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(14)異世界

 塔の上層にある実験室には、いまだ張りつめた静けさが残っていた。


「……聞かせてくれよ、その理屈ってやつを」


 サイが腕を組んで椅子にもたれかかると、ヴェラは立ち止まり、彼を見下ろすように口を開いた。


「ひとつ、『天より降る剣』は自然現象ではないわ。明らかに、意志ある“何か”が振るっている。ランダムではないし、狙いもはっきりしてるもの」


「……“神の御業”と聞かされていたけど、違うのか」


 サイがつぶやくように言うと、ヴェラはすぐにかぶせた。


「人々を救う“慈悲深い神様”だなんて、到底思えないわ。だってそうでしょう? 災厄があれだけの時間をかけて成長するまで、見て見ぬふりなんて悠長すぎるわ」


「確かにそうだな……見て見ぬふりをする神様って、そもそも“神”なのか怪しいな」


「意志をもって振るわれている以上、そこには判断する存在がいるはずですわ。そしてその存在は、“この世界の外に属する存在”……つまり、“異世界の存在”だと考えた方が自然なの」


「それで、“異世界”ってわけか」


 サイが目を細める。少しずつ、ヴェラの仮説が自分の思考にも馴染んできているのを感じていた。


「ふたつめ。“竜界”の存在は確かでしょう? あの伝言は“竜界”からだとサイは言ってたわ。この鱗だって、もともと“竜界”にあったものだと考えるのが自然ですわ」


「俺が聞いた、『その鱗をよくも弄んだな』ってやつか……確かにあれは、“竜神の鱗”に関する“竜界”からの伝言だったよ」


「ええ。だから、“竜界”という世界が、確実に存在するわ。そして、『竜神の鱗』と『天より降る剣』は、同じ“正の霊力”を持っている」


「ってことは……“鱗”と“剣”は同じ出どころってこと?」


「ええ。それなら、その出どころは“この世界の外”――異世界である可能性が高いですわ」


 ヴェラはそこで一度、視線を宙に泳がせる。


「そして、エリンは『天より降る剣』の力で転送された。……なら、その行き先も、“鱗”や“剣”と同じ力の源――つまり、“正の霊力”の存在する世界だと思うの」

「“竜界”かもしれないし、あるいは『天より降る剣』を振るった何者かのいる場所かもしれない。……けれど、どちらにしても、この世界の外の話ですわ」


 ヴェラは探るようにサイの顔を覗き込んだ。


「……どう? サイ。わたくしの言っていること、分かってくれたかしら?」


 サイは腕を組んだまま、しばらく天井を仰いだ。それから、小さくうなずきながらつぶやいた。


「……分かるような、分からないような……いや、理屈は通ってる」


「もちろん、証明はできませんわ」


「……となると、他にも気になることが、いくつか出てくるんだけど」


「例えば?」


「『災厄の子』の力――“負の霊力”のことだ。あれも、同じように異世界から来たものなんじゃないかって」


 ヴェラは、かつてこの塔の文書庫で目にした、悍ましい記録を紐解くように、ゆっくりと視線を落とした。


「ええ……。可能性は、極めて高いですわ。だって、おかしいでしょう? 食を断たれ、骨と皮になっても死なず、亡骸になってもなお、瘴気を放ち続けて世界を侵すなんて……」


 たとえ『災厄の子』が命を落としても、『災厄』は止まらない。それが、この世界を苦しめ続けてきた『災厄』の常識だった。


「……あぁ。この世界の生き物なら、どんなに強くたって、腹が減れば死ぬし、殺されればそこで終わりだ。それが、この世界の当たり前のはずだよな」


「ええ。生命が生命であるための、絶対のルールですわ。けれど、あの力はそれを嘲笑うかのように成立している」

「……つまり、『死』という概念さえ、この世界のルールとは異なっている可能性がある。何か、全く別の場所の理屈が働いていると考える方が自然ですわ」


「そうだよな……。あともう一つ、“竜界”と“剣を振るう奴”の居場所は同じなのかというのも気になるんだ」


 ヴェラは迷いなく、小さく首を横に振った。


「それは、おそらく違うと言えますわ」


「どうして?」


「竜神は、鱗を弄ばれたことにあんなに怒っていたでしょう。もし、剣の転移先が“竜界”なら、その力を利用して、鱗を回収できたのでは? でも、そうはならなかったわ。鱗が発見されて、何百年も」


 サイの目が、鋭く光る。


「ってことは……エリンが飛ばされた先も、“竜界”じゃない。……別の場所ってことか」


「ええ。きっと、“剣を振るった存在”がいる場所……そちらの方ですわ」


 サイはしばし黙ったまま、目を伏せた。ヴェラの言葉が、霧を晴らすように思考の奥へと広がっていく。


「……異世界、か」


 その呟きだけが、実験室の静けさに静かに溶けていった。


「――なあ、異世界って……どんなところだと思う?」


 不意にサイが問いかけた。静まり返った実験室の片隅で、どこか遠くを見るような目だった。

 ヴェラは少し考えてから、口を開く。


「さあ? この世界の神様とは違う神様がいる世界……かしら?」


「……ぷっ、そっち?」


 サイが肩を揺らして笑う。


「まるで、何百年も前のおとぎ話みたいに、大きな国があって、美しい自然が広がってて――なんて可愛らしい話になると思ったのに」


「……!」


 ヴェラはむっとして、ぷいと顔を背けた。


「可愛くなくて悪かったですわね」


「あっ、ご、ごめん! いや、ヴェラの答えも素晴らしいと思うよ?」


「今、笑ったでしょう? 思っていないということですわ!」


「ち、違うって!」


 サイは思わず手を振って否定したが、焦りは隠しきれなかった。


「違う神様がいるって発想、俺もいいと思ったし! この世界の神様が本当にいるのかすら、よく分かってないけど……」


 すると、ヴェラの表情がふと和らぎ、目を伏せて言った。


「それね……わたくし、小さいころから思っていたの。災厄が現れるようになって、土地は荒れて、国がいくつも消えた……それなのに、神様は一度も現れない」


「……」


「災厄が現れるたびに、この大陸は傷ついていく。なのに、どうして助けてくれないのって。……神様って、死んでしまったのかなって」


 サイはじっとヴェラを見つめたあと、目を細めて呟く。


「へえ……ヴェラにも小さいころがあったんだな。可愛かったんだろうな……」


「…………」


 言ってから気づく。


(あ、これじゃ今が可愛くないって意味にならないか!?)


 慌てて口を閉じたサイとは裏腹に、ヴェラは固まったように黙りこくった。


(……?)


 視線が虚空を彷徨う。次の瞬間、彼女の胸を何かがざわめいた。

 ――小さいころ? 違う。そんな時期、わたくしには――なかったはずなのに。


「……どうした、ヴェラ?」


 サイの声に、ヴェラははっとして我に返った。


「なんでもありませんわ。……ねぇ、逆に、サイならどんな世界だと思うの?」


「異世界か……」


 サイは目を閉じ、想像を巡らせる――


 白――


 気づけば、彼は一面の白い花が咲く草原に立っていた。視界はあまりに鮮明で、さっきまでいた実験室の影もない。

 見上げれば、空には三つの月が浮かんでいた。淡い青、薄い赤、そして白。


(こ、これは…?)


 遠く、そびえる山脈の向こうに、ふたつの影が舞っていた。翼を広げ、空を流れるように飛ぶ竜のつがい。

 黒く、たくましい竜と、白く、気高い竜。彼らは互いに角をすり寄せ、交互に鳴き交わしていた。まるで、愛を確かめ合うかのように。


(あれは……竜神? それに白い竜……)


 しかし――突如、空間が裂けた。

 竜たちの目の前には、禍々しい黒い渦が現れた。

 空間そのものが歪み、そこから濃密な闇が漏れ出すようだった。

 次の瞬間、白い竜の身体が渦に絡み取られた。


 はじめは翼の端――ついで尾、そして腹と胸が引き寄せられていく。

 必死に羽ばたこうとするが、どうにもならない。

 黒い竜が声を上げて接近するが、まるで結界のように渦の外へ弾かれた。

 それでもあきらめず、何度も渦に突っ込もうとする。

 だが、間に合わなかった。白い竜の身体は、渦の中心へと飲み込まれていく。

 その最後、ひときわ強く鳴いた白い竜の喉元から、ひと片の鱗が舞い上がり、闇の中に吸い込まれていった。


 闇が完全に閉じたあとも、黒い竜はなおもその空を見上げ、吠え続けていた。

 悲しみとも怒りともつかぬ、慟哭のような咆哮が、空にこだました。


(あの白い竜が、竜神の言った“愛しきもの”だったんだな……)


 ――その白い鱗は、闇の向こうへ落ちていった。

 落下は、終わらない。空間を越え、色を失い、音のない裂け目を抜けて――やがて、まったく別の空へと吐き出される。

 そこは、竜の世界ではなかった。青い空があり、雲が流れ、大地には人の営みがあった。

 小さな街、畑、石造りの家々。白い鱗は、光を失いながら、地上へと落ちていく。

 誰にも気づかれぬまま――あるいは、誰かの手に拾われるために。


(この世界に“鱗”が落ちたときの映像か……?)


 視界が揺らぐ。今度は、遠く高みからの視点だった。

 雲の向こう、世界を隔てる膜の外側から、“何か”が、その世界を見下ろしている。

 ただ、見ているだけ。触れられない。声も届かない。

 それでも――白い鱗の行方だけは、追っていた。


 ――時が流れる。

 人の手から、人の手へ。宝石箱に収められ、祭壇に置かれ、血と欲望の集まる場所へと運ばれていく。

 人々はそれを崇めた。ある者は畏れ、ある者は力と信じ、ある者は――利用しようとした。


(竜神はあの“鱗”を、ずっと気にかけていたんだな……)


 次の映像は、唐突だった。

 空が裂ける。大地が揺れる。人の姿をした“何か”が、黒い霧をまとい、街を踏み潰していた。

 炎。崩れる建物。逃げ惑う影。その“何か”の額には、角があった。

 次の瞬間――天から、一本の光が落ちる。剣だった。


 まっすぐに、迷いなく。黒い霧の中心を貫き、世界を震わせる。

 眩い光。爆風。そして――静寂。

 “何か”の姿は、どこにもなかった。終わった。そう思った瞬間、視界がまた跳ぶ。


 同じ光景が、何度も繰り返される。数年おきに。場所を変えて。人を変えて。

 黒い霧。角。剣。消失。

 そのたびに、高みから見つめる“視線”は、剣が落ちる瞬間を、逃さず追っていた。


(竜神は『災厄』のこともずっと追っていた……? いや、追っていたのは『剣』のほうか……)


 ――そして続く映像。

 薄暗い室内。無数の器具。薬品の匂い。

 白い鱗が、台座の上に置かれている。それを覗き込む、人間の影。

 瞳は狂気に近い光を帯び、指先は震えていた。


(“鱗”があの錬金術師の手に渡っていたことも、知っていたのか)


 次の映像は、さらに歪んでいた。

 空間の裂け目の向こう。黒い竜の影が、一瞬だけ見えた。

 だが、その姿ははっきりしない。霧に溶けるように、輪郭だけが揺らいでいる。

 その影の傍らで、何かが形を変えられていた。


 黒く、鈍い光沢を放つ硬質なもの。それが、ゆっくりと――角の形へと削られていく。

 完成したそれは、どこか歪で、だが不自然なほど“馴染む形”をしていた。

 次の瞬間。それは、落ちた。


 白い空。青い世界。人のいる大地へ。視界が、急降下する。

 そして――ひとりの青年が映る。自分の運命が塗り替えられることなど、露ほども疑わぬ顔をしていた。

 その額へ、“角”が触れた。

 音はなかった。だが、確かに――何かが“結びついた”。


(えっ。……これは俺!? だとしたらこの角は……)


 次の映像は、さらに先の時間。

 海と空の境界。荒れ狂う風。黒い霧に包まれた、ひとりの少女。

 その身体を、天から降る剣が貫いた。

 光が弾け、世界が白く染まる。そして――少女の姿は、消えた。

 だが。地上には、剣だけが残されていた。


 突き立てられたその刃を起点に、黒い線が、静かに伸びていく。

 地を這い、空を貫き、世界の境界を越えて。

 その線は、“彼女が消えた先”へと、はっきりと続いていた。

 まるで――「道」を示すかのように。


 そこで、幻は完全に途切れた。


「サイ!? 大丈夫!? 答えてっ!」


 気づけば、ヴェラが悲痛な顔で肩を揺さぶっていた。その瞳は、いつもの冷静さを欠き、潤んでいるようにも見える。


「……ああ、大丈夫。みたいだ」


 サイは自分の手足を確かめるように動かし、深く息を吐いた。


「急に黙り込んで……呼んでも、揺さぶっても、まるで見えていないみたいだったから。わたくし、本当に……」


「心配かけて悪かった。俺の意志とは無関係に、途方もない時間の光景を直接見せられていたんだ」


「……幻覚を見せられていた、ということなの?」


「ああ」


 サイは手足を確かめるように動かした後、自分の額の“角”へとそっと指を這わせた。


「でも、わかったんだ。君の推論は正しかったよ、ヴェラ。俺が見せられたのは……ここではない“別の世界”の過去だ」


 ヴェラは微かに目を見開いた。


「別の、世界……?」


「ああ。月が三つ浮かぶ空の下で、二匹の竜が生きる世界……“竜界”の光景だよ」


 ヴェラは、その「三つの月」という言葉の重みを噛みしめるように、小さく息を呑んだ。


「……三つの月。想像上のものではなく、本当に実在したのね、異世界が」


「そこで、空間の裂け目の渦に飲み込まれた白い竜から、鱗が剥がれ落ちるのを見たんだ。それが空間を越えてこの世界に落ちてきた……つまり、その『竜神の鱗』だろう」

「ただ、鱗は“竜神”自身のものじゃなかった。竜神のつがい――“愛しきもの”と呼ばれていた、白い竜の体の一部だったんだ」


 ヴェラは、思考の糸を急速に手繰り寄せる。


「……だから、竜神はあれほどまでに怒り、嘆いていた……。つがいの身体の一部だったからなのね」


 サイは重く頷き、言葉を継いだ。


「うん。だから、『竜神の鱗』の出どころは“異世界”というのも正解」


 ヴェラは目を細め、サイを見つめた。


「そう……でも、なぜ、サイは“竜界”の過去を見ることができたのかしら」


「エリンが消えた日と同じだった」


「……え?」


「あの時と同じようなイメージが流れ込んできたんだ。きっとこれも、“伝言”なんだと思う」


 サイは短く息を吐き、はっきりと口にした。


「聞いてくれヴェラ……この角は『災厄の子』の証じゃなかった」


「……!? 災厄の子の証じゃないって、どういうこと? それじゃあ、その角は一体? サイ、あなた災厄になりかけたじゃない!」


「……この角の正体は、竜神が自身の“鱗”を“角”の形に加工したものなんだ」


 ヴェラは、自身の胸元の『鱗』と、サイの額の『角』を交互に見つめた。


「……竜神自身の“鱗”……。つまり、あなたがあの時、正の霊力を扱えたのは……」


「ああ。この角の正体が、正の霊力を持った“鱗”だったからさ」


「竜神はなぜそんなものをサイに……?」


「……鱗が剥がれ落ちたのは、白い竜が、黒い渦に呑み込まれたときだった。竜神は、引き離された白い竜を助け出そうと必死だった。だけど……」


 ヴェラは息を呑み、サイの言葉を補うように呟いた。


「つまり、白い竜は何者かに連れ攫われたということ……? 竜神は、それを追っているのね」


 サイは重く頷いた。


「たぶん、だ。白い竜を攫った黒い渦――あれが、“剣を振るう存在”に繋がっている。俺が黒い霧を纏ったのも、そいつを欺くためのカモフラージュだったんじゃないかって思う」


 ヴェラは混乱したように手を振った。


「ちょっとストップ。情報が多すぎますわ」


 彼女は額に手をあて、深く息を吐いた。今にも弾けそうな頭の中を、無理やり整えようとしているようだった。


「さっきまで、“異世界があるかもしれない”と言っていた段階だったのに……」


「その“想像”が鍵だったんだ。異世界を信じて、意識を向けることで、“視る”ことができた。そういう理屈らしい」


「なるほど……。少し、落ち着いてきましたわ。質問してもいいかしら?」


 ヴェラが姿勢を正しながら問いかける。サイは頷き、机の端に腰をかけた。


「もちろん」


 一瞬、沈黙が落ちた。実験室の奥で、薬品瓶の中の液体が微かに揺れている。窓の外では、風が古びた塔の石を撫で、くぐもった音を残して吹き抜けていった。


「“カモフラージュ”と言っていましたわね。どうして、竜神はそんなことを?」


「ひとつは、“剣を振るう存在”を騙して、『天より降る剣』を出現させるためだ。黒い霧をまとう『災厄』じゃないと、剣は降りてこない。だからあの姿が必要だったんだ」


「でも、それじゃあ……あなたが転移してしまうわ」


「うん。それが二つ目の理由だ。黒い霧にカモフラージュした“竜神の霊力”を、目標の世界に飛ばすこと。……見たんだ。この二つを成し遂げたからこそ、この剣から異世界へと続く『道』のようなものが伸びていくのを」

「……まるで、地図に引かれた一本の線みたいに」


 ヴェラは手元を見つめ、そっと指先を組み合わせた。


「……そうなの……ね。剣を残したのは、この世界から見て、異世界がどの方角にあるのか――座標を知るためだった」


「そう。エリンが俺の代わりに、異世界へ飛ばされたけれど、竜神の計画は崩れなかった。俺の中にあった“竜神の霊力”ごとエリンが飛ばされたから。この世界に残った『天より降る剣』が、異世界へと続く方角を示したんだ」


「では、なぜ竜神は異世界の座標を知る必要があったのかしら? 目的は何?」


「理由は単純だ。白い竜が連れ攫われた場所――その座標が分からなかったから。目的も同じ。白い竜を助け出すためさ」

「さっき言っただろう? あの黒い渦が、“剣を振るう存在”に繋がっている。剣が示した座標に、白い竜がいるはずなんだ」


 その言葉が落ちたあと、しばしの沈黙が流れた。

 ヴェラは壁に掛けられた古地図を見つめる。黄ばんだ紙には、いくつもの見慣れない地名が刻まれていた。そのひとつひとつが、今や“現実”の座標としての重みを持っている。


「では、白い竜が攫われた先は……エリンがいる場所と、同じということなの?」


 遠くの棚から、金属の軋むような音がした。風が吹き込んで、積まれた本のページを一枚だけめくっていく。それはまるで、エリンの運命を記した書が、次の章を告げるようだった。


「ああ、間違いない」

「竜神の目にも、この“剣”は、この世界にとって異質なものとして映ったんだろうな。だから竜神は何百年もかけて観察していたんだ。剣が降る一瞬を。この“剣”が纏う霊力の由来を知るために」


 サイは噛みしめるように短く息を吐いた。


「案の定、この“剣”には、攫われたはずの白い竜の霊力が使われていた。転移の能力を付与するためにな。そして竜神は、その転移先を知るために、この“角”を世界に送った。何百年もかけた執念が、やっと実ったんだ」


 サイの目が細くなり、遠くを見つめる。


「ヴェラ。この“剣”で転移した先は、“剣を振るう存在”のいる異世界。そして――エリンがいる場所だ」


「……!!」


 ヴェラは、静かに目を閉じた。胸の奥がじんわりと熱くなる。あふれ出しそうな想いを、ただ静かに押しとどめるように。


「本当に……会えるのね、エリンに」


「ああ。会えるさ」


 二人の間に訪れた沈黙は、どこまでも穏やかで、あたたかかった。

 ――異世界へと続く扉は、すでに示されていた。

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