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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第六章   ~秋季心霊編~
33/92

#33 狸、そして狐

がしゃどくろ事件依頼、警察など来て大変だったが今は落ち着きを取り戻した鞍光高校。

あれから、前ほど浮遊霊などは頻繁に現れる事はなくなった。

完全に出なくなったわけではない。

強力な霊磁場なので、やはり釣られてきてしまうのか、時折目撃談がある。

実際琉嬉達も視えてしまう。


 今の学校は秋のテスト週間。

少しピリピリしたムードが漂う。

そんな学校では昼休み真っ最中だった。

だが、ちょっとした噂が学校にも行き届いている。

「ねえねえ、琉嬉ちゃん。ちょっと面白い噂あるんだけどさ」

 こういう手の話が好きそうなみなっち。

どこで聞きつけたのか、その面白そうな噂を琉嬉に話してみる。

「…噂って何?」

 取りあえず興味ある風に話だけでも聞いてみる事にする。

どうせ、みなっちの持ってくる話はロクな事ない。

肝試しの時だってリアル幽霊の集団に出会ったりした。

今回もそのような内容なのだろうか。

文化祭の時もあるし、少しオカルト事件が身近になりすぎてるかもしれない。

「最近、怪奇現象を解決する金髪の偉そうな言葉使う女の子がいるんだって」

「怪奇現象を解決する金髪の女の子…?」

 金髪といえば、護だが、自分から怪奇現象解決するような事するタイプだったか?

むしろ生きてる生きてない、人間妖怪関係なく依頼あれば退治してしまう、

「退治屋」なる裏家業みたいな事してるはずだ。

最近は学業を専念してるのと、琉嬉達との付き合いで仕事をあんまりやってないらしいが。

「金髪で怪奇現象解決できそうなヤツって…護くらいしか思いつかないし…」

「琉嬉ちゃん、こういう話好きでしょ?オカルトマニアだって話だよ」

「誰がオカルトマニアだ!誰が言ってた!」

 みなっちに得意のチョップを食らわす。

「いたぁい…。大体ふかしぎ部ってオカルト関係なんでしょ?」

「う、そりゃそうだけど…」

「嵯藤が言ってたのぉ!」

 頭を擦りながら眞太朗の名前を出す。

「眞太朗が?あの野郎……」


 みなっちの言葉半分で琉嬉は眞太朗の席へと向かう。

「おい、眞太朗。僕がオカルトマニアだって?」

「え?違うのか?霊が見えるオカルトマニアだとてっきり…」

 そして眞太朗の頭にも手刀が命中した。


「たしかに霊視えるし、父さんの実家は寺だけど…マニアじゃない。むしろマニアなのはゲーム…」

「なんだ、違うのか。ふかしぎ部なんてオカルト研究みたいなのやってるから」

「…言っとくけど、霊が視えるっていうのはあまり広げないでね」

「……なぜ?」

「いろいろ面倒だから。お願い」

 珍しく弱気な琉嬉の態度に無言でうなずく眞太朗。

結局は琉嬉の言う事を聞いてくれる良い奴だ。

「でもそういう部活やってるんなら、説得力がないと思うが」

「…マニアじゃない。むしろ本職だ!」

「本職…ねぇ。まあ、あの時の状況を見れば納得するけどな」

 椅子を傾けて変な体勢を取る。

「しかし、その怪奇現象を解決する金髪の女の子って凄い話だよな」

「……たしかに、それは気になるね」

(やっぱりマニアじゃん)

 と、眞太朗は心の中でツッコんだ。


 琉嬉は一応確認のため、護の所へ向かった。


 とりあえず護に聞いてみた結果。

護はまったく身に覚えないと否定した。

そもそも、そんな目立つ行為はしないと。

たしかにそうだ。

いわゆる、一般の人間が知りうる程の噂話。

「なるほどね……まーた、変な事が起ころうとでもしてるのかね?」

 護の顔をチラチラ見る。

「だーかーらー。あたしじゃないって」

「ほんとにー?」

 疑いの目を向ける。

「金髪なんて、いっぱいいるじゃん。ね?」

「…そういや偉そうな言葉使うって言ってたな…。偉そうな言葉って…」

「う、何?」

 再び護をじーっと見る琉嬉。

「偉そうな言葉なんて使う頭は、護にはないもんな」

「ちょ、どういう意味よそれッ」




 一方、こちら場面は変わり、参堂家が管理する神社、「明黄麟神社」。

かつて100年前に最強とも言われた、大妖怪・來魅を封じていた神社である。

そこを若くして宮司(神主)として働いている耿助。

この日もそれなりに忙しく動き回っていた。

そんな耿助だが、普段とは違う人の気配を感じた。


 そんな神社に突如、やけに細身でスラっとした派手な出で立ちの格好の人物がやってきた。

何か探すような感じでキョロキョロしている。

やけに目立つ白と黒を基調にした上着の組み合わせに

短パンに黒っぽいオーバーニーソックス。

髪は金髪のような明るい黄の色。

その髪は独特な形のショートカット。

おそらく、見た目10代の若い感じの…女の子だ。

どこか、ボーイッシュ。

一瞬外国人かと思うくらい、目立つ。

なんだか、神社とは不釣合い。

耿助は事務所からその様子を覗いていた。

「…珍しい参拝客ですね」


「若い方がこんな神社へやってくるとは、珍しいですね」

 何か探してそうな雰囲気に耿助は手助けできるだろうかと思い外に出る。

耿助の存在に気づく少女。

「…………」

 じーっとみつめる少女。

そのみつめる目線に少々困惑する。

「あ、あの…どうかされました?」

 少女は目を瞑り息を少し吐く。

「はー…」

 その後に、こう切り出す。

「のう、小僧。ここに來魅がいるっていう情報を聞きつけたのだが…?」

「は、え、え?來魅さんですか?」

「そうじゃ。來魅のヤツが復活したと聞いてここにわざわざ来てやったのじゃ」

「はあ、はあ……。でも」

「でもなんじゃ?」

「…ここには居ませんよ」


「な、なんじゃと?!」

 居ない、と聞いた瞬間5秒間程度少女は固まった。

だが、すぐ我に返り突然叫びだす。

「じゃ、じゃあ、何処へ行ったと言うのじゃ?!」

「え?何処って…鞍光市の曲区の方へいますけど…」

 耿助は訳が分からない状態。

「そうか!分かった!」

 そう言うと早速走って階段を駆け降りていく。

嵐のように去っていった。

……と、思われたが、一分もしないうちに戻ってくる。

「おい、その曲区の住所を教えろ!」

「………はぁ……。いいですが…あなたは一体どなたです?」

「ん?わしか?わしは「銀杏」(いちょう)じゃ!覚えとくが良いぞ!」




 耿助はいろいろ面倒そうなので、大雑把な住所しか教えなかった。

それと薄々気づいていた。

來魅を追ってると言う少女。

一見人間のように見えるが、多分普通の者ではない。

おそらく、妖怪……。

かなりレベルの高い…。

そそっかしい性格だというコトだけは把握出来たようだが。

「……これは、琉嬉さんと來魅さんに連絡した方がいいのでしょうかね…」

 ぽかんとしながらも、受話器に手をかけた。



 案の定、銀杏は道に迷っていた。

「あの小僧……適当な事を言いよって…何処だ?ここは!」

 耿助は決して適当に言ったのではなく、「大雑把」に言っただけだ。

大体の町名を言っただけ。

それをなぜか鵜呑みにして疑問持たずに目指してきた銀杏が悪いのもある。

「……しかしこの町はなんだ?やけに霊力が高い…。それと妖怪が多い」

 この町…鞍光市の事だろう。

昔から術者が多い=霊や妖怪などが多い。

この方式が成立してしまっている、特殊な地域である。


 銀杏はこの街に辿り着くまで長い道のりをやってきた。

普通の人間のように、人間達の通貨などで、電車など交通機関を利用し、

そんな急ぐ事もなく、マイペースでやってきた。

元々旅をしているのでどこからか聞いたのか來魅の復活を知り、ようやくやってきたのだ。

「來魅め…100年待たせおって…。今度こそ倒してみせよう…」

 どうやら、來魅を倒す目標を持っているようだ。

しかしやってきたのはいいが、もう日が暮れていた。

時刻は夜6時くらいだ。

この時期となると6時でももう暗い。

「さて…寒いし、これからどこに泊まろうかの」

 駅前通りを歩いていく銀杏。

どこかいい宿ないかと、歩き回る。

そこで目に入った一軒の大きめの旅館。

銀杏は特に気にもせずその旅館へと入っていく。

その旅館は琉嬉らの住んでいる家からそう遠くない場所。

駅から少々歩いてが山のふもと近くの旅館だった。


「ほぅ…。田舎町にしては立派な旅館じゃな」

 ガララっと勢いよく扉を開け、全体を見回す。

まだできたばっかりなのか、かなり新しい作りの旅館。

しかし宿泊客が少ないような気もする。

平日なのもあるが、このような町では仕方ないのだろうか?

「……誰もいないのか?」

 フロントには誰もいない。

覗き込んでも人の姿は見受けられない。

「なんじゃ。誰も来ないのか」

 突然後ろからパタパタ足音が聞こえる。

「申し訳ございません。どうぞ。こちらへ」

 後ろにいたのは、支配人だろうか?

50代くらいの男性が汗を垂らしてやってきた。


 支配人の話によると、現在人手が足りないという。

その理由はよくわからないが、支配人自らも普通の仲居がやるような事をやっているという。

「フム。大変そうじゃな。まぁいい。ここの旅館に泊まるので部屋をひとつ貸しておくれ」

「は、はい。よろこんで(…派手な女の子なのに喋り方が変わってるなぁ…)」



 とりあえず案内された部屋に入る銀杏。

綺麗な間取り…、そして窓から見える素晴らしい景色。

秋なのでもう立派な紅葉が始まっていて綺麗だ。

「フムフム…。いい旅館じゃないか。景色も良いし」

 部屋中見て回る銀杏。

備え付けの浴衣に着替えるため服を脱ぎ始める。

「……胸。大きく育ったもんじゃ……。まだ大きくなるのかのう?」

 自分自身の豊かに育った胸を見てブツブツ言う。

小さいのならまだしも、大きいのに対して文句ありそうな事を言っている。

贅沢な悩みと言えよう。

「むぅ……ブラというのはどうも窮屈でいかんのぅ…。しかしこれつけんと揺れて痛いんのが辛いよの」

 ブツクサ言いながらもブラも取ってしまう。

浴衣に着替え、思い立ったようにまた部屋を隅々見回す。

「………どれどれ」

 銀杏は掛け軸裏や額縁の裏を調べる。

しかし特に何も変わった様子はないようだ。

旅館や大型のホテルでよくある話。

絵の額縁の裏などに怪しげなお札が貼ってある…。

その理由はその部屋に出ると言われる霊を鎮めるためとか、そういう話。

銀杏はそれを気にして、様々な旅館などでチェックをしてきた。

「この部屋にはないみたいじゃ。……しかし。何か感じる」

 入った時から何か違和感を感じる。

「何か居るのは間違いないな。それより風呂入って飯でも食うかの」

 霊の存在よりもまずは自分の欲を満たすために行動するのであった。


「ぷっは~。やはり大浴場は気持ちいいのぅ。シャワーだけじゃ疲れは取れんわ。

浴槽に浸かるのが日本の妖怪として一番じゃ」

 気持ちよさそうに湯船に浸かっている。

両手をうんと空に向かって伸ばす。

細見の体にスラっと伸びた手足。

そしてふくよかな胸。

綺麗な体である。

「來魅の奴め…どこに居るんじゃ…」

 相当來魅に用がある模様。

(……おのれ…。復活したのならなぜ会いに来んのじゃ…。許すまじ來魅め)

 ザバッと勢いよく湯船が出る。

「待っておれ…來魅よ!」




「へぷちっ」

 突然くしゃみをしだす來魅。

小さくコンパクトな可愛らしいくしゃみだ。

「お?くしゃみ?風邪?」

「うむむ…。体調は悪くないんだがな」

 來魅は鼻をずずっとすする。

「まあ、気にしないで続くやるぞ」

 そのまま琉嬉と來魅はやっているゲームを続行する。

二人共同プレイのゲームのようだ。

「妖怪も風邪ひくの?」

「犬や猫みたいな動物も病気するだろう?」

「え?あー、そうだろうね。うちは飼ってないから知らないけど」

「パソコンもウイルス感染するだろう?」

「そうだね」

「それと同じだ。我々妖怪も風邪ぐらい引く。人間に近しい者ならばな」

「へぇ~」

「ただ、免疫が違うからの。簡単に治るわい」

「へぇ…」

 あまりピンと来ない琉嬉であった。




 風呂からあがり、部屋でくつろぐ銀杏。

満足げな表情をしている。

「はぁー、温泉というのはいいのう。生き返るようじゃ」

 それにしても人が少なすぎる。

宿泊している客はどうも2、3組くらいしかいないように感じる。

窓の景色。

少し暗い。

だが大自然が見えていい景色だ。

立地も良さそうなのに客が少ないのは違和感がある。

経営が悪そうなのか。

「フム…。これは何かあるかもしれんな」

 そのままフロントへ出向く。



「もしもーし。誰かおらんのかー?おーい」

 しかし反応ない。

それどころかさっきと同じように人の気配すらない。

「………本当に人手が足りんのか…?しかしこの客数だとこのままだと経営潰れるぞ」

 旅館の心配しながらも、少し旅館内を歩いてみる。


 人気がない旅館。

外はすでに真っ暗。

廊下がなぜかちょっと不気味にさえ感じる。

新しい建物なのに。

「おーい…」

 食堂の奥、厨房から何やら話し声が聞こえてくる。

従業員が集まって何か話をしているようだった。

「…どうした?そんな所で集まって?」

「わ、お客様!」

「お客様ではないわ。何か困っておろう?」

「……え?いえ…別に…」

 見てすぐ分かる反応。

何か、あるのにありませんよ、という否定的な反応。

バレバレだ。

「どーれ、困ったコトあればわしに話してみるといい」



 支配人は夜な夜な現れる幽霊?に悩ませているという。

とある、部屋に毎晩のように現れると…。

その噂のせいなのか、人が寄り付かなくなってしまったという。

噂の部屋は今は開かずの間状態。

「どれどれ…」

 何気なく入っていく銀杏。

「本当に大丈夫なんですか…?支配人…?」

 仲居の一人が心配そうにする。

渋々話を通した支配人も浮かない表情。

その横目におそるおそる戸を開ける。

「………ほぅ…」

 何かに気づいたかのような反応する。

ちょっと不敵な笑みをこぼす。

「やっぱり…何かいます?」

「「居る」のう。これは普通の人間ではどうしようもないレベルじゃな」

「え?!」

「少し下がっておれ」

 何処からか取り出した木の葉。

自身の名前と同じ銀杏の葉っぱだ。

それを何か念じ、わずか、2、3秒で1m以上はあるかという棒に変化する。

「おお?!」

 それを見ていた従業員達。

「ふふふ……。居るのは解かっておるぞ。出て来い!!」

 ガツッと床に棒を突き立て、文字のようなのが浮き出る。

そして光が部屋全体に広がる。


 そこには、狐…の姿が。

いや、狐にような、姿した獣。

「…フン、大方ここを住処にするため幽霊の姿などに化けて寄せ付けないようしてたのだろう」

「ぐぐ…な、なんだ!お前は!」

 狐妖怪が激昂する。

縄張りを邪魔された事に対して怒ってるようだった。

「忌々しい狐の分際で…。低級が」

「な、なんだと!!」

「…わしを知らんか?わしはかの有名な「銀杏」じゃ」

「……い…ちょ…う?」

 狐妖怪は気づく。

「お前……まさかあの「銀杏」か?!」

「左様」

 目の前にいるのは、上級の妖怪「銀杏」――。

「ま、ま、ままま、まさか。あの來魅様と互角とも呼ばれた…、狸妖怪の…?銀杏!?」

「いかにも!わしがその銀杏じゃ!」

「な、なぜここに?!」

「…この町に來魅がいると聞いてな」

「マ、マジですかい!」

 狐妖怪も來魅がこの町にいると知らなかった模様。

「…でもまあ、人間に迷惑かけるのはあまりよろしくなのう。

こんないい宿を潰す気か。少しお仕置きが必要じゃな」

 ニヤリと笑みを浮かべる。

しかしその目は笑ってはいない。

本気の目だ。

「ひ、ひぃ!お助け~!」

「待てい!」

 凄まじい動きで逃げる狐妖怪をこれまた凄まじい動きで追いつく。

手に持った棒でそのまま脳天をおもいっきり殴る。

狐妖怪はそのまま伸びてしまった。

そんなやり取りを見ている従業員達は何がなんだかわからない。

「支配人…妖怪がどうのこうのって言ってましたよ…?」

「ハハハ、きっと夢だろ」

 必死に現実逃避を図ろうとしている支配人だった。



 翌日の早朝。

野鳥の鳴き声が沢山する。

綺麗な山の風景が眩しい。

「これでもう悪さもしまい。安心すると良いぞ」

「あ、ありがとうございます…。お代は払わなくても…」

「なぁに。金はきちんと払う。

おっと、わしが狸だからって偽の金なんぞ出さんからな。安心せい」

「は、はあ…」

 そして、腰につけた鞄から紙幣を渡す。

そのまま旅館を出て行く。

「狸って…どう見ても海外の若い女性にしか見えませんでしたね…」

「そ、そうだな…」

 まったくもって意味が分からない従業員達だった。



 銀杏はこうして旅館の怪奇現象を収めた。

こうやって旅しながら何度かやってるうちに噂が強くなり、みなっちなどの耳に入ったようだ。

妖怪なのに、人間の世界で怪奇現象を解決していく。

結果的にそうなっているようだ。

どうやら、人間や妖怪の世界の区別なく、生きる者の社会を楽しんでいる。

「中々良い宿じゃ。これだから旅はやめられん」

 こうやって朝から來魅の場所へ目指す。


「さて、どうやって探すかの」

 神社の青年、耿助に聞いた大よその場所。

その住所辺りにはいるが一軒一軒家を訪ねて行くのも面倒だ。

近くの交番へ行きストレートに聞いてみる。

「お巡り~。いるか~?」

「…ん?なんだい?君は?見た感じ若いけど…こんな朝からどうしたんだい?」

 そう、まだ朝の7時程度。

朝っぱらから若い娘が交番を訪ねる。

それも派手な外見。

きっと頭の悪そうな若者だと思っているだろう。

警官はお茶をズズっと一飲みして、要件を聞く。


「ここら辺に來魅という娘知らんか?」

「…らいみ?はて…?苗字さえ分かれば調べれるけど…」

「苗字か…そんなのあったかのう?」

「……分からないのなら難しいなぁ」

 長い間昔の話なので覚えてない様子。

「じゃあ、橙色のような…こう、わしみたいな明るい髪の色して真っ赤なリボンした10歳くらいの女子じゃ」

「…明るい色の髪ねぇ…。そういや最近よく見るなぁ」

「ほほう。そうか。そやつはどこにいる?」

「…お友達?」

「んー、まあ。そうじゃな。わざわざ遠い所から来た」

 淡々と進む会話。

かなり怪しげにも感じるが。

「ふーん…。よく駅前のお店にいるのを見るよ」

「ふむ。駅前か」

「駅前方向から、あっちの…ほら、畑が広がってる所があるんだけどね。地図はこれ」

 警官が銀杏を中に招き入れ、地図を一緒に確認する。


「おっけー。把握した。礼を言うぞ。ありがとうな。では」

 しっかり礼を言って、その場から去る。

警官はその派手な姿をしっかりと目に焼きついた。

若いながらどこか、高貴な雰囲気を出している。

普通の人物にはない変わった雰囲気に目を奪われたのだった。




「しっかし…曲区とは田舎よのぅ。中心から比べると山ばっかりではないか」

 來魅がいると思われる付近までやって来る。

住宅は沢山広がっている…が、大きめ道路を挟むと何もない。

というか、大きな工場が何件かあるが、工場より奥は山しか見えない。

草木だらけ。

「ふむ……どれ。少し集中してみるとしよう」

 銀杏はバス停に設置してある長椅子に座り込み、座禅を組むような体勢を取って目をつぶる。

「…………」

 ピクッと微かに頭が動く。

(ふむ……あっちの方か…)

 気配に気づいたのか、立ち上がりぴょんっと椅子から飛び降りる。

するとなぜか都合よくバスが来る。

「…わしは乗らんぞ」

 手を振って乗らないポーズ。

「あれに乗ったらまた迷ってしまう」



「フフフ…。なるほどな。ここに居るのか。たしかに大きな霊気を感じる」

 琉嬉らが住む家の近く。

電柱の上に佇んでいる。

今度こそ完璧に場所が分かったのだろう。

銀杏は両手を前に出し、術を唱えるポーズを取る。

そのままドロンッと煙に巻かれて姿を消す。



「ふあー。7時過ぎか…早くしないと遅刻する」

 目が覚めた琉嬉。

時計を見て素早く起きる。

ベッドの横には当たり前のように來魅がいる。

かわいい寝顔でまだ寝ている。

「まったく…幸せそうなヤツ。てかまた勝手に潜り込んで来たな…」

 ベッドを降り、部屋から出るためにドアノブに手をかけた瞬間、

「キャー!かわいいー!」

 母親、嶺珠の声が聞こえてきた。


 突然の大声に驚いた琉嬉は着替えずに向かった。

がその場へ行ってみるよ嶺珠が狸を抱えている。

「見て見て!琉嬉ちゃん!狸だよ!タヌキ!かわいいわねぇ」

「……いや、その前に、何で家の中に狸が…?」

 普通は狸が家の中に居るわけない。

いや、たしかにこの田舎町では狸が出てもおかしなないが。

少し混乱しかけたが、平静を保つために自分のほっぺを叩く。

「母さん?よーく考えて?家に狸っておかしくないかい?」

「ん?そう?」

「住宅街だよ?ここ」

「そうねえ…」

「おはよーってうわ?!何?その狸?!」

 悠飛も起きてやってきたが狸の姿を見て驚く。

「おお?な、なぜ狸が?」

 父親導もやってきては驚く。

彼方家が混乱の渦だ。

狸は一瞬の隙をついて嶺珠の手の中から逃げ出す。

「あ!待って!」

 スルスルと隙間のぬって琉嬉の部屋へ向かう。

「ちょ、何で僕の部屋に…」


 狸は琉嬉の部屋に入り、寝ている來魅の前に居た。

「ついにみつけたぞ…。來魅!」

 急に喋り出した狸。

「うわお!狸が喋った!!」

 当然のようにみんな驚く。

驚かない方がおかしいくらいだ。

「んあー?」

 一同の騒ぎで來魅が目を覚ます。

ボヤけた視界に琉嬉達の顔。

だが、その琉嬉達より前に狸の顔。

「……………なんだ?この狸は…?いつのまに飼ったんだ……あ、って、え?」

 さすがに起きたばっかりの視界に狸がいるのにびっくりする。

そして急に狸はボワンッと煙を出す。

狸から銀杏の姿へと変貌する。

「うわっぷ…。なんだなんだ?!突然」

「來魅!ここであったが100年目!決着をつけようぞ!」

 ビシっと指を來魅の目の前へ突き出す。

あまりにも突然の出来事に目を丸くして状況がつかめない來魅。

琉嬉達も同様だ。

「狸が…人になった」

 ポカーンとする彼方家親子。

無理もない。

狸が突然家の中にいるわ、喋りだすわ、人に変身するわで状況についていけない。

ましてや來魅を名指し。

現れたのは金髪ショートカットの美少女…。

かなり派手な姿の。

「……だ、誰だ?お前は?」


「な、なんじゃとぉ!?」

当 の來魅は誰だか解からない様子。

「いや…私はお主の事なんぞ、知らんぞ」

「な、バカな事言うな!100年封印されて頭がおかしくなったのか?!」

 來魅の両肩つかんでガクンガクン揺らしながら必死に訴える銀杏。

忘れられているのか?

物凄いショックなようだ。

「あ、あの…ちょっと落ち着きましょうよ。ココアでも飲んで」

 嶺珠が声掛け、その場を落ち着かせる。




「ぷはー。美味い。じゃなくって!來魅!わしの事忘れたのか?!」

「いや、だから…誰だ?というか名を名乗れ」

「…わしだ!銀杏だ!狸妖怪最強と呼ばれた銀杏じゃ!」

「……い…ちょう…?いちょう…。銀杏。うーん…?」

 額に指を当てて、しばらく考え込む。

遥か昔の記憶をたどり……ハッと何かに気づく。

「お前…あの銀杏か!思い出したぞ!久しぶりだ!」

「やっと思い出したか…」

「いやいや、すっかり成長してて分からんかったぞ。大人になったのう」

「そう、体は大人に…て。あれ?なんで貴様は成長しとらんのじゃ?」

「いや、100年封印されてたし」


 ……変な空気が流れる。

たしかに、100年間封印されていてほとんど年を取っていない。

來魅自身はあまり変化なかったのだ。

そもそも妖怪なので年齢による変化は大きくない。

「ああ、そうか…。お主、封印されとったもんなぁ…それは仕方ないのう」

なぜかしょんぼりする銀杏。

かつてのライバルが当時の姿と変わらず、自分は成長している。

妖怪と言えども、時の流れをひしひしと感じている。


「しかし…うらやましいぞ。すっかり大人のお姉さんって感じだな!銀杏!私なんぞ、つるぺたのままだ」

「つ、つるぺたって…自分で言うのか」

「こっちの琉嬉も齢17歳にしてつるぺたたぞ!」

「つるぺた言うな!」

 琉嬉のチョップが炸裂する。

「何も叩く事ないだろう」

「お前が人の嫌な事言うからだろ!」

「…本当の事言っただけだろう」

「このぉー。大体つるぺたの意味知ってて使ってるのか?!」

「知ってるぞー。胸がぺたんこで…」

「それ以上言うな!頼むから!」

「もごが…」

 來魅の口を無理矢理パンで塞ぐ。

「うーうー!!」

「きゃはは」

 大笑いする琉嬉。

朝っぱらから賑やかな連中。

その様子をみて少し引き気味の銀杏。

(…な、なんだ、この親しみ慣れた様子は…」


「と、とにかく僕達は学校へ行かないといけないから…銀杏って言ったけ?変な行動するなよ!」

「…なんでお主のような小娘に、釘を刺されるような事言われなきゃいかんのじゃ」

「……てか、誰なの?お前?」

「わしは銀杏。旅をしながら生きている妖怪じゃ」

「…來魅との関係は?」

「ズバリ、ライバルじゃ!」

 來魅をライバルと断言する。

その言葉に彼方家の人間は目を丸くして、止まる。


「らいばるって言ってもなぁ…。たしかに私よりは弱かったが、そこらの妖怪よりははるかに強かったのう。

なんというか、紙一重みたいなもんだ」

「フフ、100年前のわしと比べるなよ。あの時はまだ未熟だったが今はどうだか…」

 物騒な話をしている。

ライバルと言っても來魅の方が強かったらしく、銀杏が一方的にライバル心を燃やしているようだった。

來魅よりは弱かったとはいえ、互角近くで戦える。

來魅自身がそう言うのだから、相当な腕前なのだろう。

あれから100年経ってるので今はさらに相当レベルの高い位置にいるのに違いない。

再びココアを飲む銀杏。

一息つく。

「あー、よく分かったから。僕は学校へ行くから。來魅。あとはよろしく」

「おう」

「…なんじゃ、そのスルーの仕方は!」

 興奮冷めない銀杏。

その銀杏の肩をポンっと叩く手。

後ろを向くと悠飛がやれやれといった表情している。

「銀杏サン。とりあえずー、落ち着いてください。私達は学校行きますので」

「う、うむむ…」

 時刻は朝の8時近く。

「ねぇ、悠飛間に合わないんじゃないの?」

「……遅れるって学校に連絡する…。誰かのせいで」

 チラッと銀杏を見る。

「う、わ、わしのせいか…?」

「何も言ってません」

 表情には出さないが、明らかに銀杏のせいと言いたげだった。

「あーあー、僕もこりゃギリギリ間に合わないかも」

 二人はドタドタ出ていった。


 彼方姉妹は学校へ行ってしまった。

導も仕事へと家を出て行く。

残されたのは來魅と嶺珠。

「……んーで、銀杏。お主は何しに来たんだ?」

「何しにって、來魅に会いに来たのじゃ」

「会ってどうする?」

「もちろん、貴様を今度こそ倒す」

「……うん。まあ。私はもう既に一度倒されたけどな。」

 また銀杏が止まる。

「は、はあーーーー?!倒されたって…無敵状態のお主がか?」

 來魅が負けたという事実が信じられない。

頭が大混乱の銀杏。

「まぁー。正式には琉嬉達にだがな」

「琉嬉達って…さっきの娘っこか?」

「そうだ」

 銀杏はまたまたフリーズしたかのように、動きが止まり、何かを考える。

考えて考えて、口を動かす。

「ようする、に。わしが倒す前にお前は負けてしまったと?」

「おう、いえーすいえーす。そのとーり」

「………なんてこった」

 ガックリ肩を落とす。

誰も倒したことない最強妖怪を打ちのめす。

銀杏は生気がなくなったように、おとなしくなる。

顔は今にも泣きそうだ。

「まあまあ、元気出して?銀杏ちゃん」

 やさしく声をかける嶺珠。

「…すまない。少し外に出る」

 そう言い、外に出て行く。



 トボトボ外の公園を歩いていく銀杏。

どこかうわのそら状態。

「オイ、待て」

 來魅が後から追いかけてくる。

「……來魅」

「彼方家は五大家のひとつで、琉嬉はその中でも抜きんでて高い霊力を持つ者だ」

「五大家…來魅を封じた人間の中でも最強部類の霊能術者の家系じゃな」

 さすがに銀杏も知っている。

それだけ驚異的なのだろう。

「銀杏。そんなに落ち込むな。琉嬉の力が反則的なだけだ」

「…反則的?」

「たしか…真霊気とかって言ってたか。全ての霊気など無効化してしまうらしいぞ」

「…あの小娘がか?」

「おう」

 來魅は一通り復活した後の話をした。

銀杏はそれで納得したのか、落ち着きを取り戻す。


「まあ、宝玉さえなければ負けてはいなかったとは思うがな」

「なるほど…真霊気…噂に聞き及んでおる。

どんな術も通用せぬ、最強の霊気術じゃとな。

なるほど…あんな小さな小娘が…」

 妖怪の中でもじわじわと広まりつつある、話。

勿論、銀杏の耳にも入って来ているようだ。

事実妖怪達が時々、その力を狙って襲ってくる。

仕方なく祓っているし、來魅も手助けしてる。

「まあ、その話は置いといて。わしとの勝負じゃ!」

「いや、なんでそういう話になる?」

 さすがの來魅も銀杏の強引な話の進め方にツッコミを入れる。

どうしても、銀杏は來魅と戦い、勝ちたいようだ。

「フフフ…。宝玉とか真霊気?とかはズルいだけじゃ。そんなもん頼らんくても勝つ!」

「…どうして、お主はそういう真っ直というか…バカ正直というか…」

 嫌々ながらも仕方なく銀杏に付き合う事にする。

「さあ、勝負しろ!」

 銀杏は旅館で見せた木の葉から変化させた棒を出し、構える。

全身から放たれる妖気。

來魅は昔とは違う強さを感じ取る。

100年前とは違う、銀杏の姿に。

「ほほう…。S級妖怪って感じだな」

 仕方なしに來魅も構える。

少しずつ人の気配も増えてくる公園。

それをお構いなしに二人は戦闘体勢に入っていた。


 だが、來魅は肝心な事を忘れていた。

右腕の数珠を見せる。

「なんじゃそれは?」

「琉嬉のかけられた封じの術だ」

「ふ、封じの術?」

「これのせいで普段は全力を出し切る事が出来ん」

「………んな、なん…じゃと?」

「せいぜい、5分程度なら…」

「なっ?」

 勢いよく飛び掛かる來魅。

銀杏は咄嗟に反応して、ガードする。

「ぐっ?!どういう事じゃ?」

「後で教えてやろう」



 激しい霊力のぶつかり合いが起きていた。

近くの神社に住む妖怪、陽宵。

その霊力の存在に気づいてた。

「な、なんですかこの高い霊力は…?」

 気になってそちらへ向かう。



「フフフ、こうして100年ごしにまた戦えるのも嬉しいぞ!」

「…まあ、そうだな。単体で私といい勝負できるのもそうそういない」

 既に戦いは始まっていた。

凄まじい攻防。

普通の人間では目では追えない程の動きだ。

銀杏は接近戦を好む。

來魅は反対に距離を保ちながら戦う。

お互いに対照的の戦い方だ。

朝早くからとんでもない光景をみる通りがかりの人間達。

誰もが夢だと思いその場をすぐ逃げ去っていく。

「おとなしく…してろ!」

「それはこっちの台詞だ」



「くぅ…なぜだ?なぜ…勝てない…」

「フハハ、100年封印されてたからって、なめるなよ」

 いつのまにかついていた勝敗。

またもや來魅の勝利で終わったようだ。

「100年経ってもなぜじゃ…」

「それは、私が毎日進化してるからだな」

「進化…じゃと?」

 実はかなり適当な事を言っている來魅。

とはいえ、復活してからもわずかの間、いろんな出来事があった。

それに対応していくため、來魅なりの努力があった。

短い間にも高い経験をしているようだ。

普段霊力を封じられてるのにも関わらず、あっという間にかたをつけた。

封じられてるからこその、力ない時でも対応する能力。

それを得るためにいろいろ努力をしているらしい。




 その頃学校へ行った琉嬉は…。

「あ、メール着信してた」

 メールのは耿助からだ。

内容は、金髪の少女が來魅を捜してる、という内容。

今更ながら琉嬉は銀杏の事を言ってると確信する。

…メールは先日着てた模様。

琉嬉はまったく気づかないままとりあえずスマホを確認しないで、持ってただけ。

なので、メール着信も今気づいた。

ここ最近テストシーズンだったため、いろいろと面倒だったのだ。

「……これは…。気づかなかった僕も悪いのか?

てか、重要なんだからメールじゃなくて電話にしてくれたっていいのに…。耿助さん…」

 どこか、抜けているというか、無神経というか、肝心な部分が少し足りない耿助。

決してわざとじゃないのは分かるが、どこかしら天然っぽいとこがある。

いや、もしかして本当にわざとなのかもしれない。

あの男ならやりかねない…そんな気がしてくる。

「んー…。來魅なら大丈夫だろ」

 琉嬉は特に大きく気にするコトもなくテストに向かう。

そう簡単に來魅は負ける筈もない。

ある種の信頼がある。

(…そういえば封印術したままか…でも問題ないだろ)




「ただいま…、て、うお!」

 悠飛が先に帰宅する。

自宅に入るとぐったりした姿の銀杏と來魅。

少々ボロボロ状態。

銀杏は大の字状態で寝ている。

「ど、どうしたの?」

「おう、悠飛。お帰りだ。ま~、見ての通り。今まで戦っていた。丁度帰ってきたところだ」

「今までって…何時から?」

 來魅はチラっと部屋の掛け時計を見ながら答える。

時刻は午後4時ちょっと前。

「お主達が家出たくらいだから…ざっと、6時間以上か」

「へ、へぇ~……。さすが上級妖怪同士だね…」

「まぁな。しかし、コイツそのまま疲れきって寝てしまった」

「まあまあ、疲れちゃったようだから、そっとしとこうね」

 優しい嶺珠。

戦いの事はまったく気にしてない。

「あれ、でも來魅って封印術されてるんじゃなかった…?」

「おう、これか?ま、僅かな間だけ全力で戦える。時間を何回か置いて何度も対戦したのだ」

「へぇ…」

 銀杏の姿を見る。

寝顔は自分達とあまり変わらないような、中高生くらいにしか見えない。

「しかし……。この場所じゃあ、ちょっと…」

 悠飛はそのまま銀杏を抱き上げ、自分のベッドへ移す。

「軽っ」



「ん……ここは…」

 目を覚ます銀杏。

ガバっと勢いよく体を起こす。

その瞬間。

「うぐっ!?」

 ガツンと何かに頭をぶつける。

頭を抱え悶絶する銀杏。

「うぐおぉ…」

「いだぁ~い…」

 ぶつけたのは悠飛の顎だった。

その悠飛も顎を押さえながらのたうちまわっていた。


「まったく。お主はいつも勢いよすぎだな」

「…うるさい」

 悠飛の部屋で目を覚ますのを待つようにしていた悠飛と來魅。

窓の外はもう真っ暗だ。

午後8時程度。

「ああ、わしはあのまま寝て…」

「力尽きて寝てしまったようだな。まだまだ私には及ばないな」

「くぅ…。まだ届かないというのか…」

「…いや、あの來魅と6時間以上戦ってただけでもすごいよ」

 すっかり肩を落として元気なくしている銀杏。

來魅に勝てない事に落ち込んでいるようだった。

「…落ち込んでいても仕方あるまい。わしはこの街にしばらくいる事にしよう」

「え?」

「え?」

 悠飛と來魅は同時に声を出す。

「この街は楽しそうじゃ。しばらく滞在するぞ」

「……お前もそう思うだろ?この街はいいぞ!」

「妖怪も多いみたいじゃしな!」

「…來魅クラスの妖怪がまたこの街に…。妖怪側も住み心地が辛そうだ」

 悠飛は妖怪にも同情する。

「それはそうと、この家は妖怪のにおいがするのう」

「んー?私がいるからじゃないか?」

「いや、來魅じゃなく、そこの男からじゃ」

「……いや、私男じゃないし」

「…へ?」


 まんまと勘違いした。

どうみても女子制服着てるのに男だぞずっと思っていた銀杏。

悠飛はすでに間違えられる事に諦めていた。

「いやいや、すまん。女子おなごじゃったか。いやはや、すまん」

「…もう慣れてるから…」

「しかしじゃな、お主から妖怪っぽいにおいするんじゃが…人間じゃないのか?」

 何かとするどい洞察力。

「ああ、やっぱり解かる人には解かるんだね」

「私も少し気になってたぞ」

 來魅も気づいていたようだ。

「いずれ解かる事だと思うけどね…。私は「雪女」の力をもらったんだ」

「ほう…雪女と」

「ま、それで妖怪みたいな妖気放ってるんだと思うよ」

 それ以上の事は何も語らない。

二人も深く聞かない。

「ふむ…雪女のぅ…。この前立ち寄った町にも雪女いたのう」

「へぇ…」

「3人とも~、ご飯食べなさーい」

 絶妙なタイミングで嶺珠の呼び出しが入る。

「はーい」


 少し遅めの晩飯。

その晩飯中に琉嬉が帰ってくる。

少し遅くなった理由は今度の修学旅行での会議について少し参加してきた。

生徒会方面での。

すっかり生徒会の役員みたいな状態になってしまってる琉嬉。

影のリーダーみたいになってしまったようだ。

部室が生徒会室と隣同士なので、どうしても行き来して話が入ってくる。

「あれ?まだいたの?」

 銀杏の姿がある事にすぐ気づく。

しかも、なぜか一緒にご飯を食べている。

「ふふふ。しばらくこの街にいる事にしたのじゃ。よろしくな」

「……マジで言ってるの?」

「だとさ」

「…ウチに滞在するのはなしだよ。來魅に加え上級妖怪が二人も居るのは…」

「まあまあ、固い事言わないの。琉嬉ちゃん。銀杏ちゃん、しばらく居てもいいからね」

 どこまで優しいのか嶺珠。

導もにこやかに頷く。

二人にとっては子供が増えたように少し嬉しいのかもしれない。

「いやいや、ご両親。それはさすがに無理されては…」

 遠慮する銀杏。

だが、

「大丈夫大丈夫」

 手でOKのサインだしながら言う嶺珠と導。

「何が大丈夫なんだよ…」

「ふむ。ではお言葉に甘えさせてもらうとするかの」

「あああぁ……。もう、父さんも母さんも…」


「銀杏。言っとくけど…暴れたりしないでね」

「ふふ、何を言うのじゃ。わしがそんな節操ない輩と一緒にするではない!」

 胸を張って威張る。

(…どこか來魅と似てるヤツだな…)

 トントンッと窓を叩く音。

その音にびっくりする琉嬉達。

「なんだ?」

「あの~…」

 か細い声が聞こえてくる。

琉嬉が窓を開けると以前神社で会った妖怪の陽宵の姿があった。

「陽宵さん?」

「はい~…どうも~…」

「どうしたのこんな夜中に?」

 少し強張った表情している。

「いえ…妙に大きな霊気を感じたものですから…辿って来たら琉嬉さんの所に…」

「大きな霊気?」

 そそそ、と静かに入ってくる。

「あ、やっぱり………」

 やっぱりと言う陽宵。

「む?誰だ?そやつは」

「わ、私はこの地に住むあやかしでして…陽宵と申します」

「ほほぅ。なんだ、なかなか強い妖力を持っていそうじゃないか」

「戦うなんてぬかすなよ」

 取り敢えず琉嬉は銀杏に釘を刺しとく。


「こ、この方達は…妖怪ですよね?それもかなり強力な」

「私はどうか知らんがこっちの狸はそこそこ強いぞ」

「そこそことはなんだ!」

 すぐぶつかり合う二人。

「…ハハ、ありがと。陽宵。大丈夫。こいつらはバカみたいに強い妖怪だけどバカじゃないから」

「なぬ、どういう意味じゃそれは!」

「…イチイチ面倒な奴だのう…」

 真っ直ぐ過ぎる銀杏の言動。

それに合わせるのもさすがの來魅も面倒になってきたようだ。

「…まあ、大丈夫だから。陽宵さん。安心して戻っていいよ」

「それなら…お邪魔しました~」

 頭を深々と下げ、近くの神社に戻っていく。


「あやつは何者じゃ?」

「近所の神社に住んでる妖怪だよ。神格化された…ちょっと頼りないけどいい妖怪さん」

「ふむ。よもや神社に住んでる妖とは興味深い」

「珍しいの?」

「そうじゃな~。全部の神社にああいった者がいるとは限らないじゃろ?」

 耿助の神社を思い出す。

「たしかに」

「珍しいっちゃ珍しいやっちゃのう」

 お茶を飲みながら言う銀杏。

非常にマイペースだ。

「…そりゃ、こんだけ強い妖怪が二人も居たら陽宵さんも驚くよね…」

 琉嬉も続いてお茶を飲む。

「あやつ……小物っぽい雰囲気を出していた、結構な上物じゃ」

「そうなの?」

「神社などに神聖なる場所に住めるというのは、余程の霊力を持っておらんと耐えれんからのう。

この地域が守られてるのも頷くわい」

「へぇー…そうなんだ」

 なんとなく納得する。


「さて、お言葉に甘えて、よろしゅう頼むぞ。彼方の者よ」

「あー、はいはい。よろしくね…」

「父さんも母さんも人が良すぎるね…」


 結局しばらく銀杏の寝床となった彼方家。

突如現れた狸妖怪娘の銀杏。

來魅と同格とされるランクの妖怪を二人も預かるような形となる。

敵とは違うが、どうも落ち着ける状態ではない。

今後の生活にどう響くのだろうか…。

琉嬉と悠飛は気が気でしない。


 何事もない事を祈るばかりだった…。



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