怪談職人。
え!!神さんと番匠さんって知りあいだったの?
僕とナツミさんが呆気にとられている間に、二人は思い出話で盛り上がる。
番匠「15年ぐらい前だっけかあ……?」
神「社長!!もう30年前ですよ~~~!!俺が青森の鯵ヶ沢から出て来たのが24歳だったから。」
番匠「そんなに経つかあ。どれぐらいうちに居たっけか?」
神「1ヵ月です。その節はお世話様でした。あれから地元に帰って3年間は自動車の修理工をやってたんですよ~~!!お金を貯めて一旗あげようと再び上京した時に、思い出の千葉県にも出向いて社長の工場に挨拶に行ったら既に無くなってて……連絡もつかなくて……こっちもバタバタしてて、そのままになってました。」
番匠「そうかい!そうだったかい!あの後なあ……町工場にとっては冬の時代に入ってのう……長年取引してた会社から『今後この部品は海外生産になります』って言われてのう……取引先が1軒、また1軒と減っていったんじゃ。」
番匠「従業員も雇えなくなり……みんな去っていく中で、ひっそりとあの工場を畳んだのよ。」
番匠「まあワシも定年退職みたいなもんよ!!海外の部品と安売り競争してまでクオリティーを下げたくない……それから部品造りはやめて、装飾品や美術品なんかをなあ、一人でクオリティーを突き詰める芸術路線に転向したんだよ。まあ今や、ワシ一人食ってくぐらいの稼ぎだけどな……。」
神「社長、ここにずっと住んでいらっしゃったんですか?」
番匠「いや……ここの住職が亡くなってからだから、もう20年ぐらい前からかなあ……。昔から知りあいだった住職に、戦後すぐに盗まれてしまった梵鐘をもう一度造ってほしいと言われてなあ……。出来上がった頃には住職はもう身体が弱っててなあ……亡くなる前に頼まれたんだよ。この寺を護ってほしいって。それからは町場の小さな工房を引き払い、ここで作品を造りながら住んでるんじゃよ。」
番匠「時々……賽銭盗んだり……落書きしに来たりする不届き者が居るからのう……ひひひ。」
番匠「わしゃあ、ここの寺の魔物になることに決めたんじゃ!!」
番匠「いろんなカラクリがある!」
そう言うと番匠さんは、子供みたいな顔でニヤリと笑った。
ナツミ「カラクリって……まさか幽霊の噂って、銀ちゃんがやっているの?」
番匠「さて……どんな噂が立っているか、わしゃ知らんが……。」
番匠さんは本堂の奥へ僕達を案内した。
薄暗い本堂の中央には、仏像が鎮座している。
なんとも言えない顔をしている。
瞳孔は昼間の猫のように細く、無機質な眼光を放っていた。
番匠さんは仏像の後ろに回ると、小さな板を外した。
中には竹の薄板と細い金属棒、それに小さな重りが組み込まれている。
すると突然、番匠さんが霧吹きで水を吹きかけた。
するとどうだろう。
猫のように細かった瞳孔が徐々に開き、仏像が怒りの目に変わった。
まさか!!
どういう仕組みなんだろう。
番匠「木も竹も湿気を吸えば膨らむ。乾けば縮む。ほんの少しじゃがな。」
神「なるほど~~!!その動きを使って目を動かしてんのか!!」
番匠「そういうことよ。雨の日は少し瞳孔が開く。晴れが続けば猫目になる。」
番匠「1ミリ動かす仕組みを開発するのに半年かかったんじゃぞ!!」
ナツミ「半年も!!」
神「社長らしいな~~!!昔から変な所に凝りますよねえ!!」
番匠「変とはなんじゃ!!職人はなあ!!人が気付かん所に凝るんじゃ!!」
番匠さんは得意げに胸を張った。
そして仏像の頭を指差す。
番匠「ちなみに大雨の日になると……こいつは泣く。」
僕「泣く?」
番匠「屋根に降った雨を細い銅管でここまで引いとる。一定量溜まると一滴ずつ目から落ちる。」
ナツミ「怖っ!!」
番匠「一気に流れちゃいかん。一滴じゃ。一滴ずつだから怖いんじゃ!!」
僕「そこも拘るんですね……。」
さらに本堂の裏には何枚もの薄い青銅板が吊るされていた。
長さも厚さも全部違う。
番匠「山から風が吹くとな……。」
その時だった。
キィィン……
どこか遠くから金属を叩いたような音が響いた。
僕「うわっ!!これか!!」
番匠「風が通る場所を計算してある。強い風じゃ鳴らん。弱い風が一定方向から入った時だけ鳴るんじゃ。」
ナツミ「銀ちゃん……変態なの……天才なの?」
番匠「芸術じゃ!!」
神「社長……昔より拘りが酷くなってますね~~!!」
番匠「暇だからのう!!」
僕達は本堂を一周しながら、次々にカラクリを見せてもらった。
勝手に揺れる数珠。
夜になると向きが変わる地蔵。
誰も居ないのに鳴る木魚。
ほとんどが風や湿気や重りを利用した、電気を一切使わない仕掛けだった。
ナツミ「噂で聞いた話も全部これだったんだ。」
僕「首を数える声も?」
番匠「…………。」
僕「え?」
ナツミ「え?」
神「社長がやってるんじゃないんですか?」
番匠「わしも不思議だと思ってる。実は何度か聞いたことがあってのう……。」
番匠「997……998……999……あとひとつ足りないっ!!って……。」
灯っていた蝋燭の炎が突然消えた。
本堂の中が急に静かになった。
ナツミさんが僕の腕を掴む。
ナツミ「タクちゃん、今日はもう帰ろう。」
僕「いやいやいや!!今まで全部カラクリだったじゃないですか!!」
ナツミ「全部じゃないんでしょ!!」
番匠「ひひひひひ……。」
ナツミ「笑わないで!!」
番匠「まあ……夜な夜なワシが出荷する飾り鋲を、一袋1000個ずつ数えてただけだけどな!!」
番匠「今の蝋燭は、これで吹き消した!!」
番匠師匠の足元には、足踏み式のふいごが……!!
そこから細い管が、蝋燭の方へ伸びている。
神「ギャハハ!!社長!!そうやって人を脅かして面白がるとこも変わらない!!」
番匠「いやあ懐かしい!!カミ君も来たことだし、久々に今晩はみんなで飲もう!!」
つづく




