#25 浮かれた球技大会にようこそ
そろそろ涼しくもなってきた9月爽やかな風。
でもまだ昼間はまだ暑い。
残暑というやつなのか。
所詮地球の気まぐれ。
暦通りに季節は巡る訳でもない。
年ごとに暑い日が多い一年もあれば寒い一年もある。
鞍光高校の二大運動大会のひとつ、球技大会がついにやってくる。
二学期といえばいろいろな学校行事が待っている。
学祭、修学旅行、文化祭など……。
今後そういった話し合いが多くなるだろう。
そういうのには流れのままに乗ってきた琉嬉。
与えられたことだけをやればいい。
決して自分中心になる事はない。
普段から不思議っ娘(というより凶暴娘)扱いされてるので話を振られる事がない。
校内の不良共からさえも、避けられてしまう始末。
前の学校でもそうだった。
短気ゆえか、ムカつく相手にくってかかって問題起こす。
そして腕っぷしのせいか、あまり人と関わる事もなくなってしまった。
でも今の学校は違った。
転校初日の事件で、前と同じであまり話かけられる事はない…が、みなっちやゆう。
そして眞太朗達クラスメイトとは仲は良い。
同じ力持つふかしぎ部メンバー共バカ騒ぎをよくしている。
幾分か、会話も多くなった。
今後の展開についていろいろ議題が持ち上がる。
今月には、体育祭が、来月には文化祭が、就学旅行が。
いろいろ大変そうだ。
今はその触りの話し合いだ。
「それにしてもこのクラスの盛り上がりが凄いな…」
琉嬉も凛夢も転校してきて途中から入った。
前の学校のクラスとは違うノリに驚いてる。
(なんでも楽しむ陽気な学校だな…本当。別に悪い気はしないけど)
チラッと凛夢の方を見てみる。
すこし挙動不審な顔している。
琉嬉と同じ転校生。
この異様な盛り上がりについていけてないようだ。
(あいつの顔…笑っちゃうね)
クスクス…と怪しく笑う琉嬉を見た隣の席の生徒が、
(る、琉嬉ちゃんが笑ってる…怖い…)
戦慄していた。
凛夢にとってはこの学校に来て初めてのイベント物だ。
琉嬉は初めての球技大会。
一年生とほぼ、同じ感覚だ。
だが、あの頃とは違い親しい仲間、友人が出来た。
去年とは違った、充実した内容にはなるだろう。
「しかし…アンタも有名なのね」
「……まーね」
「みゆにちょっとだけ聞いたけどアンタも転校生で初日にやらかしたんだって?」
「……言うな。それを。僕自身の人生の汚点な事件なんだから」
「フフフ」
ニヤニヤする凛夢。
不可解な笑顔を見せながら琉嬉を見る。
「…殴るぞ」
「それは勘弁。綺麗な私の顔に傷がついてしまうわ」
髪をぱらっと手でなびかせて軽く流す。
「………猫かぶりめ」
「…しかしお前って結構人気あるんだな」
よくわからない人気がある琉嬉。
それに関心する凛夢。
ちょくちょく声をかけられたりする。
可愛いなどという言葉も聞こえてくる。
「…違う意味での人気じゃないの?」
自ら皮肉めいた事を言う。
「ふぅん……」
しかし負けずに劣らず、一気に学校のアイドルのような存在になった凛夢。
人気の種類が違うが。
「そういえばすぐ体育祭があるのね」
「…球技大会な」
「似たようなもんじゃん」
「この学校には二つの運動大会があるんだ」
「そうなの?」
お互いに転校生。
球技大会がどんな内容なのかは分からない。
この濃いメンツの学校ならば、きっと何かが起きる。
そんな気がしていた。
「で、投票の結果は今年のメインスポーツは野球となりました」
「去年はサッカーやったっけ?」
資料を漁りながら会話しているまどかと叉羅沙。
「そうでしたねぇ。今まででどんな球技やってきたんでしょうか?」
「……その前の年はクラス対抗ドッジボール。、その前はバレーボールなどなど…」
生徒会室。
毎年生徒からの投票で決めていたいようである。
「いろんなのやってるんですね」
まだ一年生の柚羽は知らない、伝統の球技大会。
「毎年違うんな。面倒なシステムやなー」
「いいじゃないですか。その方が思い出強く残って」
「そうかぁ?広報部も大変やろな…」
ドアが開き誰かが入ってくる。
白Yシャツ姿の龍翔。
「今年は野球だっけ?」
言いながら席に着く。
「こらまた、野球とは面倒なスポーツに…」
「まあいいじゃないですか。みなさんが望んでるんですから」
毎年やる競技は投票で行われる。
基本的には生徒会や教師達で候補を決める。
そして全校生徒対象に投票をして最終的に決める。
前年にやった球技はなぜか候補にあげない。
そういうルールが出来ている。
毎年同じ競技だと、その球技の部活をやっている部員がいる生徒がいるクラスが有利になってしまうから…らしい。
平等にやろうという、10年も20年以上も昔からの伝統だ。
ただ投票させるのにその分面倒が出来て生徒会的には大変のようである。
野球メインに、他の球技もやる。
今回はドッジボール。
こちらは一応順位つけはされるが、ほぼ遊びだ。
おそらく運動が得意な者は野球の方に出るからである。
野球は人数が限られるため、余った生徒に対しての措置である。
野球のルールは、時間の都合上最大でも5回まで。
点数が決まらない場合は安打数や、進塁した数が多い方で決着をつける。
そこがまた、スリル感があって勝負が着けるのにいいとのこと。
そして、事前に体育の授業の一環として野球の試合をやり、
球技大会当日、あらかじめ決まった順位で最終的に優勝を決める事になった。
まずは学年ごとにトーナメント形式で行い、勝った上位ニクラスを選出。
そして当日に総当たり戦の試合を行い、優勝が決まる。
なんとも手の込んだ事をするものだ。
これもやり手の生徒会の力もあった。
運が悪いのか良いのか、琉嬉のクラスは勝ち残ってしまっていた。
もちろんみゆのクラスも残る。
残念ながら、護ら他のクラスは負けていた。
なので、他の競技で盛り返す。
「…早速おでましかい。叉羅沙」
「これはこれは、護はん。おてやわらかにぃ」
「いきなり強敵だねぇ…」
いきなりの好カード。
勝負の行方はいかに?
イベント事があると朝がソワソワする。
いつもと違う空気というか、なんというか。
面倒くさいような気持ちの中に妙なワクワク感がある。
そういうものだ。
そしてこの日はくしくも、琉嬉達の学校と、
悠飛の通っている中学校が同じ体育祭だった。
「学校で何か楽しそうな事するそうだな~」
早速興味津々で來魅が問い詰めてくる。
朝食中だ。
來魅は大きな目玉焼きを頬張りながら喋っている。
「…人間のなんてことない運動の発表会だよ。てか、口に物を入れてる最中に喋っちゃだめだろ」
「ごふごふっ、んむ…。で、すぽーつするんだろ?お前様達なら活躍間違いないだろう」
「……だといいけどね」
やる気ない琉嬉。
それはいつもの事。
來魅の目が輝いてる。
どうやら観に行こうとしてる眼差しだ。
「……観に来ても楽しくないよ?」
「まあまあ、そう言うな。後で観に行ってやる」
「……お前は本当に何事も楽しそうでいいな」
「まかせろ!」
「…そこ威張るところ?」
学校に到着する。
玄関付近で琉嬉を呼ぶ声。
「やほ~、琉嬉先輩~」
早速現れるみゆ。
「琉嬉先輩のクラスには負けないですよ~」
「ハイハイ」
「もち、まもちゃん先輩にも、叉羅沙先輩にも」
俄然やる気モードだ。
学校全体が盛り上がる。
しかし、この手のイベントは得意不得意がある。
スポーツ万能の者は一躍ヒーローになる。
しかし苦手な者にはどうでもいい行事で迷惑なものであった。
一方中学校の方では。
「さあ、悠飛。いとこだからって手加減はしないよ!」
「…望むところだね」
こちらの行っている競技は…というと。
ドッジボールだった。
ドッジボールといえば、小学生の中で人気あるように思えるが、白黒つけるには手っ取り早い球技でもある。
それにクラス対抗となると俄然燃え上がるのは紫音の性格。
「アイツ…なんだってあんなに気合入ってるんだ……」
「さ、さあ…?」
「莉音なら分かるんじゃない?」
「……今更言わなくても紫音の性格…知ってるでしょ?何にもで全力投球…」
「たしかに」
紫音のクラスは紫音中心で動いてるようだった。
「…………来るよ」
悠飛が腰を落とし構える。
そして、紫音の強烈な投球。
それをなんなく受け止める悠飛。
「なんか彼方家中心だな…」
他のクラスメイトが呟く。
兄弟姉妹、どこ行っても注目の的のようだ。
またまた舞台変わって、琉嬉らとみゆらのクラスが激突となる。
総当たり戦。
『さぁーて、やってまいりました!注目の試合のひとつ!前回の体育祭で活躍したクラスの登場です!』
流暢に喋る寧音の実況。
相変わらずやってる風紀係の仕事を他の者にまかせて実況を行っている。
『今回の解説は野球部主将、笹山キャプテンに起こしていただいています!』
『…どうも』
寧音のテンションに少し引き気味なのが声で分かる。
『情けないですが私は、野球について詳しくないのでよろしくお願いします!』
『はぁ…』
「…なんで実況引き受けたんだアイツは…」
琉嬉がまた呆れる。
琉嬉のクラスはその知名度を生かした作戦なのか、琉嬉、凛夢も主力メンバーに混ざっている。
もちろん、山木や眞太朗も入っている。
「さあさあ、きなさ~い!」
ピッチャーは山木。
キャッチャーはなぜか眞太朗。
対するバッターはみゆ。
みゆの打順は4番。
「フッ、下級生だからってなめてはかからないぜ」
スポーツマンな山木の強力な投球。
ズバンッといい音をたてながらキャッチャーミットに収まる。
まるで野球部員のように、するどい球だ。
「おおぅ!早い…」
しかし舌で唇をなめながら集中するみゆ。
「打てるものなら打ってみなー!」
「打ってみるさ!」
新たに投球フォームに入る山木。
「打ってね~、みゆちゃん」
ベンチから応援する御琴。
「…何か嫌な予感がするぞ」
琉嬉が予知めいた事を言い出す。
「みゆが何かするって事?」
その瞬間だった。
みゆが思いがけない動作になる。
バントの体勢をとったのだ。
「なんだと…?」
コツンッと上手く当たり、見事にサード線に転がる。
偶然なのか狙ってなのか。
この娘のやることはいつも度肝抜かされる。
「サード!」
しかし、そこが素人野球。
上手くいく訳もなくあれやこれやで送球するも、とんでもない方向へ飛んでいく。
「わっ!バカ!」
一塁への送球は見事に頭上の上を飛び越える。
そしてギャラリーの方へと。
「へへー、どうだいどうだい」
余裕で一塁を蹴り、二塁へと走り続けるみゆ。
「ヤロウ…行かせるか!」
ライトにいた凛夢がいつのまにか送球ずれたボールをとり二塁へと投げる。
見事までなレーザービーム!
しかし、命中率はなく、今度はレフト方向へ。
「何やってんだよ!死神女!」
センターにいた琉嬉が騒ぐ。
「く…」
突如飛んできたボールにあわてめくレフトの生徒。
「ラッキー!」
二塁を回り一気に三塁へ。
いくらなんでもそれは無謀ではないか。
「ああ、みゆちゃん!それは危険だよ!」
ここも運の神様はみゆに味方したのか。
レフトからの送球は二塁方向へ。
つまり、投げる方向間違えた。
その間みゆは三塁を回っていた。
「バ、バカか!お前!」
「間違えた…」
「おお、これは一気にホームへれっつらーどーんだね!」
休むこともなく、みゆはホームへ。
二塁からの返球も虚しく、みゆは楽々ホームイン。
まさかのバントがランニングホームランになる。
ギャラリーもああーとため息がもれる。
『おーっと!みゆ選手、まさかのランニングホームランー!』
『凄いですね~』
「一点先取~♪」
「なんてことだ…てか、港咲!お前4番のくせにバントするな!」
山木が必死の抗議。
「へへ~んっ、きちんと点を取るのが4番の役目ですよ~」
「山木、あの子は何言っても無駄だ」
たしなめる眞太朗。
その琉嬉はというと…、
「く……みゆめ…」
琉嬉は密かに燃えていた。
勝負事となると、負けず嫌いな性格の血が騒ぐ。
凛夢も同じだ。
「このままでは済まされないよ…」
お互いの意見が一致していた。
「しかし…よくバントなんて出来たな…あの子。素人は普通にバット振るよりバントの方が難しーんだぜ?」
「そうなんですか?」
試合を見ていた龍翔。
生徒会達は寧音が実況してる席の所、運営にいる。
まどからもそこに構えて、状況を見守っている。
「こうみえても野球は好きなんでね。今度プロ野球の試合でも観に行こうと思ってたんだ」
「へぇー、意外ですね」
「そろそろ優勝が決まる頃だしな。盛り上がるぞー」
「ふむ…、そうなんですか」
少しスポーツに疎いまどか。
「ま、普段から人間社会から外れた所にもいればあれくらい余裕かもしれないけどな」
「…そういうもんでしょうか?」
ちょっと違うのではないか…?
そう思ったまどかだった。
一方、護と叉羅沙の対決は叉羅沙へと軍配があがった。
「かはー、早いね…叉羅沙」
「なーになーに。ウチが背高い分の差どす」
「…そうなのかね…」
何か、爽やかな対決だった。
「そういや、野球やってるよね。琉嬉ちゃん達出てるみたいだし、観に行こうか」
「そうやね~。行きましょうか」
とまあ、訳で続々ギャラリーが集まる。
「お、やってるやってる」
「決して暇じゃないんですけどねぇ…」
何食わぬ顔してやってきたのは來魅と耿助。
來魅は学校の位置が分からないから耿助を呼んで一緒にやってきた。
しかも、忙しい中の耿助を呼びつけて。
「まあーそう言うな。私とお前の中だろう」
「誤解されるような言い方しないでくださいよ」
盛り上がっているグラウンド。
普段はない盛り上がりにどこか懐かしさを思い出す耿助。
「ふかしぎ部とやらの顧問だろう?」
「…う、それはそうですけどね…、お、楽しそうですね~」
話をうやむやにするかのようにわざとらしく楽しそうなどと、言う。
「耿助、お前もここ通ってたのか?」
「残念ながら、僕はこちらの卒業生じゃないんですよ」
「ほう」
「ちょっと遠くて…。こうして見れば楽しそうな学校ですね。琉嬉さん達がいるからかもしれませんが」
「生まれる年間違えたのぅ、耿助」
「ですね」
遠くから來魅と耿助が眺めている中、琉嬉達の攻撃に移る。
「さあ、きやがれ!バカみゆのクラスメイト!」
「…や、やりにくいな…」
ピッチャーは男子生徒。
中々いい球を投げる。
みゆはライト方向で守っている。
打席には琉嬉が。
やる気満々だが、いかんせん小さくてストライクゾーンが小さい。
そういった意味合いでもやりにくいのだろう。
「ほら~、頑張って~」
みゆの応援に応えようとする生徒。
慣れた手つきだ。
「あれ、琉嬉ちゃんって左打席なんだ」
ギャラリーの中に混ざっている護と叉羅沙。
琉嬉が左打席に入ってる事に気づく。
左打席、左利きの人がよく左打席に入るのが多い。
しかし、それ以外にも、右利きでも左打席の選手も多い。
右投手の時に左打席は有利とも言われる。
また、本当に少しだけだが、一塁に近いという利点もある。
その分セーフとなりやすい。
データでは左打者の方が首位打者を取る事が多いと出ている。
それだけ有利なのは間違いないのだ。
「琉嬉はんって左利きなん?」
「…箸持つ手は右だった気がするけど…」
「基本は左メインで手数が多かった気もしますえ」
「…両利き?」
護の考えはあながちはずれではなかった。
琉嬉は力入れる時などは左手メインだが、右でも物を扱える。
つまり両利きに近い状態だ。
基本左なので、自然と左打席に入ったようだ。
「さあ、いったれ!ピッチャー君!」
みゆが投げもしないのに命令する。
「…なんだか釈然としないが…行きますよ、彼方先輩」
第1球投げる!
「ストライ~!」
「あ、あれ…?」
「アハハ~、何あれ?」
ものの見事に空振り。
それを見て笑う凛夢。
「く…死神女め…」
続いて2球目を投げる。
「このぉ」
しかし、またも空振り。
フォームもなんだかグダグダだ。
しかし力はあるせいか、スイングはしっかりとしている。
腕だけの力だが。
そして3球目が投げられる。
しかし大きく外れる。ボールだ。
「よく見た!琉嬉ちゃん!」
みなっち達も応援する。
「彼方……なんで出てるんだろうな」
今更ながら疑問に思っていたクラスメイト。
だが、運動神経は良い。
そして琉嬉に対してあまりみんな口答えできない。
何せ、あの事件の恐怖があるから。
実はみんな不必要な程、恐れているのだ。
(…ツーストライク、ワンボール。ヤバイな)
なんだかんだで野球のルールを知っている琉嬉。
ゲームで大体覚えたようだ。
(ここは集中して…)
そうして目を閉じ5秒間くらい、集中する。
「ん?」
みゆが何か気づいた。
「気をつけて~」
そう言った瞬間、すでに遅し。
「そこだ!」
カキィンッ。
いい音がした。
バットに上手く当たる。
ライナー制の当たりだ。
打球は右中間奥深くへと落ちる。
「おおっ、琉嬉のヤツ当てたぞ!」
「凄いですね~」
來魅と耿助がはしゃぐ。
グラウンド内では大歓声。
凄い盛り上がりを見せる。
「むむ、琉嬉ちゃんやるねぇ…」
「おー、すげえな琉嬉。あんなライナー性の当たりなのに反対方向へ飛ばしたぞ?
あんな打撃するヤツなんてプロでもいないんじゃないか?」
「…よく分かりませんがそうなんですか?」
眼鏡をクイッと人差し指で直す寧音。
龍翔の言ってる事がよく理解してないが、分かったフリする。
「俺の出番はいつだろうな~」
プログラムを手に取って調べる。
まだまだ先のようだ。
(…野球好きなんだ、龍翔君って…)
今まで以上の歓声の中、凛夢が打席に入る。
4番は山木が務めていた。
そして5番になぜか琉嬉。
6番に凛夢。
一応、規定では男女混合にしてバランスよく入れる事。
全クラスメイトが試合に出れるように各イニング事に、メンバー交代をしていく。
面倒だがそうでもしないと溢れてしまう生徒がいるからだ。
試合中余った生徒に関しては応援するか、別の所でミニバスケットをやっている。
こんだけいろんな所でやるから運営が他の学校より大変らしく、風紀係や実行委員会が物凄く大変だという。
中には根をあげる生徒もいるとか。
「おらー、女子に打たれるなよー」
「そーだそーだー」
ヤジが飛ぶ。
「うるせーなー…。しかし、あの振りの速さ素人じゃないぞ」
投手の生徒は本気の目になる。
凛夢は右打席に入る。
「次はお嬢様だぞー、打たれるなよー」
そう、一般的の認知ではなぜかお嬢様キャラで通っている凛夢。
しかし実際は琉嬉も認めるような霊力と身体能力を持っている。
(勝手にお嬢様にしないでよ…まったく)
みゆは見守りながらも、お手並み拝見といったところか。
野球なのであまり派手な小細工が出来ない。
「ここで凛夢ちゃんか…さて、どうでるか」
「面白くなってきたのぅ」
「そうですね~。まだノーアウトでランナー一塁。チャンスが続きますね」
「フム。中々楽しそうなすぽーつだな」
傍観者二人。
すっかり見入っていた。
グラウンド内は時が止まったようになっていた。
打球は遥か彼方へ。
いわゆる、ホームランというやつだ。
まさかの一撃だった。
「うへ……凛夢ちゃん…。すご…」
みゆがぽかーんと打球の方向へ見ていた。
ピッチャーの生徒もガクっとひざを落としていた。
無理もない。
まさかの本塁打。
それも一見おとなしそうな美少女から。
それは、初球だった。
高めのストレート。
それを上手いこと持っていかれたのだ。
時間をほんの10秒前に戻る。
「さあさあ、いったれー!坂本くん!」
ピッチャーの男子生徒の名前、坂本くん。
過去に野球をやっていた事があるらしい。
「デカい声だなまったく…。あの体のどこにあんなパワーがあるんだ…?」
愚痴りながらも坂本くんはマウンドに上がる。
「…お手柔らかに…」
礼をしながら打席に入る凛夢。
言葉裏腹に内心は燃えている。
(最初から振る。思いっきり打ってやる)
その初球だった。
まっすぐ飛んでくるボール。
およそ100キロ前後。
素人ならではの速さだろうが、慣れてない人間には速く感じる。
だが、その投げたボールはわずかに高めに入る。
凛夢はバットを振った。
タイミングよく。
(これは…いける!)
そして思いっきり振り抜く。
結果。
――ボールは空高く舞い上がって飛んでいった。
まさかの初球ホームラン。
静止した時が動き出したように歓声があがる。
『なぁぁんってコトだぁー!?ボールが、外野奥へ吸い込まれていったぁー!!
凛夢選手、ホームランですッッッ!!』
実況も興奮する。
『凄いですねぇ~。女子でありながらホームラン。
女子プロ野球でもそんなにホームランは出ません。
これは、見事ですよ。
我が野球部に来て欲しいくらいですね…!』
解説も興奮気味に喋っている。
「すっげー!あの転校生ホームラン打っちゃったよ!」
「すごー、水無月さん…」
(…ちょっとやり過ぎたかな…まさか、あんなに飛んでいくとは…)
自分の力にちょっとびっくりする。
みゆが何も言えないまま止まっている。
同じように琉嬉も止まっている。
「ちょっと!人形小娘走ってよ!」
「あ、ああ…、そか」
急いでホームへと走る琉嬉。
見事までなツーランホームランだった。
「あらら、凛夢ちゃん凄いね」
「これでまた注目の的やなぁ」
「おお、凛夢のやつ遠くまで打ったぞ」
「ホームランってやつですよ。一定の距離以上打つと得点になるんです」
「ほぉ~。凄いな。私でも打てるかっ?」
「やってみないと分かりませんが、多分簡単に打てると思いますよ。貴方なら」
爽やかスマイルで答える。
「ほほーう、やってみたいのう」
見よう見真似で、バッティングのスイングの動きをする來魅。
変な形だが、動きのキレは凄い。
「そうそう、バッティングセンターという世の中には楽しい施設があるのですよ」
「なんだそれ?」
「野球と同じように打席に立って、沢山ボールを打つ事が出来る施設です」
「ほほう、行ってみたい!」
ニコッとさらに微笑んで、
「じゃあ、観終ったら一緒に行ってみますか?あまり時間ありませんが」
「おう!行く行く!」
「すげーな!水無月!」
「ただのお嬢様じゃないね!」
やんややんやと盛り上がる。
逆にテンションが下がるみゆ達のクラス。
「あーりゃりゃ。困ったねこりゃ」
そしてポッキリ心が折れる坂本くん。
「…なんてこった」
(…これ以上目立ってどうするんだ…私)
結局は負けず嫌いの性格。
学校の行事だろうが負けるのは嫌だった。
だから思い切って来たボールをひっぱ叩いた。
そして見事なホームラン。
この一発で勝負が決まったようなものだった。
またまた、場面変わり、中学校。
こちらも佳境だった。
勝負は決まっていた。
「痛ったぁ~…」
「いやはや、見事なシュートだったね」
右頬をさすりながら悔しがる紫音。
悠飛のクラスと紫音のクラスの勝負は悠飛達が勝利した。
圧倒的な運動能力をもつ悠飛の活躍。
あの後、悠飛の渾身の一撃が紫音の顔面を捉えた。
なんというか、紫音の頑張りが空回りしたような試合だった。
「少しは手加減してよー!悠飛」
「……ごめん」
「まあまあ、いい薬になったんじゃない?」
「莉音。どさくさに紛れて変な事言うな」
「……はて、なんのことやら」
こっちはこっちでにぎやかだった。
勝負は結局琉嬉達のクラスが勝ったが、リーグ戦のため、他の試合には負け、
優勝したのはみゆのクラスだった。
しかし、一番の話題をさらったのは琉嬉達だったのだ。
さぞかしみゆは完全に納得のいく優勝ではないだろう。
どこか微妙な表情しているのが分かる。
「しかし見事なホームランだったね」
「いや…たまたまです…」
謙遜する。
(まあ、僕より目立ってくれて良かったケドね)
琉嬉にとっては自分より目立ってくれて嬉しいのだ。
「でも、あれだね、凛夢ちゃんなんか慣れたようなスイングしてたよね」
「ソフトボールとかやってた?」
「いえ…スポーツは特に…。ただ、実家では武道的なのを少々」
「へぇ~。さすがお嬢様」
(……普段あんな大きな鎌振ってたらそりゃ慣れてるように見えるか)
こうして凛夢が全部いいところ取りして体育祭が終わったのだ。
体育祭が終わり、それぞれ後片付けも終わり、帰宅していく生徒達。
まばらになった校舎。
少し陽が傾いてきた。
後片付けに追われている生徒会やら実行委員会やら体育委員やら。
そんな忙しそうな生徒達尻目にのんびり屋上にいる琉嬉達ふかしぎ部メンバー。
「いや~疲れたね~」
遅れてやってくるみゆ。
「まどかさん達は?」
「生徒会の方で忙しいんだって」
「ふーん」
他愛のない会話。
そして、なんだかんだで一緒にいる凛夢。
しかしその表情はどこか暗く、何か呟いている。
(なんだって…私が……まったく…)
「何ブツブツ言ってるの?アイツ?」
「さぁ~」
自分の性格上、負けたくない一心で放ったホームラン。
そのせいで益々目立つ存在になってしまった。
(…前の学校より目立ってどうするんだ…私)
一緒にいるのに近寄るなオーラみたいのを出している。
「あれだね、凛夢ちゃん、もしかしたら野球とかソフトボール部からのお誘いがあるかもね!」
「…うるせー」
そこは空気読まないで話かけるみゆ。
いや、あえて空気読まないフリしてるのか。
それとも単に天然で話かけてるのか。
計算なのか違うのかイマイチ分からない。
「しかし面白かったね~」
護は大満足していた。
面白い野球対決も見れた。
例年以上の盛り上がりだっただろう。
「僕も楽しかった」
「でしょ?この学校凄いよね。この盛り上がり方」
「田舎なのもあるんじゃない?」
「田舎…なのか?うーん…」
都会から見れば田舎。
しかし人口密度が高いのか、生徒数も多い学校。
人柄が変わった人間が集まってるのか。
他にはない盛り上がりを見せる。
元々転校生の琉嬉と凛夢は不思議がる。
と、言っても琉嬉はそんな遠い所から来たわけではないが。
他の「地域」にはない、特性。
ちょっと変わった街なのかもしれない。
「そいやさ、凛夢ちゃんはともかく、琉嬉ちゃんがヒット打った時って、ちょっとズルしなかった?」
「…ズル?」
他のみんなは気づいていなかった。
「するどいな、みゆ」
琉嬉が使った手とは?
ただ単に霊気を集中して感知して飛んできた球を狙い打ちしただけだった。
わずかでも触れた物には霊気が一瞬でも残る。
それをわずかな時間の間に感知するように集中したのだ。
ある程度の速さなら霊気がある方向へ捉えることが出来る。
ただ、あの鋭い打球を打った力はブーストも何もしてない、琉嬉自身の力だ。
「通りで琉嬉先輩が結構速い球打ったんだ」
「…負けたくなかったからね」
「その小さい体でよくあんな打球になったよね」
「そうそう~」
「なにそれ、褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる~」
「ほんと、琉嬉先輩凄いです。左打席ながら、反対方向にあんなライナー性の当たりなんて…」
「みこっちゃん、野球詳しいの?」
「そこそこだよ~」
なぜかやけに仲の良いみゆと御琴。
「でも凛夢ちゃんも凄かった」
「……その話はもうしなくていいです…」
相当恥ずかしいようだ。
「いい汗かいたね」
体を伸ばす琉嬉。
それを見てみんなも真似して体を伸ばす。
「だね。早く家帰ってお風呂入りたいよ」
「汗ベタベター」
「そうね…」
と、本当に普通と変わらない日常だ。
そうして、琉嬉達も帰る支度をする。
「んー。でもなぁ…」
「どったの?」
「ちょっと部室寄って行く」
「え?なんで?」
琉嬉の読めない行動。
仕方なくみんなもなぜかついて行く。
「あー、疲れたー」
バタッと寝転がる人物。
白い眼鏡。
寧音だ。
生徒会室。
「あらあら、寧音さん。はしたないですよ~?」
「会長。喋り過ぎて疲れました」
「…風紀活動じゃなくて実況してて疲れるって…どうなってんだうちの風紀委員長は」
「寧音ー。下着見えてるえ」
「ええっ?本当ですかっ?!」
「今日は白なんやね」
「言わなくていいですっ!」
見かけによらずだらしない寧音。
普段キッチリしてるだけあってハメを外す時はとことん外すようだ。
慌てて体勢を立て直す。
「さて、次は…文化祭ですね」
「ええ…」
みんなが静まり返ってしまう。
「……柚羽さん。大丈夫ですよ」
「…はい」
「だって、今は心強い味方が沢山いるじゃないですか」
「………」
柚羽を下を向いてる。
まどかが励ましのような言葉をかけた瞬間だった。
「おーい、終わったー?」
扉を開けた途端に発した言葉の主は琉嬉。
終わりを見据えてやってきた。
「あれ、琉嬉ちゃん」
「琉嬉ちゃんどうしたの?」
「琉嬉さ~ん」
寧音が琉嬉に抱き着く。
「おいおい、突然過ぎるだろう…んぐぐ」
「ホラね?」
まどかがニコニコして言う。
琉嬉がやってくるのを気づいてたうえでの、発言だったようだ。
生徒会室がにぎやかになる。
結局ふかしぎ部の部員達が集まった事になる。
「なんで琉嬉ちゃん達まだいるん?てっきり帰ったかと思ったんやけどな」
「琉嬉ちゃんがどうせなら一緒に帰ろうって」
「へー、優しいんどすな」
「でしょー?」
二ヤつきながら護が叉羅沙に話す。
「ただいま」
「お帰り姉ちゃん」
たまたま出迎えた悠飛。
そして奥からトテトテと足音立てながら來魅もやってくる。
「おう、琉嬉!活躍したな!」
「…まーね…。って、途中からお前来てただろ」
「おう!さすがだな!ばっちり見てたぞ!耿助と一緒にな」
「いつのまに耿助さんとそんなに仲良くなったんだよ…」
「悠飛の学校にも行って来たぞ」
「え?!来てたの…?今知ったんだけど」
琉嬉とは逆にまったく気づかなかった悠飛。
「悠飛はな、莉音か紫音かどっちかわからんが見事な一撃が顔面に命中してたぞ」
「……へえ~…(さすがに來魅も双子の区別ついてないのか)」
「い、一撃って…別に殴ったとかじゃないからね!」
「…何の競技やったの?」
さすがにひきつつある琉嬉。
「…ドッジボールだけど」
「ふーん…。小学校みたいだな」
「あ、なんだよ姉ちゃん!その目は!」
いつも以上のジト目で悠飛を見ている。
でもその光景の想像が出来る。
どうせ紫音あたりが意気込んで空回りしている姿が。
とある、マンションの一室。
凛夢の部屋。
夜な夜な後悔し続ける少女の姿。
(……明日が怖い)
自分でやったとはいえ、壮絶に目立つ活躍した。
穏便な学校生活したいとは思っていたがそうもいかないようだ。
悔しい思いしたのは紫音だけではなく、みゆもだった。
「なんか、優勝したのに勝負には負けたって感じだね~」
珍しく悔しがっていた。
「よし、来年はもっと気合いれるぞー!」
屋敷中に響くような大声が駆け巡った。
翌日―。
やはりというか、当然というか、凛夢のところにはひとだかりが。
部活の勧誘も来ている。
顔を引きつりながらも断りをいれている。
内心あの言葉使い悪い口調で嫌がっているのだろうと良く知る琉嬉達。
「いやー大人気だねぇ」
「ですねぇ」
クラスメイトが逆に近づけない状況。
あまりにもすさまじい熱狂ぶりに呆れる琉嬉。
「なんか、同情するよ…凛夢」
凛夢とはウマが合わない琉嬉もこの状況にさすがに同情していた。
凛夢を取り巻く状況に一週間は続いたという……。




