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俺の右手に悪魔がいる件  作者: 南蛇井


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scene3 闇

「赤峰さん...あなた...」

田中が赤峰を睨みつける。


「悪魔だったのね」


音が消えた。

赤峰は否定しない。

むしろ嬉しそうにほほ笑んだ。

「今頃気づいたんですね」

佐々木が目を見開く。

「赤峰が...悪魔だって…!?」

田中がゆっくりと息を吐いた。

「暗闇の悪魔……」

全てが繋がる。


「相良君に食べられたわけじゃなかったのね」

「あれは…私の一部です」

赤峰が静かに答える。

相良がかつて取り込んだ「闇」。

それは赤峰自身が作り出した欠片。

田中の表情が険しくなる。


「何が目的」

そして相良を見る。

「相良君で何をする気?」

「養分です」

赤峰は一切迷うことなく答える。

「……養分?」


「暗闇成分です」

赤峰は笑顔のまま変わらない。

「悪魔の力を吸収して強くなった相良君が最後に闇堕ちする…」

その瞬間を想像し幸せそうに目を細めた。


「それが私にとって最高の栄養なんです」


佐々木が顔をしかめる。

「栄養ってなんだよ!」

赤峰は当然のように答える。

「育った心の闇です」


その瞬間、彼女の身体がゆっくりと崩れ始める。

制服が黒く溶け、髪が闇に変わっていく。

手足が細長く伸びる。

影そのもの化のような黒い人影。

光を吸い込む漆黒の存在。

暗闇の悪魔本来の姿へ。


「相良君」


赤峰は優しく名前を呼んだ。


「もう誰にも邪魔されません」


闇が大きく広がり相良の身体を優しく抱き寄せる。


「おい!」

佐々木が駆け出す。

「させないわ!」

田中の右手が相良の腕をつかんだ。

だが、遅い。


「無駄です」


黒い闇が田中の手を引きはがした。

そして完全に相良を飲み込んだ。


それはまるで母親が子を抱くようだった。

暗闇の悪魔が相良の身体を自らの中に取り込み、静かに笑った。


そして相良の身体は完全に消えた。

呆然と立ち尽くす。

言葉を失い、ただ暗闇の悪魔を見る。

佐々木は刀を握りしめる。


赤峰が穏やかに微笑んでいる。

まるで長年探し続けていた宝物を手に入れたかのような笑み。


「佐々木君、もう終わりです」

赤峰は白く閉ざされた空間を見た。

「ここから出ましょう」

佐々木は首を振った。

「無理だな...俺はお前を倒す!」

赤峰は困ったように小さく笑う。

「死んじゃいますよ」

「そうなったら空間が閉ざされたまま、全員出られなくなるだけだ」

金澤の顔色が変わる。

「ちょっ、佐々木!それは困るんだけど!」

田中が珍しく少し焦った顔をする。

「佐々木君、勝たなくていいから死なないで」

「俺だって死ぬ気はねえんだよ!!」

叫ぶと同時に佐々木は床を蹴る。

白い空間を一直線に駆け、刀を振り下ろす。


一閃。


しかし闇が刀を止める。


「なっ......!」


そして次の瞬間


ズンッ!!


身体全体にとてつもない重圧がのしかかる。

床に押し付けられる。

「ぐっ...!」

佐々木が歯を食いしばる。

「くそっ、もう取り込まれて...るのか」

「早く閉鎖領域を解除してください」

赤峰は淡々という。

「嫌だ……!」

佐々木は必死に身体を支える。


「死んでも解除しねえよ......」


重力がさらに強まり骨がきしんだ。

「…ってか…」

佐々木が苦笑する。

「死んだら解除できねえか……」

誰も笑わなかった。

その言葉の重さを理解していたから。

佐々木が倒れれば、この空間は永遠に閉じられる。


佐々木は必死に立ち上がろうとする。

しかし身体は動かない。

潰されないよう耐えるだけで精いっぱいだった。



…その頃。

深い深い闇の中に、ぽつんと一人の少年がいた。


相良。

小さく膝を抱えてうずくまっていた。


どこまでも黒い世界。

音もなく誰もいない。

話しかけてくる人間も。

悪魔も。

田中も。

佐々木も。

金澤も。

そして赤峰も。

誰も。


「......誰もいない……」


相良はぽつりと呟く。

静かだった。

それはとても静かだった。

誰にも期待されず誰にも何も言われない。

戦えとも、悪魔を食べろとも言われない。

学校に行けとも言われない。

人類の為に戦えなんて言われない。

誰にも何も言われない。

干渉されない。

責任もない。


その静けさは心地よかった。

相良はゆっくりと目を閉じる。

「……ここなら…」

少しだけ笑う。

「…楽だ……」

誰もいない場所で相良は静かに暗闇に身を預けていく。


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