表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第六章   ~秋季心霊編~
32/92

#32 メロンと廃墟

 本当に、大金持ちの気まぐれは面倒くさい。

面倒だが、お財布には優しく旅行が出来る。

お金の事は考えなくていいが、このテンションについていくのが面倒だ。

「いやはや、見事に落ち着いた風景だねぇ~」

 発言のとおりの落ち着いた風景。

それもそのはず。

何もない…というかかつて栄えた探鉱都市。

今は人口がピーク時から減り続ける事40年近く。

10万人も暮らしていた都市がいまや、数千人程度。

廃屋が至る所にある。

どれが人住んでるのか、住んでないのか、分からない程朽ち果てている建物が多し。

決してここだけではない話だが、時の流れとは残酷でもある。


 琉嬉達がみゆに連れられて来た場所。

紛れもない、炭鉱町だ。

その名残があるような、坑道らしきものやレール後、トンネルみたいなもの…。

ちらほら見えてくる。

と言いつつ、炭鉱業は今の時代はもう栄えてない。

炭鉱でかつて栄えた町…と言う訳だ。


 ここにやってきた理由はみゆはまたお得意の「港咲」家としての仕事。

そのお手伝いをして欲しいという理由。

それにまた琉嬉達が駆り出されたという話だ。

今回同行メンバーはみゆを中心に、琉嬉、來魅、凛夢、そして専属メイド正木さん。

護はがしゃどくろの一見依頼、体調が万端ではないので今回はパス。

一応、他のふかしぎ部員達にも声をかけたらしいが

何かを察したのか、断ったという。

そこで、暇な妖怪來魅と、これまた暇そうな凛夢を誘ったというわけだ。

そもそも、みゆも文化祭の時に腕を骨折した。

今は治癒術で回復を早めて今はギプスなどしなくていい程。

とはいえ、しばらく安静していたのもあるので腕の筋肉は多少落ちているとみゆは言う。

「少しはリハビリかねないとね~」

「…あの時から二週間くらいしか経ってませんけど…」

 そう。

まだ二週間。

そんじゃそこらじゃ、怪我は治せないものだ。

「んで、こんな寂しい所まで連れてきて今回は何を企んでる?」

「企むなんて人聞きの悪い…」

「いつもの事だろう」

 來魅にまでツッコまれる始末。


「今日の目的は何?」

 ぶっきらぼうに凛夢がみゆに聞く。

移動中は何も話さなかったみゆ。

「目的ですか~?」

「どうせ賞金稼ぎとかそんな理由だろ?」

「ふっふーん。まぁそんなトコロですね♪」

 よくよく考えれば琉嬉とみゆはライバルみたいなもんだ。

互いに、報酬をもらうかわりに、怪奇現象解決や妖怪退治といった事をしている。

その手伝いをするのはいささか、気が引ける。

とはいえ、その分の事を貰ってるわけでもあるのだが。

「……しかし、人口が少ない割にはチョロチョロ人がいるような気がするわね」

 凛夢は辺りを見回している。

「ああ、凛夢。多分それ、かつていた幽霊とか、念じゃないかな」

「……え?」

「こういう人が多く居たとこって、念が多く残ってたり、霊が結構いたりするんだよね」

「そうそう。昔、栄えた町らしいですよ~。住み心地いい所だったんだね~、って、うちのおじいちゃんが言ってました」

「ふぅん…」

 家系的に都市部育ちの凛夢にはあまりピンと来ないようだ。

水無月家は琉嬉らがいる鞍光とは違う、もっと大きな街に居た。

とある事情で港咲家の力も交えて、鞍光市に来たのだ。

ノスタルジーを感じている琉嬉達と共に、一番時の流れを感じてるのは來魅だ。

「來魅はこの街知ってるの?」

「おう、知ってるぞ。100年前程だから、さすがに今この状況より大勢の者が居た街だったがな」

「ほ~。社会勉強になるね~」

「そうか?」

「それとな、ここはめろんがうまいんだぞ」

 突然來魅が目を輝かせてメロンが美味いと言い出した。

とにかく、おいしい物があればいい。

食いっ気たっぷりなようだ。

「メロンなんてこの街で100年前から栽培してたの?」

「ねっとで調べた」

「……ああ、そう…」

 相変わらず情報集めはネットでの収集。

來魅は時の流れた分を取り戻すためにいろいろ頑張っているようだ。

現代社会の知識をインターネットなどで得ていく。

「メロンか~。じゃあ、あとで買ってこようか~」

「おうー!」

「ここのメロンって高いんじゃない?さすが金持ち…」

そう思った矢先。

「そのかわり、ちゃんとその分やってもらうコト、してからね~」

「…報酬代わりかよ」

「だーいじょぶ。みんなの分だけじゃなく、家族分とかも入れますから」

 メロンを報酬にするみゆ。

相変わらず突拍子もない発言だ。

「はぁー、面倒くさい女ね。みゆ。お前って本当に」

 もはやあきあきしている凛夢。

きっと琉嬉達と出会う前もこういう事が何回もあったのだろう。

それでも金持ちの道楽に付き合う凛夢もある意味偉い。




「ねえ、どこまで進むの?もう朽ち果てた家とかしか出てこないよ」

 車で走る事30分。

「えーと、正木さん、この辺だよね~?」

「はい。お嬢様」

 車を止めた場所。

人気がない、草原が広がる綺麗な風景。

皮肉にもこの日は素晴らしくいい天気。

秋の晴れ空。

冷たさが心地よい風が吹き抜ける。

そして所々に見える廃墟達。

このコントラストが絶景となる。

「しかし、みゆも好きだな。こういう場所」

「へへへー」

 そう言いながらみゆは写真に収めていく。

「なんというか、10代の女の子らしくない趣味ね…」

「唯一の趣味が格ゲーな女の子みそうそういないと思うよ」

「……あ?なんか言ったか?人形小娘」

「別に~。死神女」

 こっちはこっちで睨み合いが始まる。

どこ行ってもにぎやかな二人である。


「そろそろ真の目的を言ってくれてもいいんじゃない?」

 しびれをきらしたのか、琉嬉が問い詰める。

ずいっと顔を近づける…つもりだったが、背が低いのでみゆの胸元にしか届かない。

「お、おおぅ、目的ねぇ」

「そ、目的」

 みゆはそのまま考え込むように黙り込む。

「…みゆ?」

「んー、実はですね~。ここの地域にはある「妖怪」がいるって情報を手に入れまして」

「……まーた妖怪ですか…」

「それが仕事なんじゃないの?あんたも」

「…それはそうだけどさ」

「ま、いいじゃないですか。手を貸してください」

 珍しく頭を下げるみゆ。

結局はまた厄介事。

とはいえ、琉嬉もこういった事を仕事としてやっているので、おこぼれをもらうのもありかと思う。

そんな程度の考えだった。




「この辺かなぁ~」

 少し歩いた所に何やら怪しげな居住区みたいな場所に出る。

普段人など来ないだろう。

こういった廃墟好きなら好んで来そうな場所だ。

ポツポツと建物があるが使われてそうもない。

それが分かる理由としては入り口前も草で覆われている。

普通なら道がある筈だが人が来ないためか踏み固められる筈の道が

見事に草が生えていて道が分からなくなっているからだ。

「うおっ、こんな所入っていくの…?」

「何?凛夢?怖いの?」

「…怖くはないけど、靴が汚れる…」

「ああ、たしかに」

 工場みたいな大きな建物。

みゆらはそこへ入るが、足場が水浸し。

中々水がひかない状態なのだろう。

「あーあ、こんな場所に来るんだったらもっと装備いいのにしとくんだった」

 ちゃっかりみゆは水にも強そうなブーツだ。

それに比べ、琉嬉や凛夢は至って普通のスニーカー。

あろことか凛夢は下は長ズボンだが、上はひらひらな可愛らしいブラウス。

(……もっと動きやすいのにしとけば良かった…)

 これじゃ水溜まりに足をうっかり入れてしまうとひとたまりもない。

「まったく…こんな所に来るなら先に言えってよな」

 プンスカ凛夢。

怒ってる事がもはやデフォだ。

「…お前、いつもそんな怒っててストレス溜まらない?」

「う、うるさい!」


「うっわ…暗くて見づらいな…。昼間なのに」

 光が行き届かない、そんな場所。

ジメジメしてて嫌な感じだ。

時々、人影みたいのを見かける。

おそらく、霊。

特に害もないし、着いてくるのもいない。

これといって特に問題ないように思える。

やはり、建物というのは人が住むもの。

浮遊霊などが無意識的に建物に住み着いているのかもしれない。

霊といえども建物だと居心地がいいのだろうか。

そんなこんな考えながら琉嬉はみゆらの後に続く。

「しっかし、なんだって、休みの日に女子高生達がこんな廃墟に…」

 ブツクサ言う凛夢。

まったくもってそのとおりだ。

普通の女子高生には当てはまらないのがみゆ達。

「あはは~」

 そのみゆが何故か笑い出した。

「どうした?」

「間違えました~。ごめんね~」

 その瞬間琉嬉の十八番チョップがみゆの頭に命中していた。



「人間、間違える事もありますって~」

「お前の場合は何故かかなりムカつく」

「ええぇ~なんで~?」

「…靴汚れた意味はなかったのか…」

 どうやら本気で目指す場所を間違えた様子。

琉嬉も凛夢も呆れ返って怒るのもあきらめた。

毎度毎度起こす天然ボケにはイマイチ慣れない。

この天然ぶりをいつも付き添っている正木さんは凄い…。

そう思っている二人だった。

「正木さん、ちょいと携帯を」

 みゆは今回一緒に同行している正木さんの鞄からスマホ携帯を取り出す。

こんな辺境な地では電波も行き届いてない。

何をする気なのか?

「あ…、ここじゃなかったのね。もっとあっちだ」

 スマホにメモしていた内容を見て理解し直す。

どうやらかなりのうろ覚えで来てたようだ。

「お前なぁ……。もっとしっかりしてくれ…」

「最初っから地図やら何やら見ながら来れば良かったじゃない…まったく」

「えへへー、ごめんごめん」


 またまた歩く事15分程度。

よく分からない山奥地。

かろうじて道があるかという具合。

道といっても草がボーボーだが、タイヤの溝後みたいのが続いている。

「ねえ、車の通り道みたいのがあるね」

「…こんなトコに車で通るの?不思議な人間もいるもんね」

「まったくだ」

 歩くのも苦痛になってくる。

少々険しい道だ。

それでも楽しそうについてくる來魅。

本当に、いろんな事に興味津々な顔して日常を生活している。

琉嬉は毎日一緒に顔あわせているので良く分かる。

子供っぽいとこもあるが、いざ話してみると150才以上だけあって大人な会話もしてくる。

妖怪らしいといえば妖怪らしい。

妖怪らしくないといえば妖怪らしくない。

高級な妖怪程こういうのが多いのだろうか。

ある種の疑問が増えていく。

來魅に関して言えば、非常に通常に人間と違わない容姿をしている。

あえて言うのなら、非常に明るい金髪…というより橙に近い髪の色。

本当に妖怪か?と疑ってしまうくらいだ。

「…來魅」

「ん?どうした?琉嬉?」

「いや…いつも楽しそうでいいなと思って」

「おう、楽しいぞ。お前様達と出会ってから毎日が楽しいぞ」

「……そりゃどうも」

 おかしな会話な二人。

それを聞いていた凛夢。

「…二人で何喋ってるの?」

「なーんでもない」

「…フーン」


 そうする事ほんの2、3分。

「ここだーここだー、ホラ、この写真。絶対そうだ!」

 スマホの画面に出ている廃墟の写真。

目の前に立ちはだかるようにある廃墟。

ほとんど一致している。

みゆの目的地の廃墟のようだ。

「うひゃ…。これまた凄い廃墟だね」

こういった場所はある程度慣れている琉嬉も思わず後ずさるような雰囲気。

「そうそう、ココ、ココだよ~」

「おー、凄いなぁ。まさにお化け屋敷だな」

「お化け自身だろうが…來魅が」

 中に入ろうとも、正面入り口は強力なバリケード状態。

正面突破は無理そうだ。

画像では正面の入り口は開いている。

関係者か誰かが封鎖したのだろうか。

入る所ないのだろうかと辺りを見て回ってみる。

窓という窓も板張りだ。

何か重要な建物なのだろうか?

こんな周りには何もない状況の山奥にポツンとある大きい建物。

不思議で仕方ない。

「ねえ、みゆ。入れないよ。てか、入ろうと思わないけど。どうするの?」

「うーん。困った」

「…てかさー。みゆの本当の目的教えてよ」

 凛夢がより深くみゆを問いだす。

いい加減しびれをきらしたようだった。

「……仕方ないね~。教えてあげましょう」

「回りくどい奴だな」

 くるっと後ろに居た琉嬉達に体を向けて、両手を広げる。

その両手は廃墟に向けている。

「この建物は昔、港咲家が持っていた土地と建物なのだ!それを意味する理由は解かるかな?」

 楽しげに言うみゆ。

「……いや、分からんら早く言って」

「フフフ……」

 ズガッと琉嬉のチョップがまた命中していた。



「かつて港咲家が管理していた数々の屋敷の一部です。なにせ、40年も以上前ですから現状はこのような状態ですが」

 代わりに説明してくれる正木さん。

さっきの琉嬉のチョップが痛いのか頭を抱えたままうずくまっているみゆ。

そのみゆを無視してあえて何も言わず説明だけする正木さん。

いつになく冷静だ。

「ちなみに画像は5年ほど前のです」

 5年前の画像…。

正木さんはそう言う。

「そうそう、その理由を今解き明かします」

 復活したみゆ。

その言葉を発したまま正面ではない、裏手の入り口へ回る。

草木が邪魔くさくてとても進めれるような状態ではない。

そこを根性で進む琉嬉達。

「んなっ、邪魔な枝め!」

 小さな枝が顔に当たったりして痛い。

その邪魔な枝を手でなんとかよけながら進んでいく。

やっとの事でついた裏口はしっかりと戸締りされている。

しかし、よく見ると何やら札のような物が張り付いている。

「……これは?結界の札?でも日本ではあまり見ないような感じだ」

 琉嬉は結界の札だとは感づくも、日本式ではないような札に首を傾げる。

(…どういう事だ?)

「これは日本ではあまりないと思うよ。うちのは中国から伝わる術式だし」

「ふむ…」

「こう見えても中国人と混ざった家系だし」

「ほう…。って、そうなの!?」

 知らなかった琉嬉。

一層驚く。

「おじいちゃんがクォーターって言ってたかな?

私自身は純粋な日本人みたいなものですけどね

「くぉーたーって何だ?」

 來魅はあまり聞き慣れない言葉に反応する。

純粋の妖怪である來魅にとってはあまり馴染みがない。

「クォーターてのは四分の一だけ異国の血が混じっている人。たとえば祖父か祖母が異国の人とかかな」

「ほう~」

 祖父がクォーター。

でも日本人も中国人も見た目はあまり変わらないのでみゆも日本人にしか見えない。

家系の特性として、中国から伝わる術を会得している。

「さて、この結界を解いて…」

 いとも簡単に札を剥がして扉を開ける。

しかし開きもしないドアノブをガチャガチャする。

「あ、あれ?開かないな」

「お嬢様。鍵をお忘れです」

 正木さんがそっと鍵をみゆに手渡す。

「ありゃりゃ。鍵を忘れてたよ」

「…お前は本当に…。まったく…」

 そのままみゆはそっとドアを開ける。

開けた瞬間、異様な霊気が流れてくるのを感じる。

「う…わ……。これは…」

「さ、行こう」




 裏口から入った5人。

今回は來魅を含んだ能力者精鋭達。

正木さんだけは未知数だが、余程の大物じゃない限り負けるような人員ではない。

港咲家がそれなりに管理してたせいか、割と小奇麗だった。

物はほとんど残ってはいないようだ。

必要最低限の家具などが残ってるだけ。

こっから持っていくなら持ち前の資金力で新しい家財道具を買うだろうし。

「おー、これまた…と、思ったけど霊らしきなものはいないな」

「そうね…」

「あのさ、こういう所って普通の廃墟好きとかが入ってくるんじゃないの?

ここも別に侵入されても珍しくはないとは思うんだけどさ」

 琉嬉が知り得る知識。

「さぁ、どうでしょうね~。結界されてるから入っては来ないかと」

「結界ねぇ…。一般人にも通用するのかしら?」

「試した事ないから、分かりません」

 キッパリ。

「少なからず、一般人というか、霊力のない人間でも影響はあると思うけどね…。

気分的に避けてしまうとか、体調を悪くさせたりとか」

「そうなのか?」

「ま、普通の人間はこんな所入ろうとはしないよ」




 ずんずん進んでいくみゆ。

埃や、枯葉、木の枝。

良く分からない散乱した小物。

時折、避けながら進まないと歩きづらい。

廃墟にしては綺麗な方だ。

以前行った病院はそれはひどい状況だった。

「しかし……大きいな。どうなってるんだ?港咲家の財力は…」

「アンタの家も大きいトコなんじゃないの?」

「…うちはただの一般家庭だし。お寺は従姉妹の方」」

「あ…そう」

 互いに無言になる。

たいしか会話も盛り上がる事なく静かになる。

そうしてるうちに広間につく。

ガラーンとして静かな空間。

「…ん?何かいるのか?ここ…」

 來魅が何かに気づく。

「おー。來魅ちゃんさすが」

 みゆだけ奥に進み、さらなる扉に手をつける。

そこだけ頑丈に札が貼られ結界が強まれている。

重要な部屋なのが分かる。

「…なんか、がしゃどくろの時に似てるね」

「いんや~、あんなバカみたいな強い妖怪じゃないですよ~」

 みゆはそのまま結界を解き、さらなる扉を開ける。


 部屋の中は案外狭く、下を見ると陣が描いてある。

その中心に箱のような物があるのが確認できる。

「なんだ?あれ…?封印?」

「いえーすいえーす」

 なおも近づいていくみゆ。

「何をする気なんだ?」

「お嬢様は5年前の出来事を断ち切るつもりで…いや、断ち切りに着たのです」

 5年前の出来事とは?

何を意味するのか。

正木さんが唐突に言い出す。

みゆは特に何も言わない。

凛夢だけ、察しがついた。

「…なるほどね……みゆ」

「何?どういう事?」

「ようは、コイツを倒してほしいってコト!」

 バンッと箱をおもいっきり開ける。

そうするやいなや、紫色の煙のような霧が箱を中心に立ち込める。

さっきから感じていた妖気が強まる。

「フハハハハ…!誰だ?我を封印から解いた者は!」

「やあ、鬼さん。お久しぶり」

「ん?この霊気の感じは…港咲の人間か…?」



 出てきたのは鬼…のような妖怪。

いや、鬼なのだろう。

琉嬉も鬼自体を見るのは初めてだ。

かなり強力な妖気を感じる。

外見は鬼のようだが、毛むくじゃらで獣のようだ。

尾もある。

頭に日本の角。

顔は人とは違う、迫力あるいかつい顔。

背丈は2mくらい、そこまで大きくはない。

が、小柄な人間の女ばかりの面子ではさすがに大きい。

「ほう……鬼の一種か」

 來魅がニヤリと笑みをこぼす。

多分來魅にとっては格下なのだろう。

だからこぼれる余裕の笑み。

だが、來魅は動く様子はない。


「いーい?來魅ちゃん。ピンチにならない限り、手を出さないでね」

「ふむ。お主の考えがあるんだな」

「そ。あたしの手で決着をつけたいから」


 力強く言うみゆ。

何か因縁があるようだ。

「結構強そうだな…」

 凛夢が大鎌を手に寄せる。

戦闘準備はばっちりだ。

「フフフ、鬼さん。昔のあたしだと、思うなよ~!」

「…誰だか知らんが……、やってみろ!」

「…??なんだか分からないけど…戦えばいいの?」

 琉嬉、一人だけ状況の半分が解かっていなかった。

解かるのは、みゆとの因縁があるという事だ。



「てぇいー!」

 みゆの札攻撃を難なく防ぎきる鬼とよばれる妖怪。

「そんなもんで倒せると思うな!」

 大きな手で繰り出すパンチ。

それを軽く受け止める凛夢。

「ふん、デカ骸骨に比べると蚊みたいなもんね!」

「何を~」

 力を入れる鬼。

力だけでなく、妖気を送り込む。

瞬間、凛夢とみゆは吹っ飛ばされる。

「うお!」

「いだだだっ!」

 凛夢の下敷きになる琉嬉。

「重いって!どけー!」

「…重いって言うな…」


「このぉ!」

隙をついて琉嬉の攻撃。

「ぐっ!、ちょこざい子供め!」

 体に巻きつくように何枚の札が鬼に貼りつく。

ダメージはあるが、動きを止めるほどではない。

鈍った動きながらも反撃を食らう琉嬉。

「いったぁ…。てか、子供って…言うなー!!」

 すかさず反撃に出て肉弾戦に持ち込む。

「ぐっ!」

 素人の目には見えないような速い攻防。

鬼の攻撃は霊力で強めた手足で防御。

攻撃も同じ。

「ちっ、僕とのリーチの差があるなぁ…でも動きの早さなら!」

 小柄を生かして鬼の懐に入っては離れる。

ヒットアンドアウェイな動きをする。

時々近くの椅子などを投げつけては体勢を整えていく。

まるで昔流行ったアクション映画のように。

「やるねー琉嬉先輩。私も!」

 みゆも参戦する。

二体一の格闘に。

みゆは何かの格闘技の型だろうか。

綺麗な動きをしている。

パンチ、キック、全てが華麗に。

しれに、とにかく回転する。

無駄かのように動くその動作は実際にはあまり隙がない。

「みゆ!その動きは…カンフー?」

「そうそう、港咲家は代々功夫をベースにした格闘術でっす!」

 そして飛び上がったと思ったら両足で強烈な蹴りをかます。

「ぐほっ!」

 見事に顔面ヒット。

さすがによろける鬼。

「おいおい…」

 やや乗り遅れた凛夢。

そしてだるそうにみている來魅。

「おーい、はよう片づけんかー」

「うるさいおちびちゃんな事…仕方ないね」

 少し強めの霊力を練る。

いきなり大技を繰り出そうとする琉嬉。

「うお、こんな狭い所で使うな!!」

 凛夢がその場から飛び込むように離れる。


 ドガンッ。


 廃墟の一部が崩れた。

「おっほー、琉嬉先輩やるぅ~♪」

 なぜか楽しそうなみゆ。

「大丈夫か?凛夢とやら」

「え?あ、大丈夫よ!」

 凛夢が避けた所には來魅がいた。

來魅が飛んできた破片を防護壁で弾いてた。

「ふふ、なら良い」

「んじゃ、私も…と~…霊法陣!」

「!?」

 みゆのが床に手をついた瞬間、鬼の体を包むように光が纏わりつく。

「この程度で…!」

「もう一発強力なのをお見舞いするぞー!」

 さらなる攻撃を仕掛けるのだろうか?

この一瞬で新たな陣が出来ている。

(……みゆのヤツ…この一瞬で…。凄い戦いのセンスだ!)

 琉嬉はみゆの援護に入りながら普段から想像つかない性格とは思えない戦い方に、驚きを隠せない。

みゆは霊力を送り込み、陣を完成させ技を解き放つ。

「魔封塵!」


 ドゴォンッ!

と、さらに強い爆発音が響き渡る。

そして、さらに廃墟が崩れてゆく。

もうどうにもなれ。

そんな感じだ。

「うぐぉぉ………この小娘どもめぇ!!」

 さらなる技を食らってもなお、耐えうる鬼。

「なめるなぁー!」

 鬼は口から強力な妖気の塊を放つ。

一発一発が強力だ。

「うわっと!」

 かろうじて避ける凛夢や來魅。

しかし、体勢を崩したままのみゆは無防備だった。

塊がみゆ目掛けて飛んでいく。

このままでは直撃だ。

「あ、やばっ」

 みゆは防御体勢になんとか入る。

その瞬間、正木さんがみゆの前に立つ。

「お嬢様、危険です!」

 正木さんは両手を前に出し、防護壁を張る。

なんとか防御しきる。

「な、なんだと?」

「打つ手は終わったぁ?おーにさん!」

「!!」

 バカでかい鎌が鬼の体を切り裂く。

血が飛び散る。

「うごぉ!?」

「あはは、正木さん、凛夢ちゃん、サンキュ!」

 いつのまに練ったのかみゆの右手には大きな霊気が込められていた。

猛ダッシュで鬼の懐へ突っ込む。

ほんの、刹那の一瞬だった。

「さあ、借りを返すよ!」

 渾身込めた一撃が、鬼の体に命中する。

まばゆい光が鬼の体から柱のように発する。

「ごぉ……?!き、貴様…」

「フフフ…強くなったでしょ?」

「お…お前は…もしかしてあの時の…子供か…?!」

「ぴんぽーん♪あたりー」

「それと絶望的な事教えようか?」

「う…。な……何?」

 みゆは來魅の方へ指をさす。

「あそこにいる方は~かの有名な妖狐・來魅様でーす。

…仮に私達に勝っても來魅ちゃんには勝てないと思うよ」

「……な、なんだと…?」

 鬼は驚愕する。

妖怪なら誰しも知っている來魅。

動けない鬼はただただ、來魅の顔を見るだけしかなかった。

「でも、その大妖怪の手を下すまでもなく…人間に滅ぼされる気分…どう?」

 ゾっとするような表情に変わるみゆ。

まるで恨みを全開にしたような、憎しみの顔。

琉嬉と凛夢はみゆの豹変ぶりに、少し驚く。

「さあ……とどめ……。鬼さんは、地獄に落ちなっ!!」

「お、おのれぇー!!!」

みゆがさらなる力を込めた瞬間、鬼は掻き消えるようにはじけ飛んだ。

跡形もなく、鬼の体は光とともに消えうせた。




「あーあ、どうするんだ?これ?」

 一部が崩れ去った廃墟の壁を蹴っ飛ばす凛夢。

「元々廃墟だったからいいんじゃないの?」

「そうか」

 ほとんど破壊王みたいな琉嬉達。

それにしても今回の敵はそれほど強い相手ではなかったようだ。

だが、みゆにとっては因縁のある敵のようだった。

「なあ、みゆ。あの妖怪って…」

「あー、あれ?あたしの背中に傷つけた本人」

「……え?」

「あー、あんまり言うのも腹立たしいんですどね。ま、ぶっ殺したからいっか~」

 能天気ながら、ぶっ殺したなどという物騒言葉を言う。

みゆは昔話を少し語りだす。



 5年前、とある妖怪退治に来た、みゆの父親。

一緒に既に戦いに参加していたみゆ。

だが、運悪く強敵に出会ってしまった。

それがあの鬼だった。

みゆの父親は油断したのか、不意を突かれやられてしまう。

その場に居合わせたみゆは交戦するが、当時のみゆでは勝てるわけでもなく

あえなくやられてしまう。

その際に背中に大きな傷をつけられてしまう重症を負ってしまったのだ。

「はぁー…なるほどね。その報復ってわけだ」

 話に納得いく琉嬉。

実際背中の傷を知っているのは琉嬉と凛夢くらいだ。

「まーそだね。今の実力なら倒せると思ったし、だめでも複数で叩きのめすっていう…」

「まったく…。なんつーか、お前らしいよ。みゆ」

 やれやれといった手振りみせる凛夢。

「みゆ。お主の気は晴れたか?」

「んー、まーね」

「あー、でもみゆ。あのとどめの技はがしゃどくろの時には使わなかったよね?」

「いやいやいや。さすがにあんなに近くまで潜り込めないし」

 とどめに使った大技。

琉嬉達が大技でも耐えた鬼を一気に跡形もなく粉砕してしまった。

まさに奥の手だ。

ただ、欠点は近距離でしか発揮できないというデメリットがある。

少々危険と隣り合わせなのかもしれない。

「なんていう技?」

「ん?「幻の月」っていう技」

「へぇ…」

「とどめは「暁のまほろば」っていうのですよ。諸君。誰がつけたのか解からないんですけどね。ご先祖様かな?」

 どうやら、自分で作った名前ではないようだ。

代々伝わる術なのかもしれない。

「よーし、んじゃ、メロン買って帰ろうか~」

「ノリが軽いな…お前ってやつは」



 結界が必要なくなった港咲家が管理する廃墟。

そのまま放置して街中へと戻る。

中心街へ来てみたが、さすがにそれなりに栄えている。

「さあさあ、おいしいメロン買おうぜい~」

「こうもあっさりした性格も凄いな…」

 底抜けな明るさのみゆに舌を巻く琉嬉。


「必要以上に明るくしてるのは、過去を振り返らないためらしいです」

 専属メイド正木さんがみゆの明るさについて話す。

正木さんもみゆに専属になってからは3年弱。

当時の事件は知らないが、一応本人から聞いてるとの事。

「あの事件で大きな傷を負ってます。

あの時間は戻らないし、いつまでも泣いてられないという、

意思の強さからああいったポジティブにしてらっしゃいます」

「はぁー…。それは凄いというか…」

「でも、あの天然ボケぶりは明るさからくるものじゃないだろう?」

「ですよねー」

 琉嬉と凛夢は声を揃えて言う。

あの天然ボケっぷりに振り回されることが何回もある。

そこさえなければいいのに…そう思う二人。

「はいはいー買ってきたよー!」

 メロン箱ごと買ってくる。

高級メロンが10個以上ある。

全部で何十万するのかもしれない。

そんな箱ごと両手で抱えて持ってくる姿は滑稽だ。

大金持ちはやる事が半端ない。

「はは、限度を知らないのか…お前は」




 帰りの車中。

夕方の日差しと廃墟の組み合わせがまた違う景色になり綺麗だ。

みゆはその瞬間も見逃さず写真に収めていく。

「ま、こういうのもありかもね」

 琉嬉もその景色に見惚れる。

「…正木さんも対処できる力あるんだな」

「いえ、それほどでも…。私は補助程度しか…」

「こういう特殊な家で働くにはそういう力必要かもね」

「……そうかもしれません」

「なるほどねぇ…」

「…うちもそうすればいいのに」

 凛夢はちょっとだけ実家の強化すべきと気にしていた。

「てっきりもっと重苦しい事になるかなと思ったけど…そうでもなかったね」

「本当だな」

 あっさりした展開にどこか味気ない気もする。

でも、変に気を使ったりしなくてよかったかもしれない。

みゆの事に深く考えても仕方ない。

そう言い聞かせる琉嬉だった。


「のうのう、みゆ。凄い動きだったの。かんふーってやつだろ?昔も似たような動きしたの居たのう」

 來魅が少し興奮気味に言う。

「それってもしかして私のご先祖様じゃない?」

「あ、そっか。みゆも五大家か」

 五大家とは100年前に戦いを交えている。

その時のを見覚えがあるのだろう。

「そうかそうかー。中国の武術か」

「でもまあ、港咲家オリジナル要素が強いらしいけどね。年々変化していくものだし」

「…たしかに」

 琉嬉の家にもオリジナルの武術がある。

基本の型は空手に近い……らしいが、基礎的な武術だけあって基本は霊術である。

足りない部分は各々好きな格闘術を取り入れてる。

琉嬉はその彼方式の武術と、独自のケンカ?術だ。

「アクション映画女優になれるかな?」

 ビシッと正拳突きのような形を取るみゆ。

「……余計なものまで殴りそうだから、やめとけ」

「多分本当にぶつけて相手がノックアウトするからだめね」

 琉嬉と凛夢二人にツッコミを入れられるのだった。



「3人とも、今日はどうもありがとう」

「まあ、役に立ったかどうか分からないまま終わったしね」

「うーうん、十分過ぎるよっ。じゃあ、メロン」

「お、おぅ」

 メロンを手渡される琉嬉。

「よし、次は凛夢ちゃんとこまでだね」

「はいよ」

「んじゃ、またね~」

 車に乗り込むとそのまま走り出す。

なんだかせわしい一日だった。

みゆの心情事でもあるのにも関わらず、随分あっさりしている。

「なーんか、しっくりこないよなぁ…」

「まあまあ、いいではないか琉嬉。みゆなりの気の遣い方でもあるんじゃないか?」

「ふーん…。なるほどねぇ。でもみゆ一人でも勝てそうなヤツだったけど」

「………過去の事もあるし、保険的に意味もあって我々を同行させたんじゃないか?」

「…なんだかよく解からないよ」

 ポンっと琉嬉の肩に手を置く來魅。

來魅の方へ目線を向くと、普段とは違う笑顔をしている。

なんだかしてやったりな表情だ。

「得意の念を感知とやらで分かるんじゃないのか?」

「…それが、あいつの場合あんまりそういうの感じさせないんだよね…。

完全に心開いてないのか、それともそういうガードする術持ってるのか」

「私らもそうだが、まだ出会って一年も経ってないだろう?時期に分かる。

それと、こうした私情事に同行させたのは、信頼してる証じゃないか?」

「そうなのかなぁ…」

 納得いくようないかないような…。

なんだか物凄くモヤモヤしたものが取れない。

メロンを貰って満足そうな來魅。

「あいつの事だから、まだ何か隠し持ってるのかもしれない。

ふかしぎ部で、一番「裏」を見せてないのは…みゆだけだ

「ほほう、そうなのか?」

「…護も、まどかも、叉羅沙も凛夢も、みーんな本性の部分を見せた。

ただ、みゆだけは……。

いいや、考えるのはやめた」

「はは、余計な詮索すると痛い目みるぞ」

 大人な事を言う來魅。

だがメロンの入った箱を持って楽しげに歩く。

その姿は小さい体と相反して可愛らしい。

(…しかし、どの妖怪も來魅の見ただけですくみ上がるな…。妖怪達からも恐れられる存在なのか…)




「ただいまなのだっ!」

 ドサっと箱詰めされたメロン箱を置く。

來魅がずっと持ってた。

妖怪だけあって力は問題ないようだ。

「な、なんだこれ?!」

 驚く彼方家の面々。

見た事ないようなメロン達に興奮冷めない。

「これは…かの有名なメロンじゃない?一個数万円とかする…」

「今回の報酬だって」

「早速頂こうではないか」

 このまま彼方家はメロンパーティとなる。

「やれやれ」


「あんまいのぅ~。めろんとやらはこんなに甘いものなのだな」

 とろけそうな顔をする來魅。

「本当ねぇ」

 頬を抑えながら笑顔で食べてる嶺珠。

「太りそうな味だね」

 悠飛が少し皮肉めいた言い方をする。

「………」

「どうした?琉嬉?」

「んー、少し考え事」

「ふむ。考え事とな?」

「なんでもないよ。気にしないで」

 隙をついて來魅の皿からメロンを取る。

「おお?!琉嬉め、この私から奪い取るなんぞ、100年早いわっ」

 人間とは到底出来ないような素早い動きで琉嬉の手からメロンを奪い返す。

「あ、コラ!」

「馬鹿言うな。元は私のだろう」

「あ、そっか」

「…時々我を忘れて変な行動取るよな…お前様」

「こらこら、二人とも。食べる時くらい静かに食べなさい」

 笑顔で注意する導。

この程度では怒らない。

「まぁまぁ、楽しそうでいいじゃない」

 もっと怒らないのは嶺珠。

とにかく、何考えてるかよく分からない母親。

変な意味で肝が据わってる。

「母さん…少しは怒ってあげてよ…」

 項垂れる悠飛だった。



 ふと、琉嬉のスマホにメールの着信が入ってるのに気づく。

みんながメロンパーティににぎやかな中、琉嬉一人携帯の画面を睨むようにみつめる。

メールの内容はみゆからだった。

『今日はありがとうございます!

最低でも琉嬉先輩には知ってほしかった事なんです。

いずれこの事はみんなに話すつもりだけど、また何かあったらよろしくお願いします!』

 内容と共に画像付きだった。

その画像は綺麗な夕焼けと廃墟が一緒になった見事な景色の画像。

「なんだよこれ~。みゆなりの礼のつもりなのか…。フフ」

 明るい性格なくせに肝心な部分をみせないみゆ。

自分の暗い部分の裏返しからくる明るさなのだろう。

琉嬉はバカバカしくも思いながら携帯を閉じ、メロンパーティに戻る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ