第4話 教師誘拐事件 scene1 逃避行
閉鎖された空間の中。
背景の白さを強調するかのように静まり帰っていた。
床には湊かえでが倒れている。
息はしていない。
それを囲む五人は誰一人として動こうとはしていなかった。
その沈黙を破ったのは相良の一言だった。
「......っで、どうすんだよこの状況!先生死んじゃったぞ。事件だぞ」
佐々木が刀で相良を指した。
「相良、殺人犯」
「待て、なんで俺だけなんだよ」
「確かに...佐々木あんたも共犯よ」
金澤が腕を組みうなずいた。
「”も”ってなんだよ。俺はやってねえ。むしろ殺されかけた側だ!」
「でもこの白い部屋あんたが作ったのよね。殺人しやすいように...」
「そうだ俺の戦闘を補助しただろ」
「立派な共犯ね...通報するわ」
田中だけが妙に冷静な判断を下していた。
そんな田中を相良は指さした。
「待て待てお前も共犯だろ」
「無関係よ。他人よ」
「無理があるだろ」
田中は顎に手を当て考え込んだ。
「...仕方がないわね」
嫌な予感しかしない。
「食べて証拠を隠滅しましょう」
空気が凍った。
「は?」
相良の顔が引きつる。
「た、食べる?先生を食べる?そもそも食べて大丈夫なのか?死んだ悪魔も食べられるのか?」
田中はいたって真剣だった。
「生きたまま食べるよりは優しさがある気がするわ」
「そういう問題じゃない。さっきまで先生だったんだぞ。俺には食べられない!」
田中はため息をつく。
「軟弱ね」
「軟弱じゃない!至極常識的な感覚だ!倫理観の問題だ!」
赤峰はそっと相良を抱きしめる。
「相良君...無理して食べなくても大丈夫です…」
「赤峰...」
優しい声に安堵する相良。
「そんな暗さも陰湿さも足りない悪魔...相良君に食べて欲しくないです」
「先生を悪魔基準で判断するなよ」
しかし赤峰はいたって真剣だった。
「一緒に逃げましょう...どこか遠くへ」
「はい?」
「二人で逃亡生活です」
「急に重すぎるよ」
赤峰の顔は夢見る少女のような表情だった。
「追われながらの生活...雨の中を二人で歩いて...安住の地で二人で...」
「なんで逃亡生活にロマンを抱いてるんだよ」
「きっと素敵な旅になります」
「嫌だよ」
佐々木がボソッとつぶやく。
「ちょっと映画っぽくてかっこよくないか」
「のるな!かっこよくないし」
金澤は完全に呆れていた。
「あんたたちなんでこの状況で現実逃避してるのよ」
そんな擦り付け合いの最中。
びくん。
湊の指が動き腕が震えた。
全員の動きが止まり視線が集まる。
「…え?」
ゆっくりと自然に起き上がる。
髪を乱しながら首をゴキっと鳴らした。
立ち上がった湊はまわりを見渡す。
相良が震えた声で聞く。
「せ...先生…?」
「…あら、何そんなにびっくりした顔してるの?死体でも動いたかしら?」
五人の心が一つになった。
(死体が動いたからだよ!!)
湊はふらりと歩き近づいてくる。
全員の顔が恐怖で染まる。
完全にホラーだった。
その反応に湊は不満そうに眉をひそめた。
「あのさ...勝手に殺さないでもらえるかしら、そもそも悪魔は死なないし」
「そ...そうなのか...?」
相良はぽかんと口をあけた。
田中が何かを思い出したように言った。
「そういえばそうだったわね」
「そんな大事な事忘れるな!」
相良が即座に振り向いた。
佐々木が大きくうなずく。
「そういえばそうだったな...」
「それぐらい相良君も気づいて欲しいわよね」
「無茶言うな!悪魔初心者だぞ俺」
田中は相良の右手を指さす。
「勉強不足ね。そもそも食べが悪魔が右手にいる時点で気づいて欲しいわね」
相良の右手がぬるっと動いた。
「おい...早くここから出せよ。ダル過ぎんだよ」
「ほら」
「気づくわけないだろ!」
相良は叫んだ。
「あのな。自分の右手がどうなってんのかだってわかってないんだぞ」
その横で赤峰がショックを受けた顔をしていた。
「えっ?死んでないんですか…?」
「そのようだが…」
「じゃあ、逃避行できないじゃないですか!」
「そもそもそんな予定はないぞ」
赤峰は湊を見た。
「先生!死んでください!今すぐ死んでください」
「ちょっ、ちょっと!?何を言ってるの?あなた今とんでもない事言ってるわよ」
「でも二人きりの逃亡生活は先生の死が必要です!」
湊は本気で引いている湊に対して赤峰は首をかしげていた。
「先生!私たちの為にお願いします」
「無理無理、あなた悪魔より怖いわよ」
その時湊が佐々木に気づく。
「そういえば...悪魔の敵...あなただけは死んでもらわないと…」
口が裂け不敵な笑みを浮かべる。
佐々木は手を上げる
「待ってくれ。今は時間外だ」
「は?」
「営業時間内ならいくらでも相手するけど...今はちょっと」
相良がぼそりとつぶやいた。
「会社員か...?」
「何その意識高い感じは...」
湊は困惑し、少しショックを受けていた。
「今どきの子ってドライね...」
湊は髪をかき上げる。
「…まあいいわ。今日の所は見逃してあげる」
「負けた側のセリフじゃないよな」
「うるさいわね」
相良のツッコミに湊の顔が赤くなった。
白い空間が消え日常が戻る。
湊はそっと立ち去って行った。




