#26 文化祭は影模様…
夜が肌寒い。
そんな季節がやって来た。
昼はまだまだ暑い日もあるが、日が暮れてくれば一気に肌寒くなる。
どうも服装の調節が難しい季節だ。
まだ夏服の生徒もいれば、制服の上着着用してる生徒もいる。
体感温度は人それぞれなので仕方ないが。
琉嬉はそろそろ上着を出そうとタンスを漁っていた。
「琉嬉ー何してるんだ?」
「ん?いや、そろそろ寒いかなーって。制服の上探してる」
しかし、みつからない。
たしかに、タンスに入れていたはず。
首を傾げしばし考え込む。
クリーニングにでも出したのか。
「あれー、ないな…どこにやったけ?」
探す事1分弱。
「おーい。これじゃないか?」
來魅が手に持っているもの。
見覚えのあるオレンジ色した服。
そう、鞍光高校の制服の上着だ。
「何処にあったの?」
「ためしに着てみた。ちょっと大きいな」
その瞬間手刀が來魅の頭に命中していた。
「痛たー…何も叩くことはないだろう」
「……勝手に持っていて着たりするからだろ」
「いいじゃないか、別に」
「良くない!」
またまた大声張り上げてうるさい琉嬉。
そのの部屋を覗きこむ悠飛。
「…飽きないな…あの二人」
「制服姿の來魅ちゃんか~。さぞ、可愛く似合うと思うわ~」
なぜか嬉しそうに話す嶺珠。
「お母さん…あんまり変なコトしないでよ」
「琉嬉ちゃんも似合うしきっと來魅ちゃんも…」
「私は似合わないっていう事?」
嫉妬する?悠飛。
「まあまあ、悠飛ちゃんは悠飛ちゃんばりのかっこよさがあるよ」
フォローの意味が違う嶺珠の一言。
悠飛はそのまま無言で黙る。
自分の事はもう諦めて黙る事にした。
文化祭が近づく。
その準備が始まりこれ以上ない忙しい風景が目に付くようになる。
通常の授業が終わればいろいろなもの作ったりする準備に追われる。
琉嬉達のクラスはというと…。
体育祭終わった翌週の始め。
文化祭についての出し物の協議。
「さあさあ、何をやる?」
山木と嶋元が中心となり、文化祭の出し物を議題にし話し合っている。
「メイド喫茶!」
「それいいけどありきたり過ぎる!」
「じゃあお化け屋敷!」
「小学生か!」
などと延々と議論している。
琉嬉はどうでもいい、と言ったような顔で窓を見つめていた。
(……お化け屋敷…この学校自体がお化け屋敷並みだよ…)
心の中でツッコむ琉嬉。
一日一回はどこかで浮遊している霊を見る。
最近さらに活発になってきたのか、ふかしぎ部が動いて対処している。
琉嬉は、この日は元気がない。
というより元気がないように見えるのはいつもの事だが。
「琉嬉ちゃんは何がいい~?」
後ろの席のみなっちが話しかけてくる。
「何がいいったって……別に変なのじゃなきゃいいけど」
「そうだよね~。でもメイドさんも捨てがたいよね~」
「………はぁ」
みなっちはメイド服でも着たさそうである。
多少なりとも女子は憧れるのだろうか?
少なくともみなっちは憧れを持っているようだ。
「メイド服ねぇ…。似たような服なら普段着てるしなぁ」
「へ?」
「あ、いや、なんでもない」
琉嬉は自分の持っているゴスロリ調な服の事を言ってるようだ。
黒と白を基調にした服が多い。
それもヒラヒラしたようなのがついた服も持っている。
メイド服も黒と白をメインが多い。
それは嶺珠の趣味なのか、琉嬉に似合うと思い時々買ってくるそうだ。
琉嬉自身も割りと好みだったりする。
「メイド服か~。水無月さんも似合いそうよね~」
「…凛夢ねぇ」
チラっと凛夢の方を見る。
そして少し凛夢のメイド服姿を想像する二人。
「……琉嬉ちゃん、水無月さん、似合うよコレ!」
「…僕もそう思ったかも」
当の凛夢本人はあらぬ想像されてるのも知らずにクラス会議に集中して話を聞いている。
「劇とかどうですか~?」
「うーん、劇枠取れるかどうかだね~」
結局この日では出し物の結論はでなかった。
「琉嬉ちゃんのクラス何やるか決まった~?」
「…うんにゃ。何も。また明日クラス会議するって」
「へぇ~。大変だねぇ。あと3週間くらいしかないのにね。
ウチは焼きそばだかなんだからしいよ。ま、もちろんかわいいメイド服用意して、
メイド焼きそば屋をやるのだ~!」
「みゆの家の財力なら可能だな」
「いや、護。メイドと焼きそばの組み合わせをツッコまないの?」
などと会話しながら学校を出ようとする面々。
「まどか達は?」
護が生徒会達がいないのに気づく。
隣の部屋なんだから直接確かめればいいのに。
「生徒会で忙しいってメール着てた」
「ほぅ。大変だね生徒会も」
文化祭近づく中で生徒会もまた忙しくなる。
別に文化祭実行委員会なる組織もあるが、生徒会も実質運営の要でもある。
しばらくは一緒に帰る事もできないかもしれないようだ。
「寧音から嘆きのメール来てた。琉嬉さん達と話せなくて辛いです…、だって」
「そ、そう…。本当に生徒会風紀の仕事する気あるのかな…?」
文面から察する、遊びたいという心。
「ま、ウチらも準備始まったらすぐ帰れなくなるかもね~」
「そうねぇ」
よく考えたら学校も一年の中でいろいろイベントがあるもんだ。
暇そうな生徒もいれば忙しい生徒もいる。
人それぞれ。
琉嬉達はどっちかというと暇な部類なのかもしれない。
玄関口まで出てきた琉嬉達。
琉嬉はふと、夢の内容を改めて思い出した。
(……そういや、夢……)
柚羽の事あってから、夢の事はさっぱり忘れていた。
いや、忘れてた理由はあれから不可解な夢を見る事がなくなったからだ。
「………」
琉嬉とみゆが歩みを止める。
「…どうしたの?二人?」
しばらく沈黙したのち、琉嬉が喋りだす。
「…護。何も感じなかった?」
「……いや、特に…。何?また霊的な何か?」
キョロキョロ見回す護。
護自体は霊力は高い。
霊的物質も視える能力はある。
しかし、感知力がイマイチ欠ける。
と言ってもほんの微かな霊力はさすがに気づかない時も多い。
その反面琉嬉とみゆは高い感知力がある。
「…何もいないけど?」
「普段いるようなヤツかな…?琉嬉ちゃん」
「だといいけどね…。ま、低級中の低級だから問題ないと思うけど」
どうやら普段感じている霊気のようだった。
「…でも」
「でも?」
(気になっちゃうんだよな…夢で言ってた日が近づくとなると)
納得いかないような顔している琉嬉。
しばらくその場で2、3分じっとしていた。
だが、特に何もなく霊気も過ぎ去っていた。
「…これはもう一回本格的に調べる必要があるかもね」
「うむー」
「…??」
護だけ状況が掴めないようだった。
「ね?ね?二人とも…どこ行くの?」
旧校舎を超えて深い森中の奥地。
道がかろうじてあるという状況だ。
なんの目的で作られたのか分からないくらいの道。
一応、車が通ったような跡が残ってるのでそこそこ人の出入りがあるようだ。
「こんな所来てどうするの?」
「ふかしぎ部の部活動の一環と考えてよ」
「はぃ?」
なんだかよく分からないまま護は着いて来てしまった。
日が暮れてより不気味になりつつある森の中。
人影みたいなのが通ったりする。
「幽霊多くね?」
護らしかぬセリフ。
「多いよね。なんだか彷徨ってるみたいだ」
「どうする事は出来ないんでしょうか?」
「さぁね」
琉嬉は以前に、手当たりしだい教師などに聞いてみたがそれらしい情報はなし。
それと文化祭当日の10月1日についても聞き回ったが発展はなかった。
「やっぱり学校を転々する可能性のある教師達は駄目か…。ここはやはりネットと昔から住んでる地元民に聞くしかないか…」
ネットでは当てにならない。
所詮、裏の事情を知る人間なんぞごく僅かに過ぎない。
なので、近隣に住んでいる原住民に聞こうと思ったのだ。
途中から案の定、立ち入り禁止区域になっている。
ご丁寧に有刺鉄線で侵入出来ないようにされている。
「ありゃりゃ、こりゃ入るのに苦労しそうなやつだね~」
みゆが棘状になってる鉄線をちょんと触れる。
「大丈夫、電気は走ってないようですよ~」
「アホか。そんな大それた事出来る訳ないだろ。ただ、結界らしきもの…もないよね?」
「ありませんね~」
鉄線の奥は大きくそびえ立つ鉄塔。
電線などを繋ぐための鉄塔が近くにある。
「どうするの?こんな奥まで来て…。靴が泥だらけだよ~」
「高そうな革靴履いてるからさ」
「そうそう、まもちゃん先輩…お金持ってるんですね」
「…無理して買ったんだよっ。文句あるの?」
「ありませーん」
二人声揃えて言う。
「……ばーかばーかー」
「……そこそこの霊気感じるな…」
と、琉嬉がぼやく、
何かいるのだろう。
有刺鉄線を乗り越えて、鉄塔の隣奥をさらに進む。
途中から急に崖のようになっていて、そこを下って行く。
ここが危ないので立ち入り禁止にしてる理由のひとつなのかもしれない。
慣れてる3人は軽やかに降りていく。
まだ、道が続いている。
いやもはや、道と言える道じゃない。
獣道状態だ。
一体どこに続いてるのだろうか。
そもそも、なんの理由で道があるのか。
関わりのない者ならまったく理解ができない。
こんな道を通る者がいるのが不思議で仕方ないレベルになっている。
少し疲れが出てきたのか、3人ともしばし無言のまま進む。
すると琉嬉が足を止めた。
若干開けたような場所。
近くに小屋みたいなのが見える。
小屋と言ってもほぼ、木だけで作られた小屋だ。
「おーい、いるんだろー?」
誰かに声をかける。
そう、普通の人間には目につかない存在。
「……なんだ~?人間の子供か」
「むぅ。子供じゃない」
ヌッと姿を現したのは妖怪。
「…妖怪さん?」
護が目を大きく見開く。
「まもちゃん先輩、別に珍しくないですよね?」
「いや、こんな所にいるとは思わなくってさ…」
妖怪の風貌は顔が大きく、赤い顔をしていて、いかにも妖怪!といった感じだ。
その辺によくいるそんなに強い力を持つ程ではない、低級ともいえる妖怪だ。
この街には、こうした妖怪が実は普通の地域より多い。
琉嬉らの寺のある街程ではないが、そう遠くないココ。
やはりいるもんだ。
「ねえ、聞きたい事あるんだけどさ。ちょっといい?」
「あぁー?なんだって?聞きたい事?なんで人間に…」
「力ずく…になってもいいの?」
琉嬉の拳に強力な霊気が集まる。
「へ?」
あまりの強力な霊気に気圧され妖怪は言う事をすぐ聞くようになった。
琉嬉はこの地にあった出来事を聞きだす。
「琉嬉先輩強引過ぎ…」
「だよね?いっつも思うんだよ…」
こそこそ話すみゆと護。
琉嬉は聞こえてないふりして話を聞き出している。
「俺もよく知らないんだが…。かつて人間はおろか、妖怪すら手を出さない厄介な妖怪がいたらしい。
それがいつしか封印でもされたのか姿を消したんだ」
「…へぇ。同族も嫌がるようなヤツが?」
「それが関係してるんじゃねえかぁ?」
「なるほどね」
「俺はよく知らねえぞ!それに関わりたくねえしな…」
「他の妖怪に聞くってのもありかな」
「…それならここの地に詳しい奴いるぞ」
案内されるがまま琉嬉らはついてく。
少し進むと大きな広場みたいな場所へ出る。
完全に人の手が入ってない場所のようだ。
地図にも記載されてないような少し整った場所。
「うわ…未開な地って感じだね」
「オーイ、長老~」
長老と呼ばれた妖怪。
その妖怪が姿を現す。
年老いたような風貌。
まさしく長老とも呼べる姿だ。
「これはこれは可愛らしい人間の子供じゃのぅ」
「……あえてもうツッコまない」
「ふむ?」
面倒ながら琉嬉は何度も何度も同じような事を説明した。
この地に居た妖怪について。
その解決策のために、起こりうる事件のために仕方ない。
「ふむ。なるほど。お前さんはそのために歴史が知りたいとな」
「歴史ったてたかが100年の間の事でしょ?」
「妖狐の話か?噂によると復活して退治されたとかなんとか…」
「あー、來魅の事?それなら僕の家に居候してるよ」
「なぬっ?!」
長老は驚愕した。
琉嬉の発言に固まる。
「それは本当か……?」
「僕は彼方琉嬉。五大家って言われてる家系のひとつらしいけどね。
こっちは五大家の港咲みゆ。
そこの金髪はなんでもないけど僕らに匹敵する霊術を持つ凄腕の退治屋」
「なんと……?!」
長老は理解をしたようだ。
「來魅以外に、危険な妖怪って…居たんだよね?」
「フム……結論から言おう。ここの地にいた強力な妖怪で「がしゃどくろ」というのがおった」
「がしゃどくろ?」」
「言ってたやつと同じ名前だね」
誰かががしゃどくろと言っていた。
だが完全な確証もなく、人間側だけで都合よく名称つけてただけかと思っていた。
「妖怪といえるかどうかだがな。人間の骨みたいな体した妖怪じゃ」
がしゃどくろ―――。
長老の語ったとおり、骸骨の姿した巨大な体をもつ妖怪である。
元は亡霊の集合体が妖怪化した、妖怪であって妖怪ではないような存在である。
「それがやっぱり旧校舎で関係してるのか…?」
「お前さんの通ってる学校…鞍光高校とか言ったか。あそこら辺にがしゃどくろがいたんだよ」
「…それは初耳だ」
しばし黙り込んで考える。
「亡霊の妖怪……そしたら学校に頻繁に現れる幽霊の理由もつくか」
「何か分かったのかの?」
ニヤっと笑いながら琉嬉はこう答える。
「ありがとっ!とても参考になった」
「ほう、それは良かった」
何か理解した様子だ。
「ねえ?琉嬉ちゃん。そのがしゃどくろがなんで旧校舎にいるの?」
「それは長老さんが知ってるよね?」
二人は長老の方へ向く。
「フム…」
どうしてがしゃどくろがこの地に現れたのかは不明だという。
だが、元々核となった者がいるのではないかと推測している。
かつて大暴れしたのは來魅が封じられた後の事らしい。
具体的な時代は分からないらしいが、少なくとも80年前くらいからではないかと。
「そんなに昔じゃないんだね」
「來魅もそうだからな…」
歴史浅い割には強烈なのがいるものだ。
「來魅もそうじゃったが…がしゃどくろも人間動物妖怪、関係なしだった。
手当たり次第に自分の養分にしとったのぅ」
「うへ、何それ…怖っ」
「養分って…自分の力の吸収してたってコト?」
「そうかもしれん」
琉嬉は再び手を組んで考え込む。
(どういう事なんだろ…?吸収して強くなってる?そんな馬鹿な話あるか?いや…)
「琉嬉先輩何かに気づきました?」
「気づいたていうより、引っ掛かるモノがあってね…」
「引っ掛かるモノ?」
「完全に推測でしかないんだけど、ね。それは明日部活で」
「えー、もったいぶらないでー」
琉嬉にひっつくみゆ。
「はっはっは。可愛らしいなお前さん達は」
長老が笑う。
「えへへー」
「そこ喜ぶ所っ?」
護のツッコミが森中でこだました。
「これで対策案は出来る。ただ、まだ問題が山積みだな…。
念を送ってる人物…。うーん謎がまだ残ってるな」
「大変そうじゃのう」
「分からない事は悠飛に聞けばいいや!んじゃ、また何かあったらよろしく!」
早々に立ち去る琉嬉。
ヒントを得ただけでも大いに収穫ありだ。
嬉しさのあまり駆け足で去っていく。
「あ、待ってよ琉嬉ちゃん~」
琉嬉を追いかけて行ってしまう護。
「ありゃりゃ、早いね…まったく。妖怪さん達どうもありがとう」
ペコリとお礼のお辞儀をしてみゆも追いかけてゆく。
「しかし、あの小娘なんなんだ?長老」
琉嬉達に最初に会った妖怪が出てくる。
「…詳しくは分からんが…彼方琉嬉と名乗った。あの「來魅」を倒したと噂される娘のようじゃの」
「はぁ…?!來魅って…あの100年前に突然姿消した大妖怪の!?」
「そうだ。この世界全てが恐れた妖怪來魅だ」
「そ、そんなヤツがこの地にいたのかよ…。道理であの霊力の強さ…」
ガクガク震える妖怪。
無理もない。
「はてはて、その人間でもがしゃどくろ相手にどうするかだな」
「その人間ならがしゃどくろも倒せるんじゃねえか?」
「だといいんじゃのう…」
「もし、人間が勝てなかったら…?」
「ワシ等も、危ないかもしれん」
「ゲゲッ…マジかよ…」
妖怪は万が一を考えて、逃げる事を考えた。
「よっ、お目覚めか」
目を覚ますと來魅の顔が近くにあった。
「のわっ!」
そして期待を裏切らないように頭をぶつけ合う。
「ぎゃあ――…」
朝からうるさい悲鳴二つが響き渡る。
「…あの二人が寝るとうるさいな…まったく」
妹はもう慣れっこだ。
「ほほぅ。その長老とやらに会ってきたと?」
「そう。がしゃどくろってのが間違いない」
「なるほど。しかし私が封印された後にそんな妖怪がおったとは」
封印された後の話なので、來魅が知る由もない。
琉嬉は制服に着替えてる。
「のぅ、琉嬉」
「何?」
「私も手助けしてやる。だからこの封じの術を…」
「当日にね」
「えー?ケチよのう」
右手の手首につけられた封じの数珠を眺める。
來魅自身の力でも跳ね除ける事は完全には出来ない。
琉嬉の高等な術と、参堂家に伝わる封印の宝玉の力のおかげだ。
「時にお前様よ」
「今度は何?」
「ちっさい胸よのう」
無言でチョップが命中してた。
「叩くことはないだろう」
「うっさいな!お前だって人の事言えないだろっ」
「何を言うか。私だってホラこの通り」
ボンッと大人の女性に化ける。
狐の妖怪だけあって化けるのは得意だ。
そのプロポーションは凄まじい。
「……卑怯だぞ」
「卑怯もラッキョウもないぞ」
「…?意味わかんない言葉言わないでよ、わぷっ」
琉嬉を大人の体で抱きしめる。
すっぽりと琉嬉の体が全部埋まってしまうくらいボリューミーだ。
「ほれほれ、これでも小さいと申すかっ?」
「うるさいぃぃ…しむぅぅ」
「げほげほっ、殺す気かっ!寧音と同じ事すんなっ!」
「ぬははは。すまぬ」
ボンッと再び変化する。
今度は中学生くらいの姿。
「これならどうだ?」
「あのねぇ……何をしたいの?さっきから…」
「封じの術されててもこれくらいの妖術は使えるんだぞ、という…」
「そんなの分かってるよ…あー、時間が!」
時計を確認したら8時を過ぎていた。
「お?遅刻か?」
「お前のせいだっ」
この日は珍しく遅刻してしまった。
今現在9月9日。
10月1日まであと3週間。
それまでにこの難解な謎を解く必要がある。
ただ、大きなヒントとなったのは「がしゃどくろ」という妖怪の存在だ。
兎も角、部室にみんなを集めてより深く作戦を練る事にした。
生徒会が終ったのを見計らった少し遅い時間だ。
「んで、琉嬉ちゃん。その夢の主が分かったの?」
「…んー。夢の主は分からないけど、柚羽の家系に関係してるんじゃない?」
「マジで?」
念の送り主が特定しつつある。
「ズバリ、僕が推理したのはがしゃどくろの中にいる人物…じゃないかって事」
「えー?!」
その場のみんなが声を上げる。
「それを知ってるのは…柚羽じゃない?」
柚羽に注目される。
少し驚いた顔をしている。
「あ、あの…わたしですか?」
「そー」
「何か知ってるんですよね?」
まどかがニコニコしながら聞く。
その笑顔が怖い。
「え、ええ…恐らくは、私の家系の者じゃないでしょうか…?すみません。正直私自身にもハッキリ分かりません…」
「無理もないな。確かめにその場所に行ったらボコボコに死にかけたんだろ?」
龍翔がみゆの持ってきてた飴玉を手に取って口に入れながら言う。
「ええ…。私が、一番の当事者の筈なんですが…あのような結果になって…」
「ふむ…」
琉嬉は棚に置いてあった資料を取り出す。
耿助が残した例の霊力を送り込まないと浮き出てこない、資料。
「これは?」
「耿助さんの資料。今日は来れてないけど何かあればってくれたヤツ。
それと、もうひとつ、うちのじーちゃんの所にあった書物」
バサッと、まとめられた資料と一冊の本をテーブルの上に置く。
護は本の方を手に取ってペラペラめくる。
しかし最初の方は何か書かれてるが後のページには何も書かれてない。
「何も書いてないよ?なにこれー?落丁本?」
「これはね…」
そして琉嬉は霊力を送り込む。
すると浮き出てきた。
「おー?なにこれー?」
知らない者は驚く。
知ってる者は驚かないが、それでも不思議そうに見ている。
「琉嬉さん、これには何が…?」
「ここ鞍光に関わった妖怪の事が大体書いてる」
「へぇー」
それぞれ資料や本に目を通す。
本の方は達筆すぎて何書いてるか分からない。
が、琉嬉はそう思ってポケットの中から小さいUSBメモリを取り出した。
「それなーに?」
「御琴、みゆ。準備お願いー」
「はい」
二人声揃えてノートパソコンを取り出す。
ちなみにパソコンはみゆの所有物。
さすがお金持ち。
セットし終えると、USBメモリを差し込んで何かを開く。
すると文字列が沢山。
「…もしかして、本を読みやすくした翻訳文字ですか?」
「正解っ!さすがは寧音。鋭いね~」
(琉嬉さんに褒められた!えへへ~)
顔がとろけるようににやつく。
それを見てたまどかと叉羅沙は少し引いた。
様々な妖怪について書かれている。
早速がしゃどくろについて…の所をみつけた。
「柚羽。こっち来て一緒に見てくれない?」
「は、はい…」
「小さい二人が揃ってるんのはなんか微笑ましいやねえ」
「…叉羅沙ちゃんなんかお母さんみたい…」
護がジト目で叉羅沙につっこむ。
「え?そうなん?あはは、そら失礼しました」
「ええと……がしゃどくろ…。
鞍光南松栄山にて封印されし」
「松栄山って…どこ?」
「鞍光高校が建ってる、ここの事ですよ」
まどかが答える。
この地の事は基本的にはなんでも知っている。
昔から住んでるからだ。
「え?ここ山なの?」
「護。ここは山だよ。山の上の方まで町が出来て、そして学校が建てられてる」
「そうなんやな~。今思えば坂が多いのも納得した」
坂が多いという事で自転車通学が大変という話を聞いた事がある。
「柚羽、続きを」
「はい…。鳴神家の者が中心となりて、封印する…」
「へぇ、そうなんだ」
「柚羽自身の口から言ってもらった方が早いかな?」
「…え?」
「琉嬉さん、どこまで知ってるんですか?」
まどかが琉嬉に問う。
もう何もかも知ってる様子だ。
「僕から…というより柚羽からね」
「しかし…」
「いえ、会長。大丈夫です」
柚羽は立ち上がり、ゆっくりと語りだした。
「私の家系…鳴神家は霊術会の中でも名家と言われてました。
しかし……今はほとんど落ちつぶれた状態です」
凛夢がピクッと少し反応する。
その凛夢の動きを琉嬉とみゆは見逃さなかった。
「その理由は……私の家系の人間が人柱となって、封じの術を強くしてます」
「…何それ?そんな理由で…?」
「次は私の代で…あの時向かいました。ですが……」
「まどかに止められたんだね?」
琉嬉がビシッと言う。
まどかと柚羽は無言のままだ。
生徒会も薄々気づいていたようだが、敢えて何も言わない。
「人柱…ねぇ。まどかが言ってたやつやな」
「そうですね…」
「でも、封じの術なら耿助さんの所とか、琉嬉ちゃんの秘術とかで…?」
「それはやったんですよね?まどか先輩?」
みゆが珍しく、険しい表情だった。
「みゆさんの言う通りです。それでも完全に抑えれる訳でもなく…徐々に力を増していってます」
「え?なんでですか…?」
震えながら言う御琴。
「ひとつはここに彷徨う幽霊達。導かれるように、がしゃどくろのいる旧校舎に向かって行く。
そしてがしゃどくろに入っていく」
琉嬉は淡々と答えを出す。
「結界とかどうにかすれば…?」
「それをやっても限界。人間の力の限界……」
人間が出来る事の限界に来てるという。
そこで人柱となる強力な霊力を持つ人間を結界の一部となる事で、封印を強めてると言われている。
それが出来るのは、鳴神家の人間のみ。
柚羽が犠牲になればまた封印の時期が長くなるという事らしい。
「そんな馬鹿げた話なんてあるの…?」
悔しがるような素振りの護。
「そりゃ、納得いきませんよね…」
「生贄…」
ボソッと生贄と呟いた声。
発したのは琉嬉。
「生贄?」
「大昔からよくあった制度…とでも言うのかな。
主に女性が多かったそうなんだけど、生きたまま動物や神格なる妖などにお供え物として…ね」
「なーにそれー?」
「それの名残なのかな…鳴神家がやってるのは」
「……はい」
全員が黙る。
「まったくムカつく風習だね。鳴神家のそのふざけた習慣を柚羽。お前の代で終わらせてやる」
琉嬉がザックリと柚羽に向かって言った。
「し、しかし……そんな事が…」
ぽんっと柚羽の肩に手を置くまどか。
「大丈夫です。五大家が揃ってるんです。
そして私達名家も沢山います」
「そうそう、あたしらもいるよー?」
護が御琴の首根っこ捕まえてピースサイン。
「僕もですか~?」
「今は最強とも言われてる、「妖狐・來魅」もいる。あいつは助けてくれるって言ってくれた」
「本当に?」
來魅もいれば百人力、いや千人力とも万人力とも言えるだろう。
「簡単に言えば、封じないで、やっつけちゃえばいいんだよ」
真顔で琉嬉が決めた。
「琉嬉ちゃんらしいね」
「そうやな」
「そうですね~」
簡単にまとめると、単純にがしゃどくろを倒せばいいと結論付けた。
もう作戦も攻略法もあったのもない。
ただただ、単に、ぶっ倒せばいいと。
「大物を祓ってやるんだ。みんなに感謝しないとね?柚羽?」
「しかし……」
「いいんだよ。みんな「仲間」なんだから」
「うっひゃー、琉嬉先輩クサイ事を言ってますね~」
「うるせぃ」
「それはそうと、その前に文化祭のために今後準備が忙しいですよね。
みなさん、サボらないようにしてくださいね」
まどかがしれっと言う。
生徒会長としての、発言。
そこを気にするあたり会長らしくしている。
まどか以外の者は顔が少し曇った。
そう。
がしゃどくろをどうのこうのする前に、文化祭準備漬けの毎日となる。
「なぁ、まどか」
「なんでしょう?」
作戦会議も終わり、各々帰宅していく。
大多数はどっちにしろ駅まで行くので一緒になって帰る。
琉嬉はまどかを呼び止めた。
「……柚羽が大怪我した理由って…お前絡んでるだろ?」
「…はてなんの事やら…」
ガシッと、まどかの腕を掴む。
その力はとても強い。
さすがのまどかも少し驚く。
「力づくで止めた…だから柚羽は体力を消耗した。そうでしょ?」
「……フフ、敵いませんね。あたなというお人は。さすがは彼方家…。
いや、「彼方琉嬉」という人間は」
「………」
真面目な顔のままの琉嬉。
「僕は事実を知りたい。僕の中の憶測だけのままにしたくない」
「いいでしょう。あの時あった本当の事を」
全ての事をまどかは琉嬉に話す事にした。
あの時。
つまり、柚羽が重傷を負った日。
その日は耿助もいたという話だ。
以前に聞いている。
だが、どうしても気になる箇所があった。
「柚羽自身に聞くのは酷だと思ってね」
「…優しいんですね」
「その優しさを間違えてるのはお前の方だけどね」
「ふふ、そうですねぇ」
目を大きく見開くまどか。
「あの時、柚羽さんは人柱なるために旧校舎に向かいました。勿論、私達は霊術名家として立ち会いました。
でも……どうしても納得行かなかった。
だから旧校舎に乗り込んで、柚羽さんを止めました」
「回りには他の大人達も居たんでしょ?多分まどかが全部ぶっ倒したのかそれとも幻術で…」
「さすが琉嬉さん。よくお気づきで」
「その場所には寧音…夜栄守家のいたの?」
「いえ、これとは所詮別件の関わり合いですから」
「いなかった訳ね」
だんだん喋りのトーンが小さく、低くなっていく。
「どうしても嫌だった。一緒の仲間がいなくなるなんて…」
「………」
何も喋らず腕を組む。
そして壁に寄り掛かる。
時折聞こえてくる吹奏楽部の音。
「なんとしても止めたかったまどかは、無理矢理攻撃でも仕掛けて柚羽と止めようとした」
「はい。ですが、突破されました」
「まどかが戦っても?」
「はい。それだけ、彼女は強いです」
一度、まどかと柚羽は交戦したようだ。
琉嬉はまどかと戦っている。
幻術に加え、護らとも劣らないくらい凄まじい動きで翻弄された。
その強さは十分理解している。
柚羽はそのまどかを退けたというのだ。
「ふむ……(ただならぬ霊力の強さを持ってるとは思ってたけど…)」
「その後…封じの術を試みたようですが、弾かれたようです。体力、霊力を消耗してたために」
「結果的にまどかと戦った事によって人柱にはならなくて済んだ訳だ。皮肉なもんだね」
「ええ…」
「よーく分かった。この件の流れ」
体勢を直し、どこからか出したのかいつの間にかパンを持っていた。
袋を開けて食べだす。
「それは…?」
「ん?くりーふはん」
「はぁ…」
クリームパンと言いたかったらしい。
「琉嬉さんも良くも悪くもマイペースですよね」
「よふひわれふ」
「何やってるのー?二人ともー?」
校門で二人を待っていた他の部員達。
「あれ?叉羅沙は?」
「これから用事があるって言って先に帰りましたよ」
「そうなの」
叉羅沙だけは先に帰った様子。
他のみんなは待っていた。
「琉嬉さん、あのお店行きませんか?」
「お店?あー。でも時間が」
「大丈夫です。あのお店九時までです」
「え?どこのお店?」
護らが興味を示す。
「まもちゃん先輩。駄目ですよ。どうせ琉嬉先輩の事ですから、ゲームとかですよ」
「ご名答。でも寧音からのお誘いだけどね」
「寧音先輩、私達もいいですか?」
「…え?あ、んー」
「いーんじゃないの?どうせバレてるって」
「……意地悪ですぅ」
真っ直ぐは帰らない生徒達だった。
お店寄るチームとそのまま帰るチームに別れた。
凛夢と龍翔、そして柚羽は先に帰った。
残ったメンバーはそのまま琉嬉寧音と一緒ににあってお店へ向かった。
「じゃーな。また明日」
「……じゃあね」
凛夢の方は小さい声で先に駅へ向かった。
「やれやれ。まだ心開いてないのかね」
龍翔が喋ると同時に使役妖怪の遊希が出てくる。
「いいんですか?」
「何が?」
「同じ部活の仲間ですよね?」
遊希の長い髪をスルッと撫でる。
「こっちから急いで仕掛けても駄目さ。ゆっくりと…な。そこは部長が突破口開いてくれるさ」
「……そうですか」
そしてそのまま姿をしゅるるっと音を立てて消す。
凛夢は柚羽について考えていた。
かつては有力な名家だった。
しかし今は落ちつぶれたと発言。
自分の所に重ねて考える。
(…落ちつぶれた……か……)
電車の窓から流れる景色を見ている。
しかし景色の内容は頭に入ってこない。
(五大家……霊術名家……)
自らの家系の事を思い出す。
(私の家族は……バラバラ)
ふと、携帯を取り出して中を確認する。
みゆから連絡メールが来ていた。
『気にする事ないと思うよ。凛夢ちゃん強いから』
という内容。
(アイツは人の気も知らないで…いつもストレートだな…)
みゆなりの気遣い。
ちょっとどこかズレた感が凛夢に対しては強いが。
(でも……少しは楽しもうとするかな)
「ええ、そうですか。……ハイ」
そう喋り終えると携帯を内ポケットにしまう。
耿助だった。
「どなたと喋っとったんどすか?」
「…あら?もしかして城樹さんじゃないですか?」
「どもー」
クスクス笑いながら姿を現す。
街中のビル街。
人気のない裏地。
「一応霊術会とは提携してますからね~」
「大変やねえ」
「もしかして同じ仕事…ですか?」
「ダブルブッキング?」
お互いに笑う。
「霊術会が本格的に動き出してきましたね…」
「そうやなぁ…」
二人は見据えた相手。
大きな悪霊だった。
「しっかし…霊術会も適当ですねぇ」
「ほんまやね」
そしてそのまま攻撃を仕掛けた。
この奇妙な夢の内容…。
というより、今後起こるであろう出来事の事を沢村刑事に連絡していた。
何かが起こっては遅い。
あらかじめ警察も素早く動けるような状況にして欲しいとの琉嬉の案だった。
沢村刑事は琉嬉の事を信用し、自分の出来る範囲での事をしてくれる約束をしてくれた。
何かと対策が練られてきた。
夏の陽気がすっかり終わり、秋の季節になってくる頃。
再び來魅の時のような、忙しい、忙しい、妖怪退治が始まろうとしていた。




