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自由奔放巫女のお仕事とファーストキス

 翌日、鮎と同じ聖都学院から俺が帰宅すると、母の亜里沙が洋館のリビングにいた。鮎が下着姿で座っていた場所だ。亜里沙は巫女装束ではなく、いかにも男の目を惹きそうな、肌の露出が多い恰好で、だらしなくソファーにもたれかかっている。


 酔ってるのかな? 俺はそう思った。目の焦点が定まらない感じ。公務の後はいつもこんな様子だ。つまり、新しい男に抱かれた余韻を引きずっているというわけだ。こんな時は、極力関わり合いを避けるべきだということを俺は経験上知っている。


 「ねえ。亜夢。鮎とは上手く行った?」


 無言の俺に、亜里沙はいきなり、そう切り出した。やっぱり酔っている。いくらなんでも、単刀直入過ぎるだろ。ってか、まさかとは思うが、鮎をあんな風に焚き付けたのは、あなたですか? 実の娘にコンドームまで持たせて。


 「な、なんの話だよ、いきなり」


 俺は動揺を見抜かれまいとするが、到底無理だろう。いや、やましい事なんかしてないけど、まだ……


 「うふふ。顔を真っ赤にしちゃって。可愛い。その様子だと、まさか図星?」


 「何が図星だよ。俺、まだ……」


 「なんだ。まだ、やってないの? でも、キスくらいはしたでしょ?」


 「俺たち、兄妹だぞ。そんな事……」


 「そんな事も、あんな事も、二人が好き合っていたら、それで良いと思うけどな。ねえ、どこまで進んだの? まあ、答えてくれなくても、鮎から聞いちゃうけどね。うふふ。楽しみ」


 「あんたは、自由奔放過ぎるよ。巫女だろ」


 俺は、そう言った後で、亜里沙の顔が曇るのを見て、口を滑らせてしまったことに気付いたが、もう遅い。


 「そうね。亜夢には包み隠さず話してるでしょ。巫女の公務がどんなものかってこと。神聖な儀式と言いながら、男に抱かれるの。昨夜の相手は、初見さん。最近名を上げた評論家らしいけど、エッチはねちっこいだけで酷かったわ。下手なくせに、妙な自信を持ってるタイプ。わたしが感じてるふりをしたら、思い上がっちゃって。ドヤ顔でキスを迫るの。思い出しただけで、鳥肌立っちゃう。しかも、満足気に中出しまでしちゃうんだから最低、最悪のゲス野郎。ルール違反も甚だしい身の程知らず。あんまり酷かったから、その後、パパを呼びつけて、たっぷりお仕置きしてやったわ。膝まずかせて、鞭打って、少しは気が晴れたかしら。ううん。まだまだ、あのゲス野郎の一部がお腹の中に入ってるって思うだけで、情けなくって泣けてきちゃう」


 亜里沙は、言葉通りに泣き始めた。こんな彼女の姿を何度見てきたことか。俺は、無言のまま、話を聞いているしかなかった。だから、巫女の話題に触れたくないんだ。


 泣き止むと、亜里沙は静かに眠ってしまう。いつものことだ。俺は、彼女がソファーの上で寝入るまで待って、毛布をかけてやった。これが、世間も羨む天下の名門神無月家の日常なんだ。



 それからの数日、噂に聞く鮎の初競りの時期が刻一刻と迫っているのに強い焦りを感じながら、俺は鮎と変わらぬ日常を過ごしていた。


 道明ヶ原家のスキャンダルの件が、常時、俺の頭を過っていた。鮎を連れ出そう。こんな家、こんな世界から。そんなことは無理だと知りながらも、ついついそう考えてしまう。無理じゃない。現に、道明ヶ原家の兄は、妹を姫神候補と知りつつ誘拐してしまったんだ。今では第一級国家反逆者として指名手配されているけど。




 「ねえ、お兄ちゃん。最近、わたしの彼のこときかなくなったね」


 俺の部屋にノックもせずに勝手に入り込んで来た部屋着姿の鮎が、ベッドの端に腰を下ろしながらそう言った。俺は、勉強机に向かって参考書を広げたまま、申し訳程度に振り返った。


 「彼って、鮎の妄想だろ。優しい紳士だと言ったり、同級生だと言ったり」


 「ふーん。そんな風に思ってるんだ。ねえ、お兄ちゃん。今度、一緒にデートしてあげる」


 「デートって、なんだよ。兄妹でよそよそしい」


 「よそよそしいかな。どうせ、お兄ちゃん、彼女なんかいないんでしょ。お慈悲みたいなものだと思ってよ。それとも、義理? それにほら、お兄ちゃん、わたしのこと大好きでしょ」


 「あえて、否定はしないでおいてやるよ。でも、それとこれとは話が別だろ。デートって、男の子と女の子が……」


 「お兄ちゃんとわたし、男の子と女の子だよね」


 そう言って俺の言葉を遮った鮎の目は真剣な光をたたえて揺れいる。そして、今にも涙が零れだしそうに見えた。俺の頭の中に亜里沙の言葉が響く「キスくらいはしたでしょ?」って。何だか、キスくらいしてもいいように思えてきた。許されるのか? 何が? 俺の頭の中で、俺が問答を繰り返しながら、胸の鼓動が荒くなる。まるで、耳元で脈打っているようだ。


 「じゃあ、試しにキスしてみるか?」


 震える唇から絞り出した俺の言葉に鮎は即答した。


 「いいよ」


 鮎の返事を俺は予期しながらも、驚いていた。


 「いいのか? 俺、本気だぞ」


 「お兄ちゃん、遊びでキスしようとしてたの?」


 「いや、そんなわけじゃ……」


 俺は鮎の瞳に促されるまま、ベッドの端、二人並んで座ると、鮎の細い肩を抱いていた。指先が柔らかで温かい肌に食い込む感触に夢中のまま、唇を重ね合わせていた。


次回:姫神候補と清童事始めの儀、七人の花婿


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