしまう。
「コラー!どけろー!」
「これこれ、どかぬか。琉嬉が潰れてしまうぞ」
ヒョイっと片手で來魅を持ち上げる銀杏。
「やっと帰ってきたね。姉ちゃん…。こっちはこの二人相手に大変だったよ」
「お、おう…?そうなの?」
「そう」
(…無理もないか…この上級妖怪二人だもんなぁ)
京都では半妖相手に四苦八苦。
こちらは100%妖怪が家に住み着いているというふかしぎな光景。
「大丈夫かい?心配してたんだよ~」
今度は導が抱きつく。
本当に、帰って来たら来たで面倒だ。
「……しかし、なんか悩んでるようにも見えるんじゃがの」
「鋭いね。銀杏…」
「フム?」
琉嬉は一通り、旅行中にあった出来事を悠飛らに話した。
特別大きな戦闘などにならなかった。
だが、半妖といった手強い者達がいるという事。
來魅と銀杏もそこは静かに黙って聞いていた。
「そのような者達が表に出ずにいたとはな…」
「…逆に旅ばっかりしてるから情報入ってこないんじゃないの…?」
「ハハ、かもしれんのう」
來魅が頬杖をつきながら話を聞く。
「ふぅんむ。半妖のう」
來魅はまったくの初耳だった。
封印から解けて半年足らず。
やっとこさの事で現代社会に慣れてきたばっかり。
今の妖怪達の現状なんぞ、まだ全然知らない。
「そんな奴らがいたとはな。それにしても……お前、いつも面倒な事に足を踏み入れるな」
來魅が同情するように琉嬉に言う。
「……もう運命だと思って諦めるよ」
既に受け入れてるようだ。
帰る途中に買ってきたクリームパンを頬張りながら琉嬉は喋り続ける。
「…そう遠くないうちに、日本霊術会も動き出すと思うし、半妖達も何か企ててる。
きっと、僕達も無視できない状況になる……そんな気がするよ」
「…本当…?姉ちゃん…」
「次の休みの日にお寺行ってお祖父ちゃんとまた話し合うよ」
そこでピクっと反応する妖怪二人。
「私も行っていいか?」
「琉嬉の祖父か。気になるのう」
目をなぜか煌かせ琉嬉に問う。
「……アンタらも来るのかよ…」
大きくため息作る琉嬉だった。
久しぶりに帰ってきた我が部屋。
琉嬉は早速やれてなかったゲームの続きをする。
まだこういう元気はあった。
そこで悠飛も一緒にいる。
來魅と銀杏は居間でテレビを導と嶺珠と一緒になってテレビを見てる。
姉妹二人っきり状態だ。
そんな中で話で聞いた半妖達の存在。
まるで戦争でも起きるかのような、静かな盛り上がり。
乗り遅れて痛い事になる前にまた精進をするしかない。
そう、半妖と言い出したあのふざけた連中に負けたないために。
目的がまったく分からないうえに、突如攻撃してきた。
しかもこっちの素性が割れていた。
まったく面倒このうえない。
悩みの種がどんどん増えていくばっかりだった。
「これは…がしゃどくろの時より複雑に面倒そうだな…」
「…やっぱり」
姉妹だけの会話。
最近二人だけの会話が少なかった。
似てなさそうで似てる二人。
なんだかんだで仲が良い。
「それと…あの猫妖怪…半妖って言ってた…。アイツらと関係あるのか…?」
「何の話?」
「ん?いや、猫妖怪が突然ヒト型に変身してびっくりするくらいの美人になりだした」
「……??それって來魅や銀杏さんみたいな感じに?」
「うん。銀杏より何か得体に知れない感じ。凄いスタイルよくって女からみてもムカっとくるかも」
(姉ちゃんだったら尚更かなぁ)
なんだか納得する悠飛。
自分は別段貧相なスタイルでもないので、いまいちピンとこない。
それはそれで、置いといて、悠飛は自分の考えを打ち明ける。
「あのさ、姉ちゃん」
「ん?何?」
今度はお菓子を口に含んだままの琉嬉。
いつも何かを食べているのに、ちっとも大きくならない不思議な体。
「…近いうち、もう一度雪女の里に行こうと思ってる」
「ほへ。マジか」
「うん。マジ」
しばし変な沈黙が続く。
「……なんで?」
「…………なんでって言われても…。ちょっと想うコトがあって…かな?」
「…ふーん……なるほどねぇ…。自分で決めた事ならいいんじゃない?」
突然の悠飛の発言に少し戸惑いも感じた。
でもすぐ冷静に対応する。
何か悠飛の中でひっかかる事でもあるのだろうか。
一通りの過去の事は琉嬉も知っている。
だが琉嬉でも知りえない事はあるだろう。
至って真面目な表情している悠飛。
そもそも、悠飛も不可解の事件に足を踏み入れている。
現状の力では不足していると以前呟いてたのを聞いている琉嬉。
「ま、そう決意するのならいいんじゃないのー。で、どうして僕に?」
「いや、姉ちゃんも一緒に来てもらおうかなって…」
「……お、おう?なぜに?」
「妹が姉を頼っちゃだめ?」
「う……」
ここにきて妹パワーを発揮。
「しょうがないなぁ。じゃ、いく日とか決めといてね。僕もいろいろ予定があるんだから。多分」
「うん」
そこで会話がまた途切れる。
元々二人ともそんなにお喋りではないタイプ。
必要最低限の会話しかしない日もあったりする。
「なんだなんだ?二人ともおとなしいな」
來魅が琉嬉の部屋に入ってくる。
「琉嬉ー。しゅうがくりょこうというのは楽しくなかったのか?」
「…バカ言え。楽しくない事なんかないよ。十分楽しんだ。
ただ、あの半妖ていうヤツらが面倒だっただけだよ。
あ、そういえば東京でちょっとやなヤツにも会ったけど…」
「え?誰?」
悠飛が反応する。
悠飛も心当たりあるのだろうか?
「いや、ちょっとさ…源聖樹っていうやな奴に会って…」
「…そ、そなの?」
悠飛のちょっとだけ知ってる聖樹の事。
「でも、あいつもどこまで知ってるのやら…」
聖樹もとある組織が行動を起こしていると言っていた。
どうやら、半妖達の事だろう。
聖樹ももしかしたらその組織を追ってるのかもしれない。
いずれにしろ、聖樹ともまた会うだろう。
これから冬になる。
雪が積もって行動範囲が狭くなる前に、いろいろと済ませたい事もある。
準備がまたもや、必要があるのかもしれない。
いつになるのか分かりもしない戦いに、何もしない訳にはいかない。
敵が明確にならない以上、対策が難しいのだが。
「はぁー、今年もあと一ヶ月ちょいかぁ。何もなく終わるといいんだけどなぁ」
「そうだね…」
この一年間。
わずかな間にいろいろあった。
この先もいろいろありそうで安心出来ない現状。
熱い、冬になりそうだ。




