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第5章④vs薄井④

 パン!


 蛇のようにうねるボールを須磨は空振った。

 1―0

「なっ?」

「ふん。先に言っておこう。これは俺でも操ることを諦めたボールだ。本当にどこに飛んでいくかわからないぞ」

「まだそんな球を隠し持っていたのか」

「勝つためには、切り札が必要さ」

 薄井のサーブ


 パン!


 今度はトビウオのように飛び跳ねるボールが須磨のラケットの先を貫いた。

 2―0

「すげーな」

「ふん。自分で操ることができないボールだから、素直には喜べないな」

「それでもすげーよ」

「ふん。お前の番だ」

 薄井は嬉しさを噛み殺していた。

「よし。俺も気合いを入れ直すぞ」

 須磨は高くボールを上げた。


 パン!


 ボールはあさっての方向に飛んでいった。

 3―0

「あれ?」

 須磨は顔を赤くした。

「……下手くそ」

 薄井は小声で言った。

「うるせー!ボソっと言うな」

「下手くそ!」

「はっきり言うな」

「ふん。これに懲りたらもっと上達するんだな」

「まだ負けたわけではないだろ」

「ふん」

「くっそー。ずーっと鼻で笑いやがって。イライラするんだよ」

 と、ここで須磨はハッとした顔となり動きを止めた。

「どうした?」

「そうか、先輩、俺を挑発していたのか」

「?」

「俺を怒らせて、集中力をなくさせて、それで勝とうとしていたのか!だからさっきから俺のことを挑発して、ポイントを取っていたのか」

「お前……」

「図星だろ?」

「……それ、さっき俺が言った」

 ……

「よし、これでクールダウンできた」

「顔が暑そうに赤くなっているぞ」

 須磨は恥ずかしそうな汗もかいていた。

「う、うるせー、いくぞ」

 須磨は高くボールを上げた。


 パン!


 サービスエース。

 3―1

「よし、集中」

「こいつ、ここに来て今日一番のボール」

 薄井は驚きの汗をかいた。

「さっ、来い」

「ふん、操れるのはここまでか。だったら、力尽くで行くまでだ!」

 薄井は高くボールを上げた。


 4―1


 4―2


 5―2


 5―3


 6―3


 6―4


 両者ともに、一進一退。

 誰も操作できないランダム戦・乱打戦・乱戦。


 7―4


 7―5


 8―5


 8―6


 9―6


 9―7


「くそ、縮まらねぇ」

「ふん」

 薄井のサーブ。

「しかし、もう慣れたぜ」

 須磨のレシーブ。

「だからどうした」

 薄井のレシーブは波のようにうねる。

「別にどうもしねぇよ」

 須磨は強打した。

「そうかい」

 薄井も強打した。

「そうだよ」

 須磨の力強さ。


 パン!


 薄井のラケットが弾かれた。

 9―8

「さっ!」

「……?」

 叫ぶ須磨と対照的に、薄井は静かに落ちたラケットを拾った。

「次来い!」

「……こいつ、そういえば第一セットも急に良くなったな」

「どうした。また心理戦か?」

 澄んだような燃えているような矛盾した須磨の目。

「イイ目だ。なるほど、こいつは厄介だ。心は熱く頭は冷たくか。それをこのタイミングでできるということは、こいつ、勝負どころに強いタイプだ」

「何をブツブツ言っているんだ?」

「ここは冷静に、操るか」

 薄井はボールを高く上げなかった。


 パン!


 須磨からの返球は鋭かった。

 9―9

「へっ。なにをぬるいボール打っているんだ」

「なるほど、操るボールでも操れないボールでもダメか」

「なにを言っているんだ?」

「いや、強敵だな、と思って」

「本当に何を言っているんですか?」

 須磨は澄んだ顔の薄井に身震いした。

「ふん、さっさとサーブ打てよ」


「9―11。ゲーム須磨。従って2セットとった須磨の勝ち」

 その言葉を聞いて、薄井はそそくさと去ろうとした。

「先輩」

「ふん。俺に勝ったことは褒めてやる」

 薄井は足を止めた。

「あまり褒めている言い方じゃないですね」

「ふん、一応説明するが、1セット目は様子見、そのまま勝てたらそれでいいという計算だ。負けても問題なかった。次に2セット目、最初に油断させて、隙を突く。そして、そのまま勢いで勝つ。計算通りだ。問題は3セット目、そのままの勢いで勝つつもりだった。しかし、お前が予想以上の力を発揮した。それが計算外だったから負けた。それだけだ」

「つまり、どういうことですか?」

「今回はお前の勝ちということだ。しかし、次は負けない。だから、覚悟しておけよ」

 薄井は手を差し伸べた。

「おう。覚悟しています。でも、負けませんから」

 須磨はガッチリと握手した。

「お前と戦えて良かったよ。これも、大虎のおかげだな」

「大虎先輩ですか。すごいですね、あの人」

「まぁな。なんだかんだでイイやつだ」

 そう言い合う2人の視線の先に、宅井をナンパして困らせている大虎がいた。

「……前言撤回だ。やつはだめだ」

「はい、ダメですね」


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