走れ!馬頭観音
番匠さんについて行き本堂に向かった。本堂の裏までやって来ると、何やら斜面に戦時中の壕だろうか? 通気口が付いた逆U字型の鉄の扉があり、南京錠を開ければ中はレンガ造りのトンネルの様な空間が広がっていた。
ナツミ「うわあ!!レンガのトンネル!!」
入口に置いてあったカーバイトランプに火を灯し、番匠さんを先頭に中に入って行くと、中は思ったより広くなっていて、枕木で一段あげられた棚には様々な木材が並んでいた。
番匠「これは住職が遺していった御神木の数々じゃよ。境内にあった欅の古木が台風で倒れたり、奥の院を建て替えた時に出た太い柱材だったり……今では中々手に入らない名木の数々が眠っている。」
番匠「住職は元々若い時には宮大工をやっててのう……代々この寺の住職は宮大工としても活躍しておった。この寺も戦国時代に何度も焼かれてしまったらしい……その度に千首坊流の宮大工達が再建する事により己の技術を磨いたと言われている。」
番匠「ここから好きな木を使いなさい!!」
タクミ「こんな大切な木材を使っても良いんですか?」
番匠「この寺はもうワシが居なくなったら本当の無人寺になってしまう。この名木達もいずれは朽ち果ててしまうだろう。使ってやる事が住職の供養にもなる。」
…………。
…………。
タクミ「わかりました。それでは、使わせて頂きます。」
僕は神妙な面持ちで木材を選ぶ。どれが良いんだろう……さっぱりわからない。
カーバイトランプで照らしながら丁度良い太さの木材を探した。
「ゴトッ!」
うわあ!!
突然、積んであった丸太の様な木材が僕の足元にゴロンと転がって来た……。
その木材を見て僕はぎょっとした。顔の様な物が彫られていて、良く見れば頭の上に馬の顔も彫られている。頭までは彫り進んだ仏像!? 胴体の部分はまだ切り出した材木のままだ。
番匠「う~む。これは! 彫りかけの馬頭観音じゃな……。」
ナツミ「馬頭観音て何?」
番匠「馬頭観音とは馬や家畜を護る仏だよ……馬の守護仏じゃよ!!」
番匠「そうだ!! タクミ君、お主にとってバイクは馬みたいなものだろ!! この像の彫り残しの部分をワシが切り出してやろう。それを木型にして使ってみろ……ワシにはこの馬の顔がまだ走りたがってる様に見える!!」
そう言うと番匠さんは壁に立てかけられていた丸みを帯びた大きな鋸を手に取り、頭だけ彫られた馬頭観音像の彫り残しの部分を挽き出してくれた。
番匠「これを持って行こう!」
ずんぐりと太い丸みを帯びた材木を両手で抱えて戻る事にした。
ナツミ「ねえねえ! この彫りかけの馬の仏像!? ナツが完成させたい!!」
番匠「えっ! そうかい……」
ナツミ「なんかこのまま置いて行くのは可哀想じゃない?」
番匠「そうか……それは良い心じゃな。それではそっちも運ぼう。」
3人がかりで木材を表に出した。
その木材を本堂の裏にあった木製の手作りリヤカーに乗せた。
番匠「来るかなあ……」
そう言うと番匠さんは指笛を「ピューーーーー」と吹いた。
しばらくすると茂みがガサガサと動き、なんと! また山羊のフローラが現れた。
番匠「おおフローラ!! すまんがこれを引っ張っていってくれ。」
番匠さんの声かけを聞いてるんだか聞いて無いんだか、フローラは番匠さんの髪の毛をもしゃもしゃと噛んでじゃれている。
番匠「こらこらフローラ、ワシの髪が無くなっちゃうだろ」
そう言いながらリヤカーの引き手の部分をフローラの胴体に縄でくくった。
番匠「さあ! 行くのだフローラ」
しーん……。
どこ吹く風。そのまま立ち尽くすフローラ。
タクミ「フローラ様またお願いします!」
僕がお願いしてもフローラは足元の草を食べ始める始末だ。
番匠「こいつは気まぐれだからのう……」
ナツミ「フーちゃんお願い♡」
草を食べてたフローラが突然ナツミさんの顔を見た。
ナツミ「お・ね・が・い♥♥♥!!」
「メエーーー!!」
一鳴きしたフローラは一目散に駆けだした。
番匠「わはははは!! そう言えばフローラは雄だったわい!! おなごの言う事は素直に聞くのかもなあ」
あっという間に消えて行くフローラ。
僕より絶対に女性にモテそう……。
つづく。




