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(1)災厄の子

 世界最大の大陸、グラナ=ミール。

 かつて精霊の祝福を受けたと謳われたこの大地は、ここ三百年のあいだに、何度も壊滅的な災害に襲われてきた。それは自然の摂理によるものではなく、ある“呪い”にも似たシステムによって引き起こされるものだった。


 その名を、『災厄』。


 ひとたび災厄が現れれば、ひと月ものあいだ絶え間ない暴風雨が大地を打ち据え、地震が都市を揺るがし、雷火が森を焼く。ひとつの国が地図から消えることも珍しくなかった。文明は、少しずつ、確実に衰退していった。石造りの堅牢な城壁も、天を衝く尖塔も、災厄の前では砂上の楼閣に過ぎない。人々は恐怖し、逃げ惑い、そして――ある“生贄”を求めた。


「はぁ、はぁ……。どうして、こんなことに……」

「見つけたぞ! あそこだ!」

「まずい、見つかった……!」


 潮の香りが漂う港町の倉庫街。入り組んだ路地を駆ける少年の息遣いが、湿った夜風に吸い込まれていく。足がもつれ、転がりそうになるのを必死で堪える。喉が張り付き、心臓が早鐘を打つ。背後から迫る怒号と、金属の鎧が擦れ合う音が、死神の足音のように近づいてくる。


「額に角だ! 間違いない、『災厄の子』だ!」

「逃がすな! 人類の敵め!」

「はぁ……はぁ……」


 少年は、ただの村人だった。

 昨日までは、畑を耕し、仲間と笑い合い、明日を夢見ていた、ごく普通の少年だった。罪を犯したわけでも、誰かを呪ったわけでもない。ただ、今朝目覚めたとき――額に、小さな突起が生えていた。ただそれだけのことだった。


「観念しろ! お前を生かしておけば、民が苦しむ!」

「はぁ、はぁ……。逃げなきゃ……。どこかに……隠れなきゃ……」


 『災厄の子』。

 数年ごとに現れる、世界を滅ぼす種子。

 角が芽吹いたその瞬間、彼らは理不尽な“(くじ)”によって選ばれた『災厄』の依り代へと変貌する。三ヶ月の刻限を経て角が黒く染まるとき、その身を門として大陸を焼き尽くす大災害が顕現するのだ。


「おい、あちら側へまわれ! 囲むぞ」

「どこ行きやがった、あいつ……」

「はぁ、はぁ……。まずい……帝国兵に捕まっちゃう……。捕まえられたら、僕は……」


 この三百年のあいだ、大陸の住人たちが学んだことはただ一つ。角が現れた者は、もはや隣人でも、家族でも、人間ですらないということだ。それは世界の平穏を脅かす「災厄」そのものであり、見つかり次第、あらゆる手段をもってこの世から消し去るべき不浄の種であった。


「この辺りに隠れているはずだ! 探せ!」

「おい、出てこい! お前を『災厄』にさせるわけにはいかないんだ!」


 兵士たちの叫びは、正義感に満ちていた。彼らもまた、必死なのだ。この少年を殺さなければ、自分たちの家族が、故郷が、国が滅びるかもしれない。その恐怖が、彼らを残酷な狩人へと変えていた。


「はぁ……はぁ……。どうして……。どうして僕は……災厄の子なんかに……」

「こっちだ、囲め! この辺りのどこかに逃げ込んだはずだ!」


 少年は錆びついた扉が開いたままの倉庫の陰に滑り込み、震える身体を抱きしめた。額の角が、熱を持っているように感じられた。この小さな突起が、自分を人間ではなくした証。

 涙が滲む。死にたくない。生きたい。ただ、それだけなのに。


「しっ。見てみろ。血の跡があの戸の中に……」


 足音が止まる。

 心臓が凍りつく。


 ギィ……。

 錆びついた蝶番が悲鳴を上げ、廃屋の扉が開かれる。逆光の中に立つ兵士たちの影が、長く伸びて少年の足元を侵食した。


「この倉庫の中だ」

 カツン――カツン――。

 軍靴の音が、死の宣告のように響く。


「おい、出てこい! 災厄の子」

「出てこい! このまま、民を苦しめる気か!」

「安心しろ! お前の死で世界が救われるのだ」


 バサッ――。

 布が払われ、少年は引きずり出された。突きつけられた松明の炎が眩しい。けれど、それは希望の光ではなかった。


「……ヒ、ヒィッ……」

「ククク、そこにいたか……災厄の子」

「さぁ、皇帝の命だ。その角もろとも刻んでやる」

「肉も、骨も、何もかもな。これは崇高な務めなのだ!」


 兵士たちの目が、ギラギラと光っている。そこには憐憫など微塵もない。あるのは、災厄への恐怖と、それを排除できるという狂信的な安堵だけだ。


「や……やめろ……僕は、何も……」

「命乞いなど無駄だ! 祖国のために死ね!」


 バキッ――。

 鈍い音がして、少年の腕がへし折られた。激痛が走るが、悲鳴を上げる間もなく、次の一撃が襲う。


「ギャッ……!」

「やめてくれ、僕は……!」


 ドンッ――ガシャンッ――。


「その痛みも栄誉と思え!」

「よし、囲め! 刻んでしまえ!」


 かつて、人々は考えた。災厄の子が現れてから、実際に大災害が起こるまでには、三ヶ月ほどの猶予がある。その間に“種”を摘み取ってしまえば、災厄は防げるのではないか、と。


 ある年は、牢に閉じ込め餓死させようとした。しかし、食を断たれ、骨と皮になっても、災厄の子は死ななかった。そしてひと月もの間、冷たい風が吹き荒れ、雪は降り止むことなく、国は氷漬けになった。


 またある年は、深い谷底に突き落とした。だが大地は怒りのように震え続け、地震と津波が沿岸の都市を飲み込んだ。


 そして――この年は、惨殺することを選んだ。角も骨も、何もかもが判別できないほど切り刻み、肉片に変えることで、『災厄』としての形を失わせようとしたのだ。


「やめて……やめて……!」

「世界のためだ! 感謝して死ね!」


 ドゴッ――バキッ――。


 少年の意識が遠のく。痛みすら麻痺していく中で、理不尽な憎悪だけが黒く渦巻いていく。


「……僕は……この人たちに……殺されるんだ……」

「帝国……帝国め……」


 どうして僕が。

 何も悪いことなんてしていないのに。

 悪いのは、僕じゃない。


「ちがう……悪いのは僕じゃない……」

「あんたたちが悪い! お前らが『災厄』を生んだんだ!」


 バキッ――グシャッ――。


「僕は絶対に許さない……!」

「僕が災厄というなら――帝国なんて、滅ぼしてやる!」


 少年の最期の呪詛は、誰の耳にも届かなかった。ただ、血に染まった大地だけが、それを聞いていた。


 ――いかなる殺戮をもってしても、運命は変わらなかった。


 三ヶ月後。

 惨殺され、うち棄てられた『災厄の子』の亡骸から、どす黒い瘴気が立ちのぼった。それは少年の怨嗟そのもののように、大気を侵し、天を覆い尽くした。


 空は連日、怒り狂ったような嵐を吐き出した。稲光が大地を焼き、絶え間ない豪雨が河川を氾濫させる。山々は崩れ落ち、濁流が村を飲み込んだ。皇都の高き城壁は豪雨に削られ、石畳の大通りは泥海と化した。栄華を誇った白亜の塔は雷に裂かれ、炎に包まれて崩れ落ちる。


 市場の倉庫は浸水で穀物を失い、飢餓が都市を襲った。農村はさらに過酷だった。田畑は冠水し、種は流され、牛馬は泥に沈んだ。村を出た人々は食を求めて彷徨ったが、どこにも安息はなかった。橋は落ち、街道はぬかるみに閉ざされ、行き場を失った民は難民となり、餓死し、あるいは盗賊と化して命を落とした。


 ひと月の間――嵐は止まなかった。

 夜空に星はなく、太陽さえ雲に閉ざされた。日と夜の区別を失った帝国は、静かに、だが確実に人口のほとんどを失っていった。やがて国境線は意味を失い、皇帝は玉座を捨て、臣下も民も散り散りとなった。かつて大陸随一と謳われた帝国は、ただの地図の空白へと帰したのである。


 歴史の書にはこう記される。

 災厄の子を惨殺したその年、大陸を歴史上最悪の災害へと巻き込み――

 グラナ=ミールの大地に君臨していた大国――フェルゼン帝国は滅んだ――と。


 世界は、残酷だった。


 それでもなお、大陸の人々は諦めなかった。『災厄』は避けられない。けれど、それでも立ち上がる。町は幾度壊れても築き直され、絶望の闇の中でも誰かが火を灯す。なぜなら、『災厄』には終わりがあるからだ。ひと月が巡り、月の満ち欠けが一周するとき――災厄の真上、遥かな天空から一本の剣が降り注ぐ。


 『天より降る剣』。


 それが災厄の本体を貫いた瞬間、嵐も地鳴りも嘘のように止み、災厄は滅ぶ。その剣は、人々から「神の御業」と呼ばれてきた。誰にも抗えぬ理不尽を前に、それでも耐え、願い、生き延びようとする者たちにとって、唯一の祈りの拠り所だった。

 ――いつか、罪なき者を選び、角を与えるその“何か”すらも、神が裁き、終わらせてくれるのだと。


 ◇◇◇◇◇


 それは、昔話だ。


「――という感じで。この頃の世界は大変だったのよ」


 遠い未来――神の座にて。

 優雅なドレスを纏った女神が、集まった小さな妖精たちに物語を聞かせている。


「それでそれで? この後どうなっちゃったの?」

「早く聞かせて!」

「聞かせて聞かせて!」


 女神の話に夢中な妖精たちは、光る羽をパタパタとばたつかせ、目をきらきらさせて大騒ぎだった。


「ふふ、大丈夫よ。ちゃんと聞かせてあげるから」

「みんなにも聞いて欲しいの。ヴェラっていう、女の人の話――」


「だれそれ? かわいい?」

「つよい? それともお姫さま?」

「ねぇねぇ、早く! 続き続き!」


 女神は苦笑しつつ、口をとがらせてせがむ妖精たちを宥めた。その瞳は、どこか遠く、懐かしい日々を見つめるように細められている。


「落ち着いて。これから話すから」


 女神の指先が、空間に浮かぶ映像をなぞる。物語のページをめくるように、場面が切り替わっていく。


 ――それは、帝国滅亡から数十年後。グラナ=ミール大陸の片隅にて。


 風が、誰もいない地平をなでていく。古びた道をたどるように、二つの影が歩いていた。


 周囲は、荒野とまではいかないが、人の気配は薄い。街道の名残のような一本の道がのび、その両脇には、低木と茂みがぽつぽつと広がっているだけで、視界を遮るものは少ない。乾いた風が吹き抜け、砂埃を巻き上げる。


 この二人――ヴェラとエリンは、十代の少女にも、二十代の若い女性にも見えた。年齢も関係も明確ではない。ただ、その面差しや佇まいが驚くほどよく似ていて、二人のあいだに何か深い繋がりがあることだけは、誰の目にも明らかだった。


 二人は旅の者らしく、風に晒されたローブを羽織っていた。

 ヴェラの髪は美しいブロンドで、長く背に流れていたが、左右の耳の上からきちんと編み込まれ、右の胸元へと三つ編みが垂れていた。その翠色の瞳は、理知的で静かな光を宿している。

 対してエリンは、同じ金色の髪を左右で低く結び、胸の前に垂らしていた。その上から深くフードをかぶり、顔の半分を影に沈めているが、時折覗く口元には、あどけない笑みが浮かんでいた。

 似た姿かたちのはずなのに、その仕草のせいで、エリンのほうがいくらか幼く見えた。


「……ヴェラ、ほら、あそこ」


 エリンが声を上げ、指さした先へと視線を向ける。ヴェラは、まぶしさに目を細めながら荒れた地平の先をじっと見つめた。


 陽炎の向こう。

 ――何かが、倒れている。

 形ははっきりしないが、岩や枯れ木ではない。人のようにも見える。行き倒れた旅人か、それとも……。


「……あんな遠くのもの、よく見つけたわね。人が倒れてるの?」

「うん。まだ生きてるかも。ねぇ、行ってみようよ」


 エリンはすでに歩き出す気でいるらしく、軽い足取りで前を進み始めた。不用意に近づくのは避けたい――ヴェラはそう思ったが、見過ごすのも後味が悪い。周囲に敵意ある気配はない。危険は少ないと判断し、彼女はエリンに小さく頷いてみせた。


 エリンは目がよい。鼻も耳も、人並み以上だ。あの倒れた人影を、街道跡から大きく離れた場所に見つけたのも、そんな彼女の感覚のおかげだった。二人は、倒れている人物のそばまで歩み寄ると、それぞれ荷を降ろした。


 ヴェラの荷物は大きく、テントや寝袋、調理器具にランプなどをロープで無造作に括りつけたものだった。小柄な彼女の身体よりも大きいのではないかと思えるほどの量だ。背から外すと、重みが地面に響き、ボスン、ガシャンと鈍く音を立てる。エリンの方は肩掛けの布袋ひとつ。中には数日分の食料と水筒が入っているだけだが、それでも長旅の疲れで少し肩に食い込んでいた。


「……生きて、いるわね」


 もし死んでいたら、せめて埋葬してあげよう――その程度の覚悟で近づいたのだ。だが、よく見ると、その男は地面にうつ伏せているのではなく、両肘と両膝をつき、四つん這いのような不自然な姿勢でじっとしていた。ボロボロの衣服、泥と煤にまみれた肌。けれど、何よりヴェラの目を射抜いたのは、その輪郭にまとわりつく、正体不明の薄ら寒さだった。


(何かしら、この胸のざわつきは……)

 手を差し伸べるべきだと理性が告げる一方で、本能が、彼女の指先を氷のように凍えさせていく。まるで、触れてはならない禁忌の塊を、目の当たりにしているかのような。


 どうやら、まだ生きている。年の頃は、エリンと同じくらいだろうか。こちらの気配にはまったく反応を見せない。ただ、そこに取り残されたように、動かずにいた。その姿はあまりに静かで、そして――あまりに、不吉だった。


「おーい! 声、聞こえるー?」


 エリンは男のそばにしゃがみ込み、いつもの人懐っこい声で呼びかけた。しかし、男はピクリともしない。石像のように固まっている。


「ほら、こっちに座れる?」


 そう言って、彼女はそっと肩を支えながら、男の体をゆっくりと起こし、先ほど降ろした自分の大きな荷物にもたれかからせるように座らせた。ヴェラとエリンは、その顔を確かめようと、慎重に覗き込んだ。


 だが、同時に、ある異変に気づき、互いの視線がぶつかる。息を呑む音が重なった。


 男の目は、まるで魂が抜けたかのように虚ろで、生気というものがどこにも感じられなかった。視線はどこも見ておらず、ただ虚空を漂っている。それでも、彼に何があったのかは、すぐに察しがついた。

 察しがついてしまった。


 額に、小さな角のような突起が一本、はっきりと生えていたのだ。


「この人は……『災厄の子』ね」

「やっぱり……そだよね……」


 エリンがぽつりと漏らした。その声を聞いた瞬間、ヴェラの中にあった「ただの旅人であってほしい」という淡い期待は、あっけなく霧散した。それは、隣に立つエリンも同じだったのだろう。


 フードの陰からのぞくエリンの瞳は、困ったように、けれど放っておけないと言わんばかりに揺れている。そのあまりに真っ直ぐな優しさは、今のヴェラには、少し眩しすぎた。


 ヴェラは立ち尽くし、長い沈黙の中で迷った。脳裏をよぎるのは、文献で読み、語り継がれてきた悲劇の歴史だ。かつて、この忌むべき存在を殺して災厄を回避しようとした者は数多いた。逆に、稀に手を差し伸べようとした者もいたという。けれど、そのどれもが、結末を変えることはできなかった。助けようと殺そうと、災厄の子は等しく『災厄』となり、世界を蹂躙した。それが揺るぎない(ことわり)なのだ。


 災厄の子に関わることは、世界の敵になることと同義だ。それは彼女たちにとっても、破滅への招待状に他ならない。けれど、目の前の男は、あまりにも弱々しく、孤独に見えた。


「……この人を連れていきましょう」


 そう言ったのは、ヴェラだった。自分でも驚くほど、自然と言葉が出ていた。


「え……次の町までってこと?」


 エリンが、少し意外そうに首をかしげる。フードの陰からのぞく瞳は、驚きと戸惑い、それに――どこか安心した色を帯びていた。


「いいえ。わたくしたちの旅に――ずっと、連れていくって意味よ」

「町に置いていくわけにもいかないでしょう? それに……一人増えたところで、わたくしたちの旅路に大きな支障はないはずだわ」


 エリンは一瞬だけ考え込むように視線を落とし、それからふわりと顔を輝かせた。先ほどまでの澱んだ空気を、強引に塗りつぶしてしまうような笑みだった。


「……でも、前に言ってたよね? 災厄の子とは、関わらないって」

「えっ、なに? もしかしてヴェラ、この子のこと気に入っちゃった? あ、連れていくのは大賛成!」


 ヴェラは思わず視線をそらす。


「べ、別に気に入ったとか、そういうわけじゃないわ。ただ……災厄の子と行動を共にすれば、わたくしたちの知らない何かを――」


「はいはい、わかったってば!」


 ヴェラの苦しい言い訳を、エリンは笑いながら放り投げた。彼女はすでに目の前の男に向き直り、軽やかに話しかけている。


「ねぇ、お水飲む?」

「お腹は空いていない?」

「名前はなんて言うの? 私はエリンで、こっちはヴェラだよ」


 矢継ぎ早に質問を投げかけるが、男はまったく反応を見せない。――今は、ただ「生」という現象を維持しているだけの存在なのだろう。


 仕方なく、ヴェラは手近な水筒を彼の口元へ寄せた。見ず知らずの異性に、しかも泥にまみれた者に触れるのは抵抗があったけれど、背に腹は代えられない。男は咳き込むこともなく、流し込まれた水を機械的に飲み下した。その無機質な反応に、彼女の指先から微かな寒気が走る。


「さて。食事のさせ方は後で考えるとして、まずは野営できそうな場所まで移動しましょうか」


 ヴェラの言葉に、エリンが弾んだ声で応じる。


「了解! で、ヴェラはこの子と荷物、どっちを背負う? 私が荷物を持つから、ヴェラはその子をお願いね」

「……随分と物分かりがいいのね。わたくしへの気遣いかしら?」

「いや、ヴェラの好みのタイプだったら、邪魔しちゃ悪いなーって」


「……なっ! エリン、その無駄に有り余った想像力を、少しはましな事に回したらどうなの!?」


 ヴェラは思わず声を荒らげてしまった。何の他意もない、ただの合理的な判断の結果だというのに。エリンは確信犯だ。分かっていてヴェラの反応を楽しんでいる。


「はいはい。この方はわたくしが背負うわ。不本意ですけれど」

「荷物はぜーんぶ、お任せください! にしし、お熱いねえ」


 ああ、もう……。ヴェラはこみ上げる苛立ちを隠すように、荒野の風に向かって大きく溜息を吐き出した。口を突くのは冗談ばかりだが、エリンにペースを乱されるこの時間が、決して嫌いではない自分に気づいて苦笑する。

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