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俺の右手に悪魔がいる件  作者: 南蛇井


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scene4 ミナト

教室に静寂が落ちた。

黒い右手。

そこから現れた港によく似た悪魔。

誰もが言葉を失う中、北条はゆっくりと前へと歩みを進める。

その先にいるのは重力の悪魔。

北条は目の前に立ち悲しげな顔をする。


「あなたも悪魔だったのね」


その言葉に迷いはなかった。

重力の悪魔は女子生徒へと姿を変えていく。

女子生徒は苦しそうに胸を押さえた。


「違う...北条…さん…」


女子生徒は必死にうったえる。

「あなたを...慕う...同級生...」


北条の瞳は揺れない。

「違わないわ」

静かに右手を上げた。


「あなたは悪魔よ。天使の力で殺してあげるわ」


その一言に北条の右手の悪魔が反応する。

「...あいつを殺ればいいのね」

北条はうなずく。

「そうよ。ミナト」


相良の背筋が凍る。

「みなと…やっぱり…」


田中が静かに結論を口にする。


「食べたのね」


北条は誇らしげに笑った。

「そうよ。そして私は天使の力を手に入れた」

「むしろ悪魔だろ」


相良は冷静にツッこんだ。

しかし相良の言葉を北条は聞いていなかった。


湊の姿をした悪魔...ミナトが指を伸ばす。

ミナトに呼応するかのように女子生徒は姿を変える。

黒く巨大な悪魔へと。


ミナトが腕を振り下ろす。

鋭く伸びた指先が重力の悪魔に襲い掛かる。

だが…。


「無駄...よ...」


重力の悪魔の前に重力の渦が出来る。

重力がミナトの指に集中する。

指先が床へと押しつぶされて。めり込んでいく。


「無駄よ!」

北条が叫んだ。

「重力で音は死なないわ」

ミナトは裂けた口で笑う。

次の瞬間。

押しつぶされる指から不協和音が響きわたる。

音が空気を震わせる。

重力の悪魔に衝撃波が叩き込まれる。

「きゃぁあ!!」


悲鳴とともに重力の悪魔は吹き飛び机を弾き壁に激突する、

それでも必死に立ち上がる。


「ぐぎゃぁぁああ!!!」


重力の悪魔の叫び。

しかしその膝は震えている。

崩れ落ちそうになる重力の悪魔。


その時だった。

田中が駆け出す。


「ハンド」


田中の右手に白い影が出現する。

白い手が伸びる。


「相良君食べて!」

「いや、俺は...」


重力の悪魔をつかもうとしたその時。

北条が飛び出していた。


「させないわ」


北条が重力の悪魔を掴んだ。

悪魔の悲鳴。

そして北条の口の中へ消えていく。

北条は悪魔の力を奪った。

誰も止められなかった。

黒い塊が北条の口の中へと吸い込まれていく。


北条はゆっくりと顔を上げた。

その口元には笑みが浮かんでいた。

嬉しそうに。

満たされたように。

恍惚とした笑みだった。


「悪魔なんて...天使の糧になればいいのよ」


教室が静まり返る。

信じがたい光景、最悪の状況。


田中も。

佐々木も。

金澤も。

赤峰も。


誰もが言葉を失っていた。


相良だけが小さくつぶやいた。


「……北条さん......」


北条の右手。

そこに宿るミナトがゆっくりと笑う。

重力の影をまとい、その姿をゆっくりと変えていく。

より大きく不気味に…。


その横で北条がゆっくりと腕を上げる。

その指先がゆっくりと相良を指した。

満面の笑み。

どこでも純粋な笑顔だった。


「さあ......次はあなたよ」


相良の背筋に冷たいものが走る。


「待ってくれ。俺は悪魔じゃない」

相良は両手を上げうったえる。

しかし相良に向けられた指先はそのまま…。

「でも悪魔を宿しているわ」

「それは北条さんも一緒だろ!」

相良は北条の右手を指さす。

黒く歪んだ右手。

そこには悪魔が宿っている。

しかし北条は首を振った。

「これは天使の力よ」

「同じものだよ」

北条は顔をゆがめる。

「そんな汚らわしい悪魔と一緒にしないで!」

「滅茶苦茶言ってるぞ。食べた悪魔が右手にいる。俺の右手と一緒だ」

しかし北条は聞く耳を持たない。

一緒だ。

何も変わらない。

それなのに北条の中で完全に区別されていた。


その時赤峰が声をあげた。

「相良君、北条さんごと悪魔を食べましょう」

「何を言ってるんだ」

「悪魔二匹分です」

「人間も食べることになるだろ!」

「ついでです」

「ついでで済ませるな!」

相良の声が響いた。


「人間、食べたら終わりだよ!心病むだろ!」


その言葉に赤峰が笑顔になる。

「最高です」

「最低だよ」

「闇が深くなります。深淵です」

「深淵に堕とそうとするなよ」


その会話に金澤がうなずく。

「そうね。湊先生食べられるところ見そびれたから、その代わりは必要よね」

「要らないよ」

相良は即答した。

「見世物じゃないんだよ。そもそもさ!」

「イベントでしょ!」

「絶対違うよ!」


相良だけが必死だった。

その時だった。


「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」


北条が突然叫びその場に膝をついた。

右手から出ていたミナトの姿が崩れ黒い影となり右手に戻っていく。


そして異変が起きる。


北条が黒く染まっていく。

腕から肩へ。

肩から首へ。


全身に黒が広がっていく。

皮膚が変色し骨がきしんだ。

爪が伸びる。

口が裂け牙がのぞく。

体が大きく膨れ上がる。


佐々木が刀を握りなおす。

「おい...おいおい…」

金澤が後ずさる。

「ちょっと...やなくない」

赤峰が目を細める。

「相良君以上に暗い感じがします」

「俺を基準にするよ」


黒い体。

長く伸びた爪。

獣のような牙。

複数の悪魔が混ざったような異様な体。

相良はつぶやく。


「なんだよ…あれは…?」


田中は冷静に異形を見つめる。

そして静かに答える。


「暴走した...」


相良が振り向く。

「暴走?」

「そうよ体質が合わなかったのね」

田中は続けた。

「悪魔を食べても誰でも相良君みたいになるわけじゃないわ。暴走して悪魔に人間の方が食われることもあるわ」


その言葉と同時に北条だったものが顔を上げた。

赤く染まった瞳。

口元からは鋭い牙がのぞいていた。

もはや生徒会長だったときの面影は消えていた。

しかし...。

微かに残った意識が呟いた。


「…て…ん…し…」


その声に誰も返事が出来なかった。


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