第8話 隠れ家
東京の片隅、取り壊しを待つ古いアパートの一室。
窓は板で塞がれ、長い間誰も住んでいなかったかのような埃の匂いが漂っていた。だが、生活の痕跡は生々しく残っていた。
カズヤは小さな懐中電灯を灯しながら、部屋の奥へと足を進めた。
「……ここが中村良子の隠れ家か」
アイゼンハワードは重い足取りで部屋を見回し、壁際に積まれたファイルや段ボール箱を睨んだ。
「妙だな。逃げる気配はあったが、隠すように残していった物が多すぎる」
机の上には、古びた日記帳のようなノート。
開くと、ぎっしりと書かれた文字の中に“石井”という名前が何度も現れる。
「……やはり恨みは深かったか」
カズヤが低く呟いた。
その時、アイゼンの目が壁に貼られた一枚の写真に止まった。
そこには、覆面をした“幻影会”の構成員と、並んで立つ警察の制服姿の人物が写っていた。
写真はぼやけている。しかし、眼鏡の奥の鋭い視線だけははっきりと映し出されていた。
「……この目、見覚えがある」
カズヤの声が震える。
アイゼンは写真を外し、ノートの余白に書き込まれた文字を指でなぞった。
“幻影会の影は、警察の中にも潜む”
二人の間に重苦しい沈黙が落ちる。
その沈黙の中で、二人の脳裏に浮かんだ名は同じだった。
警察監察官。
だが、確証はない。口に出せば取り返しのつかない一線を越える。
カズヤは小さく息を吐き、資料を鞄にしまいながら呟いた。
「石井さんが“苦渋の決断”と残したのは……このことだったのかもしれない」
その時、外の廊下から微かな軋み音がした。
誰かが、彼らの動きを見張っている。
アイゼンが銃に手を伸ばし、闇に向かって囁いた。
「……来るぞ。気を抜くな」
二人は互いに視線を交わし、静かに身構えた。
中村の隠れ家は、ただの潜伏場所ではなかった。
そこには、石井が追い詰め、そして封じきれなかった“影”が潜んでいたのだ。
石井龍太関連
石井龍太(故人)
元刑事。連続強盗事件や犯罪組織「幻影会」を追っていた。直感と洞察力に優れ、独自の捜査を行っていた。
小林修三
石井の元同僚刑事。慎重な性格で情報を出し渋るが、石井の死後、協力を申し出る。
木村裕子
石井の元パートナー。現在はカフェ店主。事件の裏に「過去の組織事件」があることを明かす。
高橋一郎
警察監察官。カズヤとアイゼンに圧力をかけ、「深入りするな」と警告する。警察内部にも敵がいることを示唆。
事件関係者
佐々木明美
数年前の事件の唯一の生存者。石井から未発表の情報を預かっており、カズヤたちに接触。
中村良子(死亡)
元組織幹部。「幻影会」の残党。石井によって組織が壊滅したことを恨み、復讐を誓う。
その他・影の存在
覆面暗殺者
廃墟ビルでカズヤとアイゼンを襲撃。暗殺者の正体は不明だが、石井の事件や「幻影会」と何らかのつながりを持つ可能性がある。
組織
幻影会
かつて石井が追っていた犯罪組織。壊滅したはずだが、残党が存在する可能性あり。




