↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/36

技を受け継ぐ者!

フローラを追いかけて石の家に戻ると、すでにフローラは到着してこちらを見ていた。


遅かったな!


と言わんばかりの顔で、フンッと僕に向かって鼻息を吹きかけてくる。


ナツミ「フーちゃん、ありがとねえ!」


「メェ~~。」


フローラはそう鳴くと、ナツミさんに頭をスリスリと擦りつけている。


番匠「なっちゃんのことはお気に入りみたいだな。」


番匠「よしよし。ありがとうな、フローラ。」


番匠さんが手作りの木製リヤカーを外してやると、フローラは再び茂みの中へと消えていった。


さてと。


合戦山から採ってきた山砂と、木材貯蔵壕から見つけてきた彫りかけの馬頭観音。


木型を作るための材料も揃ったし、いよいよ作業開始だな。


タクミ「番匠さん、まずはどうすればいいですか?」


番匠「まずは砂だ! 日が高いうちに一度しっかり乾かしておく。あとで水加減を見ながら型砂に仕上げるんじゃ。日向にむしろを敷くから、そこへ薄く広げるんだ。」


僕たちは六畳ほどの広さになるように何枚かのむしろを敷き、その上へ山砂をできるだけ薄く広げていった。


砂が乾くまでの間に、木型に取りかかろう。


番匠さんが石の家の奥から、何やら見たこともない古道具をいくつも引っ張り出してきた。


ナツミ「それでやるの?」


番匠「これはな、宮大工でもあった住職が残していった道具じゃよ。ワシも住職が元気な頃は教えてもらいながら、宮大工の技術を応用して木型を造っておったんじゃ。」


番匠さんは懐かしそうに道具を眺めた。


番匠「千首坊流は最後にワシが少しだけ受け継いだ、とも言えるかな。」


番匠「タクミ君、クランクケースの設計図を見せてくれ……。」


僕は細かく寸法を書き込んできた設計図を広げた。


番匠「う~む……これは驚いた。ここまで計算してあるとはな……。」


番匠さんは設計図をじっくり眺めながら、何度もうなずいている。


番匠「よし。まずは外寸に近づけよう。」


番匠さんに渡された差し金と、竹を削って作った墨差しを使い、木材に大まかな削り代を書き込んでいく。


番匠「ただし、設計図そのままの寸法じゃ駄目だぞ。」


タクミ「え?」


番匠「鋳物は冷えて固まれば縮む。それに、鋳上がったあと削って仕上げる部分には加工代も必要じゃ。木型はその分まで考えて少し大きく造る。」


なるほど。


設計図通りの形を、そのまま木で造ればいいという訳ではないらしい。


番匠「まあ今は荒削りだからな。細かいことは後じゃ! 設計図の寸法より大きめに残しておけ!」


「はい!」


人の胴体ほどもある木材を前にすると、番匠さんが一本の古びた道具を手にした。


曲がった木の柄の先に、鍬を小さくしたような刃が付いている。


番匠「これは釿(ちょうな)じゃ。」


そう言うなり、番匠さんは釿を振り上げた。


「コーン!」


乾いた音とともに木っ端が飛ぶ。


「コーン! コーン!」


まるで木の表面をはつるように、見る見るうちに余分な部分が削り落とされていく。


番匠「こうやって荒削りして、大まかに形を整えるんじゃ。タクミ君、やってみろ。」


「はい!」


ところが、見るのとやるのでは大違いだった。


番匠さんのように気持ちよく木っ端を飛ばすどころか、振り下ろした刃を木材にガツンと食い込ませてしまった。


タクミ「うわっ! 抜けない!」


番匠「ハッハッハ! 難しいだろう。刃を当てる角度は身体で覚えるしかない。」


僕は釿を引き抜くと、もう一度振り上げた。


「ゴン!」


また刺さった。


番匠「それとな、自分の足を切らんように気をつけろよ! 足は必ず釿の軌道から逃がしておくんじゃ!」


タクミ「はい!」


危ない道具なんだな……。


それから僕は黙々と釿を振り続けた。


「コーン!」


「コーン!」


「コーン!」


しばらくすると、少しずつリズムよく削れるようになってきた。


ナツミ「なんかナツ退屈だから、馬頭観音さん彫ってるね。こう見えても図工は得意なんだから!」


タクミ「えっ?」


見るとナツミさんは、いつの間にか鑿(のみ)と木槌を手にしている。


「コン! コン!」


彫りかけの馬頭観音の前に座り、一人で何やら彫刻を始めてしまった。


大丈夫なんだろうか……。


若干の不安を覚えながらも、僕は番匠さんに教わりながら次の工程へと進んでいく。


番匠「よし。荒削りはこのくらいでいいだろう。次はこいつじゃ。」


番匠さんが手にしたのは、長い柄の先に笹の葉のような細長い刃が付いた道具だった。


番匠「槍鉋(やりがんな)という。」


タクミ「槍……鉋?」


たしかに名前の通り、どこか槍のようにも見える。


番匠さんは荒削りした木材に刃を当てると、そのまま手前へスッと引いた。


「シュ――ッ。」


気持ちのいい音とともに、鰹節のような薄い削り屑がクルリと丸まって落ちていく。


番匠「釿で荒く形を出したら、今度はこいつで表面を整えていくんじゃ。」


僕も槍鉋を握り、番匠さんの真似をして木材に刃を当てた。


「シュッ……シュ――ッ。」


削るたびに木の凸凹が少しずつ消え、表面が滑らかになっていく。


その横では――。


「コン! コン! コン!」


相変わらずナツミさんが、楽しそうに馬頭観音を彫り続けていた。


ナツミ♪「トン・テン・カン! トン・テン・カン! トン・テン・カン!……」


またおかしなリズムを口ずさみながら、鑿を木槌で打ち下ろしている。


まあ、楽しそうだし放っておこう。


僕は時々設計図を見て寸法を確認し、新たに墨差しで削る部分を書き込みながら、時には鑿も使って作業を続けた。


夕方まで作業が続き、何となくクランクケースらしい外観になってきた頃には、石の家の扉から西日が差し込んでいた。


番匠「よし!! 今日はここまでにしよう。暗くなると山道に獣が飛び出してくるから、もう片づけじゃ。」


ナツミ「え~~~!! もうちょっとだったのになあ~。」


タクミ「ナツミさん、馬頭観音どれぐらい進みましたか?」


ナツミ「まだ見ちゃだめ~~! 完成までのお楽しみ~~~!」


そう言うと、ナツミさんは造りかけの馬頭観音に毛布をかけた。


「番匠さん、今日はありがとうございました。また明日、よろしくお願いします。」


僕たちは挨拶をして、番匠さんに見送られながらボルティーに跨った。


「ボロロン!!」


もうすぐ日が暮れる山道を走る。


曲がりくねった悪路を、慎重に下っていく。


タクミ「ナツミさん、明日も頑張りましょうね!!」


……。


あれ?


返事がない……。


なんだか背中が重くなってきた。


え……。


ミラーで確認すると、ナツミさんが僕の背中にもたれかかり、気持ちよさそうに寝ている。


寝てる!?


こんなところで寝る人いる!?


僕は慌てて速度を落とした。


カーブで落ちたりしないよな……。


直線に入ったところで、ナツミさんがずり落ちないよう左手でそっと腰を支える。


その瞬間――。


「はっ!! ナツ寝てた!?」


あ……!!


ナツミさんが突然目を覚ました。


ナツミ「タクちゃん今、私のこと触ってたでしょ!!」


タクミ「落ちそうだったから押さえてたんですー!」


ナツミ「でも触ったよね!」


タクミ「触ってたけど……。」


ナツミ「ふーん。まあ、タクちゃんだからいいけどね……。」


……。


何なの。もう……。


……。


「タクちゃんだからいい。」


「タクちゃんだからいいけどね。」


その意味を考えていたら、なんだか変な汗が出てきた。


ナツミ「タクちゃ〜ん。顔赤いんじゃない♡ きちんと走らないと転んじゃうよ〜♡」


ナツミ「ナツミお姉さんが運転しようか〜!」


タクミ「大丈夫でーす! ナツミさんの後ろなんて怖くて乗れません!」


ナツミ「キャハハ! 可愛い♡」


もう〜!


どうしていつも僕のことからかうの〜。


僕は照れ隠しに、スロットルを軽く開けた。


「ブゥオーン!」


「キャー!」


ナツミさんが僕に抱きついてきた。


ナツミ「やったなあ〜! そういう子は、くすぐりの刑です。」


コチョコチョコチョ……。


タクミ「ちょっと待って! タイム! タイム! ほんとに危ないから〜!」


「カァ〜、カァ〜!」


カラスも呆れながら寝ぐらへ帰っていく、夏の夕暮れ。


僕たちも、日が落ちきる前に帰らなきゃ。


つづく



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕らのポンコツ』作者ブログはこちら!
小説では載せきれない挿絵・制作裏話・実際のバイク旅も更新しています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。