#21 温泉で過去話でそれから
散々だった。
せっかくの旅行。
だったのだが――。
見事に波乱の始まりだった。
「納得いかない!いく訳がない!」
やり場のない怒り。
琉嬉が激昂してた。
キレるのは毎度の事なので、さすがにみんなも慣れていた。
「でな、でな、100年前はな…」
「うんうん、それで」
しかし、おかまいなしの來魅。
大した気にもせず双子と話して遊んでいる。
他のみんなは声静か。
凛夢はというと、表向きはいいどことなくお嬢様風を演じているが…。
みんないる部屋とは違う部屋でみゆと二人何やら話し声。
「私も納得いかねーよ!みゆ!なんなんだアイツは!失礼もほどがあるわよ!」
「まぁーまぁー、落ち着いてね、うん。落ち着いて…。喋りが…」
「あ、ごめん…」
さすがのみゆも裏の凛夢の姿を見てたじろぐ。
凄まじいくらいの剣幕だ。
随分とガラの悪い喋り方。
「大体、みゆが信頼する友達っていうから信用して来たのに…楽しみして来たのに…。
なんなの?あの日本人形小娘!?」
「まぁー、あれが琉嬉ちゃんですから。学校では「凶暴な天使」って恐れられている反面有名なんだよ」
なんだか凄いようなあだ名。
事実、学校で陰でそう言われている。
琉嬉がキレるなんて今に始まった事ではない。
「学校でもあんな性格のままなわけ?」
「ん~、まぁそうかな~。琉嬉ちゃんの逸話ならあるよ」
「……逸話って…」
みゆは淡々と知ってる限りの琉嬉の逸話を語りだした。
「これはね、琉嬉先輩が転校したばっかりの頃らしいんだけど…」
「…ほう」
「転校初日にね……」
琉嬉は一年の頃に転校してきた。
普段はおとなしいが、短気なうえ、強気ですぐ手を出すようなタイプである。
それに加え、あの外見。
ギャップが激しい。
それが生み出す伝説とは……。
「すぐに事件は起きた」
「ちょ…初日ですぐに?」
「そう…。初日に。あれは…悲劇だった。彼女らにとって」
「彼女ら…?」
「ホラ、よくいるでしょ?いわゆる「不良」みたいな感じの」
「…あー、いるわね…私も何度かちょっかいかけられたっけ」
「可愛い外見だからね、クラスからいろいろチヤホヤされてたみたいなの。
それをよく思わない先輩方にあたる不良少女グループがいてね、
ちょっかい出してきたみたいなの」
「ほぅ…」
「それが癇に障ったのか、いきなり琉嬉ちゃんそのリーダー格に思いっきり殴ったたみたい」
「いきなり?」
「当然叩かれた方怒るよね?」
「そうだな…」
「そしたらどうなったと思う?」
「どうって…」
「琉嬉ちゃんも殴られて、小柄だからちょっと吹っ飛ばされたんだけど、その後が凄かったみたい」
「…その後…」
「机を丸ごとグループにぶん投げて大暴れ。
ガラス割れるわ、教室の中崩壊するわ、しまいにゃその人物を思いっきり投げ飛ばして…」
「…そりゃ、あんな力持ってたら簡単にひねりつぶせるよね…」
凛夢もちょっと分かる琉嬉の動きの良さと力。
「後から来たグループの仲間の男子とかもぶっ飛ばした!ていう逸話が…どこまで本当かは分からないけど」
「へ、へぇ~…(私にゃそんな事できん…)」
「凄い問題になったらしいよ。学校側でなんとか押さえ込んだらしいけど…」
「その一件以来、琉嬉ちゃんはおとなしくしてるみたいだけど…」
「つまり、前科者ね」
「今のクラスには馴染んでるみたいだけど、琉嬉ちゃんにヘタに話しかける人が少なかったって、まもちゃん先輩が言ってた」
「そ、そう…」
「それからついたあだ名が「凶暴な天使」」
「…なんで天使なの?」
「んー、ちっちゃくて不思議な雰囲気出してるからじゃない?私はよく知らなーい」
学年もクラスも違うみゆ。
聞いた噂程度しか知らないし、本人からも聞いた事はない。
むしろ聞き出そうとしたら殴られそうで聞いてない。
「その一件はなんなく収まったみたいだけど。琉嬉ちゃん停学になったみたいだけど」
「どっちがヤンキーだか分からないわね…」
「あ、後ね、セクハラ教師も殴った事あるらしいよ」
「………どんな武勇伝だよ…」
琉嬉の学校での過去。
今は半分忘れられているだろうが、目の前で見ていた生徒にとっては恐怖の事件だったらしい。
ただでさえ、裏の世界で名が知られているのに、学校でも目立つ状態になっているみたいだ。
だが、呼ばれている異名が他の学校にも知れ渡ってるらしい。
「さあさあ、せっかくのバカンスだよ!もっと楽しもう~!」
「オーッ!」
紫音仕切りで何か盛り上がっている。
みんな着替えやタオルなど持っている。
その中にみゆと凛夢が戻ってくる。
「あれ?みんなそんな仕度してどうしたの?」
珍しく質問する側のみゆ。
「近くに温泉のある施設あるんでしょー?そこに行くんだー」
「おおっ、いいね~」
しかし、案外そんなにノリ気じゃないみゆ。
「温泉かぁ…いいですね~」
さっきとの表情とは違う凛夢。
いわゆる表の顔だ。
「…二重人格め…まぁ、いいや。みゆも行くんだろ?」
琉嬉もノリ気だ。
温泉好きで自分一人でもたまに温泉入りに行くくらいである。
「うーん、どうしよっかな~」
なぜかいつもの態度とは違う。
「ん?嫌なの?温泉?」
「嫌ではないけど…」
「まあまあ、琉嬉サン、ここは好きなようにさせましょう」
凛夢が入り込む。
「むぅ……」
こうしてるうちに出発す他のメンバー。
「ほら~、行くよ~」
「お前らは先に行けよ。僕達は後でゆっくり入るから。大体、お前らと入ったら疲れが取れないし」
「えー、なんでー?」
「琉嬉ねえねえケチー」
「誰がねえねえだ。誰がケチだ」
琉嬉らは後で入る事になった。
「じゃ、行ってきますえ。何かあったら連絡くださいな」
「うん」
双子、來魅、護、叉羅沙、悠飛、寧音らは先に行ってしまった。
着いた先はそこそこ大きめの温泉施設。
割と新しい。
琉嬉メモによると5年前くらいに出来たとかなんとか。
温泉好きの琉嬉ならではのチェック。
ゲーム以外の趣味のひとつだそうだ。
駐車場の車の多さを見るとやはり中も人も多めだ。
人気あるのだろう。
「なんだってこんなヤツと…」
ブツクサ言う凛夢。
「…なんで僕とみゆの前だけじゃその態度なの?」
「うるさいわね…凶暴な天使さん」
「……黙れ、性格破綻死神女」
ここまで来て喧嘩腰の二人。
仲が良いのかなんなのか。
そういう部分で気が合うようだ。
「そういや、さ。ゴールデンウィークの時の旅行でさ、みゆ一緒に温泉入ったけ?」
「え?多分~、一緒に入ってないと思いますよ~」
なんかギクシャクしたみゆ。
「…なんか入れない理由でもあるの?」
「えへへ~、まあー、そうかな?」
「……??まぁ、僕もそんな人と一緒に入るのは好きじゃないしね。特に同じ年くらいの女と」
そう聞くと否や、凛夢がニヤニヤしながら…
「へぇー、そうなんだー。やっぱりお子様体型だからかなー?他の子と比べるんだー」
ほぼ、棒読みで言う嫌味な言い方。
護にも負けないプロポーションしている凛夢。
綺麗な体つきだ。
「お前なぁ…いい加減にしろよ(自分がいいスタイルだからって…ブツブツ)」
「なんだ?やるのか?」
周りの客がこちらを見る。
二人は顔を見合わせる。
さすがにここでは意見が一致する。
「……今はやめとこうか…」
「…そうだな」
おとなしく脱衣所へ行く3人。
「…何まじまじと見てるの?」
琉嬉は凛夢を見ていた。
「いや、別に…」
「なーに?うらやましいの?ん?」
「…そんなんじゃないって!」
しかし、図星だった。
「…アンタ、髪ほどいたら本当、ますます日本人形みたいね」
「うるさいなぁ…人の髪型にケチつけるな」
「ケチなんかつけてないわよ」
凛夢は右手で琉嬉のほどいた髪を手に取る。
「綺麗な黒髪じゃない。羨ましいくらいにね」
「…それはどうも」
「私の髪は少しクセッ毛で…少し赤みかかってるでしょ?」
「……言われてみればそうかもね」
純粋な黒でなく、少し赤みがかっている。
といっても光に当たれば分かる程度で、そこまで気になる程ではない。
「先祖がドイツだかどっかの国の人の血が入ってるらしいんだけどね。そんなの関係ないし」
「へぇ…」
「ま、ちょっとだけ外国の血が入ってるってワケ。見た目はほとんど日本人だけどさ」
「…護とは違うのか」
「護ってあの金髪の人?」
「そう」
みゆはというと、隅のほうで服を脱いでいた。
それも素早く。
「みゆー?どうしたの?そんな端っこで」
「んー…」
元気ないみゆ。
どうしたのだろうか。
「私の一番の仲間の二人だから言ってもいいかな…」
「…何を言うって?」
妙な間を作る。
いつも陽気で明るいみゆが少し暗い顔をしている。
「いいよね?琉嬉ちゃんの過去話したし」
そしてさらっとみゆが過去話をた事を言う。
「……はぁ?!過去話って?」
「アンタが停学になったという学校での暴れっぷりをね」
「ちょ…なぜそれを……」
「あ、やっぱり本当だったんだ」
「…思い出したくない過去を………」
かなりへこむ琉嬉。
「それよりみゆが何か…」
みゆの背中を何気なく見る。
――二人は絶句した。
背中に大きな十字傷…。
うっすらと傷跡が残っている。
何かに引っ掻けられたような、大きな傷跡。
そこまで目立つようではないが、あまりにも大きく伸びているため気になってしまうレベルだ。
「な…何…コレ…」
「何コレって、傷ですよ…コレでも結構消えてきたんだけど…」
みゆが唯一見せたくなかったもの。
それが背中の傷跡。
みゆの、綺麗な背中に似つかわしくない、痛々しい姿。
「でも、これって頑張れば消せたりできるんじゃないの?」
「それがね~、全部無理みたいだって。呪いでもかかってるのかな?」
そう笑いながら言う。
しかし、内心では嫌な記憶の筈なのに、そんなそ振りを一切見せない。
突然見せたみゆの秘密。
あまりの出来事に言葉が出て来ない二人。
「ま~、こういうのがあるから…ちょっとね~」
それでも笑顔。
みゆらしいというかなんというか。
「さすがに…これはびっくりだね…」
「驚いた」
「なんだ、凛夢も知らなかったのか?」
「知る訳ないわよ。そんなしょっちゅう会える訳でもなかったし…」
「ふぅん…」
不思議そうな顔する琉嬉。
ここは少し、上目づかいで見つめる。
「…そんな目で私を見るなっ」
そんなみゆは気を取り直して、
「タオルで隠せば問題なしッ!じゃ、行こうよ二人共!」
いつも天真爛漫に明るいみゆ。
なんだかわからないまま、二人は顔を見合わせ無言で大浴場へと行く。
「やっときた~」
素っ裸でお迎えの來魅。
「お前…女同士だからって少しは恥じらいを…」
「まあまあいいじゃないか」
「しかしまぁ…見事な子供体型だね」
「お前様も人の事言えんだろう」
海の時同様に琉嬉の手を無理やり引っ張り湯船へ突っ込む。
「おあ、うわっぷッ」
激しい水音と水しぶき。
ドポンという轟音が響き渡る。
なんという迷惑。
回りの他の客が少し引いている。
「…ほんとに子供だな…」
その様子見て一言ぼやく凛夢。
そのまま単独でみんなとは違う所へ行く。
やはりというか当然というか、ほぼ初対面の面々とは一緒に居づらいのだろう。
そもそも、なんで顔合わせもなく突然みゆは凛夢を呼んだのだろうか。
そこが、みゆのおかしな性格の部分である。
一体何を考えているのか…。
「悠飛君がまた男の子に間違えられてちょっと大変だったのよ」
「あまり言わないでください…」
こちらはこちらで相変わらず悠飛は男に間違えられていた。
カッコイイ女の子・悠飛。
背も普通の女性よりは高めなのでより一層間違えられやすいのだろう。
「そういえば、最初会った時もみんなに間違えられてたよね」
「………お願い、言わないで…」
なんだか、可哀想な悠飛だった。
「はは、まぁいいじゃないか。その立派な胸があればすぐ女だって分かる」
來魅がなぜか偉そうに言う。
「…そうなんだけどね…、髪型のせいかな?」
「あー、それはあると思うよ。わたしもこう見えて小さい頃髪短めでやんちゃしてたら男の子に間違えられたし」
「へぇ…だから女らしくしたとか?」
「お、叉羅沙ちゃん、正解っ」
びしっと人差し指を差して決める変な動き。
「女らしいかどうかは…少し疑問だけどな」
「あー、琉嬉ちゃんがそれ言う~?」
「そうそう、琉嬉さんの方が少し女らしさからかけ離れてます」
「なんだとー寧音~」
寧音のほっぺたを両手で挟み込む。
「あう~、やめて~琉嬉さん~」
「琉嬉よ、そういう時はここを掴むのだ」
來魅が寧音の巨大な胸を鷲掴みにする。
「ちょちょちょ!そこはダメですーっ!」
「おお、みろ、すんごいデカいぞ!」
「お前なぁ…」
「私も触るー!」
紫音も乱入する。
「セクハラだろそれ…」
そして一行は露天風呂へ向かう。
「はぁ~、気持ちいいね~」
程よい風が心地良い。
開放感も良い。
楽しそうにはしゃぐ年少組み(+大妖怪)と、控えめに会話をしている年長組み。
後から凛夢が入ってくる。
「げっ」
と、言いながら出ようとする。
「げってなんだ、げって」
「………」
そしてまた戻ってくる。
ふくれっつらで湯船につかる。
なぜか琉嬉の前では露骨に嫌な表情を見せる。
「…そんな顔ばっかしてると老けるの早くなるぞ」
「うるさいっ!」
「おー、こわ…」
何かあると反発しあう二人。
一向に仲良くならない二人に愛想をつかすみんな。
とりあえず、距離を置いて様子見のようだ。
「どうにかならへんのかね~、あの二人…」
「ま、琉嬉姉の性格もあるし、当分無理ですよ」
冷静に判断する。
さすがに、従姉妹だけあって琉嬉の事は知り尽くしている。
凛夢には悪いが、ほっとくのが吉、と言うのだろう。
「私らは先に上がるよ~。このままだとのぼせちゃう」
「あ、ああ、うん、わかった」
護達は先に上がっていた。
残ったのは見事に琉嬉と凛夢。
そしてそのまま無言のまましばらく風呂に浸かっている
みゆの姿は見えない。
露天にはいないようだ。
まだ中にいるのだろうか?
それとも先にあがったのだろうか?
二人はそのままじっとしている。
無言の中に戦いが生まれていた。
そう、我慢比べ。
いつまでこの熱い温泉につかっていられるかという、沈黙の戦いが行われていたのだ。
(……コイツ…出来る!)
(……この日本人形小娘…中々…!)
しばらくする事10分程度。
二人は出てこない。
「ねぇ…、あの二人長くない?」
「そうね…」
みんなが少し気にし始める。
「大丈夫かな…」
少し心配になる。
傍から見れば仲が良くないように見える。
まさか、大浴場でケンカ?
そんなバカな事までするとは思えない。
みゆの姿も見えない。
「みゆさんもいないよね」
「途中からいなかったような…」
「時々本気で意味不明な事するんだよね、みゆって子は…。普段から意味不明な子だけど」
普段の言動から散々な事言われるみゆ。
だが、今回に限っては深い事情があった訳だが…。
「…あつい……」
「あら、頑張らなくてもよくてよ?」
「う、うっせぃ……」
挑発には乗らない琉嬉。
お互い真っ赤な顔だ。
なぜこうも意地を張り合うのか?
謎である。
そうしてるうちに琉嬉が半分体を出しぐったりする。
「はふぅ~…」
「あらあら、その小さな体では負担が大きかったかしら?」
「ら、らまれぇ~…」
黙れ、と言いたかったらしいがろれつが回っていない。
ノックアウト寸前。
顔が真っ赤である。
「フフフッ、私に勝とうなんざ、ビッグバン起きた後の百億光年の果てまで遠い!」
そういう凛夢もなんだか意味がわからない言葉を並べるほどやられていた。
凛夢は妙な胸騒ぎみたいのを感じた。
そう、異変は近づいていた…ようだ。
「二人とも~!大変だぁ~ッッ!!」
大声張って入ってきたのはみゆ。
「んあ?なんだー」
「何?どうしたの?みゆ…」
「妖気が…」
気がつけば露天風呂のには人気がない。
琉嬉達3人になっている。
「あ、あれ…?これって…」
いつのまにか術中だったとうのか。
「妖怪の気配……」
何か解からない
解からないが、何かいる。
そんな状況だ。
琉嬉はぐったりしている。
「ちょっと!人形娘!起きろ!!」
力強くゆする凛夢。
「あぅ……僕はだめぇ……」
ガクンガクン体揺らされながらも目は閉じたまま、KO状態だ。
「ンモー!肝心なときに!」
「凛夢ちゃん…来るよ!」
周りの景色が歪む。
そんな気分だ。
異常な妖気が蔓延する。
凛夢はどこからもなく出した大鎌を構える。
みゆも武器はなくとも身構える。
こうみえても拳法の心得はある。
霊力ミックスした戦い方はできるのだ。
「なーんだって、こんな場所で…」
警戒と強めていく二人。
他に人間の姿は一切ない。
完全に術の罠だ。
「クククク……いいなぁ。人間の女は」
妖怪の声だろうか。
姿は見えなくとも声は聞こえる。
「…野郎……、舐めてるわね…」
本性モードに完全移行する凛夢。
「変態か?変態なんだね?女風呂覗く妖怪って…変態お化けさんだね?」
みゆがバカにするような言い方。
へにゃへにゃな言い方は変わらないが明らかに怒りに満ちたのが分かる。
「フッ、なんとでも言え。人間風情が。そのためにはあのお方の…」
「どうでもいいけど……姿見せろ!」
幻術だろうか?
姿見せずに傍観する妖怪。
なんともおかしな風景だ。
「くっそー、変態妖怪めっ!こうやっていつも女風呂見てんのかよ!」
「それがどうした?まあ、まさかここに能力者がいるとは思わなかったがな」
「…とんだ変態だね~」
やみくもに何もない空間に攻撃する凛夢。
しかし、やはり何も起きない。
「…どこにいやがる!」
「これはこれは、言葉使いが悪い娘だな」
「うるせぇ!!」
段々頭に血が上る凛夢。
「しかしどうしたものか~…この状況打破するには…」
幻術には以前ハマった事がある。
これが厄介なもので一度罠にハマると中々抜け出せない。
そのままジリジリになぶり殺されてしまう。
それが、幻術を使った戦法。
だが、この状況を打破できるのは…。
「…まかせろ……」
「琉嬉ちゃん!」
のぼせ上がった体で動く琉嬉。
左手にしている数珠をはずす。
そして……――。
微量の真霊気が放たれる。
「うわっ!何コレ?!」
一瞬、まばゆい光があふれ出す。
「おわわっ」
あまりにも一瞬の出来事に尻餅つく凛夢。
みゆは一度見ているためそこまで驚かなかったが、やはり強力過ぎる力に多少なりともビビる。
「……幻術破ったぞ…。あとはよろしく」
と、言いながら後ろに下がる琉嬉。
そしてそのまま椅子に座り込んでしまう。
琉嬉の言った通り、幻術が解けた形跡がある。
「おっけ~琉嬉先輩ー!凛夢ちゃん、姿見えたよ~」
「そうね」
「な、なんだと!?」
あっさり姿を見せる妖怪。
その姿は赤い顔の鬼のような姿にもみえる。
あきらかに人間とは違う姿だ。
「なんだか知らないけど、姿見えるのならこっちのもんよ!」
すかさず攻撃をしかける凛夢。
右手には例の真っ赤な巨大鎌。
凄まじいまでの速さと迫力で斬りかかる。
が、間一髪妖怪はかわす。
「うおっ?」
「乙女の純潔汚すヤツはぁぁぁ…死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
大きい鎌を軽々と振り回しながら突進してくる。
裸の美少女が大鎌を持ちながら突っ込んでくる姿は異様に怖い。
ザシュッという鈍い音を立てる。
そして見事な一撃を与える。
「うご……ッ!」
妖怪の動きが止まる。
そしてみゆが凛夢の上から右手に霊力を込めて、落ちてきた。
「とーどめぇ!」
ドゴーン。
みゆが霊力こもった掌底を妖怪の顔面に食らわす。
「のごわっ!」
妖怪は両方の鼻穴から血の流したまま、壁の外へと吹っ飛んでいった。
30秒くらい黙って見ていたが動くような気配がない。
「倒したの…?」
「どうかな……手ごたえはあったけど」
「ま、あの傷では簡単には生きてないだろ」
「そうだね~…」
ざっくりと体を鎌で切られた。
その上に強烈な一撃が決まる。
姿が見えれば最早二人の敵ではなかったようだ。
そこらの妖怪では勝てない。
圧倒的な強さ。
その横目にぐったり気味の琉嬉。
もう動けないような状態だ。
しかも、わずかながらも真霊気を放ったのだ。
その疲労もあるのだろう。
そしてタオルもなしに真っ裸で倒れている。
「まったく…手のかかるヤツ…」
凛夢が琉嬉を抱き上げ風呂場から上がる。
「………ふぅん……小っさ…っ」
琉嬉をそのまま抱きかかえる。
「軽っ…」
「う、うるさい」
なんだか微笑ましい光景の二人に笑顔のみゆ。
「…あんた、あれね。同情するわ……」
「どういう意味だよ」
「いえ、別に…子供みたいな体ねって事」
「…あとでぶっ飛ばす」
一言多い凛夢。
しかし、お互いにぎこちないが、笑顔ではあった。
妖怪は撃退したが、なぜこんなとこに現れたのか。
ただの流れ者だったのだろうか?
疑問だ。
なんだってこんなやらしい事をしてたのだろうか。
そう考えると益々怒りが込みあがってくる。
倒したのに。
「大丈夫~?姉ちゃん?」
微量冷気を出し琉嬉を冷やす悠飛。
姉妹して今回、縮小した力を操り役に立たせる。
琉嬉は休憩室で横たわっていた。
心配そうにみている他の面々。
他の客の視線も気になる。
周りからみれば年頃の女の子が、何かトラブルでもあったのかと思える光景だろう。
「あぅ~」
「無茶苦茶だね。まったく」
紫音もあきれる琉嬉の意地っ張りさ。
「やっぱり、小さいから熱が回るのが早いのかな?」
「何それ?私が大きいから勝ったていう訳?」
それはあながち遠くはずれてはいないのかもしれない。
別荘に戻ったみゆ達。
ゆでだこ状態の琉嬉。
その様子に気にかける凛夢。
何かそわそわしている。
(なんだって…あの小娘の事気にかけなきゃいけないのよ…)
自分でも納得いかない。
どこか、自分に似ている。
それが無意識に気にしてるのだろう。
それを知ってかなのか、終始みゆはニヤニヤしている。
「何ニコニコしてるの?みゆ?」
護がみゆの不思議な笑顔に疑問持つ。
あからさまに怪しい。
何か知ってるのに違いない。
「んー?いやぁ、別にぃ~」
「そうー?」
突如みゆの服を引っ張る仕草が。
「ん?」
後ろを向くとちょいちょいとシャツを引っ張る來魅。
「なあ、みゆとやら。ちょっといいか」
「何?來魅ちゃん」
みんなから離れる二人。
來魅はみゆの行動に何か気づいていた。
「みゆ、お主企みあってこの旅行に連れてきたんだろう?」
「ナンノコトかな~?」
「…とぼけるな。あの琉嬉みたいに気性荒い生意気な娘をここに呼んだのもこうなるような企みなんだろう?」
「フヒヒ。來魅ちゃんは鋭いな~」
「あの心開かない娘をこうして突然の大人数を会わせたのも強引すぎないか?」
心開かない娘。
それは凛夢の事だろう。
どこかソワソワしてて、真っ直ぐこちらを見てくれない。
「まぁね。ああすれば、少しは凛夢ちゃん本人のためになるのかなーって思ったんだけど」
やっぱりあったみゆの企み。
なんだかんだで何も考えてなさそうで考えている。
周りからすれば迷惑であるが。
「凛夢ちゃん、あの力持ってるから、あたしらといればもっと生き生きしてくれるかなーって思って」
「決して他人ではない、親戚の娘だから気にかけたのか?いや、一応の五大家の人間だからか…?」
「それもあるけど……私と同じ悲しみのまま生きるのは辛いだろうし」
「……悲しみ?」
「うん。悲しみ」
しばし沈黙。
「……ふむ。深くは聞かないが、まーいいか。しかしお主もいつもヘラヘラしてる割には、えげつない事考えているのぅ」
「フヒヒヒ~」
「……それはそれとして、さっき何か妖怪の気配感じたな」
來魅には気づいていた。
「おおっさすが來魅たん!鋭い!」
「……お主らがいるから心配はしなかったがな」
「その考え正解~、と言いたいけど、琉嬉ちゃんいなかったらちょっと危なかったかも?」
「ほほう」
何気に会話が弾む二人だった。
だが、やはり來魅は鋭い。
毎日子供っぽく遊びまわってるようでどの人間よりも的を得ている事を言う。
「ただね、妖怪の存在は余計だったかな?」
「…ほぅ。それは私の事ではないよな?」
「うん。さっきの妖怪。ちょっと面白かったけど」
「………お主…、一番の曲者だな」
散々な一日が過ぎようとしてた。
琉嬉はのぼせあがって一足先に就寝。
よほどの体力が消耗したのだろう。
他の仲間は各部屋に別れてパジャマパーティ…でもないが楽しそうにしている。
「大丈夫かね…琉嬉ちゃんは」
「まぁー大丈夫じゃない?ああ見えてタフそうだし」
タフといっちゃあタフ。
何気にしつこいくらい執念深いところもある。
「みゆ~、あの子は~?」
「んー?さぁー。散歩するとかって言ってたけど」
「ふぅん…」
護が少し気にかける。
(ちょっと様子見に行くかな…)
何も言わず護は部屋から出て行く。
それを見てたみゆはニヤニヤしている。
「まったく…。趣味が悪いのぅ。みゆ」
「まーね~」
夜の海辺にはキャンプのテントが何個かある。
夜なのになんだかにぎやかな光景だ。
人もチラホラ。
花火もしている。
夏休みも終盤に入っている、最後の楽しみ。
護は凛夢の事が気になり、追いかけるような形で外に出ていた。
夜とはいえ、真夏。
動き回ると十分汗をかくくらい暑い。
凛夢の姿を捜すように辺りを歩いていた。
暗闇の中でもそこらにはいないスタイルと美少女はいないので、すぐには見つかりそうなもんである。
「いないな……海岸じゃないのかな?」
トボトボ歩いてると人の気配のなさそうな森近くに出た。
「ヤバ…なんでこんな所まで来たんだろ」
天然なのか、なんなのか。
護は自分でも驚くくらいたまに変な行動取る。
帰り場所がわからなくなるような場所まで来ていた。
「戻ろう」
その時であった。
ガサガサッと、あきらかに作為的な草の揺れ音が聞こえる。
動物か、それとも別な物か。
日頃のくせで身構える。
だが出てきたのは案の定、凛夢だった。
「な、何やってんの?こんな所で…」
「……あ、いや、その、な、なんでもありません……」
お互いに驚く始末。
「…丁度良かった。君を捜してたのよ」
「わ、私を?」
それにしても妙な場所で見つかった。
「あ、あの、私方向音痴でして…」
凛夢が言うには考え事していたら変な森の中まで入ってしまったようだと言う。
そして森の中で迷っていたとか。
意外な凛夢の姿を見て笑い出す護。
「アッハハハハ。あんた、面白いね」
「な、そ、そんな事ないです…」
「フフ、凛夢ちゃん、だっけ」
「はい…?」
凛夢も逆に護のような美人に萎縮していた。
「なんでそんなに琉嬉ちゃんとケンカするのか分からないけどさ、いい子だよ」
「………」
「勿論、他のみんなもだけど」
「はぁ…」
ちょっと過去話を思い出す護。
そして少し語りだした。
「実はね、私も琉嬉ちゃんは最初敵同士だったのよ」
「……え?」
「こう見えても裏家業的なのやってるし。そのターゲットが琉嬉ちゃんだった時があってね」
「………マジですか……」
意外な内容に少し驚いた。
凛夢はその後の話が気になりはじめた。
「フフフ、でもね、案外強くてさ、私負けちゃったよ」
無言の凛夢。
黙って護の話を聞いている。
「でもいい子でさ。普段あんなんだけど、世話好きでかわいいよ」
「………そう…なんですか?」
「凛夢ちゃんもきっと琉嬉ちゃんのいい部分見えてくるハズだよ。
琉嬉ちゃんだけじゃなくて、他のみんなも。
どんな理由でみゆが凛夢ちゃんをこの旅行に呼んだかのか…。
相変わらずみゆは何考えてるか分からない変なヤツだけど」
「いや、なんとなく私には分かります」
「そう?」
凛夢も気づいている。
みゆが呼んだ理由。
みゆが、信頼している仲間と一緒にいてもらって凛夢も仲間になって欲しかったという事が。
実際は凛夢の性格も裏表激しすぎて「普通」の人間ならばついて来れないが、この面々ならば、と。
みゆはやり方がおかしいがこうした考えで強引に会わせた。
もっと別なやり方もあっただろうに…。
「はぁー。私も私だな。みゆの言う事も断れなくって…」
「フフ。でもあれだね、凛夢ちゃんって、琉嬉ちゃんと似てるよね」
「えぇ?!どこが!?あんな短気子供娘と!……あ」
「いんだよ、別に。みんなもうなんとなく分かってるって。凛夢ちゃんが無理して表は演技してるって事」
「え、演技じゃありません……多分。昔からこうだったので」
「…まぁ~どっちでもいいけど。今日疲れたでしょ?みんな寝ようとしてるよ」
「…………はい」
護なりの、説得なのか。
「ホラホラ、戻ろう?」
笑顔の護。
サラサラっと揺れる金髪が綺麗で見惚れる。
凛夢を別荘へと連れ帰るのだった。
まだ明日一日もある。
二泊三日予定の小旅行。
波乱はまだ続きそうな…。
別荘に戻る二人。
「おかえり~」
みゆが出迎える。
隣には正木さんもお辞儀をして迎える。
「他のみんなは?」
「それぞれ部屋に行って寝てるかも~」
「そか」
おとなしい凛夢。
まだ何か考えてそうだ。
「それじゃ、私も寝るかな~。今日は疲れたし。明日に備えて休息休息~」
その場の空気を読んでさっさと姿を消す護。
正木さんもみゆにそっと話してその場から消える。
そのままみゆと凛夢の二人になった。
「…な、なんだ?この場は…?」
「まぁまぁ。いいんじゃない?」
「それより、みゆ。お前に言いたい事が沢山あるけどな」
「ほいほい。どうぞどうぞ~」
「…そのヘラヘラふにゃふにゃ態度どうにかならないのか…まったく」
「これだけはどうにもならんよ~凛夢君~」
「…あなたねぇ……。いいけど別に…」
これだけは言える。
一番侮れない性格はみゆのようである。
「なんか疲れた……」
ベッドに横たわる琉嬉。
「琉嬉姉大丈夫?」
寝ているベッドに腰掛ける紫音。
「お前らがいろいろ騒ぐからだよ…」
「琉嬉さんっ!大丈夫ですか!」
寧音が勢いよく飛びついてくる。
「琉嬉ちゃん?」
「琉嬉~」
みんなして琉嬉に寄ってたかってくる。
「なんだなんだお前達…」
「ふふ、人気者さんやねえ琉嬉ちゃん」
「ですね…」
「小さき力に大きな心。頼もしいです」
「そんなもんかねえ…」
護はあまりピンと来ないようだった。
そして、あっという間に朝を向かえるのであった。




