夏祭りが始まった。
神「タクミ~~!プロパン積んだか~~~!!」
「発電機も忘れるなよ~~!!」
タクミ「今積んでるとこ~~~!!」
ナツミ「きゃ~~~デコクワちゃん元気いっっぱい」
僕らは軽トラに3人で乗り込んだ。
当然軽トラだから2人しか座れない。
僕は荷台でプロパンガスが転がらないように押さえながら凸凹の山道をしがみついていた。
まだ舗装道路から上がる夏の暑さは残っている。
それでも田舎道の風は涼しい。
あっという間に汗ばんだTシャツを乾かしてくれた。
山を下ったところに手作りの道標が杉の丸太を切って造ってある。
山伏神社コッチ➡
「ピッピッピーヒャララ…ピーヒャラピーピーヒャラピーヒャララ…」
遠くから祭囃子の笛の音が響いてきた。
その小道から急傾斜の参道が山伏山の山頂にある神社に向かって伸びている。
山頂までは車が1台通れる程の石畳の参道が300mほど続く。
杉並木に提灯がぶら下がり浴衣を着たちっちゃい女の子がお母さんの手を引っ張り、みんな夏祭りの高揚感にワクワクしている。
まだ準備中のテキ屋さんがあちこちで忙しそうに荷物を搬入していた。
店を出す場所は早いもの勝ちだ・・・。
凸凹の石畳の参道脇には平らな場所が少ない。
周りには大きな岩があったりとなかなか出店を建てられるスペースが無い。
と言っても毎年全部で7~8軒ほどしか出ない屋台・・・。
毎年店を出す金魚屋のやっちんはこの日が1年で最大の稼ぎ時だ。
やっちんは三十代半ば。十年程まえから近くの集落に住み着いた金魚屋さんだ
普段は何をして食べているのか誰も知らない。
神「おう!やっちん!!隣にお邪魔してもいいかい!!」
やっちん「あっ神さん!!どうぞ!!うちはこのヒョウタン池が置けるスペースがあれば大丈夫だから」
やっちんは金魚すくい1回200円と書かれた段ボールを木にぶら下げて金魚すくい用の最中に針金で造った柄を挿しながら笑顔でそう言ってくれた。
ポリ製の大きなヒョウタン池には真ん中に島が作ってあり10匹程のミドリガメが乗っていた。
亀の甲羅には白いマジックペンで300とか500とか書かれている。
ナツミ「お兄さんこの数字は何?」
やっちん「これはすくったらその金額がもらえるんだ!!」
ナツミ「え~~~凄い!!お金もらえるんだ。やってみた~~~い」
島の廻りには数百匹の金魚が気持ちよさそうに泳いでいた。
和金だったりコメットだったり・・・・絶対に掬えそうにない琉金やなぜか錦鯉まで入っている。
僕は去年から狙っているでっかい琉金と目が合った。
今年こそはあいつをゲットしてお店にある使ってないヒノキの風呂桶に泳がせたい・・・。
神さんと軽トラから屋台のテントを降ろす。
元々このテントはどこかの小学校の運動会で使ってた廃品でテントには◯◯小学校PTAと書いてあった。
その部分をペンキで雑に塗り消し「HONDA焼き」と書いてある。
鋳物のガス台も降ろした。
テーブルは拾ってきた足場板で作った代物だ。
神「去年の残りのプロパンガスだからうまく気化するかなあ・・・・。」
発電機も降ろした。
この発電機は神さんの自作発電機だ。
ハスクバーナー製のエンジンを使っている。
発電機からコードを伸ばしSUZUKI ジェベル200のヘッドライトで造った照明を二つテントの柱に素早く取り付けた。
神さんと二人でHONDA焼きの屋台を準備している間にナツミさんがやっちんと何か交渉している。
ミドリガメの島の横にもう一つでかい石を置いていいかを交渉してる。
やっちん「こんな綺麗なお姉さんに頼まれたら嫌だとは言えないよう~」
あっという間にミドリガメ島の横に大陸が出来た。
大陸の上には朽ちた木やら枝やら・・・・。
次々とナツミさんが山から拾ってきては乗せ、また拾って来ては乗せる。
ナツミ「ここで、デコクワも売らせてもらう!!」
満面の笑みを浮かべ、ナツさんが箱からデコクワ達を島に置いた朽ち木にくっつけている。
神「ぎゃーーーーー!!なんじゃそのクワガタは・・・背中にビーズがいっぱい乗ってるじゃねえか!!」
ナツミ「綺麗でしょ!!この方が高く売れるから!ナツが頑張ったんだから!!」
「デコクワ時価!!」
ナツミさんがマジックペンでそこらに転がっていたカップ麺の容器に書いたと思ったらそれをヒョウタン池に浮かべた。
タクミ「ナツさん時価って・・・・?」
ナツミ「お客さん見てナツが決めるの~~~!!」
絶対にボッタくる気だ・・・・。
何だか良くわからないがクワガタ売りはナツミさんに任せよう。
僕はクーラーボックスから卵と牛乳を出してポリバケツに卵を23個割り4リットルの牛乳を注ぎ込んだ。
業務用のホットケーキミックスを6袋開けてインパクトドリルの先にかくはん棒を取り付けた。
粉の中にかくはん棒を差し込み引き金を引いた。
「ギュイーーーーン!!」
むらなく混ぜないとふっくら仕上がらない。
ホットケーキの生地を作るのは僕の役。
神さんはHONDA焼きのフライパンをじっくり焼いてサラダ油を塗りたくっていつでも開店出来るように準備している。
焼きそば屋さんもタコ焼きやさんも
ポテトフライ屋さんもお面屋さんも・・・・。
準備が整ったようだった。
「ヒュルヒュルヒュル~~~~~~ボーン!!」
山伏山の山頂に上がった花火を合図に一斉に祭囃子が盛大になった。
音が割れたスピーカーが、がなりたてた。
「ガガガ・・・これからガガガ・・・山伏山神社納涼夏祭りをガガガ始めます!!」
「スドーンズドーン!!ズドーン!!」
三尺玉の花火が大輪の花を咲かせ、いよいよ夏祭りが始まった。
ソースの焼ける香りが漂い始める。
綿菓子のザラメが焼けた甘い匂いが沿道に充満する。
焼き鳥屋の煙が杉並木を抜けて行った…。
子供達の吹く巻き笛の音が「ヒョロロ~~~~」と鳴り響いた。




