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女子会の酒の肴の男の娘と美少女アイドル

 杏子あんずの部屋は優の部屋ほど広く開放的ではないが、女性の部屋らしく小綺麗で全体的に落ち着いた優しい色調で統一されていた。杏子は、大手芸能事務所勤務のキャリアウーマンだ。女性に歳をきくのは失礼だと思ってきいたことがないが、亜梨沙と歳が近そうにも思える。つまり、大人の女性だ。


 スタイリストの礼奈は、俺より先に来ていた。既に、テーブルの上にはアルコールの缶やグラスが並んでいる。


 杏子も礼奈も、部屋着に近いラフな服装だった。普段着でも女の子らしく決めてしまっている俺の姿がかえって浮いちゃいそうだ。


 普段、筋が通ったようなパンツスーツ姿の杏子しか見たことない俺にとって、部屋着姿の彼女は新鮮に見えた。着痩せするタイプなのだろう。普段より胸がだいぶ大きく見えるし、ノーブラのようだ。胸の深い谷間と共に左右の乳首の形がかすかに浮き出して見えて、俺は、少し目のやりどころに困ってしまった。十二分な色気を纏った若干だらしなさそうな姿は、亜里沙に少し似ていると思った。


 「なあに? マドちゃんてば、杏子に見惚れちゃってるの? 案外、いい体してるもんね杏子」


 礼奈が絡むような口調でそう言った。すでにだいぶ飲んでいるようだ。彼女は酒豪だという噂を聞いている。礼奈はこの部屋で着替えたのだろう。スタイリストらしい洒落た部屋着姿だ。華奢な体形の美しさを強調し過ぎない程度に見せている。


 「今夜は、女子会だって、言ったでしょ。礼奈。そんなふうに言ってマドくんを困らせちゃダメよ。ほら、マドくん、黙り込んじゃったじゃない」


 「何だか、悔しいんだよね。男の娘のマドちゃんが、一番女の子っぽくって可憐で、可愛いのってさ。ま、いつものことだけど」


 「マドくんは、私たちのアイドルなの当然でしょ」と杏子。


 「はーい。分かってますってば。ねえ、マドちゃん。昨夜の話、詳しく聞かせてくれない? 彼氏とは、どこまで行ったの? まさか、エッチなことしちゃったとか? プロデューサーとアイドルの秘められた恋バナ興味あるな」


 いつもは控え目で、こんな調子じゃない礼奈。酔うと人が変わってしまうようだ。


 俺が一言も言い返せないで立ちすくしている時、玄関のチャイムが鳴った。


 「来たようね。もう一人の女子会のメインゲスト。マドくんは初対面かも」


 そう言いながら杏子は、俺のすぐそばを通り過ぎた。服が擦れ合う距離で、普段はつけていない杏子の甘い香水が俺の鼻をくすぐった。



 部屋に入ってきた女の子に、俺ははっきり見覚えがあった。テレビでよく見る顔だ。名前は、安城美嘉。優がプロデュースする美少女アイドルユニットのメインメンバー、正真正銘の美少女アイドルだ。人気絶頂のアイドルでありながら、最近出したグラビア写真集でトップレスの乳房を手で覆っただけの妖艶な半裸身を披露したことでも話題を集めている。


 「美嘉ちゃんよ。マドくん。お互い、顔は知ってるわよね。人気アイドルとしてはライバルどうしかも。こうやって会うのは初めてかしら」


 杏子はそう言って紹介した。


 社交辞令的に軽く会釈をした俺に、美嘉は、にこりともせず、冷たい視線を浴びせている。ライバル意識というより敵意さえ感じられる視線だった。それも束の間、美嘉は表情を崩して、杏子と礼奈に向き直った。


 「お久しぶりです。杏子さんと礼奈さん。今夜は呼んで頂いてありがとう」と、人が変わったように笑顔を振りまく美嘉。


 「人気絶頂のアイドル二人が揃うと、華やかね。部屋が明るくなったみたい。私なんか、かすんじゃいそうで、女として恥ずかしいわ」と礼奈。


 「そんなことないですよ。礼奈さん。いつも素敵なスタイルで、わたし、羨ましいんですから」


 「はい。はい。お世辞はいらないからね。さあ、美嘉ちゃんもマドちゃんも、何か飲む? ここは杏子の家なんだから遠慮しないでくつろいでね。二人とも十九歳、アルコールはまだダメなのが残念だけど」


 そう言う礼奈。俺は、半端ない異端感を覚えていた。だって、俺、男だもん。やっぱり、女子会だなんて来るんじゃなかった。肩身が狭すぎる。優の部屋の方がずっと居心地が良かったと思ってしまう。


 唯一の救いは、瑠奈がこの場にいないことだ。あいつなら、人一倍面白がって混ぜ返すことだろう。


 「そう、そう。マドちゃんの恋バナの途中だったっけ……、えーっと、そう、彼氏の……」


 そう言い出した礼奈を杏子が遮って、無理やり部屋の隅に引っ張って行った。杏子が、俺と美嘉の方をちらちら見ながら礼奈に耳打ちしている。何の話だろう? 優のことかな、やっぱり。でも、どうして? 美嘉には聞かせられないこと?


 「ちょっとね。せっかく、今話題騒然の美嘉ちゃんが来てくれたんだし、美嘉ちゃんの話が聞きたいなって。恋バナで盛り上がるのは、まだ、後の方がいいでしょ」


 テーブルに戻ると杏子はそう言って言葉を続けた。


 「ねえ、美嘉ちゃん。ファースト写真集でいきなりあの大胆カットは、凄い評判だよ」


 「うん。うん。あのぎりぎり見えそうで見えないトップレス写真。私、食い入るように見ちゃった」と礼奈。


 「はい。でも、わたし、ちゃんと隠してましたよ。手で」


 美嘉はそう言って、両手で自分の胸を隠す仕草を見せた。服の豊かな膨らみから一目で大きさが見てとれる胸だ。トップレス写真で見た美嘉の乳房は両手に余るサイズで、横乳と下乳の丸みが印象的だった。そう、俺もその写真集はしっかり見ていた。


 今、目の前にいる美嘉は、美少女アイドルの普段着らしく全体的に甘めな味付けのコーディネートで、丈長のスカートが例の写真で披露した細く美しい腰のくびれをさりげない程度に目立たせている。長身の彼女は俺とほぼ同じ背丈で、写真やテレビで見るままの脚の長いスタイルの良さが目を引く。そして、実物はさらに小顔に見える。髪は肩に掛かる程度に真っ直ぐカットされた艶のあるストレートヘアで手入れの良さが一目で分かる。


 「でも、その場にいた撮影スタッフの前で脱いじゃってるんでしょ。あられもないショーツ一枚の裸になって。つまり、彼氏以外の男に見せちゃったってわけ。美嘉ちゃんの生乳首。どんな色なんだろ。くふふ。私も見たかったな。杏子の乳首は見飽きるほど見てるからさ。杏子、酔うとすぐに脱いじゃうんだもん」


 「そうやって、あることないこと言わないの。美嘉ちゃんとマドくんが本気にしちゃうでしょ」と杏子。


 「うふふ。杏子さんと礼奈さん、いつも仲が良くって羨ましいな。でも、わたしの胸、普通の女の子の胸ですよ。ああやって隠して、その道のプロのカメラマンさんに撮ってもらってるから、妖艶なポーズだなんて言われてますけど」


 そこまで言って、美嘉はちらりと俺を見た。相変わらず冷たい視線だ。


 「ここで見せちゃってもいいんですけど、無理ですよね。男の子のようなのが一人いますし」


 まるで部屋の隅を這いまわる害虫でも見るような美嘉の視線に、俺は返す言葉も無かった。


 「マドちゃんのことなら、気にしなくても大丈夫。もう、女の子みたいなものだから。まあでも、胸が無くて、無いはずの物が付いてるんだよね。確かめたことないけど」と礼奈。


 美嘉の敵意のこもった態度で、俺は、感付いてしまった。彼女が、杏子の言っていた優が手を付けたアイドル、そして、優の言葉では個人指導の相手だ。


 優ってば、まさか、今をときめくトップアイドルと体の関係を持ってたなんて……。羨ましいというか、やっぱり、男は男だ。まあ、気持ちは分かる。こんな子に言い寄られたら、誰だって、男の本能に火を付けられるだけじゃ済まない。


 だとしても、俺は、やましいことなんかしてない。優の口ぶりからすると性欲のはけ口にされている女の子から、泥棒猫扱いを受けるいわれなんてない。まあ、キスはしちゃったけどね。優と。


 それにしても、分からないのは、杏子の意図だ。優との関係を承知の上で美嘉と俺を鉢合わせるように仕向けたのだろう。女子会だなんて言って、とんだ茶番だ。酒の肴としてからかって楽しむ魂胆かもしれない。悔しいけど、ここはおとなしく引き下がった方が身のためだ。


 「俺、邪魔なようだから、お先に失礼……」


 そう言って、席を立とうとした俺の手を素早く握ったのは、他ならぬ美嘉だった。


 「待って。円城寺マド。わたし、あなたに会いに来たの。杏子さんからあなたが来ることを聞いて、参加させてもらったんだから、こそこそ逃げるようなまねしないで」


 もはや敵意を隠そうともしない目で睨んで、そう言い放つ美嘉。


 「逃げるだなんて、俺……」


 何なの? この子。俺に、優の恨み言でも言いたいってこと? それって、八つ当たりだし。それとも、単なる不思議ちゃん? 俺、無関係なんだけど。


次回:アイドルの修羅場?


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