scene3 ラノベ
1-Bの教室は炎に包まれていた。
その炎の中心で一人の女子生徒がほほ笑んでいた。
炎をまとい怪しげに笑っている。
だがその姿は相良の視界には入っていなかった。
相良の視線の先にあるもの…それは教室の窓際の机、相良の席。
大事なラノベ「雪とともにやってきた恋の予感が雪のせいじゃないって思いたいから恋をしてしまった件 の第一巻!初回限定スペシャルバージョン」
その目にはそれしか映ってはいなかった。
相良は一直線に机に向かった。
あと一歩、あと半歩…相良は手を伸ばす…が相良の前に炎が走る。
炎は机を飲み込んでいく。
灰…火が去ったあとに残ったのは消し炭。
相良は膝から崩れ落ちる
「あ…ああ全てが…終わった…」
相良は女子生徒を睨みつける。
その表情は怒りに満ちていた。
「貴様…人間じゃねえ!絶対に許さない!」
「確かに…悪魔に取り憑かれてるから悪魔みたいなものよね」
相良と対照的に田中は至って冷静だった。
「田中!あいつを、あいつを倒す方法を教えてくれ!」
「やる気が出て来たわね」
「おう!ラノベの恨みを晴らすんだ」
「だったら悪魔の力を使うわよ」
「どうやるんだ!?」
「さっきやったみたいにその腐ったみたいにどす黒い右手に念じるのよ」
「腐ってるとか言うなよ」
相良は右手に力を集中する。
「悪魔!!あいつを倒せ」
強く念じる気持ちとともに右手がうねり絡んでぐにゃりと曲がった。
ぐるぐるとねじれ人型の影になる。
影はやる気がなさそうに、のそりと動きジトっと相良を見た。
「だ...るい…めん...どう…じぶん...でやれ...」
途切れそうな声で文句を言いながら影はのそりと動き炎に包まれた女子生徒へ向かってゆっくりと近づいていく。
影が女子生徒の前にたどり着いたその時女子生徒が手を上げた。
炎の柱が上がり、黒い影を飲み込んでいく。
「おい、なんかヤバくないか!?」
「なんかヤバそうね」
焦る相良に田中は冷静に答えた。
火柱が消え女子生徒の姿が再び見えたとき、そこには黒い影の気配はなかった。
「お、おい、どうなったんだ?」
「多分...消し炭ね」
「ああああ!!どうすんだよ、どうすんだよ!」
「これは...多分負けね」
「多分じゃねえ絶対負けてるぞ」
「おい!影!!右手!俺の右手!何とかしろよ!」
相良が叫ぶも右手は何も答えない。
「逃げたほうが良さそうね」
「あーもう最悪だよ」
二人が振り向いた瞬間。
炎の壁が二人の前に立ちはだかる。
「逃げ道を防がれたわね」
「あーっもう、右手!!俺の右手!なんとかしてくれ!!」
相良の叫びに反応するかのように影の燃えカスがゆらりと揺れた。
右手につながった燃えカスはむくりと起き上がり気だるそうに相良を見る。
「おこ...すな...ね...むい」
「今はそれどころじゃねえ。あいつを倒してから寝てくれ」
「めい...れい...する...な」
「おい!生きてんのか!?生きてんならあいつを倒せ」
「…めい…れい…するな…」
「なんかすごく反抗されてるけど...まあいい、行け!」
影はゆっくりと歩き出した。
その様子を見て女子生徒は不敵な笑みを浮かべつぶやいた。
「無駄なのに...」
そういうと右手を前にかざした。
右手から炎が渦巻き、人の形に変わっていく。
「全部...全部燃やし尽くして!!」
炎が影に襲い掛かる。
それを影がひらりとかわし影が炎に巻き付き広がっていく。
影が炎を覆い炎の勢いが止まる。
「ぐぁぁぁあ!!」
炎の叫び。
そして小さくなっていく。
「...勝てるのか...」
相良の右手に力が入る。
その横を田中が通り過ぎ、炎の前に立った。
「ちょうど良い感じね。じゃあこの辺で」
田中が炎の悪魔に近づき右手を前にだした。
「ハンド」
空気がぶれ田中の手に重なるように半透明な手が現れる。
人間の手よりも大きく爪が長い。
見えない巨人の手だけがそこに召喚されているようだった。
その手が炎の悪魔をつかんだ。
「おい!田中何をする気だ!?」
「決まってるでしょ」
「まさか...」
相良は田中の行動に嫌なものを感じた。
「意外と感が良いのね」
そういうと田中はつかんだ悪魔を相良の口に突っ込んだ。
「うわぁ熱い熱い熱い焼ける焼ける焼ける」
口を押え転げまわる相良。
「ちゃんと食べられたわね」
「ちゃんとじゃねえ!火食わされたぞ。完全に火傷するぞ」
「でもしてないでしょ」
「今も現役で腹が燃えるように熱いんだけど」
「それはお腹の中で燃えてるわね」
「おい、不安だぞ不安しかないぞ」
教室内で燃えていた炎は一瞬で消失した。
火の消えた教室で女子高生は茫然と立ち尽くしている。
相良たちは女子生徒に駆け寄った。
「大丈夫?」
相良は優しく話しかける。
「もう大丈夫よ。あなたに取り憑いた悪魔は退治したわ」
「お前が倒したみたいに言うなよ。俺が食わされたんだ」
「私が食べさせたのよ」
「はあ?」
女子生徒が何かをつぶやいていた。
「どっどうした?」
「余計な…」
「ん?」
「余計な事しやがって!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」
「どっ…え?なになに?!」
「学校ごと消滅してやろうと思ったのに!余計な事しないでよ!」
「余計な事…?俺はこんな熱い思いをして取り憑いた悪魔を退治してやったんだぞ」
「それが余計なことよ!こんな学校、来たくないし!授業はつまんないし!先生の説教は長いし、友達グループとかめんどうくさい!!無理して笑うのもう嫌なの!全部燃えちゃえばよかったのよ」
相良は女子生徒の叫びに唖然とした。
そんな相良に田中は平然と追い打ちをかける。
「なるほど悪魔に操られてたわけではなさそう...」
「どういうことだ」
「悪魔と思想が一致してたのよ。あなたは余計なことをしたようね」
「お前もな!」
相良は頭を抱えた
「なんでそんな厄介なことに...あんなに苦労して、熱い思いして憑りついてた悪魔食って嫌な思いしてなんで怒られなきゃいけないんだよ」
女子生徒は相良をにらんだ。
「それが余計!何もしてほしくないわ」
「マジか...理不尽すぎる...田中!この状況なんとかしてくれ!」
相良の視線を田中はそらした。
「こっちはさ!覚悟を決めてたのよ!」
「待て待て学校燃やすことに覚悟を決めるな…」
田中は腕をくんだまましみじみ言った。
「相良君...君はそうやら余計なことをしたみたいね」
「お前もだよ」
「私のは善意だし食べちゃったの相良君だし」
「たちの悪い善意だな」
その時相良の腕に痛みが走る。
「痛っ」
その痛みは燃えるような熱さになった。
「うぐっ...なんだよ…これ」
「来たわね混ざりだしたわ」
相良の黒い右手に赤い筋が走り混ざり合っていく。
「早くなんか燃やしてえんだ...なんか燃やせよ」
「何?何の声だ?田中これはなんだ?」
「新しい悪魔の力が右手に混ざったのよ。言ってしまえば進化したって事よ」
「進化って…したくないんだけど...」
「でもしたわ」
その様子を見ていた女子生徒が一歩前に出てきた。
握りしめた拳は震えている。
それが怒りなのか悔しさなのかはわからなかった。
「返してよ」
低く、しかしはっきりとした声だった。
「私の悪魔、返してよ。どろぼう!」
「いや盗んだつもりはないんだけど…」
「相良君盗みは良くないわ」
「田中!お前が言うな!どっちかといえば盗んだのお前だろ!返してやれよ。って言うか俺んから悪魔を取り出せよ。俺要らないし」
田中は軽く息を吐きながら首を振った。
「わかってないわね。私はとり憑いた悪魔を取ることは出来るけど食べちゃった悪魔の取り方は知らないわ。だって食べた時点で一心同体、相良君自身が悪魔みたいなものだからさ」
「しれっと俺を悪魔使いすんな!どうすんだよこれ!」
「どうしようね」
そのやりとりに女子高生の表情が固まった。
「...えっ...じゃあ...返せないって事!?」
田中がうなずく。
「そういうことになるわね」
「ひどい!ひどすぎるわ!」
ぱん!乾いた音とともに相良の顔が横にはじけ、頬が赤く腫れた。
「…なんか俺かわいそうじゃねえか?」
「そうでもないわ」
涙目でつぶやく相良に対して田中は即答した。
相良は遠い目で窓の外を見ながら厳しい現実をかみしめていた。
「…って言うかどうすんだよ…助けたのに恨み買って何の解決もしてないじゃん」
女子生徒は相良を睨みつけたまま吐き捨てるように言った。
「こんなくだらない場所、壊させてよ!もう全部、どうでもいいのよ!」
「友達とかいるわよね」
「ふふ、そんなのうわべだけよ。みんな見せかけだけの友達。みんな私がいなくても誰も気にしないわ...もういい、あなた達が、壊してよ。私の悪魔を盗んだんだから壊してよ」
相良はその言葉に頭をかいた。
「見せかけ…見せかけだけでも友達がいるだけマシだろ!俺なんか上辺の友達もいないんだぞ」
「確かに...」
田中は相良の言葉に妙に納得してしまった。




