#23 運命っていうのは嫌な奴だ
長い夏休みが終わり、暑さもそれなりに和らいできた。
だいぶ過ごし易い日々になる。
この日から二学期の始まりである。
琉嬉と悠飛は同じ日から学校が始まるようだ。
また忙しい日々になる…のだが、忙しさが変わらない人物…いや、妖怪が一人。
來魅である。
「んー、なんだ~?出かけるのか~?」
寝起きの來魅。
この日は琉嬉の部屋で寝ていた。
自分の用意された部屋があるというのに、なぜか琉嬉と一緒に寝ていた。
來魅は琉嬉と悠飛の部屋で順番で寝ている。
ある時は琉嬉悠飛姉妹の両親の部屋にもいたりするらしい。
琉嬉はもう準備万端で久々の制服姿。
暑さが和らいだといってもまだまだ暑い。
制服はまだ夏服だ。
それでもオーバーニーソックスは欠かせない。
足が長く見えるらしく、少しでも身長が高く見えるように履いてるらしい。
「今日から学校だよ」
「ふーん…学校かぁ…楽しそうだな」
何やら羨ましそうにぼやく。
よからぬ事考えなければいいが。
「学校ねぇ…。もし学校通うんだったら小学校だろ」
体格や普段の子供っぽい行動ががまさにピッタリ。
「うむ…小学校って……なんか私の事バカにしてないか?」
「小学生だろ。どう考えても」
「琉嬉も人の事言えんだろう?私と身長大した変わらなかっただろ」
「僕は139cm!お前は136cmだっただろ!3cmも違うじゃん!」
「いいか、琉嬉。人の身長というのは一日では少し変化するらしいぞ」
「…妖怪だろお前」
「……お前様の139せんちというのも怪しいもんだがの」
「人の気にしてる事を…」
「お?やるのか?」
「やってやろうじゃん!!」
たまに勃発するケンカ。
家でもよく衝突する二人。
「何やってんの?朝っぱらから」
ギャーギャー騒ぐ部屋がうるさかったのか、悠飛がいつものように冷静に止めに入る。
「遅刻するよ」
「あ、お、おおぅ…」
朝から元気だ。
「これから少し寂しくなるなぁ」
「何言ってるんだ。ゲームやってていいから、おとなしくしてろよ!」
そう言い聞かせて部屋を出て行く。
バタンっと戸を閉め、静寂になる部屋。
その間10分程度。
しばらくボ~っとしている來魅。
玄関の方向からバタバタ音がする。
琉嬉や悠飛、導らが出て行ったのだろう。
わずかな時間の間、そしてすぐ静寂が戻る。
「………ふむむ…。暇だ」
バっと窓の外を見る。
二階の窓から丁度親子3人が出ていくのが見える。
「ふむむむむむ…むむむぅ」
何もする事がない來魅。
暇を持て余している。
琉嬉と宝玉の力のおかげで、來魅の力常時封印されている状態だ。
といっても、完璧ではなく、一時的には全力解放が出来る。
だとしてもそれはそれで不便らしく、あまり遠出など出来ない。
なので普段は普通の子供くらいの行動しか出来ない。
おかげで今は琉嬉の家で居候状態だが。
そしておとなしく今日もパソコンに電源を入れてネット生活に陥る。
ただ、現代社会の情勢やシステム、流行ものを勉強するのにはいい素材だ。
100年分の遅れを取り戻すのにはいいアイテムだった。
ただ、ただ、余計な知識をかなり得ているが…。
「おっはよー!琉嬉先輩!」
朝から校門前でみゆと会う。
「…よう」
「今日から学校ですね~。また毎日みんなと会えますね!」
「……そだね」
「元気出せー!」
バンっと琉嬉の小さな背中を力強く平手で叩く。
「……」
そしてお返しに琉嬉は無言でみゆの脳天にチョップを喰らわしていた。
「うぐぉ……」
悶えるみゆ。
当然の報いだ。
「な、何やってんのや…あの二人」
遠目で偶然見てた叉羅沙。
あまりにもテンション高い二人を見て驚いてた。
「ようわからんけど……朝からあんだけ暴れてる生徒なんぞ…いないよね?」
他の生徒達の様子を伺うが、大人しく登校している。
まだ背中がヒリヒリする。
せっかくの二学期のはじまりなのに琉嬉はかなり不機嫌モードになっていた。
表情は普段と変わらないが、明らかに不機嫌な歩き方をしていたからだ。
変に早足。
こういう時はなんとなくみんな理解する。
とんでもなく近寄るなオーラを発していた。
その様子を確認したクラスメイトは誰も琉嬉に話かけない。
一応、みんなあの事件の事を知ってるからだ。
さすがに、みなっちやゆうも遠慮がちである。
そんな中勇敢に話しかける人物。
眞太朗だ。
「どうしたんだ?機嫌悪そうだけど…」
クラス中が息を潜める。
油に火を注ぐような感覚。
緊張が走る。
「なんだ、眞太朗か。みゆのバカのせいで背中が…」
「…?何があったか分からんが…元気だせ」
「おう」
なんとも他愛のない会話に終わり、クラスメイトはホッと肩をなでおろした。
一方その頃のみゆはというと…。
「どうしたの?みゆちゃん?」
久々登場の御琴。
みゆはぐったりうなだれていた。
「ふふふ~。琉嬉先輩に脳天ちょっぷ喰らって、頭フラフラなのだ~」
「そ、そう…。それは、痛そうだね…」
かなりの威力だったそうだ。
何があったかは敢えて聞かない。
多分、想像する通りだからだ。
楽しくもない始業式。
校長の話や生徒会長の話。
相変わらず会長の宮森まどかの話はフワフワした話し方で余計に眠くなる。
短くても睡眠作用がある。
ある意味強力な武器だ。
『皆様、おはようございます。生徒会長の宮森まどかです…ああっ、あらあらあら…』
話し始めた途端、バサバサッという音がマイクが拾う。
途中で読む原稿を手から落としてばら撒いたようだった。
外の途端、笑いが起きる。
相変わらずのドジっ子ぶりだ。
(何やってんだアイツは毎回…)
始業式が終わり、学期はじめのHRが始まる。
「おーっし、席つけーお前らー」
担任の桜川先生が入ってくる。
「今日は、みんなに重要な話があるのでよーく聞け!」
重要な話?何か問題でもあったのだろうか?
クラスが一旦静まりかえる。
「なんと、今日から新しい仲間が増える!転校生だ!!」
転校生。
この響き。
どことなくワクワクさせる言葉だ。
静まり返ったクラスがザワっとなる。
「んじゃー入っておいで~」
ガララっと戸を開け入ってくる生徒。
琉嬉はその生徒を見た瞬間立ち上がった。
その様子にクラスメイトがまた静まり返る。
「…………な…」
「今日から一緒の仲間になる生徒だ。じゃ、自己紹介してもらおうかな」
「ハイ」
そう、それは見た事ある顔。
ロングヘアーでスタイルの良い可憐な美少女。
両サイドを長いツーサイドアップにした可愛らしい髪型。
どこか、清楚あふれるような雰囲気。
「どうも。はじめまして。水無月凛夢です。今日からここの鞍光高校、そして
このクラスで一緒に勉強していく事になりました。
みなさんよろしくお願いします」
「おお!美少女だ!!」
クラスメイドが明るく沸く。
しかし、次の瞬間また静まり返る。
「お、お前わーーーーーーー!?!?!?凛夢!!!!!!」
「あら、琉嬉さん、こんにちは。お久しぶりね」
笑顔で手を振る。
衝撃過ぎる再会だった。
琉嬉はマッハでみゆの所に向かう。
ドカドカ教室を強引に入っていく。
「おー琉嬉先輩、どうしたんですか~?」
「ど、う、し、た、の?じゃねー!!」
「おおぅ、凄まじいまでの剣幕」
「お前、なんで言わないんだ!!」
「…何を?」
「凛夢がこの学校に来るって!しかもなんだ!?なんで僕と同じクラスに来るんだ?!」
「えへへ~。言ったじゃないですか。サプライズあるって」
「………このやろう」
みゆは全部知っていたのだ。
というより、細工したのだろう。
きっと裏の力を使って。
そして琉嬉に、いや琉嬉だけじゃない。
おそらく護や叉羅沙達にも言っていない。
この娘、本当に食えない。
「まぁまぁ、いいじゃん。旅は多い方が楽しいってね」
「……ほんとに、お前とんでもない女だな」
みゆはニシシ、と言った笑いをする。
琉嬉がいない間、またたくまに人気者になる凛夢。
それはそうだ。
お約束とはいえ、美少女が転校してくる。
これはみんなが黙っていないだろう。
「分からない事あれば言ってね」
「協力するよ」
「あはは。どうもありがとう」
なぜか違うクラスの生徒も見に来てる。
噂は一気に広がってるようだった。
「琉嬉ちゃん!」
呼び止めたのは護だった。
そして琉嬉は護の言いたい事はもう分かっていた。
「ねえねえ、水無月凛夢って…あの凛夢ちゃん?なんか凄い美少女が転校してきたって噂流れてきたけど」
「噂ってのは早いねぇ…。もう知れ渡ったんだ」
「いやいや、まさかウチの学校に転入してくるなんてね。驚いた~」
「同じクラスにきた僕が一番驚いたよ」
「………え?」
凛夢の噂は学校中に広まった。
まさか、ここまで目立つ存在だったとは。
前の学校でも大変だっただろうに。
「凛夢…ちょっと…」
「はい、なんでしょう?」
「いいから…」
琉嬉が凛夢を呼び出す。
そのまま教室を出て行く二人。
「お?彼方のヤツが水無月さんを連れ出したぞ?」
「なんだかあの二人面識あるっぽいよな」
「もしかしてヤキ入れ(死語)とか?」
「まさか~」
「でも彼方ならやりかねない……」
「新旧アイドル対決(?)か…」
などとクラスメイトは言いたい放題だった。
「ここらでいいか。てか、凛夢!お前なんでここに…」
「別にいいでしょ?元々決まってた事だし」
琉嬉がよく知っている本性丸出しの「裏」モードに戻る。
先ほどの振る舞いはいわゆる「表」モードのようだ。
「みゆも何も言わないし、まさか突然こんな形で会うなんて」
「アンタの驚く顔が見たくてね。みゆの家の力で同じクラスにしてもらったのよ」
「…そんな事出来るの?金持ちはこれだから……」
呆れる琉嬉。
金持ちの考える事は理解出来ない。
そう思う。
「それはそうと、この学校凄いな。霊が頻繁に視える」
凛夢の悪霊退治として生きてきた家系の人間。
能力は高い。
「なんか…全体が落ち着きない変な学校」
そう。
未だに解決できてない、この学校周辺の不可解な現象。
学校といより、土地全体が歪んでる感じだ。
「ま、これから同じクラス同士、仲良くやっていきましょう?琉嬉さん」
「その喋り方気持ち悪いからやめろ」
「しっかし……また……どうしてこうも集まっちゃったんだろうね」
「何が?」
「五大家だよ」
「…ああ、それね…」
五大家。
彼方、参堂、夜栄守、港咲、水無月の五つの家系だ。
彼方は琉嬉。
参堂はふかしぎ部顧問の耿助。
夜栄守は寧音。
港咲はみゆ。
そして、水無月の凛夢。
見事に揃った。
「…なんでそもそもこっちに転校してきたの?」
「それは…いろいろ…ね」
「………ふぅん。僕みたいになんかやらかしたの?」
「やらかした訳じゃないわよ!バカ言うなっ」
少し怒り気味に言う。
聞かれたくないような出来事でもあったのだろうか。
「……じゃあ、質問を変えよう。この鞍光に来たのは、偶然?それともかなり前から決まってたの?」
「…決まってたというより…無理矢理決めた…かな?」
「無理矢理?」
「まぁ、そこはみゆの家のコネで…」
「………よく分かんないけどみゆあたりがどうせ学校変えるんならこっちでいいんじゃないの?とでも言ったんだろう」
「まあみゆだからね」
みゆだからあり得る。
そう納得する。
「しかし大人気やなぁ。凛夢はん」
「本当の凛夢見たら面白いと思うけどね」
ふかしぎ部のメンバーは早速集まっていた。
僅かな休憩時間を利用して、部室に集まっていた。
「あの~、琉嬉さん、お話とはなんでしょうか?」
ほぼ無理矢理全員呼び出した。
勿論、柚羽もだ。
早速の部活がこのような形だ。
まどか会長もある程度の事情は知り得ている。
同じ生徒会の叉羅沙からの情報は行き届いてるのだから。
「でもあれだね、まもちゃん先輩のライバルですよね」
「な、何がライバルなの?」
「え~?同じようなナイススタイルだし、人気者だし…」
「…わたしってそんなに人気あったの?」
今ひとつ自分の人気に気づいてなかった護。
どこか、そういう部分に疎い。
ちょっとしたお間抜けさんである。
「…うーん。たしかに歩いてれば一回は声かけられるな~。男女問わず」
「護はん美人やしね」
「何言ってんの!叉羅沙も美人だよ!」
護が返すように言う。
「でも、叉羅沙の場合親しくない人は話しかけづらいよね。背高いし」
「そういう琉嬉先輩だって話かけづらいんだぞ~」
「なんだと!みゆ!この…」
「にぎやかですねぇ~」
「すいません…本当に…」
なぜか謝るのは御琴の役割だった。
「凛夢は、みゆの遠い親戚らしい。んで、水無月家の家系らしくて、五大家のひとつ…だって」
「ええと…つまりは……五大家の方達がこの地域、そして学校に集まったって事?」
「顧問の耿助さんを含めたらそうだね」
まさかの五大家が揃い踏み。
五大家と言っても当主とかではない、子供だけなのだが。
「凛夢さんが転校ってびっくりしましたね~」
寧音も五大家の家系の一人。
驚きを隠せない。
「でも、水無月家って…たしか……」
まどかが何かを知ってそうな事を口に出す。
「水無月家がどうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
何かを言いかけてやめる。
まどかは珍しく失敗したという顔をしていた。
「……はいはい、ベル鳴ったよ。みんな戻ろう」
そう促して手を叩いて部室から追い出す琉嬉。
「あっと、まどか」
「はい?」
まどかだけを呼び止めた。
「まどかは…水無月家の事、何かあったのか知ってるんだろうね」
「…そりゃ、まあ…」
先程の言いかけた内容について聞く。
「奇遇だね。僕もたまたま知ってたよ。同じ五大家だしね」
「ですよね」
「……触らぬ物にはなんたらってか…、まどかってほんとドジなんだな。言わない方がいいようなコトを言おうとするなんて」
「あはは…反省してます」
「ま、本人から言ってくれるまで待ってた方がいいよね」
「そうですねぇ…」
二人は水無月家について知ってる様子だった。
深く詮索はしないように、と。
そして部室を出ていく二人。
夏休み明けだというのにこのにぎやかさ。
一気に有名人になった凛夢。
それもそのはず。
琉嬉ら目立ってしまうメンバーとも面識があったからだ。
この先大変になりそうである。
しかし、凛夢も慣れたものだ。
まったくと言っていいほど本性を出さない。
ずっとこうやって生きてきたのだろう。
それに、生まれが元々良いところなので、それらしい対応は出来ている。
さすがである。
本性を知っている琉嬉達でも分かる。
客観的にみれば、凛夢の回りへの対応はお嬢様そのもの。
上品で可憐さがみえる。
だが琉嬉から見ると何か、こう、見てて、かゆいというか…どうも釈然としない。
おやつとして食べるクリームパンを頬張りながら凛夢の様子を見ている。
だが、そのクリームパンの味はいまいち覚えてなかった。
放課後――時刻は午後12時をまわる。
この日は始業式と簡単なHRなどで午前中で終わる。
生徒達もパラパラ帰宅していく。
「おいっすー。琉嬉せんぱーい」
「…みゆか。何?」
「凛夢ちゃんは~?」
「……知らん」
凛夢はいつのまにやらいなくなっていた。
もう下校したのだろうか?
「なんだ~、一緒に帰ろうと思ってたのに~」
「…みゆと凛夢って一緒に住んでるの?」
「いんや~、一緒には住んでないですよ」
「……あ、そうなの」
親戚なのでてっきり今は一緒に住んでるのかと思われていた。
しかしみゆの話によるとどうやらマンションで独りで住んでるらしい。
「親戚って言っても血の繋がる親戚じゃないからね~。本当に遠縁」
「へぇ~…」
てっきり近い親戚なのかと思っていた。
みゆが言うには遠い親戚。
それはもはや親戚と言えるのかどうかも怪しいのだが。
「ん~、遠い…遠いのかな?まぁ血縁はないんだけど」
「…みゆ自身がわかってないんかい」
「えーっとね……。あたしのおじいちゃんの、弟の娘さんの旦那さんが水無月の凛夢ちゃんのお父さんの
…なんだっけ?えーとたしか…」
「言いたい事は分かる。だが、お前の頭で無理をするな」
つまりは、近しいけど別に血の関係はない親戚。
とはいえ、お互い霊力持つ能力者の家柄。
五大家だけあってどうやらそういった関係での付き合いがあるようだ。
なんだか、釈然としないまま学校から出て行く面々だった。
「そいじゃ、みんなまたね~」
みゆと別れる琉嬉と護。
家の方向が違うので駅で別れる。
「お腹空いた…」
学校は午前中で終わったので昼食はまだとってなかった。
「駅まで来ちゃったけど…どこかで何か食べる?」
「んー…。なんでもいいけど…」
「ここ近くなら「とと」あるけど…」
「ラーメンか…久々に行ってみる?」
すっかり行き着けになったラーメン屋「とと」。
またまた制服姿のままの女子高生二人組がラーメン屋へと行く。
ガララーっと戸を開けて行くといつものように店主が、
「いらっしゃいませ!お!また来たのかい!」
「あ、ども」
すっかり顔なじみになった。
それは護のせいでもある。
護は人目も気にしもせず、よく一人で来るらしい。
見た目も派手な印象がある護だからこそ、覚えられるのだ。
護も護で、懐っこさがある人当たりがいいので仲が良くなったらしい。
琉嬉達はそういった集まりなのだ。
「お嬢ちゃん達!この前の連れの子がいるよ!そっちの金髪の子の妹さんかい?」
「……へ?」
店内を見回すと物凄く見慣れた姿があった。
「おい…あれって」
そう、嘘みたいなオレンジ色の髪に真っ赤なリボン。
來魅だった。
「な、なんでお前…」
「よう!琉嬉!それと護!偶然だな~」
「來魅ちゃんじゃん…もしかしてあたしの妹と勘違いされた?」
「暇だったから、ここまで来てしまった」
「…あのなぁ……」
「…なんか、あたしの妹に間違えられてたみたいだし」
「まあまあ、席につけ。二人とも」
ここ最近の來魅が一人で遠出してくるなんて珍しい。
何かあったのだろうか。
そう思ったのも束の間、來魅がとんでもない事を言い出す。
「ようやく体がなまってきててなあ、暇だからちょっと腕試ししてきたんだ」
「……ああ、そう……。なんとなく…言わなくても分かるよ…。どうせどっかの犯罪集団みたいの潰したんだろ」
「おお、さすが琉嬉。鋭いな!」
「ったく。どこでそんな情報手に入れたのか…」
「はっはっは。前に私が倒した名前忘れたが変な悪者集団を倒しといたぞ。
あれは…楽しかったのう。
助けてくれ~っと……。
あの怯える表情を見るのが楽しくて仕方なかったぞ」
「…忘れてたけどお前って、やっぱり封印されるだけの妖怪だったんだな」
なまった体を動かすべく、手っ取り早く犯罪集団を見つけてぶっ潰したらしい。
封じられているとはいえ、いとも簡単に潰したという。
それを笑いながら話す。
ほんの僅かな時間でも術者でもなんでもない人間の相手なら大人数相手でも一瞬で倒せるという。
「お前……暇だからって…」
「だめだめ。護。こいつはあくまでも、「妖怪」なんだから、何やったって「罪」には問えないさ」
「ま、そうだね」
「動いたあとは腹が減る!」
そうしてるうちに來魅が頼んだみそラーメンがくる。
(…しかし、遊び気分でそんな事するか……本来の力も封印されてる筈なのに…)
自分の術が不安になってくる。
「まあ、足ほどにもないな。お前様達一人の方がよっぽど楽しめると思うぞ」
「それはよかったね…」
もうほとんどの戦いは遊びだそうだ。
昼食も食べ満足した3人はそのまま街中へブラついていた。
特に用事もなく、ブラブラ。
「さあて、暇だし、どこか行く?」
「なあなあ、あれがいい!あれ!げーむせんたー!」
來魅がいつものように子供みたいにはしゃぐ。
「ゲーセンねぇ…」
「それもいいね!行こうか!」
俄然ノリ気になる琉嬉。
ゲーマーとしての血が騒ぐのか。
時間はまだたっぷりとある。
釣られるまま近くのゲームセンターへと向かう3人。
早速ゲームセンター内へと入る。
興味津々の來魅と琉嬉。
「よし、何か勝負するか!」
「いいね、何で勝負する?」
「楽しそうだね…」
あまり詳しくない護。
しばし傍観でもしてようと思い、少し店内を歩き回る。
「しっかし……まるであたし子守してるみたいだなあ…」
來魅や琉嬉を見てなぜかそんな風に思ってしまう。
見た目は小学生の子供みたいだからだ。
「お、君可愛いね~?派手な頭してるねー?」
あれこれゲームに付き合ってる時にもナンパのお声がかかる護。
「……ん?」
振り返るとチャラい男が複数。
(…またぁ?)
どうしてこんなにナンパする声がかかるのだろうか。
嫌気がさしてくる。
(……中学の頃は声かけられる事なんてなかったのに…この髪色がだめなのかな?)
そしていつもの手を使う。
「暇ならオレらと遊ばないかい?制服って事は学生かな?」
「おう、いえーすいえーす。あいあむすちゅーでんつ。くらみつこーこー、しゅつでんつ」
「…え?」
「あー、えー、まいふれんずげーみんぐぷれい…ぺらぺらぺら…」
適当な英語を交えてさらに適当にそれっぽい言葉とそれっぽい発音を続ける。
「…やべえよ、途中から何言ってるかわかんねえよ…?」
「どうすんだよ?お前…声かけたけど…マジリアル外人じゃねえか?」
うろたえ出すチャラ男達。
「ほわっ?ゆーあー…」
尚も続ける。
「すみませんでした~」
焦って逃げていくように離れていく。
「………せんきゅー」
見事にナンパ軍団を撃退した。
断り方は完全にマスターしていた。
護がふと目線を奥の人気のなさそうなゲームコーナーへ足を向ける。
「おー、これ子供の頃に見た事あるやつだ」
少し古いゲームを置いているレトロゲームコーナーのようだ。
もう少し角の方へ進んでいく。
すると、そこにはまたもやどこかで見た事あるような姿があった。
後姿からでも分かるような、ロングヘアーで両側にリボンでとめてツーサイドアップにした綺麗な後姿。
制服も自分と同じに見えて…自分の学校と同じ生徒だと確信して近づく。
案の定、見た事ある顔だった。
「…凛夢ちゃん………?何やってんの?」
「!?」
ガタタッとイス勢いよく倒すほど、急に立ち上がる。
言葉も出ないほど驚いてる様子だ。
口がパクパク言ってるが声が出てない。
「ちょ…そんなに驚く事ないでしょ」
落ち着くまで少し時間がかかりそうだった。
「落ち着いた?」
「ハ、ハイ…。あの、なんで護さんが…」
「それはこっちのセリフだよぉ」
そのまま黙り込む。
「あー、んーとさ、別に私らの前では「表」の顔出さなくていいからね」
「……はあ…」
どうも、表の凛夢だと、距離を置かれてるようで気になるようだ。
護だけかもしれないのだが。
「とーころで、こんな所で何やってたの?」
「うっ…。そ、それは……その…」
「?」
「いつもやってるゲームが……やりたく…て…」
思いがけない言葉に護は固まる。
そしてつい堪えきれなくなり…。
「プ、アハハハハ!へぇ~、凛夢ちゃんもゲームやるの?」
「勘違いしないでくださいね!私だって人並みにはゲームくらいやるんですから!」
「ヒーヒー…ごめんごめん。いや、ちょっと想像つかなくってさ。表向きはお嬢様キャラだし、裏の顔はあんなんだし。
だからって女の子一人でゲーセンまで来る理由があるとなる、相当好きなヤツがあるの?」
「あうぅ…」
凛夢がここまでやりたいという程のゲームとは。
それは…とある格闘ゲームだった。
護がチラっとやっていたゲームの台を見ると驚異的なスコアをたたき出していた。
「あの…凛夢ちゃん。こういうの好きなの?」
「……できるのはこういうゲームだけです」
「ほほぅ~。琉嬉ちゃんとどっちうまいかね?」
「琉嬉…?」
「琉嬉ちゃんと來魅ちゃんと一緒だよ」
琉嬉の名を聞いた瞬間目つきがかわる。
どうしても反応してしまう。
どうも、他の人間とはない、因縁めいたような部分が強調されているようだ。
だが、すぐ冷静に考える。
(待て、私。ここでみつかったらヤバイだろ?この私がゲームなんぞやってるなどと…)
しかし時すでに遅し。
「おー?あそこにいるのは凛夢ではないか?」
來魅に発見される。
(ああ……私よ…。私の生活よさらば)
「凛夢じゃん。どうしたの?」
「じつはー…」
護が勝手に喋ってしまった。
「へぇー、ほぉー」
「凛夢が格ゲー好きだったなんてね…」
「言っとくけどな!私はこういうの以外はほとんどやったことないんだ!これもお兄様の影響で…!」
こういう部分が空気を読めない護。
一通り話してしまった。
どこか間を抜けているというか、考えが足りないのも事実。
「なあ、琉嬉と凛夢、どっちが強いんだ?」
「はあ?」
來魅が唐突に言い出す。
言いたい事はようするに、格闘ゲームだったら琉嬉と凛夢、どっちが強いのかと。
「琉嬉はげーまーというヤツだろ?凛夢も格闘のヤツなら出来るんだろ?」
「なるほどねぇ。ゲームの子鬼、琉嬉ちゃんとなら興味あるね」
「誰が子鬼だ護このやろー」
当の凛夢はというと…。
「面白いわね……やってやろうじゃない…」
なぜか熱く燃え上がる。
「…なぜ、そこでやる気になるんだ…」
いつのまにやらギャラリーが集まっている。
それもそのはず。
非常に珍しい光景だからだ。
どうしてもこの手のゲームは割合的には男性プレイヤーが多い。
ましてや小学生にしか見えない少女と可憐な美少女が対戦台に座ってるからだ。
突如始まった琉嬉と凛夢の対決(格闘ゲームで)。
因縁の対決がゲームという形で始まった!
「やれやれ…。結局どこ行っても目立つのね…。この人らは」
「仕方ないのぅ、はっはっはっは」
笑い飛ばす來魅。
状況を理解してるのだろうか。
勝負は始まっていた。
琉嬉も手慣れた動きをしている。
伊達にゲーマーをしていない。
動きを冷静に判断している琉嬉。
それに対して凛夢は感情丸出しの表情だ。
(…凛夢め、ここでこう来るか!ならば…)
(琉嬉め、手馴れてやがる…。通常の相手なら半分は減っていたものの…)
初心者でも分かる、凄まじい動き。
あきらかにお互い通常ではない動きをしている。
「これって…凄いの?」
半分何がなんだか分からない護。
といっても自身がリアルに戦いをしているからいい動きをしてるとは感じている。
「私に聞くなー。達人同士の戦いには素人には分からんもんだ」
「………へぇ~…」
やっぱりイマイチ分かってなかった。
(ぐ!ここでこう反応するかのか!)
(やはり…一筋縄ではいかないようだな!人形小娘!)
何か、こう近寄りがたいオーラを発している。
一手一手いい技が決まると回りのギャラリーがどよめく。
その状況見ている來魅が楽しそうに興奮している。
そしてそのまま最終ラウンドまでもつれこみ……。
「くっそ~!死神女に負けた!!」
いつの間にか時間は夕方午後5時になっていた。
そして、世紀の一戦の軍配は凛夢に上がったようだ。
かなり悔しそうな琉嬉。
「僕のモットーはゲームは広く深く…うんぬんかんぬん」
それほどゲームに入れ込んでいるようだ。
(…この私を追い詰める子供娘…侮れん)
凛夢はというとホッとした様子だった。
予想以上に琉嬉が強かったのか。
かろうじて勝ったようなイメージだ。
「しかし、凛夢ちゃんも意外だね~」
「あ、いや…そんな事は…」
謙遜する凛夢。
「今度は絶対負けないからな!」
「…いつでもきなさい。私は逃げも隠れもしない」
「おお、凛夢なんかカッコイイ!」
「でもさぁ~。凛夢ちゃんってなんで格ゲーマーなの?」
「……それは…、その、昔お兄様に教えてもらって…。
私、友達とかいなかったから家でもやる事なくって暇な時はずーっと…」
「へぇ~。意外な一面」
それ以上は深く語ろうとはしないが、きっと孤独を消すための手段だったのだろう。
会ってそんな時間経ってないがなんとなく、今までの情景が垣間見える気がした3人だった。
「わ、私はこれで帰ります。さよなら」
そう、言葉残して走り去るように帰っていく。
あっけなく別れた。
「さよーならー…って行っちゃった」
「またなー、凛夢ー」
いつまでも明るい來魅。
終始一番楽しそうだ。
「さてとー。あたしらも帰ろうかしら」
「…そだね。じゃ、またね護」
「ほいほい~、また~」
ここで解散となる。
なんだか、嵐のような一日だった。
「しかしあの凛夢がねぇ~。面白いの見ちゃったね」
「おう!」
ゲームの戦いでは負けはしたが、思いがけない面を見れて満足した二人。
これはちょっとした弱みにも使える。
琉嬉はそう思いながら帰宅するのだった。
夜、――彼方家。
一家団らんの夕食時。
この日は献立はからあげメイン。
ガツガツ食べる來魅。遠慮などと言う言葉はない。
「うまいのぅ~!さすが嶺珠だ!」
「一応~私も手伝ったんだけど…」
「おお、そうか!悠飛も凄いな!」
「こう毎日感謝してくれると作りがいあるわね~」
ここの家族はいつも楽しそうだ。
悠飛が照れている。
「それにしてもあの凛夢さんがね~。姉ちゃんみたいな趣味があったとは」
「アイツは、浅く深くタイプだ。廃人レベルの格ゲーマーだ」
「……よくゲームの世界は知らないけど、そうなんだろうね」
すっかり琉嬉達に広まってしまった凛夢の隠れた趣味。
その事に触れると、きっと激怒するであろう凛夢の姿が思い浮かぶ。
「ところでさ、父さん」
「ん?なんだい琉嬉ちゃん」
「水無月の家って知ってる…?うちと同じ五大家みたいなんだけど」
「ん~、知らない事もないけど、彼方家とはあまり関わりないと思ったよ」
「ふむ…」
そもそも、みゆの港咲家とも関わりがなかった。
同じ五大家の一族だからと言っても、深い関わりがあるとはいえないようである。
今までそんなに関わりなかったのに琉嬉の前に現状、明るみになる。
不思議な話だが、何か予兆でもあるのだろうか。
現に、來魅という大妖怪も復活。
旧校舎に封印されている妖怪も封印が解けるという話。
何かあるのだろうか。
こうした連続の出会いはきっと何か意味があるのだろうかと。
だが、琉嬉は目の前に来るものは取り除く、そういう性格だ。
あまり深く考えたくもない。
そう生きていこうと決心する。
「お祖父ちゃんなら分かるかも知れないね」
「…直接聞いたほうが早いか」
水無月の人間本人が同じクラスに来たのだ。
どこまで話してくれるかは分からないが本人に直接聞いたほうがいいかもしれない。
そんな内容話しながらも琉嬉もいい勢いでご飯を食べている。
「…來魅もそうだけど、姉ちゃんもよく食べるよね」
「成長期だから」
「……そう…(体格的には全然成長してないじゃん?)」
「それにしても…今日は疲れた」
珍しくゲームに手をつけずにベッドの横たわる琉嬉。
この日だけでいろいろな事が起きる。
また明日からにぎやかになるのだろう。
元々琉嬉のクラスはにぎやかで明るい。
ただでさえ、学校中が注目するような逸材が加わる。
そう考えるとちょっと複雑な気分だ。
(そういや……どっか見た事あるような風景だったな…。
まるで僕が転校してきた時と同じだ…)
そう。
琉嬉が転校してき時。
凛夢と同じように異常な盛り上がりをみせていた。
まったく同じリアクションの生徒達。
どうしてか、凛夢と重なる部分があるのだろう。
おもしろい傾向だ。
そんな事考えてたらいつのまにか夢の世界へと旅立っていた。
こちらはとあるマンション。
およそ8階建てくらい。
よくある高級な大型マンションではないようだ。
一人空しく部屋にいる凛夢。
家具などは必要最低限な物はない。
すぐ引っ越す予定だからだ。
自ら望んだとはいえ、一人は寂しい。
(私は…この新天地で変わるんだろ!変わるんだ…。そう…今までとは…)
自分に懸命に言い聞かせる。
過去の自分を断ち切りたい。
そう、切実に願っている。
夏休み中の旅行はみゆの誘いではあったのだが、以前の自分であれば断ってただろう。
しかし、こう前向きに行く事で自分の嫌な部分を消し去りたい。
そう願っている。
この転校も自分を変えたいため。
凛夢は琉嬉達との出会いを期に前へ進めると決心した。
兎に角も、琉嬉にとってはまずますにぎやかな学校生活になりそうだ。
この再会は運命なのか。
偶然ではない、必然。
琉嬉と凛夢。
お互いに「似た」者同士、どう進んでいくのだろうか。




