scene3 全て
朝のホームルームが終わる。
生徒たちが立ち始める中、湊は教団から降りた。
そのまま教室を出ていくかと思われたが、湊は足を止める。
そのまま佐々木の元へ足を進める。
教室にはわずかなざわめき。
相良は嫌な予感を覚え目線をそらした。
湊は佐々木の前に立つ。
無言で佐々木を見つめる。
数秒の沈黙とわずかな微笑み。
そして、
「今すぐ...」
かすかに漏れる声。
佐々木はちらりと湊を見て言う。
「来週だ」
条件反射的な回答。
湊は佐々木を見つめながら思案する。
「仕方がないわね」
そう言うとその場を去っていく。
何事もなかったように教室は平穏を取り戻していく。
扉が閉まる。
佐々木は椅子にもたれかかり深いため息をつく。
田中は佐々木に近づく。
「佐々木君、あれは危険ね」
「だな」
「今すぐ追いかけて不意打ちで殺すべきよ」
「卑怯すぎるだろ。しかも今は時間外だ」
田中は首を振る。
「悪魔相手に卑怯もくそもないわ」
確かに...と思う部分もあるが暴論である気もする。
しかし佐々木は一歩も譲らない。
「俺の流儀の中にはある」
誇らしげに胸を張った。
しかしその言葉に相良は呆れた顔をする。
「その流儀で言うと二人がかりも卑怯じゃないのか?」
「それは俺の流儀の中にはない」
「都合の良い流儀だな」
「だってそうだろ!戦隊ヒーローだって大勢で囲むだろ。ライダーだって最近は複数だ」
「フィクションと一緒にするなよ」
「相良、細かいとモテないぞ」
「細かくなくてもモテてない」
「そうだな」
「そこは認めるのかよ」
佐々木のいい加減な流儀に呆れる相良。
田中はすでに流儀の話には興味を失っていた。
「とにかく早めに湊先生を食べたほうが良いわね」
「賞味期限切れ前の食材みたいに言うなよ」
相良は顔をしかめる。
「そもそも悪魔だろうが教師だろうが簡単に食べるとか殺すとか言うもんじゃないよ」
「え、何、相良君も流儀とか語るの?」
「流儀じゃない倫理だ」
その横で赤峰が深くうなずいていた。
「でも、来週まで待てません」
「なんで待てないんだよ」
「だって悪魔を食べて成長する相良君の姿が早く見たいんです」
「悪魔を食べても俺は成長しないよ」
相良は深いため息をついた。
「成長しているのは右手の悪魔だけだよ」
事実である。
悪魔を食べるたびに悪魔は変化していく。
しかし相良は何も変わらない。
少なくとも本人だけはその自覚はあった。
だが赤峰は首を横に振る。
「違います」
きっぱりと言う。
「右手は相良君の全てです」
その言葉に相良はしばらく考える。
「俺の...全て…?」
そして結論を出す。
「そんなわけないよ。右手は右手、体の一部だよ」
当たり前の結論だった。
しかし赤峰は納得しない。
「いいえ」
「いや、解剖学的に見てもだ」
「いいえ」
「医学的にも」
「いいえ」
「人類の共通認識としてだ」
「いいえ」
会話にならない。
全否定である。
「少しは受け入れてくれよ」
嘆く相良に佐々木が小声でささやく。
「相良、諦めろ」
「なんでだよ」
「赤身は理屈じゃない」
「そうだけど...認めたくない…」
「え、認めてなかったの?」
田中が驚いた顔をする。
「認めるわけないだろ」
「でも相良君右手意外に価値ないわよ」
「言うと思ったよ。お前にとっての価値だろ」
「そんなことないわ。世界の共通認識よ」
「世界は俺を知らないよ」
「それもそうね」




