第1話 捜査依頼
東京の喧騒が遠くに聞こえる中、カズヤは石井龍太の遺品を前にして深く思索にふけっていた。
机の上には、石井が最後に手がけていた未解決事件のファイルが散乱しており、その一つ一つが今は亡き老刑事の執念を物語っていた。
「……苦渋の決断、か。」
カズヤは小さく呟き、その言葉の重みを噛みしめる。
背後で、巨躯の魔族アイゼンハワードが腕を組み、低く唸る。
「人間の言葉は時に曖昧だ。だが“苦渋”とまで言うのなら、それは簡単な怨恨や通り魔などではあるまい。」
ちょうどその時、ドアをノックする音が響いた。
入ってきたのは、喪服に身を包んだ石井の妻・美和子だった。彼女の瞳には夫を失った悲しみと同時に、真実を知りたいという強い決意が宿っていた。
「……探偵のカズヤさん、アイゼンハワードさん。どうか夫の死の真相を突き止めてください。」
声は震えていたが、その奥には揺るぎない強さがあった。
カズヤがうなずくと、美和子は言葉を続けた。
「警察は“通り魔による怨恨”だと説明しました。けれど……私は信じられません。あの人は何度も私を恨んでいる人は沢山いると口にしていたんです。」
彼女はバッグから一冊のノートを差し出す。
「これが夫の遺したノートです。警察にも見せましたが、『退職した刑事の妄想だ』と一蹴されました。まるで早く片付けたいとでもいうように。」
アイゼンハワードの瞳が赤く光る。
「ふむ……現職時代の同僚から煙たがられていたのか?」
美和子は苦しそうに頷いた。
「はい……。夫は正義感が強すぎて、上の意向に逆らうこともしばしばでした。だから退職後も、一部の警察関係者からは疎まれていたと思います。」
カズヤはノートを手に取り、ページをめくる。そこには未解決事件の記録や関わった人物の情報が緻密に記されていた。
「……なるほど。単なる妄想とは思えない。これは“続いていた捜査”だ。」
アイゼンハワードが低く呟く。
「そして“苦渋の決断”は、その捜査で辿り着いた答えを示す言葉かもしれん。」
二人は顔を見合わせた。
警察が下した「怨恨による通り魔殺人」という単純な結論は疑わしい。
石井が残したノートと最期の言葉は、まだ明かされていない真相を告げている。
こうして、カズヤとアイゼンハワードの新たな捜査が幕を開けた。




