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俺の右手に悪魔がいる件  作者: 南蛇井


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scene2 暗闇

しばらく校門で待つ三人

相良は、ぼそりとつぶやいた。


「…なんか...こう悪魔って...もっとこう...恐ろしいもんじゃないのか...」

田中は肩をすくめる。


「個体差が激しいのよ」

金澤はため息をついた。

「今度はまともな悪魔見つけてよね」


「まともな悪魔って何だよ…」

相良は空を見上げ遠い目をした。


そのまま無言で張り込みを続ける三人。

退屈な時間が経過していく。

「平和だな…」

「悪魔探しが平和だと?」

相良のつぶやきに田中が答えたその時。


一人の女子生徒が通り過ぎていく。

ショートカットで小柄なその姿...その背後…。


ぴたり、と何かが”くっついていた”。


それは黒。

いや、黒と言うより漆黒、光を吸い込むような闇。


人の形をしているようで人の形をしていない。

ただ顔らしきものが不気味に歪んで笑っているように見えた。


「な、なんか...ヤバくないか? あれ」

相良の声が震える。

「なにか...近くを通っただけで、どんより暗い気持ちになったわ」

金澤の顔をしかめながら言う。

「まずいわね。暗闇の悪魔...うかつに近づくと心が闇に堕とされるわよ」

田中の表情が引き締まり警戒心が高まった。

その瞬間。


女子生徒が足を止めた。

ゆっくりと振り返り相良たちを見た。


「あなたたち...」


その声は静かだった。

ただ、何か重くのしかかる感覚を感じさせた。


「悪魔の臭いがしますね」


「おい、気づかれてるぞ」

小声で言う相良に対して、田中は指をさして平然として言う。

「悪魔?悪魔はこいつよ」

「そうよ。こいつが悪魔で私たちは無関係よ」

金澤も即座に同調した。

「待てお前ら、裏切り感がすごいぞ!さっきまで一緒に悪魔を探す仲間だろ」

抗議する相良を女子生徒はじっと見つめた。

「あなた...悪魔なんですか?」

「違う違う!食べただけだ!」

「それって悪魔より悪魔っぽいわよね」

「田中!余計な事言うな!って言うかそういうお前も悪魔憑けてるじゃんか!」

相良は女子生徒を指さした。

女子生徒はゆっくりとうなずく。

背後の黒い塊がぐにゃりと歪んだ。


「そうです。これは相棒です。この相棒とともに世界を闇に堕とすのです」

「闇に堕とすってなんだよ...」

相良は半歩後ろに下がった。

女子生徒の瞳が、暗く沈む。

「悪魔の世界です。人間なんて滅びれば良いんです」



そして沈黙。


沈黙を破るように相良がぽそりとつぶやく。

「なんだかな...金澤さんといい…うちの学校、俺以上に病んでる人間が多いのか…」

「あんな危険思想と一緒にしないでよ」

「学校燃やそうとした時点で大して変わらないと思うが…」

「変わるわよ!」

言い争う二人を横目に、田中が一歩前に出ると暗闇の悪魔を指さした。


「暗闇の悪魔!そんな事は私がさせないわ」


宣言とともにそのまま相良を指さす。


「こいつが相手するわ」

「なんで俺だよ!お前がやれよ」

「あなたしか悪魔の力もってないわよね」

田中の言葉に金澤もうなずいた。

「そうよ。責任もってなんとかしてよね」

「責任って言葉を便利に使うなよ」

頭を抱えた相良に対して暗闇の悪魔がのそりと近づいていく。

闇の悪魔は音もなく笑い、ゆっくりと口を開いた。

近づく悪魔に対して相良は覚悟を決めていく。

「やるしかないのか...」

相良は変色した右手を見つめる。


女子生徒が顔を上げた。

その瞳は底なし沼のように深く暗く輝いていた。

「まずは...あなたから…」


黒いオーラが、じわりと広がっていく。

むせるような黒さに、真っ先に影響を受けたのは金澤だった。


「…やっぱり…」

金澤の目が黒く落ちた。

「やっぱり学校なんて大嫌い...全部燃えてしまえばいいのよ。相良君燃やしてよ。学校を全部燃やしてよ」


「...元に戻った感じだな...」

相良は遠い目をした。


しかし事態は思ったより深刻な状況へと変化していく。

広がっていく黒いオーラが辺り一帯を覆いつくしていく。

通り過ぎる生徒たちの表情が次々と暗く沈んでいく。


「だるい...学校だるい...」

「帰りたい...って言うかなんで生きてんだろ...」

「もう...何にもしたくない...」


空気そのものが重くなっていく。

そして田中までも...。

「もう…悪魔とかどうでも良い気がするわ...」

その場にぺたんと座り込んでしまった。

「...このままここで朽ちてしまおうかしら...」


相良は叫んだ。

「おい!しっかりしろ!お前がやられてどうすんだよ」


周囲の生徒たちはみんな無気力な顔で立ち尽くしていた。

金澤もどんよりしている。


だがしかし......。


相良だけは何も変わっていなかった。


女子生徒は目を見開いた。

「どうして...どうしてあなたは平然と普通にしているのですか…?」

「ふっ、それはな...俺が陰キャだからだ」

「は?」

「この程度の黒いオーラなんか日常だ!」

その宣言に女子生徒は憐みの表情を浮かべる。

「...悲しい耐性ですね...」

「うるさい!暗闇の悪魔なんか!」

相良が右手を出す。

「悪魔!あいつを倒せ!」


ぐにゃりと右手が歪み、赤黒い炎を纏った黒い影が出現する。

炎の影が混ざり合い人型へと変わっていく。

人型はその場で立ち尽くした。


「...おい...悪魔…?」

「おい、俺の相手はコイツか?だいぶ陰気臭いな。やる気無くなるぜ」

「ちょっと口が悪くなったか…」

相良がぼそりと言う。

次の瞬間。

影が地面を蹴った。

黒い炎をまとった拳が唸りをあげる。

どごぉっ!!

闇が弾ける。


弾けた闇は一か所に集まり人型に戻る。

「あなたみたいな悪魔、闇に落ちてください」

女子生徒の叫びとともに黒いオーラがより濃くなり影の悪魔を包み込んだ。


…それでも...。

「だりぃな!だけど関係ねえ!お前おぶっ殺す!」

炎のパンチが闇に襲い掛かる。

砕け散る闇。


「...そんな...」

愕然とする女子生徒。


地面に落ちた闇は煙を吐き小刻みに震えていた

相良はそっと近づき落ちた闇を拾った。

「こんなやつ…俺が食ってやる!」



相良は無理やり闇を口へと放り込んだ。


「うおっ――!」

ぶちゅっ。

「辛っ!!」

相良が涙目になる。

「なんかこいつ辛いぞ!」

口から黒煙を吐きながら叫ぶ。

「悪魔ってのは毎回こんなにマズイのか!?」


その瞬間、黒いオーラが霧散し消えた。

周囲の生徒たちに光が戻り元に戻っていく。

「……あれ?」

「なんで俺座ってたんだ?」

女子生徒は、その場に崩れ落ち憑き物が落ちたように、ぼんやりとしている。

その様子を見て田中が満足げにうなずいた。

「危ないところだったけど何とかなったわね」

「お前は何もしてないだろ!」

「精神的な柱ではあったはずよ」

「真っ先に折れてたよな」


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