scene2 重力
北条佳奈。
光の悪魔に憑りつかれていた生徒会長。
しかし今は光の悪魔を取り上げられ普通の人となったはずだった。
佐々木が腕を組む。
「確かにこの場に来ていない時点で怪しいな」
「でしょ?今回の犯人だと思うわ」
田中の言葉に相良が呆れたように言う。
「学年違うし、ここにいないほうが普通だろ」
「いいえ、やましい事があるから来ないのよ」
「確かに、先に捕まえておくべきだったな」
納得する佐々木に相良は呆れる。
「確かに、じゃねえよ。北条さんが何かした形跡も証拠もないよな」
「証拠そんなものは必要ないわ。怪しいか怪しくないかよ」
「なんだその冤罪社会は!日本は法治国家だろ」
「悪魔相手に法は無力よ」
「そもそも北条さんは悪魔じゃないし」
「悪魔みたいなものよ」
「だとすれば、ここにいる全員そうだろ」
そして3-Aの教室の前。
「なあ本当に入るのか…」
相良はちょっと躊躇した。
上級生の教室に殴り込みをかける勢いで来てることに対して気まずいものを感じていた。
しかし、3-Aの扉が勢いよく開かれた。
「北条佳奈!!覚悟しなさい!!」
田中の高らかな宣言が教室中に響き渡った。
だがしかし...。
教室にいたのは北条ではなかった。
一人の女子生徒が窓際の席に座っているだけだった。
突然乱入してきた五人を見てびくりと肩をあげた。
「ひっ......」
教室の空気が凍り付く。
相良はゆっくりと周囲を見回した。
誰もいない机。
夕日に照らされた教室。
北条どころか女子生徒が一人いるだけである。
「まあ放課後だし、みんな帰るよな...」
そういうと相良は田中を見た。
至極まっとうな意見であり当然の事なのだが田中は全く気にしていない。
「北条...逃げたわね」
「いやいや... 帰っただけだろ。しかも先輩を呼び捨てって…」
田中は気にすることなく女子生徒に近づいていく。
「ねえ、北条しらない」
「し...知らない」
突然乱入してきた怪しげな後輩たちに女子生徒は完全に怯えていた。
「そう、やっぱり逃げたわね北条」
「いや、普通に帰ったんじゃないか?だってもう放課後だぞ」
田中の言葉に相良が呆れながら言う。
しかし田中は納得しない。
「生徒会長よ?帰るわけがないわ」
「生徒会長だって帰るだろ」
「帰る家があるの?」
「普通あるだろ」
「生徒会室にでも住めばいいのよ」
「無茶苦茶言ってるぞ」
「生意気よ」
「お前のほうが生意気だよ」
田中と相良のやり取りを見ていた女子生徒は口を開いた。
「…あの...あなたたち突然来て...失礼」
相良は慌てて頭を下げた。
「あっ、すいません。こいつが失礼で」
「私に失礼なんて言葉はないわ」
「ずっと失礼だよ」
田中の即答に相良はため息をついた。
しかしその時。
震えていた女子生徒の表情がわずかに変わった。
女子生徒はゆっくり立ち上がった。
「...だめ...北条さん...呼び捨て...許さない...」
静かな声だった。
相良は再度謝る。
「いや、本当にすいま...」
しかしその言葉が言い終わる前に...。
ドンッ!
まるで見えない何かが全員にのしかかる。
「ぐっ......!?」
佐々木が膝をついた。
「な、なんだ......体が急に重い...!」
床が足を引きずりこもうとしている感覚。
肩に何十キロもの重りを乗せている様な圧力がかかる。
田中も耐えられずに膝をつく。
「これは...重力...」
金澤は机にしがみつき、赤峰も床に手をついた。
相良は完全に床につぶれていた。
相良は必死に顔をあげ女子生徒を見る。
「これは...まさか...」
重い空気。
異質な圧力。
こんな事は普通の人間には出来ない。
田中が苦しそうに顔をあげる。
「悪魔ね...」
女子生徒が静かに見下ろす。
ついさっきまで怯えていたはずの少女の目からその恐怖は消えていた。
「北条さん...を...悪く言う...人...嫌い」
その言葉と同時に圧力が増していく。
佐々木が歯を食いしばった。
「ぐっ......重くて動けねえぞ…!」
床に片膝をつき、なんとか顔をあげる。
床に倒れた相良が叫んだ。
「悪魔ハンター、なんとかしろよ!」
「お前もだろ」
佐々木が叫んだ。
「コンビだろ!!」
「違うよ!」
日常的なやり取りだが今は笑う余裕すらない。
金澤が床に座り込みながら言う。
「そんな不毛な言い合いは良いから!早く何とかしてよ」
「俺もそう思ってるよ!」
佐々木は腰に手をやり刀を抜く動作をしようとする。
空間を閉じさえすれば相手の力は半減する。
だが...。
「ぐっ...腕が...上がらねえ...!」
全身に鉄の重りをつけたような重さだった。
そのまま崩れ落ちる佐々木。
相良は倒れながらも必死に右手を動かす。
「くそ...なんでこんな事に...悪魔!!出てこい!」
相良の右手から赤黒い悪魔へと変わっていく。




