第9話 最終決戦 ―ウィッシュアイア
南極圏の果て、氷の孤島“ウィッシュアイア”。
MI6部隊が吹雪の中で前進すると、空から無数の黒いドローン群が襲い掛かった。
それはレオ・キムの傑作兵器、ステルスコーティングを施された「ブラックスワーム」。
雪煙を裂く羽音もなく、隊員の首筋を切り裂き、背後から爆薬を投下する。
「何も見えない……どこから来ている!?」
混乱と悲鳴が吹雪に溶けていった。
さらに、要塞の頂からカリナ・ヴォルフが両腕を広げる。
銀色の瞳が怪しく光り、彼女の念動力が戦場を支配した。
銃が兵士の手から勝手に外れ、雪と氷の塊が弾丸のように飛んでくる。
ある者は見えない手に首を締め上げられ、絶叫とともに氷上に沈んだ。
「感じるわ……あなたたちの恐怖を。
その震えが私の力を増幅させるのよ」
カリナの冷笑が、氷風に木霊した。
MI6は拠点内部に退避するが、レオ・キムの声が無線に割り込む。
「脱出口は封鎖済み。お前らはここで氷の標本になる」
ドローンが建物に突入し、壁を突き破って襲撃。
爆風と氷片が室内を薙ぎ払い、負傷者が続出する。
セリーヌは一瞬の隙を突かれてカリナの念動鎖に絡め取られ、宙吊りにされる。
「解放されたい? その命と引き換えにね」
カリナが指を弾いた瞬間、鉄骨が矢のように飛び交った。
仲間たちは防戦一方、氷壁に追い詰められ、銃弾も残り僅か。
誰もが「ここまでか」と息を呑む。
だがその時、ルーカス・ヴァルデスが怒号を上げる。
「タンゴは最後の一歩で決まるんだろ! まだ終わっちゃいない!」
彼は氷床に隠していた爆薬を起爆。
氷壁そのものを崩し、吹雪と氷塊でドローン群を一時的に分断した。
視界が開けた瞬間、仲間の狙撃が黒いドローンを次々と撃ち落とす。
同時に、セリーヌが必死に鎖を切り裂き、反撃開始。
「私を縛るなんて……百年早い!」
火花を散らしながら鎖を断ち切ると、彼女はカリナの胸元へ肉薄。
カリナは念動で銃弾を止めるが、ルーカスの陽気な叫びが響く。
「オラ! 一人で踊るなよ!」
投げ込まれた手榴弾が爆ぜ、超能力の集中が乱れる。
カリナの力が一瞬弱まった隙に、セリーヌの弾丸が銀の瞳を貫く。
カリナは血を吐きながらも笑みを浮かべた。
「……負けを認めても……赤き秩序は滅ばない……アルゼンチンで……」
そのまま氷上に崩れ落ちた。
一方、レオ・キムは空母ドローンの中枢にしがみつき、最後の操作を試みる。
「まだだ! 俺が世界の秩序を……!」
だが、狙撃手の一発がコアを撃ち抜き、黒いドローン群は次々と墜落した。
爆炎と氷塊の嵐が戦場を飲み込み、彼の断末魔は吹雪にかき消された。
残されたのは、氷の荒野に立ち尽くすMI6の影。
勝利の代償に、仲間の多くが凍てついた大地に眠っていた。
セリーヌは荒い息を吐きながら呟く。
「……勝った。でも、この戦いは……まだ終わらない」
南極圏の空に、赤黒い炎が揺らめいていた。




