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俺の右手に悪魔がいる件  作者: 南蛇井


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scene2 相良

翌日の学校は昨日の喧騒が嘘のようだった。

何事もなかったように学校へと入っていく生徒たちの中、相良一人だけは校門前で全く落ち着かずにいた。

「あ、田中!田中何とかしろよ」

「ああ、おはよう」

「おはようとか挨拶はどうでもいい!」

「朝から騒がしいわね」

「当たり前だこの右手を見ろ!」


そういいながら袖をまくるとそこには昨日よりもより黒くそしてぼこぼこと泡が立ち右手がまるでドロドロの溶岩のようになっていた。


「なんかやべえ感じなんだ。しかもよく聞くとなんかぶつぶつと喋ってんだよこの右手」

田中が手に顔を近づける。


「あ...だる...い...だるい...」


「確かに何か言っているわね。これはだいぶ手に悪魔がなじんできた証拠よ」

「なじませるなよ。早く取ってくれ」

「何言ってるのよ。これからが良いところじゃない。相良君悪魔の力が使えるのよ」

「使いたくないし、使えたとして何が出来るんだよ」


「え、知りたい?」

田中が嬉しそうな顔で相良を見る。

「知り...たくは無いが教えろ」

「もう、素直じゃないわね。しょうがないから教えてあげましょう。

 まずは右手を間に出して...そして強く念じる」


「…こうか...」

相良が右手を前に出す。

「そうそう、そして強く念じるのよ。出てこいと」

相良は怪訝な顔をしながらも指示通りに念じる。


「出てこい!」


黒ずんだ右手がうねり形が変化していく。

「うわっ!!!何だよこれ」

うねる右手が大きくなり人の形へと変化する。


黒い人型がけだるそうに立ち顔らしきものを相良に向けた。


「なんか俺より小さいし何も出来なさそうだぞ」

「ハズレ...かしら...?」

「ハズレとかいうなよ。もう元に戻してくれよ」

「無理よ。一度食べた悪魔は吐き出せないわ」

「おい!昨日この件は明日って!」

「言ったわよだから今説明したわ」

「元に戻すのは!」

「戻るなんて言ってないわ」

「どーすんだよ。なんかコイツずっとぶつぶつ喋ってんだぞ。気持悪いんだぞ」

「まあそのうち慣れるわよ」

相良は絶望した。

関わってはいけない人間に関わって今完全に巻き込まれてはいけない何かに巻き込まれて

いることに...。



「...おれ...を...ひ...ていする...な]


黒い影が音を発した。

そして相良を殴った。


「うわっ何しやがるんだ俺の右手のくせに」


「...し...らな…い...ひ...てい...するな」

「あーもう訳が割らん!しないしない否定しないからとにかく右手に戻ってくれ」

相良の言葉と同時に影は黒ずんだ右手に戻った。


「なっ!やばいんだよ」

「ほら、そんなこと言ってるとまた殴られるわよ」

「あー...」

相良はうなだれるしかなかった。


「さて右手の件が解決したところで火事の件解決しに行くわよ」

「全然解決してないし、どうしろっていうんだよ」


相良が困り果てたその瞬間。


「火事だぞ!


その叫び声とともに学校内がざわめいた。


教室内にいたものは廊下の窓からのぞき込み外にいるものは校舎に向かって集まってくる。


「下がれ、お前ら下がれ!」


教師が生徒たちを非難させようと大声をあげていた。

「1-Bの教室が燃えてるぞ」


「1-B!!俺のクラスじゃないか!」


田中は校舎のほうを見ながら確認する。

「本当ね。私のクラスの教室ね」

その言葉に相良は勢いよく振り向いた。


「えっ!?同じクラス?」

そして同じぐらい田中も驚いていた。

「そうなの?全く気が付かなかったわ」

「お互いにな」


二人は妙に納得していた。

存在の方向性は違っていたが、他人の興味がうすいと言う共通点に関して...。



田中は校舎を見ながらのんびり言った。


「教室にいるときじゃなくてよかったわね」

「良くない!!」

その言葉に悲鳴に近い言葉で相良は返した。

「なんでよ。あそこにいないなら安全じゃない」

「ダメなんだ!あの教室には俺の大事なものが!」

「大事なものって?」


田中は首をかしげた。


「そうだ!俺の大事なラノベがあの教室にあるんだ!」

一呼吸おいて叫んだ。


「雪とともにやってきた恋の予感が雪のせいじゃないって思いたいから恋をしてしまった件 の第一巻!初回限定スペシャルバージョンが......机の中にあるんだ!」


「長いわね。何かの呪文かしら...そもそもなんで大事な本が教室に置き去りになってるのよ」

田中は興味なさげにつぶやいた。


「だってあれは学校に置いていくようだから」

「なにそれ?用途があるの?」

「当たり前だ!それ以外に保管用、読む用、記念に取っておくよう...なんだかんだで十冊あるんだ」

「じゃあ一冊ぐらい無くなっても問題ないわね」

「あるよ!ダメに決まってるだろ」


相良の眼鏡がずれ髪の毛が逆立った。

それは魂の叫びだった。


「十冊あってもあれは、学校に置いておくようなんだよ!役割があるんだよ!」

「そう...本の社会も大変ね…」

と言ってみたものの田中には理解が出来なかった。


その時、ポンッと音がして1-Bの教室の窓から火が噴き出した。


教師たちが叫んでいた。


「生徒は下がれ!近づくな!」

「消防に連絡は!?」

「消火器だ!誰か消火器をもってこい!」


混乱した状況の中、相良の右手が小さく小刻みに震えていた。

だが本人はそんなことに気付くどころではなかった。


「待ってろ...学校へ持っていく用……俺が!」


そう言うと、相良は教師たちの制止を振り切って走り出した。


「おい!おまえ戻れ!」

「危ないぞ!」

「うるさい! あれは限定版なんだ!」


全力疾走で校舎へ向かう相良の背中を見送りながら田中は腕を組んだ。


「愛の力ってすごいわね」

「感動してないで止めろ!」


教師に怒鳴られ、田中は我に返る。


「そうだわ。一人で行かせてる場合じゃなかったわ」

「あっ待て!田中どこ行くんだ!」


田中もまた教師の制止を振り切り燃える1-Bへと駆け込んでいった。


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