#16 肝試しもそれなりにしないと
すっかり暑くなったこの夏。
時は7月。
日中の気温が25度以上にもなる。
25度以上にもなれば人間というのは暑いと感じ始めるものだ。
それに30度超えは珍しくもない季節がやってくる。
琉嬉達の住む街は山に囲まれている。
それに琉嬉が住んでる地域は山奥の方の住宅街なので、少しだけ涼しいのがちょっとだけお得だ。
あと半月くらい行けば学校も夏休みになる。
それまでの辛抱が続く。
テレビや雑誌やら見てると、心霊特集が多くなる。
夏になると日本特有で心霊物が多くなってくるのだ。
そして琉嬉ら術者の依頼もなぜか多くなる。
琉嬉は早速簡単ではあったがお寺での仕事を終わらして帰ってくる所だった。
「今日みたいな依頼ばっかだったらいいんだけどな」
ボソボソしゃべるいつものごとく独り言。
「また早く帰らないと警察さんにお声がけ…されるな…」
あまり目立たないように気持ち早歩きで進む。
「うーん。最近無駄に忙しい気が…」
自分でやってる仕事とはいえ、自業自得である。
好きなゲームやる時間もない。
学業もある。
ちなみに琉嬉の成績は中の上くらい。
けっして赤点取るような悪さではない。
それなりの、学生生活を送っている。
それに比べて学年違えどもみゆは赤点ばっかりだとか…。
世間の持つお嬢様のイメージはかけ離れている。
そんな他人の事は置いといて、琉嬉はおとなしく家に帰る。
翌日の学校。
この日は金曜日。
明日は休みの日のためかみんなテンションは若干高めだった。
体育祭も終わり一息して、期末テストも終わりやりたい事が沢山出来るからだ。
「あれ~、明日休みなのに浮かない顔してるね~」
いつもの如く、ぐったりモードの琉嬉に話しかける女子生徒。
みなっちだ。
「………」
…無言の琉嬉。
「んも~、元気だせ!」
そう言いながらみなっちは琉嬉の頭をぽんぽん叩く。
しかしなんの反応ない。
今日はなぜかかなりの重症のようだ。
「おーい、るぅーきちゃーん」
「……………何?」
やっとの事で反応。
「あのさ、あのさ、みんなで肝試ししない?」
みなっちが放った言葉で目が点になる琉嬉。
コイツは何を言ってるんだ?
そんな哀れみな目でみなっちの顔を見ている。
「…あ、あれ?琉嬉ちゃんそういうの苦手?」
「……いや、別に」
苦手どころか普段から霊は見えまくりである。
むしろ、本職だ。
そもそもふかしぎ部という部活をやっているのだから、別段興味は…そんなにない。
「だったらさ~、いこーよ!ね?」
「………だからぁ。なんで?」
いつになくジト目で見つめる。
みなっちはあとずさりする。
何か、こう、奇妙なプレッシャーが琉嬉から発しているのを感じ取っていた。
「オーッス」
挨拶とともに現れたのは護だった。
「あれれ?芹澤さん?」
「いや~ちょっと近くまで来たんで寄ってみた…んだけど。どったの?」
「フフフ、今日この後夜から肝試し大会やるんだ~」
「肝試し…大会?」
同じくして、護も目が点になった。
みなっちが言うのは、この暑い夏を少しでも和らげるために、という話である。
たしかに、暑くなってきてるとはいえまだ早いのではないか―?
そう思ふ二人。
だが、この後予定もないし、流れに乗って承諾してしまった。
護自身もかなりの霊感あるし、祓える能力があるのは嫌というほど十分知り得ている。
何かあればすぐに撃退は出来る。
特別大きな警戒はしなくていいだろう。
そんな事考えていた。
集合場所はとあるコンビニ。
街からちょっと離れた山奥に続く手前。
それでも自転車などでは来れる距離だ。
琉嬉はおとなしくバスで近くのバス停から歩いてきた。
結局渋々参加したのだ。
しかし、どうも表情が冴えない。
先に着いていたみなっちとゆうと護。
それとクラスメイトの男子が3人程。
男子は嵯藤と山木と嶋元の3人。
佐藤は細身でクール。
見た目は普通の男子学生って感じだ。
山木は背が高くて短髪。
スポーツマンで明るい性格。
嶋元はメガネキャラで理屈っぽい事言うよくあるタイプだ。
ただ、コイツはクラスでも目立つ発言が多くてお調子者。
琉嬉ははっきりいって話した事もない男子生徒。
会話なくとも、しばらく同じクラスなのである程度の性格は知っている。
クラスではみなっちとゆう以外はほとんど会話ない。
会話をしてるのは担任の桜川先生くらいだ。
すぐにふかしぎ部の部員達と一緒に昼休みなど過ごすからコミュニケーションがないのだ。
ただ、この前の体育祭で琉嬉とクラス委員が中心となったので、少しずつわだかまりが無くなった。
そこが救いだ。
「やっほー。琉嬉ちゃーん」
手を振りながら駆け寄ってくるみなっち。
本当に楽しそうだ。
その反面ゆうはどこか暗い顔している。
どうやらこういう怖い行事は苦手なようだ。
普段会話しない男子達が寄ってくる。
「おいおい~どうしたー?彼方?暗いぞ?怖いのかぁ?」
山木が話しかけてくる。
(んなわけあるか)
と、心の中で呟く琉嬉。
これまで何度も命に関わるほど恐怖を体験している。
それに由緒ある五大家のひとつの彼方家の退魔師の一人。
今更一つや二つの霊が出てきても怖くもなんともない。
そんな事知ってか、気軽に話しかける山木だった。
その横で手を振ってる護。
「やあ、琉嬉ちゃん」
「…護も結局来たのか」
「まぁ~、どうせ暇だしねぇ」
何かと一緒になる事が多い二人。
まさに親友。
とまあ、琉嬉本人はそうは思ってはないだろうが。
集合場所のコンビニから歩いて10分程。
少し行くと古い墓地が見えてくる。
看板には「鞍光白保北墓地」と薄れた文字で書かれている。
鞍光市の中の、白保地区という少し山に面した住宅街の近くにある、ひっそりとした小さな墓地だ。
周りは鬱蒼とした木々や草だらけ。
手入れが届いてるのか届いてないのかわからないような状況だ。
肝試しの場所は墓地なのだろうか。
静かな場所。
人なんぞあまり来ないだろうが、ここはどうやらスポットのひとつとして地元には有名だそうだ。
「…琉嬉ちゃんここって来たことある?」
「いや…知ってはいるけど…特別何も…」
「そう……?てか知ってるんだ」
護は首を傾げる。
「退魔師してたらこういう場所に詳しくなるよ」
「ふぅん…。あたしも勉強しとこうかな」
たしかに、墓地ではそういったこの世じゃない物が少なくとも感じる事がある。
しかし琉嬉は特別何も…と言うのだから霊的なのは感じていないようだ。
不思議に思う護。
数いる能力者でも断トツに高い霊能力の琉嬉が何も感じない訳がない。
少し疑問に思う護。
「うひゃ…怖いね」
ゆうが怖気づく。
無理もない。
立派な霊園でもない。
いかにも「何か出そう」という、雰囲気抜群の墓地なのだから。
「中々凄いな…ここ」
クールそうな佐藤もさすがに驚く。
「ね?凄そうでしょ?」
みなっちは楽しそうだ。
こういう集まりは好きでしょうがないようだ。
「ほんっと、ノリで来たけど凄いね」
嶋元も驚く。
「で、どういうプランなの?」
護が聞く。
「んーと、特に考えてないけど…。あとね、この先に古びた廃墟があるっていう噂だけど」
「ほうー、それは面白そうだ。もっと奥まで行ってみようじゃねぇか?」
山木はノリノリだ。
「映画だったらこういう明るいノリのいい陽気な奴って、大抵先に殺されたりするよね」
「な、なんだと?嶋元~」」
何かと言い合う二人。
「楽しそうだなね…」
ポツリ、琉嬉が言う。
どうも元気がない。
「ねぇ、元気ないよ?琉嬉ちゃん?どったの?」
「いや……別に」
あきらかに元気ない。
はたからみれば普段と変わらないローテンションだが、いつも会ってる護ならでは解かる。
今日の琉嬉はあきらかに元気ない。
元気ないのにこの肝試しに参加した。
なんだか変な心境である。
「ま、まぁ楽しもうか…」
さすがに一人ずつが怖いので3つのグループに別れる事になった。
まず、第一グループ。
一組目はみなっち、山木の二人。
二組目、護、ゆう、嶋元。
そして三組目が琉嬉と嵯藤。
ゆうがどうしても怖がるので三人チームに入る。
ゆうは明るくて活発な子だが、意外にホラー系は苦手なようで、かなり怖気づいている。
新たな面が見えたようだ。
「……どうも、女の子の方が多かったね」
呼んだメンツに反省する。
みなっちのノープランさが際立つ。
そこがみなっちらしいところでみあるのだが。
こういう部分がどこか、みゆを思い出させる。
「でもその方が男子達は嬉しいんじゃないの?」
護が茶化す。
「アハハ、かもね~」
嶋元が笑い飛ばす。
コイツは無駄に明るい。
そして問題なのはクールとクールの組み合わせ、琉嬉と嵯藤。
大丈夫なのか…?
他の常識人はちょっと気にしていた。
「さて、さて、じゃあ行きましょうか~」
一組目のみなっちがトップバッターを努めるため、いざ出発。
「あ、おい、道わかるのかよ?」
山木が遅れて着いていく。
「だいじょーぶ、ネットで調べたらまっすぐ行けばいいだけって書いてたから」
「本当かよ…?」
半分適当ながら突き進んでいく二人。
それを見送る残りのメンバー。
「行っちゃった…大丈夫かな?」
心配そうにゆうが見ている。
「まぁ、害になるようなのはいなさそうだけど」
「え?」
みんなが護の方へ視線を移る。
まるで何か見えるのような言葉に一同驚く。
「あ、いや…なんでもないよ…あはは~」
「芹澤さん、もしかして何か見えたりするの?」
油断した発言に嶋元が飛びつく。
「いやぁ、なんというか、気のせいだよ」
「なになに~、気にする事ないですよ~?芹澤さん。学校で大人気の芹澤さんが霊感持ちとかだったらますます人気あがったりして」
「何を根拠に…」
「あ、でも芹澤さんもふかしぎ部の部員でしたよね?」
「まあ、そうだけど…それは無理矢理琉嬉ちゃんに入部させられたというか…」
琉嬉の方をちょっとだけ見ると、琉嬉は案の定睨んでた。
「あはははは、あたしもね、心霊系のモノって興味あるんだ」
嘘くさい答え。
そんなやりとりに横目でやれやれといった表情の琉嬉だった。
最初の一組目が行ってから5分くらい。
途中途中みなっちだと思われる悲鳴に「うるせえ!」と一喝する山木の声。
どうやらいいコンビになりそうなにぎやかさがだ。
これだけうるさいと幽霊も寄り付かないんじゃないかと思うくらい。
普段はおとなしいみなっちだが、何故か今回ははりきっている。
心霊系のイベントが好きなのか、それとも単に集まるのが楽しいのか。
ゆうとの対極がみてて面白い。
琉嬉はちょっとそう思っていた。
「なあ、護…」
琉嬉が護を呼びかける。
「ん?何?」
「今更なんだけどさ…今日調子悪い」
「……それは学校にいた時から分かってるよ」
「…そか」
「で、どしたの?風邪とか病気関係?」
少し間をおいて琉嬉が喋りだす。
「その…ね、女としてならの…分かるでしょ?お前も女なら…」
「女なら?どういう意味?」
「…だからぁ…その…月に一度の…」
「月に一度?」
「鈍いなぁ……」
女性ならではの月に一度来る。
そう、アレ。
生理である。
琉嬉も女の子なのである。
鈍い護に耳打ちでその事をちゃんと伝える。
「あ、!そういう事かぁ~!なるほどね。てゆーか、琉嬉ちゃんはちゃんと大人だったんだ」
「どういう意味だコラ」
「あはは、ごめん。琉嬉ちゃん重い方なの?」
「重いかどうかは知らん。ただ、霊感が凄い鈍る。だから何かあったら護、ヨロシク」
「ふむ。なるほどね。わかるよ。そういう気持ち」
護も女だから当たり前だ。
どこか間抜けな発言する護。
常識人に見えて少しどこか抜けている。
そこがまた可愛いと最近評判がうなぎ登り。
「どーりで今日一日元気ないと思ったよ」
「……頼むよ」
元気のなさが判明した琉嬉。
その月の一度の日だと霊感がかなり低下するらしい。
全員がそうかどうかはわからないが、琉嬉の場合はそうなる事が多い。
そんな日に無茶して来るのも琉嬉らしいというか。
口には出さないが、友人やクラスメイトが心配で来たのだ。
ただでさえ、この頃この町では不可解な怪現象が多い。
よりによって肝試しを行う。
護がいるとはいえ、このイベントに参加した理由。
どうしてもこういった余計なお世話な性格が出てしまうようである。
「護はどうなんだよ…?」
「ん?あたし?あたしはそこまで気になる程じゃないかな~?でも動きたいとは思わないけどね」
「…だろ?」
「でも同じ女同士だからって、個人差あるっていうし分からない物だよね~?」
「ようするにお前は軽い方なんだな…」
「さて、次は我々の出番かな?」
護が率先して二組目として進み始める。
「いってらっしゃい」
「ほ、本当に行くの…?」
「大丈夫だって、ゆうちゃん。こっち人数多いし」
「…う…うん……」
相当苦手なようだ。
「なんか、両手に花って感じ~♪」
反対にご機嫌な嶋元。
なんだかんだで楽しんでる護。
「安心しなさい。ゆうちゃん、怖かったらこの胸に飛び込んでおいで~」
楽しそうに言う護。
「でも芹澤さんに悪いし…」
「なぁに。問題なっしんぐだよ」
「じゃあ、僕もそのふくよかなバストに飛び込んでいいのかな?」
「ダメに決まってるでしょ!」
護とゆうが二人して叫んだ。
二組目を見送る琉嬉と嵯藤。
「さて、残ったのはオレらだけだな」
「…だね」
――沈黙。
何も一言しゃべらないまま5分が経過した。
お互い何も言葉を発しない。
無口同士。
計画では10分毎に次のグループが進むという事になっている。
このまま他人からみれば息苦しい空気の中いる事になる。
静かな墓地の中二人。
おかしな風景だ。
そこに車の音が聞こえてきた。
音に気づく二人。
もしかして、他の肝試し連中が来たのだろうか?
バタンッとドアを閉める音が2、3回。
ガヤガヤ、とした連中が墓地の敷地内に入ってくる。
「お?人がいるよ?幽霊?」
「まさかぁ?ギャハハ」
見てもわかる、よくいるその辺にいそうなチャラいヤンキーちっくな連中。
人数は5人ほどだ。
(面倒くさいの来たな…)
琉嬉は厄介な連中が来たと思った。
「ねえねえ、ここ幽霊いるの?」
「はい?幽霊はいないですけど?」
嵯藤は適当に返事をする。
「二人で何してたの?肝試し?奇遇だなーオレらもなんだよ」
「はぁ…」
にぎかやかだ。
それも不快な五月蝿さ。
こういうので一気に雰囲気ぶち壊し。
「で、君はこんな小さな女の子連れて何してるわけ?」
「小さな」でピクっと琉嬉が反応する。
「え?いや、こいつ同級生なんスけど」
「え?マジで?何歳なの?」
「……」
無言のままの琉嬉。
ここで怒ってはさらに面倒な事になる。
堪えてこそ、大人である。
「高校生ですけどぉ」
ちょっと反抗的に言い返す琉嬉。
「マジで?アハハ、ごめんな」
「まぁ、ここはいいからさ、先行こうぜ」
なんやかんやで先に連中は進んでいった。
揉め事起こすのはお互いに嫌のもの。
連中も琉嬉ら二人にあまり関わらないように先に行ってしまった。
「面倒事にはならなくて済んだか」
嵯藤がホっとした表情になる。
その理由は琉嬉が暴れた事をよく知ってるからだ。
「たしかにね」
しかし、琉嬉達は出発するタイミングがかなりズレてしまった。
「そろそろ行く?」
嵯藤がしびれをきらして進む決心をする。
あれから20分近く経過している。
先に行った二組みは心配してるかもしれない。
そう思い二人は進む決心した。
「携帯で連絡した方がいいんじゃないかな?」
「それがさ、返事返って来ないんだよ」
嵯藤がまさかの事を言う。
「……え?…それマジで言ってるの?」
「…ああ。気づいてないだけかな?」
「…圏外って事じゃないよね?」
「どうかな?携帯機種違うだけで圏外かもしれないし」
「え、でも連絡用アプリも起動してるんだろ?」
「さっきからやってるんだけどなぁ…。返事帰って来ないんだ。
山木と嶋元には言ってあるんだけどな。ちゃんと返事返せって」
少し焦りが見えてくる。
しかも琉嬉は調子が悪い。
だが、先には護がいる。
おそらくは大丈夫だとは思うが。
気になる。
「…とにかく、行こうぜ」
真っ暗な闇。
頼りになるのは二人の懐中電灯の明かりのみ。
かろうじてという道という道の中歩き進む。
草木しかない。
近くの小さな川の音がまた不気味に聞こえてくる。
時折、カサカサッと草の揺れる音にビクつく。
チリリリ…と虫なのか分からない鳴き音が聞こえる。
その不気味な世界に琉嬉の髪飾りの鈴の音がリンリン鳴ってるから余計に怖い。
「な、なぁ、怖くないのか?」
嵯藤が琉嬉に話しかける。
どうやら少し怖そうだ。
こういうホラーが苦手という人は老若男女関係ない。
苦手な人はとことん苦手なのだ。
嵯藤も平静を装っているが内心少し怖いのだろう。
「…別に。怖くはない」
「…すげえな…彼方。人は見かけによらないな」
「………それはどうも」
その後も、無言で突き進む琉嬉。
またもやお互い沈黙のまま闇の中歩き進む。
しかし、妙である。
さっきまで賑やかな声が聞こえていたのだが。
元々口数の少ない二人。
ただでさえ静かなのに、なお静けさが増す。
「……妙だな」
先に喋ったのは嵯藤。
そろそろ、不可解な事に気づく。
「静かすぎじゃないか…?さっき入っていったうるさい連中の声すらしないぞ」
そう、あんなににぎやかだったのが急に静かになっているのだ。
辺りの音は草木の揺れる音、虫の音、川の流れる音……。
「…そうだね」
気のせい……とは思いたい。
まさか、ただ肝試しだけで怪現象に見舞われたというのだろうか?
だが、よく言われる話。
遊び半分で心霊スポットに行くものではない。
そういった安易な考えだと怪現象に遭うと。
琉嬉自身も特に何もしなければ害ある霊も何もしてこない。
妙な胸騒ぎがする。
少し警戒をする琉嬉。
しかし霊の存在は感じない。
動物霊もいてもおかしくないのだが、特別なモノは感じられない。
表情が少し険しくなる。
「……ちょっと急ごうか」
琉嬉が足早になった。
「あ、おい…!」
それに駆け足でついて行く嵯藤。
一本道。
しかも少し距離がある。
車が一台通れる程度だ。
草木が多い茂っていて変わり映えしない道。
その道の途中に開けた場所が出てきた。
そこに立ち止まる琉嬉。
「あ、おい!どうしたんだよ!急に立ち止まって…」
思わずぶつかりそうになる。
嵯藤は辺りを見回す。
「どうしたんだってんだ…彼方」
「…廃屋……?いや、小さい」
琉嬉が指差す方向に寂れた小さな建物…。
「いや、祠だ。祠がある」
目の前に出てきたのは祠。
人が入るにしては小さすぎる。
祠にしては少し大きくも感じる。
琉嬉自身この街にやってきてはじめてみる祠。
祠には一体のお地蔵様がいる。
元々立派な祠だったのだろう。
よく見かける祠よりは大きいと断定する。
しかし、人が来てないのだろうか。
それとも管理がされてないのだろうか。
いかにも崩れそうな状況だ。
「これは…何か祀ってるのか?」
嵯藤が不用意に近づく。
「分からない。けど、コイツが何か訴えてる」
「…え?」
「この祠の力が弱まっているから…呼んでしまってるんだ」
嵯藤にとっては琉嬉の突拍子もない発言に凍りつく。
少し混乱しかける。
が、何とか話をかける。
「か、彼方?何言ってるんだ?ワケわかんねえよ…」
「あ、ごめん。簡単に言うと、この祠の力ではこの霊場が抑えれれなくなってるって事」
「……抑えられない??」
理解できない様子。
無理もない。
男子でも怖くて行けないような暗闇の獣道を怖くないと言ったり、普段会話もない、無口な女の子が変わった事言い出すのだ。
クールな嵯藤もどうしていいか分からなくなる。
意味もなく辺りを見回してしまう。
でも嵯藤には何も見えない。
感じない。
「なあ、彼方って、やっぱり霊感みたいなのあるのか…?」
「……まぁ…、ね。あまり広めないでね。と言ってもあんな部活やってりゃそう思うかもしれないけど」
「………ああ。そうだな」
「それとね、今日調子が悪くて、うまく霊感が働かないし」
「…なんでだ?理由があるのか?」
「……そんな事聞くな!」
プロレスのように琉嬉の手刀が嵯藤の胸に直撃する。
「な…なぜ?……」
その場にうずくまる嵯藤。
琉嬉は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「お、女にはいろいろあるんだよっ」
そんな中、先ほど入っていった連中が出てきた。
しかし様子がおかしい。
何かに追われてるようだ。
「…あ、アイツら…。どうしたんだ?」
その連中の一人が引きずられるようにしてうなだれている。
「やべーよ!ココ!アンタらも出たほうがいいぜ!」
かなり焦っている様子だ。
「なんだなんだ!?」
奥を見ると、そのやばい理由が判った。
大量の人の影が見える。
一つや二つじゃない。
ざっとみると2、30人くらいだ。
兵隊っぽい姿も見える。
「ななな?!なんだあれ?!」
嵯藤が驚く。
無理もない。
突然の大勢の幽霊。
はっきりと見える。
あまりにも突然の状況に歩けない嵯藤。
「……と、とにかく逃げようぜ!!」
うるさい連中は猛ダッシュで逃げていった。
「こ……これってヤバイんじゃね?俺らも逃げようぜ!!」
「……大丈夫だよ」
「大丈夫って、なんでだよ?!ヤバイって!」
「何もしなければ攻撃して来ない。てか、今の僕じゃちょっときついし」
「え?え?」
冷静な琉嬉。
「大丈夫。さっきの奴らは多分、何か霊を怒らせるような事したからやられただけ。僕らは何もしなければ問題ない」
「マ……マジかよ?」
「ともかく先進もうか」
「だ、大丈夫なのかよ…?」
「うん。あとね、気づかないふりして歩いて。気づくとこっちの寄ってくるかもしれない」
「……そ、そうか…」
その場は何もせず、沢山いる幽霊をあえてスルーして進む琉嬉と嵯藤。
事実、霊達はこちらを見てるようだが、何もしてこないし、ついて来ない。
しかし心の中では恐怖心でいっぱいだ。
嵯藤は手足が震えてるのが自分でも分かる。
少し透けてるようにも視える幽霊達。
でも見たところ普通の人間と変わらない姿をしている。
しかしどれもこれも「生きてる」感のない表情をしているのがなぜだか分かる。
恐る恐る霊達が見守る中、嵯藤は琉嬉の後に続いて先へ進んだ。
「遅い~」
「ほんと。遅かったね」
みなっち達が出迎える。
奥には廃屋が一軒。
廃屋というより骨組みだけになった建物の跡…といった印象。
「何やってたんだよ~」
「あ、いや、別に…」
珍しくいつもは見せない表情で答える嵯藤。
「あ、や、しぃ~」
「男と女二人で…怪しすぎる」
「な、何言ってるんだお前らッ!」
そして怒り出す嵯藤。
いつもクールな嵯藤が今日はいろいろと忙しい。
その琉嬉は、というと、いつもとかわらない不粋な表情のままだった。
「琉嬉ちゃん、琉嬉ちゃん、ちょっといい?」
小声で護が話しかけてくる。
「…何?」
「途中、祠あったでしょ?その近くにうようよ幽霊いなかった?」
「んー?うようよはいなかったけど…何体かは居たけどね」
「やっぱり」
「でも何もなかったよ?無視したし…そっちは何かあったの?」
「あったよ」
「え?」
琉嬉は途中にあった出来事を護だけに話した。
どうやら護に関してはいたのは気づいていたが他のメンバーは気づいてなかった。
あえて面倒な事にならないように護は無視して行ったそうだ。
「…え?ちょっと待ってよ…?それっておかしくない?そんなに大量に居たらさすがのあたしも気づいてるって…」
「だよね」
護が言うには、20人も30人もの幽霊はいなかったと言う。
祠があったのはたしかだが、幽霊がいたのは祠付近ではなかったという。
「おかしいな…僕の霊感が狂った…?な訳ないよなぁ…さって嵯藤だって見てるんだし」
嵯藤の方を見る琉嬉。
ちょいちょい、と、手招きする。
「なんだ…?」
「嵯藤も見たよね?幽霊達」
「……見たよ。この世の光景とは思えなかったし人生最大に恐怖だったぜ」
「マジで?………なにそれ、あたしも怖い」
「僕も怖いよ」
にぎやか連中も大量の幽霊達を見て驚いて逃げて行った。
護達が通った後に現れたのだろうか。
それにしてもタイミングが良すぎる。
「それと、嵯藤が連絡しても連絡が繋がらないって言ってたんだよね」
「ああ…」
「そうなの?あ、あたしの携帯に着信履歴が…」
「僕のだね」
琉嬉も懸命に連絡を取ろうとした。
だが一向に繋がらなかったのだ。
「おかしいな…ここって今電波はあるよね?」
画面を見ると電波状況は抜群の良い状態だ。
山に面してると言っても住宅街に近い。
電波中継基地が近くにあるので連絡が取れなくなる事など、ほぼ有り得ないのだが。
「…はは、なんだ?俺らだけ別空間に行ってたとか……?」
クールな嵯藤がかなりひきつった顔をしている。
「別空間ね……」
以前、まどかと戦った状況を思い出した。
幻術を使って結界を作り出してきた。
妖怪などが得意とする別空間を作り出す。
厳密に言うと、別空間ではなく、他の者の意識から飛ばしてしまう。
実際にはその場にいるのだが、いないと認識させるという高等な術だ。
だが今回はそれとは違う、違和感も何もない状況だった。
「…ははーん…なんとなく分かったてきたけど…断定するには材料が足りないかな」
「へ?」
琉嬉は一人納得の表情を浮かべていた。
「ま、いっか~。戻ろうか~」
他のメンバーはあっさり引き返す事にした。
どこかしら残念そうでもあり、何かを期待してたようだった。
「あー、残念、何もなかったね~」
残念がるみなっち達。
「そうだよなぁ。幽霊でもいればオレの一撃で…」
「いや、幽霊だから攻撃は当たらないよ?」
「うるせぇ嶋元のくせにぃ~」
「あはは、どうせいたらいたで逃げるんだろうけどね」
「このぉ~」
嶋元を追い回す山木。
「ったく…あいつらは小学生かっての」
「面白いからいいじゃん」
戻る途中、祠の前を通ったがさっきまでいた大勢の霊達の姿は見えなかった。
まるでさっきの出来事が嘘みたいである。
嵯藤はチラっと琉嬉の方を見るが、特に変わりない顔をしていた。
さっきのは夢じゃないのか?
そう思う程にあっという間の出来事だった――。
後日、琉嬉と護、そして嵯藤が祠にやって来てた。
「僕らだけでもこうして手入れした方がいいかもね。こうすればあの霊達もやすらぐと思うし」
「さすが、お寺の娘さんだね」
茶化すように護が言う。
「…彼方の家は寺なのか?」
「いや、うちは両親と妹と親戚の子預かってるだけの至って普通の家庭だよ。
それに、僕らは本家じゃないから」
「本家?」
「話すと面倒なんだけど、簡単に言うと、うちの父さん方がお寺さん」
「ふーん…」
3人はある程度祠を綺麗にし、お供え物を添える。
お地蔵様も綺麗にされ、なんとなく笑っているようにも見えた。
「これってやっぱり意味があって建てられてるんだよな?」
「……当たり前でしょ」
「それにしても、夜じゃ分からなかったけど、奥にまだ墓があったなんてな」
奥地にまだ墓があった。
しかしどの墓もかなりボロボロだ。
祠とお地蔵様の存在。
それはおそらく、奥にある無縁仏などのための、慰霊のための祠だと琉嬉は語る。
それに、あの連中はどうなったのかは不明。
何かしたのであろう。
そのせいで霊を呼び起こしたんじゃないかという話だ。
「うーん、どうするかな…じいちゃんに頼んでみてこのお墓達も綺麗にしてもらうかな…」
ブツブツ何かを独り言のように喋っている。
「僕らだけでも少し綺麗にする?」
「それがいいかもね」
護も承諾する。
「あの連中は気の毒だったな」
「そう?いい薬になったんじゃない?どうなったのか知らないけど。フフフ」
そう笑い飛ばす琉嬉だった。
「この手の祠とかって…運良ければ神格の妖も住み着いたりして守られたりするんだけど…。
そういうのが一切なかったみたいだね」
「妖…?妖怪?」
嵯藤が普段聞かない言葉を気にする。
「ああ、先に言っとくけど、幽霊の他に妖怪もいる」
「本当かよ…?」
「という事にしといて」
人差し指を口元に持ってくる。
その仕草が可愛らしくて、嵯藤が少し赤面する。
「…ま、彼方が言うんだから本当なんだろうけどな」
「これは僕の考え。当たってるかどうかは不明」
お墓の手入れを一旦止めて会話に集中する。
「考え?」
護と嵯藤はおとなしく話を聞く体制になる。
「幽霊には異空間に呼び込むという力をある者がいるっていうんだ。本当かどうかはともかく」
「異空間…?」
「あの時、僕らと、あのうるさい連中はここのお墓に眠ってて、成仏しきれてない霊達を呼び起こした。
怒らせたから、罰が当たったんだ。
その罰が僕らが運悪く巻き込まれた……。
そう、このお墓が出来た時代の空間に飛ばされた……ていう風にね」
「本気かよ…それ」
また体が震えてくる。
あの時の恐怖心が思い出される。
「これはあくまでも僕の考え。所詮生きてる人間と死んでる人間では住む世界が違うのさ」
琉嬉が言うのだから変に説得力がある。
嵯藤は黙って話を聞いてるだけだ。
「この祠と…お地蔵様が放置されてるから行くべき場所に行けない霊達が留まってるんだね。うちの家の怪奇現象みたいに」
「琉嬉ちゃんの家で?」
「そそ。そんときはうちの父さんが最後やってくれたけど。さすがは彼方家の人間」
「へぇ~、凄いね~」
単純に関心する。
「ちょっと待て…彼方って、どういう家柄なんだ?」
父親の話まで出てくる。
一筋縄ではいかない家族だという事だけは理解出来た。
「ま、いろいろあるんだけどね。退魔師をやってる家系…の分家みたいなもんかな。僕は」
「退魔師…?……リアルにあるのかそういうのが…」
「別に無理に知る世界じゃないよ」
「………」
目を瞑って考える。
すると嵯藤はこう切り返した。
「……そうだな。それはそうかもしれないけど…」
「?」
「あんなの目の当たりしたら信じるしかないよな…はは」
ポケットに両手を突っ込んで、空を見上げる。
「つか、肝試しなんて簡単にするもんじゃないな…」
「…それは行った時のタイミング次第だね」
「…そうか。彼方はすげぇな…」
「……」
相変わらず無言になる琉嬉。
「さて、帰ろうか」
「あ、ああ…。しっかし嫌な物見たよな……夢だと思いたいぜ。マジで……」
「フフ。夢だったらよかったのにね」
不敵に笑う琉嬉。
「現実……か」
引きつる顔の嵯藤。
「肝試しもそれなりに覚悟がいるよね」
護が苦笑しながら言い放った。




