いちゃつくって、こういうことをいうのよ
「マドくん。あなたが安城美嘉って子と付き合ってるって噂があるんだけど、本当?」
俺の部屋に上がり込むなり、瑠奈はそう言った。彼女は、連絡会議などと言いながら、月に二、三度、俺の部屋に来ているのだ。そして、組織から連絡を受けたという鮎の近況を伝えてくれたりする。どういう連絡経路があるのか俺には知らされていない。禁則事項だということだ。
「すごい人気アイドルだよね。この子でしょ」
瑠奈は、美嘉のファースト写真集まで持参していた。
「いかにも胸に脂肪があり余ってるって感じの子。マドくん、やっぱり、こんな子が好きなんだ。こんな胸、重たいだけで、男の興味を引く以外の使い道なんてないんだからね。それなのに、マドくんったら、鮎ちゃんがいるのに……」
「待って、付き合ってるってただの噂だろ。俺、本当にそんなことしてないよ」
俺は、一方的にしゃべろうとする瑠奈を遮って、そう言った。美嘉と俺、だいぶ際どい関係なのは確かだけど……
「でも、SNS上で話題になってるんだよ。美少女アイドルと男の娘アイドル、甘い百合カップル風熱愛デートの顛末とかなんとか。まあ、噂に過ぎないとしても、すっかり話題になってるのは事実だからね。それで、本部でもそろそろ潮時だって、ことになったの」
「潮時って?」
「そう。次の作戦への移行。作戦名は……」
その時、ドアのチャイムが鳴った。
「あれ? 来客? おっかしいな。私の結界が破られるなんて」と瑠奈。
おかしくないよ。何、その結界って。俺はそう思いながら、来客者の姿をモニターで確認した。それは、美嘉だった。瑠奈も俺の横でしっかりモニター画面を見ていた。
「この子ね。うふふ。大胆だわ。トップアイドルが白昼堂々と彼氏、いえ彼女かしら、の部屋を訪問するなんて」
え? どうして? 美嘉には俺の部屋教えてないはずなのに……。それに、俺、彼氏でも彼女でもないよ。そんな戸惑う俺にお構い無し、瑠奈がポチっとドアロックを解除した。
「私が呼んだの。予定よりだいぶ早い到着だけどね。ま、いいわ」
また何か悪企みをしているような笑みを浮かべるエロ女神だった。
「いらっしゃい、安城美嘉ちゃん。お初にお目にかかるわね。私のことはサラと呼んで。コードネームよ。堅苦しい挨拶は抜き。来てくれて嬉しいわ。まずは、くつろいでね。まだ時間あるから」
「マド、誰、この子。わたし、マドに呼ばれて来たのよ。どうして、こんな子がいるの? スタッフの娘さん? それともマドの妹? 妹がいるなんてわたし聞いてないけど」
瑠奈の言葉を完全にスルーする美嘉。
「ぬぐぐっ。レディの挨拶を無視するなんていい度胸ね。さすがトップアイドルと言うべきかしら。私は、マドのスポンサーよ!」
「スポンサー? このちんちくりんが?」
「ちんちくりんとは何よ! まあ、でも、こうして言葉で責められるのも悪くないわね。なんだかゾクゾク感じちゃう」
美嘉に比べて背丈も胸もだいぶ足りていない瑠奈は、また変な性癖に目覚めそうだ。
「マドってかわいそう。変なスタッフばかり揃ってるのね。プロデューサーを除いては」
そう美嘉に同情されてしまう俺。
「マドが、わたしを呼び出すって、意外だったわ。うふふ。また、わたしのオッパイが恋しくなったとか?」
そう、瑠奈が眼中にないかのように話す美嘉。
俺が呼び出したわけじゃないし、瑠奈の目の前でそういう話は避けて欲しいんだけど……
「お二人さん、いきなりいちゃつかないでよね。まったく、地球人はこれだから調子狂っちゃうわ」
俺、まだいちゃついてないと思うけど……。それに、その地球人って言うのは止めて欲しい。まあ、普通の人間には意味不明な言葉に聞こえるだけだろうけど。
「いちゃつくって、こういうことをいうのよ。憶えておきなさい、ちんちくりん」
そう言うなり、美嘉は俺に抱きついて唇を重ねていた。軽く触れ合ういつものキスだ。最近、人前でも構わず俺にキスをするようになった美嘉。これでは、付き合っているって言われてもおかしくないって言うか、やっぱり、俺たち付き合ってることになるのかな。
美嘉に強引に誘われて、人気テーマパークでお忍びデートをしたこともある。サングラスとカラーウイッグで変装していても、スタイルの良い美少女二人組に見えて目立ってしまう俺たち。それでも、周囲の視線を気にする様子も無く、ことあるごとに軽い乗りで俺に抱きついてキスをする美嘉だった。そのため、最近、俺は出来るだけ美嘉とお揃いの口紅を付けるようにしている。
美嘉と俺は、杏子の部屋での女子会の夜以上の事はしていない。まあ、あれだけやれば、十分過ぎる関係だけど……。あの夜、俺と美嘉は、結局、杏子と礼奈とは別の寝室を借りて、二人同じベッドで夜を明かした。二人とも杏子のパジャマを借りて。丸まって抱き合ったりもしたし、俺は美嘉のパジャマの胸をはだけさせ、生乳房を思う存分吸わせてもらった。
それでも、男と女の関係にはなっていない。たぶんそうなることはない。美嘉と明かした夜の眩しい朝日を浴びながら、俺はそう思った。俺は、一晩中、美嘉の隣で女の子の姿を保っていた。男になれば、美嘉と一緒にいられる時間は終わってしまうと俺は思った。
美嘉は、俺との仲を運命共同体と呼び始めた。優を通じてという意味だと俺は理解している。二人きりの時の話題は、決まって優のことになる。もちろん俺は聞き役だ。その一方、俺は、俺の運命に美嘉を巻き込むことは出来ない。俺の宿命は、彼女には厳し過ぎるのだ。だから、美嘉を俺の腕の中で女にすることは出来ない。
美嘉のアイドルという仮面の下に秘められた夢見がちで純真な少女のままでいさせてあげたい。俺は、切にそう思っていた。
今、その美嘉は、キスの後も抱きついたまま、自慢の胸を俺の体にこれ見よがしに押し付けている。瑠奈の目の前だ。一方の瑠奈は、美嘉に返す言葉も無いまま、携帯電話を取り出して会話を始めていた。
「うん。そういうこと。二人とももう揃ってるし、私の前でいちゃついてる。ほんと、お熱いったらありゃしないわ。だから、予定変更。よろしくね」
「今の電話は誰? 何の用事?」
俺は瑠奈にそうたずねた。
「気にしないで、こっちの都合だから。お二人は、そのまま続きをどうぞ。人間に残された時間って少ないのよ。楽しめる時に楽しまなきゃ」
「どうぞって言われても……」
「マド。気にすることないわ。わたし、初めてあなたの部屋に呼ばれて来たんだから。こんな変な子に邪魔させない」
そう言って、美嘉は、唇を重ねてきた。今度は、舌まで絡ませたキス。本格的なキスは、あの夜以来初めてだった。激しいキスで互いの息が上がってしまう。
瑠奈の熱い視線を感じてより興奮を覚えているのか、美嘉は今までになく必要以上に腕を絡ませ、体を押し付けてくる。すっかり硬くなった俺の男としての分身が美嘉の柔らかいお腹に押し付けられている。美嘉はその硬い異物の感触を確認し味わうかのように腰を振っていた。豊満な胸が美嘉と俺の間でたわむように揺れている。俺は、美嘉のお尻を両側からしっかり掴んだ。
待て! 俺。これって、完全に男と女のキスになってる。しかも、瑠奈の目の前だぞ。美嘉とのキスに応じながら、横目で瑠奈を見ると、彼女は薄笑いを浮かべて俺たちを見ていた。何を考えている。何も考えていないか。エロ女神は楽しめればそれでいいんだ。
次回:清純派アイドル?のお泊まりデート
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