#24 なんでもない日がこんなに幸せなんて
久し振りに良い天気だ。
晴天。
ここ最近はあまり晴れた日がなかった。
この日も授業があるため、琉嬉は学校に入っていく。
「はよー」
挨拶を一応する琉嬉。
「おはよう、琉嬉ちゃん」
「おはよー、まだ暑いね~」
9月に入った。
暑い8月が終わってもまだまだ暑い日が続く。
衣替えはもう少し後のようだ。
新学期、早々、服装頭髪検査が行われていた。
全学年同じように、一応、学校たるもの、こういうのはやる。
夏休みなど長い休日が過ぎると調子をこきたくなる人間もいる。
浮かれた状況を元に戻すという意味でもどこの学校でもやっているであろう。
鞍光高校は厳しいというわけではないが、形としてやっている風潮だ。
どっちしろ、この日だけ取り締まってその後は個別に注意していく。
あまりにも酷いのには厳罰する。
あくまでも、最低限の校則としてのルールを保つために。
学校自体は別段乱れてる様子もない。
風紀係の寧音達も頑張ってるからだ。
本当に一部の者だけが注意されてるくらい。
何クラスか、合同にチェックする。
だが、運悪くいつもつかまる人物がいた。
護である。
バカみたいに派手な金髪。
誰しもが見返る美貌に目立つ髪の色。
「だーかーらー!これは地毛なんです!届出も出してます!」
「嘘言うな!お前は日本人だろう?地毛がこんなに派手な金髪になるわけないだろう!」
「じゃあハーフって事にしてください」
「バカな事言うな!」
「……なら証拠見せましょうか?」
「な、何?」
あわてめく生活指導担当の教師。
「しょ、証拠ってなんだ?そんなものがあるのか?」
「あーりますよ~。み、た、い、ですか?」
妙な色目使いで教師に向かって言う。
「何をやってんだ…?アイツ」
琉嬉が遠目で見ていた。
何やらモメてるような雰囲気だったので見てみると護と教師が言い争っていたのだ。
「フ、フン!まあ、いい。とにかく直しとけ!」
捨てゼリフのように護の前から移動する。
「べーだ!直しようがないよーだ!てか一回黒に染めたけど意味なかったもんね~」
舌を出してアッカンベーの顔をする。
「ねえ、日本人形小娘」
「……何?死神女」
相も変わらずヘンテコなあだ名で呼び合う二人。
「なんで護さんって金髪なの?」
「…さあ?本人も言わないし別に聞こうとも思ってないけど?まぁ…たしかに気にはなるけどね」
「本当に?付き合い長いんでしょ?」
「いんや、会ったのは今年の春くらい。家がどこなのかとか知らないし」
「ふぅん……」
やはり気になる。
護は地毛だと言う。
日本人の顔つきではあるが…髪の毛どころか、眉毛まつ毛も綺麗に透き通った金色だ。
美人顔であるし、日本人離れはしているが。
実際外国人のふりしてナンパを撃退してるのを目撃している。
おかしな話だ。
きっと何か秘密があるのではないか…?
実際、護の事をあまり知らない琉嬉だった。
二人は少し興味を持ち始める。
(今度、護とじっくり話し合った方がいいのかな)
「お前は学校生活慣れた?」
「慣れたも何も、まだ二日目よ?慣れる訳ないじゃない」
「だよねー。僕も春にこちらに転校してきたばっかりだから、まだいまいち教室の場所覚えてなくってさ」
「…そうなの?」
琉嬉自身も転校生である。
凛夢と同じ転校生だ。
「同じクラスに転校生二人ともなるとあれだね、作為的な物感じるよね」
「どういう事?」
「なんでもない」
「変な奴…」
どうやらみゆの手回しで同じクラスになったという事には気づいてないようだ。
放課後。
琉嬉は一番乗りで部室へやってきてた。
生徒会達は次の学校行事、球技大会の準備が忙しいという。
寧音が部活に参加出来ないと嘆いていたのが琉嬉の脳裏に焼け付いている。
「…まだ誰も来ない」
まだ着いたばっかり。
きっと他の部員達は掃除か何かで遅いのだろう。
琉嬉はずっと一人。
いつもなら誰かかしらいるのだが。
(しゃーない。ゲームでもするか……。しかし…10月1日まであと一か月か…)
問題の日が近づく。
現状どうしようもないというのは解かっている。
だが、どうも気乗りしない。
(……どうしようかね…)
20分程経った。
しかし誰も来ない。
「うーんおかしい……そうだな…」
スマホを取り出し、誰かに連絡する。
何回かの呼び出し音でようやく通話が繋がる。
「掃除終わった?」
『何の用よ!』
「今日予定なかったら部室に来てみない?」
『はぁ?何言ってるの…?』
「暇なんだろ?」
『何言ってるの…』
「おっけー、じゃあ今迎えに行くから教室で待ってて」
『あ、ちょ…』
無理矢理強引に決める。
そして隣の生徒会に顔を出す。
部屋が扉で繋がっている特殊な作り。
「やほー、まどかー、僕ちょっと外出るから部室よろしく」
「……え?」
そう言い残して出ていく。
「じゃあ私が部室に待機してますね」
なぜか嬉しそうに寧音が部室側へ行く。
「やれやれ…琉嬉ちゃんの悪いクセ…出はったなぁ」
「有無言わさずか…さすが我らが部長様だ」
他の生徒会もなんだか分かりきってる様子だった。
「会長…」
柚羽が少し心配そうに見つめる。
「いえ、ああいう人ですが、非常に強い人ですから」
「はぁ…」
「なんで私を……まったく」
ほぼ、無理矢理に連れてこられた凛夢。
部室の端の椅子に座っている。
「いいじゃん、どうせ一緒に帰る人もいないんだろ?」
「…うるさいわねっ!放っておいてよ…」
少しご立腹のようだ。
でもまだ親しい友人もいないのも事実。
元から顔見知りの所へ来れば、いくらかは気が休まるだろう。
「寧音は生徒会に戻らなくていいのか?」
「ああ、忘れてましたっ、失礼しますっ」
慌てて隣の生徒会部屋に戻る。
ずっとスマホで何かを見ていた。
琉嬉はおそらく、アニメ関係などのサイトでも見てたんだろうと思ったが敢えて何も言わず。
本当にサボりグセがあるようだ。
「で、なんで私を連れてきたの?」
「…いや、言ったじゃん。暇そうだし予定もなさそうだったし」
「それはアンタが勝手に切ったからでしょ…」
「そうだっけ?」
「……殴るぞ」
「やっほーう、琉嬉ちゃん」
「よっす」
「遅れました~」
先に護が入ってきて、立て続けに入ってくる御琴。
しかし二人は琉嬉と凛夢の何か揉めてるような姿に引く。
「何やってんの…?二人共?」
「んーとね、取っ組み合いの練習?」
「…意味わかりませんよ…」
「こんちは~」
みゆも入ってくる。
「今日もおやつ持ってきましたー」
「…太るぞ」
「それは言わないで~って、凛夢ちゃん!」
「……お前はいつも食べ過ぎ」
結局いつものメンバーが揃う。
何気ない会話。
特に大きな話もない。
「あ、そうだ護」
「なあに?」
「護の髪ってなんで金髪なの?」
「え?」
「あー、そうそうそれ私も聞きたかったですっ!」
「いや、なんで?」
「なんでって…今日頭髪検査あったろ?でもそのド派手な色で許可下りてるって…」
「だって地毛だもん…」
恥ずかしそうに答える。
「いや、それは知ってる。なんで金髪なのかっていう理由が知りたいの」
「……え、と…ハーフだから?でだめ?」
「え?そうなんですか?」
「それは私も聞きたいです」
いつの間にかいたまどから生徒会。
生徒会の仕事がひと段落したのか、部活に参加していた。
ドアは開きぱなっし。
あれからわだかまりがなくなったのか、扉に鍵をする事はなくなった。
だからいつでも誰でも出入りが可能になっている。
「生徒会達まで…。てかさ、寧音ちゃんも髪の色変じゃないの」
「え?私ですか?」
突然振られて焦る。
「…わ、私はその…家系的に普通の人間じゃないというか…夜栄守家特殊なその…」
「そうなの?」
「はい…」
寧音の銀髪は家系のせいだという。
「銀髪と言っても…黒いですからね…あまり目立ちはしないと思うんですけど…」
真っ白いのではなく、黒が強い灰色みたいな感じだ。
でも光の加減で白く見える時もある。
「ねえ、寧音ちゃんもちゃんと許可取ってるんだよね?」
「ま、まあ…地毛ですから。こんな私が風紀係やってるもおかしは話ですけどね」
笑いながら自虐的に言う。
仕事は真面目にこなすので評価はされているが、時々サボっているのを琉嬉に目撃されている。
「でもあの先生はうるさいよねー」
「ええ、そうですね…私も今日言われました」
「面倒な先生がいるんですね…」
御琴が嫌そうな顔をする。
「髪の色と言えば…隣町のさ、北神居高校に赤い髪の色した女の子がいるって聞いた事あるな」
龍翔が何気なく言う。
琉嬉はすぐに反応した。
(…北神居の赤髪の女の子って…緋瑪斗のコトじゃんか…)
「へぇ~、その子も地毛なんですかぁ?」
「そうだって言ってたな。なんか凄いボーイッシュていう噂聞いた」
「へぇ…ボーイッシュねえ…」
「なんで僕を見る?」
「いや、琉嬉ちゃんって性格がボーイッシュだよね」
「それは悠飛の方に言ってやってよ」
つまり琉嬉の性格が男らしいという話だ。
「世の中変わった人っているんですね」
「寧音が言うセリフじゃないよね…」
ジト目で寧音を見る琉嬉。
「そ、そうですか…?」
凛夢だけは、話についていけてなかった。
そもそも、こことはまったく違う地域から引っ越してきたばっかりでなんだかよく分かってない。
みゆとは親戚ではあるが直接の繋がりはなく、ほとんど他人に近い。
それに同じ五大家というだけで、あまり関わりもなかった。
最近になってようやく家系などの関係性を知ったぐらいだ。
「…さっぱろ意味が分からない。なんで生徒会の人達も一緒にいるの?」
素朴な疑問。
「んー、いろいろあるんだよ~」
みゆがそそそ、とこっそり凛夢の隣に来て話す。
「あの人達は主に名家の人達で構成されてるんだよ~、あ、寧音先輩は五大家だね」
「名家って……霊術名家?」
「そう~」
額に指を当ててしばし考える。
疑問がどんどん湧いて出てくる。
「……この学校は有名な能力者達が集まってるの?」
「そゆことー」
「五大家が5つ揃ったうえに?」
「うんうん」
「霊術名家も沢山いる?」
「いるねぇー」
「……異常事態?」
「そうとも捉えれますな」
バリバリクッキーを食べながら答える。
「…それを狙って私をこの学校に転校させたのか?」
「それは半分~」
「…残りの半分は?」
「凛夢ちゃんのためにって思ってネ」
ウインクしながら言う。
古臭い演出だ。
「………金持ちのやる事は理解出来ないわ」
プイッと別の方向に顔を背ける。
「あぁん、凛夢ちゃんのいけずぅ」
抱き着くみゆ。
「やめろ!変な声出しながらくっつくな」
「あははは」
その場のみんなが笑う。
(……くっ、恥ずかしい…)
「で、入部する気ある?」
琉嬉が凛夢に手渡した紙切れ。
入部届だ。
またもや部員を増やそうという魂胆だ。
「え……と、私に入れと?」
「そだよ」
あっさりと言い放つ。
琉嬉の顔は真剣だ。
その表情に思わずため息が出る。
「勝手にしなさいよ。入ったってどうせ何もしないわよ」
「別にいいよ。今日こんだけ集まったのはたまたまなんだから」
「そもそも何をする部活なの?」
「表向きはオカルト研究。実際の顔は、不可思議な事件を解決する部活」
「……ふぅん…」
半信半疑。
イメージが何も入ってこない。
これほど意味不明は部活は初めてだった。
凛夢は中学の頃部活に在籍していた。
通っていた中学が必ず何かの部活に在籍しなければならない。
在籍していたのは、手芸部。
なんとなく適当にやっていただけ。
本人はあまり趣味的なのがなく、なんとなく過ごしてきた。
「よく知らないんだけど…こんなわけわかんない部活って多いの?」
「部活とか同好会は多いですねぇ。探検部とか山菜同好会とか、骨董部とか…なんか若者らしくないようなのもありますね」
まどかがしみじみ語る。
生徒会長やってるだけあって、一通りの部活には目を通している。
部費などのやりくりがあるからだ。
「そうですねぇ。でもふかしぎ部は部費が0なので助かってます」
会計の柚羽はその分楽してるらしい。
部費はない代わりにみゆからスポンサー料としてもらう…事らしいが、別にそんなお金はもらっていない。
「……人集まるのそれって…?」
「集まってるから部になってたりするんだろー?」
琉嬉がゲームしながら言う。
部活を作った本人が答えるからそうなのだろう。
ふかしぎ部もいつの間にやら護と二人から始まってあっという間に、9人まで増えた。
半分は生徒会メンバーなので少しズルい。
そしてもうひとつの疑問点。
「ねえ、なんで女子の方が圧倒的に多いの?」
「そういえばそうだね~」
「…男子は…そこの加賀君…だけ?」
「いや、俺の他にもう一人いるぞ…」
龍翔が親指で差す方向。
御琴だ。
「…僕は男として見られてなかったんですか…水無月先輩…」
「え?いや、そういう訳じゃなくって…え?男?」
「いや、男子制服着てるだろ…?」
「凛夢ちゃんひどーい」
「う、うるさいっ」
「ま、しゃーないわな。男に見えへんもん」
「…たしかに、女の方が多いなぁ。なんでかな?」
琉嬉はゲームをやめ、会話に本格的に参加する。
「てか御琴元気出せよ」
「……」
無視して部活の資料をまとめている。
結構ショックだったようだ。
「んー、だめだねこりゃ。凛夢ちゃん謝った方がいいよー」
「な、私のせいなの?」
「いや、そうだろ」
「く……」
仕方なく謝りに行く凛夢。
そんな凛夢を無視するかのようにひとつの疑問の話題を問う。
「ええと、この学校の男女の割合は…どれくらいでしたっけ?」
「会長のくせに忘れたのかよ…。うちの学校は大体半々くらいだな。女子の方がちょっとだけ多い筈だ」
どこか頼りない会長に対して副会長がきちんと答えた。
「鞍光高校は定員数は勿論決まってますが、あれは男女比率に関しては決まってないです。
学年ごとに比率が少し違うと思いますよ」
「へぇー、柚羽ちゃん物知り~」
「いえ…えへへ」
「可愛い…」
「おい、寧音が変な目で見てるぞ」
護が柚羽を庇うようにする。
「で、結論はどうなんだ?」
眠たそうね目つきでみんなを見る琉嬉。
「んー、それは…たまたま偶然やろ?」
人差し指を立てて叉羅沙は結論づける。
名家と同じように女子の比率が多いのは偶然じゃないのだろうかと。
「別に術者に女が多いって訳じゃないよね?」
「そうだとは思いますよ。夜栄守家だって男が多いですよ。あ、でも直系の方は…女性が多いですね」
「夜栄守家って直系とかあるの?」
「うちは複雑なんですよー。本当に面倒なくらい。私はこの地の監視者の役目を受けた分家の方ですね。
直系はこの地じゃなくて別の地にいます。
神社の神主やっていて…たしか10年前に再婚して家族が凄い増えたって…」
「誰の事言ってるのさ…」
「ああ、すみませんっ。直系の長と、本家の当主が居て…なんだか派遣争いみたいになってるんです…。
私が言ったのは直系の長が再婚したって事です。
あ、ちなみに夜栄守家って日本各地にいますよ~。家系多いんです。やらしいですよね」
寧音が笑う。
自分の家系についてはかなり複雑そうなのが分かる。
かなり大きな家系のようである。
小さい枠の琉嬉達はなんだか想像つかない顔をしていた。
「…よく分からんが今度じっくり話してくれ…」
琉嬉は強引に寧音の話題を切った。
「すみません、少し遅れましたね」
ノックの後に入ってきた人物。
顧問の耿助だ。
「こんにちは。今日は皆さんお揃いですね」
「こんににちはー」
一斉に挨拶する。
元気良い。
「耿助さん、いいところに!こいつ…新しい部員」
「ちょっと、なんで部員になってるのよ!」
琉嬉が片腕を掴んで無理矢理耿助の前に凛夢を連れ出す。
「ほほう、そうですか~。いやはやまた可愛らしい」
「か、可愛らしいって…」
照れだす凛夢。
(…耿助さんって天然ジゴロな所ない?)
(あるかも…。意外とかっこいいしね)
コソコソ話す琉嬉と護。
「そうそう、耿助さん。凛夢ちゃんは五大家の…」
「あぁ、聞いてますよ。部長の方から」
ニコッと笑顔で返す。
「え?そうなんですか?」
みゆは琉嬉の方を向く。
するとしてやったりな顔を少しだけしてた。
(…琉嬉先輩って…私より手回し早いよね…)
「五大家揃い踏みか~、凄いですね」
彼方、夜栄守、港咲、参堂…そして水無月が一堂に揃った。
「本当、凄ぉい」
「それはそうと、こんだけ名家出身も多いのも異常だけどな」
「それだけで奇跡ですもんね」
ワイワイにぎやか。
「なーんか、あたし達だけ除け者みたいー」
「そうですかぁ…?」
護と御琴だけは特別な家系でもない。
少しだけ疎外感を感じる。
「なーに寂しそうな顔してんのさ」
護の肩に頑張って腕を掛ける琉嬉。
「琉嬉ちゃん慰めてるつもり?」
「慰めるというより、気にすんなって話。大体なんでもない護がそんな力持ってる時点で「特別」だと思うけどね」
「………そーう?」
「僕は別にすごくはないですよ…」
「どあほ。どこの素人が霊を封じ込めれる術使えるんだよ。十分凄いよ」
今度は御琴の頭をぽんっと手を置く。
「…しかしですね…」
「こんだけ強力な術者が揃った組織もそうそうないと思うよ…しかも学校で」
「たしかにそうですね」
全員納得。
いつものグダグダした会話が続く。
「そうだ!」
突然琉嬉が大声を張り上げた。
その場の全員が驚く。
「どうしたの?」
「いや、柚羽に聞きたい事あったんだ」
「わ、私ですか?」
急な指名に焦る。
決して目立つ事のない少女の柚羽。
生徒会に入ってるという話題にすらのぼらない、地味な存在。
「旧校舎の…妖怪って…何?」
「妖怪…ですか?」
「それと……あの時何があったの?」
「それは…」
「いいかい?僕達は「ふかしぎ部」。怪奇めいた不可思議な事件を解決するのが仕事」
「仕事やったんかい…」
叉羅沙の急なツッコミ。
しかしツッコミを置いといて琉嬉は話を続ける。
「柚羽は…なんで大怪我した理由…。それはお前さんが封印の軸になろうとしたからだろ?
ね?まどか?」
「隠し事は出来ませんねぇ、琉嬉さん。本当に鋭い方ですね」
にこやかな笑顔の裏には黒い何かが見えた気がした。
「どういう事?」
「んー」
琉嬉はこれまでの詳しい説明をする。
その妖怪の事の事情を良く知っているのは生徒会でもまどかと柚羽だけ。
耿助も事情を知っている。
「へぇ…そんなのがいるの?。迷惑な話ね。それを何?倒そうというの?」
「倒せるかどうかはわからない。また封印という話になるかもしれないし」
「でも封印の術は…」
柚羽が言いかけたが、言葉を詰まらせる。
その柚羽の手を両手で握る琉嬉。
「琉嬉先輩?」
「大丈夫。言いたくないなら言わなくていい。僕も言わないから」
「…どこまで知ってるんですか…?」
「あくまでも推測の域なんだけどね」
誰にも聞こえないくらいの小声で柚羽の耳元で囁く。
「…名家の鳴神家の人間が人柱になって封印してるんだろ?だけどね、僕はお前の命を封じの術には使わせない。
そんな馬鹿げた術は僕は認めない」
「……!!」
驚愕した。
琉嬉の考えは当たっていた。
柚羽はその場に座り込む。
「まどかも同じ考えだったんだろうね」
そのまどかの顔を横目で見る。
「お前さんが人柱にでもなろうとしたところを無理矢理にでもまどかが止めたんだろうさね」
「……」
無言で頷く。
あの大怪我は、がしゃどくろ封印のために負ったものではあるが、まどかが力づくで止めたものでもあった。
何を言ったのかは、まどかもなんとなく察している。
聞いてないようなフリして、みゆの持ってきたお菓子に手をつける。
「気持ちはありがたいですが…」
「ようするにぶっ倒せばいいんだよ。こっちには來魅という極悪兵器があるからねっ」
「來魅ちゃん兵器扱いかい…」
いつの間にか旧校舎に封じられている妖怪「がしゃどくろ」を倒す作戦会議になっている。
表向きには柚羽が戦いに挑んで負けた事になっている。
「でもさ、ひとりじゃそりゃ負けるよね」
「なーに言ってるん。琉嬉ちゃんは一人で來魅ちゃんという大妖怪倒したんやろー?」
「あれは一人というより…耿助さんの力とうちのじいちゃん達の助言があったからこそだけであって」
「謙遜しちゃってー」
護が琉嬉のほっぺをつつく。
「やめろよー」
「いーじゃん、もちみたいにぷにぷにほっぺー」
「あーずるいー、私も琉嬉先輩のほっぺぷにりたいー」
「じゃあ私も触ります!いいですよね?!」
寧音の目がおかしい。
「お前らなんだやめろ…」
琉嬉の声がかき消される。
またもみくちゃにされてしまう。
まるで小動物を可愛がるように、弄ばれるのだった。
「やーれやれ…またこの流れかい」
「そやな」
「でもこういうのが楽しいんですよね。ふかしぎ部って」
しみじみ言うまどか。
結構楽しんでるようだった。
「な、なんなのこの人達…?」
またこのノリについていけない凛夢。
驚いてばっかりだ。
「いつもの事ですよ。そのうち慣れます。ふふ」
「神楽…君だったけ?あなたも最初戸惑ったの?」
「そりゃそうですよ。みゆちゃんに強引に連れてかれたと思ったら強引に入部ですからね~。
琉嬉先輩は見かけによらずめちゃくちゃな方ですから…」
「…そりゃ災難ね」
結局來魅の手を借りてどうにかすればいい、という結論になった。
あとはみんなが全力を出せば…との事である。
部活も終わり各々帰宅していく。
琉嬉は最後に出て鍵を閉めて帰ろうとしていた。
部長の帰りを待っている面々。
駅までは一緒に帰る。
「あれ、凛夢は?」
「先に帰りましたよ」
寧音が携帯をいじりながら言う。
「…はやっ。まあいいか」
「寧音は何をやってんの?」
「あ、ただのスマホ用のゲームです。なんか美少女とイチャラブするっていう…」
「…お前は男でも女でもいいのか…」
「え?だって可愛いじゃないですか?」
(コイツ…百合っ気があるんだよな…大丈夫かな?)
「琉嬉ちゃん、帰ろー」
「はいはい、帰りますよ」
校門を通り抜ける。
校舎の時計は午後6時を超えていた。
「あー、そういや部活って何時までやってていいの?」
「基本的には19時まで」
琉嬉がクールに答える。
「へぇ…そうなんだ?」
何も知らない護。
「さすが部長だねぇ」
「お前が物を知らなさすぎなんだよ」
「痛いところをつきますな」
「ふふ、護さんって本当に面白い方ですね」
「そ、そーう?えへへへ」
「お前のそういうポジティブなところ尊敬するよ…」
変に明るい。
そこが学校でも人気あるという。
本人は気づいてない模様。
琉嬉に耳にもよく名前が入ってくる。
「護先輩って人気ですよね~」
「そうそう、一年生の中でも男子の中でよく話題になりますよ~、ねえみこっちゃん?」
「なんで僕に聞くの?」
「へぇー、あたしって人気あるんだ」
「自覚ないのかよ…」
駅でみんなと別れる。
柚羽は学校から家が近いので駅を利用せずに帰宅した。
「はー、家が近いっていいね。僕は遠いし、なんか田舎だし…」
「そうなの?今度行ってみていい?」
「…来ても何もないよ?」
「悠飛君と來魅ちゃんがいるじゃん!」
みゆが強く言う。
「あー、ええなぁ。ウチも行きたいどす」
「わ、私も是非!」
力強く言う寧音。
もうなんか危ない子にしか見えない。
「はいはい、そのうちな」
「じゃ、私らはここで」
「また明日~琉嬉先輩~」
ぶんぶん手を振る。
どこまでも明るい子だ。
「いや、寧音、お前駅使わないんじゃなったけ?」
「あ、つい…」
「あははは、寧音先輩おっかしぃ~です」
「やれやれ…」
話に夢中でついてきてしまったようだ。
寧音も学校から近い。
家柄、來魅が居た神社の近くに住んでいたためだ。
今は復活した以上別にこの地にいなくてもいいのだが。
「ふぅ…」
「疲れてるねー琉嬉ちゃん。どうしたの?」
「どうもこうも…うるさい連中だよ。僕が入部させたんだけどさ」
護は琉嬉と途中まで同じ方向。
なので登校途中で会う事も多い。
「…転校する前は考えもしなかったけどね」
「へぇーそうなの」
電車の中で揺られながら会話する二人。
帰宅ラッシュのピークなので人が多い…のは中央付近だけ。
琉嬉らの所はまだまだ人口が少ないのでどんどん電車の中の人が少なくなっていく。
「…琉嬉ちゃんの過去知りたいなー」
わざと聞こえるように呟く。
「僕も護の過去知りたいなー」
負けじと言い返す。
「…」
「…」
妙な間が出来る。
「過去ねぇ…。みんなそれぞれ思い出したくないような過去あるんだろうね」
淡々と言う。
「……そうだよ…ね」
力無く言う護。
電車はそれでもガタンガタン揺れながら進んでいく。
中央駅から琉嬉の最寄りの駅までおよそ15分程度。
ゆっくり会話する時間は実はあまりない。
バスだと30分近くかかる時もある。
電車の方が少し時間的には効率よいのだ。
ただ細かい場所で降りれないのが電車のネック。
そこは使いどころ分けるしかない。
「過去って言ったて大した話ないよ?うちの家族健在だし、別に悲しくなるような過去ないよ」
「ほんとにー?」
「…やらしい目つきで見るな」
護の頭に軽くチョップする。
「あたた、ケチだなー」
「お互い様だ、ほら、護が降りるとこだよ」
『次は~鞍光白豊東~白豊東~』
「あ、本当だ、じゃあまた明日ね、琉嬉ちゃん」
「おう」
スッと立ち上がる護。
その姿はとても綺麗。
同じ高校生とは思えない、スタイル。
(……)
小さく手を振る琉嬉。
護も小さく手を振りながら見送る。
(…過去………ねぇ…。振り返りたくないモノだよねぇ…)
一人残った電車の中。
気がついたら同じ車両には誰も乗っていない。
琉嬉一人だ。
いつもならこの時間帯ならパラパラになりながらも人が多い筈である。
不可解な雰囲気になった琉嬉は少し警戒を強める。
(……なるほどね)
静かに裏地の胸ポケットの中から一枚の御札を取り出す。
(んー、と。そこかな)
車内を見回して見つけた矛先。
「せいっ」
札を投げつける。
何もない空間。
何もないと思われた空間にバシッと音が響く。
煙みたいのが巻き上がる。
一瞬だけ人型みたいな形が浮き上がったが間もなく姿を消した。
倒したのだろうか。
「…アイツのせいか。ったく。電車ってたまにこういう事あるよね……」
ふと窓に目を向ける。
琉嬉が座っている同じ椅子に座ってる。
ちなみに座席は両端対面になっている。
そのおかげで姿を確認出来た。
近くには居ない筈の客の姿が窓には映っていた。
「成仏してね~。あー面倒」
少し愚痴りながらも落ち着く車内。
不思議な事に他の客が同じ車両に入ってくる。
何かの結界がかけられてたように。
「………」
しばらくぽけっと窓の景色を眺めていた。
自室。
結局何もないと思ってたら何かあった。
何もない日があるというのは幸せ…だろうと思っていた。
「いよー、お前様っ」
にこにこしながら來魅が入ってくる。
「…何?」
「今日はこっちで寝るぞ」
「なんでだよ、自分の部屋一応もらってるだろ?」
「私は寂しいのだ」
誇らしげに言う。
言ってる内容は情けないが。
「じゃ、僕は悠飛の所で寝る」
「な、なんでだっ!私と寝るのが嫌なのか?」
「…だって來魅寝相悪いんだもん」
「がーん」
「自分でがーん言うな自分で」
そう。
來魅は寝相が悪い。
琉嬉はベッドなのだが來魅が入ってくると蹴飛ばされて落ちた事が何度かある。
反面、負けず嫌いな琉嬉なので來魅を無理矢理布団なので包ませて動きを封じたりしたりする。
「なんでだ!私の愛を受け止めんかっ」
琉嬉に無理矢理飛びつく。
「わっ、こら…」
どでんっと大きな音がする。
「ふっふふふふ。琉嬉よ。逃がさぬぞ」
「…いー加減に…しろーッ」
負けじと強い力で弾く。
「うお、やるのう。その小さき力で…」
「お前の方が小さいだろっ!」
「やるか?」
「やってみろ!」
ドタンドタン音がする。
下の階にいる両親。
二階から音が響いてくるのがよく分かる。
「あらあら、また派手にやってるのねえ」
「ちょっと昔を思い出すよ。琉嬉ちゃんと悠飛ちゃんのケンカがね」
それは琉嬉と悠飛の小学生の頃。
よくケンカをしていたらしい。
琉嬉はあの性格だし、悠飛も表には出さないけど結構強気なところがある。
最近はどちらも大人しく…というより悠飛がよりクールになったせいでケンカはない。
が、來魅の加入によってまたにぎやかになったようだ。
「…何やってんの?二人して…」
悠飛の部屋に飛び込んだ二人。
悠飛はギターを持って何かを弾いてたようだ。
最近音楽に興味を持っているのか、ギターを持って何かと練習しているらしい。
「あ、悠飛」
「おー、悠飛。琉嬉のやつがな、悠飛の部屋で寝るというから私も一緒に寝ようと思ってな」
「……いや、意味が分からない。なんで姉ちゃんが私の部屋で寝る?」
「來魅が僕の部屋で寝るっていうから」
「その理屈もよく分からん…」
ギターをその場に置いて、額を右手で当てて悠飛はこう叫んだ。
「私を巻き込むなっ!!」
「怒られちゃったじゃん…」
「お前様が悪いのだぞ?悠飛の部屋に逃げ込むから…」
「発端は來魅のせいだろ…」
「で、なぜここにいるのかな?」
両親の寝室。
二人はなぜかそこに来ていた。
導が二人がなぜここにいるかという、疑問を投げかけていた。
「いや、來魅が寂しいっていうから…」
「寝るスペースないよね?」
「大丈夫よ。二人ともまだ小さいから問題なし」
嶺珠が親指立てて、グーのポーズ。
「たまに一緒に寝てもいいわよね?」
「ははは、僕は構わないけど。むしろ嬉しいくらいかな」
「…じゃあ僕は自分の部屋に…」
ガシッと裾を掴む手。
來魅の細くて白い腕が伸びていた。
「ちょっと、離してよ」
「ヤダ。」
「…子供かっ」
「子供で結構」
「~~~~うぬーっ」
琉嬉は諦めて來魅と一緒に寝る事にした。
満足したのか來魅は笑顔で布団に入り込む。
「まあまあ可愛らしい」
「本当だね」
(なんでこうなった…)
何かあったようでなかったような。
そうでもないような。
何でもないような日々の方が幸せなのかと、柄もなく考えてたら寝てしまった。




