#11 お寺とお双子さんが
今は半分学校の事なんかどうでもいい。
そんな気持ちすらあった。
10月1日に妖怪の封印が解ける?
それも強力な。
正直眉唾物だが、毎日のようにあんな夢を見せられたらたまったもんじゃない。
あれから同じような夢は見ていない。
一体なんだったのだろうか。
その前に…柚羽に教えてもらった「がしゃどくろ」について。
それを調べるために琉嬉は悠飛と來魅と共に導の実家にして、琉嬉の祖父宅であるお寺に再びやってきた。
つもりだった。
なぜかみゆ達も着いてくる。
「なんでお前らまで…」
「まぁまぁいいじゃないですか。五大家のひとつ、彼方家総本山とやらも興味あるし~みたいな?」
「…あのなぁ…」
「すみません。私まで…」
寧音も一緒だ。
「ま、いっか…」
琉嬉と悠飛、來魅に加え、ふかしぎ部メンバー全員だ。
護、みゆ、御琴、寧音。
大人数。
父親の乗る車でやってきた。
ただ、人数が人数だけにレンタカーになったが。
他愛のない親子の会話。
それを見てる護達。
「一応僕男なんですけどね~…」
「琉嬉ちゃんのお父さん気づいてないかも」
「マジか…」
ガッカリする御琴。
「琉嬉たんのお父さんってかっこいいね~」
「何?みゆのタイプ?」
「タイプってゆーより若々しくていいなーって。うちの親父なんて全然オッサンだよ~」
「だって。お父さん」
「嬉しいね~若いって。こう見えても40過ぎてるおっさんだけどね」
導が楽しそうな運転の中、琉嬉達は祖父宅に向かってたのだった。
「いや~着いたね~って案外近いんだね」
車だと1時間以内。
そこまでは遠くない。
「こんちは」
ぴょこんと琉嬉が寺の前に出る。
そこには髪の長い少女がいた。
寺の娘なのだろうか?
そして琉嬉達に気づかずほうきで掃除している。
「……あの、聞いてる?」
まだ気づかない。
「みゆにおまかせあれ~」
「あ、おい…」
「こーんにっちわっっ!!!」
「ひゃうっ!?!?」
少女はびっくりしてその場に転んでしまった。
何が起きたか理解できてない表情をしてる。
「ありゃりゃ」
「何やってんだよ…」
「やりすぎ…」
彼方姉妹に総ツッコミくらうみゆだった。
「大丈夫?えーっと…」
「私は莉音ですよぅ」
「あはは、莉音」
護達はよく状況がつかめてなかった。
「えとー?どなた?」
少女は莉音と名乗った。
「このお寺に住んでるんです。私の家ですよ」
「あ、いやそれはなんとなくわかるけど…」
「ふぇ?」
らちがあかなかった。
そこで琉嬉が説明する。
「こいつは僕の従姉妹の彼方莉音。えーっと今中3いいんだよな?悠飛と同じ…」
「あ、はい……そうです…」
「あのさ、おじいちゃんいる?というか入っていいかな?」
「あ、うん……私は掃除が残ってるから…あ、叔父さんこんにちは」
「莉音ちゃんこんにちは。さて、あがろう」
すんなり入れた。
「莉音…ま、頑張ってね」
「…うん」
「やあ、お父さん。お久しぶりですね~」
「話は聞いてるよ。それにしても見事に女の子ばっかりだな」
「琉嬉ちゃんの結束の力かな?」
琉嬉の祖父。
つまり導の父親にでもある。
彼方炎良。
緋黄寺の住職。
來魅が復活した時に相談に乗ってもらった。
「兄さんも元気かい?」
「ああ、元気だな。今日は仕事に出かけてるよ」
「そっか~」
「ところで、だ」
「うん?」
「そこのちっちゃい子が來魅なのか…?」
すごく目立つなりの來魅をすぐ見つける。
妖怪なので他の人間とは異質なのはすぐ分かる。
「やおー。琉嬉のじいさんよ。お主が今の彼方家の当主か?」
「はっはっは。当主とはまたまた~。随分フレンドリーなお嬢さんだな」
「おう、ふれんどりーだぞ。私は心が広いのだ」
威張る態度。
「はは…面白い妖怪の娘っ子だな。封印したのは俺の婆さんだな。その当時の話でもじっくり聞きたいぜ」
「おお、いいぞ。ただし、お菓子をくれたらな」
「そんなの容易い。おーい、誰か菓子と茶を用意してくれんか~」
「ハイ!」
すると、若い僧がやってくる。
いわゆる弟子だ。
「ほぇ~、お弟子さんもいるんだね~」
「そうだね。ちゃんとした霊術師だよ」
「へぇー。彼方家って凄い」
護とみゆが関心する。
寧音も驚いてる様子だ。
「夜栄守本家とは違う…活気ですね。うちはもっとこう…なんか殺伐してますよ?」
「ん?お前さん…夜栄守家の?」
「あ、はい。申し遅れました。私は鞍光高校生徒会風紀係委員長をしてます、夜栄守寧音と申します。
一応、夜栄守の者ですが…、今は本家から離れて暮らしてます」
「ほうほう…、みゆちゃんの事は聞いてたけどな…まさか夜栄守家の子もいるとはな…しかし…」
「じじい、変な目で寧音の事みないでさっさと來魅とお茶会でもしててよ」
「ははは、すまんすまん」
「…あの…一体…?」
悠飛が耳打ちで、
「寧音さんの胸でも見てたんだよきっと。寧音さん大きいから」
「えぇぇ?!」
バッと今更ながら隠す。
それもそのはず。
寧音の私服が胸を強調するようなピタっと体のラインが出るように服だからだ。
大きいお寺。
この辺では立派な所だ。
境内も広い。
面々は寺内を見回っていた。
「おっきいね~」
「そうだね」
仕方なく琉嬉が案内していた。
時々こちらにやって来る事がある。
導の兄が寺を継ぐという事が決定していたのもあるが、導が独立してるためやって来る事はそんなにない。
そこで歩き回っていると先ほどの少女がいた。
「あ、琉嬉姉っ!帰って来たのか!」
「ん?」
スタタっと走り寄ってくる先ほどの少女。
「あれ?さっきの子じゃない?」
護は不思議に思った。
そう、さっき入口出会った少女は掃除を終らせてから来ると言っていた。
寺内に入ってから10分も経ってない。
しかも全然違う場所からやってきた。
「あれれ?さっき入口にいなかったけ…?」
疑問に思う面々。
もしかしてワープでもした?
などと考えていた。
「琉嬉姉、この人達は…?」
「…ん。ふかしぎ部の部員達。簡単に言えば仲間」
「ふぅん……。(かわいい人ばっかだな)」
「なぁ…お前、紫音だよな?」
「は?」
呆気にとられる少女。
「何言ってんの?そうだよ。紫音だよ。まだ見分けつかないの?」
紫音と名乗った少女。
他のみんなはよくわからない状況。
「んーと、どゆこと?」
「ん?ああ、こいつら双子なんだよ。さっき入り口でほうきで掃除してたのが、莉音。で、こいつが紫音」
「…あたしが一応妹」
先ほどの少女は双子だった。
彼方莉音・紫音。
寺の入り口で掃除していた方でちょっとオドオドしてて静かな印象なのが姉の莉音。
寺の中で会ったの方で荒めの言葉使いと少しキツイ感じのが妹の紫音。
琉嬉悠飛の従姉妹にあたる。
「なんだ~分身の術を使ってたわけじゃないんだね~」
「…そんな訳ないだろ。アホかお前は」
呆れたようにみゆに向かって言う琉嬉。
「お寺さんにこんなかわいい双子さんいたら有名になるんじゃない?」
「ですね」
事実、このお寺は結構この辺では有名になっている。
住職からして面白変わった人間であるから。
「ねえ、なんで琉嬉姉達は来たの?」
不思議そうに紫音が尋ねる。
まだどういう状況なのか知らないようだった。
「相変わらず背伸びないね~琉嬉姉は。ちっさいね~」
自分の頭と琉嬉の頭を手で比べる。
「ちっさい言うな」
「中学卒業してからあんまり変わってないんじゃない?」
「伸びたよ!2ミリくらい…」
「やっぱりほとんど変わってないんだ…琉嬉ちゃんは」
背の事で言い合う二人の後ろで会話する他の面々。
「あ、あれ?紫音居たの?」
と、莉音と同じ声が聞こえてきた。
「莉音」
双子が揃った。
「掃除終ったみたいだね~。にしてもそっくり」
「いや、双子だからそっくりは当たり前だろ?」
わいわい話が盛り上がりにぎやかになる。
「なんか騒がしいなぁ。何騒いでるんだ?」
収拾を治めるたのは祖父の炎良だった。
「あ、じいちゃん」
「おぅおぅ…今日もカワイイなぁ琉嬉~」
琉嬉の顔見るや否やすぐに抱きつく炎良。
というより抱き上げていた。
「ちょっと…じいちゃん恥ずかしいからヤメテ…!」
照れる琉嬉。
小さいからすぐ抱き上げられる。
そしてその矛先は悠飛に向けられる。
「悠飛も元気か~?」
そして抱きつく。
「ん。元気。」
それでもクール。
「あの…おじいちゃん…。お客さんいるんだからそれくらいで…。恥ずかしいなぁ」
紫音が炎良におとなしくするよう話しかける。
「おお、すまんすまん。ハハハ」
「元気そうなじいさんだね…」
護呆れ顔。
「うちのおじいちゃんとは違うね~」
みゆも違いを感じる。
「そういう所がお父さん引き継いだんな…」
琉嬉はしみじみ思った。
「エー早速だが、その妖怪ついては詳しくはわからん」
「え?」
いきなりの発言に止まる面々。
「がしゃどくろか……聞いたような事はあるが、実際に見たっていうのはここらではないんじゃねえか?」
「それもそうだよねぇ」
「…うちの書庫に文献あるかもしれないからみんなで調べるといいかもな」
「そういう話になるか…」
「また、ご先祖様の日記に書いてあるとかそんなオチはやだからね」
「はっはっは」
笑って誤魔化す。
なんの事か分からない他の部員達。
違う部屋で茶をすすってる來魅は満足げな顔していた。
みんなで書庫へ行き、早速調べる。
「うーん。やっぱりむつかしい本ばっかだな…」
「そうですね…。何書いてるか理解出来ません…」
ちんぷんかんぷん。
昔の本やら関係なさそうな本。
宗教絡みの本。
それらしいのは出てこない。
部屋中古い書物がまだまだある。
長い年月で自然と集まった書庫。
これといった手がかりになるものはあるのか――。
期待しないで琉嬉達は探していた。
「あ、そういや、耿助さんに連絡しなきゃ」
「耿助さん?誰?琉嬉姉の男?」
莉音が興味津々に反応する。
「…あのねえ…そうじゃないから。参堂耿助さん。五大家って言われたうちのひとつの参堂家の人」
「あ、そう」
琉嬉は部屋の外に出て行った。
「あっちはあっちでいろいろ調べてるってさ」
「ほほう」
耿助は自分の所で調べてる。
自分の管理している神社近くで封じられているもうひとつの妖怪。
耿助側もなぜか知らなかった。
もしかしたら…参堂家の方で何か分かる物があるのかもしれない。
そう思って連絡したのだった。
「そもそも、黄明麟神社でわからなかったらこっちで解かる筈ないだろうけどな」
炎良がそう呟く。
ごもっともである。
「……そだよね」
残念がる琉嬉。
その琉嬉の表情をみた炎良が態度を直す。
「…まあ、じいちゃんもな、むかーし琉嬉くらいの時に話を聞いたことあるんだよ。じいちゃんのばあちゃんからな」
「へえ……」
「妖怪は人間と同じ。現代に適応して生きていく。新しい妖怪が出てきてもおかしくない。
知らない妖怪がいてもおかしくない。だから知らない事が沢山あるのも仕方ないってな」
「……たしかにそうだけど…」
「それにしてもいい所だ。落ち着くぞ」
來魅には居心地が良さそうである。
「…そう?」
琉嬉には逆に当たり前すぎてイマイチそう感じてはいなかった。
綺麗にされたお寺。
たしかに居心地が良さそうである。
とはいっても昔から続いている。
かなりの年季は感じさせる。
だが、今の状況は文献探しに飽きたほとんどの部員達。
それぞれ勝手な事をし始めていた。
「やっぱり……鳴神家の者に聞いた方がいいんじゃない?」
「そうですよ」
護や寧音がそう提案する。
「それ以上の話はうまくはぐらかせられたよ。言いたくないような話らしいし」
「琉嬉ちゃん程の人が聞き出せなかったの?」
「…人には踏み入れられたくない領域があるんだよ?護も寧音も分かるだろ?」
「……う、そう言えばそうかも」
「そうですね。すみません」
「…実際その時まで時間があるんだし。今はゆっくり考えよう。考えも変わるかも知れないし。柚羽も」
そう願うのだった。
「で、どうだった?お父さん」
なんとも言えない表情の導が炎良に問いだす。
「……がしゃどくろ…か。文献には出てこない。少なくともここの地域ではな」
「そうですか…。残念だなぁ。お寺に来れば何か分かると思ったのに」
「気になるモノならあるぞ」
スッと取り出した本…いや薄い、記帳なような物。
「なんです?それ」
「柳樹ばあさんの日記だ」
いつのまにやら陽が沈んでいた。
時刻は夜7時過ぎ。
一番日が長い時期とはいえ、暗くなっていく。
「さて、みんなはどうするんだ?泊まっていくのか?」
「明日も休み~だしね~」
チラッと琉嬉の顔をみるみゆ。
目をパチクリしている。
「…泊まる気満々かよ…」
頭を傾げる琉嬉。
「ご飯ですよ~」
莉音が両手一杯に大盛りのお皿を持ってくる。
「うは!おいしそう!」
みゆがはしゃぐ。
「お前…金持ちなんだからいい物食ってるだろ」
「ノンノンノン~、おいしい物には安いも高いもありませぇ~ん」
「…そうですか…」
「いっぱい食べてね~」
美人の女性がその場にいた。
「えーと、どなた?」
「あたしらの母親だよ」
「どうも~」
紫音、莉音の母親。
彼方三月。
つまり導の兄の妻なる人物。
「……琉嬉ちゃん。あんたのとこってどうしてこんな綺麗なお嫁さん貰うんだろうね」
護が不思議そうに聞く。
護は以前温泉旅行に行った時に琉嬉の母親と会っている。
その時は若々しくて美人で驚いた。
そして今回も驚いてる。
「そんな事知らないよ…」
まるで大家族のような、パーティのような人数。
寺のお弟子さんも交えてかなりの大人数に。
緋黄寺の夜はにぎやかになった。
「ふはー、食べた食べたー」
みゆは満足気だ。
他のメンバーも食べ終えている。
「お前…遠慮って言葉ないのか?しかも人より倍食べるし…」
超人的な食べっぷり。
みゆは人よりかなりの大食いだということが解かった。
「どこにそんなスマートな体に入るんだろうね…?」
御琴が呆れたように言う。
「たしかに…」
「さては…みゆちゃん…。アンタ、全てこっちに言ってるんだろ?」
護がみゆの胸をいきなり鷲掴みにしだす。
「うひゃあ!ちょちょちょっと…それはまずいですよ!護先輩!」
「全てのエネルギーがこの胸に…!」
普段こういう話が苦手な護がなぜか積極的だった。
考えが壊れたのかもしれない。
「そういう護先輩だってその胸に行ってるんじゃないですか?!」
「あたしは油断するとお腹にも肉がいくの!」
「なんで~私だけ~。寧音先輩だっておっきいじゃないですか!私より絶対大きい!」
「…な、なぜ私を見るんです?護さん…?」
「ターゲット~!」
「ラジャ!」
「ひ、やめてくださぁ~い!風紀の乱れですぅー!」
護とみゆが二人して寧音に襲いかかる。
滅茶苦茶だ。
「…男には入れない世界です……」
「安心しろ。御琴。僕にも分からん世界だ…」
唯一部員の中では男の御琴。
そして手一杯に鷲掴みする程、胸がない、琉嬉。
「さて、また探すか」
琉嬉はまだやる気全開だった。
「エー、まだやるの?」
みんなは気乗りではない。
たしかに半日がかりの如く探してもそれらしい文献もない。
ここにはないのか…。
あきらめモードだった。
「ここにはないって。やっぱりその鳴神さんっていうとこにしかないんじゃないの?」
紫音がするどいツッコミ。
「あー。うーん。そうなんだけどさ。それは柚羽に聞いてみたけど…」
「みたけど?」
「教えてくれない」
「マジか」
ガックリする紫音。
「まあまあ、もうそれはいいから、気分転換にお風呂でも入ってきなさい」
いつの間にかいた炎良。
炎良の気の利いた言葉だ。
「大きいお風呂あるから何人かは一緒に入れるよ」
「へー。いいね~」
「おー。これは護先輩と寧音先輩のないすばでぃを拝むチャンス…」
「何言ってるんだよ!」
言葉と同時に護の拳がみゆの頭を貫いた。
「あがーっ!」
「あはは、じゃあ私が案内しますね」
莉音が案内する。
「琉嬉ちゃんはいかないの?」
「んー。後で」
「残念~」
夜の寺の庭。
琉嬉はそこにいた。
「琉嬉姉」
こっそり声をかけたのは紫音だった。
「なんだ。紫音か。びっくりするじゃん」
いつもツンツンした表情とは違い、何か訴えそうな顔をしている。
「琉嬉姉さ…。何か焦っているよ」
「………」
「今までないくらい、焦った感じがある」
しばし沈黙が流れる。
紫音には解っていた。
「従姉妹とはいえ、解かるもんは解るんだよ?」
「…はは。そりゃそうだよな」
「みんな琉嬉姉が頼りになるから、ああ言ってるけどさ。逆にあたし達にも頼ってね。もっと」
「…うん」
「こう見えても彼方家の血筋。莉音や悠飛には負けないからね!」
「父さん達もいるしな」
「友達もいるでしょ」
「そうだな」
「…ねえ、琉嬉姉」
「ん?」
「一戦交えようか」
「へ?」
シュバッと鋭い一撃が頬をかすめた。
空気を切り裂くような切れ味のある掌底。
「突然何を…!」
有無言わさず次は蹴り攻撃が飛び出す。
「琉嬉姉遅いよ!」
「…むぅ!」
琉嬉もすかさず反応する。
「そうくるなら…!」
無理な体勢から強引に回し蹴りを放つ琉嬉。
小さいながらも回転させて一撃を重くする。
「見切れるっ」
琉嬉の攻撃が紫音に当たったと思いきや、いつの間にかはじき返されていた。
「…?!」
何が起きたかわからない。
だが、琉嬉の体は宙に舞っていた。
「むむ…!紫音…。やるな!」
「昔のままじゃないよ!」
「…僕もそうだけどね!」
二人は体勢を立て直す。
そして攻撃を仕掛ける。
……と思いきや、
「こらこら。二人で何やってるんだい」
「あ、叔父さん」
導がその場を制した。
「喧嘩かい?昔から君達はよくやってたからねぇ」
「いや、ケンカってわけじゃあ…」
「喧嘩だろうかなんだろうと、君達が戦ったらお寺が危ないでしょう」
そのとおりである。
全開の力を出す琉嬉が來魅と戦ったときも神社が危うく崩れ去るところであった。
「何よりおじいちゃんが孫同士で戦ってたらショック死でもしちゃうんじゃないかな」
「う…それは困る。けどそれはないと思う」
手をプラプラさせて否定する。
「たしかに」
二人は納得した。
かなりの孫を溺愛ぶりの炎良。
そんな様子を見たら気が動転でもしそうではある。
「腕試しはまた別な場所でするよ」
「…あのなぁ…紫音…。僕はお断りだ」
「あははっ」
「さあさあ、二人もお風呂でも入ってきたら?」
「はーい」
密かな戦いは一瞬にして終わりを告げた。
「おっふろおっふろ♪」
楽しそうに風呂場へ向かうのは來魅。
「お?あれは…」
寧音が奥の部屋から出てきた。
すると目が合う。
寧音は少し眉を吊り上げ、來魅が向かってくるのを待つ。
「やおー、寧音。一緒に風呂でもどうだ?」
手にはお風呂セットとも言える用具を持っている。
「私は…あなたを認めたとは思ってません…」
「認める?何のことだ?この前の話か?」
ほんの数日前、二人は戦っている。
最終的には琉嬉の攻撃で寧音は負けたような形だったが。
「フフ、お主もそのような生き方をしてて、辛くないか?」
「生き方?」
「そう。少し真面目過ぎるぞ?たまには手を抜くのもいいぞ?かつての私がそうだったように…」
「…かつて……?來魅。あなたは一体…」
「辛気臭いのはなしだ。ほれ、風呂に行こうぞ?」
「あ、ちょっと…準備がまだ…」
「じゃ、私が借りた物を使えば良い」
「………仕方ありませんね…(まったく…なんなんだ…この妖怪は)」
二人は結局お風呂に向かうのだった。
ちなみに、御琴だけは、別の大きい浴場の方ではなく小さい個人用お風呂に入ってた。
みゆに冗談か本気か分からない事を言われた。
「みこっちゃん、一緒に入る~?」
「なななな、何言ってるんだよ?!みゆちゃん…それはさすがにまずいでしょ!」
「えへへ?そーう?みこっちゃん、女の子みたいだから大丈夫だと思ってさ」
「いろいろヤバイと思うんで…遠慮しときます」
「ちぇー残念。なんてね。えへへ」
全力で拒否する。
いや、男であれば嬉しいお誘いなのかもしれないが。
みゆ一人ではないし、護や寧音がいたら…殴られるだけじゃすまなさそうだ。
「…はぁ……。ハーレム状態…ってやつなんだろうけど…これじゃ気が休まらないや…」
ブクブクと顔まで湯船に浸かる。
まったく、変な状況になったもんだと心の中で深く思った。
一方、大浴場では、琉嬉と双子姉妹が入っていた。
悠飛とみゆと護は先に入って出て行ったようだ。
脱衣所ですれ違いになるように出て行った。
ただ、みゆは変な動きしてすぐ着替えて出て行った。
みゆらしくもないなぁとそんな風に考えてた。
「琉嬉お姉ちゃん…成長してる?」
「うぐ…莉音まで言われるとは…」
「ええ?あの…ごめん…なさい」
「いやいいけど別に…」
まるで成長してないかのような言い方。
体は子供の頃からあまり大きくなっていない。
「大きくなったのは霊力の強さだけだよねー?」
「うっせい」
ぽかっと軽く紫音の頭を叩く。
「いたぃー」
「暴言を吐くからだ」
「暴言って言うほどじゃないと思うけど…」
「僕にとっては暴言だ」
ビシッと言い放つ。
本当に大きい風呂場。
あと4、5人入れそうだ。
温泉ではないが、銭湯みたいな形状している。
基本的には修行している弟子達が利用しているのだが、お客にも提供している。
新しく新築して、そんなに年数経っていないので綺麗だ。
ただ維持が大変らしく、弟子達混ぜて掃除などをしている。
当たり前といえば当たり前なのだが。
また、一応近くに温泉施設はあるが、どっちにしろ自宅感覚と変わらないので非常に好評だという。
ガラララッと扉が勢いよく開く音が聞こえる。
誰かが入ってきた。
「やおー、琉嬉と双子達よ~」
「來魅…っておい、やめ…」
ザブンッと勢いよく飛び込んで入ってくる來魅。
行動が本当に子供そのものだ。
「わぷっ…なにすんだ…」
「來魅ちゃん…落ち着いて、ね?」
「おう、すまぬ」
莉音の言う事には素直に従う。
「なんで莉音の言う事を…」
納得いかない様子。
「……あの、私も入っていいでしょうか?」
寧音が立ち尽くしていた。
しっかりとタオルで隠すべき場所を隠していた。
それに眼鏡をかけたままだ。
「寧音ー、眼鏡かけたままだよ?」
「これがないと私見えないんですよ!」
力強く強調する。
自宅のような狭い風呂場ならまだいいが、こう大きな風呂場ならそうもいかない。
まして慣れてない風呂場。
何がどこにあるか分からないからだ。
「んふふふー。寧音さん…だったけ?」
紫音がなぜか湯船から出ていき、寧音に近づく。
「あの、なんでしょうか?」
「いいからいいから、入りましょ」
背中を押して湯船の方へ押す。
「あの、ちょっと…」
「こんなタオル避けて、入りたまへ~」
タオルを一瞬の隙をついて取り払う。
「きゃっ、何するんですか!」
「おお~……」
琉嬉らは驚いた。
大きさに。
胸の。
「凄いな、琉嬉。みゆや護に負けておらんぞ?」
「なんで僕に言うんだよ……みんなして僕を陥れようとしてるのか……?」
ゆら…と立ち上がり、おもむろに桶に蛇口からお湯を入れる。
「ええと…琉嬉姉…何をしてらっしゃるのかな?」
「これでもくらえ!!」
バシャッと紫音を中心に桶に入れたお湯をぶっかける。
「うきゃー!冷たいいいいい」
「うおおこれは水ではないかぁぁぁぁ」
「なんで私まで~~~!!」
巻き添えくらい寧音。
入れたのは水だった。
「やりおったなぁ~お前様めぇ」
來魅も負けずに水を入れ出す。
逃げ回る紫音と寧音。
「やめてください~!」
「うひゃー、琉嬉姉も來魅ちゃんもこわーい」
わざとらしく言いながら逃げ回る。
「このこのこのー!」
キャッキャ言ってる紫音達。
しかし、ついにここで大きな流れが断ち切られた。
「……いい加減に……しろーーーーーッッッッ!!!」
「!!」
莉音が、どっから持ってきたのか蛇口から直接繋いだホースを持っていた。
そして…水をばら撒いた。
「ぎゃーっ」
「いやぁぁあぁ」
「なんで私までぇぇ」
などという、断末魔が響き渡ったという。
その日の事件は、後に語られる、「緋黄寺風呂場水撒き事変」として語られたとか語られないとか…。
「莉音って…怒ったら怖いんだのう…」
「普段大人しい方が怒ると怖いってのは本当なんですね…」
「り、莉音を怒らせてはいけない…のは分かってたハズなのに…」
「……バカ紫音」
莉音以外の4人は反省してた。
単なる巻き添えをくらった寧音は未だに納得はしていないが。
「ばっかだねぇ…琉嬉姉ちゃん達…」
悠飛が冷たいお茶を持ってきてくれる。
部屋の一番広い居間。
そこでみんな一休みしている。
「どーしたの~?皆さん」
不思議そうな顔して入ってくるみゆ。
みんな疲れた顔してぐったりしている。
「説明するのもバカバカしい…」
お茶を飲みながら言う琉嬉。
「ふーん…?あ、そうだ、みこっちゃんは私と一緒に寝るー?」
「な、何言ってるんだよ!みゆちゃん!僕は一人でいいよ…」
「えー、寂しいじゃんそれじゃ~」
「だーかーらー…」
「仲いいねーみゆと御琴は。付き合っちゃえば?」
「つ、付き合うって…そんな僕みたいのが」
「お似合いだと思うけどな」
「だって~?みこっちゃん」
まんざらでもないのか。
みゆはノリがいいから冗談なのか本気なのか分からないような発言を繰り返す。
「ほらほら、みんな、そろそろ寝なさい」
導がそう促す。
「はぁーい」
「私は眠くないんだがのう…」
「このニート妖怪め…」
琉嬉は無理やりに來魅を連れて行く。
「ハハ、小学生の子供みたいだな二人共」
「それを言うとまた琉嬉ちゃんに殴られますよ、お父さん」
父親と祖父の会話。
どうやら炎良は以前琉嬉を怒らせて殴られたようだ。
寝床は二年生チーム+來魅と一年生チーム+中学生チームに分かれた。
双子の方は悠飛と一緒。
普段は年上の男が多いので同年代くらいの女の子達と一緒にいるのが楽しそうだった。
「ねー、琉嬉ちゃん」
「…なんだ」
「どーするの?結局手がかりみたいなのなかったし…」
「今回は諦めるか。仕方ない」
「うーん、それは残念だね…」
「それと……生徒会の人達をどうするか…だな」
寧音の方をチラっと見る。
「生徒会は寧音の方で説得出来ないの?」
「…説得ですか?んー、まあ…普段からそこまで仲良いほどじゃなかったですしね…。
多分、あちらはあちらでそんなにいいとは思ってませんけど?」
「そうなの?」
「…あくまでもあれは上辺だけであって、元々まとまりがないですからね…」
「そうなのか?そうは見えないけど…寧音が言うのならそうなんだろうけど」
「それより…琉嬉さん」
「ん?」
琉嬉を見る目が少しおかしい。
髪をほどいた琉嬉はストレートの綺麗な黒髪。
寧音はそれを見て思わず…抱きしめた。
「琉嬉さん、なんかお人形さんみたいで可愛いです」
「……助けて護」
「…なんだこりゃ」
翌朝。
「結局お泊り会になっちゃいましたね」
そのままお寺に泊まった面々。
炎良の粋な計らいでそうなった。
「お泊りセットとか持ってくればよかったね~」
「一日くらいどってことないでしょう」
成り行きまかせ。
それが得意なメンバーであった。
「なんか…結局解かる事あまりなかったね…」
ボソっと痛いところを呟く悠飛。
「…まあそう言うなって」
琉嬉がフォローする。
「でも、あらためて頼りになる人達がいるって事が分かったからいいさ」
「え?」
「いや、なんでもない」
照れくさいセリフに琉嬉は思わず自分で赤面していた。
悠飛は理解出来ないでいた。
「どうもありがとう、お父さん」
「まあ困った事あればまた来い。琉嬉と悠飛も。そのお友達さんもな」
「また来まーす!」
みゆが無駄に元気の良さを見せつける。
「お前は黙ってろ…みゆ」
「琉嬉姉。またね」
「またねー」
「…うん」
久々の従姉妹同士の再会。
少し名残惜しそう。
「琉嬉や」
「ん?じいちゃんどうしたの?」
「これを」
懐から出したのは柳樹の日記帳だった。
「…柳樹さんの日記帳?もしかしてこれに…?」
「それに直接関連付くものは書いてないが、がしゃどくろとやらと似てるような事は書いてるぞ。
ま、これを琉嬉が保管しとけ」
「え?いいの?これ…重要じゃ…?」
「フフ。これを見よ。紫音」
「じゃーん」
じゃーんと言いながら紫音が出したもの。
それは日記帳をコピーした用紙と、USBメモリ。
「…それに同じ内容入れたって事?」
「そのとーり!お寺の若いもんに徹夜でやらしたぞ!はっはっは」
炎良の後ろにいる若い弟子の一人。
表情が冴えてない。
「ひっでぇ…」
やる事はやっていたようだ。
原本は琉嬉に預けた。
お寺ではデータ化したのも念の為に保存。
時代は進んでいた。
「じゃ、出発するよ~」
導が言うと車を発進させた。
双子姉妹に見送られ琉嬉達は自分達の所へ帰っていった。
護が思い立ったように帰りの車の中で琉嬉に話しかける。
「ねえ、琉嬉ちゃん」
「何?」
「何かあった?昨日と比べて表情が明るいていうか…」
「…まーね。久々に従姉妹達にあって楽しかったかな」
「ふうむ…」
それだけだろうか?
どうもひっかかるようななんなのだろうか…。
護はそれほど長い付き合いでもないのに琉嬉の嬉しそうな表情に感づいていた。
「護さんも気づいてたの?」
悠飛がそっと護に話す。
「うーん。昨日と何か違うんだよねぇ」
「フフ。さすが護さんだね。一番の親友」
「親友って…。なんか照れるなぁ」
親友と言われて照れる護。
「姉ちゃんはさ、見ての通り普段は無口で無表情なんだけどね。そこに気づくってのはさすがだなって思うよ」
「逆に悠飛君は家族だねって思うけどね~。やっぱ気づいてたんだ」
「うん。長い間妹やってるしね」
「ははは、そうだよね」
「きっと姉ちゃん、嬉しい事あったんだろうね。昨日」
そこで、その会話を聞き逃さなかった人物がひとり。
眼鏡がキラッと光った。
「な、なんですと…?琉嬉さん、私も親友ですよね?!」
「なんだいきなり…なぜ抱きついてくる?!」
「あちゃー、寧音先輩の必殺抱きしめ攻撃が出てしまったか~」
なぜか写メを撮り始めるみゆ。
「はっはっは、賑やかでいいねっ」
運転手導もご機嫌だ。
琉嬉はそれでも携帯ゲームをやろうとしている。




