scene2 宿命
「そうだ」
佐々木の言葉に相良は嫌な顔をする。
「絶対にろくなことを言わない気がするんだが…」
「だけどな今は違うんだ!」
佐々木の指がさらに近づいてくる。
「相良がいる!」
「俺はここにいるけど...なんだよ」
「気が付かないのか?」
「何が?」
「お前が悪魔を食べれば消滅するんだぞ」
「いや...なんかここにいるだろ」
相良は右手を差し出す。
「でも存在は消える。現に今、もうここには志水はいない」
「そうだけど...」
「相良が志水を消し去ったんだ!」
「その言い方やめろ。俺が殺した見たいだろ」
「変わらないだろ」
「食べただけだ」
「食べて殺したろ」
「いや...右手の中で生きている…」
「本当に生きてると思うか?」
「それはそれで嫌なので生きてるとは思わないことにする」
「だろ!」
「でもそもそも食べたくないんだよ」
「なんでだ?!」
「美味しくない」
事実だ。
苦かったり、えぐみがあったり、どぶ臭かったり、積極的に食べるものではない。
「でもな人類のためだぞ」
「テーマが重い」
「不味い思いをするだけで悪魔がいなくなるんだぞ。人々が不幸から救われるんだぞ」
「重すぎる」
「安いもんだろ」
「安くはない。なんで俺だけが犠牲を払わなきゃならないんだよ」
「適材適所だ」
「便利な言葉で押し付けるなよ」
「頼んだぞ」
「頼むなよ。お前が食べろよ」
「無理だ」
「なんでだよ」
「俺だって食べたいさ」
「じゃあ食べろよ」
「でも...佐々木家の宿命…悪魔を食べることが出来ない...食べたら即死する体質…悪魔ハンターの家系に生まれた者の宿命...」
「佐々木…」
相良は真剣な目で佐々木を見る。
「……かもしれない」
「なんだその微妙な感じは」
「なんかむかし、じいちゃんがそんなこと言っていたようななかったような感じだからさ...文献に書いてあったとかなかったとかそんな雰囲気の事いってたなって」
「雑すぎる…情報源も、話をしてる奴も雑すぎる」
こんないい加減な奴のこんないい加減な言葉に乗ってあんな不味い思いをする。
そんなことが出来るわけがなかった。
そんな二人の会話に赤峰が割り込んできた。
「相良君、悪魔食べましょう」
赤峰の目は輝いていた。
「湊先生なら陰湿に悪影響はなさそうです」
「陰湿加減はどうでもいいんだよ。それより罪悪感が満載だよ」
「その罪悪感も相良君の未来の栄養です」
「そんな栄養いらないよ」
「成長できるんですよ」
「どんな成長だよ」
「闇堕です」
「堕とすなよ。成長の方向がおかしいだろ」
本当におかしかった。
赤峰は完全に相良を暗黒面に育て上げようとしている。
本人にその意思は全くないのだが…。
そんなやりとりをしているとチャイムが鳴った。
ホームルームの時間だ。
教室の扉が開く。
入ってきたのは担任の湊かえで。
「おはようございます」
優しい声に、さわやかな笑顔だ。
教師としては完璧。
しかし相良は見逃さなかった。
表面上の裏にある悪魔の顔を。
完璧なはずの笑顔の目が笑っていない。
目の奥に燃え上がる憎悪の炎。
その炎は相良、田中、金澤、赤峰、そして佐々木。
この五人に対して向けられていた。
湊の視線が佐々木で止まった。
その瞬間佐々木はニッと笑い、親指を立てた。
それは、
『任せろ』
という佐々木の自信の表れか...。
はたまた、
『任せた』
と言う嫌な合図か、佐々木はそのまま相良を見た。
自然と湊の視線が相良に向く。
相良は佐々木を睨んだ。
「グッじゃねえよ。俺を巻き込むな」
そのまま湊は笑顔のまま出席簿を開いた。
相良は視線をそらし周囲を見回す。
田中は教科書を顔の前に立てていた。
完全に巻き込まれない大勢だ。
存在感すら消し去ろうとしていた。
金澤は窓の外を見ながらあくびをしていた。
まるで何も気にしていなかった。
来週、クラスメイトと先生が殺し合いをするかもしれない、
それでも平常運転である。
そして最後に赤峰。
相良は目が合った。
赤峰はずっと相良を見ている。
ずっと。
本当にずっとだった。
ホームルームが始まろうと。
湊に見られているときも。
湊が話していても。
まばたきをしていたのかどうかも怪しい勢いで相良を見ていた。
相良は小さくつぶやく。
「なんで見てるんだよ……」
「相良君を見てるんです」
「それはわかってる。なんでかを聞いている」
「今日も素敵ですね」
「会話してくれ」
「心の闇も順調に育ってますね」
「育ててない」
「大丈夫です。わかるんです」
「わかるなよ」
相良は嘆いた。
来週には殺し合いが起こるかもしれないというのに、なんでこいつらは相変わらずのままなんだろうか…。
俺が普通じゃないのだろうか?
そもそも普通って何だったのか…。
相良はわからなくなっていた。




