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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第四章   ~真夏怪奇編~
20/92

#20 突然の鎌と少女と

 父親の実家のお寺から帰ってきてからも準備に追われていた。

その準備とは、みゆからのお誘いのちょっとした旅行である。

金持ちみゆの別荘にお呼ばれしたのだ。

しかも旅行費は出してくれると。

普段の言動からは想像もつかないが、みゆはかなりの大金持ちの娘らしい。

琉嬉はどうせ暇だし、タダでいいのなら、という話にノッたわけだ。


 同行メンバーは現段階で、琉嬉、悠飛、莉音、紫音、護、來魅、叉羅沙、寧音、そしてみゆ。

計9名という大人数だ。

まどかや龍翔は別な場所にいるので見合わせた。

柚羽は病み上がりという事もあってスルー。

御琴も残念ながら、親の実家にいるという事なので来れなかった。

少しだけみゆが残念そうにしてた。

ともかくも、明日、駅で待ち合わせ。

今回はチャーターする車などはなし。

あえて、交通機関でより旅行らしさをだすとかなんとかでみゆが言い出した。

琉嬉も決してそういうのは嫌いではなく快諾したのだ。

他のメンバーはどう思ってるのかは分からないが。

「…しっかし、男っ気ないってのも寂しい気もするな」

「うは、姉ちゃんが意外な事言い出したぞ」

 思いもしない琉嬉の発言に驚く悠飛。

「なんだ?そういうのが恋しい年頃なのか?」

 二人が琉嬉を茶化す。

「ん。まぁ~、これはこれで面白いかもしれないけど」

 特に深い意味はなさそうだった。

「でも、楽しみだな!今度はもっと遠い所か!」

「…水着も用意した方がいいのかな?」

「おー悠飛が泳ぐ気満々だ!」

 みゆが言う別荘は海が近いと言う。

ということは天気がよければ泳ぎ放題。

「…悠飛の水着姿なんて見た記憶ないな」

「………」

 無言で顔を赤らめる悠飛。

いつぞや、琉嬉が学校で使う水着を買うときに一緒になって水着を買っていた。

あまり機会のない水着使用にちょっと楽しみにしてた乙女な悠飛だった。

こうしてるうちに出発する翌日が近づく。




 待ち合わせとなる駅。

乗り換えの駅で集合している。

他のメンバーは見えない。

先に着いたのはどうやら琉嬉達のようだ。

やっぱり夏休み期間のせいか、はたまた、お盆シーズンの帰りのせいか、人が多い。

「人、多いね」

 ゴチャゴチャした感がある。

人込みの中でものすごく目立つ人がいる。

女性ながら頭が一個分出てる人物。

そう、叉羅沙だ。

「あ、あれは叉羅沙じゃん」

 背が高い分かなり目立つ。

「サラサ~」

 逆に背が低い琉嬉が叫ぼうとも、叉羅沙は声がする方がよく分からないようだ。

「…琉嬉ちゃんの声したような気が…」

 キョロキョロ見回す。

しかし姿が見えない。

「ここだよっ」

 人込みをすりぬけて叉羅沙に抱きつくように懐に入る。

「おおっ?!な、なんでこんな所に」

 驚く始末。

「よっ」

 先に会ったのは叉羅沙。

そこで琉嬉は面白い提案し、各メンバーにメールした。

「何送ったん?」

「ん?叉羅沙が目立つから叉羅沙目印で集合しようって」

「……ウチが目印って……、そらまた…」

 そうすると否や、すぐ集まる面々。

双子姉妹も到着。

「いや~、すぐ分かったわ~。背の大きいお姉さんっていうから。一度しか会ってないけどインパクト強いからすぐ分かった」

「だよね~」

 背の高い叉羅沙を目印代わりにしたのだ。

「なんか、複雑やわぁ…」

 目印代わりにされて叉羅沙は困惑していた。


「おっすおっす~、みなさん。じゃあ、行きましょうか!しかし結構人数多いね~」

 みゆ登場。

健康的なホットパンツに派手な色合いのTシャツ。

良く似合う。

「呼んどいてなんだそりゃ…」

 みゆが合流する。

一番の言いだしっぺが一番遅く来た。

でも、集合時間には着たのでみんな文句はなさそうだが。

普通はこういう仕切りの幹事が早めに来るものなのだが。

「みんなの切符は買ってあるのだ。ホレ、ホレ~」

 その切符をみんなに渡していく。

「…なあ、みゆ。なんで僕のは子供料金なんだ?」

「だいーじょぶ。バレないですよ!てか、子供と変わらないから問題なし!」

「……ま、まあ…そうだけど…」

「私も…子供料金なのか」

 來魅もちょっと複雑そうだった。

年齢は150歳以上といえ、子供にしか見えない容姿。

どっちにしろ二人は妹として、見られてるだろうからなんなくパスする。

「よし、行きましょう~」

「待て、どの電車か分かってるのか?」

「んー、と……」

 何やら小型の本を取り出す。

旅行ガイドブックのようだ。

「こっちじゃないや、あっちです」

 指を指す方向に歩き出すみゆ。

「…大丈夫か?」

「意外とアナログなんですね」

 寧音がも意外性に驚く。

「えへへ、本の方が見つけやすくて時間かかりませんからね」

「へぇ…」


 早速、確認を取ってきちんとした電車に乗り込む。

座席はすべて指定席。

港咲家ならでの財力がなんなく発揮される。

「おお~、これがデンシャか~」

 來魅ははしゃいでる。

「琉嬉ちゃん琉嬉ちゃん、ちょっと」

 護が琉嬉に話かけてくる。

何か用なのだろうか。

「なーんか、怪しいよね?みゆがこういうのに連れ出すってのは…」

「…でも、さすがに事前に何かある時は言うから…大丈夫じゃないの?」

「うーん…。それもそうか」

 どこか、警戒心がある。

そう、以前もみゆが中心となって、妖怪退治やらなにやらで駆り出された人達。

今回もそれの一件かもしれない。

どこか心の奥でそう思っている。

「この大人数で受け入れられるほど大きい建物なの?」

 ふと、疑問を口に出す護。

しかしみゆは余裕の一言。

「ノンノンノン~♪余裕余裕大余裕~、だよ?まもちゃん先輩」

「まもちゃん先輩って…」

「ほほぅ」

「そいや、この前いたメイドさんの正木さんっていう人は来ないの?」

「ん?正木さん?先に着いてると思うよ~」

「あ…そなの…」

 正木さんなる人物。

みゆの専属のメイドだそうだ。

以前みゆの付き添いでの悪霊退治にいた人である。

まだ謎が多いが、みゆが信頼するだけあって、おそらくはなんらかの実力者なのでは?

という話がある。

彼方、参堂、夜栄守、水無月、そして港咲家。

その五大家の中でも異彩を放っている、財力と実力がある港咲家…。

みゆは特に何も語りはしない。

非常に謎めいた部分がある家系だ。

世の中まだまだ知らない部分がある。

まだまだ、知らない能力持った者達がいる。

護もまだ知らない世界があるんだなと、改めて思った。



「おーっいい景色だなっ」

 窓から見える景色を見てさらにはしゃぐ來魅。

「本当だね~」

「綺麗~」

「乗り物に乗っての景色というのも、乙なものよのう…」

 楽しそうだ。


 出発してから一時間近く経っただろうか。

徐々に見えてきた海の景色。

まだまだ走る。

「もうちょっと時間かかるかな~。たまにはこういうのもいいでしょ?」

「そだね」

 普段見慣れない景色を見る。

それが旅行の楽しいところでもある。

そうしてる中琉嬉は寝ていた。

「…姉ちゃん…?寝たの?まだ昼前だよ?」

 しかし、反応がない。

ぐっすり寝ているようだ。

「お~い、琉嬉せんぱぁーい」

 ここぞとばかり、みゆが琉嬉のほっぺをぷにぷに触る。

しかし、まったく反応がない。

「うほっ、このほっぺは…いいほっぺ!やぁらかくてぇ…ぷにぷに~」

「な、何やってんの…?」

 頭の悪そうなみゆの行動にツッコんではいられない護。

ずーっと触り続ける。

「凄いです!琉嬉先輩のほっぺ…赤ちゃんみたいにぷにぷにおもちですよこれ!」

「なんでそこでテンションあがるの…?」

「みゆさん、駄目ですよ。琉嬉さんは私のものです」

「ええぇ?」

 なぜか寧音が割り込んでくる。

「でもその気持ち分かります。琉嬉さん、可愛いから……」

 眼鏡の奥の目は、何かやばかった。

「おおぅ……寧音先輩、なんか怖い…」

「…姉ちゃん、また夜遅くまでゲームでもやってたんだろうな…」

 連日連夜のゲーム。

学校があろうがなんだろうが、少しでも時間が余ってるとゲーム。

相当なクレイジーゲーマーである。

しかし、さんざんみゆや寧音に触られてるのに起きる気配はない。

隣の座席枠では來魅と紫音がワイワイにぎやか。

「みんな楽しそうやね~」

「ですね」

 こうしてるうちに目的地近くまで来た。

そして、残念な事に琉嬉はいい景色も見る事なく着いてしまった。



 駅から少し歩く事数分。

こっからバスで行くと言う。

まだまだ、別荘までは距離があるらしい。

「んーと…バスまで時間がまだあるね。今が…10時頃だから…。

あちゃ~、まだ30分以上くらい来ないね」

「マジで~。さすが田舎町。バスが全然通ってない」

「ウチより田舎…」

「仕方ない。どこかで時間潰す?」

 さすがに、観光場所。

ところどころお土産屋みたいな店が立ち並ぶ。

「じゃあ、バスが来る11時15分になるまで、一旦解散!この時間の5分前にはここに集合!」

「また、勝手な事言って…」

 しかし、30分も待つのもつらい。

せっかくなので観光に周ろうという事だ。

でも逆に30分ぽっちじゃ、あまり周れない。

辛い所だが、何もしないでいるよりはマシだ。

そうすると大まかなグループに別れて観光する。



 琉嬉は単独でプラプラしていた。

散々ほっぺたを触られたのには気づいていない。

「う…眠い……。無理しないで電車の中でゲームやれば良かったかな…」

 フラフラ歩いてると小さな公園…というより休憩所みたいな場所がある。

琉嬉はとりあえずその場へ行ってみる。

見た事もない風景だが、綺麗ではある。

暑いはずなのに、囲まれた木々によって涼しく感じる。

だが、おとなしく休もうともそうはいかなかった。


 ――わずかに、場に合わない不自然な霊気を感じた。

琉嬉は強力な霊気を感じ取った途端に大きな警戒をする。

ポケットに入っている御札。

そこに手をかける。

「…!!誰だ……?誰なんだ?こんな強力な霊気…」

 琉嬉はすかさず動き出す。

「一つじゃないな…これは…負の霊気…悪霊系か」

 霊気がする方向へ走り出す。

2、3分くらいだろうか?

全力で走ってきた場所はちょっとした山奥。

何もありゃしない。

琉嬉は全力で走ってきたのも関わらず息は切らしてない。

さすがに戦い慣れしてるだけあって体力はある。

琉嬉の目にはしっかりと視える、大型の悪霊。

久しぶりにみる大きさの悪霊だ。

「これは……また派手に大きいね…。浮遊してここにたどり着いたのか。それとも…」

 どういう経緯でここまで強力になったのかは分からない。

しかし、これを野放しして置くほど心無い人間の琉嬉ではない。

きちんと用意してある符を取り出す。

意思はもはやほとんどないであろう、悪霊。

いろんな霊体を取り込んで強大になっている。

「こいつはちょっと本気出さないとヤバイかな?」

 一戦交える事になる。




「んー………」

「どした?みゆ?」

「いんや~、なんかどっかで戦ってるっぽい気がします」

「戦ってる?」

 みゆは薄々気づいている様子だった。

琉嬉に劣らず、かなりの霊感力があるようで、わずかな変化も感じ取る。

「気のせいじゃなくて?」

「んーむむむむ。気のせい…じゃない気もするけど」

「みゆも見かけによらず鋭いだね」

「そうやねぇ…でもそんな感じせえへんけど…」

「失礼ですねぇ…。私だってやるときはやるんですよ~」

 琉嬉に次いで霊力感知能力が長けてる。

みゆは霊力感知力が高いのだ。

時折、妙な反応をする。

学校にいる時も周囲を驚かすような事を言うコトがあるらしい。

「まもちゃん先輩も、叉羅沙先輩も、集中してみればわかると思いますよ」

「そう言われてもねぇ…」

「そしたら、ちょい集中して探ってみますか?」

 二人はしばし集中してみる。

「…たしかに、二つのいかいな霊気みたいなものが感じますな」

 叉羅沙がいち早く気づく。

「ん~、二人とも凄いね。私はよくなんだか分からないよ。あまり遠いとわたし分からないんだよね…」

「じゃ、ちょっと行ってみよう~。霊気感じる場所へ」

「あ、待ってよ…みゆ!叉羅沙!…ん~…私ももう少し鍛えた方がいいかな…」

 どうしても細かい技術的な事が苦手な護。

接近戦主体で今まで生きてきたので、どうも感知力に弱さがみえる。

「って…置いて行かれた~!はやっ…あの二人…」

 護はあっという間に二人と離れてしまった。

仕方なく、二人が向かったぽい所へ行く事にした。



 戦いは始まっていたようだ。

「うむむ…迂闊に飛び込めないな…」

 意外と苦戦していた。

並大抵な攻撃じゃ弾かれる。

低級の悪霊じゃなさそうである。

攻撃を避けながらグルグル回り、反撃のチャンスを伺う。

そうしてる間に面倒だと思い、一発大技を出すように霊力を練る。

「こうも、浮遊霊のくせに強力なヤツいると面倒だな…」

 その時だった。

風の如く、一瞬の太刀筋。


 一つの大きな霊気が現れ、悪霊を一刀両断。

「………何……!?」

 目の前に現れたのは霊でも妖怪でもない。

紛れなく人間だった。

しかも、少し赤みかかったロングヘアーの可愛らしい、美少女。

片手にはとてもつもない、真っ赤な、大きな鎌。

真っ赤な鎌とは対照的に、黒いブラウスに黒いスカート。

その姿はまるで死神のように―――。



「な、なんだ!お前は!」

 突如現れた少女に大声で問う琉嬉。

「…………」

 少女は無言のまま琉嬉を見つめる。

「…なんでこんな所に子供が…」

 と、言い放つと悪霊の元へ向き、構える。

「な…!誰が子供だコラー!!」

 いつものような反応する。

しかし、少女は悪霊に向かって走り出す。

まだ、悪霊は仕留めていないようだ。

実体がないため、完全に止めを刺さないと再生してしまう。

「く…無視か…!」

 完全に血が頭にのぼる。

こういう状況の琉嬉は何を仕出かすか分からない。

琉嬉もなぜか後に続き悪霊に向かっていく。

「…何だ?あの子供…」

「子供って言うな!バカ!」

「…バカぁ……?」

 バカと聞いた途端止まりだす少女。

「誰がバカだ誰が!このガキ!日本人形みたいな頭しやがって!」

「誰が日本人形だバカ!子供って言うからバカって言ったんだよ!このバカ!!」

「…子供だからって…言わせておけば…」

 どこかでみたような言い合いだ。

琉嬉も負けん気が強く、どんな相手にも言い合う。

しかし、それに負けないくらい言い返す少女。

悪霊を無視して口喧嘩し出す始末。

「はっ!そんな事より、アイツ倒さないと!」

 少女は我に戻り、琉嬉を無視して悪霊に向かっていく。

「あ、ちょっと…」

「覚悟しろ…悪霊!!」

 身の丈以上に大きい鎌を構え、一気に強力な霊力が高まる。

そして振り下ろした鎌から霊波動の塊が悪霊めがけて放たれる。

激しい光と共に悪霊に命中する。

「な…これは…」

 命中したと同時に、少女は悪霊の懐へと入り、一閃。

「ぐがが…」

 悪霊は呻き声のような音をたてて、崩れ去る。



 あっという間の出来事だった。

琉嬉がてこずった相手にも一歩も引かず、相手が弱くみえるような程簡単に倒してしまった。

「ふぅ…なんとかなったか…」

 手を汗でぬぐい、一息つく。

その仕草がなんかセクシーだ。

「…なんなんだ…お前」

 少女の正体が知りたい。

琉嬉は話しかける。

「ん?何?まだいたの?」

 先ほどの態度から変わらない感じだ。

大鎌は手元から消えていた。

おそらく、霊力物質の一種なのだろう。

霊具の類の物だろうか。

護のとは少し違う性質。

自在に操る事ができるみたいだ。

「何者なんだ?って聞いてるの」

「…あんたこそ、何者?悪霊と戦ってるように見えたけど」

「…僕は退魔師としてそこそこ有名になりつつあるらしい、彼方琉嬉」

「!!…彼方って………五大家?」

 やはり知っていた。

かなり有名になっているのだ。

「ふぅん…こんな子供が彼方の人間ねぇ…」

 琉嬉はプルプル震えていた。

さっきから子供だのガキだの言われてキレかかっていたのだ。

「子供じゃない!僕は17歳!高校二年生だッ!」

「…え?17歳…?」

 やはりというか、当然の如く、驚く。




「…名乗ってくれたから言うけど、私は「凛夢」(りんむ)。16歳。高校二年生」

「凛夢ねぇ…同い年か……。ゲームに出てきそうな名前」

「アンタこそ、男か女か分からないような名前してるし」

「むっ」

「なによ」

 険悪なムード。

しばしお互いジロジロ見る。

(…コイツ…本当に高校生なのか…どう見ても小学生…)

(…この女…スイタルいいな…生意気な奴だ…)

 琉嬉のあまりにも幼い容姿を不思議に思う凛夢。

「まさか、こんな所で同じような人間に会うとはね…。私が追ってた悪霊と戦ってたなんて思ってもなかったし」

「それはこっちのセリフだ」

 そして、またお互い睨み合う。

会ったばかりなのになぜかそりが合わない。

「……あ、ヤバイ、時間が…」

 琉嬉は時間の事をすっかり忘れていた。

このままだとバスに乗り遅れる。

「よく分かんないけど、お前の事覚えたからな!またな!」

 まるで小悪党のようなセリフを残し、ダッシュでバス停留所へと向かった。

結局今回は琉嬉は負けたような気がしてならなかった。

突如現れた凛夢にいいところを持っていかれたからだ。

だが、逆に凛夢は驚く事になる。

「まったく…なんなんだあの子供は…。ん?」

 悪霊がいた場所の地面に何枚かの符が落ちていた。

ボロボロとなっているが、円状に規則正しい並び方をしていた。

「これって…もしかして結界になってるのか…?」

 そう、琉嬉はわずかな戦いの時間で悪霊の動きを止めるために符を置き、結界を張っていたのだ。

「…あの子供娘…もしかしてこれを…?どうりで悪霊の動きが鈍かったわけだ…」

 決して遅れをとっていなかった琉嬉。

自分では言わなかったがこうした技術を使って悪霊の動きを封じていた。

凛夢は少し琉嬉の事を見直した。

「やるじゃん…あの日本人形小娘」




「あー琉嬉先輩~!」

「あら、お前達…」

 琉嬉はみゆらと合流した。

さっきまでいた休憩所辺りだ。

「あれ?琉嬉ちゃん、どうかした?」

 ちょっとした異変に気づく。

「いんや、別に…ちょっとした悪霊とね…」

 と、聞こえないように小声で喋る。

「ん?」

「気にするな気にするな」

 とにかく、バス停へと戻る。

しかし、護の姿がない。

みゆと叉羅沙が置いてきてしまった。

「あれ?まもちゃん先輩は?」

「さっきまで一緒におったのになぁ~」


「お~い…みんな~」

 案の定、護は迷っていた。

二人に置いていかれ、街中をグルグル。

「うう、どこだよココ……」

 途中で男に話しかけられたりする。

ナンパというやつだ。

得意の外人のフリをして避けてきたが。

「仕方ない…戻ろう」



 やっとの事でバスに乗り込む。

護はギリギリで戻ってきた。

何もしてないのに結局一番迷惑かけた結果になった。

振り回される位置になってしまっている護。

「なーんか、納得いかないんですけど~…」

 文句タラタラ。

みゆの突然の行動で被害。

貧乏くじばっかりひいてる。

バスで走る事20分ほど。

降りてみると潮の香りがする。

海がすぐ側だ。

「オオッ!海だ!」

「その前に~別荘に行くよ~」

 少し歩くと立派な建物が。

そこらよりも大きめに作られている建物。

非常に豪華だ。

何かの旅館としても使えそうだ。

「長旅お疲れ様でした。お嬢様」

 メイドの正木さんである。

来るタイミングが分かってたかのように出てくる。

「昼食のご用意してあります」

「ありがと~正木さん~」

「お腹ペコペコだわ~」

 とまあ、こんなノリで早速昼食になるのだった。



「食べた食べた~」

 満足気のみんな。

この後はもちろん海が近いと言う事で…。

「さぁ~、みなものよ、水着を用意せよ!海水浴じゃ~」

「おー!」

「そやな、ぼちぼち用意するか」

「そうですね」

「ハイハイ。じゃ、行きますか」

 すぐ近くの海水浴場へ向かう。



 ザザーッとお馴染の波の音。

天気は天晴。

暑いけど強めの風が暑さを紛らわせてくれる。

砂がとても熱い。

じゃりじゃり感がたまらない。

「お~、護さん、叉羅沙さんさすが~スタイルいい~!」

 紫音が大声で褒める。

「ちょ、そんな大声で言わなくていいから…」

 恥ずかしがる護。

「寧音さんも……すごーい」

 主に胸の部分を見て言う。

「どこ見て言ってるんですかっ」

 恥ずかしそうに腕で隠す。

普段の言動とはギャップがあって可愛い。

「ほんまやなあ」

 叉羅沙も顔を赤くする。

「な、なんで叉羅沙さんまで顔赤くしてるんですかっ」

「あはは、そらすまん。なんせお二人が…えらいないすぼでぃー過ぎてこっちまでなんか恥ずかしくなって」

「えぇ…?」

 困惑する二人。

「悠飛もカッコイイ~!」

「それって…褒めてるの?」

 少なくとも悠飛にとっては褒め言葉にはならない。

「おーっすー」

 みゆも出てきた。

しかし、意外や意外、みゆは少々地味な水着だった。

「あれ?みゆの水着ってビキニタイプじゃないの?」

「いんや~、ちょっとね~。理由あって着てないんだよ~」

「理由?」

 みゆの言う理由とは?

何も考えてなさそうなみゆだが、何か深い訳がありそうだ。

「アハハ~、気にしない気にしないー」

「そうは言っても…みゆさんって…見た目より胸大きいですよね!腰回りもキュッとしてて…」

「アハハ、ありがと」

「何カップですか?」

 率直に聞く紫音。

恥ずかしげもない。

「んーと、ね。Eくらいかな?」

「E?大きいですね…」

 うらやましそうに眺める紫音。

「もう、紫音。おやじくさいからやめて…」

 莉音が腕を掴み、無理やり引っぺがす。


 そして琉嬉はこっちに来る前の出来事があったせいか考え込むようにおとなしい。

それ以前に元から無口でおとなしいが。

「琉嬉~どうした~?」

 來魅が気にかける。

「ん?いや…ちょっとね…」

「……ふーむ。何かお前様の中での問題抱え込んでるだろう」

 するどい來魅。

「まぁーね…。來魅には隠し事出来ないね」

「力封じてるからってなめてもらってはいけないな。琉嬉の霊気が少し乱れてる」

「…僕の?乱れてる…?」

 先ほどの戦いのせいなのか?

万全の霊力ではないのはたしかだ。

「うむ。まあ今はそんな気にするな。せっかくの旅行だ。楽しもうぞ」

 來魅は琉嬉の手をひいて海へ走り出す。

体格に反してかなり強い力だ。

琉嬉も反抗しようとも手を振りほふどせない。

そのまま海へ飛び込む。

「うわっぷ!何するんだ!來魅!」

「ハハハハハ!楽しいだろ!」

 無邪気な來魅に振り回される琉嬉。

「あたしらも続けー!」

 双子姉妹やみゆがさらに突撃する。

もみくちゃになる。

「お前らなぁ~!」

 必死に抵抗する。

しかし多勢に無勢。

そしてまた小さいから余計抵抗出来ずに海に落ちていく。

護はまたナンパされていた。

叉羅沙はボケーっと海をニコニコ眺めている。

時期が時期だけに決して大きくはなさそうな海水浴場にも人が沢山いる。

天気がいい日が続くため、出かける人が多いのだろう。

賑やかで楽しそうである。



「さぁて、そろそろいい時間だね~」

 時刻は夕方5時を回っていた。

日も結構傾いている。

「よしっ、そろそろ戻りますか~」

「あれ?護は?」

 またもや、護の姿が見えない。

今回の旅行に関しては何があったのだろうか、よくいなくなる。

「あ、あの金髪、護さんじゃない?」

 莉音が示す方向に護らしき人物。

何やら男性と話している。

「何やってるんだ?護…」

「まさか、ナンパってやつ?」

 しかし、すぐ戻ってくる護。

逃げるように走ってくる。

「どうしたの?」

 みんなで問いかける。

「いや…なんかいろいろ声かけられちゃって…めんどくさいったりゃありゃしない」

「ナンパってやつですか?」

 紫音が興味津々になって聞く。

「んー…。なんでだろうね。しょっちゅう声かけられるのよ。

こっちに来る前にも声かけられたし……。なんで?」

「一緒にいたウチはスルーされてましたけどな」

「へ、へぇ~…」

 叉羅沙は背が異様に高いため、声かけづらいのかもしれない。

それを本人自身は気づいてないようだ。

男からにしてみれば、自分より背の高い女性はちょっと話かけづらい部分もあるかもしれない。

ましてや、叉羅沙は頭一個分くらい違う。

「ふぅむ…まぁ、まもちゃん先輩は目立つからねぇ」

 みゆが言うことにはいろいろな意味を含む。

「目立つって…そんなに?」

「なんか遊んでそうな雰囲気あるんじゃない?金髪だし」

「…好きで金髪になってるワケじゃないんだけどね…」

「あ、ありゃ…意外な反応…」

 あまり言及してはいけない事だったようだ。

「……どゆこと?」

「………んー、ま、まあ、地毛ていうか…。んー」

 口ごもる護。

金髪は地毛だという。

しかしそれ以上の事は語ろうとしない。

少々間が悪くなってしまった。

「あ、でもね、大体わたしの顔みて一旦止まるけどね」

「…あー、少し躊躇するかも?」

「そう?」

 眉もまつ毛も綺麗な金色。

ハーフっぽい印象を持たせる。

整った顔なので尚更勘違いする。


「なあなあ、早く帰って飯にしよう!」

 この重苦しくなった空気を断ち切ったのは來魅だった。

どうもいいところで場を切り直すのがうまい。

逆に言えば、空気を読まないとでもいうのか…。

そういった意味では來魅は助かる存在だ。

「…來魅。お前、遊ぶ事と飯の事しか考えてないのな」

「フヒヒ。そういう年頃なんだ」

「…150年以上生きてる子供ババァのくせに…」

 ともあれ、一行は別荘へと戻るのだった。




「ふぅ~。戻ってきたね」

「疲れたね~」

「お帰りなさいませ。お嬢様。ご友人様」

「たっだいま~」

 いつものように正木さんが出迎える。

「お嬢様、お客様がおいでです」

「あ、うん。わかったよ~」

「…お客?」

 みゆ以外全員が顔を見合わせる。

他に客人?

しかし、思い当たる節がない。

疑問を抱きつつ中に入る。


 広間に出ると一人の少女が居た。

ほとんどの者は見知らぬ顔。

「やほ~」

 みゆが声高らかに挨拶をする。

どうやらみゆとは面識があるようだ。

「……やあ」

 ぶっきらぼうに返事する少女。

少女は立ち上がり、こちらを向く。

「あああああーーーーーッッッッ!!!!」

 突如、琉嬉が大声を張り上げる。

「ああぁぁーー!!お前は日本人形娘!!!!」

 それと同時に少女もびっくりし、大声を上げる

「へ?」

 みゆが混乱する。

「誰が日本人形娘だ!てか、お前はさっきの死神女!!」

「な、誰が死神女だ!!」

「あんなでかい鎌持ってるから死神女!」

「だーっ!うるさい!ガキ!」

 みゆだけでなく、他のみんなも突然の出来事に唖然とする。

延々と言い合っている。

琉嬉もよく飽きないで喧嘩するものだ。

両者の喧嘩に悠飛が割って入る。

「ちょっと!二人ともやめなよ!姉ちゃん!」

「お、おおぅ、悠飛か」

「そうだよ~、凛夢ちゃん」

 反対に凛夢を止めるみゆ。

何がなんだか分からない。

そういう状況だ。

「いや、つい…ごめん。みゆ」

「な、なんでコイツがここに居るんだよ!」

 冷静さを取り戻す凛夢に対して琉嬉の興奮はまだ収まらない。

「…ええと…話を整理しようか」

 悠飛が冷静に場を収めた。



「え、と…姉ちゃんは、水無月さんと事前に会ったんだね?」

「うん」

「水無月さんはみゆさんの知り合いなんだよね?」

「知り合いっていうか遠い親戚~になるのかな?血の繋がりのない遠い親戚」

「……」

 どうやら凛夢はみゆの、つまり港咲家の遠い親戚だそうだ。

琉嬉は凛夢との会った事を話した。

「ほうほう、そんな事が」

「なるほどね…」

 初対面でぶつかり合うのも琉嬉の得意技である。

それに対抗しうる凛夢。

いきなりの醜態を晒してしまった凛夢は恥ずかしそうにしている。

(…なんで、なんでこいつがいるよ…大体なんでみゆと知り合いなんだ…

てか、いきなりこんな姿見せるなんて…私…バカだ)

 あれこれ考える。

琉嬉もそうだが、凛夢側もかなり混乱気味だった。

「んーとね、本当は凛夢ちゃんもこの旅行に呼んでたんだよ。みんなに言ってなかったよ。てへ!」

「てへ!……じゃ、ねーよ!」

 琉嬉のチョップが見事にみゆの脳天に直撃した。


 ソソソ、と來魅が静かに琉嬉に近づく。

そしてそっと小さな声で話す。

「なあ、琉嬉」

「…何?」

「お前、ばすとかってやつに乗る前に何かと戦ってただろう?」

「…分かってたの?」

「なんとなくな。そしてもうひとつの大きな霊力はかすかに感じてた」

「それが…凛夢?」

「多分な」

「…來魅、本当に封じられてる状態なのか…?」

「そうだぞ」

 嫌な笑み浮かべながら琉嬉を見る來魅。

何度も見せる、本当は根に持ってるよ~、という笑顔だ。

「…悪かったって…もう…」



「しっかし…驚いたね。いきなり琉嬉姉と喧嘩しだすんだもん」

「だね。さすがにみんなひいちゃったよ」

「…うっさい」

 短気なところが悪い部分の琉嬉。

気が強いので所構わずケンカを吹っ掛けるのも変わらないようだ。

「あ…あの、みなさん、お騒がせしてごめんなさい…」

 丁寧に謝る凛夢。

琉嬉とは違い、場所を、状況をまだ弁える方だ。

「つい…頭に血が上って…本当ごめんなさい」

 何度も頭を下げる。


(…アイツ……なんという切り替えの良さ)

 凛夢の姿を見て何か引っかかる琉嬉だった。



「改めて紹介するね~。私の遠い親戚で名前は水無月みなづき 凛夢りんむちゃん。

私の一個上で、五大家のひとつの水無月家なんです」

「水無月凛夢です……。よろしく」

「…え?」

 全員が声を揃えて驚いた。


 五大家のひとつ、水無月家だとみゆは言った。

それも遠い親戚だと。

まさかの、五大家の最後の水無月家の人間が、ここに居た。

「なるほど……そういう事か」

 琉嬉が納得の顔をして近づく。

「な、何よ…」

「…あの強さに納得したよ」

 素直に褒める。

「わ、私夜栄守寧音と言います!同じ五大家出身ですね!」

 寧音も抱き着く勢いで近寄る。

「え?え?夜栄守…?!」

 今度は逆に凛夢が驚く。

「んー、あとね、ふかしぎ部の顧問が五大家の参堂さんもいるよ~。今日はいないけど」

「……どういう事だ?」

 みゆは簡単に現状を説明する。

琉嬉は面白くないのか、あっち方向向いて拗ねてる。


「……なるほどね。状況は分かったわ。それにしても…」

 ズラッと並んだ各々の顔。

「全部みゆの友人?」

「ふかしぎ部の部員達ですっ。部長は琉嬉先輩で、わたしが副部長」

「で、わたしがエースなんだって。役職かいこれ…」

 護が変な役職名に難儀を示す。

「そういえばウチらもなんか役職みたいのあるん?」

「…あー、考えてなかったなー。叉羅沙は書記でいいんじゃない?」

「生徒会と変わらんやない…」

「あの、琉嬉さん!私は?」

「寧音は…監査?」

「おお、なんかかっこいい!」

 なぜか嬉しそう。

「いやいや、そのふかしぎ部って…何?」

 一番状況が飲み込めてないのは凛夢本人だった。

「あー、ふかしぎ部ってのはね…学校とかで不可思議な事件を解決するための部活なんだって」

「……ふーん…」

 創始者の琉嬉の方を見る。

(あの小娘なら考えそうね…)




 琉嬉にとっては思いがけない再会だった。

しかも、みゆの遠い親戚だという。

水無月凛夢。16歳。

その実力、霊力はわずかしか見てなくとも、強力なのはすぐ理解した。

みゆの不手際もあるが、突如出てきた少女。

さてさて…今後どうなる事に……。


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