#18 夏休みのぐだぐだ日記
真夏である。
夏休みである。
9月まである長い長い休み。
学生には嬉しい長期夏季の休みだ。
しかし、気温が30度近くになる日も増えてきた。
そして、夏休み初日!
琉嬉は勉強もせず、早速どこかに出かけるようだ。
「お、またどこか出かけるのか?私も一緒に行きたい」
「……どこって言ったて、ちょっと街中でゲームショップ回りだけど」
そう、琉嬉は無類のゲーム好き。
少しでもお金入れば新作などお目当ての物あれば買い行く。
こっそりお寺の仕事を手伝ったアルバイト料が入った。
それを使いゲームを買おうという魂胆である。
「暇で暇でしょうがないんだ。私も連れて行けー」
「……ハイハイ」
まるで駄々をこねるような妹。
そういう本物の妹は…と。
「暑い…扇風機だけじゃダメだ……エアコン入れよう……」
冷気操るだけあって暑さには弱いのだろうか。
ついにしびれを切らしてエアコンに手をつけた。
特に深い考えもなく街中にくりだす二人。
最近來魅との行動が多くなってきた。
背格好が同じくらいなので別段不思議にも思われない。
「そーいや、あの妖怪どうしてるかな?」
「あの妖怪?萩厘の事か?」
「うん」
前回の下着ドロ事件。
その裏に潜んでいた首謀者。
砂川はあれ以来学校には来てない。
犯人も学校側から特に深い情報は出してないようだ。
恐らく退学…もしくは休学して護みたいに留年でもするのか。
それとも別の学校に転校するのか。
現状は不明だ。
知ってるのはごく一部。
萩厘は來魅の昔からの知り合いの妖怪、阮醐の元に預けられた。
今度会うときは少しはまともになってるであろう。
「うーむ。そのうち様子見に行ってやるかとするかの」
「あの坊さんみたいにゴツくなってたらやだな…」
この日の収穫は3本。
夏休み入る前はテストやらプール事件やらで何かと休まる事がなかった。
こうして時間が多く作れるようになったので買い損ねたゲームなど一気にやる予定だ。
「琉嬉?もう帰るのか?」
「ん?もう目的は達成したしね」
「うむー。私は腹が減ったぞ。何か食べようぞ。はんばーぐとか。らーめんとか」
「…この暑い日に熱い物食べるの…?」
やれやれといった表情の琉嬉。
自分の携帯電話を取り出し時間を確認する。
時刻はまだ12時ちょい過ぎ。
丁度いい昼時。
「んー、お昼だし、何か食べようか」
「おお!」
來魅の瞳が輝きだした。
この前行った駅前通りにあるラーメン屋「とと」へやってきた。
前は偶然に狗依緋瑪斗に会った。
さすがに今回は会わないだろう。
夏休みといえども、平日。
一般の社会人はお勤めだ。
そんなに混雑していなかったため、すんなり入れた。
とはいえ、昼時。
席がもう埋まりそうだ。
「なんだ、琉嬉も結局はここがお気に入りなんじゃないか」
「だって、ここしか知らないもん。おいしいお店って」
すっかり常連だ。
ラーメン食べて少しまったり時間が経った頃会話が耳に入ってくる。
二人の男性の会話。
「なあ、最近裏駅前通りで幽霊出るんだってよ」
「へえ~。マジか」
よくある話だ。
幽霊が出る。
何度聞いた事か。
「おい、聞いたか?幽霊が出るんだってな!」
「…別に珍しい話でもないだろ」
「でも面白そうではないか?」
「……お前なあ…」
何が楽しいのか?
(妖怪なのにこういう話好きなのか…?)
どっちにしろ午後からは暇。
來魅のわがままで付き合う始末に。
駅前の裏通り。
昼間は人気が少ない。
夜になればまた違う顔を見せるのかもしれないが。
裏通りには小さな居酒屋やスナックの裏口。
近くに高架下。
昼までのなんか薄暗いイメージだ。
「ここら辺て叉羅沙と戦った所か」
「叉羅沙?あの背の高い女か?」
「うん」
以前、叉羅沙と琉嬉が戦った場所。
「いきなり襲ってきたんだよな」
「へぷちっ」
かわいいくしゃみをする叉羅沙。
「なんや、どなたかウチの話でもしてるのかな」
その考えはあながちハズレてはいなかった。
「何もないではないか」
つまらなさそうに言う來魅。
ほとんど人通りもない。
寂しい裏通り。
「ここじゃない駅裏の通りかもしれないじゃん」
「そうなんかのぅ…」
残念そうな來魅。
何を期待していたのか。
普段は琉嬉の封じの術の数珠の力で霊力が抑え込まれている。
なので何かと全力で動き回れない。
一時的に全力を自力で開放出来るらしいが。
琉嬉の許しの術がないと完全には全力開放出来ないのだ。
そのせいで思うような事できないようで、暇を持て余している。
琉嬉の部屋でこもってゲーム、ネット三昧のようである。
すっかり現代の世界に慣れしたんだ來魅。
少々別な方向の事も知り得ているみたいだが…。
それから少しばかり駅裏を散策する。
特別不可解な物も視たりもしていない。
「つまんないのぅ。仕方ない。おとなしく帰るか」
「…結局來魅のわがままに付き合わされただけか…」
無駄な時間だったようだ。
おとなしくトボトボ帰る琉嬉と來魅。
「なあ、琉嬉。私らは子供料金でいいのか?」
「え?」
「いや、お前様はともかく私は一応150年以上は生きてるんだが…」
「…自分で言うのもなんだけど、多分何も言われないかと…でもちゃんと大人料金で払うぞ。なんか悔しいから」
「ほほ、そうか」
「來魅こそ大人には見えないから大丈夫だと思うけど」
「ふむ。子供の姿でも得する部分はあるものなのだな」
琉嬉らはどっちにしろ子供にしか見えないのだが、來魅は子供料金でケチっていた。
自分の目的以外ではお金を使いたがらない。
どこでそういう性格になったのかは謎だが。
そんな事言ってるうちに電車が来て、それに乗り込む。
「なんか面白そうな事あると思ったのにな~」
「面白い事なんか起きなくていいよ。僕はさっさと家に帰ってゲームを…、あ」
そう言いかけた瞬間だった。
「ほら~、琉嬉姉じゃん!やっぱ!」
「ほんとだ」
「…紫音?に莉音。なんでここに」
電車中でバッタリ出会ったのは双子姉妹、莉音と紫音だった。
「おお、お主達は…」
「琉嬉姉のいとこだよ!この前お寺で会ったじゃん!」
偶然にも同じ電車に居合わせた双子姉妹。
だが、彼女らの住む家、寺は別方向のはず。
琉嬉達が帰る自宅に同じ方向というのはつまり…。
「これから琉嬉姉の家に行くんだよ!」
「そういう事~。琉嬉お姉ちゃんの新しい家……まだ行った事ないから」
琉嬉がしばし黙り込み、考える。
「…そういや来た事ないっけ?」
「ないから行って見るんだよ~。悠飛にも行ってあるから」
「だからって…なんでこんな時間に…。ん?」
よくみると紫音と莉音の荷物は多い。
まるで小旅行のように。
という事は……、つまり。
「もしかして泊まるつもりか?」
「おういえい!正解!」
「おお、それはなんか楽しそうだな!」
琉嬉は頭を抱え込むように落胆する。
「夏休み初っ端からこれかよ…。おとなしくゲームさせろ…」
ひとまず、最寄の駅に着き、自宅に向かう。
時刻は3時過ぎ程度。
暑さも落ち着いてくる。
駅から出ると澄んだ空気が心地よい。
「お~ここら辺は来た事ないね~」
はしゃぐ紫音。
元気だ。
「緑が多い所だねぇ……うちは盆地だから、山なんて近くにないから…」
「これはうちが田舎だって事か?」
「違うよ~」
琉嬉の自宅は少し山の上の方。
近くには山々ばっかりで緑も多い。
少し進めば森林大国だ。
なので野鳥や虫が多い。
もちろん、双子姉妹の住んでる緋黄寺も落ち着いた場所だが、そこそこの街中にあるのでその分にぎやかなのだ。
「紫音、あっちに怪しい建物あるよ」
莉音が見つけた一軒の家。
なんの変哲も無い家……のように見えるが、表札などない。
庭の草木は手入れされてる様子も無い。
つまり、人の気配が感じられない家。
駅近くに佇む怪しすぎる家。
「この家って…誰も住んでないの?」
「ん?あ、ああ。そうらしいね」
「幽霊とか居そうじゃない?」
楽しそうに話す紫音。
「…今は居ないよ」
「へ?」
「……多分、お盆とか、そういう時期に帰ってくるみたい。お彼岸の時にはいたなぁ。引越しの作業の時に見た」
「…ほんとに??」
ほとんど廃屋状態。
一体過去に何があったのか、謎であるが、お盆などのそういった時期には現れるらしい。
「生霊とか?」
「いんや。多分違うと思う。ここに住んでた人は多分亡くなってると思うよ」
「じゃあなんで…」
「詳しくはわかんないけど、父さんが言うには何かしら理由で手付かずになってるんじゃないかって」
「何かしらの理由…?」
考えられる理由は何点かあるという。
まずは年寄りなどが住んでいたがなんらかで死亡する。
普通ならばその身寄りになる者、親戚類が片付けたりするのだが、
そこまで手が回ってないという理由。
他には夜逃げによる、放置状態。
事件関連によるのもある。
法律上のせいなのかなんなのか、勝手に撤去などする事は出来ないようだ。
逆に、何かしらの手入れが入っていて、売りに出してなければただの物置として利用してるかもしれない。
いくつかの理由が考えられる。
どっちにしろすぐに取り壊しなどできないため必然と不気味な姿に変貌してしまうのだろう。
「ふーん…」
納得したようなしないような紫音。
「何してんの?みんなして」
突然声をかけられた…と、思いきや悠飛だった。
「あ、悠飛!」
事前に紫音が悠飛に連絡して駅で待ち合わせようと話してたのだ。
それが偶然琉嬉と電車の中で会ってそのまま、悠飛の事忘れて向かっていた。
「お前達…私を忘れて行っただろ。時間になっても来ないから…」
「あ、あっははははは!ごめんごめん」
笑ってごまかす紫音。
勢いだけで行動するかわりに後先考えないどころか、協力者の事まで忘れるという失態。
そして莉音はそれについて行くだけ。
「莉音も莉音だよ!まったく…」
ご立腹な悠飛。
「はっはっは。ひどいやつだの」
さすがに來魅も呆れながらも笑う。
「彼方姉妹勢ぞろいか~。しっかし彼方の家系は女が多いんだな」
「んー?たまたまだと思うよ」
「そうなのか」
「あと、家系の長的なの努めるのは性別関係ないみたい」
「ほう」
琉嬉は淡々と自分の家系の事を話す。
かつて女性もいたとの事。
その際は婿養子として迎えてる人物もいたとの事。
「そのうち順当に行けば、琉嬉姉が有力?」
「それはないと思うけどねぇ。次の正式な住職はお前らの親父だろ?その次は娘の紫音か莉音じゃない?」
「私は無理だと思うよ~…」
莉音は自分では無理だという。
たしかに、おとなしい莉音の性格ではまとめあげれるようなイメージがない。
「でも実力では琉嬉姉が一番でしょ?」
「そうかな~?独立しちゃってるし」
時期の長は曖昧のようだった。
「帰る前に少し遊んで行く?といってもここらは遊ぶ所あまりないけど…」
まっすぐ帰るにもまだ時間はある。
どうせ来たのならこの街を一緒に見るのもいいだろうと考える。
駅前には中古屋ショップなど中入って見るだけでも楽しいお店は揃っている。
ゲームセンターもある。
「んー、じゃあ公園みたいなのない?」
「公園?遊具とかの?」
「違う違う。なんかこの辺りを眺めれるような」
「んー、高台みたいなのはあるのかな?よくわかんないけど…」
スマホを取り出し、地図を開く。
「便利よのう今の時代」
「そうだねぇ。これ公園かな」
近くの山道のような道。
そこから入って進んで行く。
「おー、自然が沢山だ~」
「鳥の鳴き声が凄いね」
「んー、山の方だからね」
聞いた事ないような野鳥の鳴き声が沢山聞こえる。
少し歩いて、開けた場所に出る。
すると少しだけ住宅街が一望出来る場所に出た。
「こう少し奥に行けばもっと高い所に行けそうなんだけどさー、まあ時間も時間だし。この辺にしとこう」
「そうだね」
「これはいい眺めだのう」
少し日が沈んだオレンジ色が眩しくて綺麗だ。
時折、年配の人が運動がてらに通り過ぎていく。
「あらま、女の子達がこんな所に。小学生?」
年配の女性が話しかけてくる。
こんな山道に子供達がいるもんだから心配になったようだ。
「違います!」
必死に否定する琉嬉と双子姉妹。
なんだかんだで双子姉妹も決してそこまで大きい訳じゃないのだが、琉嬉と來魅と一緒にいたせいで間違えられた。
「あはは、大丈夫です。これでも中学生ですから」
「ん?お兄さんかい?気をつけてね」
「はい」
「悠飛は否定しないのな…」
「もう慣れたから…」
さらに言うと男に間違えられてた悠飛。
「ふむ…、ま、どっからどうみても兄と妹よのう」
「うるせー」
まさに逆転姉妹。
さらに妹は兄に間違えられる。
こんな面白い状況には笑いが堪えきれない來魅達だった。
ガサガサッと草が揺れる。
「ん?」
風の揺れじゃない。
明らかに何かがいる物音だ。
「何かいるのう」
來魅がてってってと走って近づく。
「おーい、脅かすなよ~」
「なーにをいうか、このらぶりーえんじぇる妖怪來魅様を怖がるようなのは…」
來魅の目の前に出てきたのは小さなキツネ。
「おー、我が同士よ!」
「!!」
來魅が叫んだせいで小さなキツネはすぐ逃げていった。
「あーあー、同士が逃げちゃったじゃん」
「ぐぬぬ…」
肩を落とす來魅。
「あーあっち見てよ!鹿がいるよ!」
「ほえ?」
紫音が大声を出す。
こちらも同じように鹿は逃げていった。
当然だが。
「鹿くらいお寺の所でも出るだろ…?」
「いやいないよ?」
双子は揃って手を振って否定する。
「あ、そ、そう……(もしかしてここってかなり田舎なのか…?)」
なんだかんだで家に着く。
「お帰りなさい~」
出迎えたのは母親。
「こんにちは、嶺珠さん」
「こんちはー!おっ邪魔しまーす!」
「莉音ちゃんに紫音ちゃんこんにちは~」
丁寧に挨拶をかわす嶺珠。
「ただいま」
ドタドタと大人数でそれほど広くもない居間が一気ににぎやかになる。
「おー、綺麗だね~」
「古い家をリフォームしたやつなんだって。まぁ新築みたいなもんだよね」
壁や床がまだ綺麗。
「お寺だって結構綺麗だろ?」
「寮や居間の方は古いんだけどね」
「うーん、そうだったけ?」
そんなに頻繁に行く訳ではない。
どんなんだったか記憶が薄れていく。
「家の中涼しいね~クーラー?」
「そう。悠飛が倒れちゃうから」
「……言い返す言葉がありません」
「ふむ?そうなのか?」
來魅も不思議そうに思う。
「悠飛は雪とか氷の術使うだろ?」
「ふむ」
「だから熱には弱い」
「…ふむ?それだけじゃ説明にならんじゃないか」
「……そのうち分かるよ」
「そうなのか?」
悠飛の顔を見る。
その悠飛は少し照れくさそうにして、台所の方へ行ってしまった。
「なぁ、お前ら、部屋数少ないんだから寝るような場所ないぞ…」
「だいじょーぶ!琉嬉姉か悠飛の布団で一緒に寝れば問題なし!」
「あ、あほか!」
一軒家ではあるが、至って普通の家だ。
二人くらい増えても問題ないように思えるが、これが寝る時になると案外場所を取るのだ。
「この暑い時期に一緒に寝るとか、無理無理!」
頑なに拒否する悠飛。
しかし、エアコン常備されているのでさほど問題ないように思えるが、悠飛は冷気使うだけあって
暑さにめっぽう弱いらしい。
「ただでさえ、どっかのキツネ娘が住み着いてるってのに…」
「なんだ?私と一緒に寝るのが嫌なのか?」
「……たまに勝手に入り込んでくるだろ!お前!」
「いいじゃないか、家族同然だろ?」
來魅がまたややこしい事言い出す。
「へぇ~…琉嬉姉って來魅ちゃんと一緒に寝てるんだ~」
「女の子同士なのに……百合だね百合」
「あのな……アホな事言うな」
琉嬉の気苦労は絶えない。
「琉嬉は触り心地がいいんだぞ。すべすべぷにぷにしてて。特にほっぺたがの」
「だったら悠飛でもいいだろ!悠飛の方が大きい分柔らかさ抜群だぞ!胸とか!」
「な、何言ってんの!姉ちゃん!」
「ほほう…。たしかに。琉嬉にはない分の柔らかさか…」
悠飛にターゲッティングする來魅。
あとずさる悠飛。
「でも琉嬉お姉ちゃんと來魅ちゃんって同じ小さいサイズ同士、幅取らなくていいよね」
ボソっと莉音が悪口にも取れるような発言をする。
「…何気に酷い事言うなよ……莉音」
丁度晩御飯時。
料理を手伝う琉嬉と莉音。
意外に琉嬉は料理が出来るタイプ。
昔からいろんなことは卒なくこなせる能力の持ち主。
家事なども面倒くさがりながらもやっている。
來魅はああいう性格なのでさっぱりだが、悠飛は料理はサッパリ。
紫音にいたってはあの性格なので論外。
しばらくして仕事を終えて帰ってくる父親の導。
入ってきてびっくりの光景。
見事に女の子だらけ。
「ただいま~って…莉音ちゃんと紫音ちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔してます、導叔父さん」
「ちゃんと兄さん…お父さんとお母さんには言ってあるのかい?」
「バッチリ!」
誇らしげにVサインの紫音。
「いやいや、それにしてもこの狭い家に大人数とは…」
合計7人。
にぎやかなものである。
「男は僕だけか~。複雑だなぁ」
「何言ってるの、お父さん。悠飛も男みたいなもんじゃん。見た目は」
「…姉ちゃんそれ、ヒドイ」
導の兄の娘。
どっちにしろ娘みたいなものでもある。
一人増えようが導や嶺珠にとっては決して苦ではない。
「さて、一通り遊んだから、風呂でも入ろうかの」
來魅がやっていたゲームを一旦小休憩し、風呂に入ると言う。
「お前なぁ…自分の家のように…」
「…琉嬉よ。お前様が私の力を封印したからだろう」
「う……」
それを言われると言い返せない。
「ねえねえ、みんなで入ろう!」
「おお、楽しそうだな」
またまた紫音のおかしな提案。
そしてそれに乗っかかる來魅。
「銭湯とかじゃないんだから、狭い風呂に無理だよ。3人くらいが限界だって。自分家の風呂と一緒にするな」
「んー、そうか~」
お寺の風呂は大きい。
なにせ、住み着きで働いてる弟子などいるから大浴場がある。
この前琉嬉達もお邪魔したが、暴れる來魅や紫音達の暴挙に莉音がキレた事件があったのを思い出す。
「しょうがない。來魅ちゃん私と入ろう!」
「おう、そう来るか!」
意気投合する來魅と紫音。
「琉嬉姉はどうする?」
「僕は後でいいよ…悠飛か莉音で」
莉音は無言で拒否の手振り。
そして悠飛に視線が集まる。
「え?え?わ、私?」
「じゃー行こうー!」
「あ、ちょっと…だったら着替えの下着とか…」
そのまま手を引っ張られ部屋を出て行く3人。
そしてそのまま妙な沈黙が訪れる。
「…ふぅ~。にぎやかだな。自分の家で妹と入りたいとは思わないよ…。大体女同士であんな狭い風呂に入ろうと思わないし」
「ごめんね、琉嬉お姉ちゃん」
申し訳なさそうに言う莉音。
「ん?なんだ、急に」
もじもじしながらゆっくり喋り出す。
「あ、いつも紫音の勝手でごめんね。今日も紫音が琉嬉姉達に会いたい!て言うから…」
「……ふーむ」
ゆっくり目を閉じながら考え込む琉嬉。
「まー、一時的には一緒に住んでたしね。悠飛も最近まで居たし」
「うん……ちょっと寂しいのかもね」
「ふむむ」
またもやしばし黙り込む。
「ま、多分3、4年後くらいには少しお世話になるかもだけどさ」
「そうなの?」
「父さんの仕事関係と、あとここだと学校が近いって理由も。悠飛は今つらいだろうけど」
現段階では悠飛は遠い場所から学校に通っている。
いずれ、悠飛は琉嬉達の通う学校に行く事を想定し、悠飛も琉嬉達と住む事にして現状に至っている。
既に方向性が決まっていたのだ。
また、莉音や紫音も同じ悠飛と同じく、鞍光高校を目指している。
そうなると来年はかなりうるさい状況になりそうであるが……。
「琉嬉お姉ちゃん、後で私と一緒に入る?」
「…な、なんで?」
唐突に話の流れを切られる。
結局は一緒に入る流れとなった。
「しかし、にぎやかだね」
「そうね~」
「琉嬉ちゃんも悠飛ちゃん普段無口だからね。誰に似たんだろ」
「…そういう部分はうちの家系かしら」
両親の会話。
父方、導側の家系はみんな割りと明るい人が多い。
自分の方の性格に似たんではないだろうか、と、嶺珠は分析する。
霊力の強いのはそのまま彼方家の方を引き継いでいるが性格は嶺珠の方なのであろうか。
嶺珠も思い当たる部分はあるようだ。
「でも、琉嬉ちゃんの幼い童顔なところなどは絶対君似だと思うな」
「……そ、そうなのかしら~?」
照れる嶺珠。
みんながよく言うように嶺珠はびっくりするくらい若く見える。
そういう部分が琉嬉が引き継いだのだろう。
「導さんも若く見えるからよ。きっと」
「あはは~」
ラブラブ夫婦である。
「いや~楽しかったなぁ」
「狭かったけどね」
「……当たり前だろ…」
3人が風呂から出てきたようだ。
「いや~悠飛ってちゃんと女なんだな、胸もでかいし。私も変化の術で大人になろうか?」
どこをみてたのか、來魅は悠飛の女としての部分を強調するように言う。
「そ、そりゃ、來魅に比べれば大きいかもしれないけどさ、紫音だって」
「私はこれから成長するの」
3人はよく分からない言い合いをしている。
その隙に琉嬉と莉音の一応姉同士が風呂に向かう。
「ったく、うるさいたらありゃしないな」
「ほんとだね」
チャプチャプ音が聞こえてくる風呂場。
先ほどの3人が入ってる時はバシャバシャ騒いでいたのに逆にこっちはおとなしい。
会話も少なめ。
「琉嬉お姉ちゃん……」
ふと、莉音が話しかける。
「ん?」
「本当に…小さいよね。小学生から変わらないよね」
「…何を今更……」
「もっと牛乳飲んだ方がいいよ」
「……飲んでても変わらかったよ」
「…そう……」
莉音の目の前の琉嬉。
どこからどうみても細身の体で背も小さく、顔も幼い。
小学生にしか見えないのだ。
胸もぺったんこ。
「………」
「………」
またまた、会話が止まった。
「話題変えよう!」
莉音が焦りながら強引に話題を変更する。
「琉嬉お姉ちゃん、学校はどう?来年私たちも行くつもりなんだけどさ…」
「ん?ま~、最近は楽しいよ。」
などと莉音の作戦はうまくいったのか、ちょこちょこ話し始める琉嬉。
「ふかしぎ部かぁ…私も入学出来たら入部していい?」
「構わないけど…なんで?」
「琉嬉お姉ちゃんは…来年3年生でしょ?卒業したらどうせ紫音が引き継ぐ!って言うだろうし」
「…想像出来る」
そう言われると自分が卒業した後の事を考えていなかった。
今からでも後輩に引き継ぐ案を考えていた方がいいのかもしれない。
「ま、それはおいおい考えておいて…」
「ふふ、まだ決まった訳じゃないからね」
「そっか~」
「うん…」
未来のビジョンを思い浮かべる。
来年、そして卒業した後の未来。
自分の進むべき道。
お寺に行き、退魔師として本格的にやるのか。
それとも進学すべきなのか。
「大学か、それとも専門学校か…。うーん、就職するとか考えた事ないな」
「そう?」
「言ってみればうちは普通の家庭だからね」
「んー……」
首を傾げてしまう莉音。
「関係ないと思うけどな~」
「…そう?」
風呂に入っている時間はだいたい30分以上だっただろうか。
あれからそれなりにお互いの事を話し合った。
琉嬉と莉音が風呂からあがったあと、部屋は大混乱していた。
ガヤガヤうるさい琉嬉の部屋。
そこへ入ってみると琉嬉と莉音は絶句した。
お菓子やら何やら散乱している。
「な…なんじゃこりゃ…」
「あ、お帰り」
無残な姿に変わり果てた部屋に琉嬉は小さな体をプルプル震わせついに激怒した。
「お前らぁぁぁぁぁ!!!!いい加減にしろぉぉぉぉぉッッッッ!!!!」
ブチキレた。
悶絶する紫音。
來魅はのた打ち回っている。
悠飛は部屋の隅っこで震えている。
琉嬉が本気で怒っていた。
「うは…琉嬉お姉ちゃん怖ッ…」
莉音がドン引きである。
「…悠飛もなんで止めないんだ!てか、こんなわずかな時間でどうやってここまで汚くできるんだ!」
「…止めたんだけどね…無理だったんだよ…」
「……まったく」
なんだかんだ言いながらも掃除し始める琉嬉。
「す、すまんな。つい楽しくてな」
「琉嬉姉ごめん」
おとなしくあやまる面々。
さすがに琉嬉の恐ろしいまでの剣幕に口答えはできなかったらしい。
「お風呂入ったあとに掃除って嫌だな…」
「だな」
一緒になって片付け始める。
「まぁ、こんな楽しいのは今までになかったからのぅ。ついついな」
來魅がそう言い出す。
100年以上封印されいて、ずっと一人ぼっちだったのだろう。
封印される前もどう生きてたのかは不明だが、最近は楽しくて仕方ないらしい。
そんでもって、今回にぎやか担当が来たためにテンションが高くなったのだ。
「…ゲームとか、いろいろ遊んでてもいいけど、部屋を汚すのはやめてよね」
「お、おおう」
「普段汚したりしないくせに…紫音も!」
「…はぁい、ごめん」
そして、何事もなかったのように綺麗になる部屋。
時間は夜9時過ぎだ。
「よーっし、夜はまだこれから!まだまだ遊ぶぞ~」
「…ハイハイ」
天下の大妖怪が今、なぜか自分の家にいる。
そして、こうして遊んでいる。
見た目が子供。
中身もまるで子供のようである。
しかし、どこか成熟した考えも持っている。
元々、封印される前も50年以上は生きていると本人が言っていた。
とはいえ、妖怪で50年はまだ若い部類だとは言うが。
それでも冷静な判断もできる。
「…はぁ~。夏休み初っ端から疲れたな…」
ぐったりする琉嬉。
しかしその手には本日買った、携帯ゲームの新作がしっかりと…。
このまま夜な夜なにぎやかなまま朝になるのであろう。
「みんな~スイカだよ~」
嶺珠がスイカを持ってくる。
綺麗にカットされて食べやすそうになっている。
「うわー美味しそう~」
一斉に群がる。
「夏の風物詩ってやつだね」
「ほほぅ、これがスイカか」
「來魅は食べた事ないの?」
「ないなぁ。封印される前はあんまり見かけなかったの」
「そりゃそうか」
早速食べる。
「ふむ、変わった食感だ」
と言いつつ、バクバク食べる。
「美味しいー」
「悠飛なら凍らせて、スイカのアイスバーみたいな感じにして食べれそうじゃない?」
紫音がいらん事を言う。
「…そんなコトするかバカ」
深夜になってもにぎやかさは衰えず。
紫音と來魅はずっと対戦ゲームで盛り上がっている。
莉音はおとなしく本を読んでいる。
眠たそうに目をこすりながら。
(眠いなら無理しなくていいのに…)
琉嬉の隣には悠飛が座ってゲームを眺めている。
その琉嬉は悠飛に寄りかかりながら携帯ゲームしているし。
そんな中で琉嬉のスマホに一件の連絡用アプリからの連絡が来る。
「ん?まどかから?こんな夜中に…案外起きてるんだなアイツ」
まどかとの連絡が取れるようにしていたようだ。
時間は深夜0時半。
「なになに……?生徒会会計係の鳴神さんが退院が決まりましたのでご一緒に退院祝いでもどうですか?」
「退院?誰が?」
「いや、学校の生徒会の…」
鳴神柚羽。
旧校舎に封じられている妖怪に関しての、重要人物である。
その柚羽が退院するらしい。
結構な時間入院してたというのはやはり、かなりの大怪我だったのだろう。
「うーん、そうだなぁ。明日か…」
琉嬉がしばし考える。
「明日ふかしぎ部活動日にしようかな。学校は開いてるだろうし。そこで柚羽の退院に立ち会うとするか」
「ん?なになに?琉嬉姉明日学校行くの?」
「んー、部活動しようと思ってね…連絡を…」
「唐突に部活って動かせるもんなの…?」
悠飛の疑問。
「さぁ?琉嬉姉の事だから、どうせ無理矢理にでもやるんでしょ?」
よく理解している紫音。
「わかってんじゃん。ま、知らない顔じゃないし同じ部員として…」
「入院してる間に部員にしちゃったの?」
「…………はてなんの事やら」
「…やれやれだね。姉ちゃん」
スマホがまた何かを着信する。
次は通常のメール受信のようだった。
琉嬉は手に取り確認する。
すると目つきが変わった。
「ん?今度はメールか。………なんだ、みゆか。なんの用なんだ?」
メールの内容を開いて見る。
琉嬉はしばし固まる。
「…アイツ、また何企んでるんだ?」
肝心の内容はというと……。
『やほ~、8月のお盆過ぎとか空いてますか~?夏休み終盤の思い出作りって事でうちの別荘で思いっきり楽しんじゃおうぜ~!』
メールの内容はこんな形だった。
すかさず琉嬉はメールを返信する。
「交通費やお金関係は、港咲家持ちなんだろうな?と…」
そして一瞬で帰ってくる返事。
暇なのだろか?
そう思いつつメールを開く。
『モチロン~!うちで出すから安心して~』
との事であった。
そして琉嬉の目つきが変わる。
「ふむ。断る理由もないしな。温泉でも近くにあれば入りたいな…」
旅費持ちなら行くという。
がめついところは相変わらずだ。
「ねぇねぇ、みんな、みゆからの話でさあ、お盆過ぎにみゆの別荘で……」
こうして夏休みの楽しみが増えたのである。




