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唐揚げ屋さん

朝になると、

私はまた、

卵と納豆をおかずにご飯を食べる。


その後はずっと、

一人で将棋をしていた。


彼女が亡くなるまでは、

彼女が時々相手をしてくれたが、

いつの間にか、一人将棋が日課になっていた。


ずっと悩んでいたら、

昼が近づいていた。


悩みの種は、

将棋ではなく、

3つ目のキーワードだ。


「唐揚げ屋さんなぁ・・・」

私はため息と同時に

独り言をこぼした。


私の住んでいる街には、

「唐揚げ屋」というものが

たくさんある。


ご当地B級グルメとして、

度々キャンペーンをしていて、

映画さえ作られたほどだ。


だからこそ、

「唐揚げ屋さん」

というキーワードだけで絞りこむのは困難だった。


「参ったな・・・。」


老夫婦二人では唐揚げを買う機会も少なく、

検討もつかない。


悩んでいてもしょうがないので、

とりあえず、

有名なお店に行ってみることにした。

評判で県外からも買いにくる人がたくさんいる。


小さなお店で

テイクアウト専門店だ。

店の外から、

小窓で注文するようになっている。



小窓の横の壁に貼られた、

メニューに目を通す。


骨無し、骨有り、手羽先など、

さまざまな部位がある。


骨無し、

100gで120円・・・。

100gだけ申し込むのも、

申し訳ない気もする。


心細く尋ねた。

「すみません。

100gだけというのもできますか?」


消え入りそうな声で聞くと、


「喜んで!」


明るい声に打ち消された。

若く、とても元気がいい。


この街の若者は、

なかなか素晴らしいようだ。

昨日の彼といい、

心からそう思った。


「今から揚げますんで、

少々お待ちください。」


店主は、

明るさを振りまきながら

準備をする。


この街の唐揚げ屋のほとんどが、

揚げたてを出してくれるのだ。


鶏肉が油の中に放り込まれ、

食欲をそそる音と匂いが

店の外まで

顔を出してくる。


揚げ終わるまで

受け渡し口の横で待っていることにした。


壁に背を預け、

ふぅとため息をつく。


また、

彼女のことを思い出していた。


彼女とのご飯は、

だいたい手料理だった。

たまに、

出来合いの惣菜なこともあったが、

私は不機嫌になってしまった。


出来合いなんて身体に悪いし、

揚げ物なんてまさにそうだ。

手料理の方がバランスよく、

健康的だ。


そんな風に、

よく彼女に不満を撒き散らしていた。


今思えば、

あれは嘘だった。


結局、

彼女の手料理が一番だったのだ。


どんな高級フレンチより、

高級料亭より、

彼女の手料理の方が

食べたかった。


それはそうだ。

私のための料理なのだから。


人生で食べられるご飯の量には限度がある。

それなら、

彼女の料理で埋めつくしたかった。


今思うと、

そんな幼稚な理由。

その幼稚さに付き合って、

彼女は手料理を作ってくれていた。


本当は私も、

外食をしてみたかったが、

彼女に嘘を言っている分、

そこは曲げられなかった。


今思うと、

くだらない、

変なプライドだ。


その幼稚さと、

変なプライドから、

嘘をついて、

彼女に手料理を作ってもらっていた。


結局、

本当のことを言えず、

嘘を突き通してしまった。


自分の幼稚さに笑みが溢れてくると、

店主が声をかけてくる。

そろそろ揚げ終わるようだ。


「うちでは意外と多いんすよ?

100gの注文。」


「そうなんですか。」

「えぇ。

学生さんとか女性とかが多いっすかね?

けっこう歳上の人でも、

常連さんがちらほらおるんすよ?」


へぇ、

私が相づちを打つと、


「はい!

お待たせしました!」


店主が唐揚げが入った、

紙袋を差し出してくる。


揚げたてのいいにおいだ。


再び受け渡し口の横に移動して、

手づかみで唐揚げをもつ。


熱いので、

急いで口に運ぶ。

口に含むと

肉汁がしたたり落ちてくる。


年甲斐にもなく、

ハフハフとバタバタしてしまう。


おいしい。

素直に感心していた。


「確かにこれは通うなぁ。」

心からの感想だった。



「ありがとうございます!

実は店を継いで1年ちょっとくらいなんすよ・・・

ほんと嬉しいっす!」

店主がぱぁーっと、

顔を明るくさせた。


微笑ましい光景にこちらまで、顔が明るくしていると、


「しゃべってないで、

はやく揚げんかえ!」


大声に度肝を抜かれた。


大声を出したのは、

店の奥から

中年の女性の様だ。


「うっせぇんじゃらババァ!」


どうやら親子らしい。

さっきまでの好青年が一転、

急に口調が厳しくなる。

でも、

なぜだろう。

とても明るい、

愛らしい声だった。


「そんなとこまでお父さんに似らんでええんじゃら!」


親子喧嘩というには微笑ましい、

痴話喧嘩をしているような二人を邪魔しないように、


店の隅に移動して食べることにした。



まだ痴話喧嘩をしている。


本当にこの唐揚げは美味しい。

そして、なぜだろう。

懐かしく感じる。



そう言えば、

この街に二人で戻ってきてからすぐに、

彼女と唐揚げ屋に来たことがあった。


ここのようなしっかりした作りではなく、

プレハブのような場所だった。


そういえば、

唐揚げ屋の夫婦が喧嘩をしていた。

私はふふっと、笑みをこぼした。


最近の私は

本当に良く笑う。


横から

親子の痴話喧嘩が聞こえてくる。


東京で暮らしたせいか、

帰ってきてすぐは、

この街の方言がどこか怒ってるような、

怖く感じていた。


でも、

今は心地よく、

微笑ましいものに感じていた。

これも、年のせいだろうか。


その唐揚げ店の夫婦が面白くて、

何度か通ったのだが、

店を移転してから、場所が解らなくなってしまった。



そんなことを考えていると、

あっという間に3つ食べてしまっていた。

100gでは足りないくらいだった。

もう少し頼めば良かったと、

少し後悔した。




「美味しかったよ。

ごちそうさま。」


痴話喧嘩を終えた後の

若い店主に挨拶をした。


「ありがとうございます!

また来てくださいね!」


「ええ、もちろん。」


愛想じゃなく、

心からまた来ようと思った。

食事で心がこんなにも満ち足りたのは、

久しぶりだった。


私は心を弾ませながら、

「唐揚げ屋さん」を後にした。





「私の分はないの?」


夜にそのことを

彼女に話すと

ぷーっと口を膨らませた。


「だって、

君には夜にしか会えないし・・・」


そう言って気付いた。

彼女は料理を食べたりできるのか?

そもそもものに触れることができるのか?


「そもそも君は食べられるのかい?」


「知らないっ」


彼女はぷいっと背中を向けると

また、

夜に消えていく。


本当に急に表れては消える、

春の風のようだ。


桜を咲かすように、

私の心に春を宿らす。


相変わらず、

メモの手がかりは見付けられないままだったが、


彼女が吹かせた風は、

私の心を優しく暖めていた。

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