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俺の右手に悪魔がいる件  作者: 南蛇井


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scene3 歪んだ天使

右手の悪魔が膝から崩れ落ちた。

「なんだこれは!!」

悪魔ですら驚いていた。

それでもゆっくりと起き上がり前へ進もうとする。

一歩、また一歩。

しかしその足は見えない泥沼を歩いているかのように床に沈み込んでいく。

「だりぃ…!」


それでも悪魔は女子生徒へ近づいていく。

近づき拳を握った。

殴りかかろうと腕を振り上げた...その瞬間。


ふわり。


悪魔の身体が宙へ浮いた。

「なっ!?」

拳は空を斬り身体が浮き上がる。

女子生徒は静かに言う。

「重力...は...重く...なる…だけじゃない...」

悪魔は宙を舞った。


「重力そのものを操る悪魔かよ...」

相良がバランスを崩しながら立ち上がろうとする。


その瞬間、佐々木の目が光った。

「動ける!」

低重力下なら動ける。

佐々木が一気に刀を抜く。

しかし再び重さが発生する。


地面に叩きつけられる佐々木。


「無駄...よ...何もさせない...」


その瞬間だった。

女子生徒の体が裂ける。

小柄だった身体は少しずつ大きくなっていき巨大な重力の渦が浮かび上がる。


田中が状況を冷静に分析する。

「憑りつかれているってわけじゃなさそうね」

相良がつぶやく。

「ってことは…?」

佐々木が険しい顔をする。

「悪魔そのものってことかよ」

「そうね...重量の悪魔よ」


相良が叫んだ。

「悪魔!殴り倒せ!」

悪魔が重力に逆らい拳を握る。


「何も...学ば...ないの...ね」


再び悪魔の体が浮いた。

相良は叫んだ。

「だったら悪魔!炎だ!」


「くそったれが…!」

悪魔が叫ぶ。

黒い炎が渦を巻き、熱風が空気を揺らした。


しかし...。


炎が小さくなった。

そして...ふっと消える。


「な、なに!?」

相良が目を見開く。

悪魔も驚いている。

「なんで消えやがった!」


「勉強不足...ね」


その声はもう女子生徒のものではなかった。

低く、不気味に震える声。


「低重力下では…空気の対流が...起きづらい...」


空気が動いていなかった。

炎を維持するための流れが作れない。


「炎は...無力...よ」


田中がつぶやく。

「知性のある...悪魔」

佐々木が顔をしかめる。

「頭が良いって事かよ...」

田中は佐々木を見る。

「少なくても佐々木君よりはね」

「うるせえよ」

「ま、面倒くさい相手だって事は確かよ」


相良は額に汗をかいた。

赤峰が叫んだ。

「相良君!暗闇の力です」

相良は必死に体を起こす。

「残る力はそれか…悪魔、闇だ!」

「いちいち命令すんじゃねえぞ」

悪魔がより深く黒くなっていく。

闇が重力の悪魔を包み込もうとしたその瞬間。

重力の渦が大きくなり闇を飲み込んでいく。


「闇も...光も…関係...ない...」


相良は絶望する。

炎も拳も...闇さえも通じない。

「どうしたら...」


重力の悪魔が笑った。

「このまま...潰される...それとも無重力で...窒息...する?」


その時だった。

教室の扉が勢いよく開く。

全員が一斉に振り向いた。

そこに立っていたのは......。


「北条さん!!」

相良が声をあげた。


北条佳奈。

生徒会長にして天使を名乗る女。

しかしその様子に違和感を感じた。

何かがおかしい。


北条の右手。

彼女の右手が黒く歪んでいた。

黒く歪んだ闇が右手にまとわりついていた。


「その右手...」

相良の声が震える。

北条がゆっくりと腕を上げる。

右手から黒い影があふれ出しゆっくりと形を変えていく。

煙のように揺れながら人の形へと変わっていく。


長い髪。

裂けた口。

それはどこかで見たことがある姿。

佐々木の顔色が変わる。

「おい...嘘だろ…」

田中も目を細める。

「あれは...」


北条の右手から出たそれは歪んだ笑みを浮かべていた。


その姿は...。

あまりにも似ていた...湊に...。

長い指がゆっくりと伸び揺れた。

裂けた口元がわずかに開いた。


「...佐々木君…殺すわよ」


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