【花の乙女】と『【乙女】の詩』
「ドレスのことなんだが………こちらで用意する。」
「分かりました。お願いいたしますわね。」
「そのドレスでもいいのだがもう少し華やかなものでないと夜会では浮いてしまうからな。」
「お気遣いいたみいります。」
公爵令嬢としてエスコートしてくださるならドレスを用意してくださらなくても良いのですが、くださるならありがたく受け取ります。
「それからあの場所に行かないか?少し話したいことがある。」
「ええ。よろしくてよ。ミア、ケープを。」
「こちらに。行ってらっしゃいませ。」
「行って参ります。」
あの場所――――泉の畔に向かいます。森を少し歩くと花園が見えて来ます。
「はぁ。疲れちゃった。ローゼシア嬢。『【乙女】の詩』歌ってよ。」
「あれは殿下が言い捨てて行っただけでは?」
「いいでしょう?お願い。城では我が儘を言えないんだ。」
「では、シアとお呼びくださいませ。ローゼシアだと長いでしょう?」
わたくしがそういうと殿下は驚いてしまいました。
「…シア嬢でいい?」
「ええ。シアです。リアのことはきちんとローゼリアと呼んでくださいね。」
「可愛い。大丈夫だよ。ローゼリア嬢とはあまり親しくないからね。」
リアの方が周りの方に好かれやすいのに意外です。
「ご注文は『【乙女】の詩』でしたでしょうか?」
「うん。お願い。」
わたくしは息を吸い込み歌い始めました。
「昔々神様達が人と住んでいた頃一人の少女と一人の神様が恋に落ちた神様は少女の幸せを祈り加護を与えた少女は悟る神様が手に入ることはないとならばせめて仕えるため巫女にならんとす巫女になるという少女を見た神様は特別に【乙女巫女】としたとさ」
歌い終わり軽くお辞儀をしますと殿下が拍手してくださいました。
「やっぱり歌が上手いよね。」
「そんなことはありません。【歌の乙女】のミャマーシュさんの方が上手だと思うのですが………。」
「そういうことじゃなくてなんか素朴で聞いてきて懐かしいというか小さい頃に聞いた子守唄みたいな。母上を思い出すんだ。」
リィシル第一聖女殿下やリィステ聖子殿下、リィニア第二聖女殿下のお母上であるミュリアル聖王妃殿下は3年前に事故で亡くなった筈です。この国はどの家でも大体男女関係無く長子が家を継ぐのでその後聖王陛下は側妃様も元々居たミシナリア側妃殿下のみなのだそうです。
側妃殿下には御子はおらず聖女殿下や聖子殿下達とミシナリア様は実のご兄弟のように仲が良いそうです。事故は疑惑が残っていて隣国の王族が絡んでいるとかいないとか噂があったのですがいろいろなことが重なった結果事故のまま処理されてしまいました。
本当に事故だったのでしょうか?
「ごめん。なんか辛気くさい話だったね。」
「いえ。お気になさらないでください。」
とりあえず座りませんかと進め二人で座り込む。
「生前、聖王妃殿下とは親しくさせていただいていたのでその影響かもしれませんわね。」
彼女はとても可愛がってくださいました。
「そう、かもね。」
「それに尊敬する聖王妃殿下を思い出していただけるというのは純粋に嬉しいですしね。」
「そっか。」
「ええ。もしよろしければまた歌って差し上げますわね。」
「じゃあまたここで歌ってくれる?」
わたくしは笑みをこぼしました。
「また来てくださるのですか?お忙しいのではなくて?」
「大丈夫。僕は聖位継承権第二位だけど姉上が優秀だから公務はあまり無いんだ。」
そうは言いつつも聖祭は必ず出席なさっていますしリィシル殿下がご公務で近隣国や友好国に訪問なされているときにはリィシル殿下の代わりにリィステ殿下がご公務をなさっています。
「ご無理はなさらないでくださいませ。心配でまたミルを仕向けてしまうかもしれませんしね。」
「おっとそれは困ったな。一応国家機密もあるからね。」
「あら、わたくしの側近が信用できないのですか?」
「いや。彼女は優秀過ぎて怖いんだ。」
それには同感ですがだからこそわたくしが抱えているのです。
「わたくし人を視る目はありましてよ。まあ殿下程ではありませんが。」
彼の側近も優秀だと聞きました。
「僕は君がなんでもできるから側近を置かないのだと思っていたよ。」
「わたくしにだって苦手なことはありましてよ。」
「へぇ。例えば?」
「細かい刺繍などはできることはできますがあまり得意ではありませんし剣術は全く出来ませんしね。それに大抵のことができるというのは一芸に秀でていないということですからね。」
「そうなの?シア嬢の裁縫の腕は確かなものだと聞いているけど。」
何故知っているのでしょうか?
「それでも本職の裁縫師の方々には敵いませんことよ。」




