#39 祠の銀猫
琉嬉はいろいろと気にしていた。
叉羅沙が言っていた二人組み。
そして、源聖樹が言っていた組織。
以前会った霊術会のトップ、桜月の話の内容。
いずれも一致する部分がある。
もしかして、源の言う組織とは、半妖の連中の事なのか…?
そもそも、レアな存在の半妖が組織を作れるほどの大勢いるのだろうか?
何か裏があるに違いない。
琉嬉にはそう思えるのだ。
疑問が残る。
琉嬉の家も日本霊術会に入ってる訳ではないのにしろ、いろんな情報は入ってくる。
会に属してなくても大きな力を持つ五大家のひとつの一族でもあるから。
そんな事あれこれ、考えながらいつのまにか夢の世界へ旅立っていたのだ。
………。
目が覚める。
朝、時刻は7時。
部屋の凛夢やみなっち、ゆうはまだ寝てた。
出発は9時。
その時間にはロビーから出てバスが待機している駐車場で集合となる。
移動となり、また別のホテルに移動となる。
まだ一時間あるとはいえ、準備するには時間がかかるものだ。
ましてや、年頃の女の子。
それを見越してるのかしてないのか。
まだ熟睡モードのみんな。
「……大丈夫なのか…コイツら…」
あえて、無視して準備に取り掛かる琉嬉。
「ふ、む…」
別室。
時刻は7時。
琉嬉が起きた同じ時間に目が覚める叉羅沙。
「あら、おはようございます」
既に起きていたまどか。
しっかりと制服も着ている。
「おはよーさん…。ふあー…」
細い目がまだ開ききらない。
その様子を見てニコニコしてるまどか。
「…まどか。何時から起きてるん?」
「……4時くらいに起きたんですけど、まだ時間あるので二度寝しちゃいました。
結局起きたのは5時半くらいですかね」
「…そう、なんや…。(早…)」
まるでご年配のような早起き。
いつも一緒にいるが、疲れてるような顔は一切見せないタイプ。
なんだかんだで凄い人物なのだろう。
だから、生徒会長としているし、叉羅沙もそれに惹かれて生徒会として一緒に参加している。
「しっかし…早起きやなあ…」
「フフ。これも生徒みんなのリーダーたるもの。これくらいしないといけませんよ」
「……そか~……」
なんだか分かるような分からないような。
なんとなく納得する。
「うっしゃー!今日もハリキって、回るぞー!!」
「ハイハイ…。元気だね…」
護のテンションは早くも全開。
それについていくだけで精一杯の琉嬉や凛夢のローテンション組み。
「どうしました?叉羅沙さん。浮かない顔して」
まどかが叉羅沙の表情を心配する。
何か、こう、不安そうな顔をしている。
「叉羅沙さん?」
「あ、な、何?」
「何か心配事でも?」
「………」
一瞬、無言になる。
だが、すぐ返答する。
「いやな、この機会に昔住んでた場所へと行こうかなとか…思ったりして」
「おー、それいいねぇ~。叉羅沙さんが住んでとこ少し気になるね」
「ふむ…」
「あ、いえ、決して無理して行く事なんかないって…。ウチが一人で行こうと思ってたし」
そこで、みんな集まって何やら相談し始める。
(どうする…?この際叉羅沙さんの秘密暴くのもありじゃない?)
(…それもそうだね…僕も気になってたし)
(実はぁ、私も叉羅沙さんの事よく知らないんですよ。ハンターサラサって言われてる事しか)
(……私は別にどうでもいいんだけど…)
(気になる事を追いかけてこそふかしぎ部じゃないんですか?)
(じゃ、とりあえず叉羅沙の話に乗る?)
(そうしようか~)
「って、事で、まずは叉羅沙旧宅へ行く事にしよう~」
「………全部聞こえてたんやけど……」
そして、結局叉羅沙の昔住んでいた場所も選択肢に急遽入った。
午前中は予め回るコースなどを決めて回る。
3時間くらいもあれば、結構回れるものだ。
それだけで普通は少々クタクタになってくるが、常人ではない彼女らはまだ元気だ。
「んで、叉羅沙の住んでた場所ってどこ?」
「……この町なんやけど…30分くらいかかるんかな」
「よーし、ここね。ささ、行こう行こう!」
電車で行く事20分、30分だろうか。
それくらいかかると叉羅沙は言う。
さすがに、10年以上前とはいえ、昔住んでいた地域には強い。
メンバーは変なワクワク感を覚えながら電車に乗り込む。
「ま、平日だから、この時間は人少ないね」
「そやな」
電車に揺られる事20分。
叉羅沙が幼少時代に過ごした町が見えてくる。
当の本人は別段、嬉しそうな顔はしていない。
むしろ微妙……というか、不安そうな顔だ。
「さーらさ、どうしたの?」
「……あー、いや…。懐かしいというか、なんというか…」
上手く答えられない。
「ま、記憶があるのかどうかくらいの曖昧な年だったんでしょ。そんなもんよね」
しれっと言い放つ凛夢。
「まーったく…。冷たいねぇ。凛夢ちゃん」
「………いや、別にそういう意味で言った訳じゃ…」
「アハハ、冗談だよ」
「ハイハイ。話してるうちに着きましたよ」
電車が緩やかにブレーキをかけ、停車する。
ぱらぱらとほかの乗客も降りる中、琉嬉らもそれに混ざって降りる。
駅を出ると、琉嬉らが住んでいる街よりは都会的な場所だ。
「さぁて、着きましたよ、と」
まるで小さな子供のように、駅の階段からポンっと飛び降りる護。
「久しぶりやなぁ…」
「しかし……霊力が高い町だね」
早速琉嬉が何かを感じている。
「そやろ?こんな町で幼い時に居れば能力もつくえ」
「なるほどねぇ」
なんとなく、叉羅沙が進む方向へついていく一行。
10年経てばある程度店舗やら、家やらが変化する。
ましてや、過疎化じゃなく、人口が増えている地域らしい。
住みやすい町なのだろう。
「叉羅沙~。叉羅沙が住んでた家とかあるの?」
「家…か。どうやろな~。残ってるんかな」
「家って一軒家?それともマンションとかそういうの?」
「一軒家…まぁ一軒家やな」
ちょこちょこ他愛のない話をしながら進む。
「………??」
琉嬉だけ目の前に見えてきた神社に目線を止める。
他のみんなは大して気にもしない。
(なんだ?この微量の妖気は…。今までとちょっと違う感じが…)
至る所に感じる妖怪の気配。
逆に慣れてしまって多少の妖気は無視する傾向になってしまっている。
それでも、一際感知力が高い琉嬉は異質なモノだと気になってしまう。
(………うーん…)
ここは団体行動の事を考え、あえて無視する事にした。
「あー、ここら辺や~。懐かしいなぁ~」
「どれが叉羅沙さんの家?」
「もう少しでみえてくるえ」
ちょっと進むと大きめの、塀に囲まれた家が出てくる。
そこらその辺の家とは違う。
少し古そうでもある、金持ちが住んでそうな家。
「おー、これが叉羅沙さんの家?」
「んー、まー、そやね…。今は誰も住んでいまへん」
「え?なんで?」
「まぁー、いろいろあってなあ」
きっと辛い過去でもあるのだろう。
みんながみんなそう思って、あえて突っ込んだ事を聞かない。
それも、みんなが辛い過去を持っているからこそ。
それを察して聞かないのだ。
「中には入れないの?」
「……一応鍵はあるけど…どうしよっか」
「せっかくだから入ろうぜ~」
楽しそうに護は門の前まで来て奥の玄関入り口まで進んでいく。
「早っ!」
素早い護。
伊達に前衛タイプをやっていない。
スピードが命。
「ちょいちょい、叉羅沙さん」
「ん?」
少しとぼけた様な表情の叉羅沙。
それにまどかがちょっと気にかける。
「叉羅沙さん…10年も前の住んでた鍵なんて、よく持ってましたね」
コソっと聞いてみる。
「あー、いつか戻るかもしれへん…ってコトで、ウチの父親が渡してくれたんや」
「ふむ……」
一体どういう経緯で叉羅沙が生きてきたのか。
まどかすら分からない。
だが、今、少し垣間見えるような気がした。
「お邪魔しまぁーす……」
おそるおそる、家の中へ入る。
お世辞にも綺麗…とは言い難い、埃まみれに蜘蛛の巣だらけ。
外観からは分からなかったが、中はなんだか廃墟寸前のような状態だ。
「……これ、手入れとかされてないの?」
「なーんもされてへん。一応管理者としてウチの親の名義やけどな」
「そうなの?」
10年も手付かずの家。
家具など物がそのまま残されている。
しかし、あれこれ埃だらけ。
空気が物凄く悪そうである。
「ちょっと……これは、廃屋と変わらないじゃん…」
ゲホゲホしながら琉嬉がぼやく。
「そやなぁ。はは、懐かしいわ。幼稚園の頃までやったしな」
「ふーん……。みゆが好きそうな所だな」
まどかはガサゴソ、その辺の物をいじくりまわす。
「あの…まどかはん?何してるん?」
「いえいえ、叉羅沙さんの幼少の頃の写真とかないかな~と」
「……そういうのは残ってへんと思う。大切なもんは全て今の家にありますて」
「あ、そうなんですか。残念」
そんなまどかの行動を見る他のメンバー。
ちょっと引き気味だった。
叉羅沙が入った部屋。
どこの部屋も見覚え…というより、住んでた訳だから覚えてるのは当たり前。
「…何も変わってへんなぁ…。皮肉にも修学旅行で帰ってくるなんてな」
他にみんなは遠目で見ている。
「少し一人にしてあげようか」
「そうだね」
「ここも……。ここも…。何も変わらへん…。……………」
とある部屋。
叉羅沙は何かに思いふけっている。
「……そっかー…。あれから10年経ってるもんなぁ…」
そのまま5分くらいだっただろうか。
ふいに後ろから琉嬉が思い切って声をかける。
「叉羅沙。差し支えない程度でいいけど、何かここであったの?」
「……何か…。うん。まあ。そやな」
「言いたくないんなら別にいいけどさ。叉羅沙には申し訳ないけどあまり長居してる時間もないし…」
少し厳しいようだが、あまり長居するのも他の人に見られたら面倒かもしれない。
そう考える琉嬉。
部屋に掛かってる部屋時計。
しかし、時間は止まったまま。
時計の針は大体、2時40分くらいで止まっている。
今の時刻は昼の2時20分くらい。
奇しくも近い時間帯だった。
「このメンバーなら大丈夫か」
「…?」
「簡単に言うと、ここで、妖怪に襲われた」
「………そう」
「ウチの父親が霊感があってな。そういう類のをよく遭遇してたんけどな。
ついつい深入りしもて、家の中まで憑いてこられて…」
「……マジか」
凛夢が聞くのが嫌そうに言う。
「…祓える力はなかったの?」
「うん。霊感あるだけ、至って普通の人間や」
普通の人間。
叉羅沙の家系は大きな力を持っている家系ではないようだ。
「……え?でも叉羅沙自身はそういう力あるじゃん…」
「素質はあったんと思うよ。元から。霊力の高さは遺伝やし。じいさんとかも霊感高かったし」
「へぇ…」
「ま、独学で学ぶのも難しいし、思い切って霊術会に入ったんよ」
「霊術会に在籍してたのは私も知ってます」
さすがに、そこからはまどかも知っているようだった。
「ちょいと、やりすぎて、クビになってなぁ…アハハ」
「やりすぎって…どれくらい?」
護が興味津々に食いつく。
アンダーグラウンドなコトなら護もやっている。
「そん時は、妖怪が憎くて憎くてしゃあないから、ちょいと始末しすぎたんやな」
「……だから、ハンターサラサ…?」
「かもなぁ」
叉羅沙自身は異名を大した気にしてないが、「ハンターサラサ」という異名は妖怪を沢山始末した…。
まさにその通りであった。
年もまだ若いのにも関わらず、妖怪には容赦ない程だった。
もちろん、妖怪相手だけでもないが。
時には、人間…。
それほどの腕前。
実際、一度手合わせた琉嬉も分かる。
いつも叉羅沙はにこにこした笑顔だが、裏の顔はまさに、戦士だ。
「…まどか」
小声で琉嬉がまどかの名を呼ぶ。
「ええ」
小さく頷く。
まどかは叉羅沙の霊術会時代の事は少しだけ知っている。
敢えて何も言わなくとも琉嬉には伝わった。
「ほらほら、ウチの話はええ!他行こ行こ!」
ちょっと照れくさそうにその場から出て行く。
「まどか…、叉羅沙の事知ってたの?」
いつも仲良さそうにしてるまどか。
過去の事を知ってるのではないだろうかと思い、琉嬉が訪ねる。
「んー、知ってると言っても、日本霊術会に居たって事くらいしか知りません。
第一、今のように「祓い人」になった理由とか全然知りませんでしたし。
ただ、やたらと強くて凄く多く数を倒したていう「サラサ」っていう名前の人が居たのは子供ながら聞いてましたよ」
さらっと言いのける。
「ふぅん。そっか。じゃ、今始めて知ったんだ」
「そうですねぇ」
「……本当に?アンタ、どうも信用しづらいというか…裏に何かありそうだし」
少し、怪しげなまどかに対して凛夢はそう言い出す。
実際、凛夢も裏表激しい性格なのだ。
ちょっと同じようなニオイを感じる。
「フフ、まさか。私は本当の事しかいいませんよ?」
「…だからそれが嘘くさいっての」
ぷにっとまどかの脇腹をつっつく琉嬉。
「いやん~」
「あ、叉羅沙!もうちょっとだけ聞いていい?」
「ほえ?まだ何か?」
「そもそも、なんで鞍光高校に来たの?やっぱり、能力者が多いからとか?」
「あー、半分偶然みたいなもんやで、たまたま、そういう術者が集まる地域があると話を聞いて…」
「なるほどね」
なんとなく納得した琉嬉。
やはり有名なのだろう。
鞍光中心とした地域一体は。
そういう情報を聞きつけやってくる者もいる。
もしかしたら、今でも増え続けてるのかもしれない。
「さぁ、みなはん、出ましょ」
叉羅沙の旧住居から外に出る。
これといった霊気も感じない。
人の気配はもちろん、この世じゃないモノや、人間ではないモノの気配はない。
本当に、まさに無人宅。
取り壊しされない限り、半永久的にこのままなのだろう。
主をなくした建物。
そこはどこか、物悲しい存在。
琉嬉には強烈に、念を感じ取っていた。
だがそれを外に出す事なく家から出る。
こうして、この悲しい家からお別れをする。
「しかし…ハンターサラサねぇ。努力の賜物だったのか」
「そんなんやあらへんって。恥ずかしいなぁ。そもそもハンターってダサイやんか」
「うちなんて、家系の力だからさ。こう、持って生まれた力だし」
琉嬉は少し客観的に自分を見て、申し訳なさそうに言う。
「あ、でもうちのお父さんは大した力ないって言ってたな。中級くらいのヤツだったらなんとか祓えるくらいだし」
「そう言えばそうだよね。頼りなさそうだもんね」
「まったくもってその通り。親バカだし」
ちらっと琉嬉の顔を凛夢が見る。
(……しかし、あの父親からこんな勝気丸出しのロリ少女とカッコイイボーイッシュ女の子が生まれるとは…想像できん)
心の中で凛夢はそう呟いた。
「でも、琉嬉ちゃんだって、努力してんのやろ?春くらいより明らかに強さというか、いろいろ高まってる気が…」
「ん。一応…ね。來魅の時とかがしゃどくろの時みたいに、一人じゃどうにも出来ない悔しさがあるから…」
「ふぅむ」
どこか、普通の女子高生とはかけ離れた会話ばかり。
こういう世界にいるから仕方ないのだろうが…。
来た道をまた元通りに戻る。
そして、さっき琉嬉が気にした神社の前を通る。
「……ここは」
思わず立ち止まる。
琉嬉の突然の様子にみんなが気づく。
「どったの?琉嬉ちゃん?」
「…どーせ、またいつもの不思議少女ちゃん発動でしょ?」
「その例え上手いですね~凛夢さん」
「う、上手いんか…?ソレ…」
そのまま、琉嬉は神社へ向かおうとする。
「あ、ちょっと!琉嬉ちゃん!」
霊感ある者が時折見せる行動ともで言うのだろう。
呼ばれたと言い残し、自分の意志とは違ってそのまま連れて行かれてしまう。
琉嬉はそれに近いようか感じで、他の者の声を聞かずに神社へ向かってしまった。
「まったく…あの小娘…」
「追いかけましょう!」
寧音の掛け声で他に者の駆け出す。
その神社は不思議の人気がない。
結構長めの階段を上って鳥居をくぐると、古い神社の社。
管理施設みたいなものはない。
それなりに綺麗はされている。
管理人などいなさそうで、自治体で管理されてるような、小さな神社。
「叉羅沙、この神社って?」
「さぁ、ようわからんわ。子供すぎて覚えておらんというか、行った事すらあったのかどうかと…」
「そ、そう…」
肝心の琉嬉は…というと、社…ではなく、さらに社の奥へと進んでいる。
「ちょ、どこまで奥行くの!」
あわてて、護達他のメンバーが追いかける。
そこで初めてみんな異変に気づく。
弱い妖気を感じる。
何か、混ざったような、変な妖気。
「なんだ?かすかに妖気を感じる…」
「あらあら…こんな微量の妖気を感じ取ったんですか…。琉嬉さん凄いですね」
普通に関心するまどか。
(どこだ?どこにいる?)
懸命に探し回る。
社よりさらに奥側…。
すでに林の中。
いや、わずかに道らしき部分がある。
それを辿って進んでいく。
ペキペキ落ちた枝の踏みながら、強引に進む。
「おいおい…どこまで行くのよ!小娘!」
しかし、聞く耳持たない。
「って、無視かよ!」
「まあまあ、落ち着いて」
「う、ううぐぐ…あの野郎…」
後ろから羽交い絞めするように止める護。
(本当に口悪いな…この娘)
いつの間にか、他のメンバーがいるにみも関わらず本性モードのままになっている。
それはある意味、仲間として認めただからだろうか。
そうしてる間ににも琉嬉はさらにさらに奥へ進んで行く。
こんな道でも慣れた足捌き。
気が付くと姿がなくなっていた。
「ここか……」
そこには小さな、祠。
寂びれたと言った表現がまさに正しい状態。
祠の手前には囲うように作られている柵。
その柵をさらに囲うように建てられている気持ち悪いくらいの数の卒塔婆。
「うげ……何コレ。お墓の?」
「卒塔婆ですかね…。私達の所では雪積もるので卒塔婆はありませんけど」
卒塔婆に手を触れる寧音。
しかし何の反応は無さそうである。
「琉嬉?」
凛夢が気づくと琉嬉は柵の扉を開けて、さらに奥へ進んでいた。
「お前か?変な妖気出してるのは」
祠の扉を開く。
中にいたのは、綺麗な、銀色の毛をした、猫だった―――。
その銀色の猫は寝ているのか、目を瞑って動かない。
「え?何?何?この猫?かわいいー!!」
「あら、本当」
「あ、コラ」
護がが抱こうとする、
しかし、猫は目を覚まし、
「フシャーーー!!」
と、思いっきり拒否の姿勢。
「うへ、嫌われた?!あたし」
「そりゃ、いきなり抱こうとしたら、ねぇ」
もう一度手を出そうとする。
が、しかし。
バチンッ!と、強烈な電流みたいのが走る。
「おわわ!!何?何?」
「…大丈夫ですか?護さん?」
寧音が護の所へ駆け寄る。
護の手からは焼け焦げたような匂い。
少しやけどしたようだ。
軽い治癒術をかける。
「あらら…あっちー」
強烈な痛みなのだろうに、大した事ないように振る舞う。
「大丈夫なのか?」
龍翔が上から覗き込む。
「へーきへーき。頑丈さがあたしの取り柄だしね」
そう言う護の顔は本当に余裕で平気そうだった。
叉羅沙も手を触れようとする。
すると、手を入れようとした途端、痛みが走る。
「あかん、これは強いなぁ」
「これは…結界だね」
そう言いながら、琉嬉が護達を押しのけ、前に出る。
「お前……ただの猫じゃないだろ。妖猫か…?
猫又……の一種か?」
琉嬉が猫に問いかける。
猫は黙って琉嬉の事を見つめる。
そして、猫は祠の中にいるまま、座り込む。
「……なんだ、お前達は…。私に何か用か?」
「うお!!ねこがしゃべった!!」
護はオーバーまでに驚く。
「護、うるさい。僕の家にはしゃべる狸が来たんだから、これくらいで驚かないの」
「え?そうなの?」
「こういうやり取りが護はんをバカっぽく見せる…」
叉羅沙が笑いを堪えていた。
「…僕には嫌な予感がする……」
琉嬉が不安げな事を珍しく言う。
辺りが不穏な空気にまみれる。
(封じの術………強力な結界……これはもしかして…)
何かに気づく。
「みんな………離れろ!」
琉嬉が声を荒げる。
「え?」
「なに?」
咄嗟の出来事だった。
眩い光が降り注ぐ…、そういう表現が正しいのかもしれない。
祠を中心に光が放たれた。
「わぁっ?!」
「これは……!」
気がつくと、祠は弾け飛んで跡形も無かった。
そして一匹の猫がその場に居る。
「例を言うぞ。人間の子供達よ」
「…お前……なんなんだ?」
琉嬉は御札を取り出す。
他のメンバーも戦える準備を整えだす。
「……おかげで封印が解けた」
ボフッと大きな煙を立てて猫の姿が消える。
すると……人影が現れる。
「ヒト型になったー?!」
護がバカみたいな声をあげる。
「別に珍しくないだろっ」
「でもー」
「そうも言っておられへんな」
その場に現れた姿は白髪に近い、明るい銀色の髪の色した女の姿だった。
「妖怪…だよね」
琉嬉が問う。
「一応な……」
ゆっくりと喋る。
その猫の妖怪は人型に変化した。
それも妖艶とも言えるような、美少女…。
銀色の髪の先は淡い青色に変色している、変わった髪の色だ。
長髪で先の方を何かの髪飾りで止めている。
年齢は琉嬉達よりも少し上にも見えるし、下にも見えるような、曖昧。
妖怪なので人間の年齢換算するのもおかしい話だが。
着物姿で、そこらモデルも顔負けなスタイルをしている。
とは言え、純粋な日本の妖怪なのだろう。
和の基調とした服装なのは間違いない。
琉嬉は來魅の時を思い出していた。
「お前……封じられてたって事は……余程のヤツかな?」
「どうかな」
喋りと同じようにゆっくりと歩き出す。
琉嬉達を気にもせずに、別の方向へ歩き出す。
「何処へ行く?」
「我が主の元へ」
「…主?」
「……答える義理はないがな」
「あっそう」
冷たい返答にも冷たく返す。
「ちょっと待ってくれませんか?猫の妖怪さん」
「…?」
まどかが前に出てくる。
手にはきっちりと槍を持っている。
「主って事は……あなたの仲間がいるんですね?」
「仲間……か。居る事には居るな」
「……あなたは……一体いつから封印を…?」
「さぁてな。10年くらいか……それとも…」
「10年…?」
10年……來魅を封じていた期間よりは大分短いと思われる。
しかし10年前と言えば、がしゃどくろを改めて封じた時と同じだ。
それはただの偶然だろうし、土地が違うのでまったくの無関係だと思われる。
だがまどかはある過去の出来事が頭の中を巡っていた。
「琉嬉さん……10年前……知りませんか?」
「10年前って言ったって僕らはたかだか6、7歳とかの頃だよ?小1だよ?」
「そうだぜ。10年前ったって…いや、まさかな」
龍翔も何かに気づいた。
「………霊術会一斉討伐の日」
琉嬉の顔色が変わった。
一斉討伐の日。
およそ12年サイクルで霊術会は悪霊や妖怪などを一斉に討伐を開始する。
いわば裏世界の戦争だ。
勿論、妖怪だけでもなく、それに加担する人間や悪事を働く人間も例外なく始末する。
この世界が大きく崩れる事なく維持されているのは霊術会の一斉討伐があるからだ。
12年間で大きく世界の均衡が変わる。
それを防ぐために干支にちなんだ12年サイクルで討伐を起こすのだ。
「まどかはそれを知ってる…よね?」
霊術名家でもあるまどかの顔色を伺う。
「そうです……ね」
「……はんっ!なるほどね。霊術会が中心となってそんな事してるとは」
猫の妖怪は一言も喋らずにその場にまだ居る。
「辻褄が合うんですよ。がしゃどくろの件も」
「霊術会が一斉に動くからか」
「その通りや」
「じゃ、そん時にあの猫ちゃん妖怪も?」
「そうでうしょうね?銀猫妖怪さん?」
「如何にも。ま、所詮封じる程度しか出来なかったようだが…」
猫の妖怪が両手に妖力を集め出した。
「やるってのかい?」
「龍翔様!」
遊希も姿を現した。
「寧音……凛夢…、耿助さんとみゆいないけど…行ける?」
「五大家揃わないと何もできないなんて言わせませにょ!」
「当ったり前よ!」
「ほいきた」
「五大家……なるほどな。お前達がか…」
猫妖怪の手から妖気弾は放たれた。
戦いの合図が始まった。
「凛夢!」
「分かっているって!」
猫妖怪の素早い動き。
まずは凛夢に矛先を向ける。
攻撃を大鎌で受け止める。
難なく受け止めるが、すぐさま別に攻撃を仕掛ける猫妖怪。
「くっ!」
執拗に攻めてくる。
「なんで私だけ…!」
「させるかよ!」
護が霊力剣で斬りかかる。
しかしあっさりと避けられる。
「早い!」
「甘いな」
避けざまに霊撃を食らわす。
「うぐ?!」
護はまともに受けて吹き飛ばされる。
「護!」
「あたしは気にせずに!」
そう言われると琉嬉は咄嗟に大量の御札をばら撒く。
その場に10数枚程。
それを巧みに操って空中制御させる。
「むっ?!」
避け場がなくなり、猫妖怪は空中に漂う御札に接触する。
バチンッと音がするが、あまり大きくよろけていない。
「今だ!」
「はいよ」
「ええ」
叉羅沙と寧音が同時に攻撃を仕掛ける。
「ふん!」
両腕で受け止める。
「数に物を言わすってのも卑怯ですね」
腕が塞がった瞬間にまどかが槍で投げつけた。
すると猫妖怪の胸元に命中する…かのように見えた。
胸元を貫く事なく止まっている。
「あらら?」
首を傾げるまどか。
「威力が弱かったのか!」
さらに龍翔が大き霊気弾を撃ち込む。
槍元で爆風が起きる。
「わぷっ」
寧音と叉羅沙に砂煙がかかる。
「ふふふ、やるな…お前達、ただの人間の子供じゃないな」
「あれれー、効いてない~」
ふざけたような口調で護が言う。
「だな」
「まったく……」
大人数相手にまったく引けを取っていない。
猫妖怪はピンピンしている。
「はは、いつぞやの妖怪思い出させるね」
少しの焦り。
でも琉嬉はその状況でも口元を少しにやけさせる。
「…解かってます?琉嬉さん?」
まどかが小声で喋りかけながら琉嬉に近づく。
「解かってますよ、会長さん」
「なら大丈夫ですね」
これからさらに激しくなる…かと思われた。
「今日はこの辺にしとこう。私は封印を解かれたばっかりだ。まともにやり合っては多分勝てないだろう」
「へ?」
しかし、戦いはすぐ終わった。
猫妖怪が手を止めたからだ。
さすがに大勢相手には苦戦をした…様子も無かった。
それどころか、猫妖怪も本気では無さそうだ。
「なぁにアイツ…。めちゃくちゃ強いんじゃない?」
「そうですねぇ」
そうは言ってるがふかしぎ部の面々もまだ本気を出していない。
「やるな。お前達。だが今相手してる訳にはいかない」
「待って」
「なんだ?」
琉嬉が呼び止める。
「お前は何者?名前くらい教えてくれたっていいんじゃない?せっかく封印解いてやったんだから」
「……壬珠。私の名は壬珠だ」
「壬珠サンね。僕は彼方琉嬉。世界最強の退魔師になる予定」
ズズンッとない胸を前に突き出すようにして、胸を張る。
「子供のくせに強気だな」
クスッと笑う。
「あー、またバカにされたー!くそー」
「はいはい、茶番はここまでにして。お前さんの目的はなんだ?」
龍翔が琉嬉を遮るように前に出張る。
「ちょ、龍翔君…」
「琉嬉ちゃんは黙って」
「むがっ…」
護が口を塞ぐ。
「目的も何も、言っただろう?我が主に会うと」
「ほぅ…」
「またいずれ会うだろう。さらばだ」
すると、また猫の姿に変化して木に登って木と木の間を飛んで行く。
あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「はぁー、なんだったんだ?」
疲れたのか、倒れた大きな木に座り込む護。
それに続く寧音や凛夢。
「にしても…えらい強さやったな。ウチら大人数にも関わらず大きなダメージも与えれんかったで」
「そうですねぇ」
「…決して手を抜いた訳じゃないのに」
少し後悔する面々。
ただ大人数で動けば同士討ちもある。
一斉に攻撃を仕掛ける事も出来ない。
「やっぱり僕が原因だったのかな…」
珍しく弱気発言する琉嬉。
「何がです?」
「いや、僕が不用意に近づいたから封印が解けた…?」
「封印が解けた?あれってたまたまじゃないの?」
「來魅の時もそうだった…。多分、いずれ解ける封印なんだろうけど……」
「思い当たる節があるんですか?」
琉嬉のほっぺを優しく撫でるまどか。
「あーら、琉嬉さんのほっぺたって柔らかくて気持ちいいですね~」
「おおぃ…子供扱いするなー」
「あらあら、失礼しました」
琉嬉の思い当たる節。
それは僅かながらちょっとだけあった。
自分が近づくとなぜか封印が解ける。
來魅の時。
たまたま、偶然封印が解ける時期、時間に近づいたから。
そう思っていた。
だが今回も似たような事になった。
それも呼ばれる気がして、ほぼ無意識に近づいてしまったからだ。
「そういう時の琉嬉ちゃんって危険だよね~」
「反省してます」
シュンとする琉嬉。
反抗する言葉もない。
「んー、と。なんで琉嬉さんが近づくと封印が解けるんです?」
なぜか持っていた飴玉をみんなに渡しながら言う寧音。
「そうやなー。自分で気づいてるっちゅー話っぽいもんな」
「それは……多分。
「真霊気」のせいかもしれない。
微力に出す真霊気の力のせい……かもしれない」
真霊気。
彼方家に代々受け継がれている特別な霊気の事である。
全ての生命力の力を無効化してしまう究極の力。
それを体に持っている琉嬉は軽い結界や幻覚などを無効化してしまう。
弱い霊なども寄り付けない。
それに加えて魔除けの鈴など霊道具も常備している。
「じいちゃんも父さんも言ってたんだけど、彼方家は「他人」の結界には強いって言ってた」
「なるほど…」
内に秘めたる真霊気の力が反応起こして結界を崩してしまうようだ。
「真霊気で無効化させちゃうからだって。
だから、もしかしたら強力な結界も封印が弱まる時に行けば、いとも簡単に結界が消えちゃう。
そんな話をじいちゃんがしてた気が…」
珍しく凹む琉嬉。
「…あんたらしくないわねぇ」
凛夢が琉嬉の頭を軽く叩く。
「おいおい…凛夢ちゃん」
「いいのよ。龍翔君。この子はね、慰められるのが必要なのよ」
「…お前なぁ…僕は子供じゃないって言ってるだろ!」
「見た目はおこちゃまのくせにぃ」
「この…」
「やるの?」
すぐ取っ組み合いになる。
いつもの琉嬉に戻った。
「あはは、こうしてる琉嬉ちゃんが一番らしくていいね」
なぜか護は琉嬉に抱き着く。
「お前までなぜ…わぷ」
「私もーっ」
寧音も続く。
「あーらら、楽しそうやね」
「見てられません…龍翔様」
「違いねぇ」
結局あの謎の猫妖怪の正体も解からずじまい。
封印が解けたからにはきっと良からぬ事が起きるのだろうと確信している。
「來魅の時と似てるなぁ…でも地域違うし…」
「ま、ウチらが出来る事なんざ今はあらへん。成るがままやな」
「そうですね。もし何かあれば…霊術会の方から動きがあります」
名家の言う事には少し説得力がある。
霊術会からの動きを待つしかないのかもしれない。
「はぁー……桜月とかっていう人も怪しいけどね」
「桜月?桜月って…霊術会の桜月梓葉?」
目を丸くしだすまどか。
龍翔も少し驚いた表情している。
「そうだけど、なんで?」
「会ったのか?もしかして?」
「ま、まぁ…」
寧音や凛夢、護ら霊術名家とは関係ないメンバーはキョトンとしている。
桜月の事を知らないのだ。
「えぇと……つまり、日本霊術会の会長って事ですか?」
挙手して質問する寧音。
「僕もあまり知らないよ。じいちゃんが言うには会長らしいけどね」
「へー」
「そんなレアなお人と会うなんて、琉嬉ちゃん。あんさんほんま持ってるわぁ」
「レアかどうかは置いといて面倒事はごめんだね」
我関せず。
あまり興味無さそうに言う。
「ま、まぁ………そうやろな…」
諦めたように言う叉羅沙。
「ここに留まっても仕方ありません。皆さん行きましょう」
まどかの一声でふかしぎ部は動き出した。
「小娘」
「何?死神女」
「良かったの?あのまま逃がして」
「……本気出してやれば良かった?」
「…そりゃ出せれば良かったけど…」
何かと躊躇した所はある。
街中だ。
派手に暴れるとさすがにマズイ。
「そうとも言ってられないだろ?」
凛夢の口調が裏モードになっている。
しかし琉嬉は気にせず話を続ける。
「今度何かあった時は、僕がどうにかするよ」
「……そうかよ…」
「それに…お前達がいるし、こっちは狐と狸の上級妖怪もいるし」
「…たしかに…」
「今度会った時は本気で、祓ってあげるよ」
気になるのがひとつ。
壬珠の強さだ。
これだけ大勢いたのにも関わらず仕留める事出来なかったからだ。
(……多分、復活したばかりだから、しばらくは何も出来ないだろうし)
これで本当に良かったのか…?
それぞれ思惑を持ちながら旅館に向かって進んで行く。
「…半妖…ねぇ。そんな風には見えなかったけど」
護が何かと気になる事を連呼する。
「あの妖怪と半妖と関連性は?」
「ないとも言い切れないけど、繋がりがあるとは考えにくい…」
スマホを触りながら喋る琉嬉。
横で聞いてる龍翔が何かに気づく。
「銀色の猫……。もしや…」
「何か気づいたの?龍翔君?」
「銀猫族…。いや、名前の通りなんだけどさ」
「ぎん…びょうぞく…?」
皆は聞いた事ない種族の名前に困惑する。
「銀色の猫の妖怪達の一族なんだ。俺達の地域にはいないけどな。
ただ、こっちの本州には居るとは風の噂で聞いた事があるな」
「ええ、龍翔様の言う通りです。
私も、元々違う地域の生まれで、何度か話は聞いた事はありますが…」
いつの間にやら出ていた遊希。
だが同じ妖怪の遊希でも実際に見た事はないと言う。
「ふむ…調べる必要性ありかな」
何事も調査する。
琉嬉の細かいのを気にする性格がにじみ出る。
「アンタって案外下調べとかしていく、そういう細かさあるのね」
「まーね」
反論せず、自覚はあるようだ。
何も知らない状態で挑むのも無謀というものだ。
「にしても…美人でしたね」
寧音がまた良からぬ妄想している。
「ヒト型形態はほとんど人間だったね。綺麗な銀髪だったけど」
「スタイルも良かったですね~」
「…まどか、ちょっと変なとこばっかみてまへんか?」
「ウフフ…」
怪しげな含み笑いに叉羅沙はちょっとだけ、不気味に思えた。
――ここ、京都の何処かにある大きな建物。
山奥にある、目立つ事もない建物。
少し近くにお寺や古い建物が閑散としてある。
そんな場所に、壬珠の姿があった。
「……変わらないな。さすがに、10年ではそう極端に変わらんものか」
どこか懐かしいようなそんな気分。
そして、この目立つ事もないような建物の前に立つ。
そのまま無言で中に入る。
「…誰だ?」
建物の中に入ると、屈強な男が何人もいる。
「…私の顔を忘れたか?」
「……アンタは…もしかして…壬珠…さん?!」
「如何にも。通してもらおうか」
「…なぜ、封印が…?」
「それは後で言うさ」
バンッと、勢いよくドアを開ける。
壬珠が対峙するようにいたのは、背の高い男。
そこには、琉嬉達がたまたま寄った店にいた男と同一人物だった。
「……!!………生きてたのかよ。壬珠サン」
「おかげ様でな」
男もさすがに一瞬驚いたような顔したが、すぐ冷静になる。
「アンタ程の実力者なら簡単に死ぬとは思ってもなかったけどな」
「よく言う…。礼人。主は?」
男の名は「礼人」という名のようだ。
「ここにはいないぜ」
「では、どこに?」
「……いつもの場所さ」
「…フム。そうか」
少し、無言のまま礼人の顔をみつめる。
「なんだ?俺に顔に何かついてる?それとも惚れたとか?」
「それより、風の噂だと、最近派手に行動してるらしいじゃないか」
「ん?ああ、まあな…。そろそろ頃合だとさ…(しかし、華麗にスルーか…)」
「まぁいい。主の元へ行く」
そう言い残し、銀色の長い髪をフワっとさせながら部屋を出て行く。
「…驚きましたねぇ。壬珠殿が帰ってくるとは」
礼人の他にもう一人人物がいた。
こちらは少し細めで長髪。
「なんだ、居たのか。漂…」
漂と呼ばれた人物。
華奢とも取れる細くてスラっとした背の高さ。
「いやはや…なんで封印解けたんでしょうかね?」
「さぁな。自然に封印解けるとは考えにくいし、自力で解けるものじゃないだろう」
「では誰かが解いたと…?」
「そう考えるのが妥当だろうな」
壬珠の言う主とは誰か。
それと、怪しげな二人組みの一人、礼人とは面識がある壬珠。
琉嬉達は知らないうちに必然と足を踏み入れる。
「さーて、あの猫さんが吉となるか、凶となるか…」
自分が仕出かした事なのにも関わらず他人事のような琉嬉。
そしてこっそり拾ってきた祠の破片と、使われていたお札。
「んー?何見とるん?」
「あ、いや。なんでもない。よ」
「……なんや、怪しいな」
「…怪しくなんかないよ」
妙なやりとりしている二人。
「しっかし、あの二人もなんか仲良いよね」
「学校一おちびさんと学校一背高のっぽさんコンビ」
ボソっと凛夢が呟くように言う。
たしかに、以前より仲が良くなっている。
身長差があるためか、異様に目立つ。
「…しかし、封印しか手がなかったという事は、それ程の力持った妖怪なのでしょうね」
「生徒かいちょの言うとおりかもねぇ~」
気楽に言う護。
これでよかったのか?
あの猫妖怪を逃がして本当に、よかったのか?
だが、琉嬉にとってはどうしても、助けて欲しい。
そんな声が聞こえていて仕方なかったのだ。
(…とりあえず、京都の妖怪達にでも聞いて、情報集めとくか…)
少々、余計な時間を使ってしまったが、一向は最後の自由時間を有意義に過ごせた。
あとはまた、旅館に戻って最後の楽しみが待っている。
思わぬ出会いもあったが、これで修学旅行は終わりに近づく。
琉嬉達は移動バスがある集合バスへ向かうのだった。




