#31 大きいたまごの地下で
文化祭での激闘から一週間経ったのだろうか?
まるで昨日のような出来事。
琉嬉はまだベッドの中にいた。
体中がまだ痛い。
起きるのが毎日つらい。
激しい動きと、激しい霊力の消耗。
ましてや真霊気の発した後。
しばらく体がうまく動かせない。
左手だけを天井に挙げて、自分の手のひらを見る。
(結局……「がしゃどくろ」は……鳴神家代々の霊を中心に構成された…霊の集合体だったのかな…)
あれからずっとその事ばかり考えてた。
人の念はあれほどにまで強い物なのか。
鳴神家は霊術名家として栄えてきてた一族。
かなりの霊力を持っている。
だからこその強力な悪霊化したのだろう。
常々ずっとそんな考えが頭の中を廻っている。
自分の家系がもしそんな事になったら?
恐ろしくて考えるのが嫌になってくる。
「おーい、琉嬉~。起きろ~」
「……んあ…?」
「今日出かけるんじゃなかったのか?」
「……んうぅ~…にゃー」
寝ぼけてるようで、言葉がうまく発せてない。
「わっはは。にゃーってなんだにゃーって。お前様は猫かっ」
「來魅か…早いな…」
「もう昼一時だぞ」
「……そう……。……ふぇぇ?」
時計の針は午後一時。
昨日就寝したのは夜10時くらい。
寝過ぎである。
「んああー!?やっば…」
パジャマを半分脱ぎ捨てドタドタ出かける準備をし始める。
至る所でガシャンと音が聞こえてくる。
「おーおー、にぎやかなこって…」
バリッと來魅は煎餅を食べる。
「仕度は出来た…と」
「ん?姉ちゃん何処か行くの?」
アイスキャンディーを食べながら悠飛が部屋を覗く。
もう10月で寒くなってきたというのに美味しそうに食べている。
これも氷使いとしての能力持つゆえのおかげなのか。
「ちょっとこづかい稼ぎに」
「ふーん……。私も行っていい?」
「…はぁ?」
「暇だし」
「…受験勉強は?」
「それは大丈夫」
「…………ハイハイ。頭いいですね悠飛ちゃんは」
なんだかんだで琉嬉、悠飛、來魅の3人で外出する事になった。
今回出かける理由は、とあるドーム型施設からの依頼だった。
琉嬉にとっての久々の退魔師としての仕事だ。
依頼に内容はその施設に幽霊が頻繁に出てくる…といったよくあるような内容だ。
元々はお寺に舞い込んできた仕事らしいが、お寺の方はがしゃどくろの件の後始末や他の仕事が手一杯らしく、
琉嬉の方に流れ込んできた、小さな仕事である。
だが、最近は仕事的内容じゃなく、巻き込まれてしまうケースが多い。
お金にならない、面倒な出来事が。
その出来事をなんなく解決してきたが。
それを手っ取り早く、自分ひとりじゃなく仲間を集めてやっていこうとしたのがふかしぎ部。
(ま、ふかしぎ部の課外活動って考えればいいよね)
などと、気軽に考える。
案内状を頼りにドーム施設へ目指すのだった。
やってきたのは琉嬉の家からは、少し交通機関が面倒くさい所にある大型収容ドーム型施設。
形が玉子みたいなので通称、「たまご」ドームと呼ばれている。
4万人くらい収容できるそうだ。
ここでは野球やコンサートなど、イベントが目白押しだ。
昼3時頃、人が沢山歩いている。
「結構人いるんだね」
「なんだか野球やるらしいけど」
「あれでしょ?ファイヤーズが試合いっつもやってるよ」
詳しい悠飛。
スポーツは案外好きなようだ。
「あー…野球ねぇ。僕はゲームでしかよく知らない」
「やきゅうというすぽーつか。この前お前様の学校でやってたやつだろ?」
「あー、そういえばそうだね…。凛夢が大変なコトになった時か…」
球技大会で凛夢がホームランを打った。
あの時の感動と笑いは忘れられない。
「試合はたしか6時からだよね。まだ時間あるし…」
「お前ら、野球観に来たわけじゃないぞ…」
あれから事務所の方へ向かい、担当者に連絡つけ詳しい話を聞く事にする。
だが、この日は野球があるため、祓う仕事は野球が終わってからになる。
夜遅くになるだろうが、それは了承済み。
むしろ、深夜の方がどっちかというと都合がいい。
「お待たせしました…メール送った営業課主任の田村と申します」
「あ、ども。彼方琉嬉です」
担当者は田村と名乗った。
40歳は超えてそうなどこにでも居そうな普通のおじさんである。
名刺を貰う。
部長と書いてあり、それなりに偉い人のようだ。
「貴方が…彼方さんですか…。そちらのお二人は?」
「家族です。あまり気にしなくて大丈夫です」
「はあ…(…どうみても小学生二人と高校生くらいの男の子にしか見えないけど)」
田村がそう思うのは無理もない。
どうみても女子小学生二人と男子高校生に見えるおかしな3人組みなのだから。
悠飛が二人の保護者としか見えない。
琉嬉はなんとなく、田村が思ってる事は分かった。
「……とりあえず、お話詳しく聞いていいですか?」
田村は経緯を話した。
まずは、つい3ヶ月程前から夜中を中心に幽霊目撃談が増えたという。
駐在している警備員が特にそれに悩まされていて軽くノイローゼ気味になり、ここを辞めていくのが何人かいるという。
ある者によれば目の前まで迫られて襲われるような感じだったとか…。
突然の出来事に困り、あらゆる情報を探り、緋黄寺の方に辿り着いた…らしい。
最終的には琉嬉達に回ってきたのだが。
たしかに、裏では名の知れた存在の彼方家。
もっと探れば、他の五大家や名家の方に着くとは思われるのだが、彼方家はお寺という如何にもお祓いもやってますよ~、
という派手な存在なので実際に表向きのお祓いの話もよく来るという。
現状がどうしようもなく、祓ってくれる霊能力者を探していた。
こうして彼方家の方に話が舞い込んできた…ようである。
「なるほどねぇ…。しかし、よく僕達の…いや、緋黄寺の事分かりましたね」
「ちょいと、このような仕事してると裏情報も入りまして…」
「なるほどなるほど…」
たしかに、こう芸能関係とかも関わりを持つといろんな情報が入ってくる…。
納得する琉嬉。
「どうです?少し施設内を見て回りますか?」
「そうしてもらえると有難いです。お願いします」
田村の同行という事で琉嬉達3人は施設内を見る事にする。
中は準備で大忙し。
グラウンド内では選手達が練習をしている。
「あ、あれ!ファイヤーズの三日林選手じゃない?!」
「ああ、本当だ」
クールな悠飛がはしゃぎだす。
もしかしてプロ野球好きなのかもしれない。
「あそこに沢松選手もいるよ!」
「うん」
「ホラホラ、後藤選手や白石選手まで!なんかお得だね」
「おお、てれびで見た事ある人間ばっかりだ」
ミーハーチックになってきた悠飛と來魅。
業界の人間じゃなければ、テレビで見る人を見るとなぜか嬉しくなるものだ。
二人はまさにそういう状態。
琉嬉はまるで興味なさげだが。
「どうです?野球を試合ご覧になってみては?グラウンドにもどうですか?」
「ほんと?いいんですか?」
「…ただで?」
小さくボソッと琉嬉が田村に尋ねる。
「もちろん」
琉嬉と同じように田村もボソッと返す。
お金事にはケチくさい琉嬉の口元が少し緩んだ。
「……無料で観れるのはいいのかもしれない…」
完全に欲に目がくらんだ。
「うわーうわーすごぉ~」
普段クールな悠飛が目を輝かせている。
近くに選手達がいるからだ。
琉嬉達は特別にグラウンド内に降りる事が許された。
練習中の選手が目の前にいる。
球団関係者とも一緒に行動する。
その球団関係者は疑問の顔をしている。
「田村さん、この子達は…?」
「ちょっと特別のね…」
「はぁ…」
特別と聞いて、素直にこれ以上聞くのをやめる。
世の中いろいろと知らなくていい事もあるものだ。
「お、このおちびちゃん達は誰ですか?誰かの家族?」
沢松選手がやってくる。」
「いやいや、違うますよ」
田村が答える。
「……?一人は外人の子っぽいですね」
來魅の事だ。
「おー、沢松さん!でかぁー」
沢松選手。
ファイヤーズの要の選手で首位打者まっしぐら。
主に3番や4番を務める
長距離も魅力で本塁打が40本目前。
「ど、どうも…こんにちは」
「はは、こんにちは」
「あれ?どしたんッスか?」
沢松選手よりさらに背の高い選手が来た。
沢松選手は公称191cm。
その190cmよりも大きい。
悠飛がさっき大声で名前を叫んでた選手。
三日林選手だ。
イケメンで長髪。
そして背が異常に高い。
「でっか……」
茫然と見上げる琉嬉と來魅の二人。
「この子らは誰っスか~?沢松さんの子?」
「んなわけあるかアホ」
「おー、ホームランアーティスト三日林さんだ~」
「お?ありがと」
と、さりげなく握手してくる三日林選手。
現在、本塁打王トップを走る。
現状60本打っていて、二位が52本。
かなり差があって残り試合もわずか。
このまま独走してホームラン王は間違いないと言われている。
「のうのう、この三日林選手とやら、でかいのう。阮醐よりは小さいと思うが」
來魅がぽかんとした顔で三日林に話しかける。
「ん?オレより大きい人と知り合いなの?野球ではオレよりデカイのはいないけどなぁー。
他のスポーツとかにはいるけど」
その三日林選手は、身長がなんと207cm。
あまり太いイメージもなく、スラっとしてて余計に大きく見える。
「感動ですっ」
悠飛が握手したまま手を離さずにブンブンする。
「おほほ、君、力強いなぁ」
「あ、すみません」
「どう?他の人達の所見て回る?」
そう言うと三日林は、琉嬉達を連れて回り始める。
きさくな人柄だ。
そういう部分があって人気あるという。
「こちらが球界の首領とも言われてる後藤さん」
「コラ、誰が首領やアホ」
「ねー?コワイでしょー?」
「あははー」
ガタイのいい選手。
背も高いが筋肉が凄い。
今期からファイヤーズに移籍してきた実績があるベテランの大選手だ。
強面の風貌に豪快な性格で球界の首領と呼ばれているらしい。
主に主軸を任されていて今期は調子が良く、3割維持で本塁打も30本以上、打点も100打点超えている。
とにかく、この3人の選手がやたらと打つので全球団から恐れられている。
「今年凄いですねっ、打ちまくって」
「そらそうやな、でもオレより三日林や沢松が打ち過ぎなんやけどな」
ガハハと笑う。
「なんでー?オレらだけじゃないですよ~。だって白石とか、元山さんとか、ミスターロンズとか」
「…悠飛、そうなの?」
「姉ちゃん知らないのー?今年のファイヤーズは狂ったように打線凄いんだよ。
プロ野球歴代で一番凄いかもしれないって言われてるんだよ?
一番の白石選手だってホームラン30本だし、ロンズ選手だって30本近く打ってるし、
キャッチャーの大嶋選手だって30本だし…あまり試合出てないウェイルズ選手だって既に12本。
んでもって、3割越えが6人もいて、投手陣も…」
延々と悠飛の説明が続く。
「ほへぇ…」
変な声が出る。
「良く知ってるんやな、兄ちゃん」
「…あ、私女です」
「…え?」
他にも投手陣も凄い。
先発10勝以上が5人もいる。
特に防御率一点台を切っていて尚且つ20勝以上している神上投手。
未だ負け知らずの先発の南投手。
大ベテランながらも12勝をマークしている高沢選手…と、大いに活躍している。
一通り、グラウンド内を回った。
相手チームはまだ練習前だったので会う事は出来ずじまい。
なぜか悠飛は三日林選手にサイン入りの練習球を貰った。
「宝物にするっ!」
などと言い、大事にポケットに入れた。
(悠飛って野球好きだったんだな…)
新たな面を見て、なんだか改めて男の子っぽいと感じた琉嬉だった。
野球観戦する前に大体施設内を見て回れた。
あまりにも大きいので結構な時間がかかる。
そんなこんなでイベント開場アナウンスが流れる。
琉嬉達は既にVIP席で待機している。
「いやー、なんか凄いな~」
悠飛は本当に嬉しそうだ。
來魅もこういうお祭りなノリが大好きらしく、興奮気味だ。
人がどんどん球場内へ入ってくる。
スタッフじゃないと普通は見れない光景。
新鮮である。
普段見れない部分を見れる。
ちょっとした楽しさがあった。
しばらくし、試合が始まる。
ペナントレースも大詰めで、残りわずかの試合数。
優勝も競り合っているよう。
ファイヤーズは優勝をかけての試合に臨んでいる。
観戦目的ではないのだが、悠飛と來魅は食いつくように観ている。
逆に琉嬉は何かつまらなさそうにしている。
大した興味もないせいか、暇を持て余しているようだ。
徐々に試合展開が進む。
三日林選手の打席だ。
ノーツーから見事に打ち返し、ライト方向へホームラン。
「おー!凄いー!三日林ぃ~」
興奮した悠飛が叫ぶ。
これで61号。
現在日本プロ野球の本塁打王としてトップを走っているだけあって素晴らしい打席だった。
去年に引き続き、今年も本塁打王を取れそうで、シーズン記録を塗り替えてる最中だ。
「凄い!凄い!三日林選手凄いよ!」
「だなぁー。いけめんだしな」
「僕、何か食べ物的なの買ってくるよ」
琉嬉はそう言い、席を立つ。
「おいしそうな物あるかなぁ…」
テクテク売店を見て回る。
なぜか知らないが、こういうところだとどれも美味そうに見えてくる。
悩んでしまう。
「うーん。クリームパンでもあればなぁ」
さすがにそれはあまり売ってる所はない。
「しかし悠飛が野球好きだったとは…」
ブツクサ言いながら歩く。
その時だった。
ドンッ。
ズテっと琉嬉が転ぶ。
何かにぶつかった。
「いたぁ~…」
よくぶつかって転ぶ事が多い。
物事を集中して考えて歩くから悪いのだ。
ふと上を向くと着物姿の女性…が見える。
異様に黒く、長い髪がなびく女性。
(え…?着物の女性?なんで?)
「……痛い。何かぶつかった…」
振り返る髪の長い着物の女性。
「……なんだ?誰?」
「!お前私が視えるのか?」
「……あれ、お前……」
なぜこんな所に妖怪が?そう思った矢先…。
「あれ?お前、琉嬉ちゃんじゃないか?」
「……え?龍翔君?ってことは…あの時の妖怪か!」
琉嬉がぶつかったのは龍翔の使役妖怪、遊希だった。
たまたま、偶然野球観戦に来ていた龍翔とバッタリ出会う。
「どうしたんだ?彼方?お前も野球観に来たのか?」
「あ、いや、そういう訳じゃないけど…」
「ん?」
龍翔の家柄、親の接待が多いそうで余ったチケットで一人やってきたそうだ。
いや、一人じゃなく、使役の遊希入れて二人だが。
遊希は龍翔の外出の時は必ずついてくる。
自身が持つ「影」の力で気配を限りなくゼロにする事ができるらしい。
琉嬉でも感知する事ができなかったようだ。
ただ、遊希の集中力が切れれば普通の人間でも見えるようになる。
ちなみに、先ほど琉嬉がぶつかったのは偶然。
「…龍翔様。この人間苦手です」
「まあまあ、気にするなって。で、琉嬉ちゃんは野球観に来たのか?」
「んー、そういう訳じゃないんだけどねぇ…。ま、同じふかしぎ部だし、話してもいっか」
琉嬉はここに来た理由を話す。
それを聞くや否や、龍翔も手伝うと言い出した。
「なるほどねぇ…。ここに霊目撃談がねぇ。楽しそうじゃないの」
「…楽しそうではないけど…。まあいいや。言っても聞かなさそうなタイプだし」
「おい、小娘。龍翔様を馬鹿にするような発言するな」
「してないよ。てか、大体なんなのアンタ」
「私は龍翔様に仕えてる使役妖怪だ!」
「それは知ってる」
「んなっ、知ってるならなぜ!」
「なんで妖怪が人間に仕えてるのかなって」
「お前に答える義理はない!」
プイッとそっぽ向く。
「…いつも一緒にいるの?」
「いつも居る訳じゃないけどな。大抵は一緒に居るぞ」
遊希は完全に気配を消す事が出来る、数少ない優秀な妖怪。
影のような存在だ。
「僕の感知できないくらいうっすい妖気なのか、それともそういう力を持っているのか」
「…お前、今度は私の事を馬鹿にしただろう」
「……はて、何のことやら」
「…許さん!」
「オイオイ…落ち着けよ。二人とも」
いつも強気な琉嬉。
そして遊希に生真面目な性格。
ぶつかる二人に手を焼く龍翔。
試合が終わり徐々に客がいなくなる。
勝ったのは勿論、ファイヤーズだ。
スコアは8-2の圧倒的勝利。
この試合でも三日林が61号となるホームランを放ち、後藤もホームランを打った。
客もどんどん出ていき、案内のスタッフや清掃スタッフだけになっていく。
「うーん、そろそろかな?」
熱気あふれる場内もガラーンとした状態になっていく。
温度も少しずつ下がっていくのが分かる。
そんな中、田村がやってくる。
「さて、みなさん。そろそろ準備しましょうか…。ん?」
だが、もう一人増えてる事に気づく。
「あ、あれ?そちらの人は?」
「あー、大丈夫です。怪しい人ではありません。同じ学校の部活の部員で信頼ある霊力者です」
「はあ…」
「幽霊騒ぎがあると聞いて、手伝う事にしました!よろしく!」
「ま、まあ構いませんけど…」
スタッフも切り上げていく中、琉嬉達は曰くの場所付近へ行く。
やってきたのはB2レベル。
選手達のロッカールームや報道陣などの部屋。
関係者が集まる場所だ。
まだ人が残っている。
「時間かかりそうだね」
そんな琉嬉の言葉を聞いてない悠飛。
「凄い!またこんな間近で選手が見れるなんて!」
「ハイハイ、行くよ悠飛」
「あー、ちょっと…もっとここに…」
ズルズル引っ張られていく悠飛。
「ハハハ、面白いな君ら」
「だろう?」
龍翔も笑いが絶えない。
「龍翔様…。なんなんです?この二人?それとこの妖怪らしき少女は…?」
「ん?琉嬉の妹と來魅の事か?」
「…い、妹?兄じゃないんですか?」
「あっははは!違うんだぜ!この二人は姉妹!このおちび妖怪は來魅って言って
最強レベルの妖怪だそうだ!」
「ら、來魅…って…。100年前に封じられた妖狐の…?!この小さな娘が…」
「あれ?知らなかったけ?」
驚愕する遊希。
決して弱くはない妖怪の遊希だが、上級を超える妖怪の來魅の存在は知っている。
その強さも知っている筈だ。
「そういやあんまり関わった事なかったけ」
龍翔が首を傾げながら言う。
「おう、よろしくな!」
「……ハ、ハイ…」
そのまま遊希は姿を消す。
あまりの驚きで動揺してしまったようだ。
「あーらら。少しばかり驚いたみたいだな」
「ふむ…仕方あるまい。私に怖れをなすのはみんな一緒だ」
少し残念がる來魅だった。
「どうも、こんばんは」
駐在している施設警備の担当者がやってくる。
「幽霊騒ぎって毎日なんですか?」
「ええ…。ほぼ、毎日のように…」
「なるほど……」
腕を組み考え込む琉嬉。
果たして幽霊の仕業なのか?
それとも妖怪の類のモノ……?
しかも毎日とは凄まじく嫌がらせだ。
「何か心当たりあるものでも?」
「……いや、特にありません」
みんなコケそうになる。
「そ、そうですか…」
「少し張りましょうか」
「でも時間的に大丈夫ですか…?」
「大丈夫です。こういうのは慣れてますから。伊達に退魔の仕事してませんよ」
こうして、深夜まで待つ事にした。
時刻は深夜1時を回る。
來魅はうとうとして眠たそうだ。
「…來魅~…眠いの?」
悠飛が優しく語り掛ける。
「お、おう!大丈夫だ!やっぱりねっとしてないと眠くなるぞ」
完全にネット中毒者である。
琉嬉は録画された監視カメラなど見ていた。
「これです…」
動画を見ていると不可解な映像が映ってる事が分かる。
影みたいのが実体化していくような…。
「しかし…映像だけじゃなんとも言えないなぁ…。よし」
画面に手をあて、霊視を始める。
そうする事1分程。
僅かな時間だ。
「何か分かりました?」
「うーん。なんとなく」
こうして、もうしばらく様子を見る事に。
監視カメラでそれぞれ様子を見る。
そしてまた一時間程。
深夜2時くらいになる。
その時であった。
「あ!これ…」
一瞬人間ではない、影みたいのがうごめいたのが映っていた。
「……いましたね。この後、今日出てこなかった困るから、こっちから強引におびきよせましょう」
すかさず琉嬉が行動に出る。
「あ、姉ちゃん、待ってよ!」
「…行くのか。俺らも行こう」
「…ハイ、龍翔様」
次々と部屋を出て行く。
そして置いていかれる來魅。
「……んむ…。ぐー」
田村と警備員も一緒についていく。
とある通路。
真っ暗だ。
人の気配がまるで感じない。
大型施設でも人がいなくなると不気味だ。
それでも夜中ずっと清掃員がいる。
時折、すれ違うくらい。
基本的には静かだ。
「な、何かいます…?」
「………」
無言のままの琉嬉。
低級霊だろうが、決して油断はできない。
力自体が弱くても特殊な能力があるかもしれない。
そのせいでピンチになる事はよくある。
実際幻術などで動きを制限されたりする。
少し歩き回る。
そして妙な違和感を感じるスペースが。
「…田村さん、警備員さん、下がってた方がいいです」
言われるままに田村らは下がる。
「悠飛、龍翔先輩。油断しないで」
琉嬉は両手をパンっと叩き、霊気を放出させる。
辺りに強力な霊気が一瞬包む。
そうすると何かの黒い人型のようなのが見える。
「居た!」
悠飛がすかさず攻撃を仕掛ける。
「てぇい!」
黒い影は逃げるようにするが僅かにカス当たりする。
「ぁあぁああ…」
うめき声が聞こえる。
「龍翔君!まだ奥にもいる!」
「お、おう!遊希!」
「はい…」
遊希が猛スピードで奥にいる影に追いつき長い髪で縛り上げる。
「ギィッ…!」
そのまま龍翔が思いっきりぶん殴る。
ベコッ!と鈍い音を立てて、遊希が捕まえていた人型が吹っ飛んでいく。
「さあて、なぜこんな事したか言ってもらおうか?」
捕まえたのは低級の妖怪二体。
大きさは大人の人間くらいだが、あきらかに人間とは違う風貌。
一体は大きな一つ目。
もう一体は犬のような顔している。
誰がどうもても一目見て妖怪だと分かる。
「……怯える人間が見たくて…なあ?」
「ああ。悪かったよ……。言っとくけどオレ達は毎日なんてしてないぞ!週1か2くらいだ!」
結局は暇を持て余した妖怪が、街中に出て悪さをしてただけだった。
このようなケースがたまにある。
「今度やったら命ないと思った方がいいかもな」
龍翔が脅しをかける。
「ひぃぃ!分かったよ!分かった!」
「こ、これが妖怪…?ですか?」
田村達が始めてみる妖怪に驚きを隠せない。
「こいつらが元凶かもね…」
「んー…眠い。終わったか~?」
來魅がフラフラしながらやってくる。
「!!そ、その少女は?」
「…んー?私か?來魅だが何か?」
「ひえぇぇぇぇぇ!!!」
妖怪二人がさらに怯える。
來魅をやはり知っているようだ。
「…面白いな、來魅がいると」
「ありがとうございました。こんなあっさり片付くなんて」
「ざっとこんなもんだよな?琉嬉?」
「……え?あ、うん…」
「どうした?琉嬉?」
「いや……少し気になる事が」
何かが気になる。
琉嬉はそう言う。
しかし、元凶だと思われる妖怪二体を捕まえた。
「どうした?琉嬉ちゃん?」
「……いや…」
妖怪を二体捕まえたのにも関わらず、まだ何か気になる点があるという。
「…!!」
琉嬉は辺りを見回す。
何かの気配を感じた。
そして走り出す。
「あ、おい!琉嬉!!」
「く……見失った?くそー…」
さらに奥へと進むが気配、霊気まるでなし。
まったく何もない状態になる。
「あきらめないよ。僕は」
二時半を過ぎた。
いわゆる丑の刻参りという時間帯の真っ最中だ。
琉嬉は何か気になるといい、まだ残っていた。
「琉嬉ちゃん~。俺も眠いぜ」
「同じく」
龍翔も悠飛もきつそうだ。
「龍翔様…しっかり」
といつつ、遊希もどこかしら眠たそうだった。
真剣に映像を見てる琉嬉。
(やはり…違う。コイツらじゃない…。これに映ってるのは)
琉嬉が感じ取った霊波動じゃない。
別に違うヤツがいる。
琉嬉はそう確信する。
自分を信じる。
「あ、あの…彼方さん?大丈夫ですか?」
田村があたたかいコーヒーを差し出す。
「ありがとうございます。仕事なんで…」
「…この妖怪とは違うのが居そうなんですか?」
「………多分」
まだ完全に終わった訳じゃない。
全てを解決しなければ意味がない仕事。
納得いくまでは終われない。
「なあ、お前達。お前達以外に何かいるだろ?」
「いや、知らねえよ!オレ達は一ヶ月前くらいからいるだけで…」
「…1ヶ月前?おかしいな。田村さんの話だと3ヶ月前くらいからだって…。
お前ら、嘘ついてないよな?」
拳を作って威嚇する。
「ついてませんついてません!嘘ついたって意味ないコトくらい分かります!」
どうやら本当に嘘ついてないみたいだ。
「うーん…」
コーヒーを全部飲み干し、軽く夜食も食べる。3時近い。
「琉嬉ちゃん。もう一辺回ってみるか?」
「……その場にずっと居るとは限らない。夜が明けるまでケリをつける」
ガタタ、と行動に移す。
「スースー……」
來魅はついに脱落。
寝てる姿は本当にただの子供だ。
「…遊希。起きてるか?」
「……ふぁいっ」
寝そうになっていた遊希。
変な返事をしながら目をこすって起きる。
「あはは、遊希さん可愛い」
「…色気のある女性が不意に見せる情けない姿…萌えるね」
「う、うるさいっ」
「………俺達も行こう」
田村や達には見えてない、遊希の姿。
はたから見れば龍翔は一人で喋ってるようにしか見えない。
ちなみに悠飛は霊感が高くないのでかすかな力の霊や妖怪は視えない事が多い。
ましてや遊希のような気配を限りなくゼロにする力持っていれば尚更だ。
「何か分かったか?」
「いいや……。仕方ない。本気で行くか」
本気を出すと言う。
目を瞑って、また霊視に集中する。
あらゆる念が入り込んでくる。
そこから何かヒントになる物を探していく。
「……彼方家の人間ってのは凄いな」
「何をおっしゃいますか。加賀家も負けてませんよ!」
「……ハハ、うちは所詮、名家の中でも普通の霊能力の家系だよ」
「そんな事ありません」
「………あのさ、そこ、イチャイチャしないでくれる?集中できないから」
琉嬉の文句。
他人からみれば、男女の楽しげな会話に聞こえてくる。
「なっ!うるさい!人間の小娘のくせに!」
「おいおい……落ち着け、遊希」
「……しかし……。ぐぅ…」
龍翔の言葉は絶対。
すぐおとなしくなる。
霊視が終わったのか、琉嬉は目を開け、壁によしかかる。
少し疲労が出たようだ。
「……なるほどね…。大体分かった」
「お、大丈夫か。何か分かったんだな?」
「…うん。みんな連れて来てくれたら有難いかな」
龍翔はニヤっとしながら、
「オッケー」
來魅以外連れられてきたのは選手などが行きかう場所。
「実際、目撃率が高いのはここじゃありませんか?田村さん」
「……私より彼の方が」
警備員の男性がゆっくり頷く。
深夜にはあまりここは来ないが、近くの通路での目撃が多い。
ここまで追いかけるといなくなってるという話がある。
「しかし、ここは選手ロッカー付近だよね。姉ちゃん」
「……幽霊の正体は…」
バタンっとドアをおもいっきり開ける。
うっすら暗闇の中から見えた人影。
よく見るとファイヤーズのユニフォームにも見える。
「こ、これって…?!」
琉嬉がゆっくり近づく。
「少し調べたんだ。心半ばで亡くなったファイヤーズの監督さん。ですよね?田村さん」
「…こんな事が…、あるんですね……」
ニコっと笑顔を見せるユニフォーム姿の幽霊。
そのままスゥーッと消えていく。
「あれって…今年途中で亡くなった監督…?」
「だろうね…。顔見る限り」
そう、幽霊の正体は、ファイヤーズ前監督・大山という往年の名プレイヤーだった。
ファイヤーズ、前監督が4ヶ月くらい前に亡くなったという。
シーズン途中での死去だった。
現在はヘッドコーチから監督にバトンタッチしているという。
今の監督は伝説の名プレイヤー長浜監督。
その長浜氏が尊敬していた、大山前監督だ。
大山が亡くなったの後の時期を考えると辻褄が合う。
突然の幽霊目撃談。
優勝が近づくにつれて、現世に舞い戻ってきてるのかもしれないと、琉嬉は語る。
「……なるほど…」
「僕の見解では祓う必要はないと思います。悪意ある訳でもないし、むしろ応援していると思います」
「琉嬉ちゃんの言うとおり。田村さん、俺もそう思いますよ」
「私も!だって、前の監督と今の監督が一緒にいるなんてズルイけど…凄いじゃないですか!」
興奮気味に悠飛は言う。
「そうですね……。そうしましょうか…」
「いずれ成仏するかもしれませんし。何もしなくて大丈夫ですよ」
琉嬉の言う事に素直し従う事にする田村ら、施設の職員。
決して悪霊ではなくて良かったとホっと肩をおろす。
とはいえ、ヘンテコな妖怪はいたが。
「眠いや…」
「だなぁ」
いつのまにやら4時頃。
まだ暗いが。
「ありがとうございました。妖怪の悪さもありましたが、謎が解けて良かったです」
「いえいえ」
「優勝…するといいですよね。ファイヤーズ」
「あ、そうだ、報酬の他のお礼に、ファイヤーズが優勝かかった試合に招待しますよ」
「え?本当に?!行く行く!!」
悠飛が食いつく。
「お前…今回何もしてないだろ…」
「まぁまぁ、いいじゃんか」
結局、大きな戦いもなく今回の仕事は終わりを告げたようだ。
「ファイヤーズってね、ここ20年くらい低迷してたんだけど、今年強くて優勝かかってるんだよ」
「それは聞いた」
「大山監督ってね、ファイヤーズのOBでね、初めて2000本安打打った人でね…」
悠飛の説明がまた続く。
もしかして、優勝がかかるからその念が強くなってしまって、
大山前監督は舞い戻ってきたのかもしれない。
もしかしたらこのまま優勝が決まる勢いだ。
ファイヤーズ自体も、主力選手達も数々の記録を塗り替えていく勢いだ。
優勝を見届けるまで死に切れない……大山前監督の想いだろう。
鳥がチュンチュンと飛び回る。
すっかり朝。
時刻は5時だ。
外に出てみる琉嬉達。
「なんやかんやで朝になっちまったな」
おもいっきり体を伸ばす龍翔。
寝てないせいか体が重い。
昼夜逆転だ。
「眠ぅいぃ~…」
すっかりおこちゃまな來魅だ。
「タクシー用意しましたから、タクシー代分も報酬として払っときますよ」
「あ、ども」
「…しかし、まさか大山監督が…」
不思議な気持ちで一杯である。
生前田村も親しくしてもらっていた。
ファイヤーズの本拠地でもあるこのドーム施設。
20年以上ぶりの優勝…。
是非、大山前監督と一緒にと――。
選手、現監督、コーチ陣、球団、ファン。
そして、施設の職員。
さまざまな想いが集る、大型施設「たまご」ドーム。
人が集る所にも霊が集ると言われる。
それはもちろん、霊とはいえ、人間だ。
みんながいる場所に一緒にいたい。
そういう、ものなのだ。
「いやー、今回戦う事なくて良かったよ」
「だな」
この前のようながしゃどくろとの戦いのようなのはしばらくごめんだ。
それに比べ今回は楽な方だった。
楽だったが、伝わってくる念は決して楽じゃない想いだった。
こういう仕事しているといろんな想いが記憶にやきつく。
いい思い出、嫌な思い出。さまざまな。
それがいいのか、良くないのか。分からない。
「はぁ~…あ。妖怪達忘れてた」
「ああ、そうだな」
「…龍翔様……ぐぅ」
「……遊希まで寝ちゃった」
「あの~…大丈夫かい?君達」
タクシーの運転手が心配そうにする。
どうみても小中学生にしか見えないのやら、若い学生らが朝帰り。
「すいません…住所教えとくんで…ついたら起こしてください」
まるで酔っ払いのサラリーマンがタクシーで帰るような。
そんなノリだ。
「なあ、オレ達どうなるんだ?」
「どうって…誰か通るのを待つしかないだろうなぁ…」
二人の妖怪はドーム施設の近い森中に置き去りにされていた。
みんな眠たいし、面倒なので縛り付けたまま
森中に放置していったのだ。
「おーい……。誰か~……」
「もう悪さしないから~。これほどいてくれ~……」
訴えかける言葉は虚しく森の中に響く…。
田村はそのまま徹夜明けになってしまった。
朝になり、早出の社員達がやってくる。
疲れた表情でも何かいつもと違う笑顔。
その笑顔に気づく同僚達。
「何かあったんですか?田村部長?」
「あ、いや、あったといえばあったし、何もないに等しい感じもするな」
「はあ…?」
どうせ言っても信じてもらえない。
大山前監督の霊が現れたなんて。
他にも妖怪も居たとは、どうせ信じてもらえない。
でも大山前監督が、球場にいる。
その事をそっと、現監督の長浜監督に伝えよう。
そう思い立ち、長浜監督の方へ足を運ぶのだった。
(しかし……変わった少女達だったな…。妖怪…か……。
妖怪を手玉に取る小さな女の子がいる…って言っても信じてもらえないよな)
妖怪…というより、琉嬉という存在が不思議がっていた。
「やっと寝付ける…うぐぅー」
琉嬉はベッドに倒れこんだ瞬間すぐ寝てしまった。
久々に、いい仕事が出来た。
琉嬉はそう思った。
納得いくものだったと。
いい眠りにつけそうだ…と、そんな事思いながら夢を見る。
(……優勝するといいね、大山監督)
そして、この年、ファイヤーズは悲願だった優勝を勝ち取るのだが、それはまだ少し先の話。




