若き神、房総にハマる!!
番匠さんの家で急遽宴会が始まった。
箱罠で獲ったという猪肉の塊を切り、炭を起こして突然の焼肉パーティーだ。
番匠「今日は神君との再会と、タクミ君となっちゃんの弟子入りに乾杯じゃ!!」
番匠「まあ飲みな! これはこの辺りの地酒、純米吟醸千枚田だ!!」
お酒を飲めない僕の分まで湯呑みに酒を注がれ、宴が始まった。
一口だけ飲んだら、もう僕の頭はぐわんぐわんだった。
神「俺がさあ~~!! 田舎者だったから、若い時に東京の渋谷とか原宿とか見てみたくて、一大決心して青森からCB400FOURで東京まで行ったんだよ~~!!」
神「それでさ~~帰りは何を思ったのか、太平洋側の海岸線で青森に帰ろうというマイルールを決めてさあ……帰りの一日目に館山のあたりでクラッチ握ったら、バキッって音がしてさあ。エンジン吹かしてもなかなか前に進まねえんだよ。挙げ句に百メートルぐらい走ったら、動けなくなっちまってさ……」
ナツミ「え〜! それでどうなったの?」
僕は思わず、頭の中にその光景を思い浮かべた……。
今から三十年ほど前。
まだ若かった神さんが、CB400FOURに跨がって千葉の海岸線を走っている。
そして、その旅が神さんと番匠さんを引き合わせることになる。
房総半島。
海から吹きつける潮風の中を、一台の赤いCB400FOURが走っていた。
「ブォーン……!」
ハンドルを握っているのは、二十四歳の神だった。
「せっかくここまで来たんだ。海沿い走って帰ったら面白ぇべ!」
房総半島を南へ向かっていた時だった。
館山近くまで来たところで、クラッチレバーを握った。
「バキッ!!」
「……ん?」
信号が青になり、アクセルを開ける。
「ブォォォン!!」
エンジンだけは景気よく吹け上がる。
「あれっ!? 進まねえ。なんだこれ?」
騙し騙し走ったものの、百メートルほど進んだところで、ついにバイクは動かなくなった。
神「マジかよ……青森までまだ何百キロあると思ってんだよ……」
見知らぬ土地。
携帯電話など持っていない時代。
動かなくなったCB400FOURの横で、神は途方に暮れていた。
その時だった。
一台の軽トラックが、神の前でゆっくりと停まった。
ドアには「HONDA WING」の文字。
運転席から、作業着姿のおっちゃんが顔を出した。
「兄ちゃん、どうした?」
神はその軽トラを見上げた。
「バイクが動かなくなっちゃって。」
「そうか。ちょっと見てあげるよ。」
バイク屋さんがエンジンをかけ、クラッチを切ってギアを入れ、そっとクラッチをつなぐ。
「ギャーッ!!」
凄い異音がした。
「クラッチだね。開けてみないと原因わからないなあ……」
「うちに持ってって見てあげようか?」
「お願いします!」
こんなところで、まさかバイク屋さんが通りかかるなんて。
運良く軽トラに載せてもらい、市内のバイク屋さんまで運んでもらった。
二人でクラッチをバラす。
「ありゃ〜、ここだなあ〜。クラッチプレッシャープレートが割れてるよ。」
「部品出るかなぁ……ちょっと待ってて。」
バイク屋さんが部品を調べる。
「う〜ん……あちゃ〜。ご相談パーツだよ。ダメだ、出ない。」
「ダメっすか……。」
バイク屋さんは、割れた部品を手に取ってしばらく眺めていた。
「これかあ……番匠さんなら作れないかな。」
そう言うと、バイク屋のおっちゃんはどこかに電話をかけてくれた。
しばらく話したあと、電話を切ってこう言った。
「ここから少し走ったところに、番匠エンジニアリングっていう町工場があってさ。事情話したら、一先ず部品を見たいから持って来てって!」
「代車貸すからさ。この部品持って行ってきな!」
「ありがとうございます!」
「あ……ただ今、代車これしかなくて……」
おっちゃんが指差した先にあったのは――。
「モトコンポ。」
「うわあー! モトコンポだ!」
神「そんでさあ~~!! ガハハハ!! その割れた部品持って、モトコンポで社長んとこ向かったんだよ~~!!」
番匠「懐かしいのう。でかい男が、あんなちっこいバイクに乗って来よったんじゃ。」
ナツミ「えー! 見たいそれ(笑)」
神「笑うなよ!! 俺は必死だったんだからよ~~!!」
僕は、モトコンポに跨がる二十四歳の神さんを想像してしまった。
こうして神さんは、割れたクラッチプレッシャープレートを積んで番匠さんの工場へ向かった。
つづく




