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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第七章   ~修学旅行編~
41/92

#41 台無しにされたくない

 修学旅行もそろそろ大詰に入る。

京都を回るのもこの日が最後となる。

あと一日宿泊すれば地元に戻るのだ。


 琉嬉は少し疲れていた。

相次ぐ面倒事に悩まされる…それは他のふかしぎ部の面々も同じである。

ただ、元からあまり他人と関わる事が少なかった琉嬉にとって毎日一緒にいるクラスメイトやふかしぎ部の連中の賑やかさに

ついて行けなくなっていた。

宿でも深夜まで恋話やら何やら。

興味のない話まで聞かされてウンザリしていた。


(そう言えば…中学の頃の修学旅行ってどんな事してたっけな…)

 ふと、ぼんやりちょっと中学時代の頃を思い出そうとしていた。

(仲の良い友達なんていなかったよな…)


 この日は最後の自由行動。

琉嬉らはふかしぎ部と一緒に行動を再び開始していた。

「琉嬉ちゃん…大丈夫?眠たそうな顔してるけど?」

 護が琉嬉の顔を覗き込む。

「んー、たしかに眠いね。うん。眠い」

 若干頭がフラフラしている。

寝不足感が凄い。

「毎日同じ部屋の子のバカ騒ぎに付き合わされて参ってるよ」

「やっぱどこも同じだね~」

 頭の後ろの手を回して一緒に納得する護。

「元気出してくださいよ!琉嬉さん!」

 また必要以上に寧音がくっついてくる。

時々本気に百合っ気があるんじゃないかと思うくらいだ。

他のみんなは何も言わない。

いや、言えないのか、それともあえてスルーしてるのか。

真意は定かでじゃない。

ただ、小さな妹にでもじゃれあってるだけにも見える。

琉嬉と誰かが一緒にいれば姉妹にも見えてくる。


「今日はどうします?」

 まどかの一声でみんなが一斉に黙り込んで考えこむ。

「どーするたってなぁ…有名所は行っちまったしなぁ」

「そうやなぁ」

 龍翔が懐に手を入れる。

しかし。

「ねぇねぇ、京都っ子の叉羅沙さんなら何か知らないの?」

 護の急な振り。

「そう言われても…ウチが小さい頃に居ただけやから、名所とか知りまへん」

「えー。何のための京都弁なのさ~」

「無茶言わんで~。って、何気にウチ批判?!」

 困り顔する叉羅沙。

無理もない。

本当に小さい時にしか居なかったのだから。

「もうテキトーでいいんじゃない?無計画に進む。得意だろ?そういうの」

「琉嬉ちゃん…そういうのはみゆちゃんの十八番…」

「たしかに…」

 護の隣で一人頷く凛夢。

昔から知ってるだけあって大きく納得する。

「ま、それっぽい所を歩き回るのもいいな」

 龍翔が懐から取り出した何かの派手な色合いの紙。

観光名所が書かれた案内図だ。

「なんだよー、龍翔君~。そんなの持ってるのなら最初から出してよ~」

 愚痴る護。

「お前等が勝手に俺を無視して話を進めるからだろ。出そうと思ったら強引に話を進めたし」

「う、それはそうかもだけど…そうだったけ?てへ」

「当然だ」

 護を押しのけて琉嬉が龍翔の前へ出る。

そして龍翔の手から奪い取るように案内図を自分の手に取る。

「お、おい」

「フムー。なるほど…。結構行った所載ってるね」

「そりゃそうだろ。有名なのは載ってるもんだ」

「観光案内のですもんね」

 かと言って今更また同じ所を行く訳にもいかない。

再び行き先を詰まってしまう。


 そこで琉嬉が提案する。

「ね、みんな。こういうのはどう?」

 琉嬉の提案内容。

それは敢えて現代的な施設に行って現代的な楽しみ方をしようと。

「なんや伝統的な観光とちゃう気がするなぁ」

 京都出身の叉羅沙はいささか、複雑だ。

「なーに、これも現代京都の体感だよ」

 琉嬉の背では叉羅沙の肩に手を伸ばすのがやっとの姿勢。

無理矢理にぽんぽんっと軽く叩く。

「ま、いいんじゃないの?」

 後ろ頭をポリポリと掻きながら龍翔も納得する。

「そうですねぇ」

「いいのかよ…」

 凛夢だけは軽く納得出来てなかった。



 琉嬉らふかしぎ部メンバーは適当に街中を探索する。

ブラブラ…してる暇はない訳だが、取り敢えず有名な大型商業施設などに取り敢えず行く。

途中護や凛夢がナンパされたりして遠くから眺めては笑う他の部員達。

琉嬉は琉嬉でレトロショップを見つけてはゲームを漁る。

「なんか修学旅行って感じだよね~」

「いや、修学旅行だから」

 ビシッと護にツッコミをきちんと入れる琉嬉。

冴え渡る切れ味だ。

「あ、そっか。そうだよね。なんかお馴染のメンバーで回るとそんな感じしなくってさ」

「ふーむ。それもそうか」

 よくよく考えると以前みゆの計らいで温泉旅行した。

短い期間であったが。

それに似た感覚でデジャヴを感じていたようだ。

「いやー、しっかし…京都ですなぁ」

「駅前で何言ってるんだよ」

 どどんっと京都と書かれた看板。

それもそのはず。

京都駅に居るのだから。

「鞍光とはえらい違いだねぇ」

「人の多さが違いますね」

「…当たり前だろ」

「さて、ランチは如何なさいますかね?お嬢様達?」

 龍翔が駅に設置されている時計台を見ながら言う。

たまたまブラブラ歩いていて辿り着いた広場のような所だ。

そこにある時計のモニュメント。

待ち合わせでもしてるのだろうか。

モニュメント付近で携帯をいじりながら待ってる人らの姿がある。

「ときのあ…かり?うん。よく分からん」

 護が踏ん反りながら分からんと呟く。

「何やってんだあいつは…まあ放っておいて、何食べようか」

「お店いっぱいありますね」

「寧音は何か食べたいのある?」

「え?わ、私ですかっ?ええと…卵料理が好きです…」

「卵?いいねー」

 琉嬉は素早くスマホを取り出して調べ出す。

「卵料理店…と」

「あの…もしかして私の意見が即通ったとか…?」

「みたいですね」

 笑顔で返すまどか。

「ええな卵」

「私も依存ないわ」

「あ、あたしもー」

「俺も」

 見事に全員意見を合致。

「あはは、すみません。私の意見が…。いつも生徒会では通らないのに」

 なぜかチラっとまどかの方を見る。

「はて、なんのことやら~」

 目線を慌てて反らすまどかだった。




「美味しかったね」

「京都とは随分かけ離れた感あるけどね」

「…はふ…ウチ、満足…」

 うっとりする寧音。

しかも一人称が「ウチ」になっている。

「へー、寧音って自分の事ウチって言うんだ」

「はっ?!い、いえ…そんなコトありません!私は私ですよ!」

 眼鏡を取って汗を拭う。

顔も真っ赤っか。

「…もう遅いで。寧音ちゃん」

「あぅ…」

 頭を優しく撫でる叉羅沙。

「ま、無理もありませんよね。私達は田舎暮らしですから。方言出ても仕方ありませんよね」

「あぅ……」

「方言っていう程方言ないだろ…」

「そうですけどねぇ」

 悶える寧音を見る琉嬉。

何か面白い。

いちいちリアクションが大きい。

「寧音って…いつもキリッとしてて真面目で怖い印象あるけど…結構子供っぽいよね」

「あうあ~、やめてください…」

 後ろ向いて顔を隠す。

相当恥ずかしいようだ。

「そ、そう言う琉嬉さんだって自分の事「僕」って言ってるじゃないですか…女の子なのに」

「ん?ああ、僕の事?」

 ふと、自分の一人称について考える。

するとすぐ答えが出た。

「えーとね、これはうちの父さんの影響かな。

自分の事常に僕って言ってたから移っちゃったんだよね。

小さい頃からだからもう抜けなくなっちゃって」

「へぇ~」

 なぜか一人称について盛り上がる。

「やれやれ…で、次はどうするの?」

 凛夢が次の観光場所を聞く。

「次ねぇ……」


 結局由緒ある歴史的見物を見に行く事になった。

京都来たからには大昔からある歴史に触れる。

そういうのも重要だろうと。

「陰陽師と言えば…安倍晴明!なのでかの有名な神社へ行きましょう~」

 やけに乗り気のまどか。

「宮森家って陰陽師の家系だったけ…?」

「いいや。どっちかというとそちらの水無月家に近いんじゃないか?」

「…うちと?」

 凛夢が思わず自分に指をさして驚く。

「霊具を使いこなす…っていう部分がね」

「そうですね~」

 霊術名家もいろんな家系が居る。

五大家と基本的なのは変わらない。

たまたま、有名になる発祥の事案が違うからだ。

「ふぅん…」

 琉嬉が大きく頷く声。

「どったの?琉嬉ちゃん」

「いや…かつて術者が栄えた街だけあるなぁって…」

「そうやねぇ」

 通る人通る人、普通の恰好をしているが通常の者より大きな霊力を感じる者が混ざっている。

おそらく琉嬉らと同じ同業者がその辺を歩いてるようだ。

「…まぁ…、うちのお寺のお弟子さん達みたいな人らが沢山いるんだろうけど」

「霊術会も沢山人いますからね~。あ、そういえば京都の支部って何処にあるんでしたっけ?」

「……あんさん、ほんま霊術会名家の宮森家の人間か…?」

 呆れる叉羅沙だった。




 なんだかんだでかの有名な神社へ着く。

綺麗にされた神社回り。

由緒ある場所だと思った来たが、怪しげな雰囲気はあまり無さそうである。

「ま、観光名所となればこんなもんだろうね」

 琉嬉はあまり期待はしてなかったようだ。

「…あー、でもここの近くに……」

 叉羅沙が言葉を途中で濁す。

「どうせなら挨拶に行ってきます」

「へ?」

 まどかが突然別行動を取り出す。

その場の全員が呆気にとられる。

「どこ行くの?まどか。ここの神社に挨拶?」

「霊術会京都支部です」

「…近くに…あるの?」

 一瞬言葉を詰まらせる琉嬉。

叉羅沙の顔を伺うが、何も言わない。

「場所を思い出しました」

 ニッコリと微笑む。

そう言って足早に一人だけ違う方向へ歩いて行った。

その笑顔はいつも以上に裏がある気がしてならなかった。



「いいの?一人で行かせて?」

「ま、大丈夫だろ」

「そう…」

 少し心配そうにする凛夢。

寧音や護もだ。

「……なあ、琉嬉ちゃん。お前さん…どこら辺まで知ってるんだ?」

 琉嬉の隣に龍翔が近寄って小声で話しかけてくる。

薄っすらと龍翔の背後に遊希の姿も見える。

「んー?何の事?」

「しらばっくれちゃってまあ…」

 両ポケットに手を突っ込んで敢えて、琉嬉の顔を見ない。

「……知ってるのは宮森家が霊術会の会長の次ぐくらいの幹部だってコト。それだけ」

「…本当かねぇ」

「本当さ」

「何々?話の内容が良く分からない~」

 どうやら話について行けてないような護。

一番そういった組織に関わりのないからだ。

「霊術会の話ですよ。護さん」

 眼鏡のズレを直しながら寧音が護に話す。

こちらも関わりがない五大家のひとつの夜栄守家。

とはいえ、生徒会が名家出身のメンバーで構成されているので関わりがない訳でないのだが。

直接の関わりがないだけで、詳細などは寧音も知らない。


「……それにしても大丈夫なのかね」

 なんだかんだで不安になる龍翔。

茫然と立っているふかしぎ部達。

「叉羅沙、行きたいんなら行っておいで」

 お尻を少し強めにパンッと平手で叩く琉嬉。

「ちょ、琉嬉ちゃん何するん?!」

 急にお尻を叩かれて驚く。

琉嬉は珍しくニヤついてこう言う。

「自分がかつて居た「場所」でしょ?顔出すのもありじゃない?」

「…………まったく。琉嬉ちゃん…ホンマ、どこまで知ってるん?」

「あれ?鎌かけただけなんだけど?」

「…ホンマ敵に回したくない子やな…琉嬉ちゃんて」



「いいのか?結局少しバラけちまったけど」

「いいんじゃない?」

「…いい性格してるよ。お前さんは」

 叉羅沙はまどかを追いかけるようにしてその場から出て行った。

「叉羅沙が霊術会に居たって事…知ってたのか?」

「いんや、知らない」

「それにしては知ってた風な言い方してたわよね?」

 相変わらず琉嬉だけは冷たい目で見る凛夢。

「ちょこっとだけ調べたんだよね」

 片目瞑って右手て小さく摘まむ形を作る。

「ちょこっとだけ?」

「そ。霊術会名家を中心にね」


 琉嬉が言うには名家を調べればある程度分かる…との事だ。

実力も高く昔から続く家系。

まどかの宮森家や龍翔の加賀家らが当てはまる。

「例えばさ、宮森、加賀、鳴神、そして桜月」

 桜月…という男につい最近会った。

その男が今のトップ。

「他にもさ、御衣木みそぎとか灯唱ひとなえとかあるらしいんだけどさ」

「みそぎ?!」

 護が突然大声で反応した。

「ど、どしたんですか?」

「あ、いや…なんでもないよ…ほら、続けて続けて」

「………まあいいや。その名家を調べても叉羅沙の苗字の城樹…は出てこなかった」

「へぇ…」

 龍翔が納得したように関心する。

「でもね。父さん情報によると、若くて背の高い腕の立つ女の子が居たって」

「それが、叉羅沙さんですか?」

「サラサ…って名前だけしか通ってなかったらしいね。苗字は本名かどうかも怪しいけどね」

「ふぅむ……。言われてみれば、な」

「そもそも名家出身でもない人物がそれだけ名声があるっていうのは…珍しい話らしいけどね」

 観光案内図を見ながら喋る琉嬉。

もはや神社には興味がないようだ素振りだ。


 よく考えたら生徒会として働いてる龍翔や寧音も叉羅沙の素性はよく知らない。

龍翔に至っては霊術会に属してながらも、叉羅沙の霊術会時代は知らないし、どういう理由でこちらに来たのかも不明だ。

「あんまり深く叉羅沙の事について考えた事もないし、話し合った事もねえなぁ」

「でしょ?」

「…今度腹を割って深く話し合いましょうか?」

 なぜかワクワク気分の寧音。

「いずれその日を来るのを期待して…寧音も自分の事を話してもらうよ」

「ええぇっ?!」

 残った琉嬉達は神社を少し見終えた後、街中へ戻る。




 神社からそう遠くない場所。

まどかは霊術会の京都支部になたる場所へやって来ていた。

狭い路地。

こじんまりとしたビルが並ぶ一画の中、変哲のないビル。

古そうである。

30年以上前からありそうな、作りが古いビル。

そこへ一人の女子高生が入っていく不可解な場面。

まどかは臆することもなく入って行った。


「どなたです?」

 ビルの警備兼受付室に居座る男性。

まどかの存在に気づき声をかける。

どこかの暴力団でも居そうな雰囲気。

「あ、どうも。しがない高校生です」

 悪びれる感じもなく笑顔のまま。

「…あのねぇ。学生さんでしょ?許可なく入られたら困るんですけどね?」

「うふふ。すみませんねぇ。ちょっとご挨拶しに来ただけなんですけど」

「だから、君は誰?」

「あ、申し訳ありません。私は鞍光高校生徒会長、宮森まどかと申します」

「宮森…?」

 男性は「宮森」という名前に気づいた。

「もしかして…議長の宮森家の…?!」

「はいぃ」

 柔らかな声で返事をする。

「え、と…今日はどのような要件で?」

 途端に態度を変える。

それだけまどか…宮森家の力は霊術会の中では強力のようだ。

「ええと…灯唱さん…いらっしゃいますか?」

「ああ、ええ…いますが…」

「少しだけお話させてください」

 見えないプレッシャーが男性を襲う。

有無言わさず、結局通す事になった。



「んー、いっつもゆっくり喋るくせして行動は早いんやから…まどかは」

 すっかり見失った。

護や寧音のような目立つ風貌でないので、人混みなどに紛れたら余計に分からなくなる。

ましてや叉羅沙は背が高いので逆に目立つ。

「さて…どうしよっか~…」

 幼い頃の記憶を頼りに霊術会の場所を目指す。

(こればっかりは琉嬉ちゃんも分からんだろうし…龍翔はんもあてにならんからな)

 住んでる地域とは全く違う。

土地勘がない……といえばないが、以前ちょくちょく来ていた場所ではある。

それは叉羅沙が中学生の頃までの話。

(…なんとなく見た覚えはあるんけどな…)

 キョロキョロ見回す。

見覚えのある建物を見つける。

そこから記憶を頼りに歩き進む。


 だんだんかなり見覚えのある路地裏になって行く。

「あ、ここやなぁ」

 あっさりと辿り着いた場所。

そこは先程まどかが入って行ったビルと同じだ。

「勝手に入ってええんやろか?」

 さすがに少し躊躇する。

例えば、なんらかの事件…ふかしぎな事件であれば強引にでも入るのだが、今回は違う。

ただまどかを追って来て、霊術会の方へやって来ただけだからだ。

「…一応霊術会OGって事でええやろ」

 無理矢理に解釈させて入る。



「どなたです?」

「あー、鈴田はんおまへん」

「…は?もしや……お前…叉羅沙……か?」

「そうどす。お久しぶり」

「…どういう事だ…?先程宮森家のお嬢さんも来たし…」

「あ、やっぱりまどか来とったんな」

「…どういう意味だ?」

 叉羅沙は鈴田と呼ばれる男に軽く事情を説明した。


「なるほどな…ま、今は関係ないだろうが、通るといい」

「場所はなんも変わってへんの?」

「変わってないよ。今更何しに戻って来た?」

「なぁに、ただの修学旅行どす。おおきに」

 そう言って大きなツインポニーテールをなびかせてエレベーターに乗り込む。

「…今日は厄介な日だな…」

 鈴田は変な汗を拭いながら、警備受付室の椅子に座るのだった。



 コンコンとドアをノックする。

「まどかー、いるんやろー?」

「はぁい」

 気の抜ける返事がドアの奥から聞こえてくる。

「開けるえー」

 躊躇せずに開ける。

すると、まどかの姿がまず目に入り、対峙するように椅子に座る40代くらいの男性。

まどかは応接のためのような所の椅子に座っている。

「あらまぁ、灯唱さんお久しぶりどす」

「……案外早いお帰りだったね」

 そう言って男性は立ち上がる。

少し長めの髪を七三分けにしている。

黒を基調としたスーツ姿。

ネクタイの色が黄色や緑やら奇抜な柄をしている。

「相変わらず変なネクタイしてるわぁ、ほんま」

「そうかい?僕は好きなんだけどね」

「さすがにフレンドリーですね」

「そら、まぁな。お世話になったんやし」

 変なわだかまりは無さそうな雰囲気。

まどかはニコニコしたまま。

(…何か裏がありそうですね……)

 と言いつつ、少し警戒するような心構えをする。


「で、まどかはなんでここに来たん?」

「挨拶ですよ。一度だけお会いした事ありまして」

「そうだったね。こちらこそお世話になってるよ」

「頻繁に会うんですか?」

「ひと月に何回か…な。一か月に一回は会議が行われるんだ。ここ最近…ね」

 含みある笑顔を見せる。

ここ最近行われる会議。

それだけ何かが動いてるようだ。

「そういえば…会長が交代なさられたようで」

「あれ、詳しい話聞いてないのか?」

「ええ。所詮田舎ですから。鞍光は」

「はは、そうかい」

(まーた、まどかは適当に話合わせて…得意なやっちゃ)

 叉羅沙はなんとなくまどかの会話術を察していた。


 腹の探り合い…のように、軽い会話が弾む。

家の事。

今の霊術会の事。

などなど。

「そそ、会長さんがどうやら五大家の彼方家と接触を試みたそうですね」

「…耳が早いね…、いや、耳が鋭いとでも言うのかな。よく知ってるね」

「こう見えても宮森ですから」

「はは、そうだったね」

「…琉嬉ちゃんの事?」

 叉羅沙が思わず口に出す。

琉嬉の名前。

「そうそう、ルキ…って言ったかな?彼方家の人間らしいけど本家じゃないらしいね。梓葉が言っていたよ」

「梓葉?ああ、会長はんの事か」

 桜月梓葉。

現在の霊術会の会長である。

琉嬉が以前偶然に出会った。

「可愛らしいお嬢さんだったそうで。君達と同じ学校に通ってるんだってな」

「そうですね。それはもう…私達も驚きました。はい」

(これは本音やな)

 まどかがポケットから出したペットボトル。

炭酸の黒いジュースだ。

「さて、で、本題に入ろうか?」

 ドカッと椅子に座る灯唱と呼ばれる男性。

テーブルに手を置き、何やらメモのようなものを書き出す。

何かの書類なのだろうか。

「…組織。なんらかの組織が動き出してる。そう判断してよろしいのですか?」

 ストレートに聞くまどか。

笑顔をやめて、真剣な表情に変わる。

「大きな情報は一切ないんだがな。でも何らかの組織めいたものが動き出してるのが確かだ」

「ほぅ」

 叉羅沙も腕を組んで、壁にもたれかかる様に姿勢を崩す。


「最近妙に、霊具を使った事件が多発している」

「霊具で?」

「そう。全国的…とは言わないが、確認出来てるのは主要都市だな」

「…なるほど…。それを仕様しているのが組織の可能性ていうのも…?」

「そう睨んでいる」

 叉羅沙はある事に気づいた。

(そういや…みゆちゃん達が悠飛君達と変な殺人事件に関わった時、妙な御札があったとか言っとったな。

もしかして……?

いやいや、深く考え過ぎか)

 いろんな考えが過ってくる。

(もしかして琉嬉ちゃんってこんな事をいつも抱えて考え巡らせてるんやろか…)

 一人明後日の方向を向いて頭をぷるぷる動かしたりしている。

「…叉羅沙は何をしてるんだ?」

「ハッ?あ、いや、何でもあらへん」

「うふふ、叉羅沙さん…たまにトリップしますよね」

「人聞きの悪いコト言うんやないっ!ほら、話進めておくれやす」

「まぁ、いい。現状はほとんど情報がない。我々は警察ではないからな。調査するにも時間がかかるんだ」

 胸ポケットから煙草を取り出す。

そして火をつける。

「失礼」

「いいえ、お構いなく」

 ふぅっと一息をつき、会話を続ける。


「大きく解かった事は…この京都の妖怪に気を付ける事…だな。特に半妖…に」

「……そうですね。肝に銘じます」

 にっこりと微笑む。

「半妖……どすか。(はは、あの猫妖怪……もう知られてるんかな?霊術会に)」




 あまり長居する事も出来ないので、二人はビルから出るため、まどかは立ち上がる。

「さて、戻りましょうか」

 スカートのしわを綺麗にして、制服を直す。

「叉羅沙」

 灯唱が叉羅沙を呼び止める。

「はい?」

「……今の生活は楽しいのかね」

「そりゃぁ…霊術会にお世話になっとった時代よりかは自由にさせてもろてます」

「…………そうか。若い君達にはその方がいいのかもしれんな」

「おおきに」


 叉羅沙は先に部屋から出て行く。

少し遅れてまどかも部屋から出ようとした時。

くるっと振り返る。

「…あ、ひとつ、よろしいですか?」

「ん?」

「……あんまり、尾行をくっつけるのはよろしくありませんよ?せっかくの修学旅行。

台無しにされたくないですからね」

 人差し指を口の前に出して、小さく言う。

「…驚いたな」

 驚いたという割にはあまり表情を変えず。

「気づいてたのか」

 灯唱が指示をしていたようだ。

「ま、それだけで台無しになるようならいいんですけどね…」

「…正直、今の状況をどこまで知ってるんだい?」

「いえ、私は全然ですよ?そこら辺は彼方…琉嬉さんの方が鋭いと思います」

 そう言うと今度はまどかが叉羅沙を追いかけるような形で足早に出て行く。

「…何話してたん?」

「いえ、また会う機会あればよろしくと」

「…嘘くさいな」

 声がどんどん小さくなっていく。

灯唱は黙って二人の様子を見守る。

そして携帯を取り出し、誰かに連絡をする。

「……フフフ。面白い子達だ。ああ、山城君。

「至急追尾はもうお終いだと伝えておいてくれ。

ああ、そうだ。うむ。よろしく頼む」

 通話を終え、また煙草を一本取り出す。

(…さすがは宮森家のご子女。その子を持ってして、凄いと言わせる彼方琉嬉という五大家の一族の子…。

梓葉が興味抱くのも分かる気がする)

 クックックと低い笑い声を出しながら部屋中へ戻って行った。




「お帰りー」

 護が腑抜けた声でまどかと叉羅沙と合流する。

時刻は夕方の4時頃。

場所は大きな公園。

観光客で溢れている。

待ち合わせしやすいように有名な公園にしたのだ。

「あれ、他の方達は?」

「ん。あっち」

 親指で示した方向。

公園の奥のベンチで人目憚らず、ぐったりと寝ている寧音。

その寧音を膝枕している琉嬉。

そして琉嬉の隣に寄り掛かって寝ている凛夢。

龍翔の姿はない。

「龍翔さんは?」

「ん~、冷たい飲み物買ってくるって言って、どっか行っちゃった」

「はぁ…」

「どうしたんや?あの子ら…」

「…あんまり寝てないから疲れて寝ちゃったみたい」

 その護はなぜか不機嫌気味。

「…護はん…なんかあった?」

「聞かないで…」


「ハッハッハ。護が面白いくらいナンパされるんだよな」

 笑いながら説明する。

「ほーぅ…そうなんや~」

 にやつく叉羅沙。

隣で同じようにニコニコして話を聞いているまどか。

「外人のフリしたらみんな避けていくけどね」

 ふくれっ面のまま。

それだけ面倒だったようだ。

「しっかしまぁ…五大家の皆さんはお気楽やね」

「霊術名家とは関係ないしな。実際五大家同士の組織めいた繋がりないだろうし」

「そうですよね」

「さて、帰ろうか。そろそろ集合場所に行かないと怒られるぞ」

 みんなの鞄を龍翔や叉羅沙が拾い持ち上げる。

「琉嬉ちゃん起きる気配なし」

「じゃ、護さん宜しくお願いしますね」

「へ?」

 まどかが琉嬉をお姫様抱っこするように軽く持ち上げ、護に渡す。

「いやいやいや、どういう意味?」

「そのまま抱えて行けばいいだろ?」

 龍翔が冷たくあしらう。

「…はぁー?!」




「気づいたら集合場所に居た。」

 普段眠たそうな目つきを大きく見開いている。

琉嬉は目を覚ました。

まったく見覚えのない、場所。

クラスメイトの顔が見える。

凛夢は琉嬉の方を見ないで後ろ向けて小刻みに揺れている。

おそらく笑っているのだろう。

堪えるのに必死そうだ。

「彼方さん。よく眠れた?」

「…はぇ?」

 担任の桜川先生。

琉嬉の前で仁王立ちするかのように腕を組んで立っている。

「あ、ども」

「ども、じゃない。こら」

 ほっぺを軽くつねられる。

「いたひ…」

「別のクラスの子に抱きかかえられながらやってきて何かあったのかと思っただろ」

「ああ、そういう意味ですか…」

「寝てただけじゃないか」

「…それは…あいつらのせいで…」

 琉嬉があっさりとゆうやみなっち達を指さして犯人扱いする。

「どういう事だ?」

「寝させてくれませんでした」

「ほーう…」

 桜川先生の恐るべきオーラゆう達に向けられる。

「ちょ…琉嬉ちゃん~ひどい~!」

「お前等~」


「相変わらず琉嬉ちゃんのクラスは賑やかだなぁ…ふわぁ」

 護も眠たそうに大きな欠伸をするのだった。




 ホテルに着いてしばらく自由行動。

そしてそこでも結局ふかしぎ部が集まってしまう。

姿がないのは凛夢くらい。

人目があまり触れない端っこの広場。

「…で、何を話してきたんだ?」

「早速やなぁ龍翔君」

「駄目かよ?」

「特別な話はしてませんよ。ほんの、挨拶程度です」

 ズズッとまたもやジュースを飲むまどか。

今度は缶タイプで同じような炭酸飲料だ。

「挨拶って。それだけで結構時間かかったんじゃね?」

「そうですよー。待ちくたびれて寝ちゃったじゃないですか。ね?琉嬉さん?」

「なんでこっちに振る」

 楽しそうに言う寧音とは対照的に琉嬉はまだ不機嫌だった。

「ま、本心は聞けへんかったんけどな。組織めいたものがあるのは確かのようやな」

「組織ねぇ…。あの猫妖怪とか関係あるのかな?」

「どうかな」

 具体的な詳しい話は聞けなかった。

「…ただ本当に知らないだけかもしれませんけどね。うふふ」

 そこでなぜか笑うまどか。

「ふぅん……。桜月っていう人も詳しい情報はないって言ってたなぁ…。知らないフリする理由もないだろうしね」

「それもそうですよね。協力をしてもらおうと来てたんですよね?」

「だとしたら知ってる情報を教えてくれたっていいのに」

「本当に知らないだけかもな」

 どこから持ってきたのか。

龍翔の手元には白い袋が。

その袋の中から焼き鳥が出て来た。

しかもあったかい。

「どっから持って来たの?」

「遊希に頼んでホテル外のお店から買って来て貰ったんだ」

「…まじか。てか妖怪なのに人間の前に出て大丈夫なのか」

「大丈夫大丈夫。こんなホテル街で着物姿の女性が居ても不自然じゃないだろ?」

「そう言われてみれば…」

 琉嬉達も浴衣姿。

旅館などに居る女将や仲居なども和服が多いので違和感がないのかもしれない。

「その遊希さんとやらは?」

 琉嬉が龍翔の中心に見回しても姿がや霊気が強く感じられない。

「今は居ないぜ。こっそり空いてる部屋に居てもらって申し訳ないが一人で焼き鳥食べてもらっている」

「ありゃりゃ、残念だねー。仕方ないか」

「気配消して他の人間に視えないようにすれば?」

「視えないままの状態で食べてる所見られたらヤバイだろ?」

「あ、そっか」

 考えが回らない相変わらずの護。


「そのうちみゆがまた旅行に行こうとか言って誘ってくるだろうし、その時に遊希さんにも楽しんでもらえばいいんじゃないの」

 琉嬉が可愛らしく焼き鳥に食いついている。

「あ、私も頂ますね」

 寧音も素早く一本を手に取る。

「ウチもいただきまーす」

「じゃ、私も」

 遠慮なしのふかしぎ部達。

「遠慮ねえなぁ…」

 買って来た本人目の前にしてバクバク食べだす面々。

龍翔も混ざる。

串を一口つけた時、琉嬉が上の空状態になってるのに気づく。

「…どうした?琉嬉ちゃん」

「……んー。別に」

 食べ終えて何もついてない串を口に入れたまま。

何か考えてるのに間違いないといった表情だ。

「あの猫妖怪の事ですか?」

「まどか…。まーね」

「あの強さは半端ありませんでしたねぇ」

 ズズッとジュースの飲みながら会話続ける。

「そっちこそ、どうだったんだ?話を蒸し返すようだけど」

「特に進展ありませんよ」

「…どうだか」

「本当ですぅ」


「…あの二人からドス黒い霊気を感じます…」

 寧音が引くくらい、ふかしぎ部二大巨頭の謎のぶつかり合い。

「それはそうと、叉羅沙って霊術会の京都に在籍してたの?」

 琉嬉は無理矢理話題を叉羅沙に振った。

「居たのは事実やな」

「でも先日京都に居たのは5歳くらいまでだったって…」

「それも事実。住んでたのは5歳くらいまでで、その後はフラフラいろんな所回ってた」

「へぇ…。一応霊術会は京都支部に在籍してたってだけなのかな?」

「そやな。一年に一度くらいの割合で来てたで」

 琉嬉はふと、まどかの顔を一瞬見る。

まどかはそれを知ってるのか知らないのか。

話題に入ろうとはせずに黙って笑顔で聞いている。

「へー。随分複雑な人生を送ってらっしゃる」

「そんな大層な事やあらへんで」

 苦笑いしながら答える。


 パンパンッ唐突に手を叩く音が響く。

「さてさて、戻りますかね」

 話をぶった切る勢いで龍翔がお開きの合図をする。

「そやな。そろそろ戻らな」

 一旦戻って、生徒が全員居るか確認する時間がある。

それに戻らないといけない。

「凛夢ちゃんの分はどうする?」

 余った焼き鳥を護が両手で持っている。

4本程だ。

「あー、僕が持って行ってやるよ」

「じゃ、よろしく~」

 手渡す。

そしてその場は解散となる。



 時刻は夜の九時前。

「ふあぁ…ねむっ……」

 目をこすりながら部屋に戻る。

今回は大部屋。

6から8人くらい泊まれる大きな部屋だ。

琉嬉は凛夢とも同室となっている。

「…なんだ人形娘か」

「誰が人形だ。はい、死神娘」

「何これ?」

 袋パックごと不愛想に渡す。

「冷えちゃったけどね。龍翔君…ていうか遊希さんが買ってきてくれた焼き鳥だって」

「焼き鳥って…」

「他のみんなは?」

「風呂」

「あー、お風呂か…僕もお風呂行こう」

「こんなギリギリに?」

 就寝時間は一応決められている。

それまでに寝る準備しないと見回りの教師がやってくる。

「歩き回って疲れたよ」

 小さくぼやくとさっさと部屋を出て行ってしまった。


(やれやれ……)

 凛夢はぼふっと布団の上に寝っ転がる。

自身の携帯を起動させ、画面と睨めっこ。

「………」

 連絡相手の数はかなり少ない。

同じ五大家で遠い親戚筋にあたるみゆを中心に、琉嬉らふかしぎ部メンバー。

そして住まわせてもらっている親戚の自宅。

(転校ばっかりしてれば友達も作れんわな…)

 今回もいつまで居れるか分からない。

そろそろ自分の意志で留まりたい。

そう考えていたら眠気が襲って来た。




 夢の中。

そう。

寝ていても確信が出来るくらい、夢の中だ。


真っ白い、雪景色。

古い家屋。

和風の大きな家。

これは自分の住んでいた場所だ。

「似たような夢…」

 凛夢の記憶の中にある家だ。

今は住んでいない。

数年前。

この家に住んでいた。

「…あ、れ?」

 目が覚めた。

深い眠りにはついてなかったようだ。

部屋の明かりはまだついている。

携帯の時間を確認する。

(…まだ10時……)

 携帯にはメールが入っていた。

「誰だ…」

 メールは護からだった。

メールを開く。

「……いいのかしらね。これって」

 内容を見るや否や、立ち上がる。

「楽しそうね…」




 パラパラと同室の生徒達が戻ってくる。

琉嬉も戻ってくるが制服姿のままだ。

「さて、ねよねよ」

「そうだね~」

「そうしようー」

 するとテキパキと準備して寝る準備を終わらせる。

「ねえ。人形娘」

「何?」

「あんたどうするの?」

「何が?」

「何がって…連絡来てないの?護さんから」

「来てないけど?」

「…そう」

 琉嬉はまだ何も知らないようだ。

後で連絡でも来るのだろう。

そう思ってここでは何も言わなかった。

「変なの」

(……まだ終わらない気がするわね…)


 凛夢は変な不安を抱きながら、寝るふりをした。



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