scene4 日常とラブコメ
昼休み。
教室は弁当の匂いと雑談で賑わい平和そのものだった。
そんな中教室の一角では平和とは程多い会話が繰り広げられていた。
佐々木が机を叩く。
「お前ら来週に向けて作戦会議だ」
真剣な顔だった。
今まさにここで世界の命運を握る重要な会議が行われるかのような気迫だった。
しかしその気迫は相良には伝わらない。
聞く耳を持つ体勢ではなかった。
弁当の卵焼きをつつきながら嫌そうな顔をする。
「作戦ってなんだよ」
「作戦は作戦だろ。対策はしたほうが良いだろ」
「お前ひとりでやれよ」
「仲間だろ」
「単なるクラスメートの一人だ」
「そんなこと言うなよ。まずさ前回の戦闘を踏まえてだな」
そう言いながらノートを広げる。
うまくない絵で図も書いてあった。
「まずお前が湊先生を引き付けて、俺が空間に閉じ込める...でだな」
「話進めるなよ。そもそも参加予定のない俺を戦力に入れるな」
「何を言ってるんだ。この作戦はお前が頑張る前提の作戦だぞ」
「お前が頑張れ」
そこに田中がやってくる。
「なに?来週の食事の話?」
「食べる前提で話しかけてくるな」
「え、でも食べるための作戦会議でしょ?協力するわよ」
「しなくていいよ」
「美味しく食べられるようにするわ」
「だから食事じゃないんだよ」
「......うーん、戦闘してから食べるのよね?」
「食べないし」
「そんな選択肢があると思ってるの?」
「あるよ」
佐々木はそんな田中とやり取りする相良を見た。
「お、やっと戦闘モードに入ってきたな?」
「入ってない。どこにそんな要素あった」
「食事を否定してるあたりで」
「戦闘を肯定してないよ。そもそも俺は平和な学校生活を送りたいんだ」
本心だった。
悪魔も戦闘も誘拐事件もいらない。
ただ普通に学校で授業を受けて帰宅してラノベ読んでアニメ見て...それだけでよかった。
しかし田中は相良の右手を見る。
「そんな右手で?」
そう言われて相良は右手を見る。
赤黒い悪魔が住み着いている右手。
それは相良が思い描く平和とは程遠いものだった。
「そんな右手にしたのは誰だよ」
「本人の意思」
「お前のせいだよ」
相良の一言に何故か田中は得意げだった。
そこに反省の要素はない。
すると赤峰が会話に入ってくる。
「でもその右手のおかげで人類闇化計画が順調に進んでいるんです」
相良は手に持った弁当を置く。
「進めたくないんだが」
「人類全員闇ですよ?」
「平和な学校生活に必要ない」
「闇に溺れたら学校生活楽しですよ」
「そんなわけ無い」
「毎日が陰鬱で素敵です」
「楽しくなさそうなんだが」
価値観が違いすぎた。
どこまで行っても平行線だった。
佐々木が突然立ち上がった。
そして相良の肩を強く叩いた。
「人類の為に悪魔と戦うんだろ!」
相良の体がぐらりと揺れる
「そんなつもりはない」
佐々木に相良の言葉は届いていない。
目だけが異常にきらきらと輝いていた。
「人類の為に悪魔と戦う!」
拳を握る。
「かっこいいだだろ!」
さらに強く握る。
「少年漫画見たいだろ」
その声は熱い。
とにかく熱かった。
しかし相良の温度は上がらない。
「……あんまり」
「ええ!?」
佐々木の拳が止まった。
「なんでだよ」
「どっちかと言えば戦うよりラブコメ…」
一瞬の静寂。
佐々木は拳を握りなおした。
「なんでだよ!男子だろ!戦うだろ!」
でもその熱さは相良には伝わらない。
それでも相良は戦わない普通の学校説克を送りたいと願っていた。
その時、田中が相良の肩を叩く。
「無理よ」
声は優しかった。
しかし内容は辛らつ。
「相良君に恋愛は無理」
「そんなことねえよ」
相良は声を荒げて反論する。
すると反対側の肩を叩かれる。
肩を叩いたのは赤峰。
「相良君...向いてません」
「なんでそう言い切るんだよ」
「だって闇ですよ相良君と言えば」
「違う」
田中が相良の右手を見る。
「そんな黒い右手でラブコメが出来るとでも…?」
「お前のせいだろうが」
「あなたに寄ってくるのは女子じゃないわ」
相良を指差した。
「悪魔よ!」
「悪魔は寄ってきてない!」
「女子もよね」
「そうだけど」
相良は窓の外を見る。
天気は良い...。
平和な日常の景色だ。
なのに相良の周りだけが非日常だった。




