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(36)暴竜喰らい

 王都が逃れようのない黒き炎に包まれ、三百年分の歴史が灰へと還っていく光景を。

 女神レグナは、白の虚空に浮かべた魔法の“窓”越しに、頬杖をついてじっと眺めていた。


(……ふふっ、すてき。まるで色鮮やかな花火ね。もっとよ。もっともっと、壊してちょうだい――)


 絶対的な破壊のパノラマに酔いしれ、ごきげんで指先を躍らせていた彼女の動きが。

 だがその時、ふと不自然に止まった。


 視線の端、王都を映し出す“窓”の片隅に、彼女の計算にはない、かすかに揺れる“黒の光”が映り込んでいたからだ。

 レグナの愛らしい笑顔から、スッと温度が消え失せる。


「そうだわ……すっかり忘れてた。あの忌々しい“暴竜喰らい(ドラゴン・イーター)”」


 レグナは薄く冷たい笑みを浮かべながら、虚空に浮かび上がった『ひと際厳重な封印が施された棺』の幻影へと、ゆらりゆらりと歩み寄る。

 口角は上がっている。けれど、その見開かれた瞳には、一切の光が宿っていなかった。


「最初は、ただの使い物にならない出来損ないだったくせに」


 棺を撫でる彼女の指先が、ギリッと不快な音を立てる。


「魔王に手も足も出ないで無様に負けて……そのくせ、絶対の動力源である『霊力の角』を、ポキッと折るくらい理不尽に強くなっちゃって?」

「しかも、わたくしが放った霊力で作った“剣”まで効かない……?」


 思い出すだけで腹が立つと言わんばかりに、レグナは自身の豪奢なスカートの裾をぎゅっと強く握りつぶし、汚いものを吐き捨てるように言葉を叩きつけた。


「――はぁ? ふざけてるの、あなた?」


 ギリィッ! と、完璧だった神の顔に、醜い怒りのひび割れが走る。


「ほんっっっとに、面倒なのよ!!」


 鼓膜を破るようなヒステリックな絶叫が、何もない白の虚空にビリビリと響き渡る。

 想定外のバグ。システムを逸脱した異物。思い通りにならない玩具に対する、神の醜悪な癇癪。

 肩を小刻みに震わせ、レグナは怒りのままに棺を睨みつけていた。


 しかし次の瞬間。

 ふぅ……と、彼女はこれ見よがしに大きく息を吐き出し、乱れた髪を直しながら、再び『完璧な女神の微笑み』という仮面を顔面に貼り付けた。


「でも、まぁ。使えるなら、使ってあげる」

「どうせ、すべてを壊すだけの役なら、手っ取り早くてちょうどいいもの」


 レグナは、冷酷な目で棺の奥底に眠るモノを見下ろした。


「ねえ、“暴竜喰らい”の勇者さん? 次の舞台、わたくしのために、ちゃんと暴れてちょうだい」


 女神の白く細い指が、空間に浮かぶ分厚い封印の結界にそっと触れる。

 パリンッと、ガラスが割れるような甲高い音と共に、封印の紋様が砕け散った。


 ズォォォォ……ッ。


 途端に、棺の中から底冷えのするような重苦しい黒霧が、ゆっくりと、しかし圧倒的な密度で溢れ出す。

 その霧の奥――。

 光すらも吸い込む漆黒の鎧をまとい、目を閉じた一人の“勇者”が、静かに息づいていた。


 その存在から放たれるプレッシャーは、もはや人のものではない。

 理を外れ、竜の力(霊力)すらも喰らい尽くす、冒涜的なまでの絶対的強者。

 それは、かつてこの狂った世界でただ一人“暴竜喰らい”と呼ばれることになった、最凶のイレギュラー。


 ――この“封印”が解かれたとき。

 レグナリアという世界はまたひとつ、決定的な『終焉』へと近づくのだった。


 ◇◇◇◇◇


 それは、“暴竜喰らい”という忌まわしい名で封印される前の。

 理不尽な世界でただ必死に仲間を守ろうとした、あるひとりの“勇者”の物語。


 彼らが召喚された時代、この世界を蹂躙していたのは『第二六魔王』――竜巻と稲妻をまとい、天空を切り裂いて現れたその姿は、神話に語られる伝説の暴竜そのものだった。

 恐るべきは、その圧倒的な質量と破壊力。魔王が通り過ぎた地は、田畑も家屋も、豊かな森も堅牢な城も、すべてが根こそぎ空へと巻き上げられ、ただの塵芥へと引き裂かれた。

 近づく者は慈悲なく竜巻の刃に攫われ、逃げる者は天からの稲妻にその身を焼かれた。

 絶望に震える人々は、やがて彼をこう呼ぶようになった。――“暴竜魔王”と。


 過去の魔王討伐と同じように、女神は異世界から五人の若者を都合よく召喚した。

 二人の勇者と、三人の聖女。

 その中でも、自ら最も前線に立ち、仲間をかばって大剣を振るう一人の青年が“リーダー”として選ばれた。


 彼らは戦った。与えられた正義を信じ、この世界の人々を救うために。

 しかし、彼らの運命は、過去に使い捨てられた勇者たちと同じ軌道を描くことはなかった。


 第二六魔王は――過去のすべての魔王の規格を、遥かに凌駕していたのだ。

 女神より授かったはずの強力な攻撃スキルも、渾身の魔法も、分厚い風の絶対防御壁に阻まれ、本体の鱗一枚にすら届かない。

 何度挑んでも、跳ね返される。傷つき、血を流し、泥にまみれるたび、彼らの心からは戦意が削り取られていった。


 そして――決定的な悲劇が起きた。

 仲間を想う心優しい一人の聖女が、あの鉄壁の風を突破するための新たな攻撃魔法を、己の命の炎を削って完成させたのだ。


「これで、みんなを――!」


 だが、彼女の命を懸けた魔法が風の壁を貫いた、その先。

 そこには、無数の稲妻が飛び交う“第二の防御壁”が、嘲笑うかのように待ち構えていた。


「……あ」


 少女が絶望に目を見開いた瞬間。彼女の華奢な体は、無慈悲な雷の檻に囚われ、一瞬にして黒焦げの炭へと変わってしまった。


 仲間を失った。目の前で、あまりにもあっけなく。

 残された四人は、ついに戦う意味そのものを見失った。

 思い返せば――この王国の連中は、自分たちの意思など一切聞かず、勝手な召喚の儀でこの狂った世界へと拉致したのだ。

 自分たちは救世主などではない。ただ都合よく消費される「兵器」に過ぎない。

 その凄惨な現実に、彼らはようやく気づいてしまった。


 魔王になんて勝てない。この世界から逃げたい。狂った運命から逃げたい。

 彼らは王国の目を欺き、魔王討伐を放棄して、元の世界に戻る方法を必死に探し始めた。


 けれど――この箱庭を支配する女神の目だけは、決して欺けなかった。


『役目を放棄する不良品は、矯正しなければ』


 ある日、彼らの身体から、淀んだ黒い霧が立ちのぼり始めた。

 そして額には、皮膚を突き破って、淡く禍々しく輝く小さな“角”が現れる。

 それは、女神が施した絶対的な“罰”だった。箱庭から逃げ出そうとした玩具に対する、神の焦りと怒りにまみれた呪い。


 いつの間にか、彼らが与えられたスキルは聖なる“白”から、泥のような“黒”へと染まりつつあった。

 逃げたいという自我は強制的に薄れさせられ、意識の中にただひとつの命令だけが焼き付けられていく。

『魔王を倒さねば』

『魔王を殺せ』

 その言葉だけが、まるで寄生虫のように心のすべてを支配し、彼らを再び戦場へと引きずり戻した。


 やがて、自我を失いかけた彼らと“暴竜魔王”との、絶望的な再戦が始まった。

 だが、戦況は変わらない。圧倒的な力の差の前に、黒く染まった仲間たちが一人、また一人と、無惨に倒れ、肉塊へと変わっていく。

 そして――吹き荒れる嵐の只中に、最後に残されたのは、大剣を携えたリーダーの“勇者”ただ一人だった。


(……マオウヲ……殺ス……)


 彼の虚ろな瞳は、血溜まりに沈む仲間たちの亡骸を映しても、もはや涙ひとつ流さなかった。

 完全に神の呪いに塗り潰された脳髄は、悲しみすらも処理できず、ただ壊れたからくり人形のように、植え付けられた命令だけを反響させている。


(……殺ス。……マオウヲ……殺ス……殺シテ……『全部消ス』……ッ)


 そのときだった。

 ズォォォォ……ッ!!!

 ボロボロの彼の体から、黒い霧が――それまでにない、空を覆い尽くすほどの圧倒的な量で噴き上がったのだ。

 神の与えた「魔王討伐」という矮小な呪いが、青年の底知れぬ絶望と混ざり合い、「世界そのものの消去」を渇望する致命的なバグへと変異した瞬間だった。


 仲間を救えなかった悔恨か。運命を弄んだ神への憎悪か。それとも、すべてを焼き尽くす狂気か。

 ――もう、誰にも分からない。

 ただ、その黒く重すぎる“想い”が、限界を超えた負荷となって、ひとりの青年を正真正銘の『災厄』へと変貌させていく。

 この世界の痛みを喰らい、仲間を失った絶望を糧にして、純然たる暴力へと変換していく。


 もはやそれは、世界を救うための「魔王と勇者の戦い」などではなかった。

 ――『魔王』 vs 『災厄』。

 ただ殺し尽くすことだけを目的とした、同じ化け物同士の、醜く悲惨な潰し合いだった。


 彼は、ただの普通の青年だった。

 罪を犯したわけでも、誰かを呪ったわけでもない。ただ、理不尽に戦う運命を押し付けられ、すべてを奪われただけだった。


 ボキ――ッ。


 耳障りな音が響いた。

 黒い霧を纏った災厄の手によって、絶対の動力源であったはずの“暴竜魔王”の角が、あまりにもあっさりとへし折られたのだ。

 同時に、難攻不落を誇った竜巻の壁が、稲妻の檻が、霧散して消え去る。

 災厄と化した元勇者は、黒く染まった大剣を高く掲げ、そのまま――哀れな魔王の脳天めがけて、躊躇いなく振り下ろした。


 グチャリ。


 その瞬間、災厄は“喰らった”。

 倒れ伏した暴竜魔王の胸に素手を突き立て、噴き出す黒き霧を、血を、肉を、そして魔王の魂ごと――己の身に貪り喰らったのだ。


 バチバチバチッ!! ギュォォォォン!!

 消えたはずの稲妻の檻が、竜巻の壁が、彼の周囲に再び現れる。

 だがそれは、もはや暴竜魔王のものではなかった。

 “暴竜喰らい”と化した災厄の、新たな、そしてより禍々しき防壁として顕現したのだ。


「ヴォォォォォォーーーーンッッ!!!」


 それは、言葉を持たない獣のような、世界の終わりを告げる咆哮だった。

 ――もはや彼は、人間ではなかった。ただ破壊を渇望するバグ。


 その異常事態に、ついに空が裂けた。

 遥か天の虚空より、システムを逸脱したバグを消去すべく、女神の放った『天より降る剣』が光の束となって降り注ぐ。

 ズドォォンッ! と、神の剣が彼の胸を深々と貫いた。

 それは裁きだった。「失敗作」としての、神からの絶対的な処分だった。


 だが――何も、起こらなかった。


「……グルァッ」


 災厄は、己の胸に突き刺さった光の剣を素手で掴むと、忌々しそうにゆっくりと引き抜いた。

 そして天を睨みつけ、再び獣のように吠えた。神の即死攻撃すらも、彼には通じなかったのだ。


 彼に(スキル)を与え、剣を取る理由を与えたのは、女神だった。

 そして彼に罰として“災厄の子の証()”を宿し、逃げる道を奪ったのも――また女神だった。

 本来なら相反するはずのふたつの“祝福(のろい)”が、限界を超えて一人に重なったとき。

 ――それは、(システム)の手すら負えない、絶対的な『災厄』へと変貌を遂げたのだ。


『……っ、この、出来損ないがぁっ!!』


 天の彼方で、女神がギリッと歯ぎしりをする音が響いたような気がした。

 今度は何十本、何百本もの“光の剣”が、雨あられと次々に降り注ぐ。

 それらが何重にも災厄の身体を貫き、膨大な黒い霧が剣の力に吸い込まれ――ようやく、そのバグである『暴竜喰らい』は、重い地鳴りとともに動きを止めた。


 光の墓標群のように大地に縫い留められ、ついに沈黙したその姿を見下ろして。

 空から、白々しいほどに慈愛に満ちた女神の声が降り注いだ。


『ああ、哀れな迷い子よ。……この者は、己の強すぎる力と傲慢さに呑まれました』


 王国の空に響き渡るその声は、真実など微塵も孕んでいなかった。


『この者は狂乱の中で、わたくしに牙を剥き、こう言いました。“暴竜を屠りしこの穢れた手で、いずれ神をも討ち果たす”――と』

『この者は、“暴竜魔王”の魂を喰らいし異形。神の領域に土足で踏み込みし、世界の理を壊す災厄の化身です。ゆえに、わたくしが慈悲をもって封じました。人としての名を奪い、“暴竜喰らい”として、永劫の闇に』


 ……なんという、悪辣な嘘だろうか。


 彼が命と魂を引き換えにして討ち果たしたのは、第二六魔王。暴風と雷をその身にまとい、空をも支配した無敵の“暴竜魔王”だ。

 すべての仲間が理不尽に散り、己の肉体も心もすり減り、人間としての尊厳すら削り尽くされた死闘の果てに。最後に残り、狂気の中で“竜”の首を刎ねたのは、他でもない彼ひとりだった。

 世界を救ったのは、間違いなくこの名もなき青年だったのだ。


 だが、救われたはずの人々は、女神の言葉を盲信した。

 空を見て震えながら、彼らが血を流して守り抜いた当の人間たちが、彼を石で打つようにこう呼んだ。


 “暴竜喰らい”――と。


 それは、魔王を討伐した勇者を讃える称号などではない。

 神の権威を踏みにじり、分を弁えずに神に反逆しようとした「傲慢な男」に与えられた、嘲りと畏怖の蔑称だった。

 あれはもはや、勇者などではない。魔王すら喰らう、おぞましい災厄の怪物。禁忌の存在。

 “暴竜喰らい”――それは、人にも勇者にも魔王にも属さぬ、神の逆鱗に触れた哀れな化け物の名だった。


 こうして、“暴竜喰らい”は人としての名も、仲間を想う優しさも、世界を救ったという誇りすらもすべて奪われ――。

 彼が命を賭して守り抜いた「王国」そのものの手によって、冷たい“封印の塔”の最深部へと厳重に封じられることとなった。


 嘘に隠れた真実を知る者は、誰ひとりとしていない。

 彼はただ、神に逆らった『異形の化け物』として、永劫の闇の中で目覚めの刻を待ち続けるのだ。

 そして今、彼からすべてを奪ったその女神の手によって、再び理不尽な破壊の舞台へと引きずり出されようとしている――。


 ◇◇◇◇◇


 きぃぃ……、ミシッ、ミシィッ……。

 “暴竜喰らい”を縛り付けていた絶対の結界が、静かに、しかし確実に崩壊してゆく。

 白の虚空の玉座から、魔法の“窓”越しにその漆黒の棺がゆっくりと開くさまを見下ろしながら、女神レグナは苦い汚泥でも飲み込んだかのように、その美しい顔を不快げにしかめていた。


 ――あの日。“暴竜喰らい”という最凶のバグを処理し、無理やり封印させた直後。

 レグナは激怒のままに、聖レヴェリア王国の上層部へ苛烈な粛清を断行した。


 原因は、王国のトップである国王の驕りだった。

 神の啓示を受け、勇者たちを召喚する役割を担っていたかつての国王は、数百年もの時の流れの中でいつしか傲慢になり、分を弁えることを忘れていた。

 神からの貴重な“贈り物”であるはずの勇者と聖女を、まるで自分たちの所有物か、一介の使い捨ての兵卒のようにぞんざいに扱っていたのだ。


 その結果が、あれだ。

 勇者たちは王国に絶望して戦う意味を見失い、レグナの箱庭から逃亡を図るという最悪のバグ(使命の放棄)を引き起こした。

 レグナは直接干渉せざるを得ない状況に追い込まれ、バグを修正するために貴重な『天より降る剣』を何百本も浪費する羽目となった。

 何より、彼女が何百年もかけて丁寧に築き上げてきた“信仰の構造”そのものが、崩壊の危機に瀕したのだ。


(――今でも、思い出すだけで、はらわたが煮えくり返るわ)


 レグナは眉間に深い皺を刻みながら、ギリッと爪を噛む。

 だから彼女は、愚かな国王から神の声を聴く資格を永遠に剥奪した。

 代わりに選んだのは、王族の血を引く、才気煥発で従順なひとりの若き魔導士。彼を新たな神の代行者に据え、王国の実権を握らせた。


 いつしか、彼は“魔導卿”と呼ばれるようになった。


(そう……魔導卿にすべてを管理させてからは、何もかもが順調だったのよ)


 レグナは荒れた呼吸を整え、ふう、と息を吐く。

 続く第二十七魔王も、それ以降の魔王も、魔導卿はレグナの天啓通りに完璧な召喚の儀を行い、勇者と聖女を洗脳に近い形で徹底的に管理した。

 おかげで彼らは、自分たちの役割を一切疑うことなく、ただ消費される兵器として魔王を討ち果たし続けた。レグナへの信仰は再び盤石のものとなり、極上の祈りのエネルギーが彼女を満たし続けていた。


 ――あれからは、すべてがわたくしの思い通りにいっていた。

 最後の、第三十魔王の討伐だって。


《……》


 そのときだった。

 物理的な接触などあり得ないはずのこの場所で。

 レグナは、己の背中を氷の刃で撫で上げられるような、鋭く、深々と穿つような“視線”を感じた。


「……誰?」


 ハッと弾かれたように振り返り、白の虚空を見回す。

 だが、当然ながら誰の姿もない。

 ここは女神レグナの絶対領域。あらゆる世界から隔絶された神の座であり、いかなる強者であろうと、他者の干渉などシステム上『絶対にあり得ない』はずだった。


 だが――空気が、見えない刃のように研ぎ澄まされていく。

 死の気配に似た冷たい凪が、レグナの豪奢な長い髪を不気味に揺らした。

 絶対者であるはずの彼女の胸の奥が、かすかに、だが確かに、恐怖に震えていた。


(まさか……そんなはずないわ! この秘匿された場所に、触れられるはずが――っ!)


 レグナリアの世界から完全に隠し通してきたはずの、神の領域の“座標”。

 そこに今、何者かが明確に指先を伸ばし、こじ開けようとしている。

 それは、矮小な敵意でも殺意でもない。ただ静かに、冷徹に、この狂った世界の支配者を見据え、捕捉したという、絶対的な“意志”だった。


《――見つけたぞ》


 その声は、どこからともなく。

 しかし、紛れもなく、玉座に座るレグナの耳元で、はっきりと囁かれた。


「っ……!!」


 女神レグナの完璧な笑みが。

 三百年間、ただの一度も脅かされることのなかった絶対的な優位が。


 音もなく、ガラガラと崩れ落ちた。

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