第七話 所有権 scene1 信用
周囲の景色が変わった。
夕暮れの校舎。
見慣れた体育館の壁、空。
それら全てが白く消えていく。
その景色を見回し北条が満足そうに笑った。
「なにこれ...」
両手を広げる。
「天使にふさわしい空間ね」
「違うぜ」
佐々木が即座に否定する。
「この空間はな。その白い奴の力を半減させんだよ」
北条は目を細めた。
「じゃあ天使の敵ね」
「違う!悪魔の敵だ!」
「じゃあ天使の味方ね」
「敵だよ」
「ちょっと何を言っているのかわからないけど」
話がかみ合わない。
佐々木はため息をついた。
「じゃあ後は頼んだぞ相良!」
そういうと刀を鞘に収めた。
相良は目を丸くした。
「は?」
「じゃ」
「じゃ、じゃない」
佐々木は歩き出す。
「続きは!!」
「休日は働かない主義だ」
「今、目の前で戦闘中なんだけど!?」
「戦闘中かどうかじゃない時間内か時間外か?だ!」
「だ!じゃねえよ」
佐々木はすでに帰り支度を始めていた。
「これ終わんないと帰れないんだぞ」
その時地面から声がした。
「相良」
「ん?」
「おまえが何とかしろ」
相良が視線を堕とす。
そこにはバラバラになったままの志水の生首があった。
「先生!まだそのままなんですね」
「俺だって好きでこのままなんじゃない」
生首だけの志水が不機嫌そうに言う。
「それと!誰か俺の身体拾ってこい」
返事はない。
志水の声に誰も返事をしない。
誰も動かない。
「誰か!」
そして数秒後。
金澤が大きなため息をついた。
「世話がかかるわね」
そして...。
ゴッ。
志水の腕を蹴った。
腕は転がる。
「おい」
さらに脚を蹴る。
「おい」
次は胴体も蹴る。
「おい!!金澤!!」
「何ですか」
「蹴るな!!」
「だって触りたくないので」
「丁寧に扱え!」
「嫌です。だって気持ち悪いし」
「先生だって傷つくぞ」
「もう傷だらけだし問題ないですよね」
「その傷とは別だ!」
その様子を興味深げに赤峰が見た。
「人体パズルみたいですね。ホラー仕様の」
落ちていた腕を拾い角度を変えて観察する。
「おい!人の腕で遊ぶな」
「どの部位が相良君の部屋に似合いますかね」
会話がかみ合わない。
「ねえ相良君どれが良いですか?」
「飾らないよ」
「この右腕とか良いんじゃないですか?」
「嫌だよ」
「じゃあ左腕にしましょう」
「部位の問題じゃないよ」
その時地面に落ちた志水の生首は震えていた。
それが怒りなのか恐怖なのか本人にもわからなかった。
その頃、相良の悪魔が地面に座り込んでいた。
「ぎゃーぎゃーうるせえな。やんのか、やんねえのか、どっちだ?」
白い空間にうっとりしていた北条が我に返る。
「あっ!そうだった!悪魔を、悪魔を滅ぼすためにここに来たのよ」
「なんだやっとやる気になったか」
悪魔が立ち上がった。
状況はひどく混乱していた。
志水はバラバラで佐々木は帰宅モードで金澤は落ちた四肢を蹴り赤峰はそれを飾ろうとしている。
金澤が蹴り集めた志水の身体が一か所に集められた。
集めた身体を汚いものを見るような目で金澤は見ていた。
首だけの志水が不満そうに口を動かした。
「貴様...教師を蹴った報い。必ず受けてもらうぞ」
その言葉に金澤の眉がピクリと動く。
「...報い...報いですって?」
静かに聞き返す声に志水は気づかなかった。
「教師への敬意を忘れたお前に…」
「助けたのに何でそんな目に合わなきゃいけないのよ!」
金澤は叫ぶと志水の頭をつかみ上げた。
「待て!何を...」
次の瞬間、志水の頭は投げられた。
金澤の豪快なフォームによって投げられた頭は白い壁にめり込み床に落ちる。
「貴様!何をする!」
「報いを受けるぐらいなら復活阻止よ!」
金澤は本気だった。
「なんだその発想は教師に対しての態度としてどうなんだ!?」
「教師以前に悪魔よ」
「だとしてもだ。俺が復活できなくてもいいというのか!?」
「問題ありません」
志水は返す言葉が無かった。
そして絶望していた。
教師人生のなかでここまで存在を軽視された事はなかった。
相良が慌てて間に入る。
「待て待て金澤」
「なによ」
「先生がいないと一対一で戦うことになるぞ」
「別にいいんじゃない」
「よくない!とりあえず先生を戻そう」
「いやよ復活したら絶対嫌な事されるもん」
「するわけないだろ」
志水が叫んだ。
「信用できないわ」
「なんでだ!」
「今までの行い」
志水は黙った。
思い当たる節があり過ぎて反論できなかった。
金澤の言葉に田中がうなずいた。
佐々木も、赤峰も大きくうなずいていた。
志水には味方がいなかった。
「し、しないから!」
志水は必死だった。
「本当にしないから助けろ!」
金澤は不審な顔をする。
「本当に?」
「本当だ!}
「信用できない」
「じゃあ契約だ!」
「契約?」
金澤が首をかしげる。
「悪魔との契約は絶対だ。契約は必ず守られる」
「魂とるよね」
「取らない」
「寿命とか?」
「取らない」
「身体の一部とか?」
「取らない」
「数学の補修とか?」
「それは教師として…」
「やっぱり取るじゃない!」
「違う!無償だ!完全無償だ!!何もしない!」
「本当に?」
「本当だ!」
「絶対?」
「絶対だよ」
「契約違反したら?」
「好きにしろ」
「頭投げるわね」
「やめろ!」
「じゃあ一旦信用してあげてもいいわ」
ようやく金澤が重い腰をあげ頭を拾いに行く。
「仕方がないわね」
「ありがとう...ありがとう」
心からのお礼だった。
金澤は頭を持ち上げながら言った。
「でも先生」
「なんだ」
「教師としての信頼はゼロだからね」
「なんだとぉぉ!!」
志水の悲痛な叫びが白い空間に響き渡った。




