第一話 炎の女子高生 scene1 田中
朝から学校がざわついていた。
そのざわつきを無かったことのように通り過ぎていく生徒が1人。
もじゃもじゃのくせ毛の男子生徒、地味さを強調するかのような眼鏡。
学校の中で異質でありすべてに溶け込み消えている存在でもあった。
相良清太郎16歳
西城西高校の生徒である。
そんな彼に話しかける一人の女子高生がいた。
その声は澄んだ声は、人好きのする気さくな感じだった。
「ねえ君!ちょっといいかな?」
ショートカットに大きな瞳、笑顔がとても素敵な女子生徒、普通の男子高校生なら軽く浮かれてしまうところだが相良は違った。
「誰?」
相良は怪訝そうな顔をし、無愛想に答えた。
それもそのはず、声を掛けてきた女子生徒に見覚えもなく完全に知らない女子だったからだ。
女子高生はきょとんとした顔をする。
「誰って君は誰なんだい?」
「は?話しかけてきておいて誰って...知らないなら話しかけないでよ」
「そんなこと言わないでよ。同じ学校の生徒でしょ」
「うすい接点だな」
「まあまあ、そんなことよりよ」
「どんなことよりだよ。って言うかお前は結局誰なんだよ」
「田中よ」
「嘘くさいな」
「ああ、ひどい。そこは信じてくれないと話が進まないわ」
「別に進まなくていいんだけど」
田中は相良の愛想の悪い返しに気にする風もなく話を続ける。
「なんか...こう...異変を感じるわよね」
「…まあ、お前が田中だとして…だ。なんだよ異変って…抽象的な...」
「今朝のボヤ騒ぎだけどさ非常に怪しいと思わない?」
「そのボヤ騒ぎをしらないんだけど…」
「えっ今学校中がその件で大騒ぎになってるのよ」
「興味ない」
「いやいやいや、そんなわけないよ。だってあれ、見えるよね」
田中は相良の顔を掴み無理やり中庭のほうに向けた。
「痛い痛い痛い!人の顔を無理やり動かすな!」
相良の視線の先には生徒たちが騒ぐ理由が明確にあった。
校舎の2階、理科実験室の窓から煙が立ち上っている。
「ほら、燃えてるでしょ」
「燃えてはいるようだけど...っで?」
「っで、絶対変でしょあの煙」
「いや普通の...煙...」
相良はメガネの位置をなおしながら目を凝らした。
確かに普通の火事の煙にしてはやけに色が変だ黒でも灰色でもない。
ちょっと青みがかっている気がする。
「確かに煙の色はちょっと変だが理科実験室だからだろ。薬品とかの関係じゃないの」
「残念、違うわよ」
「何が違うんだよ。全然残念じゃないし」
「そう言うと思ったよ。じゃあその下をみようか」
「なんだよ」
相良は面倒くさそうに視線を下におろしていく。
そこには数人の生徒たちがそれぞれ思い思いに会話をしスマホを見ていた。
「あそこよベンチの所」
相良の視線の先にベンチに座る女子生徒が見えた。
「普通の女子だろ」
「よーく見てごらんなさい。特に背中のあたり...」
「背中ねえ」
相良は目を見開いた。
「なっなんだよあれは…?あの女子にしがみつくいてる黒い影は!?」
「あれはね。悪魔よ」
「あっ悪魔…?」
静寂…。
「あんまりそういうの信じないタイプなんだけど」
「でも見えるわよね。そして他の人には見えてない。あれを悪魔と言わずなんていうんだい?」
「いや、まあ…黒い何か…」
「逃げた答えだね。まあいいわ認めたところでここからが本題よ」
「認めてないし本題よりもあれについて説明してくれ」
「まあまあ、物事には順番って物があるのよ。まずは一旦落ち着いて」
「全然落ち着けないよ」
「それじゃ順を追って説明してあげよう。まずね、あなたには才能があるわ。才能の原石と言ってもいいわ」
「なんの才能だよ」
「食べる才能よ」
「は?別にフードファイター感ないと思うんだけど」
「そうね。そんなゆるい才能じゃ無いわよ!」
そう言うと田中は走り出した。
「おっおい!」
田中は黒い影がまとわりつく女子高生に向かって走っていく。
素手で黒い影をつかむと、そのまま女子高生から引きはがした。
「グゥゲェェ」という地さなうめき声が影から聞こえた気がした。
田中は持った影をそのまま相良の口に突っ込んだ。
「あぁぁぁ!!うぇええ!」
口に突っ込まれた黒い影の味。
それは苦みもエグミも口いっぱいに広がって相良の舌を刺激した。
「まずい!まずいぞ!これ以上ないぐらいまずいぞ!こんなまずい物世の中に存在してるのか!まずさのコラボレーションが半端ないぞ」
「素敵な食レポありがとう」
「食レポじゃねえ文句だ!そもそも食べて大丈夫なのか?」
「多分...身体に悪い要素はないはずよ」
「多分ってなんだよ!無責任の訳の分からんものを食わすな!」
「でもね…」
田中は不敵に笑った。
「食べた悪魔の力が使えるようになったはずよ」
「力……そんなのいらないんだけど…なんか胃のあたりがぐるぐるするしすごく体調が悪いんだけど」
「胃がぐるぐるするのは知らないわ。あなたの胃腸の丈夫さの問題よ」
「無責任すぎるだろ完全にお前のせいで調子が悪いぞ」
相良はお腹を抱えうずくまった。
「腹...痛いんだけど...」
「でもさこれで悪魔の存在を信じてくれたよね」
「全然...」
「なんで?自分の体で感じるでしょ悪魔って感じ」
腹の痛み、体中でうごめく何か熱い物...それらすべては人生の中で味わったことのない感覚であり田中のいう事が事実である事と証明していっている感覚が相良にもあった。
しかし...。
「悪魔なんていない…って言うか何とかしてくれ」
「うーん、おかしいな。すぐに治まる予定だったんだけど...期待外れ?」
「勝手に期待して外すなよ」
その時...。
「あれ、急に腹の痛みが治まったぞ…だっ大丈夫ってことか…?」
腹の痛みは終わったが…。
「あっ!!!手が...!!」
相良の手が黒くなりぐにゃりと形を変えていく。
「な、なんだよ...これ…」
膝から崩れ落ち震える相良。
その姿を見て田中は満足そうにうなずいた。
「ふふ、うまくいったようね」
「全然うまくいってないだろ!俺の手どうなってんだよ」
「力よ。力を身に着けたわ。悪魔の力よ」
「そんなの要らないしこの黒い手どうにかしてくれよ。こんなんじゃ彼女と手も繋げないじゃないか!!」
「えっ?彼女いるの?」
「…いないが...」
「じゃあ問題ないわね」
「問題しかない!」
「大丈夫よ。そもそも普通の人には普通の手にしか見えないわ」
「ほ、本当か?」
相良は右手を上げ大きくアピールする。
…誰も何も反応しない...。
「…右手云々の前に存在感の問題ね」
「うっうるさい」
相良の顔は真っ赤になっていた。
「さて、ボヤ騒ぎの原因を倒しに行こうか?」
「倒す?何言ってんだよ。ただの火事だろ消防署がなんとかするだろ」
「まだそんなこと言ってるの?今見たばかりじゃない…これは悪魔案件よ」
「は?俺はまだ認めてないんだけど」
「でも影の悪魔は居たし食べたでしょ?」
「悪魔かどうかは知らん。黒い何か...だ」
「強情ね、黒い何か...でもいいから行くわよ悪魔のところへ」
田中は相良の手を取り強引に連れていく。
理科実験室の付近は騒然としていた。
「おい、お前らあぶないから離れろ」
教師たちが叫び生徒たちを誘導する。
その雑踏の合間を縫って田中と相良は理科実験室への向かった。
理科実験室はまだ煙が残り焦げ臭かった。
「あまり焼けてはないわね」
「いや、まずいんじゃないか、勝手に入って」
「問題ないわ。悪魔案件の調査なんだから」
「悪魔案件って言ってる時点で問題ありだよ」
田中はしゃがみこんで焦げた床を指でなぞった。
そして満足げにうなずいた。
「ふーん」
「何かわかったのか?」
「全くわからないわ」
「意味ないじゃん」
「そんなことないわよ。この火事が悪魔案件だって事が確実になったわ」
「悪魔悪魔ってその悪魔はどこにいるんだよ」
「それをこれから探すんじゃない」
田中は悪びれることなく答えた。
「何もわからないってことだけはわかったよ」
「ふむ、今日はここまでだな。続きは明日だ。」
「待て明日も探すのか?」
「当たり前じゃない。悪魔を見つけ出さないとこのボヤ騒ぎは解決しないわよ」
「俺を巻き込むなよ。ボヤ騒ぎとかどうでも良いし、呑み込んだ悪魔をどうにかしてくれ」
「それも明日だね」
「なんか面倒くさくなって先送りにしてないか」
「そんなことないわよ。明日には全部丸く収まるわよ。多分」
「多分っていうなよ」




