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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第三章   ~夏季心霊編~
13/92

#13 また奇妙な日々

 日中はそこそこあったかくなる。

いや、むしろ暑いと感じる日さえある。

でも夜は冷える。

そんなまだ微妙な季節。

この日はたまたま暑かった。


 先日沢村の方から妙な連絡が入った。

一度会って欲しい人物がいると。

その人物は鞍光市の隣街、北神居きたかむい町に住む、高校生だという。

一度その人物…狗依緋瑪斗いぬい ひめとなる人物に会った。(この辺は焔ノ姫を参考にしてね)

どうやら琉嬉が生徒会の連中と揉めてる間の時に、妖怪に襲われて、半妖になったようである。

それより驚いたのは、性別が男から女になったという話。

最初聞いた時は信じてなかった。

だが、実際に会ってみると…理解出来た。




「…ここか…。ふぅん…」

 琉嬉は北神居高校にやって来てた。

これもふかしぎ部の一環として考えてだ。

人気があまりない。

時間も時間なので大半の生徒は下校したのだろう。

そりゃそうだ。

琉嬉も今日はふかしぎ部の活動を副部長のみゆに任せてこちらを優先にしてやってきたからだ。

「もう帰ちゃったかなぁ?まったく沢村刑事もざっくりした話しかしないんだしノコノコやって来る僕も僕だよね」

 ぐちぐち言いながら琉嬉は少し集中する。

(…僅かな妖怪の霊力を感じる)

 鋭い霊感力を持つ琉嬉。

普通の術者でも感じ取るのが難しい霊力も感知出来る。

「あっちか…」

 ザッと音を立てて感じる方向へ向かう。


 それはすぐに見つけた。

二人の女子が数人の男子に囲まれている。

(…何あれ、最低だね)

 一人はロングヘアーで小さく三つ編みにした髪をサイドから後ろに重ねている。

そしてもう一人は小柄ながらボーイッシュなイメージを見せる女の子。

しかし、髪の色がすごい派手だった。

赤色というのか、オレンジに近いような、明るい色。

「ねえねえ、何やってるの?こんな所で」

 ズカズカと琉嬉は場を無視して声かける。

「あぁ?なんだ?」

 琉嬉の方へ視線が全員向けられる。

「あー、いけないんだー。そんなコトしてー。女の子襲っちゃいけないんだー。犯罪だよー」

 おちょくるように言う。


「あー、僕の知ってる男はかなり紳士だけどな~。大人数で女の子を襲ってるなんて…下衆以下の以下だね」

「あ?なんだ?このガキは?」

「小学生か?」

 そのセリフはもう飽きた。

そう心の中で呟いた。

「だめだよ!こんなとこに来ちゃ…」

 赤髪の子が叫ぶ。

琉嬉はすぐその子が誰だか理解した。

「御生憎様。僕は君に会いに来たんだよ。狗依緋瑪斗君」

「え?」

 琉嬉はその赤髪の女の子が、狗依緋瑪斗だと確信していた。

なぜなら、僅かに感じる妖怪としての霊力。

「なんだお前?お前も剥いちまうぞコラ?」

 一人の男子生徒が琉嬉の前に立ち塞がる。

「邪魔なんだけど。どいてくれる?」

 有無言わさず、足元を綺麗に足払いする。

片足だけで。

生徒は凄まじい速さで、空中で一回転する勢いで、頭から地面に落ちた。

「な……?」

 全員絶句した。

「はいはい、邪魔するとこうなりますよー。いいかな?」

「な、てめぇ舐めるんじゃなねえよ!」

 琉嬉は面倒なので、手っ取り早くするために、暴れた。


 

「ねえ、痛い?」

「ひ、ひぃ…お前なんなんだよ?!」

「え?一応人間だけどさ。名前だけでも言っとく?彼方琉嬉っていうんだけど。文句あるなら鞍光高校までどうぞ」

「鞍光高校?じゃあやっぱりあの子…」

 青ざめる顔。

気づいたようだ。

「彼方…ってもしかして、転校初日で停学になった伝説の…?」

「伝説って…。隣街まで有名なの僕?」

 



「大丈夫?」

「あ、う、うん…」

「ありがとう…。強いんですね」

「強い…か。普通の人間相手ならね」

 それはそうだ。

普通じゃない人間や妖怪を相手にしてきたのだから。

「ね、ねえヒメに会いに来たってどういう意味?」

 ロングヘアーの子が問い詰めてくる。

凄い勢いだ。

どうやら、緋瑪斗なる人物が相当気にしてるようだ。

「違うよ!俺は何も知らないし!いやまったく知らないってわけじゃないけど…」

 手をブンブン振って否定する。

「怪しい~」

「だからそんなんじゃないって…」

 そんなやり取りを繰り返す二人。

「ふぅん………」

 琉嬉は緋瑪斗の姿を上から下まで見回す。

男から女になったという情報だけしか知らない。

だがどう見ても女の子だ。

「あ、あの、何か?」

「いや、元々男だって聞いたから…。御琴みたいな顔が可愛いだけの男ではなさそうだなあって…」

「へ?」

「いや、こっちの話。あれだね、以外に小さいね。背が」

「ああ、そうなんですけどね…。背も低くなって…、ってそっちのほうが小さいじゃん!」

「そうだね、彼方さん、ヒメより小さい…」

 緋瑪斗に突っ込まれた。

「あーっと、何を思ってるか分かってるよ。どうせ、僕が小さいから小学生とか思ってるんだろ?」

「いや、そんな」

「言っときますけどね。僕はこうみえても高校二年生。17歳。君らは一年生だろ?先輩なんだぞ」

 なぜか威張る。

「よ、よく分かりましたね…ここにいる事が」

「んー、それは長年の霊感ってやつかな」

「れ、霊感…?」

 変な疑問を抱きつつ、緋瑪斗と月乃は琉嬉の話を聞く事になった。



 近くの喫茶店に入って、あらかた聞いた話。

まずは聞いていた情報を頼りにまとめた。

緋瑪斗と一緒に居る女の子は沢城月乃さわぎ つきの

この子は普通の人間のようだ。

話からすると、緋瑪斗はおそらく妖怪に何かされた。

沢村の長年の経験からそう推測された。

逆に沢村から聞いていたのか、相手も琉嬉の事は少し知ってたようだ。

あとは、転校初日で停学になった有名な話も…。


 緋瑪斗が聞いたのは、焔一族なる妖怪が緋瑪斗をこのような体にしたという事。

そして男から女に性別が変わってしまった。

そう話した。

琉嬉の記憶の中では性別が変わるなんて話は聞いた事はない。

(…なるほどね…この子を手助けして欲しいって事かい…僕にはやる事が沢山あるってのに…)

 柳樹の日記でもまた見てみよう。

何かあるのかもしれないと。

「焔一族ねぇ…。聞いた事ないな~。來魅のやつなら知ってるかな?ま、誰かに聞けば解るでしょ」

 焔一族という種族の話は聞いた事がない。

この辺にはいない妖怪なのだろうか。

そもそも、妖怪がこの辺にどれくらい居てどんなのがいるのかが分からない。

把握しきれてないのは何十年、何百年経っても把握しきれてないのだ。

「あんがと。話してくれて」

「いえ、こちらこそ…」

「あ、そうそう、僕の事は親しみ込めて、下の名前で呼んでね。「琉嬉」だからね」

「え、と…琉嬉…さん?」

「そう。僕も君らの事、緋瑪斗と月乃って呼ぶから」

「はぁ…」

 得意の苗字じゃなくて下の名前で呼ぶよ攻撃。

「んーと、緋瑪斗君」

「はい?」

 琉嬉はまじまじと緋瑪斗を見る。

「んー、やっぱ可愛いね。一応女の僕から見ても妬けるくらいに」

「な、何を言ってるんですか!」

 真っ赤な顔をして慌てる緋瑪斗。

琉嬉は面白いと思った。

「そういう琉嬉さんこそ可愛いじゃないですか~」

 月乃も負けじと緋瑪斗に変わって言い返す。

「あはは、女の子は可愛いって言われてなんぼだよ。僕の場合は違う意味でも言われるけど。悪い気はしないさ。さてと、帰るかな」

 珍しく大人の対応をした。




(驚いた。あれは本当の話だな)

 帰りのバスの中で思う。

男の時の姿が写ってる画像も見せてもらった。

顔はあまり変化がないようだった。

というか、元から幼い印象の顔だった。

(御琴みたいだったなー。女になったらあんなに変わるもんだな…)

 正直、顔には出してなかったが驚いていたのだ。

世の中…いろんな者がいる。

痛感した。

しかも近くにいたもんだから。

(…引き受けちゃったものは仕方ないか…まぁいいか)

 焔一族の事。

それをどうにか探して欲しい。

緋瑪斗は戻るためにも素性を調べて欲しいとの事だった。

連絡先は交換した。

これで何か分かったらすぐに伝えれる。


 ここから琉嬉と緋瑪斗は奇妙な接点が作られた。

まさか近隣で、こんな事になってる人間がいるとは思ってもなかった。

奇妙な状況に置かれている。

それが自分だけじゃなかった。

それも男から女になったなどと…。

同じ学校ならば何かと世話がやけるのかと思っていたが、どうやら理解のある仲間がいそうで、

あえて強く近づくのを避けた。

多分、最低限の手助けで大丈夫だろうと判断したのだ。




「なぁ~暑いぞ~日本ってこんなに暑かったか~?」

「うっさいな!」

 すっかり琉嬉の家に居候化した來魅。

というよりなんだか姉妹のようになっていた。

來魅はいつも琉嬉の部屋に入り浸っている。

いろんな面白い物があるからだそうだ。

そんな二人は街中へと出かけていた。

遡る事一時間前。


「フー、暑い暑い」

 バタンと琉嬉の部屋へ勢い良く入ってくる來魅。

「はー涼しいなぁ、現代の家は」

 おそらくエアコンの事言ってるのだろう。

だがまだエアコンに頼るほどでもなく、扇風機が設置されていた。

部屋に入るやいなや早速扇風機に当たる。

散歩出かけた來魅が汗をかきながら戻ってきたのだ。

部屋の主の琉嬉は財布の中身をチェックしている。

服装もどこか家に居るときよりオシャレだ。

「お?どこに行くのか?琉嬉?」

「…ちょっと買い物だけど?」

「買い物か~私も着いていく」

「………なんで?」

「楽しそうだからな!なんせここしばらく学校に行ってはすぐ帰ってきて「げーむ」ばっかりだったからな」

「悪かったね。ひきこもりさんで」



 そんなやり取りで着いてきた來魅。

封印解けてから二ヶ月弱。

それなりに現代日本に慣れた來魅ではあるが、まだまだ新しい発見があると反応してしまう。

「…なんか手のかかる妹と一緒にいる感覚だな」

「ん?なんか言ったか?」

「いや…気のせいだよ」

 実際に妹がいる。

だが、実の妹の悠飛はしっかりしている。

これまでに特に問題があった訳でもない。

仲が良いくらいである。


 ふとみると、街角の温度計が26度を示している。

日中に気温が26度まであがっているのだ。

暑いわけだ。

これからもっともっと暑くなる季節だ。

既に体力尽きそうな二人。

「なぁ…こんな暑い日に何しに外出たんだぁ~?暑くて死にそうだ~」

「うそこけ。不死身の妖怪が…」

 おかしな会話を交わす二人。

琉嬉の目的は新しい服を買いに外で出たのである。

しばらく來魅を家に置くというので、琉嬉の着る服が少々足りない状況なのだ。

なんせ、サイズが近い二人。

服を分け合ってる。

今來魅が着てる服も琉嬉のものである。

來魅の分も買うと言う。

その分のお金は親から貰ってる。

そして時折お寺の仕事を手伝うアルバイト料もある。

「なぁ、琉嬉。お前様の服ってこういう短い「ずぼん」ってやつしか持ってないのか」

「んあ?悪い?しばらく服貸すんだから、いいじゃんか」

 素っ気無く返事する。

「私は「すかーと」ってやつが好きだなぁ。涼しくていいぞぉ」

「………ハイハイ。買えばいいんだろ買えば」

 文句を言いながらも目の前のファッションショップに入る。

どこでもありそうな店ではある。

「ふむふむ…。服専門の店か。」

「あのさ、頼むからチョロチョロしてくれないでくれる?」

「おお、すまんすまん」

「…見た目通りの子供だな本当に…」


「いやはや。沢山買ったなぁ」

「…うん」

 てくてく歩く二人。

両手に買った服が入った袋。

「やけに黒い服ばっか買うんだな~」

「悪いか」

 黒い系統の服が好きなようだ。

たしかに、今まで私服は黒いのばっかり。

あまり目立つのが好きではない琉嬉ならではの事だろうか。


「なぁ、腹減った」

「……で?」

「何か食べよう。はんばーぐがいいな」

「…いや、こんな暑い日だからこそ…」

「だからこそ?」

「ラーメンていうのはどうだ?」

「らーめん?」

「知らないのなら食べてみようじゃんか」

「おお、家ではカップらーめんというのしか食った事ないぞ?うまいなら食べようぞ」

 本物のラーメンを知らない來魅をからかう感じでラーメン屋へと決定した。

とはいえ、琉嬉はそんな詳しくはない。

「この辺でおいしいラーメン屋ってあったかな…?」

 そう言うとスマホを取り出す。

そして誰かに電話し始めた。

その様子をまじまじと見つめる來魅。

「ふむ。けいたいでんわってのは便利だな。世の中便利になったもんだのぅ」

 現代の進化した技術に舌を巻く來魅。

携帯電話が普及し始めて進化して20年。

來魅が封印されていたのは100年。

技術の進化を痛感しているという。

「で、誰に電話したんだ?」

「ん?いや、護がさ、ラーメン屋に詳しいから」

「護って…誰だ?」

「……胸でかくて金髪の女」

「おおっ、あの異国の人間みたいなやつか」

 お前も異国の少女みたいだけどね…と言いそうになった琉嬉。 

「なんか近くにいるらしいけどネ。まぁ狭い街だし」

「ふむ」


 待つ事15分くらい。

街一番の駅前通り。

駅前ていうのは交通の便利さもあるのだろうか、結構商店街が賑わう。

琉嬉達のいる街も同じだ。

人通りも多い。

こうしてみるとかなり都会である。

背の高いビルも沢山ある。

と、言っても車で1時間以上走ればもはや何もない山々となるが。

こうした田舎の中の都会。

「ん…あれかな」

 ちょっとした人通りある中から一際目立つスタイルのいい美少女がいた。

護だ。

だが、なんか男に話しかけられている。

その様子をしばし眺める二人。

すると、すぐに男が逃げるようにして護から離れていった。

「ったく。しつこい男は嫌われるよーだ」

「…何をグダグダ言ってんの?」

「いや~、しつこいナンパにあっちゃってさ」

「…へぇ~……」

 護ほどの容姿ならば、かなり声をかけられるのだろう。

妙に不機嫌なのもしつこいナンパする男に声をかけられてたからだ。

「面倒だから、適当な英語っぽく喋ったらなんか逃げていった。面白かった~」

「…外人のフリしたの?」

「いえーすいえーす。いっつおけーい」

 適当な英語。

護の学力ならそんなもんだろう…と思う。

「ナンパねぇ…。声かけられるのは補導しようとする警察ばっかだもんな」

「アハハ、それは残念だね~。さすがに小学生くらいの子には声かけないって」

「…小学生じゃねぇっ」

 …などというやりとししながらオススメのラーメン屋へ向かう一行。

「しまった」

 突然琉嬉が立ち止まる。

心配そうに護が琉嬉の顔を覗き込む。

「…どした?」

「こんなんだったらみゆのヤツ呼べばよかった。あいつなら奢ってくれる」

「…相変わらず琉嬉ちゃんはお金にセコいね」


 着いたお店の名前は「らーめん「とと」」という所。

駅前通りのちょいと奥行った所。

ここなら仕事帰りの人間が立ち寄れる、立地条件は中々いい場所なのだろう。

「まぁ…あれだね。なんだって若い女3人が昼間のランチにラーメンって…」

 ごもっとも。

と、言ってもかなり特殊な3人ではあるが。

「でも護、詳しいな~。おいしいだけあって混んでるな」

「ほほぅ。これがらーめん屋か。何かいいにおいがするな~」

「さすが、一人暮らしする女子高生。おいしいお店は知ってるな~」

「…料理あんまり得意じゃないからさ。こういうのには詳しくなるよ」

 店前から解るほど、昼の時間帯だけあって込んでいるのが解る。

人気店なのだろうか。

4、5人の列が出来ていた。

これは少々時間がかかりそうだ。

「うーむ。これは…少し時間かかりそうだね」

「ええぇ~、そんなー!今食べたいんだ!」

 駄々をこねだす來魅。

「お前わ…子供かッ」

「子供じゃないッ」

「子供じゃねーか!」

「うるさいっ!お前様も子供だろぅ!!」

「なんだとぉぉ!?」

「……なんなんだ?この二人…」

 困り果てる護。

些細な事でケンカを始め出す二人。

まさに子供だ。

ギャーギャーうるさい状況へ。

並んでる人も騒いでる方向へと視線が向く。

「あ、あのぉ~、大変そうだから先に入るかい?」

 前に並んでる男性が3人に声をかける。

ケンカしてる二人を見て不憫に思ったらしい。

「あ、あはは…すいません。いいんですか?」

「いいよいいよ。可愛いお嬢ちゃん達なら。何よりケンカして大変そうだし…」

「ほんと?やったぞ!先に入れてくてるみたいだぞ!」

「…お前なぁ…」

 頭を抱える琉嬉。

やれやれといった表情の護。


 なんだかんだで中に入った琉嬉達。

中は熱気溢れるお店。

個人経営なためかそんなに大きくない。

席数も少なめ。

だが、評判あるだけあって満席状態だ。

キョロキョロ見回す來魅。

「お!あそこ空いてる!あそこにするぞ!」

「本当に子供じゃんか…」

 なんだか妹にせかされている気分になる二人。

ふと、見回すがある違和感に気づく。

カウンター席の端っこ。

なぜか空いている。

というよりは、厳密に言うとイスがあるべき所にないといった感じだ。

妙なスペースがあるのだ。

何か理由あるのであろうか?

だがその理由にいち早く気づく琉嬉。

「…ねぇ、護。あそこって…」

「琉嬉ちゃんも気づいたの?」

「そりゃ、伊達に「霊感」ありませんよ」

 その理由とは?

しかし、琉嬉達はその場は構わず來魅の座るテーブル席に移動する。


「おー!これが「店らーめん」ってヤツか!好きなにおいだ!」

「…なんか、妖怪言えども日本人なんだな…」

「おう!日本生まれだからな!」

「ハイハイ」

 琉嬉は正統派しょうゆ。

護はみそ。

來魅もとりあえず琉嬉と同じくしょうゆを頼んだ。

「うぅお!!熱いッ!!」

「落ち着いて食べなよ~」

「くっは~~、こんな暑い日に熱い物とは…やるな琉嬉」

 そんな琉嬉はクスクス笑っていた。

(ふひひひひ…なんかおもしれー!)

「けど、うまいぞ…おおぅ」

 結局は満足する3人だった。


 帰りの会計時。

「うまかったのう~」

「また来ようよ。今度はみゆ連れて」

「奢らせようという魂胆でしょ…?まったく…」

 それにしても目立つ3人組だ。

そのうち二人は派手な髪色だし、可愛いし…と自然と視線を釘付けにする。

「あ…」

 と、女の子の声が聞こえた。

「…ん?」

 琉嬉が振り返ると、見た事のある赤髪の女の子がいた。

そう、緋瑪斗だった。

「………や。」

 琉嬉が緋瑪斗に気づき軽く手を振って挨拶する。

「…ど、ども……」

 緋瑪斗の方は軽く会釈する。

「なんだ?緋瑪斗?知り合いか?」

「………前、ちょっと会ったコトあって…まだ、ただの知り合いってだけだけど」

「なんだと?あのパツキンねーちゃんもか?」

「いや、後の二人は知らない…」

 などと、会話が聞こえる。

緋瑪斗は以前一緒にいた月乃という女の子と一緒ではない。

男二人と一緒だ。

一人は体格のいい単発の男。

もう一人はその辺に居そうな眼鏡の男。

(ふぅん……男の時の友達かな?)



「いやーうまかったなーっ」

「でしょ~?オススメなんだ~私個人的には。最近口コミで広がってるのか客増えてるっぽいけどね~」

「なるほど」

 そんなやり取りの中琉嬉は…というと…。

「琉嬉?」

 何やらごそごそ自分のバッグから何かを取り出す。

袋に入った物。

それはクリームパンだった。

「ちょ、ラーメン食べてすぐクリームパン食べるの?」

 驚愕する二人。

「んえ?だめ?デザートだよ、デザート」

「あ、そ、そうなの…?」

 コソコソと來魅に聞いてみる護。

(ねえ、琉嬉ちゃんっていつもご飯食べた後とか、クリームパン食べてるの?)

「ん?まぁ~、食べてるのよく見かける気もするな」

「まじで…?(どこにこんな小さな体で入るところが…。まさか、別腹ってやつ??)」

 ちなみに琉嬉は大盛り頼んだ。

そしてなおもクリームパン一個。

案外食べるのだ。

食べるとそれなりに大きくなるものである。

その割りには全然大きくならなかったが。


「んで、どうするのお二方は?この後は?」

「ん?別にもう用事終わったから帰るけど」

「あっさりしてるな~」

「帰ってスーパーなんちゃら大戦の続きやらないと」

「…ほんっとに趣味に生きてるねぇ」

てな具合に早々と解散となった。

そして何より残念だったのは、

ラーメンのために呼び出された護だった。

「…私、こんだけのために呼ばれただけ…??」

 …寂しく街中に戻っていく護であった。


 翌日。

いつもの学校の風景。

琉嬉はいつものごとく、授業中にボーッとしていた。

夜中遅くまでゲームやってたというのもあるが。

(気になるな…あのラーメン屋)

ずっと昨日行ったラーメン屋の事が気になってるようである。

不可解なスペース。

そう。

琉嬉らは見ていた。

あのスペースにいた人影を。

 いや、あれは確実に「霊」だった。

なぜかじっと動かずに居た。

それが逆に気になっていたのだ。

きっと店の従業員なら知っているであろう。

「その理由」を。

何かあったのだろうか。

そう思わずにはいられない。

そもそも、夏と言えば日本では恒例でもある、心霊シーズンである。

それに合わせたわけではないだろうが、琉嬉らの術者にはいろいろ忙しくなるのである。

琉嬉の行っている「お祓い」の仕事もなぜか増える。

それも心霊シーズンのおかげでもあるだろうが…。


 スパーンッ。

とキレのある音が教室内を響き渡った。

「いてぇ~~」

 琉嬉が見上げると桜川先生がお怒りな表情していた。

「彼方~。お前また何ボケっとしてるんだ」

「んえ?いや、別に何も考えてませんけど」

「…何も考えてないって…授業聞かないのもそれもいいけどな、質問して当てられてるのに反応ないのはさすがに怒るぞ」

「あら、それはごめんなさいです」

「…お前なぁ…」

 あんまりな態度にさすがの桜川先生も呆れていた。

「あとで職員室来なさいね」

「……はぃ」

 力なく返事する琉嬉。

まさかのお呼び出しになってしまった。

周りのクラスメイトはクスクス笑っている。

琉嬉は決してその事は別に気にしないタイプだが。


 昼休み。

琉嬉は職員室に居た。

先程お呼び出しをくらったからだ。

「なあ、彼方。最近のお前ますますボーっとしてる時間多くなったな」

「はぁ…そうッスか」

「……何か悩みでもあるのか?」

「悩み…っちゃぁ悩みなのかなぁ」

「先生には言えないような事か?」

 珍しく?親身になって聞いてくる桜川先生。

「んー…今年になってからいろいろ大変で。でも、先生には関係ないし、自分でどうにかできる範囲ですから」

「部活も作って楽しむのもいいんだがな、あまり無理するなよ?お前さんがそれで大丈夫ならいいんだけどな」

「うーん。分かってますよ。なんていうか、いろんなお仕事みたいなのが舞い込んでて」

 まずは旧校舎の事。

そして、狗依緋瑪斗の事。

「ふむ…何度も言うが、無理するな。転校したてなのもあるし」

「はい」

 いわゆる一般的な人間でもある桜川先生には、理解できないであろう力を持つ琉嬉。

またその裏側の世界。

それが絡む。

その事言っても解決できるわけがないであろうが、琉嬉は少し桜川先生の発言には少し嬉しかった。

自然と笑みを浮かんでいた。

「どうした?彼方?笑って」

「え?いや、別に…」

 少し恥ずかしい。

「お前もいつもそうやって笑ってれば可愛いのになぁ。いっつも無表情にポケーっとしてるもんなぁ」

「それが僕の特徴ですから」

「…お前、いっつも一言二言、口悪いよな」


 学校も部活を終え、少し駅前の街中をブラブラしている琉嬉達。

たまたま琉嬉の他に護とみゆ、そしてすっかり仲良くなった生徒会メンバーの叉羅沙と寧音。

はたから見れば普通の女子高生の集団だろう。

「日が落ちてくるとさすがに涼しくなるね~」

「だねぇ」

「なんかこうやってるとウチらは普通の女子高生って感じやねぇ」

「こんなちっちゃいのとでかいので普通じゃない気が…」

「そうどすなぁ、あはは」

「そこ笑い飛ばす所なの?叉羅沙さんは…」

 キャイキャイいってるのと逆に琉嬉はまたもや黙って考えている感じだ。

「どしたの?琉嬉ちゃん」

「ん~、昨日のラーメン屋気になってさ…」

「そんなに気になるの?」

「うんー。何かひっかかるというか、なんだろ。これって呼ばれてるのかな」

 呼ばれる。

よく霊感ある人間が使う言葉。

なぜか解からないが頭の中に直接言われるような感覚。

誘われるとでも言うのだろうか?

妙な感覚におそわれてついついその「場所」へ行ってしまう事がある。

それは力なき者だと危険でもある。

琉嬉はまさにそういう状態に陥っていたのだ。

「呼ばれてる?琉嬉ちゃん呼ぶなんてなんてロリコ…」

 みゆの頭に衝撃が走る。

みゆが発言した瞬間みゆの頭に琉嬉の手刀が命中していた。

「…みゆも余計な一言多いな…」

「えへへ~、イタタタ…」

「そないな気になるならまた行って見たらええんではおまへん?」

「そだね…みんなどうする?僕は向かってみるけど」

「あんまりゾロゾロ大人数で行くのもねぇ」

「まぁいいや、とりあえず僕一人で行ってくるよ」

「琉嬉さんが行くなら私も…」

「いや、今日の所は僕だけにしてもらっていいかな?」

「…はぁ…そう言うなら」

 そう言い切って、琉嬉だけはずれてラーメン屋へと向かった。

残念がる寧音。

「…ふーむ。結局は見過ごせないのねぇ」

 そこそこまだ短い付き合いだが、琉嬉という人物の性格が解ってきた護であった。


 夕方6時過ぎ。

帰宅ラッシュで駅前も少し賑わってくる。

琉嬉は昨日行ったラーメン屋「とと」に到着した。

ガララ、と横にスライド式の戸を開ける。

晩飯時のためか、少々賑わっていた。

琉嬉の視線はやはりカウンター席のスペースに行く。

しかし、今日は「何」もない。

ないというより、「居ない」が正しい表現か。

(時間によって居ないのか…)

霊もずっと同じ場所にいないのであろう。

おそらく自縛霊ではないのだ。

琉嬉はキョロキョロ見回す。

「うーん、勢い良く入っちゃったしな…今日も食べて行くかな…」

「おお、お嬢ちゃん、また来たのかい」

 従業員…というより多分店長であろう。

ちょっと見てるだけでもメインで麺ゆでてたりしている。

40代くらいの男性。

「あ、いや、こんちは」

 なぜか顔を覚えられていた。

というより昨日の來魅とのやり取りで覚えられたのかもしれない。

ともかく空いてるカウンター席に座る。

「この店が気に入ったのかい?ありがたいね~。注文決まったら言ってくださいね~」

「あ、はい」

 何頼むか悩んでたところガララッと後ろの戸が開く。

「いらっしゃいませー!」

 思わず琉嬉も後ろ振り向いてしまった。

そこには見たことある顔が。

桜川先生だった。


「…彼方がいるとは思わなかったな」

「それはこっちのセリフです……」

 妙な空気。

教師と生徒がなぜか同じラーメン屋に。

「あ、あの先生、よくここ来るんですか?」

「ん?ああ、週に1、2回程度はね」

「あ、そ、そうですか…」

「お前はなんでいるんだ?女子高生が一人で制服姿でラーメン屋にってなんかシュールだな」

「あ、アハハ…ちょっと用事が…」

「??」

 キョトンとする桜川先生。

「女子高生?この子高校生なんですかい?」

「そうそう、コイツこんなちっちゃいけど高校生なんですよ~」

「へぇ~、ごめんよ。この前見た時はそう思ってませんでしたよ、はっはっは」

「……(あの時は私服だったし、そう見えててもおかしくない…)」

 言葉返せない琉嬉。

毎度の事だが、高校生と思われてなかったようだ。

「昨日他に同じくらいの体格の子とお姉さんみたいな女の子と来たんですよ」

「ほー、彼方、お前お姉さんいたのか?」

「一応自分が長女なんで、姉の方なんすけど…」

「あはは」

(あははじゃねえよ…まったく)

 機嫌悪くなる琉嬉。

「ハハハ、ごめんよ、はい、注文のみそラーメン」

 今日頼んだのは味噌ラーメン。

昨日はしょうゆだった。

護曰く、どのラーメンも美味しいとの事なので頼んでみたのだ。

「おいしい…」

「だろ?ここのはくどくもあっさりでもない、この絶妙さが美味しいんだ」

 桜川先生は相当お気に入りの場所のようだ。

(う~む。どうしよう。桜川先生来るなんて思ってもなかったし。情報聞こうと思ってたのに…どうするべきか)

「そろそろ一年経つのかねぇ」

 唐突に店主がしゃべりだす。

「何が?」

 思わず聞き返す琉嬉。

「いやあ、よくきてた常連さんがね、亡くなって一年なんだ」

「…はぁ」

「よくしゃべってたよね~、あはは」

 気がつくと桜川先生はビールを飲んでいた。

教え子が居る前でよくお酒を飲めるもんだ。

(こ…この人……)

 さすがに引く琉嬉だった。

「ほら、そこのスペースあるだろう。そこに座ってる事多かったんだよ」

「やっぱり…」

「やっぱり?」

「あ、いや、なんでも」

 琉嬉は一先ず考えを整理する。

店長が言う常連の客の事。

そしてこの席に座っていた事。

先日、そのスペースで見た「霊」はおそらくその亡くなったという常連客。

なんとなく、納得いく。

(なるほどねー)


「おいーっスぅー!」

 ビクっとする琉嬉。

突如の挨拶に驚く他の客達。

犯人はみゆだった。

「な、みゆ?」

「他のみんなもいるよー」

 ズララっとさっきまで居合わせた護と叉羅沙と寧音もいる。

「なんであんたらまで」

「いや~、なんだかんだで気になっちゃってね」

 護は気になって仕方なかったようだ。

 琉嬉達と昨日着てたわけだし。

結局はみんな来てしまった。

「琉嬉さんがなんか寂しそうな顔してたので…」

(…寧音、それは多分勘違いだ)


「おう、お前ら、どうしたんだ?」

 酔っ払い教師が絡んでくる。

「あちゃー、先生楽しそうですね~」

 みゆがからかうように言う。

仮にも教師が生徒の前で酔っ払い。

「お前ら道草しないで早く帰れ~」

「ハハ、なんや楽しそうやねぇ」

「よーっし、ここはみゆちゃんのおごりでパーっとらーめん食べよう~」

「…おいおい…」

 ザ・金持ち・みゆ。

その力が発動された。

「なんか知らないけど、かわいい女子高生が集まるなんて、この店も人気になったな~」

店主は(違う意味も含んで)嬉しそうに言った。


 随分と華やかに賑やかなラーメン屋。

それも琉嬉達がいるからだ。

すっかり馴染んだ感がある。

そのノリを作ったのは桜川先生ではあるが。

「あ…」

 琉嬉が声をあげる。

「ん?どーしたの?」

 無言で琉嬉が指をさす。

その指の向こうには案の定、例のスペースに影が見えた。

と、言っても、見える人間は限られるだろうが。

「ああ、来たんだね」

「みたいだね」

 いずれも女子高生共は霊感ある者達。

みんな気づいていた。

だが、あえて気にしない用にしている。

「ふーむ…」

 琉嬉はふと立ち上がり近くに寄っていく。

そしてある変化に気づいた。

カウンター席には一杯のコップ水があった。

「…店主さん、このお水は…?」

「ん?ああ、それね。いつもこの時間帯になったら置くんだよ」

「…どして?」

 理由はなんとなく解かっていたがあえて訊く。

「以前ねぇ、この時間帯になるとこの席に座るお客さんが変な悪寒したり、声聞こえたりするってね」

「え…」

「もしかしたら、亡くなった大原さんが来てるのかなって思ってね」

「そのまさかかもね」

「なんだって?」

 一瞬戸惑う店主。

琉嬉の意味深な発言に思わず言葉を詰まらせる。

「なんちゃって。アハハ~冗談ですよぉ」

「なんだい、お嬢ちゃん。びっくりさせるな~」

「うふふ」

「うふふ…って…。お嬢ちゃんおとなしそうに見えて怖いなぁ…」

 なぜだか店主は少し琉嬉は不思議ちゃんという事に気づき始めていた。

店主の言ってる事は正しかった。

昨日も見た同じ霊。

おそらく大原さんという人だろう。

スーツ姿。

年齢も40代後半から50代くらいにも見える。

まさに働き盛りという年代。

何があったのか今では詳しく調べない限り解からないが、今も夕食時になると

いつもいた席に現れる。

日によっては出現しない時もある。

死しても尚、客人としてやってくる。

それだけここのラーメン屋に対する想いが大きかったのだろうか。

しかし、ふと見ると霊の姿はなかった。

心なしか表情は笑顔のようにも、琉嬉には見えていた。



「二日連続ラーメンってのも、考え物だね」

 ぼちぼち帰ろうとしていた琉嬉がボソっと言う。

「太りそう~」

 お腹の周りを気にしながら言う護。

「太っても護ちゃんはその大きな胸にいくもんね~?」

「な、バカな事言ってるんじゃないよ!」

 顔真っ赤にして照れる護。

どうも、こういう話題になると恥ずかしがる。

「寧音先輩も胸にいくんですか~?」

「わ、私の事はいいんです!」

 二人の事を茶化す。

「こうしてみるとフツーの女子の会話的やねぇ」

「いや、十分フツーじゃないと思うケド…」

「まぁまぁ」

 なんだかよくわからない会話をしながらそれぞれの家に帰る。



「ただいま」

「お帰りぃ~琉嬉ちゃーん!」

 勢い良く出てきたのは父親の導だった。

変にテンションが高い。

相変わらず娘大好きなようだ。

「あ、あのさ、降ろしてよ」

 ついつい抱きかかえてしまう導。

しかし離そうとしない。

「ていっ」

「あだっ」

 父親相手にも容赦ない必殺の手刀が炸裂した。


「おぅ、お帰り。琉嬉」

「姉ちゃんお帰り」

「まぁ、ただいま」

「…まぁ、ただいまって何だよ…」

 変な挨拶にツッコむ事を忘れない常識人悠飛。

ツッコミポジションは確立しているのだ。

「今日は遅かったな。普段はゲームやりたさに早く帰ってくるのに」

「いや…昨日のラーメン屋に寄ってきて…」

「おお!また行ったのか!らーめんていうのはおいしいよのう!」

 無邪気な笑顔の來魅。

こうしてみると本当にただの子供である。

喋り方以外は。

妙な言葉使いは置いといて。

「なあ、來魅」

「ん?」

「お前、昨日気づいてたろ?あのラーメン屋にいた霊」

「ほむ?何の事だ?」

「え?」

 意外な返事に戸惑う琉嬉。

來魅は気づいていなかったのか?

「だって…いたじゃんか。護も気づいてたんだぞ?」

「いんや、私は何も気づいとらんぞ。なんせお前様に霊力を普段封じられてるからの。強めの霊じゃないと分からん」

「…マジで?」

 自分の放った技とはいえ、恐ろしさに改めて驚愕する。

まさか、霊感そのものまで打ち消すと封じる力とは。

自分のやった事とはいえ、少し同情する。

さすがは参堂家の封じの宝玉の力。

それを自分流にミックスさせ作り出した封じ術だ。

「あはは…ごめんな。來魅。まさか、そこまで霊力が抑えこまれるなんてね…」

 キョトンとした顔の來魅。

「なーに言っとるんだ。それがお前様の力だろ。僅かな時間なら全力で戦える。

お前様が解かなくてもな」

 琉嬉は、一応全力で封じたつもりであった。

しかし自らの力で僅かながらも、一時的に解除出来る程の強さ。

それが凄いというか恐ろしいというか、そう言いようしかない。

「はぁ…そうか」

 なぜか力ないのにも関わらず明るい來魅。

どういう心境なのか。

琉嬉には理解出来ずにいた。

「まぁ、一対一で負けたのは仕方あるまい。お前様に逆らう訳にもいくまい。私もまたまだ強くならんとな」

(いや…それ以上強くならなくていいよ…)

 なぜか向上心が高い來魅。

だが、そういう部分が普通の妖怪とは違う。

人間に近しいというか、何か違う。

來魅もまた、不思議な考えを持つ妖怪だ。

決して「悪」だけの存在ではないと――。


 自分のPCがセットしてある机とセットの椅子に腰掛ける。

「はぁ~。まぁ、いいか。來魅がそうなら…」

「姉ちゃん疲れてる?」

「疲れるも何も…」

 ぐったり気味。


 でも琉嬉は何か優しい気持ちにもなっていた。

店主の置いていた一杯のコップ。

それだけでも何か供養にはなっていたのではないか。

霊に心やりある風景を見ていてちょっと嬉しい気持ちになっていた。

いつもなら邪魔な霊や妖怪は祓っていた。

目障りになるのは全部。

だけど、今回だけは違う。

特に害もない。

むしろ、死しても通い続ける幽霊。

おかしな話ではあるが、霊自体が満足するまで琉嬉はそっとしとく事にした。

(何も祓うだけじゃないんだよな…)

 改めて考えが変わっていく琉嬉であった。



 この先いろいろな話が舞い込んでくるのかもしれない。

緋瑪斗のような事案も。

ゆっくる出来る日はしばらく来ないのかもしれない…と。


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