scene5 誰もいない
そしてついに翌週...決戦の日がやってきた。
放課後。
廊下を歩く一団の姿があった。
先頭を歩く佐々木。
その後ろを歩く一行。
相良は少し離れた最後尾を歩いていた。
何ならこのままフェードアウトしそうな勢いだ。
そんな相良がため息をつきながらぼそりと言う。
「なあ、なんでこんなに大勢で来てるんだよ」
金澤が即答する。
「湊先生が食べられるところが見たいからよ」
「普通は見たくないだろ」
悪魔とは言え教師が人に食べられる姿が見たいなんて発想の女子高生が存在していることが異常である。
赤峰が当然のように答えた。
「相良君といつも一緒だからです」
「離れてくれて良いんだけど」
「なんてこと言うんですか」
赤峰は胸に手を当てた。
「今日、邪魔者がいなくなるから一緒に帰るんですよ」
相良は足を止める。
「じゃあ食べない」
「なんてこと言うんですか、悲願達成ですよ。絶対完食してください」
「余計にやる気がなくなってきたよ…」
相良は頭を抱えた。
湊を食べた後、赤峰との距離が縮まる。
出来れば食べずにやり過ごしたい。
そう思いながら相良は前を歩く田中を見る。
「...でなんで田中はいるんだ?」
「食べるときに私のサポート必要でしょ」
「食べないという選択肢はないのか?」
「ないわ」
「俺の人権」
「ないわ」
「それはさすがにあるだろ!」
そのやり取りを聞いていた赤峰が真面目な顔で言う。
「もしかしたら陰キャにはないのかもしれません」
「そんなわけねえよ!」
陰キャにも人権はある。
それだけは断言できる。
先頭を歩いていた佐々木が振り返る。
「大丈夫だ!」
「何がだよ」
佐々木は笑顔で親指を立てる。
「人権がなくても戦える」
「戦えなくていいから人権をよこせ!」
結局ここには相良の味方はいない。
それだけが何となくわかった。
そして音楽室も前に到着する。
佐々木が勢いよく扉を開ける。
素早く中に入り戦闘態勢をとる。
しかし...。
そこには誰もいない。
静まり返った音楽室。
夕暮れに照らされたピアノ。
音楽室という日常の光景。
そこには湊の姿はなかった。
佐々木が舌打ちをする。
「ちっ...逃げやがったか」
相良は首をかしげる。
「そんなことあるか?
佐々木より湊先生のほうがやる気十分だっただろ」
実際、毎日むき出しの殺意が佐々木に向けられていた。
当日になって急に殺る気をなくすとは思えない。
佐々木が不満そうな顔をする。
「恐れをなしたか…せっかくシフト入れてきたのに」
「そのシフト制なのなんなんだよ」
「相良...働き方改革だ」
「悪魔退治ってそういう事じゃないと思うぞ」
田中が冷静に言う。
「そもそも佐々木君ごときを恐れるかしら?」
「ごときってなんだよ!」
金澤もうなずく。
「確かに佐々木ごときに恐れをなすわけがないわね」
「あのな一応一人前の悪魔ハンターなんだからな悪魔に恐れられて当然なんだからな」
「でもね...佐々木だからねえ」
「じゃあ、なんだって言うんだよ」
田中は宙を仰ぎそして答えた。
「……うーん...誘拐?」
全員が黙り唖然とする。
佐々木が顔をしかめる。
「また?誘拐グセでもあるのかよ」
確かに前にも誘拐されてはいる。
その挙句に行方不明にもなっていた。
今回もまた誘拐となれば、もはやそれは事件でなく趣味である。
相良は窓の外を見た。
夕陽が空を赤く染めている。
何も起きていない。
誰もいない。
それは平和だということ。
つまり......。
「なんだかわからないけど、もう帰っていいよな」
純粋な気持ちだった。
しかし田中はゆっくりと教室を見回す。
その真剣な表情は教室の空気を冷やりとさせた。
「待って」
日常の平和な音楽室。
そして誰もいない。
ここにいる意味はない。
「なんでだよ。誰もいないんだから帰るだろ」
「ダメよ。事件の匂いがするわ」




