キツネノカミソリ
「ドゥルルン・・・!!」
千首坊寺・・・・。ここだよな・・・・。
ボルティーを朽ちかけた山門の脇に停めた。
屋根にまで草が生えている。今にも自然に飲み込まれてしまいそうな山門だ。膝程まで伸びた夏草に覆われ、柱は焦げたように黒く煤け、褐色を帯びている。
何時から放置されてるのだろうか・・・。
山門に近づくと何だか視線を感じた。
「うわっ!!」
山門の両側に立つ仁王像を良く見れば顔が狐!!
目がつり上がり裂けた口。
口の中には鋭い牙が見えている。
長い間ここで風雨にさらされて来たのだろうか・・・朱塗りだったと思われる口の中は不気味な褪せた色をしている・・・。
右の狐は真っ黒で激しく怒りの表情を浮かべている。
左の狐はどこか女性的で白塗りだ。妖気を感じさせる様な薄笑いを浮かべている様にも見える。
両側から異様な視線でこちらを見張っている様だ。
ナツミ「わわわ・・・。ナツうさぎのヘルメットだから狙われてるみたい・・・」
山門をくぐれば石畳が続き石の間からも雑草が伸びている。参道には石灯籠が両側に並びしばらく火が灯された事は無いのだろう。蝋燭の燃えカスがそのままになっていた。
参道の正面には屋根が沈んで傾いた本堂がある。軒下には錆びた鰐口と垂れ下がる太い綱が見える。
境内の鐘楼には緑晶の浮いた梵鐘が下がり風も無いのに垂れ下がる綱が不思議と揺れていた。
「ゴクリ・・・」
僕は生唾を飲み込んだ。異様な雰囲気に口の中がカラカラに乾いてくる。
本堂の前まで行ってみると黒ずんだ賽銭箱があり、その傍らには何故か一輪挿しに真新しい野花が生けてあるユリにも似た赤橙色をした花は凛と静かに佇んでいた。
タクミ「誰か来てるみたいだよね・・・花が新しい・・・」
ナツミ「誰が来るの?郵便屋さんとか?」
「ガサガサ」
ナツミ「あ!キツネだタクちゃん本物のキツネが居る!!」
タクミ「ホントだ!野生のキツネ初めて見た!!」
ナツミ「可愛い~~~!!一緒にキツネダンス踊ろう~~!!」
そう言うとナツミさんはキツネを追いかけて本堂の裏手に走って行く・・・ウサミミヘルメット被ったまま・・・。プププ・・・不審者が来たらキツネだってびっくりだよ・・・
本堂の裏にまわると何故か1メートル程の幅に草が刈りこまれた小道が有りさらに奥へと続いてる。
ナツミ「キツネ見失ったね・・・」
タクミ「やっぱりここ誰か来てますね・・・」
怖いけど僕とナツミさんは前に進んだ。薄暗い雑木林には頭上から僕らを監視するようにカラスの群れがギャギャーとお喋りをしているかのように嘲笑っていた。
小道の脇にはトクトクと音を立てながら流れる沢が現れ・・・僕は喉がカラカラだったので手のひらで掬い口に含んだ。
タクミ「美味しい!!このお水。なんか柔らかい甘みがある」
ナツミ「ナツも飲んでみる!!ホントだ南アルプスの天然水みたい!」
小道を更に進めば何やら小屋の様な物が見えて来た。
石を積み上げた、ドーム状の不思議な小屋だった。脇には同じく石造りの煙突が伸びている。上には丸太で骨組みを作り、薄い鉄板の屋根が掛けられていた。錆なのか塗装なのかは分からないが、屋根は赤茶色に染まっている。
入口には木製の扉が付いていて、目を引くのは精巧な松ぼっくりの形をした鋳物のドアノブだ。
軒先には渓流の魚の様な形をした鉄で出来た風鈴が下がっている・・・。
「キーンキーン・・・!」
一体これは・・・・。手で揺らしてみれば聞いたことも無いような金属音が山に響いて行く。
ナツミ「あれ?またさっきの赤い花だよ!!」
ホントだ。これまた見事な彫刻が刻まれた青銅の花瓶の様な物にさっき本堂で見た赤橙色のユリの様な花が挿してある。
ナツミ「綺麗な花だよね。何て言う花なんだろ。」
「キツネノカミソリじゃよ!!」
!!
不意に背後から声がして僕たちは驚いてよろけてしまった。
振り向くとそこには背負子に太い木の枝を沢山背負った小柄なお爺さんが立っていた。
「何か御用かな?」
つづく。




