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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第五章   ~学校行事編~
30/92

#30 鞍光の祀り 後編

 白熱した戦いとはまさにこの事を言うのだろうか。

來魅は引けを取らないように戦っている。

決して遅れはとっていないのだが、いかんせん大きさが違いすぎる。

極端に大きい相手はやはり単純に強い。

「やはり奴の方が有利か……。ならば」

 妖気を一気に開放する。

琉嬉らが戦った時のような、凄まじいパワーだ。

封じられていた影響はもうないようだ。

「ハッハッハ!久々に本気出せるぞ!!」

 どんどん霊力が高まっていく。

戦いのカンを取り戻していく。

次第に動きが良くなってくる。

「凄いですね!來魅さん!」

「おうよ!久々の大物だ。目に見せてやろうではないかっ!」

 強力な攻撃を繰り返し行う。

「私も負けませんよ!!」



 ドカーンドカーンと音が聞こえる。

派手に暴れているようだ。

それについていってる寧音も大概凄い。

あの來魅と格闘で渡り合ったくらいだ。

「さあて…來魅と寧音を手助けしようかね」

「だね…」

「護はんはあんまり無理しないように」

「ヘイヘイ」


 一足先に琉嬉達が辿り着く。

大量の霊撃弾を大量の御札で受け止める。

琉嬉の操る符術だ。

「來魅!大丈夫?」

「琉嬉か。何を言っておる。私は天下の大妖怪・來魅様だぞ!この程度で…」

 偉そうに喋ってる途端に攻撃をくらって、目の前からいなくなる。

「バ、バカ!」

「……私とした事が…。許さんぞ!ガイコツのくせに!!」

「…自分の油断だろ…」

 とはいえ、本気モードの來魅に割って入るような隙はない。

凄まじい攻撃と動き。

「よくあんな妖怪一人で倒したなぁ、琉嬉ちゃん」

「今考えたらゾッとする」

「……しかし…、來魅ちゃんでも簡単に仕留めれないってコトはかなりヤバイ敵じゃないの…」

「そうだね…」

 琉嬉は左腕の手首につけている数珠に目を向ける。

そしてそっと数珠を掴む。

真霊気を使う準備…。

ようやくというか、やっと使う気になった。

「当たらないと意味ないからな…。あの時のようにがしゃどくろの動きを完全に止めれれば…」

 激しい攻撃の嵐に上手く霊力を練らしてくれない。

こっちも動き回るだけでバテそうだ。

(……しかし、妙だ…。妖怪化…してるのは解かるが、意思のような物が伝わる…」

 琉嬉は他にみんなが気づいていない何かを感じていた。

元は人間の怨念といった霊体などの集合体。

その念が流れて込んできてるのかもしれない。

それは「いつもの事」なので、大した気にしてもなかった。

だが、徐々に大きな念が浮き彫りになってくる。

(なんだ?何を訴えてる…?)

 気になってしまう。

戦いをしばらく來魅達に任せて探る事に集中する。


「おおっ、凄いね來魅ちゃん」

「よくあんな大物妖怪と戦ったな…お前ら」

 少し引き気味の凛夢。

ゲームで言えばラスボスといった大物妖怪同士の戦い。

このままでは街中まで被害が及びそうだ。

今は多少なりの霊激が漏れないように学校から広範囲で結界が張られている。

みゆがそうならないように予め結界の陣を作っておいた。

まったく、抜け目がない。

バカっぽさを演じてるだけのような気もしてくる。

「琉嬉先輩!」

「あ、柚羽…」

「先輩…少しお話が」


 封印するべきモノ、力を柚羽は持っている。

琉嬉はその作戦を受ける。

あるべき力を全てぶつける。

それしかない。

來魅でもてこずる相手。

なりふり構っていられない。

「分かった。柚羽…お前が最後なんとかしてよ」

 ひょっこり耿助も姿を現す。

「という事です。僕もサポートします。本当の意味での「最終兵器」ですからね」

「耿助さん!」

「巻き込んだとか込まれたとかはいいですから、こういう時は力合わせましょう」

 いつもの笑顔がない。

相当真剣な表情だ。

來魅の時と同じように。

「あれ、会長は…?」

 まどかの姿がさっきまではあったのにいない。

「まどか?きっと何かしようとしてるんだろ…アイツの事だ」


 柚羽の持つ封印の壷。

今持っているのは、新しい、新規の封印壷だ。

実は今回解かれた封印もこのような壷が使われていた。

だが、封印する力が弱まったのか、効果がなくなってしまったようだ。

柚羽は家系に伝わる技術を持って新しく作成した。

「さあ、我々ふかしぎ部、決着つけるよ~!」

 またもやみゆが仕切る。

さっきまで絶望を感じていたのに。

副部長なので景気よく行きたい訳だ。

「あー、ハイハイ。みゆ。お前が次期部長でいいよ。決定」

「いえーい!」

「…この状況でよくこんなバカらしい茶番劇を演じられるわね」

 いつも反抗的な凛夢もこの時ばかりは呆れ返って笑う。

このおかしな明るさがふかしぎ部の特権なのかもしれない。

「よし、來魅を援護するぞ!」

「おー!!」



 來魅の邪魔にならないよう援護に入る。

來魅のおかげもあるのだろうが、先程みたいな事にはならない。

非常に琉嬉達にとっても楽な戦いになる。

「フフフ、やるな!お主ら、琉嬉の良き仲間だけあるのう!」

「…それはありがたいね(こんなに仲間に心強いのもいるのがありがたい)」

 琉嬉は冷静に戦う事ができていた。

何より多人数だからのもある。

これならいける…そう思っていた。

やはり、先程の大ダメージで肝心の体力、霊力が消耗している。

護も思ったような動きはできていない。

じわりじわりと防戦になってくる。


「…みゆ、あんた…腕どうしたの?」

 左腕をまったく使ってない。

それに動かす気配もない。

「いやー、ちょっとねー」

「折れたのね?」

「大丈夫だからっ」

 少し強めの声。

みゆにしては珍しく焦った口調だ。

「ね?」

 片目つむってウインク。

(…馬鹿ね。どいつもこいつも)

 凛夢はフーッと大きく息を吐く。

そして…大鎌にありったけの霊力を込める。

「無理しないでよ。フォローよろしく」

「あいあいさー」


「寧音!」

「は、はい?」

 凛夢が寧音に話しかける。

「みゆがフォローに入るわ。あと、そこの眼鏡お兄さんも」

 耿助をチラ見する。

「…ええ、把握してます」

 4人が琉嬉の必死そうな顔を見る。

そして歯を食いしばりながら戦う來魅。

「まったく、面白い光景ね…五大家の人間五人が揃って、しかも封印した妖怪と共に戦うなんてね」

「本当ですね」

 凛夢が少しだけ笑顔を作る。

こんな死にそうな戦いなのに。


「今は有名な霊術名家も揃ってます」

 寧音が口の血を拭いながら言う。

「こんなの霊術会にもないんじゃないですかね?」

「耿助さん!攻撃!」

「分かってますよぉ」

 ガガッと防御壁でガード。

伊達じゃない耿助の術。

「フム…このままではヤバイな…。おい!お主ら少し時間を稼げ」

 來魅が体勢を直しながら言う。

「何かするんどすか?」

「強力な物をな…」

 全員、会話せずに頷く。

そしてそのまま攻撃を仕掛ける。

がしゃどくろもバカではない。

何かをしようとする來魅に攻撃を集中する。

それを防ごうとする者達。

緊張が続く。

「……來魅が仕掛ける。この時がチャンスか…」

 琉嬉も再度、左腕の数珠に手をかける。

「來魅!頼むぞ!!」

「おう!」

 そのまま、來魅は両手に黒い妖気のようなエナジーが集まる。

これまで感じたコトのないような、異質な妖気。


 森の外にいる沢村刑事、莉音と紫音、そして龍翔。

全員感じた。

凄まじい霊気に。

「さ、沢村刑事…さっきから爆音みたいのが聞こえますが…」

 まるで戦争のような、爆発音が聞こえてくる。

後輩刑事や警官らが不安になる。

「……大丈夫だよ。きっと」

「本当ですか…?」

「ま、特係の言う事にや信じれよ、って事だよな?警部補殿?」

 ライバルの捜査一課の刑事の嫌味。

名前は岩崎。

強面で本当に刑事か?と思うような風貌だ。

「なんで、俺らまで来なきゃ行けないんだ?」

「…そりゃあ、上の命令だからな」

「…そうかいそうかい」

 そう言ってズカズカ違う所へ行く。

(多分ね。それにこの結界…。誰のか知らないけど中々強力だ。普通の人間が入って行っても中心には簡単に辿り着けないだろう)

 沢村刑事も只者ではない。

強力な結界が張られているのを気づいていた。


「これは…來魅ちゃんかな?」

「…そうだね」

 すぐ來魅のモノだと感づく双子姉妹。

やはり、彼方家の血筋。

感知力は高い。

「ふう、それはそうと…この大物悪霊さん、退治する?」

 導が疲労しきった感じで言う。

目の前にはがしゃどくろから放たれた悪霊がいる。

それも結構な大物だ。

何体も集合したような、奇怪な動きをしている。

「なんとかするしかないよね…」

「なーに言ってるの!莉音!こういうのも倒す影の主役が必要なのよ!」

「その通り!」

 突然現れた龍翔。

「……誰?」

 3人が同時にツッコむ。

「ボスはアイツらにまかせて、こういう裏方処理は俺達生徒会がやるもんだ!」

 よく分からないやる気を見せてる。

「なんだか分からないけど、凄いぞ!」

 紫音も乗せられて燃え上がる。

「あ、あの…後ろに霊…?いや、妖怪?」

 龍翔の後ろにうっすら影のようなものが視える。

そうすると突然ぬうっと姿を現す。

「私が視えるのか…そこの小娘」

 髪の長い美しい女性。

姿形こそ普通の人間とあまり変わらないような妖怪。

額に大きな何かの模様。

見分ける違いといえば額の模様くらいだ。

遊希が完全に姿を現している。

「ひっ!」

「おお、何この綺麗な人?」

「ああ、コイツは俺の使役する妖だ。名前は遊希。味方だから安心しな」

 妖怪を使役するくらいの実力を持っている龍翔。

霊術名家だけあって、これくら朝飯前。

だが、ここはあえて裏方に徹する。

「はぁー、若いのに凄いねぇ」

「だろ?おじさんもさっき見てたけど、中々やり手じゃん」

「ああ、恥ずかしいな…。これでも20年くらいはまともに戦ってないんだけどね」

「しかし初対面なのに馴れ馴れしい人だなー」

「まあ、いいじゃん!この状況だ。力合わせようぜ!」

 半ば強引に一緒に戦う。

この時はまだお互いの素性は知らずだった。


「グオオオ…」

 悪霊の塊は分裂したり合体したり忙しい戦い方をしている。

その動きに翻弄される紫音達。

「コイツ…強い!」

「てぇい!」

 導の必死の攻撃。

だが、クリーンヒットはしない。

相手の方の動きが早い。

「くぅー、おじさん、だめだー!動きについていけないよ!」

「…まったく…。運動不足じゃないの?叔父さん」

 兄の娘に言われっぱなし。

こういうアクション事は情けない。


「仕方ない、君達!分裂したとこを狙おう」

「あ、あの…その根拠は?」

「なんとなく!!」

 適当な事を言い出す。

案外考えなしで突撃するようなタイプのようだ。

「なんとなく…て」

「よし!ノッた!」

 そして適当作戦にノリだす紫音。

単純同士は単純と合う。

「んもー…バカ!!」

 耐え切れなくなり思わず叫ぶ莉音。

こういう思っている事を外に出す莉音は、かなりご立腹状態だ。

「…よし!遊希……頼むぞ!」

「ハイ…龍翔様」

 何処にいたのか?

遊希がさっきまで姿なかったのに突如現す。

そのまま凄いスピードで悪霊へと向かっていく。

接近し、そのまま手から何か妖気の塊をだす。

そしてバンッと鈍い音を立てながら小爆発を起こす。

「…はぁ!」

 髪が伸び、悪霊に絡みつく。

それを逃れようとしたのか、悪霊はまた分裂する。

「今だぜ!」

「ホイきたー!」

 一斉に散る4人。

それぞれ、得意の大技を繰り出す。

「ギャァァ!」

 見事残らず、殲滅させた。


「ふう、やったね!」

「僕はもうヘトヘトだよ…」

 座り込む導。

本当にただの年寄り状態。

「遊希さんのおかげですね」

 ニコっと莉音は遊希の方へ向き笑顔を見せる。

「………」

 プイっとそっぽ向く遊希。

関わりない人間には冷たい態度をとる。

「はは、ごめんな。親しいヤツじゃないと前面に出たがらないんだ。シャイだから」

「…龍翔様…。そんな事は」

 双子姉妹は顔を見合わせまた笑顔になる。

「これから親しくなればいいよ!」

 二人同時に遊希に言葉をかける。

「………」

 何もしゃべらずまた龍翔の背へと隠れていく。

少しだけ、長い髪で見えにくいが、照れ顔を確認できた。




「さあ、耐えれるものなら耐えてみせろ!」

 攻撃を放とうとするががしゃどくろの攻撃が來魅をめがける。

「くっ!あの巨体でなんと素早い!」

 避けきれない來魅。

何度か攻撃を受け血渋きが舞う。

「この…!」

 そして大きな一撃が來魅をさらに狙う。

「そうはさせるかよ!!」

 凛夢が大きな鎌で攻撃をはねのく。

「さっさとしろ!ちびちび妖怪!」

「わかっとるわ!!」

 尚も続く激しい攻撃。

一撃一撃が強力過ぎる。

「てりゃあああぁぁぁ!!」

 大声を張り上げてがしゃどくろの攻撃を受け飛ばす寧音。

無茶苦茶な動きだが、なぜか理にかなってる。

「有難い!夜栄守の者よ!」

「任せてください!」

 他の部員達が合流してから寧音の動きも良くなっている。

少し休める時間があるからだ。

寧音と凛夢の二人が、來魅をサポートするように動いてる。

二人の凄まじい動きで來魅も余裕持って動いてる。

その二人をフォローするみゆと耿助。

「ウチらも忘れてもらってはいきまへんなー!」

「そうそう、だから、本気で行くよ」

 再び、妖怪化して戦いに挑む。

だが相手はがしゃどくろ一体だけじゃない。

意思を持つような悪霊も沢山出てくる。

一体だけじゃなく何体も相手している。

みんなはそれで思うように動けない。

「うーん。これではまともに妖気を練れないではないか!」

「まかせて…」

 悠飛が來魅の前に入る。

「悠飛!」

「頑張って、來魅。………はぁぁ…」

 悠飛の霊力が高まっていく。

強力な氷の盾のような物が作り上げていく。

「氷羽…!」

 激しい攻撃を跳ね返していく。

盾を割り込んでこようとするのは凛夢が斬りつけ倒していく。

なんとも頼もしい連携。

「フフ、お主ら、最高だ!行くぞ!デカ骸骨め!!」

 ようやく來魅の術が完成したようだ。

來魅の両手から大きな黒い、闇のような妖気が辺りを覆う。

そのまま手を空へ向かってかざすとがしゃどくろを中心に闇が一斉に襲い掛かる。

「妖闇夜光!!」

 周辺一体が僅かな時間の間、真っ暗になる。

凄まじい衝撃が辺りを走る。

「うおー!なんだこりゃー!!」

「ひぃぃ!」

 またもやみんな吹っ飛ばされる。

戦った時には見せなかった、來魅自身の大技だ。

「グガァァァ!!」

 効いている。

確実に。

がしゃどくろの動きが完全に止まる。

黒い妖気がまとわりついて、蝕むように動きを封じる。

みるみるうちにがしゃどくろから放っている霊気を弾き飛ばす。

「琉嬉!今だ!!」

 來魅の合図を待ってたかのように、おもいっきり数珠をはずす。

だが、がしゃどくろは攻撃を受けた隙を逆について、琉嬉に攻撃を放った。

「やばっ?!」

「琉嬉!」

 口からの大きな霊撃だ。

「させません」

 バシュンッと、琉嬉の前で霊撃が飛散していく。

まどかが防御に回った。

「まどかっ?!」

「いいですか?琉嬉さん。私の合図に合わせて…あの力を使ってください」

「……ははっ、オッケー。お前……やっぱり最高の生徒会長だ!」

 全霊気を集中させ、左腕に爆発させる。

「精霊燐ッ!」

 まどかが自らの霊力でがしゃどくろの放つ攻撃を、相殺する。

琉嬉とまどかの周りの余計な霊気が弾け飛んだ。

「3……2……1………今です!」

 まどかが槍を離し、琉嬉の目の前に放り投げる。

「……祓ってあげるよ…鳴神家を包む闇を。

そして…僕達の文化祭を邪魔する悪霊を…!!

我が力を示せ…真霊気よ…!!真戒滅成―――――!!」

 來魅の暗闇のような妖気とは反対に薄い、黄金色の光が周辺を照らす。

そのまま光は槍を包んで一直線にがしゃどくろ目指して伸びていく。


 光を纏った槍ががしゃどくろに直撃する。

突き刺さった瞬間、目も当てられないくらいの強い光が爆発した。

それと同時に琉嬉も放った衝撃なのか、自身も森奥の飛ばされる。

まどかも吹き飛ばされた。

「が、ガアア…?!!?コ、コノ…力は…??我が体が…」

 がしゃどくろはみるみるうちに崩壊していく。

強烈な霊気も消え去っていく。

神気の消し去る力によって悪霊の集合体である体が保てなくなったのだ。

「やった!!」

「いや、まだです!

 柚羽が走ってがしゃどくろへ向かう。

「あ、鳴神さん!まだ危ない…!」

 巨大な体が崩壊する。

しかし、その中から普通の人間サイズの青白い人影がみえてくる。

「な、何あれ?」

 各々がまだ終わらない状況を見守る。

一応皆は構えははずさない。

そして柚羽はその人影に近づく。

「……お父さん…ですね…?その姿は」

『…柚羽か…。すまないな。私まで取り込まれてしまったようだ』

「…解かってます。でも、お父さん…あなたはもうこの世にはいない人です」

 その人影…。

柚羽の父親だと言う。



「どういう事…?」

 みんなが柚羽の突然の発言に呆然とする。

事態の変わりように訳が分からないと言ったようだ。

「なるほどね…」

 なんとなく理解する者もいる。

「とりあえず見守りましょうか」

 耿助は琉嬉を抱きかかえ戻ってくる。

「…ありがと。耿助さん」

「いいえ」

「……やっぱりあの念はあの人のものだったのか」

 琉嬉は確信した。

さっきの感じた念があの人影のものだったと。

「大丈夫かえ?まどか」

「ええ、なんとか…」

 ズタボロのまどか。

叉羅沙に抱えられる。

「しかしまたどえらい戦法取ったんやな」

「でしょ?」

 ニコッといつもの笑顔で返す。




『何年ぶりかなあ…大きくなったな』

「はい…。ですが…あなたはこの世に存在はしてはいけない…もう。

せっかく会えたのに…こういう形では嫌です。

なんで、なんで死んだのですか!!

鳴神家は……死ぬべき、滅びるべき運命だと言うのですか?!」

 涙ながらに訴える。

『…本当にすまない。だが、こうしてまた会えたのは嬉しくも思う。

こんな父親だ。許してくれなくてもいい。

お前の手で、安らかに眠らせてくれ』

「うう……。なんで、私の家系はこうも……」

 震えながらも刀を構える。

『その刀は…「皇月天すめらぎげってん」かね…?』

「はい…。我が家系が…残した刀です」

『そうか。今夜は月が出ている。妖力が増している…。丁度いいな』

「はい………」

『柚羽、そしてこの学校、街の人間や妖怪達に謝っておくれ…。

だから、その手で……』


「………さよなら。お父さん!!」

 柚羽は抜刀の構えをする。

そして、皇月天の悲しくも綺麗な一閃が父親の霊体を斬る――。




 柚羽はあの後封印の壷で四散した悪霊たる霊気を全て封じる。

そして二度と復活しないように封印したまま壷を焼き尽くす。

これで、完全に「がしゃどくろ」は復活する事はないだろう。

「いやいや、今回は完全にヤバかったね」

「最後は鳴神さんで決めたね」

「お恥ずかしいです…。それと私一人ではおそらく無理でした。みなさんありがとうございます」

 深々と礼をする。

「ほんとだね…あたし死に掛けたし」

「私も私も~」

「そうですよ。まったく。來魅さんがあと一分遅かったら多分死んでました」

「そうやなぁ。久々に死を覚悟したで」

「まったくだ…。こんなの付き合わされて。お前らといるとロクな事ないわね」

「凛夢ちゃん、言葉が裏モードと表モード混ざってる混ざってる」

「あ、え?嘘っ?!」

 慌てて口を隠す。

最早バレバレである。

「でも自分の意志でこの街に着たんですよね?」

 凛夢の痛いとこをつく耿助。

「ぐ…」

 みんな次第に笑顔になる。

「さっき…お父さんて言ってたけど…どゆこと?」

「ああ…それはですね…」


 柚羽は本質をまだ隠していたのだ。

がしゃどくろに取り込まれ、膨大な霊力を発していた理由。

柚羽の父親。

鳴神晃(なるがみこう)

代々、鳴神家が人柱となり、妖怪を封じていた。

ただでさえ、高い霊力の持ち主。

その力が中心となり、邪悪な力に置き換えられていた。

そしてさらに長い年月で彷徨ってくる霊などを取り込んでいたおかげで強力な妖怪となってしまった。

元を辿ると、鳴神家の人間が悪霊化したものだった。

「…私がまだ幼い頃、一度封印が解けたのです…」

「え?マジで?」

「10年程前です。その際、私の父親が対処しに行ったのですが…」

「なるほど」

「運悪く、死んでしまって…。戻ってきたのは式神だけで…。

それ以降私は強くなるために早岬流剣技も習って…今に至ります」

「ふむふむー。辛い過去だったんだね~。分かるよその気持ち」

 みゆも一緒になって涙ぐむ。

「え?でも解けたのにまた封印できたんでしょ?」

「それは…」

 ずいっと琉嬉が割り込む。

「さっきも言ってたじゃん。柚羽の父親が人柱となる事で、封印を長めたんだよ。

鳴神家が自分の祖先のやらかした事を責任として、自らの命と引き換えに封印していく。

それがどんどん悪い方向に行っちゃってたって訳」

「だからあんな強さになってたというのか…」

 來魅も座り込んでる。

相当へばったようだ。

「大丈夫か?琉嬉」

「済まぬ。こんなにしんどかったのは琉嬉と戦って以来だ。私もまだまだだな」

「いや…かなり十分だったと思うけど…」


「なるほど…ねえ」

 一人納得するようにしてるみゆ。

「どうかしたの?みゆちゃん?」

「ん?いや……鳴神家が廃れた理由…ってのが分かった気がするよ」

「廃れたって…」

「私の家系はね、五大家って知ってるよね?」

「あ、う、うん…」

(……命を捨ててまで守っていた誇りって…ヤツなのかな…?)

 柚羽の顔を見る。

安堵の表情をしている。

(……良かったね、柚羽ちゃん)




 晃が成しえなかった事。

柚羽が決着をつけた。

その当時にはなかった、琉嬉達という強力な仲間と力合わせて。

こうして鞍光の長い長い、怪奇現象の元となった事件が終わりを告げた。



「まったく…今回は酷かったね…」

 フラフラの護。

一番の負傷者だった。

傷は治っているが、しばらく休養が必要なのかもしれないようだ。

來魅も立つ事もなく、余程疲れたのか座りっぱなしだ。

「大丈夫?來魅」

「悠飛か……。おんぶしてくれ」

「…な、なんで?」

「久々に全力で戦ったから、疲れた」

「…子供だなぁ…本当に」

 そのまま眠る。

「あ、ちょっと…」

 大技を繰り出した影響か、ほとんど妖力を使いきったようだ。

そもそも強力ながしゃどくろと長い間戦っていた。

いくら最強ともよばれる來魅とはいえ、生身の体。

体力が無限ではない。

底をつくと時は底をつく。

それが今訪れたという話だ。

同じようにへたばっているのは琉嬉。

真霊気を放ったおかげで立つ事すらできないでいた。


「大丈夫…?琉嬉姉」

 紫音達も来ていた。

「琉嬉ちゃん…大丈夫かい!?ああ、なんてボロボロに…ああ、悠飛ちゃんも…!來魅ちゃんも!」

 親バカ炸裂。

回りの目を気にしない。

「おお、あのおじさんは琉嬉ちゃんの親父さんなのか!」

 龍翔が納得の笑み。

「あー、言っとくけど私とこっちの莉音は琉嬉姉のいとこ」

「おお、そうなのか!」

「そして、このかっこいいコが悠飛」

「フム。お兄さんか?」

「……私は妹です」

「…………おお、そうか」

 一瞬龍翔の頭は混乱した。

だが、すぐ事態を飲み込む。

「あはっはは!そりゃそうよね!誰もがそう思うっわよ!」

 凛夢が爆笑する。

「うるせー!黙れ!バカ死神!」

 振り絞った力で凛夢をチョップする。

「いったぁー!何するんだ!このロリ娘!」

「誰がロリ娘だ!!」

 またケンカになる二人。

飽きないものである。

柚羽も笑顔になる。

そんな柚羽の頭をぽんっと手を置く護。

「芹澤さん」

「ね?面白いでしょ?君も、もう仲間なんだから。もっと頼っていいからね」

「…ハイ!」



 文化祭が終った。

全ての日程を終えた。


 がしゃどくろ…つまり、鳴神家の怨霊達は琉嬉の真霊気で完全に霊力を崩壊させ、柚羽の刀で仕留めた。

ふかしぎ部が初めて、一丸となり力を合わせて倒した。


「ふぅー。ま、なんとかなった…よね?」

 琉嬉がみんなに問いかける。

「もっちろん!」

 全員が声を揃えて応える。

ニカッと琉嬉は満面の笑みを浮かべた。




 とにかく、後始末が大変だった。

後夜祭がやっとこさ終わったのに、あの後に警察が事情聴取に取り入れる騒ぎに。

学校の上の者もひきりなしに動き回っている。

だが、さすがに食えない生徒会長のまどか。

なんなく問題をクリアしていく。

破損した部分などは港咲家の資金でまかなうという太っ腹ぷり。

とんでもない文化祭は終わりを告げたのだ。

ただ、爆発でもしたような旧校舎の状態。

さすがに弁明は出来ないが、ふかしぎ部員達がやったという証拠もない。

警察が来て何やら現場検証している。

沢村刑事と琉嬉が何か話してる。

他の面々は大した気にもしてない。

琉嬉に任せておけば丸く収まるだろう。

そんな期待してるからだ。


「いやー大変だなー」

 大変そうには見えない龍翔。

至ってマイペースだ。

「龍翔様…」

「遊希、どうした?」

「いえ…。龍翔様大変そうだと…」

「なぁに。これくらい問題ないって。副会長として、しっかりと忙しく生きていくぜ」

「あまり無理なさずに…」

「おうよ!」

 よく分からない日本語だが、やる気は十分過ぎるほどあるようだ。



「ねえ、護」

「なあに?」

 琉嬉達は屋上に昼食をとっていた。

「妖怪化って…どーゆーこと?そういえば詳しく聞いてないんだけど?」

「ん?ああ、あの時ね…」

 そう、がしゃどくろに攻撃しかけた時に本気を出すために、妖怪化したという。

琉嬉と一戦交えた時も妖怪化して戦った。

その時の戦闘力は半端なく強かった。

反撃時に瀕死の状態になったが、妖怪化したため妖気でなんとか持ち応えたというのだ。

「私ね、人間と妖怪のハーフ…ではないんだ」

「…へ?」

「いや、ハーフて言っていいのかな?よくわかんないや」

 ハーフではないという。

実際、人間と妖怪のハーフはいる。

非常に人間に近い遺伝子構造した妖怪がいる。

その種族が合わさり、あまり祝福されてないような子供が生まれる場合がある。

希少だがいるにはいるのだ。

しかし護はそれは否定した。

「元、人間?いや違う…一応人間だし…」

「護…?」

「んまー、そのうち分かると思うけどさ。中学の頃に妖怪の血が混ざっちゃってさ。

その時に妖怪としての力をコントロールできるようになったの」

「……そんな事があり得るの?」

「…多分」

「………」

しばらく沈黙状態が続く。

「……いや、あり得るか…現に狗依緋瑪斗という、人物もいるし…」

「緋瑪斗って、明黄麟神社で会った赤い髪の子?」

「そ。元は普通のなんでもない人間。あ、これって言っちゃっていいんだっけか…?」

「何々?」

「世の中おかしなコトが多いってコト」

「何それー?」

 琉嬉は護の綺麗な髪を触る。

「お?」

「僕はもうどんな「ふかしぎ」な出来事が起きても信じるよ」


「まーなんだっていいんじゃない?芹澤さんは芹澤さんだし」

 いままでおとなしかった凛夢が言う。

「だよね~」

 みゆも寝てたかと思うと、飛び起きる。

「…悠飛とはまた違うのかな…?」

「悠飛君が何?」

「あ、いや、なんでもない」

「そう?」

 一緒にいればいずれ分かる事だろう。

今は深く聞いても仕方ない。

金髪が地毛というのも関係があるかも…?

琉嬉と凛夢はそう想像していた。

実はこう仲良くなっていてもそれぞれの過去の事は知らない事がある。

知られたくない過去かもしれないがそれを知る事によりお互いをより知りえるかもしれない。

それはまだ時間かかる後先の事だろう。


「お祖父ちゃん達も大変だったて。でもがしゃどくろを倒した瞬間霊物質も消えていったて」

 緋黄寺も街中など出向き、霊退治していた。

珍しい、総動員での戦いだったそうだ。

琉嬉の祖父達も後から連絡が来て、なんとか大きな被害を出さずに良かったと。

さすがというか、やはり只者ではない彼方家とその弟子達。

「別な意味」での後始末はお寺の人達に任せた。

学校での後始末は、ふかしぎ部がやっておいた。


「あちこち大変だったんだねぇ」

「うん。沢村刑事も疲れたって」

「ハハ、やっぱりね」

 淡々とした会話の中、涼しい風がつき抜ける晴れた空。

街もあらゆる目撃談が相次ぎ、警察へと問い合わせが殺到。

後にニュースでも報道され、鞍光市、その一体の市町村に怪奇現象が起きたと話題になっていた。

その事件が起きた、昨日の出来事が嘘みたいだった。

一日経つとまったく不可解な出来事がなくなった。

綺麗サッパリと、収まったのだ。


 結局今日も琉嬉の霊力は戻りきらない。

真霊気はぶつけた相手の霊力などを封印してしまう強さがある代わりに、

代償として自分自身の霊気も消耗してしまう。

回復までにまる一日以上かかるみたいだ。

來魅もあの後ずっと寝てたまま。

朝にも目を覚まさず、昼まで休んでいた。

封じの術が戻り、以前と同じ状態になった。

護もみゆも、凛夢や叉羅沙も疲れきっていた。

涼しい顔していたまどかも足元がおぼつかなかった。

無駄元気なのは龍翔。

どこから出てくるのか…。

見習いたい部分だ。




 旧校舎からそう遠くはない森中。

長老達妖怪もほっと安心した様子だった。

「どうやらあの人間の娘っ子。やりおったみたいじゃの」

「だなぁ。來魅だけじゃなく、がしゃどくろまで退治したってか~。世界最強レベルってヤツじゃね?」

「かもしれんのう…」

 木々から見える空を眺めながら人間に感謝する長老であった。


 同じ妖怪でもこっちも安心している様子だった。

阮醐と萩厘。

「なあ、おっさん。がしゃどくろのやつの霊気感じなくなったけど倒したのかな?」

「倒したんだろうな」

「へぇー、マジか…やるなぁ。あの人間供」

 茶をすすりながら黙り込む阮醐。

(……來魅め。またあの技使ったのか。負担かかるのに。それ程の相手だったという事か)

 何から何までお見通し。

阮醐は洞察力に優れていた。

「ふぅん……。なあ、おっさん!俺久々に街いきてえよ!」

「………だめだ。もっと行儀よく、大人しくなれるようにならんと」

「それは性格だから無理だって!」

「無理ではない!」

 ゴツンッと頭に拳骨。

「…くそう…」

 まだまだ萩厘の修行?が続きそうだ。



 生徒会と、ふかしぎ部員達は文化祭の後片づけに追われていた。

文化祭実行委員や大がかりな出し物を出したクラス、部活などは休日を返上して学校に登校している。

何もない生徒は休みだ。

ふかしぎ部の場合は結局、半分が生徒会役員なのでどうせなら手伝うという理由で琉嬉達も登校した。

後片付けは終盤に入っていて、お昼休みを挟んで午後からまとめにかかる予定だ。

ガチャガチャっとにぎやかな音を立ててドアが開く。

「あ、いたいた」

 屋上へ新たにやってきたのは柚羽だった。

午前中は姿がなかった。

昨日の事だ。

家の事もいろいろあるだろう。

午前中までにやり終えたのだろうか。

「捜しましたよ。生徒会室にも部室にもいなかったから」

「…柚羽」

「おー、ゆずたーん」

 にぎやかな歓迎。

「昨日はありがとうございました。改めてお礼申し上げます」

 丁寧な挨拶。

小さい体が可愛らしくペコリと頭を下げる。

「こちらこそ~」

 つられて挨拶する護とみゆ。

「本当に出会った縁。これからもよろしくお願いします」

「そうそう。やっぱり女の子は笑顔が一番!」

 みゆが柚羽のほっぺをつんつんする。

「いつも眠たそうな目してるからねぇ~」

「ね、眠たそうな目ですか?そんなに私って…」

「眠たそうな目だったら琉嬉ちゃんも眠たそうな目つきだよね?」

「うるせー」

 ワイワイしてて非常に居心地がいい。

柚羽は孤独という名の呪縛から解き放れていた。


 あの時、あきらめないで念を送った事が深い繋がりを作る事になった。

それは柚羽の力もあるがしっかりと受け止めた琉嬉のおかげかもしれない。

もし、琉嬉が柚羽の、いや、鳴神家の念を受け取らなかったら…。

今頃学校だけではなく、街中が火の海…だったのかもしれない。

どっちにしろ琉嬉達は不測の事態でもなんとかするだろうが…。

そういう絆と強さを手に入れているふかしぎ部。

新たに鳴神柚羽という、「正式」に新しい仲間を迎え入れた。



 生徒会室ではなく、どこかの部屋。

辺りは暗い。

よくみたら図書室のようだ。

それもかなり奥ばった所。

(…なるほど。10年前にこのような事故が…。

 鳴神晃…当時41歳。10年前の10月1日から行方不明に。

たしかにこの学校の近くの森…。

つまり旧校舎で亡くなっている…事に)

まどかが見ている資料は決して表沙汰になることのない事件や事故の資料。

どういう経由で入手したのか不明だが、重要な物には間違いない。

生徒会室で読んでないのは他の者、特に柚羽に見られたくないため。

灯台下暗し…の考えで、読み物ならば敢えて図書室というセコイ考えからでた訳である。

(…より深く調べる必要あるかもしれませんね…。今後またこういった事があったりしたら…)

 がしゃどくろの脅威がなくなったとはいえ、強力な霊磁場にある学校。

ピタっと霊目撃談はなくなったとはいえ、視える者には視える。

妖怪も多い土地。

全ての脅威がなくなった訳ではないのだ。

「まどかー」

 副会長である龍翔も一緒だったようだ。

「ふぅー……」

「お?どうした?まどか?珍しいな。お前が溜息なんて」

「ふふ、私も人間です。疲れる時は疲れますよ」

「ふぅん」

「ま、本当に大変なのは学校のお偉いさんだと思いますよ」

「お、おう…そうだよな。大変なのは大人達だよな…」

 ニコっとなんともいやらしい意味合いを含めた笑顔をする。

その笑顔の裏が怖い…と、改めて思った龍翔だった。




 ほとんどの片づけが終わって、ふかしぎ部員が勢揃いする。

顧問の耿助も顔を出す。

文化祭の全てが終わったのだ。

「で、皆さんお集まりどうも」

 部長、琉嬉が自らの話。

「いえーい、琉嬉先輩、いよっぶちょー」

「寧音、そこのうるさいやつを」

「ラジャッ」

「もががが…」

 命令されると同時に素早い動きで、寧音がみゆの口を塞ぐ。

「集まったのは何もでもない、お礼です。皆、ありがと」

 バサッと大きなツインテールが大きく動くとと同時に深く礼をする。

意外な行動にその場にいた部員達が驚く。

「それと、同時に、柚羽を正式に部員とします」

「意義なーし」

「だな」

「ええ」

「そうですね」

 全員納得。

「よ、よろしくお願いします…」

 凄く照れくさそうにする。

「二人並ぶと本当に高校生かなって思うくらい、ちっちゃいよねー」

「うるさいっ!そこ!」

 今度は護がいらない事を言ってしまう。

さすがに琉嬉よりは柚羽の方が大きい。

「今まで正式じゃなかったの?」

「そーだね。だって本人から入部届…サインしてもらってなかったもん」

「えー?」

「ちょっと待て…私の時は強引だったでしょ?!」

 凛夢が体を乗り上げて抗議する。

「……いや、凛夢……お前、ちゃんと自分の名前書いただろ…」

「はぁ?いつ私が…?いや……もしかしてあの時…?」

 心当たりがあるようだ。

「ね?」

「くっ……みゆ以上に手回し素早いな…」

「フフッ」


 凛夢は何かを思い出していた。

担任の桜川先生から手渡された紙。

それに名前を書いた記憶がある。

てっきり転校のための必要な書類かと思っていた。

何も考えずに名前を書いたのだ。

琉嬉がこっそり桜川先生に頼んで、書いてもらっていたのだ。

「……納得いかない」

 と言いつつ、席に座る。

「さて、どうします?これから。やる事はもうありませんけど」

 まどかが時計を確認しながら、資料を仕舞う。

「そうーだねー。やっぱここは打ち上げじゃない?」

「打ち上げ、いいねぇ。どこに?」

「焼肉とか…どうでしょうか?」

 まどかが提案する。

「じゃーん、実は焼肉屋のクーポンを私が持っています!」

 寧音から脱出したみゆが片手に掲げた小さな紙切れ。

焼肉屋の割引クーポン券だった。

「おー!いいねー!焼肉!」

 盛り上がる部員達。

「金持ちなら潔く奢ったら~?」

 護が嫌味そうに言う。

「いやいや、そこはちょっと勘弁してもらえますか~?」

 申し訳なさそうに言う。

「ま、たまにはいっか」


「…まどか、みゆと相談してたんだろ?」

 コソコソっと話す部長と生徒会長の二人。

「あは、分かりました?」

「みゆはみゆでそういう部分抜け目ないし…お前さんもやる事セコイからな」

「さっきの凛夢さんとのやり取りの琉嬉さんに言われたくないですよー」

 ぷーっと頬を膨らませる。

「はは、やっぱ、あんたらも最高だなっ」

「それはこっちの台詞ですよ」

「じゃ、行こかー?」

 生徒会室側の扉のカギを閉める叉羅沙。

「あー、御琴、この資料そこの棚によろしく」

「あ、ハイッ」

 琉嬉がぽいっと御琴に投げ渡す。

「はぁー。凄いですね…。ふかしぎ部のみなさんって」

「でしょ?」

 柚羽の後ろから抱きしめるように寄り掛かる護。

柚羽も背が低いので簡単に覆い被さる。

「護先輩…」

「今まで、不幸な人生だったと思うけど……これからは幸せいっぱいだと思うよ?」

「…そう……ですね」

「よしっ、じゃあ行こう!打ち上げに!」

「はいっ」

 今まで一番元気のいい返事だった。




 鞍光高校の文化祭はこうして幕を閉じた。

歴史上、最大にして最悪の文化祭。

表沙汰では警察まで出動した大波乱。

一般的にはきっと何かの事件があったくらいにしか分からない。

だが、裏では幽霊騒ぎだらけで伝説となった。

ある意味、鞍光高校らしい文化祭という事で………。


(……何より良かったのは…柚羽の……、鳴神家の呪われた連鎖を断ち切った…って事かな)

 校門を後にするふかしぎ部員達。

琉嬉は一番後から玄関から出てきた。

見上げると綺麗なオレンジ色の夕陽が眩しい。


「ねぇ、柚羽」

「はい?なんでしょう?」

「鳴神家はもういないの?」

「……もう私だけです。母親は鳴神家とはまったく関係ない人ですから…」

「…ふーん…なるほどね…」

 すると琉嬉は柚羽の右手を両手で掴む。

それも力強く。

「琉嬉先輩…?」

「鳴神家はこの後どうするの…?」

「そうですね…、私の代でどうにかするしかないですね」

「ん、そうだね。あれだな、将来は婿養子を受け入れて鳴神家を存続させなきゃ」

「ふふ、そうですね…」

「今は不便だろうけど…僕達もいるし、少しくらい頼ってもいいんだからね」

 優しく微笑みかける。

「…優しいですね。琉嬉先輩って」

「よ、よせやい。そんな事言うの」

 自分から言っといて照れだす。

「なーにやってんのー?二人ともー。早く来ないと電車に乗り遅れるよー?」

「おー、分かったよー。柚羽、走ろ」

「はい!」


 こうして、「ふかしぎ部」のひとつの大きな難を乗り越えれた…かもしれない。


これで「ふかしぎ部」の大きな山場のひとつが終わりです。

まだまだ続きますのでながーい目で見てやってください。

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